1: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:19:57 ID:???00
瑠璃乃「……」

花帆「……」

瑠璃乃「…………」

花帆「…………」

瑠璃乃「こんなふうにじーっと、ぼーっとしてるのがルリは好きなんだー」

瑠璃乃「だから釣れるかどうかは実は二の次」

瑠璃乃「もちろん釣れたときはうれしいし、お魚はおいしいんだけどね」

花帆「こういう時間って普段なかなかないし、それが好きっていうのが瑠璃乃ちゃんらしいなって思うよ」

2: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:21:10 ID:???00
花帆「あたし自然がいっぱいのところってさ、もっとずっと静か~なところだと思ってた」

花帆「実際長野の山の方とかは割とそんな感じだったし」

花帆「でもここは少し違う気がする」

花帆「静かというよりは密やかというか」

花帆「うるさいってわけじゃないんだよ、このくらいが心地良いし」

花帆「あたしもともと釣りって、自分の心音が聞こえるくらいの中でじっと待ち続けるっていうイメージがあったから」

花帆「実際はいろんな音に囲まれてて、賑やかなくらいなんだね」

花帆「川のせせらぎ、葉擦れ、鳥の歌声、風の吹き抜ける音に陽の降りそそぐ音に雲が流れ去っていく音」

花帆「きっと目をつむってじっと耳をすませばもっとたくさん聞こえてくるんだろうな」

3: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:22:16 ID:???00
瑠璃乃「花帆ちゃんはルリよりたくさんの音を聴けるのかもなー」

瑠璃乃「なんかルリはこれって意識しちゃうとそればっかりになっちゃう気がする」

瑠璃乃「いっつも水の音ばっかり聞いてる気がするぞ」

花帆「瑠璃乃ちゃんの自然体はそっちなのかもね」

花帆「いつも瑠璃乃ちゃんはちゃんと広く全体に気を配ってるし、逆に意識してそれが出来てるんだと思うよ。普段から誰もおいていかないを実践してる」

瑠璃乃「ん、それが出来てたらいいなとルリ思う」

瑠璃乃「あっ花帆ちゃん引いてる引いてる」

花帆「わわっ」

4: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:23:24 ID:???00
瑠璃乃「いえーいこれでボウズ回避!」

花帆「やったやった、やっぱり釣れるとうれしいね」

瑠璃乃「それに自分で釣った魚は特別おいしいぞ」

瑠璃乃「そんなふうに釣果を上げた余韻に浸りながら、またのんびりタイムが始まるんだ」

花帆「ふんふん」

瑠璃乃「……」ボー

花帆「……」ホケー

5: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:24:38 ID:???00
瑠璃乃「花帆ちゃんは想像力豊かだよね、ルリの見てる世界よりも花帆ちゃんの見てる世界のほうが賑やかなのかも?」

花帆「ちっちゃい頃は目の前の世界狭かったし、だから空想好きにはなったかな」

花帆「真っ白いシーツと真っ白い壁、天井、カーテン、ここまで来たら真っ白であってよねって思うのに何故か若干緑がかった床、壁の広さに対してちょっとちっちゃすぎない?って思ってた頼りのない窓、不気味なくらい音もなく開いたり閉まったりする扉」

花帆「本がなかったらこれしかないような場所だったからさ、あたしのいたところは」

花帆「でもね、想像の中ではどんなところにでも駆け出して行けた、みんなとおんなじように」

瑠璃乃「あー……なんかごめん」

花帆「ううん、全然。これもあたしの昔過ごしてきた大切な時間だから。そりゃ当時は不満もあったけどさー」

花帆「ほんとはこの頃の話とかもしたいことあるんだけど、変に気を使わせちゃうかもって思って今までなかなかね、実際今そうだったし」

瑠璃乃「ん、わかった。じゃあルリは気にしない!どんとこいだよ」

6: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:25:45 ID:???00
花帆「それじゃせっかくだし話半分で聞き流しておいてほしいんだけどね」

瑠璃乃(あ、こういう時の花帆ちゃんは何であれ話しまくるやつだな……)

