1: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:29:08.339 ID:ff+8Ij5sD.net
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
崔英男(45) 独裁国家要人
【普通の人生】
ホーッホッホッホ……。」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
崔英男(45) 独裁国家要人
【普通の人生】
ホーッホッホッホ……。」
2: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:31:16.967 ID:ff+8Ij5sD.net
ナレーション「2018年――」
夜。東京、ある寿司屋。カウンターで客たちが食事をしている。客の中には喪黒福造もいる。
店の中にある液晶テレビがニュースを流している。
テレビ「本日、シンガポールで歴史的な米朝首脳会談が行われました」
テレビの画面には、アメリカの大統領と北朝鮮の最高指導者の姿が映っている。
テレビ「トンプソン大統領と崔英恩委員長が握手を交わしています」
テロップ「崔英恩(チェ・ヨンウン) 朝鮮労働党委員長・北朝鮮第3代最高指導者」
崔英恩は口元に笑みを浮かべてはいるものの、目つきは決して笑っていない。
権謀術数に長けた独裁者らしく、何かを企んでいるような顔つきにも見えなくもない。
客たちと一緒にテレビを見る喪黒。
喪黒「…………」
モノローグ「このニュースを見て、私は、1年前に出会ったあの人のことを思い出しました」
夜。東京、ある寿司屋。カウンターで客たちが食事をしている。客の中には喪黒福造もいる。
店の中にある液晶テレビがニュースを流している。
テレビ「本日、シンガポールで歴史的な米朝首脳会談が行われました」
テレビの画面には、アメリカの大統領と北朝鮮の最高指導者の姿が映っている。
テレビ「トンプソン大統領と崔英恩委員長が握手を交わしています」
テロップ「崔英恩(チェ・ヨンウン) 朝鮮労働党委員長・北朝鮮第3代最高指導者」
崔英恩は口元に笑みを浮かべてはいるものの、目つきは決して笑っていない。
権謀術数に長けた独裁者らしく、何かを企んでいるような顔つきにも見えなくもない。
客たちと一緒にテレビを見る喪黒。
喪黒「…………」
モノローグ「このニュースを見て、私は、1年前に出会ったあの人のことを思い出しました」
3: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:33:21.436 ID:ff+8Ij5sD.net
ナレーション「2017年2月――」
羽田空港。高そうなコートを羽織り、スーツにノーネクタイの太った中年男性。
テロップ「崔英男(チェ・ヨンナム) (45) 北朝鮮最高指導者・崔英恩の兄」
崔英男を出迎えるヤクザの男たち。彼らは高価なスーツを着ているが、目つきが悪く、いかがわしい雰囲気を醸し出している。
ヤクザたち「あなたをお待ちしておりました。『山田社長』」
崔英男は電気自動車の後部座席に乗り、ある目的地へと向かう。
ビジネス街。ビルの上の階のある部屋。この部屋で、崔英男は白髪頭の初老の人物と会っている。
初老の男のスーツの左胸の部分には、金バッジがついている。彼は普通の社長とは違う威厳の持ち主だ。
初老の男「さすが、あなたの国で生産された『製品』は質が高いですな」
崔英男「まあ、私の『商売』はあまり褒められたものではないんですがね」
崔英男の顔は、どこか苦々しそうな表情をしている。
羽田空港。高そうなコートを羽織り、スーツにノーネクタイの太った中年男性。
テロップ「崔英男(チェ・ヨンナム) (45) 北朝鮮最高指導者・崔英恩の兄」
崔英男を出迎えるヤクザの男たち。彼らは高価なスーツを着ているが、目つきが悪く、いかがわしい雰囲気を醸し出している。
ヤクザたち「あなたをお待ちしておりました。『山田社長』」
崔英男は電気自動車の後部座席に乗り、ある目的地へと向かう。
ビジネス街。ビルの上の階のある部屋。この部屋で、崔英男は白髪頭の初老の人物と会っている。
