4: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 19:58:34 ID:???Sa
誕生日パーティーを終えて自室に戻った私と冬毬を、部屋の中央に置かれた大きな包みが出迎えた。目を丸くする私を見て、冬毬が嬉しそうに微笑む。

「マルガレーテ、改めてお誕生日おめでとうございます」

「このおっきいの、冬毬が用意したの?」

「プレゼントです。気に入ってもらえると嬉しいのですが」

嬉しさがこみ上げてくるのと同時に、改めてその巨大さに驚かされる。少なくとも1メートル以上はありそうな包みは、それに見合うだけの大きなリボンで結ばれている。
部屋の中にあまり物を置いていないだけに、存在感はたっぷりだ。

5: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 19:59:55 ID:???Sa
「こんな大きなもの、いつの間にどうやって持ってきたの?」

冬毬とは朝からずっと一緒だった。学校でも部活でも、誕生日パーティーのときにも、こんな大きな荷物を見かけた覚えはない。

「実は、きな子先輩のお宅で預かってもらっていたのです。パーティーの合間に取りに行ってきました」

冬毬に言われて、パーティーの最中、きな子先輩と冬毬の姿が見えないタイミングがあったのを思い出す。
二人ともパーティーを取り仕切っていたから、裏方で色々な作業や手配をしてくれていたんだと思うけど、こんなことまで準備してくれていたなんて。

6: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 20:00:49 ID:???Sa
「わざわざ運び直すくらいなら、初めからかのんやありあに頼めばよかったじゃない」

「それも考えたのですが」

冬毬は少し困ったような笑みを浮かべた。

「かのん先輩は、サプライズが不得意とお見受けしましたので」

ああ、確かに。嘘がつけないタイプだから、変に意識しちゃって態度がぎこちなくなったりしそうね。
ありあに頼まなかったのも、かのんに気付かれるリスクを減らすためだろう。

7: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 20:01:34 ID:???Sa
「開けてもいい?」

「もちろんです」

包みが大きいだけに、開封にもなかなか気を遣う。冬毬からのプレゼントとなれば、なおさらだ。

リボンの結びを慎重に解くと、ようやく中身が顔をのぞかせた。ふわふわした感触に、丸い大きな目。そして、開いた口から覗くギザギザの鋭い歯。これは間違いなく

「これ、サメ!」

「はい、サメのぬいぐるみです」

8: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 20:02:18 ID:???Sa
冬毬が満足げに頷く。まだ顔周りしか見えないが、可愛らしくデフォルメされているその姿は、特徴から見ておそらくホオジロザメだろう。

「マルガレーテは、こうしたグッズをあまりお持ちではないと思いましたので」

冬毬は口元に手を当てて小さく笑い、「クラゲの写真集のお礼です」と続けた。

クラゲ写真集は、先月の冬毬の誕生日に私が贈ったものだ。ウィーンから取り寄せた限定もので、冬毬にしては珍しく、子どもみたいに目を輝かせて嬉しそうにしていたっけ。

9: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 20:03:07 ID:???Sa
「マルガレーテの部屋の雰囲気に合うように、デザインにもこだわりました。ファンシーすぎると浮いてしまうと思いましたので、リアルさと可愛さの両立を追求しました」

確かに、子どもっぽさやおもちゃ感は感じない。作りがしっかりしているから、カッコよくもあり、疲れたときに癒してくれそうでもある。
それでも、この大きさとデフォルメ具合は、私にはちょっとファンシーすぎて不釣り合いというか。

「なんていうか、ちょっと意外な感じ」

「…お気に召しませんでしたか?」

冬毬の表情がわずかに曇った。しまった、そんなつもりじゃないのに。

10: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 20:03:38 ID:???Sa
「ああ、違うの、気に入らないわけじゃなくて、持っていない系統だったから少し驚いただけ。本当にそれだけよ」