瑠璃乃「せっかくだから聞き流すってなにさ、別にせっかくなんだから聴くぞ」

花帆「ありがと」

花帆「あのね、あたしの心象世界はね、図書館なんだ」

7: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:26:56 ID:???00
花帆「夢の中とはまた違うの。寝ても夢を見るかどうかはわからないし、特定の夢の続きなんて見られないよね」

花帆「でもこの場所はいつもおんなじだった」

花帆「現れてくる時はいつも同じような場所としてあって、あたしはいつもその中にいた」

花帆「多分入口も出口もない空間、いつの間にか中にいて、いつの間にかまたいつものベッドに戻ってる」

花帆「戻ってくるとね、大抵は看護師さんが慌ただしくしてたり、入院病棟に来る時間じゃないはずの先生がいたりしてた」

花帆「今だから思うけど、多分ちょっと危ない時だったんだろうね」

花帆「そうするとあの場所は一般的には川の向こうにご先祖様がーって言われるやつなのかな、とかね」

花帆「別に川とかなかったけどさ。そもそも図書館なんだから室内だし」

花帆「結局それはわからずじまい。まぁまず心象世界っていうのがよくわかんないんだけどね」

8: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:28:04 ID:???00
花帆「でね、そこはね、場所としては多分円形。全体をちゃんと確認したわけじゃないけど」

花帆「下は冷たいコンクリート、上はどこまで続いてるかわからないけど同じように伸び続けてた。見えなくなるまで」

花帆「で壁の方には本棚があるの。同じ規格の棚がずらーって並んでる。上は見えないけど高さもすごいんだと思う」

花帆「これってバベルの図書館!?って思ったんだけど、だったら登り降りが出来ないといけないし、そもそも真ん中は通気口になってて入れないはずだからここは違うみたいだった」

花帆「それに何よりここにある本はちゃんと意味の通じるお話が書かれてたから」

花帆「バベルの図書館は宇宙の全てを内包してるけど、その大半は無意味な本でしょ。だからあたしの図書館の方がずっといいよねってうれしくなっちゃった」

9: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:29:12 ID:???00
花帆「まずは全体を見てみたかったから、最初ね、左を壁、というか本棚にしてずっと歩いてみたんだ」

花帆「スタート地点の目印として本棚から本を出して床に積み上げておいて」

花帆「でも延々歩いてもその目印に戻ってくることはなかった」

花帆「歩き疲れちゃったし、もうその場にある本読もうって思って近くの本取ってきてしばらく読んでたんだ」

花帆「そこってテーブルも椅子もないから、お行儀悪いけど地べたに座ってた。誰も見てないし」

花帆「それでふと気付いたら、あたしの前に誰かいるの」

花帆「全然知らない子なんだけど、不思議と怖くはなかった」

花帆「その子ね、あたしをどっか連れて行きたがってるような気もしたんだけど、別にここは図書館でそれ以外どこにつながってるわけでもないと思ってたし、本読んだりその子とお話したりの方が面白そうだったからあたしはじっとしてた」

花帆「その時のあたしとおんなじくらいの子でね、違う国の言葉も喋れるみたいだった。髪も長くて、雰囲気瑠璃乃ちゃんにちょっと似てたんだよね」

10: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:30:14 ID:???00
花帆「何回もこの図書館には行ったけど、毎回いたんだその子」

花帆「昔のことだからはっきりとは覚えてないけど、色々お話ししたよ」

花帆「でもだんだんその場所が現れてくることもなくなって、元気になってからはちょっと忘れそうになってたくらい」

花帆「だからあの図書館が結局何だったのかってよくわかんないままなんだ」

花帆「でもこうやって思い返してみると、あたしの秘密の図書館って感じで結構よかったなって」

花帆「できたら瑠璃乃ちゃんにも紹介したいくらいだよ」

11: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:31:05 ID:???00
瑠璃乃「わー、これ結構怖いイメージじゃない?」

花帆「そう?図書館は別に怖いところじゃないよ」

瑠璃乃「でも花帆ちゃんがそこの誰かについて行っちゃわなくて良かったよ」

瑠璃乃「そうじゃなきゃその後にルリと出会うこともなかったんだろうし」

瑠璃乃「絶える間もない広大な図書館って超現実的でちょっと興味はあるけど、なんでも調査隊しに行くにはちょっと怖いかな……」

………
……

12: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:32:09 ID:???00
瑠璃乃「思ってたより釣れた!大漁だー」