初老の男のスーツの左胸の部分には、金バッジがついている。彼は普通の社長とは違う威厳の持ち主だ。
初老の男「さすが、あなたの国で生産された『製品』は質が高いですな」
崔英男「まあ、私の『商売』はあまり褒められたものではないんですがね」
崔英男の顔は、どこか苦々しそうな表情をしている。
4: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:35:27.935 ID:ff+8Ij5sD.net
夕方。東京のある下町。居酒屋。
サラリーマンの客たちに交わりながら、崔英男は酒を飲んでいる。崔英男の隣にいる客は、喪黒福造だ。
客たちと話をし、談笑する崔英男。闇社会の関係者との商談の時とは違い、彼の表情は実に楽しそうだ。
やがて時間が経過し、サラリーマンの客たちは次々と去っていく。店の中にいる客は、崔英男と喪黒の2人だけだ。
喪黒「あなたのお仕事は?」
崔英男「『実業家』ですよ」
喪黒「あなたの話言葉には、『訛り』がおありのようですねぇ」
崔英男「私は『地方』出身者ですからね」
喪黒「商売はうまくいってますか?」
崔英男「ぼちぼちですね。人には言えない気苦労がありますから」
喪黒「大変ですなぁ。何なら、私があなたの相談に乗りましょうか」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
崔英男「ココロのスキマ、お埋めします!?」
サラリーマンの客たちに交わりながら、崔英男は酒を飲んでいる。崔英男の隣にいる客は、喪黒福造だ。
客たちと話をし、談笑する崔英男。闇社会の関係者との商談の時とは違い、彼の表情は実に楽しそうだ。
やがて時間が経過し、サラリーマンの客たちは次々と去っていく。店の中にいる客は、崔英男と喪黒の2人だけだ。
喪黒「あなたのお仕事は?」
崔英男「『実業家』ですよ」
喪黒「あなたの話言葉には、『訛り』がおありのようですねぇ」
崔英男「私は『地方』出身者ですからね」
喪黒「商売はうまくいってますか?」
崔英男「ぼちぼちですね。人には言えない気苦労がありますから」
喪黒「大変ですなぁ。何なら、私があなたの相談に乗りましょうか」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
崔英男「ココロのスキマ、お埋めします!?」
5: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:37:21.406 ID:ff+8Ij5sD.net
喪黒「私はセールスマンです。お客様の心に空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」
崔英男「は、はあ……」
BAR「魔の巣」。喪黒と崔英男が席に腰掛けている。
喪黒「居酒屋を出た時に気がついたんですが……。これ、あなたの落し物ですよ」
喪黒は机の上にバッジを置く。
喪黒「これは北朝鮮で使用されているバッジですね」
「バッジに描かれている人物は、北朝鮮の建国の父・崔日柱(チェ・イルジュ)でしょう」
崔英男「!!!」
バッジを見て顔色が変わる崔英男。彼は動揺した様子になる。
喪黒「あなた、日本の方ではありませんねぇ……。もしかすると、不法入国でしょう」
「ほら、過去に……。あなたは不法入国で本国に強制送還されていますよねぇ……!?」
崔英男「●▲■★◆○▽☆、●▲■★◆○▽☆(お前は共和国の工作員で、英恩が送り込んだ刺客なのか)!?」
喪黒「私は北朝鮮の工作員でも、崔英恩が送り込んだ刺客でもありませんよ。崔英男さん」
崔英男「●、●▲■★◆○▽☆●▲■(な、なぜ私が崔英男だと分かった)!?」
「●▲■★、●▲■★(お前は一体、何者なんだ)!?)」
崔英男「は、はあ……」
BAR「魔の巣」。喪黒と崔英男が席に腰掛けている。
喪黒「居酒屋を出た時に気がついたんですが……。これ、あなたの落し物ですよ」
喪黒は机の上にバッジを置く。
喪黒「これは北朝鮮で使用されているバッジですね」
「バッジに描かれている人物は、北朝鮮の建国の父・崔日柱(チェ・イルジュ)でしょう」
崔英男「!!!」
バッジを見て顔色が変わる崔英男。彼は動揺した様子になる。
喪黒「あなた、日本の方ではありませんねぇ……。もしかすると、不法入国でしょう」
