1: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/05(木) 17:29:17 ID:???Sa
栞子「姉さん、荷物が届きました」トコトコ

薫子「おーっ、来た来た!ツーリング仲間と琵琶湖にいったときさ、ここでしか売られてない珍しいものを買ってきたんだよ」

薫子「それが、これ」ユビサシ

クール便

栞子「他のお土産と一緒にバイクで持って帰らなかったのですか?」

薫子「まあね。要冷蔵だし、滋賀からコッチまで運んでるときに腐っちまうかもしれないからな」

栞子「なるほど……生ものですか」

薫子「とりあえず開けてみなよ」

栞子「はい」ベリッ

パカ

栞子「なっ!?」

薫子「すっげぇくさいとウワサだけど、酒のツマミに最高って聞いたんだよー、栞子のぶんもあるぞ、ほら」スッ

真空パック

栞子「これは……いったい……」

薫子「──鮒ずし、っていうんだって」

栞子「鮒ずし……これはぜひとも皆さんに招集をかけて食べるべきものですね」コクリ

薫子「?」

5: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/05(木) 17:49:54 ID:???Sa
翌日 同好会室

栞子「お休みのところ招集をかけてしまって申し訳ありません」ペコッ

栞子「やはり、このメンバーが適正あるかと思いまして」

果林「別にいいわよ。なんでも特別なものを食べさせてくれると聞いたから、ね?」

エマ「1000年前からある伝統的なお寿司……それが食べられるなら大歓迎だよー」

ミア「なんでも……SUSHIの先祖とかいうものなんだろ?いちおう興味はあるね」

ランジュ「きゃあ!ランジュお寿司大好き!」

ランジュ「で、栞子、今日は何のお寿司を食べさせてくれるの?」

ランジュ「前みんなで食べた手巻き寿司?にぎり寿司?あ、もしかして肉寿司ね!!」

栞子「ランジュ、落ち着いてください」ゴソゴソ

栞子「さっきまで冷蔵しておいたものです」

コトッ

4人「……」ジーッ

8: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/05(木) 17:59:44 ID:???Sa
果林「これは……」

エマ「小さい魚を丸ごと切ってる、のかな……?」

ミア「WTF!?なんだこれは、干からびた魚じゃないか!!」ガタッ

ミア「いくらJapaneseじゃないボクやエマでも、これがSUSHIじゃないことくらい知ってるぞ!!」

バンッ

ミア「こんなフザけたMummyFishでダマそうなんてくだらな──」

ランジュ「ちょっとまって!石頭の栞子がこんな冗談できるわけないじゃない」

栞子「いま石頭といいましたね?ランジュ、反省文3枚です」

ランジュ「ラァ……!?」ガーン

栞子「ミアさん、私はふざけてなんかいません」

栞子「これこそ1000年続く寿司の先祖──鮒ずし、です」

9: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/05(木) 18:14:50 ID:???00
エマ「フナズシ?」

栞子「はい。そうです」

果林「名前は聞いたことあるわ。鮒ずしって、くさい食べ物らしいじゃない?」

ミア「くさい……まさか栞子、このメンバーを集めたのは……」

栞子「はい。久しぶりに活動を行う機会が出来ましたので」

栞子「クサヤ果林さん、ラクレットチーズのエマさんに続き、今回は私が紹介をしてみようかと」ニッコリ

ミア「Oh,くさい食べ物同好会か……クラクラしてきた」ハァ

ランジュ「きゃあ!久しぶりね!!ランジュみんなでくさい飯食べるの大好き!!」パァッ

果林「……それはちょっと別の意味になっちゃうわよ?」

ランジュ「ラ?」キョトン

ミア「とにかく……これを開けて食べる前に、フナズシとやらがどんなものか知る必要があるな」

エマ「うんうん、教えて栞子ちゃん!」

栞子「はい、ではお教えいたします」ゴホン

12: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/05(木) 22:36:58 ID:???00
栞子「鮒ずしは私たちがイメージする寿司とは違い、魚を長期保存して食べられるように作られた発酵食品です」