花帆「うんうんいっぱいだね!」

瑠璃乃「じっとしてるとちょっと寒かったから、防寒は反省点だけど、他は上々でしょう!」

瑠璃乃「釣ったお魚はね、寮母さんに渡せばいい感じに調理してくれるんだ。唐揚げとかおいしいよ」

花帆「わーいお魚パーティだ!」

花帆「あ、あたしクーラーボックス持つよ」

瑠璃乃「ありがとー、行きより重くなってるから気をつけてね」

13: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:32:59 ID:???00
梢『始まっているかしら……』

梢『コメントも見えているし大丈夫そうね。こんばんは、乙宗梢です』

梢『本日の配信ですが、花帆は体調が思わしくないため大事を取っておやすみとなります』

梢『皆さまにご心配をおかけして申し訳ありません。今回予定していた内容の配信はまた後日に行わせていただくということで、本日は私の……』

14: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:33:48 ID:???00
瑠璃乃(花帆ちゃん……大丈夫かな)

瑠璃乃(多分あんとき外にずっといたからだよね)

瑠璃乃(寒いなかずっといたからよくなかったかな、ごめん……)

瑠璃乃(行ってもしょうがないのかもしれないけど、じっとしてもいられないしちょっと様子を見に……)

15: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:34:52 ID:???00
瑠璃乃「花帆ちゃーん、入るよー……」

花帆「…………」

瑠璃乃(寝てたか、起こさないように……)

瑠璃乃(タオル替えといたげよ、熱上がらないでいてくれるといいけど)

瑠璃乃「……」ジー

瑠璃乃(こう一方的にまじまじと見ると、なんかこう……)

瑠璃乃(まつ毛長いなー)

瑠璃乃(花帆ちゃんいっつも元気だから、大人しくしてるところが珍しいよ)

瑠璃乃(そりゃ寝てるときは誰でも大人しいけどさ)

瑠璃乃(静かな花帆ちゃんってそれだけでなんかレアというか……)

瑠璃乃(んー、できることないけどしばらくここにいよっかな)

16: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:35:58 ID:???00
瑠璃乃(あれ……寝てたか)

瑠璃乃(何してたんだっけ……)

瑠璃乃(そっか、花帆ちゃんのとこ行って、あれ?花帆ちゃん?)

瑠璃乃(お部屋は?ここどこ?)

瑠璃乃(なんで真っ暗なんだ?まだルリは夢の中ってことか?)

瑠璃乃「おーい誰かいませんかー」

瑠璃乃(ベタだな……)

瑠璃乃(思いっきりベタにほっぺたでもつねっとくか)ムニムニ

瑠璃乃「……」

瑠璃乃(自分でやってもしょうがないな……)

17: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:37:01 ID:???00
瑠璃乃(埒が明かないしとりあえず歩き回ってみっか)

瑠璃乃「ルリルリなんでも調査隊、今日は夢の中を調査します!」

瑠璃乃「……」

瑠璃乃(むなしい……)

瑠璃乃(どっち見ても暗闇だからどっち行っても一緒だよね、適当に歩こ)

瑠璃乃「……」テクテク

瑠璃乃(大声出せば反響で壁の位置くらいわかんないかな)

瑠璃乃「やっほー!!!」

瑠璃乃(ベタだな……)

瑠璃乃(結局なんもわかんねーし)

18: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:38:03 ID:???00
瑠璃乃(あ、ちょっと明るい方が見えてきた)

瑠璃乃(やっぱ足で稼ぐしかないんだな)

瑠璃乃(……これって)

瑠璃乃(本だ。上まで一面ずっとずっと。絶え間なく伸びてる。花帆ちゃんが言ってた光景だ)

瑠璃乃(じゃあここは、花帆ちゃんの図書館……)

瑠璃乃「花帆ちゃーん、どこにいるのー?」

瑠璃乃(そもそもいるのか?)