「ほら、過去に……。あなたは不法入国で本国に強制送還されていますよねぇ……!?」
崔英男「●▲■★◆○▽☆、●▲■★◆○▽☆(お前は共和国の工作員で、英恩が送り込んだ刺客なのか)!?」
喪黒「私は北朝鮮の工作員でも、崔英恩が送り込んだ刺客でもありませんよ。崔英男さん」
崔英男「●、●▲■★◆○▽☆●▲■(な、なぜ私が崔英男だと分かった)!?」
「●▲■★、●▲■★(お前は一体、何者なんだ)!?)」
6: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:39:23.295 ID:ff+8Ij5sD.net
喪黒「いやぁ、私はセールスマンですよ。他のセールスマンとは一味違っていますがね……」
崔英男「…………」
喪黒「まあ、少しはリラックスしたらどうです。私は怪しいものではありませんから」
崔英男「ウーーーム……」
喪黒「私はお仕事で、人々の心のスキマを埋めるボランティアをしているのですよ」
崔英男「そうですか……」
喪黒「見たところ……。あなたの心にもスキマがおありなようですねぇ……」
崔英男「ええ、その通りですよ。私は私なりに、辛い思いをしていますから……」
喪黒「今のあなたの辛さは、一般人には言い表せないものでしょう。何しろ、崔英男さんは……」
「独裁国家の指導者の長男として生まれ、権力闘争に敗れた挙句……」
「現在、最高指導者となった弟に命を狙われる身……」
崔英男「あなたの言う通りですよ。できれば、私も普通の人間に生まれたかった……」
「さっき、居酒屋に集まっていたサラリーマンたちのように……」
喪黒「なるほど……」
崔英男「普通の人間としての人生……。平凡人でありながら、人並みの幸せ……」
「これらはどんなに大金を払っても、私には手に入れられないものですからね……」
崔英男「…………」
喪黒「まあ、少しはリラックスしたらどうです。私は怪しいものではありませんから」
崔英男「ウーーーム……」
喪黒「私はお仕事で、人々の心のスキマを埋めるボランティアをしているのですよ」
崔英男「そうですか……」
喪黒「見たところ……。あなたの心にもスキマがおありなようですねぇ……」
崔英男「ええ、その通りですよ。私は私なりに、辛い思いをしていますから……」
喪黒「今のあなたの辛さは、一般人には言い表せないものでしょう。何しろ、崔英男さんは……」
「独裁国家の指導者の長男として生まれ、権力闘争に敗れた挙句……」
「現在、最高指導者となった弟に命を狙われる身……」
崔英男「あなたの言う通りですよ。できれば、私も普通の人間に生まれたかった……」
「さっき、居酒屋に集まっていたサラリーマンたちのように……」
喪黒「なるほど……」
崔英男「普通の人間としての人生……。平凡人でありながら、人並みの幸せ……」
「これらはどんなに大金を払っても、私には手に入れられないものですからね……」
7: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:41:19.494 ID:ff+8Ij5sD.net
喪黒「私が何とかしてあげましょう」
崔英男「えっ!?」
喪黒「普通の人間としての暮らし、味わってみませんか!?」
崔英男「そんなの無理ですよ」
喪黒「無理ではありません。私ならできます」
崔英男「一体、どんなやり方なんですか!?」
喪黒「それはですね……」
喪黒は鞄から何かを取り出す。
机の上に置かれたのは、表紙に「人生体験サービス」と書かれた分厚いパンフレットだ。
崔英男「これは……」
喪黒「大人向けの人生体験、職業体験ができるサービスです」
「あなたのお望みの職業……。あなたのお望みの家庭……。これらを2日間だけ体験できます」
「あなたが体験したいお好きなコースを、このパンフレットからお選びください」
崔英男「えっ!?」
喪黒「普通の人間としての暮らし、味わってみませんか!?」
崔英男「そんなの無理ですよ」
喪黒「無理ではありません。私ならできます」
崔英男「一体、どんなやり方なんですか!?」
喪黒「それはですね……」
喪黒は鞄から何かを取り出す。
机の上に置かれたのは、表紙に「人生体験サービス」と書かれた分厚いパンフレットだ。