「ですが、あまり嬉しそうには見えませんでしたし…」

「ああもう、本当に違うってば!嬉しかったの、ありがとう」

私の言葉に冬毬はやっと顔を上げ、安心したように微笑んだ。

「なら、よかったです。この子はデザインだけでなく、実用性にもこだわっています。インテリアとしてはもちろん、クッションや枕として使うこともできますし、抱き枕としても最適です」

11: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 20:04:24 ID:???Sa
試しにむぎゅっと抱きしめてみる。なるほど、手触りもよく、抱き心地も抜群だ。

「可愛がってあげてくださいね」

「ええ、大事にするわ。ありがとうね、冬毬」

そのサメをぎゅっと抱きながら、私は改めて冬毬への感謝の気持ちを胸に刻んだ。

12: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 20:05:50 ID:???Sa
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「それにしてもこの子、大きいわね」

ベッドに横になり、私はぬいぐるみの顔を間近で見つめた。もともとかのんのお父さんが使っていたベッドだから、こうやって添い寝することができるけど、それでもぬいぐるみのサイズ感に圧倒される。
いつもと寝心地が違うのも、そのせいだろう。

抱き枕を使うなんて、子どものころ以来かもしれない。あのころを一緒に過ごしたくまのぬいぐるみはここにはないけれど、このサメを抱きしめていると、どこか懐かしい気持ちになる。

「やっぱり、私にはちょっと可愛すぎる気がするけど」

程よい弾力間とふわふわが心地よい。抱きしめているのに、こちらが包まれているような安心感がある。

13: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 20:06:50 ID:???Sa
「冬毬が選んでくれたんだ」

そのことが何よりも私を温かい気持ちにさせてくれた。冬毬の部屋にも大きなクラゲのクッションがあることを思い返す。
お揃いというわけではないけれど、形のあるものが私たちを繋げてくれているような気がする。

「楽しかったな、みんなにお祝いしてもらえて」

サメのぬいぐるみに頬を寄せて、今日一日の出来事を振り返る。
ぬいぐるみの柔らかさに体を預けているうちに、私の意識はゆっくりと、あたたかな眠りへと沈んでいった。

14: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 20:07:19 ID:???Sa
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「おーい、冬毬ちゃーん!」

登校中、後ろから声を掛けられる。この心に響く元気な声は

「かのん先輩、おはようございます」

「おはよう!いやぁ、今日も寒いねぇ」

15: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 20:07:47 ID:???Sa
「昨日はマルガレーテのお誕生日、お疲れ様でした。色々と手配していただきありがとうございます」

「冬毬ちゃんの方こそ、幹事さんお疲れ様!」

「大したことではありません。ところで、マルガレーテはどうでしたか?」

「朝からいいものが見れたよ!教えてくれてありがとうね」

16: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 20:08:30 ID:???Sa
かのん先輩のこの様子からして、私の思ったとおりに事が運んだようですね。

「すごく可愛い寝顔だったよ。サメのぬいぐるみをぎゅって抱きしめて、ぐっすりだった!」

「ふふっ、光景が目に浮かぶようです。写真は撮らなかったのですか?」

「撮ろうかなと思ったんだけど、流石に悪いかなって。撮った方がよかった?」

17: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 20:09:03 ID:???Sa
「問題ありません。近いうちに直接確かめに行きますので」

「そっかそっか、楽しみだね!」

「楽しみです。その際はよろしくお願いします」

「じゃあ、私は先に行くね。マルガレーテちゃんもそろそろ来る頃だと思うから。またねー!」

18: 名無しで叶える物語◆D9zXyCVK★ 2025/01/20(月) 20:10:14 ID:???Sa
「はい、また後で」

かのん先輩、マルガレーテの寝顔を特等席で見られるなんて羨ましい限りです。こればかりは同居人の特権ですね。
おかげで詳しい様子が分かったので、まあ良しとしましょう。なにはともあれ、次のお泊りが楽しみです。

「冬毬、おはよう」

澄んだ声が聞こえる。どうやら、今日は後ろから声を掛けられる日のようです。

「おはようございます、マルガレーテ。昨日はよく眠れましたか?」



終わり

引用元: SS マルガレーテ「私には可愛すぎる」