瑠璃乃(歩き続けるしかないか)

19: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:38:46 ID:???00
瑠璃乃(どれくらい歩いたんだろう……まったくわからん)

瑠璃乃(それになんで夢の中なのにちゃんと疲れるんだろう)

瑠璃乃(でも歩く以外にできることもないし……)

瑠璃乃(どれだけ疲れても、足を前に出せば人間前に進むんだよね)

瑠璃乃(ルリ歩く、ゆえにルリあり)

20: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:39:47 ID:???00
瑠璃乃(あーなんかある、気がする)

瑠璃乃(気のせいか……)

瑠璃乃(これが疲労が見せる幻影ってやつか)

瑠璃乃(おおールリもついにここまできたか、感慨深いぞ)

瑠璃乃(……いやほんとになんかある)

瑠璃乃(本が積み上がってる!ってことは)

瑠璃乃「花帆ちゃーん!」

瑠璃乃「そこに埋もれてるんでしょー」

瑠璃乃「ちっちゃいんだからそんなに本積み上げたら見えなくなっちゃうよ」

花帆「瑠璃乃ちゃんのほうがちっちゃいけど!?」

瑠璃乃「お、やっぱいた」

21: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:40:38 ID:???00
花帆「あれ、ほんとに瑠璃乃ちゃんだ。なんでここに?」

瑠璃乃「全然わかんない」

瑠璃乃「あ、まーでもあれか、花帆ちゃんがこっから戻ってこないでどっか行っちゃわないように連れ戻しに来たってところなのかも、ルリの役目はさ」

花帆「おお、お迎えだー」

花帆「でもまだ読みたい本が……」

瑠璃乃「それでずっとここにいたら誰かに連れてかれちゃうよ」

花帆「いやいや、あたしの言ってたここの子はそんな人攫いみたいな感じじゃないよ」

瑠璃乃(そうは言ってもなぁ)

22: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:41:41 ID:???00
瑠璃乃「花帆ちゃん!出口探し行こう!」

花帆「いや今までも散々歩いて見つからなかったし、ここって多分ないんだよ出口……」

瑠璃乃「壁際しか歩いてないでしょ?」

花帆「おーよくわかったね」

瑠璃乃「花帆ちゃんが自分から本のとこから離れるとは思えないからね」

瑠璃乃「だから今回は!ルリと内側目指して行くの」

花帆「でも内側は真っ暗だよ、自分がどこにいるのかもわからなくなっちゃう」

瑠璃乃「うーん……」

瑠璃乃(何かうまい方法はないかな……)

瑠璃乃(んー…………)

………
……

23: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:42:25 ID:???00
綴理「るり、バームクーヘン食べよ」

瑠璃乃「どっから拾ってきたんですか?」

綴理「…………」

瑠璃乃「なんか困ったように見つめるのやめてくださいよ!」

綴理「ボク食べ物はどんぐりしか拾ってないよ」

瑠璃乃「えっあれ食べてたの!?」

綴理「うそ」

瑠璃乃「~~~!!」

24: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:43:27 ID:???00
瑠璃乃「おっきい丸のまんま食べるんですね」

綴理「これが本来の姿、カットされたものはバームクーヘンの破片でしかない……」

綴理「つまりこのへんを切り出しちゃったら、それはムクー」

瑠璃乃「?」

綴理「それでこれをそのまま丁寧に一層ずつ剥いて食べる」

瑠璃乃「丸のまんま剥くの楽しい」

綴理「だんだんと中心に近づきながら食べていく、円の中心という特異点に」

瑠璃乃「??」

綴理「円は異方性がないから円周上の点はどこも等価、だから円という図形において最も特別な点は中心なんだ」

瑠璃乃「???」

綴理「昔こずにね、剥いて食べるのはお行儀が悪いって言われたけど、それでもカットはしちゃダメなんだよ」

綴理「カットしたものを組み合わせて円形に近づけても、それは円に近い正多角形でしかない」

綴理「円に内接する正多角形の辺の中点から垂線を伸ばしても中心は通るけど、理想は円周から法線を引くことなんだ」

瑠璃乃「????」

瑠璃乃「……」アムッ

瑠璃乃(あ、おいし)

25: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:44:19 ID:???00
瑠璃乃(これだよ、ありがとうつづパイセン!)