崔英男「これは……」
喪黒「大人向けの人生体験、職業体験ができるサービスです」
「あなたのお望みの職業……。あなたのお望みの家庭……。これらを2日間だけ体験できます」
「あなたが体験したいお好きなコースを、このパンフレットからお選びください」
8: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:43:23.402 ID:ff+8Ij5sD.net
崔英男「面白そうですね……」
崔英男は、喪黒から渡されたパンフレットを開く。
喪黒「お決まりになりましたか!?」
崔英男「はい。じゃあ、このサラリーマンコースをお願いします。妻と一人息子がいる家庭もセットで……」
喪黒「たやすい御用です。崔英男が体験するサービスは、今晩から2日間のものとなっております」
崔英男「今晩からですか……。早いですね」
喪黒「2日間だけ、このパンフレットで指定された家庭と会社でサラリーマンの生活を送ることができます」
崔英男「何だかわくわくしますね……」
喪黒「ただし、このサービスを体験できるのは2日間だけです。いいですね、約束ですよ」
崔英男「わ、分かりました……。喪黒さん」
夜。吊り革を持ち、電車に乗る崔英男。彼は、安物のスーツにネクタイをしたサラリーマンの服装をしている。
崔英男(『藤子企画』に勤めるサラリーマン・『山田英男(やまだ・ひでお)』……)
(それが、人生体験サービスで選んだ今の俺だ……)
崔英男は、喪黒から渡されたパンフレットを開く。
喪黒「お決まりになりましたか!?」
崔英男「はい。じゃあ、このサラリーマンコースをお願いします。妻と一人息子がいる家庭もセットで……」
喪黒「たやすい御用です。崔英男が体験するサービスは、今晩から2日間のものとなっております」
崔英男「今晩からですか……。早いですね」
喪黒「2日間だけ、このパンフレットで指定された家庭と会社でサラリーマンの生活を送ることができます」
崔英男「何だかわくわくしますね……」
喪黒「ただし、このサービスを体験できるのは2日間だけです。いいですね、約束ですよ」
崔英男「わ、分かりました……。喪黒さん」
夜。吊り革を持ち、電車に乗る崔英男。彼は、安物のスーツにネクタイをしたサラリーマンの服装をしている。
崔英男(『藤子企画』に勤めるサラリーマン・『山田英男(やまだ・ひでお)』……)
(それが、人生体験サービスで選んだ今の俺だ……)
9: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:45:25.471 ID:ff+8Ij5sD.net
東京郊外のある住宅。塀にある表札には「山田」の名字が書かれている。
住宅の玄関の前に立ち、ドアを開ける「山田英男」こと崔英男。
崔英男「ただいまー!!」
女性と子供「お帰りー!!」
崔英男を出迎えたのは、妻役の女性と、息子役の子供だ。
妻は30代後半のように見えるし、子供は小学生のように見える。
夜中。寝室には、崔英男、妻役、息子役の3人の布団が並んでいる。3人は眠っている。
夢を見る崔英男。彼の過去に起きた光景が、夢の中に次々と出てくる。
北朝鮮、平壌。父・崔英日に、執務室へ呼ばれる崔英男。
テロップ「崔英日(チェ・ヨンイル) 朝鮮労働党総書記・北朝鮮第2代最高指導者」
崔英日「情けない奴め!お前は私の後継者になる資格などない!」
住宅の玄関の前に立ち、ドアを開ける「山田英男」こと崔英男。
崔英男「ただいまー!!」
女性と子供「お帰りー!!」
崔英男を出迎えたのは、妻役の女性と、息子役の子供だ。
妻は30代後半のように見えるし、子供は小学生のように見える。
夜中。寝室には、崔英男、妻役、息子役の3人の布団が並んでいる。3人は眠っている。
夢を見る崔英男。彼の過去に起きた光景が、夢の中に次々と出てくる。
北朝鮮、平壌。父・崔英日に、執務室へ呼ばれる崔英男。
テロップ「崔英日(チェ・ヨンイル) 朝鮮労働党総書記・北朝鮮第2代最高指導者」
崔英日「情けない奴め!お前は私の後継者になる資格などない!」
10: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:48:11.308 ID:ff+8Ij5sD.net