エマ「つまりチーズやお漬物みたいなものかな?」

栞子「はい。ちょっと部室のホワイトボードを拝借しまして……」スタスタ

カキカキ

鮨 鮓

栞子「そもそも寿司を示す本来の漢字は、この二文字なんです。これには、魚を発酵させた食品という意味があります」

栞子「つまり寿司は、鮨や鮓とイコールです。が、エマさんやランジュ、ミアさんがご存知のSUSHIとはまったく似ても似つかないですよね?」

栞子「それには理由があって、実は……寿司という表現は、鮨や鮓の魚の発酵食品というイメージを払うために日本人がつくった造語なんです」

栞子「しかも江戸時代に鮒ずしや熟れずしをベースに江戸時代に進化したものであって、まったく別なのも当然です」

栞子「よって、現代に残るにぎり寿司や手巻き寿司、ちらし寿司などはあくまでも食べやすいように洗練されたSUSHIの子孫であり──」

栞子「──1000年前から進化せず存在する本来のSUSHIは、これなんです」ユビサシ

鮒ずし

エマ「なるほどー、これがお寿司の本当の姿、なんだね」

ランジュ「それにしても、これ化石みたいね!」

ミア「二重の意味で、な……」

果林「魚を生で食べる料理の代表格の寿司だけど、元はこういうものなのね」

13: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/05(木) 22:39:47 ID:???00
ミア「それはわかったよ。で、その寿司の先祖──このMummyFishはどういうものなんだい?」ユビサシ

栞子「はい。みなさんと食べる前に調べてきました」

栞子「……鮒ずしは春に卵がたっぷり詰まった滋賀県の琵琶湖に生息する魚、ニゴロブナのエラと内臓をとったあと、卵を残したまま塩漬けにして」

栞子「夏の土用──7月下旬から8月上旬のころに漬ける作業をします」

エマ「えっ、真夏の暑い時期につくるの?」

果林「腐ったりしないのかしら?」

栞子「大丈夫です。むしろ暑い時期でかつ、高温多湿でないと上手に発酵できなくて腐ってしまうそうです」

エマ「へえー」

栞子「……春に塩漬けにしたフナを取り出して水で洗い、その頭とのどの辺りに炊き立ての米のご飯をぎっしりと詰め」

栞子「木製の樽にご飯とフナを交互に漬け込み、最後に蓋をして漬物石をのせたら……常温の室内でそのまま熟成させ、冬になったらようやく食べられる、そうです」

果林「まさに魚のコメ漬けね」

エマ「じゃあ、このパックにある……フナのまわりにびっしりついてる白いものって」

栞子「はい。これは発酵してペースト状になった米です」

ミア「なんだ米か。よかった……まるでナニのカスみたいだったからな」

栞子「?」キョトン

ミア「……なんでもない」

15: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/05(木) 22:46:09 ID:???00
栞子「……以上が鮒ずしの作り方です。では、パックを開けてみましょう」スッ

ミア「ちょ、ちょっと待ってよ!」

栞子「なんでしょうか?」

ミア「どういうものかわかったけど、その……これ、くさいんだろ?」

栞子「はい。世界で第6位、5位のクサヤの次にくさいです」

ミア「Oh……Japanってトンデモない場所だな……」

エマ「じゃあ、においが部室にこもらないように窓を開けて換気するねー」ガチャ

ビュー

果林「うう、さすがに寒いわね」ブルブル

ミア「なんでボクたちはここまでするんだ……」ブルブル

ランジュ「そこにくさい食べ物があるからじゃない!」ドヤッ

ランジュ「さあ栞子、鮒ずしを開けなさい!!」ビシッ

栞子「はい」ベリッ

プーン

ミア「オ゛ウ゛ェ゛ッ゛!?」

19: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/06(金) 22:00:07 ID:???00
ミア「That freaking stinks!!なんなんだこのにおいは!?」