瑠璃乃(あの時は全然意味わかんなかったけど、いや今考えてもまったく意味わかんないけど)

瑠璃乃「花帆ちゃん、ここって円形なんだよね」

花帆「多分そうだね。常に壁は片側にしかないし、壁から離れるとどんどん暗くなっていって何もないみたいだから」

瑠璃乃「……」

瑠璃乃「この空間が円形だったとしても、書棚が作っている形は正多角形」

瑠璃乃「円で最も特別な点は中心……」

花帆「どうしたの瑠璃乃ちゃん、大丈夫?」

瑠璃乃「それは綴理パイセンに言って」

花帆「?」

26: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:45:22 ID:???00
瑠璃乃「ねぇ花帆ちゃん、この書棚1つの真ん中ってどこか正確にわかる?」

花帆「ん?このへんの本の真ん中が全体の真ん中だよ?」

花帆「ここの段にあるようなね、この手の全集って厚みがみんな一緒だから冊数数えれば真ん中わかるよ」

花帆「でもなんで?」

瑠璃乃「1、2、3、…………」

瑠璃乃「ここね、わかった。花帆ちゃんいい?」

瑠璃乃「背中を壁に当ててまっすぐ前を向いて、手をここの真ん中に」

瑠璃乃「こうしてふたりでつないでおけばルリたちの手があるところがちょうどこの真ん中になる」

瑠璃乃「それでこのまままっすぐに前に歩いていく」

瑠璃乃「この図書館の円はきっとすっごくおっきいからちょっとでもズレたら中心を通らなくなっちゃう」

瑠璃乃「だからこの手は絶対離しちゃダメでお互いにまっすぐから外れそうだったら引き戻してね」

花帆「えー本から離れていっちゃうの」

瑠璃乃「それは許して。ね、トクベツを探しに行こうよ、ふたりで」

27: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:46:05 ID:???00
花帆「壁側から離れるとどんどん暗くなってくる……」

瑠璃乃「だいじょうぶ、たとえ何も見えなくなってもまっすぐ進み続ければいいだけだから」

花帆「でも仮に中心に着いたとして、それってわかるの?一番暗くなったところとか?」

瑠璃乃「中心にはきっとなにかあるはず。目印とか」

瑠璃乃(それに賭けるしかないんだよ、だって他にできることないもん)

28: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:47:08 ID:???00
花帆「もうほとんどなんにも見えないね」

瑠璃乃「だいじょうぶ……まだまっすぐ……」

花帆「瑠璃乃ちゃん」

花帆「ちょっと止まって」

瑠璃乃「でも……」

花帆「いいから」

花帆「はい深呼吸」

花帆「目から入ってくるものがない分、手の感覚とか音とか、よく感じ取れるでしょ」

瑠璃乃「……」スーハー

瑠璃乃「そうだね、ごめん。焦らず行こう」

瑠璃乃「それに、今なら花帆ちゃんが前言ってたような音も聞こえてきそう」

花帆「えへへ、それならよかった」

29: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:48:03 ID:???00
花帆「あ……、光……なにか見える」

瑠璃乃「よし!!これできっと中心に……」

???「久しぶり」

花帆「あれ、今回もいたんだ」

???「そこは第一声『瑠璃乃ちゃんが2人!?』とかじゃないの」

花帆「あなたはどれだけ似せても瑠璃乃ちゃんじゃないでしょ。そんなんであたしを騙せると思わないことだね!」

瑠璃乃「ルリのドッペルゲンガー!?」

???「お友達の方がずっと期待通りの反応してくれる」

30: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:49:07 ID:???00
花帆「今日は何しに来たの?」

???「来たのはあなたたちの方。初めてそっちから来てくれたね」

???「ま、あなたがお友達を紹介してくれるみたいだったから」

瑠璃乃「えっと……はじめまして?」

???「はじめまして、そしてさようなら」

瑠璃乃「えっ、もう行っちゃうの」

???「私の役目はとうに終わってるからね」

瑠璃乃「あの!なんだかよくわからない人さん、ここから出たいんですけど……」

???「連れて行かれたくない、自分が連れて帰りたいという思いで来たんでしょう。ならば自ずと開放されますよここは。なんだかよくわからない人が言うんだから間違いありません」