ある日。建物の中で会話をする崔英男と弟・崔英恩。
崔英恩「お兄様は甘いんですよ。世の中というものは、権力闘争によって成り立っています」
「だから……。美辞麗句と嘘によって他人を騙し抜き、邪魔者は速やかに始末する……」
「生き残りの秘策はそれしかありません」
さらにある日。執務室で、崔英日と崔英男は会話をしている。
崔英男「国内の餓死者をこれ以上、放っておいていいんですか!!」
「改革開放政策を導入すれば、飢えに苦しむ人民を救うことができますよ!!」
崔英日「お前は修正主義者か!!地上の楽園である我が共和国に餓死者などおらん!!」
朝。目を覚ます崔英男。部屋の中には、妻役の女性と、息子役の子供が布団に寝ている。
崔英男(ああ、そうだった……。今の俺は、崔英男ではないんだった……)
(俺は例のサービスによって、サラリーマンの山田英男になっているんだったな……)
台所。妻役の女性や、息子役の子供と食事をする崔英男。
息子役の子供がランドセルを背負い、家を出る。
息子役「行ってきまーーーす」
崔英恩「お兄様は甘いんですよ。世の中というものは、権力闘争によって成り立っています」
「だから……。美辞麗句と嘘によって他人を騙し抜き、邪魔者は速やかに始末する……」
「生き残りの秘策はそれしかありません」
さらにある日。執務室で、崔英日と崔英男は会話をしている。
崔英男「国内の餓死者をこれ以上、放っておいていいんですか!!」
「改革開放政策を導入すれば、飢えに苦しむ人民を救うことができますよ!!」
崔英日「お前は修正主義者か!!地上の楽園である我が共和国に餓死者などおらん!!」
朝。目を覚ます崔英男。部屋の中には、妻役の女性と、息子役の子供が布団に寝ている。
崔英男(ああ、そうだった……。今の俺は、崔英男ではないんだった……)
(俺は例のサービスによって、サラリーマンの山田英男になっているんだったな……)
台所。妻役の女性や、息子役の子供と食事をする崔英男。
息子役の子供がランドセルを背負い、家を出る。
息子役「行ってきまーーーす」
11: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:50:17.766 ID:ff+8Ij5sD.net
ビル街。「藤子企画」の看板がついたビルがある。
建物の部屋の中には、社員役の人間たちがいる。山田英男こと崔英男も社員役を演じている。
机に向かう崔英男。彼はボールペンを持ち、書類に何かを書いているようだ。
午後。タクシーに乗る山田英男こと崔英男。
崔英男(架空の仕事内容に、架空の商談……。これがサラリーマンコースか……)
喫茶店。山田英男こと崔英男は、相手の会社役の男性と架空の商談を行う。
商談を終え、握手をする崔英男と相手の会社役の男性。
夕方。BAR「魔の巣」。喪黒と崔英男が席に腰掛けている。
喪黒「例のサービスはいかがですか、崔英男さん!?」
崔英男「人生体験サービスは、意外と手の込んだ作りになっていますね……」
「おかげで……。今の私は、独裁国家の要人で異分子という普段の立場をすっかり忘れ……」
「精神的にも……。東京に住む一サラリーマンに完全になりきっていますよ」
建物の部屋の中には、社員役の人間たちがいる。山田英男こと崔英男も社員役を演じている。
机に向かう崔英男。彼はボールペンを持ち、書類に何かを書いているようだ。
午後。タクシーに乗る山田英男こと崔英男。
崔英男(架空の仕事内容に、架空の商談……。これがサラリーマンコースか……)
喫茶店。山田英男こと崔英男は、相手の会社役の男性と架空の商談を行う。
商談を終え、握手をする崔英男と相手の会社役の男性。
夕方。BAR「魔の巣」。喪黒と崔英男が席に腰掛けている。
喪黒「例のサービスはいかがですか、崔英男さん!?」
崔英男「人生体験サービスは、意外と手の込んだ作りになっていますね……」
「おかげで……。今の私は、独裁国家の要人で異分子という普段の立場をすっかり忘れ……」
「精神的にも……。東京に住む一サラリーマンに完全になりきっていますよ」
12: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:52:23.339 ID:ff+8Ij5sD.net
