1: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 20:41:05 ID:???00
千砂都「はい、じゃあ連絡事項」

千砂都「ここに挙げてる曲が次のライブでみんなで歌う今までの曲。まとめといたから」

千砂都「振りとか演出は今までと変えてるところもあるから、昔歌ってた人たちも油断しないように」

千砂都「明日の放課後練から振り入れていくからそのつもりでね」

千砂都「今日はここまで、解散!」

千砂都「……」

すみれ(千砂都……?)

すみれ「……」

すみれ(この曲……)

2: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 20:42:42 ID:???00
すみれ「ねぇ千砂都」

千砂都「うぃっすー、お疲れすみれちゃん」

すみれ「ちょっと話があるんだけど」

千砂都「うん、来ると思ってた」

すみれ「なによそれ、まぁそれよりさっきの曲と振りについてなんだけど」

千砂都「すみれちゃんこのあと時間ある?あるよね?」

すみれ「話聞きなさいってば」

千砂都「まだ練習着のまんまじゃん。着替えてひとまずぷらぷらと歩いてみよっか、でしょ」

すみれ「まったく、そういうところよ。別にいいけど」

3: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 20:44:17 ID:???00
千砂都「急に寒くなったね~」

すみれ「まぁそうね、それより今日の練習の」

千砂都「月が出てるけどまだあんまりまぁるくないね」

すみれ「あー……そうね」

すみれ(この調子の時は家まで連れてかれるやつだわ)

千砂都「……」

千砂都「せっかくだしうち寄ってく?」

すみれ(ほらやっぱり)

すみれ「千砂都がいいならお邪魔させてもらおうかしら」

すみれ(そう、いっつもこう。昔から変わらない日常)

4: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 20:45:55 ID:???00
千砂都「お茶いれるね」

すみれ「ん、いつもありがと」

すみれ(千砂都ってこういう話が込み入りそうな時を察するのがやけにうまいっていうか)

すみれ(いっつも向こうのペースに巻き込まれて千砂都の部屋にあがることになってるわね)

すみれ(でもそれが彼女なりの守りの固め方なんじゃないかって気がしてるの)

千砂都「おまたせー」

すみれ(薄いベールで覆われてるみたい、直接は触れられないような)

すみれ「なんだかあなたの部屋も来すぎてて逆に落ち着くわ」

千砂都「うんうん、存分にくつろいでいっていいよ」

すみれ(外にいる時より遠ざかった気がする。こうやってすぐ隣にいても)

5: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 20:47:29 ID:???00
すみれ「で、よ。さっきの練習で出してた曲と振り付けの」

千砂都「昔の話しよっか」

すみれ「なによ藪から棒に。話を聞きなさいっての」

千砂都「大丈夫、話したいことはわかってるし、そこにつながるから」

すみれ(やっぱり相手のペースに乗せられてる。いっつもそう)

すみれ(でも別に昔の話するのは嫌いじゃないわよ、それだけ一緒に過ごしてきた時間があるってことなんだから)

すみれ「ん、じゃあまぁいいけど」

6: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 20:49:02 ID:???00
千砂都「練習後はたいてい一緒に帰ってたねぇ」

すみれ「そうね、さんざん反省会したわよね」

千砂都「私がダンスのテクニカルなとこの指摘してさ、すみれちゃんが私に最終的な魅せ方を指南してくれるんだよね」

すみれ「私はあなたみたいに技術面に詳しいわけじゃないから。持ってたのは現場で培ってきたどう魅せたらどう見えるかっていう感覚だけ」

千砂都「でもそれはアウトプットに最も近いところの感覚だから、効きは強烈だったしスクールアイドルとしての嵐千砂都のパフォーマンスにはすみれちゃんの影響がばっちりあるんだよ」