ミア「炎天下のガレージにヨーグルトを一日放置したあと、そのヨーグルトに生の魚を突っ込んでまた一日放置したあと、リビングルームにぶちまけた時のにおいだぞ!」

果林「相変わらずアメリカ人って独特な例え方するわね」

果林「……」スンスン

果林「……確かに。何というか、ムワァっと酸っぱいのと魚のにおいがするわ」

ランジュ「どれどれ……?」スンスン

プーン

ランジュ「……くっさぁ……很臭ラ!」ハナツマミ

エマ「ふーん、酸っぱいにおいかぁ」スンスン

エマ「うん?これは……」

エマ「……これ熟成したチーズのにおいに近いよ!スイスのうちで手作りしたのと同じだよー」

ミア「まさか!?ミルクと魚じゃ大きな差がありすぎるだろ!」

栞子「いえ。エマさんのおっしゃる通りです」

22: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/07(土) 21:18:25 ID:???00
栞子「このにおいは乳酸菌が作る発酵臭からきているのです」

果林「へえ、あのヨーグルトの……」

栞子「はい。米の糖分を栄養にして繁殖した乳酸菌がつくる乳酸によって、他の腐敗菌がつかなくなる……なので、腐りません」

栞子「ヨーグルトの酸っぱいにおいも、乳酸菌が牛乳にある乳糖を分解することで出来るので、鮒ずしと同じといえますね」

ランジュ「ふーん、じゃあエマがチーズみたいというのも間違いじゃないのね」

ミア「けど、なんていうか……ツンというよりムワァなにおいは……キツいな」ハナツマミ

栞子「姉さんは日本酒と一緒に美味しそうに食べてましたが……こうやって近づくとやはりくさいですね」ハナツマミ

エマ「とにかく食べてみようよ!!」

栞子「では、いちばん美味しいといわれる部分の、オレンジの卵がたっぷり詰まっている中心の身を……ひと切れずつ皆さんの皿に盛ります」

栞子「身の外側についている発酵した米……飯(いい)を外して、どうぞ」ヒョイヒョイ

ランジュ「ありがと。魚を丸ごと輪切り……豪快じゃない!」

ミア「……またボクも食べなきゃいけないのか?」ハァ

エマ「それじゃ、お箸を──」

果林「──ちょっと待って」

23: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/07(土) 21:20:22 ID:???00
エマ「どうしたの?果林ちゃん」

果林「栞子ちゃん、ちょっといいかしら?」

栞子「はい」

果林「この鮒ずし、丸ごと切ってるけど、骨は大丈夫なの?」

果林「鮒とか川魚って小骨が多いと聞くわ」

栞子「大丈夫、だそうです。乳酸菌発酵により骨、頭、しっぽも柔らかくなって食べられます」

果林「わかったわ。なら大丈夫ね」

エマ「この頭も食べられるんだぁ……!すごいね」

ミア「まったく日本人はサバイバルな民族だよ……」ヒキッ

ミア「……」スンスン

ミア「くっさぁ……」

ランジュ「それじゃ、食べるわよ!」ヒョイ

エマ「チーズ、これはチーズだと思って……」ヒョイ

栞子「姉さんを信じます……」ヒョイ

果林「まあ川のクサヤと思えば……」ヒョイ

スウッ

4人「いただきまーす」

パクッ

24: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/07(土) 21:21:43 ID:???00
4人「……」モグモグ

ゴクン

果林「あら?」

栞子「……美味しい、ですね」

エマ「ボーノだよぉ……!」

ランジュ「きゃあ!好吃ラ!」

果林「てっきりピクルスとかレモンみたいに酸味が強いと思ったけど、意外と柔らかいわね。よくある酢漬けよりも優しい酸味だわ」

栞子「十分に嚙んだ後で口の中に残るうま味は……まるでしょう油や味噌のうま味です!」

エマ「ムニッとした食感の身とホロホロの卵、濃厚な魚の脂……」

ランジュ「思ったより魚くささもなくて、美味しいじゃない!!」

栞子「確かに。口に入れると、全然くさみを感じませんでした……」

エマ「うん、これなら美味しく食べられるよー」ニコッ

ミア「……」

ランジュ「あら?まだ食べてないの?」

27: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/08(日) 21:08:28 ID:???00
ミア「そ、そうだ!ちょっと急用を思い出した」