喪黒「サラリーマンコースのご感想は!?」
崔英男「なかなか楽しいですね。ああ、こういう仕事にこういう生活があったのか……と思いましたよ」
喪黒「あなたが満足できれば、私としては何よりですよ」
「ただし、約束は守ってください。今のサービスを利用できる期限は2日間……、明日の夕方までですよ」
崔英男「え、ええ……。そりゃあ、承知していますよ……」
夜。東京郊外のある住宅。
台所で食事をしながら団欒を行う崔英男、妻役の女性、息子役の子供。
この一家の大黒柱・山田英男を演じている崔英男の顔は、笑顔で楽しそうだ。
夜中。寝室で眠る崔英男、妻役の女性、息子役の子供。この日も、崔英男は過去の光景を夢に見る。
東南アジア某国のホテル。レストランでコーヒーを飲もうとする崔英男。
次の瞬間、彼が持ったコーヒーカップが粉々に砕け散る。部屋の窓ガラスには銃弾の跡がある。
崔英男「なかなか楽しいですね。ああ、こういう仕事にこういう生活があったのか……と思いましたよ」
喪黒「あなたが満足できれば、私としては何よりですよ」
「ただし、約束は守ってください。今のサービスを利用できる期限は2日間……、明日の夕方までですよ」
崔英男「え、ええ……。そりゃあ、承知していますよ……」
夜。東京郊外のある住宅。
台所で食事をしながら団欒を行う崔英男、妻役の女性、息子役の子供。
この一家の大黒柱・山田英男を演じている崔英男の顔は、笑顔で楽しそうだ。
夜中。寝室で眠る崔英男、妻役の女性、息子役の子供。この日も、崔英男は過去の光景を夢に見る。
東南アジア某国のホテル。レストランでコーヒーを飲もうとする崔英男。
次の瞬間、彼が持ったコーヒーカップが粉々に砕け散る。部屋の窓ガラスには銃弾の跡がある。
13: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:55:06.663 ID:ff+8Ij5sD.net
携帯電話を持ち、通話をする崔英男。彼の通話相手は、弟で北朝鮮最高指導者の崔英恩だ。
崔英恩「やぁ、お兄様。私からの『贈り物』はいかがでしたか!?」
「腕のいい狙撃手を使って、あなたが死なないように巧妙に狙いを定めておきましたよ」
崔英男「お、お前は……」
汗だくとなり、目が覚める崔英男。
崔英男(夢か……。何て、嫌な夢なんだ……。これが私の……、今までの人生なのか……)
(独裁国家の最高指導者の一族に生まれ、権力闘争に敗れた上に、弟に命を狙われる人生……)
(こんな人生は嫌だ……。せめてもう少し、私は『日本人・山田英男』として生きていたい……)
朝。台所で食事をとる山田一家こと、崔英男・妻役の女性・息子役の子供。崔英男は新聞を見ている。
昼。架空の会社「藤子企画」。崔英男は、机の上にある電話に向かって何かを話しているようだ。
夕方。BAR「魔の巣」。喪黒と崔英男が席に腰掛けている。
崔英男「あの、喪黒さん……。例のサービス、もう1日だけ延長させてください……」
喪黒「いいえ、なりません。あのサービスは2日間だけ、それが約束でしたよねぇ」
崔英恩「やぁ、お兄様。私からの『贈り物』はいかがでしたか!?」
「腕のいい狙撃手を使って、あなたが死なないように巧妙に狙いを定めておきましたよ」
崔英男「お、お前は……」
汗だくとなり、目が覚める崔英男。
崔英男(夢か……。何て、嫌な夢なんだ……。これが私の……、今までの人生なのか……)
(独裁国家の最高指導者の一族に生まれ、権力闘争に敗れた上に、弟に命を狙われる人生……)
(こんな人生は嫌だ……。せめてもう少し、私は『日本人・山田英男』として生きていたい……)
朝。台所で食事をとる山田一家こと、崔英男・妻役の女性・息子役の子供。崔英男は新聞を見ている。
昼。架空の会社「藤子企画」。崔英男は、机の上にある電話に向かって何かを話しているようだ。
夕方。BAR「魔の巣」。喪黒と崔英男が席に腰掛けている。
崔英男「あの、喪黒さん……。例のサービス、もう1日だけ延長させてください……」
喪黒「いいえ、なりません。あのサービスは2日間だけ、それが約束でしたよねぇ」
14: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:57:17.855 ID:ff+8Ij5sD.net