???「それでは私はこれで」

瑠璃乃「えっ?」

花帆「あの子がいつもここにいてあたしとお話ししてた子」

花帆「ね、変な子でしょ」

瑠璃乃「中心にたどり着いたんだしここ出られるパターンじゃなかったの?!」

31: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:49:51 ID:???00
瑠璃乃(もうできることないよ……)

瑠璃乃(これで戻れなかったら、これで最後になっちゃったら、もう会えないなんてなったら)

瑠璃乃(それだけは絶対にイヤ)

瑠璃乃「ねぇ花帆ちゃん」

花帆「うん?」

32: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:50:54 ID:???00
瑠璃乃「花帆ちゃんは、ルリが迷ってた時に手を引っ張ってくれた。ルリを、今のルリのいるところまで連れてきてくれた」

瑠璃乃「だからいつかちゃんとお返しがしたいってずっと思ってた」

瑠璃乃「でもルリが花帆ちゃんを引っ張っていくってあんまし想像できなくて、どうしたらいいかなってずっと考えてた」

瑠璃乃「でもさっきふたりで暗闇に踏み出してみて思ったんだ」

瑠璃乃「手を引っ張らなくても、一緒に手をつないで隣を歩いていけたらなって」

瑠璃乃「ねぇ花帆ちゃん、ルリはまだ行きたいところいっぱいあるよ」

瑠璃乃「花帆ちゃんと行きたいところ」

瑠璃乃「だからこれからも、ルリと一緒にいてください!!!!」

33: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:51:44 ID:???00
瑠璃乃(あれ……感覚が遠のいていく気がする)

瑠璃乃(五感が……いや視覚はほぼ最初っから何もなかったけど、結局なんだかよくわかんない人さんがいなくなったらここも真っ暗だし)

瑠璃乃(じゃあ四感か……?)

瑠璃乃(あー……)

瑠璃乃(フラフラする)

瑠璃乃「……」

34: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:52:41 ID:???00
瑠璃乃「あれ……花帆ちゃ、……」

瑠璃乃「ここは……!」バッ

瑠璃乃「戻ってきた!」

慈「おーい戻ってこーい」

瑠璃乃「めぐちゃん!?」

慈「るりちゃんが花帆ちゃんの様子見に行ってくれたとは聞いてたけど、ミイラ取りがミイラになってどうすんのさ」

瑠璃乃「戻ってきた!!」

慈「そりゃ起きたからね」

瑠璃乃「ちゃんと戻ってきたよ!!」

慈「おんなじことしか言ってないけど大丈夫?」

瑠璃乃「めぐちゃん!すごいよ数学役に立ったよ!!」

慈「どうした?もう少し寝といたほうがよかったか?」

35: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:53:38 ID:???00
花帆「この度はご迷惑おかけしました……」

瑠璃乃「いやそんな全然」

瑠璃乃「それに滅多にない体験もできたし」

瑠璃乃「花帆ちゃんが言ってた図書館ね、ルリも行ったんだよ」

花帆「うんうんそうだよね、だって中で会ったもんね」

瑠璃乃「あれ?覚えてるの?」

花帆「うん、もちろん」

瑠璃乃(あれって夢の中の話じゃないの?)

36: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:54:27 ID:???00
瑠璃乃「え……じゃあルリが最後に言ったこととか」

花帆「全部覚えてるよ?」

瑠璃乃「えっいやーあのあれは破れかぶれというかなるようになれというかなるようにしかならないというかその」

花帆「あのね、瑠璃乃ちゃん」

瑠璃乃「な、なに?」ドキドキ

花帆「……図書館では静かにね?」

瑠璃乃「~~~!!花帆ちゃんのばかー!!!」

37: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/18(土) 19:54:57 ID:???00
おわり〇

ありがとうございました

引用元: 【SS】瑠璃乃「無間図書館」