エマ「急用?」

ミア「うん、曲の仕上げについてベイビーちゃんと打ち合わせがあって……HAHAHA」コトッ

栞子「そうですか……それは残念です」

ミア「いやー、残念だよ残念。じゃあこれで」フリフリ

ランジュ「あら?ミア、さっき打ち合わせが終わって暇だなって……」

ミア「Oops!?なんでバラすのかなぁ!?」

ガシッ

ミア「あ、腕が……」

エマ「……ミアちゃん、途中退席は同好会員規則違反、だよ?」(低音)

果林「あらあら……怖くないわよ?お姉さんが食べさせて、あ、げ、る」ヒョイ

口元に迫る鮒ずし

ミア「あ、あぁ……」ジワッ

プーン

ミア「Nooooo!誰か助けて!」ジタバタ

栞子「やはりそのままだとアメリカ人のミアさんには厳しいみたいですね……では」

栞子「鮒ずしの地元の美味しい食べ方を実践してみましょう」

28: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/08(日) 21:10:29 ID:???00
ミア「地元の、食べ方……?」ウルウル

栞子「はい。そのままが無理なミアさんに、きっと適正があると思います」

栞子「なので泣かないでください」

ミア「なっ、泣いてなんかない!ボクは三年生だぞ!」ムスッ

果林「滋賀ではそのまま以外に食べ方があるのね?」

栞子「はい。えっと、お料理担当を呼びますね……もしもし、お願いします」

ガラッ

彼方「おまたせー」トコトコ

ランジュ「彼方!アナタがお料理担当なの!?」

彼方「なんか栞子ちゃんに頼まれちゃったんだー。彼方ちゃんもライフデザインの料理専攻として、鮒ずし食べてみたくてねぇ……」

彼方「はい、炊き立ての近江米だよ……エマちゃんは特別にどんぶりー」

エマ「……これ、白いご飯?」

ミア「まさか一緒にフナズシを食えというのかい……?」

栞子「はい。お茶漬けにします……彼方さん、お願いいたします」

彼方「りょーかい」

29: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/08(日) 21:12:29 ID:???00
彼方「まず炊き立てのご飯に刻み海苔を散らす」パラッ

彼方「つぎに鮒ずしをふた切れのせて」ヒョイヒョイ

彼方「そして熱い緑茶をサッと注ぎ……」

トポポ

彼方「最後に鮒ずしを漬けるのに使っていた、飯(いい)をひとすくい添えて、出来上がりー」

彼方「食べる直前に、飯をお茶に溶いてねえ……」

彼方「さあ、召し上がれー」コトッ

ホカホカ

果林「美味しそうじゃない」

エマ「いい香りがするねー」

ミア「……」ジーッ

ランジュ「とってもいい匂い!」

栞子「では、いただきましょう……」

4人「いただきまーす」

ズッズッ

30: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/08(日) 21:14:10 ID:???00
エマ「わぁ……!」

ランジュ「きゃあ!好吃ラ!」

ランジュ「くさみが良い感じ!酸味もまろやかよ!」

ミア「ええっ!?」

果林「そうね……お茶の香りと苦味、鮒ずしのうま味と酸味が絶妙なバランスだわ」

栞子「それにこの、食べる直前に溶いた飯、でしょうか……これがお茶と混ざって良い出汁になってます」

エマ「ボーノだよぉ……!ご飯何杯でもいけるー」ズッズッ

エマ「……彼方ちゃん、お代わり!」スッ

彼方「はいよー」スッ

ミア「……」ジーッ

果林「あら?お箸使えないの?」

ミア「つ、使えるけどさ……その……」チラッ

彼方「!」

彼方「ふふっ、ミアちゃん……大丈夫だよぉ。人には好みがあるからねぇ、残してもいいんだよー」

ミア「う、うん……」

ランジュ「きゃあ!ミア残すのね!彼方の美味しいお茶漬け、ランジュが頂くわ!」スッ

ミア「!」バッ

31: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/08(日) 21:16:29 ID:???00
ランジュ「ラ?」