崔英男「喪黒さん、もう1日だけお願いします!!普通の人生のありがたみを、もう少し味わいたいのです!!」
「せめて、あと1日間だけ……!!これは、私の一生の願いです!!」
喪黒「仕方ないですねぇ……。では、今回は特別にあと1日分だけサービスの延長を認めましょう」
「ただし……、あなたに何が起きても私は知りませんよ!!」
喪黒は崔英男に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
崔英男「ギャアアアアアアアアア!!!」
夜中。寝室で眠る崔英男、妻役の女性、息子役の子供。夢を見る崔英男。
夢の中では、山田英男としての崔英男が、息子役の子供と公園でキャッチボールをしている。
妻役の女性が、キャッチボールをする崔英男と息子役を優しく見守っている。
朝。目を覚ます崔英男。
崔英男(いつもと違い、いい夢を見た……)
(これで何も思い残すことなく、残り1日分は「山田英男」として人生を送れる……)
「せめて、あと1日間だけ……!!これは、私の一生の願いです!!」
喪黒「仕方ないですねぇ……。では、今回は特別にあと1日分だけサービスの延長を認めましょう」
「ただし……、あなたに何が起きても私は知りませんよ!!」
喪黒は崔英男に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
崔英男「ギャアアアアアアアアア!!!」
夜中。寝室で眠る崔英男、妻役の女性、息子役の子供。夢を見る崔英男。
夢の中では、山田英男としての崔英男が、息子役の子供と公園でキャッチボールをしている。
妻役の女性が、キャッチボールをする崔英男と息子役を優しく見守っている。
朝。目を覚ます崔英男。
崔英男(いつもと違い、いい夢を見た……)
(これで何も思い残すことなく、残り1日分は「山田英男」として人生を送れる……)
15: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 15:59:16.745 ID:ff+8Ij5sD.net
藤子企画。上司役の男性が、山田英男こと崔英男の席へ寄ってくる。
上司役「山田君、君に重要な仕事が入った。今すぐ、北海道まで行ってくれないか」
上司役が崔英男に飛行機の旅券を渡す。
羽田空港。山田英男こと崔英男が、旅客機の座席に座っている。
旅客機の中には大勢の客たちと、客室添乗員の服装の女性がいる。彼女は崔英男の元へ向かう。
すっかり山田英男になりきった崔英男は、彼女のことを全く警戒していない。
客室添乗員の姿の女性がスカートの中から拳銃を取り出し、崔英男へと発砲する。
パァン!!!パァン!!!彼女が撃った弾は、崔英男の心臓と額に命中する。
絶命し、座席で首を垂れる崔英男。次の瞬間……。
住宅街にあった「山田家」の自宅も……、ビル街にあった「藤子企画」のオフィスも……。
空気に溶けるように消えていく。まるで、最初から存在していなかったかのように……。
上司役「山田君、君に重要な仕事が入った。今すぐ、北海道まで行ってくれないか」
上司役が崔英男に飛行機の旅券を渡す。
羽田空港。山田英男こと崔英男が、旅客機の座席に座っている。
旅客機の中には大勢の客たちと、客室添乗員の服装の女性がいる。彼女は崔英男の元へ向かう。
すっかり山田英男になりきった崔英男は、彼女のことを全く警戒していない。
客室添乗員の姿の女性がスカートの中から拳銃を取り出し、崔英男へと発砲する。
パァン!!!パァン!!!彼女が撃った弾は、崔英男の心臓と額に命中する。
絶命し、座席で首を垂れる崔英男。次の瞬間……。
住宅街にあった「山田家」の自宅も……、ビル街にあった「藤子企画」のオフィスも……。
空気に溶けるように消えていく。まるで、最初から存在していなかったかのように……。
16: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 16:01:26.556 ID:ff+8Ij5sD.net
旅客機の中。
乗客たち「うわあ、人殺しだああ!!!」「おい!!こいつ、銃を持っているぞ!!!」
客室添乗員に変装した北朝鮮工作員の女性が、こめかみに拳銃を当てて自殺を図る。パァン……!!!