すみれ「それは私も同じ。ツギハギの基礎の欠けていた部分を埋めてくれたのが千砂都の要素技術だもの」

すみれ「……あなたこの話好きね、今まで何遍も聞いたわよ」

千砂都「うん、何回も言ってる」

すみれ「あらそ」

7: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 20:50:33 ID:???00
千砂都「ほんとに始めたばっかりで、あの時はまだ4人しかいなくて」

千砂都「少しだけ先に行ってるみんなに」

すみれ「少しだけスクールアイドルの先輩のあの2人に」

千砂都「追いつきたかったんだ」

すみれ「追いつきたかったのよね」

千砂都「だから私たち意外と意気投合したのかもねぇ」

すみれ「意外とってなによ」

千砂都「えーすみれちゃんだしな~」

すみれ「だから何がよまったく」

8: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 20:52:06 ID:???00
千砂都「それでほとんどおんなじタイミングで言い出したんだよね、曲作ろうって」

すみれ「そうそう、あんまりにおんなじで笑っちゃったわよね」

千砂都「やっぱり気が合うってことだねぇ」

すみれ「単に私たちふたりとも単純なだけでしょ」

千砂都「でもそれでやっちゃったんだから、当時曲作りメイン張ってたあの2人になんにも言わずにさ」

千砂都「今思い返してもよくできたなぁって思うよ」

すみれ「さんざん作り込んだじゃない、毎日毎日、まさにこの部屋で」

千砂都「あの時の想いが詰まってるからねぇ」

すみれ「今の悔しさをバネに、たった一歩だけでいいから踏み出したい」

すみれ「その想いが詰まってるのよね」

9: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 20:53:37 ID:???00
千砂都「そうして曲ができた時、たった一歩、でもすごく大きな一歩が踏み出せた気がした」

すみれ「ライブで私と千砂都のふたりで歌って踊った時、これもまた大きな一歩って感じがしたわよ」

千砂都「これは間違いなく私の原体験のひとつになるんだって」

すみれ「折に触れて立ち返る経験になるかしらねって」

千砂都「それでこの曲はひとまずの役目を終えたね」

すみれ「次のくよくよネガティブガールが出てきてこの曲を受け継いでもらう時までは」

12: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 20:55:04 ID:???00
千砂都「これも結構前の話なんだねぇ、時間はいつもあっという間だ」

すみれ「あの時少しだけ後輩だった私たちにも、今はちゃんと後輩ができたわけだし」

すみれ「そうしてこの曲を、私たちのあの時の想いを、受け継いでもらう時が来たのよね」

すみれ「それが今日だった」

すみれ「……」

14: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 20:56:40 ID:???00
すみれ「ねぇ千砂都、振り付けを変えたのは何故かしら?」

千砂都「……」

すみれ(動揺隠せてないわよ、私じゃなきゃ気づかないかもしれないけどね)

すみれ(でもなにもそんなに動揺しなくたって、答えは準備してるんでしょう)

千砂都「披露の仕方が違うからだよ。応援してくれる人の近くまで行ける形態の時は、振りを簡略化してでも客席をしっかり見たほうがいい」

すみれ(ほら、一見ちゃんと筋の通った部長としての意見)

すみれ「そうね、私もそれは同意するわ」

すみれ「その方がうれしいし」

千砂都「……」

すみれ(一応いつもの千砂都に戻ったように見えるわね)

千砂都「よかった」

千砂都「ね、結局はすみれちゃんがしようとしてた話になったでしょ」

すみれ(でももう、逃さないから)

15: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 20:57:56 ID:???00
すみれ「そうね、半分は」

千砂都「……?」

すみれ「まだもう半分あるから話は続くんだけど」

すみれ(私はあなたのそのベールを剥がしたいの)

すみれ「……ねぇ千砂都」

16: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 20:59:24 ID:???00
すみれ「最近ずっと無理してない?」