ミア「た、食べるよ……!」

ミア「……」ヒョイ

ホカホカ

ミア「……」スンスン

ミア「うぅ……よし」スウッ

ミア「I can do it!」

ミア「ボ、ボクは……テイラー家で唯一、フナズシを食べた人間になるんだっ……!」パクッ

ミア「……」モグモグ

5人「……」ドキドキ

ミア「……」ゴクン

ランジュ「どう?」

ミア「……美味しい!美味しいよコレ」パァッ

ミア「口に入れちゃえば、ほとんどくさくない!味は……サッパリした酸味とコクがあって後味スッキリ!」

ミア「これならボクも食べれるよ……!」モグモグ

彼方「ふふっ、良かったねぇ……」

栞子「では、次にその鮒ずしをアレンジした料理を彼方さんに用意してもらいましょう」

彼方「了解。出来立てを作ってくるね……」スタスタ

41: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/10(火) 22:43:15 ID:???00
ガラッ

彼方「おまたせー、お料理できたよ……」

彼方「まずは鮒の頭としっぽのお吸い物だよ」

エマ「わぁ……!ふたを開けてもいい?」

彼方「どうぞー」

カポッ

エマ「いい香りだねー」

果林「頭としっぽと……上にのせてるのは、三つ葉ね?」

彼方「そうだよー、お出汁は昆布だけのシンプルなものにしたんだ」

栞子「では、いただきます……」ズッ

ミア「オスイモノはこうやって飲むのか」ズッ

ランジュ「……美味しいわね!頭も柔らかくて本当にそのまま食べられるわ!」

ミア「爽やかな酸っぱさのなかに、うま味があって……この独特な葉っぱの香りも悪くないな」

果林「それは三つ葉よ、汁ものや丼ものに欠かせない香味野菜なの」

エマ「へえー!日本のバジルなんだね」

42: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/10(火) 22:44:44 ID:???00
彼方「次は鮒ずしの天ぷらだよー」コトッ

エマ「美味しそう!あれ?このとなりにあるピンクのソースは何かなー」

彼方「それはね……梅肉ソースだよ。梅干しの種を取り除いて、酒と砂糖とみりんで味を整えたんだー」

彼方「どうぞめしあがれー」ニコッ

ミア「魚のフリッターだと思えばいいか……」パクッ

ミア「……」モグモグ

ミア「ん?くさくなくて美味しいぞ」

エマ「外サクサクで中身はトロッとしてて、鮒ずしの塩味がちょうどよく効いてるよ!」

栞子「しかし、これは……鮒ずしに衣をつけて揚げただけではないですね」モグモグ

果林「美味しいわ。鮒ずしの塩味と梅の相性はいいけれど……」

果林「この中の苦味と緑のものはなにかしら……?」ジーッ

ランジュ「彼方、何が入っているのか教えて!」

43: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/10(火) 22:45:48 ID:???00
彼方「これはネットにあったアレンジレシピなんだけどね……」

彼方「鮒ずしを薄く切ったカマンベールチーズで挟んで、それを大葉で巻いて衣をつけて揚げたんだー」

彼方「ソースは、鮒ずしの酸味と塩味を引き立てるために梅がいいんだって」

エマ「カマンベールだったんだー!だからクリーミーでほんのり苦味があったんだね」ポンッ

ミア「この緑のは、葉っぱなのか?」

彼方「うん、青ジソという香味野菜だよ」

ミア「A-ha!あのサシミにくっついているハーブのことか!」

ミア「アレって食べられるんだな……」

果林「当たり前でしょ?」

ランジュ「それにしても、鮒ずしって可能性があるわね?てっきり1000年も続いてるからアレンジが難しいと思ってたわ」

栞子「確かに。改めて日本の食べ物をもっと良く知りたいと思いました……」

彼方「彼方ちゃんもいい勉強になったよー、栞子ちゃんのおかげだよ」

栞子「いえ、これを見つけてきた酒好きな姉さんのおかげですよ」ケンソン

44: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/10(火) 22:47:08 ID:???00
彼方「あ、そうだ。最後のシメに、これ作ってみたんだー」