彼女は、そのまま旅客機の床へと崩れ落ちるように倒れる。
ある市街地。新聞の号外を配達員が通行人たちに配っている。新聞の見出しは「崔英男氏、暗殺される」だ。
新聞配達員「号外ーっ!!!号外でーす!!!」
テレビ局。女性アナウンサーが、崔英男のニュースを速報で伝えている。
アナウンサー「北朝鮮の崔英恩委員長の兄・崔英男氏が、旅客機の中で何者かに暗殺されました」
家電量販店にあるテレビ。通行人たちは立ち止り、大型テレビのニュースを見ている。
テレビ「警視庁の調べによると……、崔英男氏を殺害した女性の衣服からは……」
「北朝鮮指導者の肖像画が描かれたバッジが見つかっています……」
乗客たち「うわあ、人殺しだああ!!!」「おい!!こいつ、銃を持っているぞ!!!」
客室添乗員に変装した北朝鮮工作員の女性が、こめかみに拳銃を当てて自殺を図る。パァン……!!!
彼女は、そのまま旅客機の床へと崩れ落ちるように倒れる。
ある市街地。新聞の号外を配達員が通行人たちに配っている。新聞の見出しは「崔英男氏、暗殺される」だ。
新聞配達員「号外ーっ!!!号外でーす!!!」
テレビ局。女性アナウンサーが、崔英男のニュースを速報で伝えている。
アナウンサー「北朝鮮の崔英恩委員長の兄・崔英男氏が、旅客機の中で何者かに暗殺されました」
家電量販店にあるテレビ。通行人たちは立ち止り、大型テレビのニュースを見ている。
テレビ「警視庁の調べによると……、崔英男氏を殺害した女性の衣服からは……」
「北朝鮮指導者の肖像画が描かれたバッジが見つかっています……」
17: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/08/16(木) 16:05:18.343 ID:ff+8Ij5sD.net
ナレーション「2018年――」
東京、ある寿司屋。店の中にあるテレビは、米朝首脳会談のニュースを伝えている。
客たちとともにテレビを見つめる喪黒。
テレビ「本日、シンガポールで歴史的な米朝首脳会談が行われました……」
客A「思いつきで動くアメリカの大統領に……、得体の知れない北の指導者……」
「こんな連中に振り回されるなんて、日本も大変だよなぁ……!」
客B「北朝鮮は日本人を拉致しているんだぞ!人さらい国家の独裁者なんか信用できるかよ!」
夜。寿司屋を出る喪黒。
喪黒「平凡な人間として生まれ、普通の生活を送り、人並みの人生を送る……。これらは一見当たり前のように見えます」
「ですが……。こういう当たり前の人生を送りたくても送れない人たちも、世の中には一定数存在しているのです」
「それに……。当たり前で人並みとされる幸せも、いざ無くしてみると、人間はそのかけがえのなさに気付くわけです」
「普通の人間としての平凡な人生と、人並みの幸せ……。一般人にとって、そのありがたみは普段は気付きにくいものです」
「1年前、旅客機の中で暗殺されたあの人は……。崔英男としてではなく『山田英男』として死にたかったのではないでしょうか」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
喪黒が歩く道を星空が照らす。夜空には無数の星とともに、崔英男の顔が浮かび上がっている。
―完―
東京、ある寿司屋。店の中にあるテレビは、米朝首脳会談のニュースを伝えている。
客たちとともにテレビを見つめる喪黒。
テレビ「本日、シンガポールで歴史的な米朝首脳会談が行われました……」
客A「思いつきで動くアメリカの大統領に……、得体の知れない北の指導者……」
「こんな連中に振り回されるなんて、日本も大変だよなぁ……!」
客B「北朝鮮は日本人を拉致しているんだぞ!人さらい国家の独裁者なんか信用できるかよ!」
夜。寿司屋を出る喪黒。
喪黒「平凡な人間として生まれ、普通の生活を送り、人並みの人生を送る……。これらは一見当たり前のように見えます」
「ですが……。こういう当たり前の人生を送りたくても送れない人たちも、世の中には一定数存在しているのです」
「それに……。当たり前で人並みとされる幸せも、いざ無くしてみると、人間はそのかけがえのなさに気付くわけです」
「普通の人間としての平凡な人生と、人並みの幸せ……。一般人にとって、そのありがたみは普段は気付きにくいものです」
「1年前、旅客機の中で暗殺されたあの人は……。崔英男としてではなく『山田英男』として死にたかったのではないでしょうか」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
喪黒が歩く道を星空が照らす。夜空には無数の星とともに、崔英男の顔が浮かび上がっている。
―完―
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