すみれ「ふとした時にあなたの顔見てると、いつもと違うって感じる時があるの」

すみれ「ひとりで無理して抱え込んでるんじゃないかって」

すみれ「部長としての責任感で頑張ってるっていうのはわかる。あなたはそれができてしまうくらい強い人であるということも知ってる」

すみれ「だから単に全部私の勘違いで、他の人に相談して案外うまくやってるのかしらねと考えたこともあったわ。それは少しさみしいったらさみしいけど、しょうがないことだもの」

17: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 21:00:59 ID:???00
すみれ「でも今日で確信した。今日はちょっと無理してるとかじゃなかったもの、ほとんど苦しそうでもあった」

すみれ「この曲を再び表舞台に持ってくる時が来たからなんでしょ」

すみれ「この曲は私たちふたりのじゃないの。だったら私に相談してくれたって」

千砂都「っ、でも!結果としてすみれちゃんも望んでた形になったでしょ、振りは変えた方がいいって」

千砂都「こうして少し形を変えて曲が受け継がれていく。それでいい、それがいいって思ってくれてるでしょ……?」

すみれ「結果だけ見たらそうね、私もそれがいいわ」

すみれ「でもいつもの千砂都なら変えない選択をしたはずよ。今のままでは届かない、でも背伸びすればなんとか届くくらいの目標をみんなに設定して、部員一人ひとりのレベルを上げ続けてきたあなただったら」

すみれ「今回のだって、オリジナルの振り付けのまま客席近くへ行くことが遠すぎる目標だとは言えなかったはずじゃない。それは私にもわかる。でもあなたはそれを選ばなかった」

すみれ「何故って、私だっておんなじように思ってるからわかるけど、オリジナルのこの曲を私たちふたりだけのものにしておきたかったから。違う?」

千砂都「っ……!」

すみれ「でもそれは部全体のことを考えたらきっと正しい選択ではない。そこにはずっとついて回る罪悪感がある」

すみれ「それをあなたは全部ひとりで抱え込もうとしてたんでしょう」

すみれ「なんでよ、その罪悪感は私も感じなきゃいけないものなのに」

すみれ「ねぇ、私をあなたの共犯者にしてよ」

18: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 21:02:25 ID:???00
すみれ「私は少しでもたくさんあなたに笑っていてほしい、その笑顔を少しでもたくさん私に見せてほしい」

すみれ「もっと欲張っていいなら、私だけに見せてくれる笑顔がほしい」

すみれ「そのためにあなたが泣かなくちゃいけないなら、私も一緒に泣きたい」

すみれ「"まだすこし不安だけど強くなるんだ"って言うところ、一緒に決めたじゃない」

すみれ「私に誓ってよ」

19: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 21:03:50 ID:???00
千砂都「うぁぁぁぁ、すみれちゃぁぁぁんんん」ブワッ

すみれ「うぁなんなのよ、さっきまで表向きは割と平気そうにしてたくせに。0と1しかないのあなた」

千砂都「んん、0のほうがまるいからいい」グスッ

すみれ「知らないわよ」

千砂都「だってずっと気張っていないと立ち止まったら潰れちゃう気がして……」ズズッ

すみれ「それを無理してるって言わなくてなんなのよ」

すみれ「まったく」

すみれ「とりあえず鼻かみなさい」

20: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 21:05:12 ID:???00
すみれ「さて、これで私も無事共犯者になれたってことかしらね」

千砂都「うぅごめんって」

すみれ「そうじゃないのよ」

千砂都「じゃあ、ありがとう?」

すみれ「そっちのほうがいいわね」

すみれ「どんな形であっても、私はあなたとお揃いのほうがうれしいわ」

すみれ「私たち同士、それに共に歩んできたこの曲とも」

千砂都「そうだね、じゃあこれでこれから新しい私たち」

すみれ「そうね」

千砂都「昨日までの私たちに」

「「バイバイしちゃえば!?」」

21: 名無しで叶える物語◆Sr4KTIMJ★ 2024/12/13(金) 21:06:42 ID:???00
おわり◯

ありがとうございました

引用元: 【SS】千砂都「昨日までの私たちに」