コトッ

エマ「彼方ちゃん、これは?」

ミア「なんだいこの木の箱は……」

彼方「開けるよー」

カパッ

栞子「これは……鯖がご飯を覆いかぶさるようにのっかってますね」

果林「なんだか四角い形。もしかして、彼方これ……」

彼方「そう。押し寿司……大阪名物、バッテラだよー」

ミア「バッテラ?」

彼方「うん……SUSHIの先祖は鮒ずし。そこから日本人はSUSHIを食べやすいように、作りやすいように進化したよね?」

エマ「そうだね」コクリ

彼方「その進化というのが、鮒ずしの乳酸菌発酵させるという過程を省いて、発酵で得られる酸味とうま味を酢飯で代用して、魚の切り身にくっつけたのが今のお寿司だねぇ……」

彼方「このバッテラは、その進化の中間で生まれた鮎寿司の仲間なんだー」

45: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/10(火) 22:48:37 ID:???00
栞子「聞いたことがないですね……」

彼方「鮎寿司はね……塩漬けで乳酸菌発酵させた鮎の身を開きにして、だ円形のご飯にのせ、木の箱で押し固めて四角い形をつくったお寿司のことなんだー」

彼方「京都で生まれたその鮎寿司が、大阪に伝わったんだけど……」

彼方「鮎より大阪湾でよくとれる、サバを酢で加工した切り身を代用して押し寿司にしたのが、このバッテラなのさー」ユビサシ

エマ「そうなんだね」

ミア「バッテラ……日本語じゃないね。四角いからBatteryのことかい?」

彼方「ぶぶー、残念でした。形を表したのは当たってるけど……バッテラは小舟の意味のポルトガル語なんだよ」

ミア「日本料理なのにポルトガル語……本当に変な国だな」ヤレヤレ

ランジュ「もう彼方!お寿司は聞くものじゃなくて、食べるものよ!早く食べたいわ!」ソワソワ

彼方「おっと、そうだったね……じゃあ、召し上がれー」

みんな「いただきまーす!」

栞子(みんなで食べた鮒ずしと、そのアレンジ料理。そしてバッテラは格別に美味しかったです)

栞子(──そして、事件は数日後に起きました)

46: 名無しで叶える物語◆eP3J4idE★ 2024/12/10(火) 22:52:57 ID:???00
数日後 同好会室

ガラッ

ランジュ「ランジュが来たわよ!!」

歩夢「あ、ランジュちゃん」

侑「今日も元気いっぱいだねー」

かすみ「ランジュ先輩、その手に持ってる箱は何ですかー?」ユビサシ

ランジュ「これ?これはね、ランジュが作ったお寿司よ!」

せつ菜「それは豪華ですね」

しずく「お寿司、ですか……?」

ランジュ「是的!そうよ!」

ランジュ「栞子が持ってきた鮒ずしを参考にして、ランジュが大好きなお肉とご飯を漬け込んで発酵させてみたの」

ゴソゴソ

ミア「えっ……?」

ランジュ「……ほら、みんなで食べましょう!!」パカッ

ムワァ

ミア「オ゛ォ゛オ゛ウ゛ェ゛ッ゛!?」



──箱からあふれ出た凄まじい腐敗臭と、スクールアイドルたちの悲鳴で阿鼻叫喚のインフェルノ地獄と化した部室。

すぐに駆けつけた栞子に、ランジュは反省文10枚を言い渡された。



おわり

引用元: 栞子「滋賀から荷物が届きました」