1: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:44:01 ID:???00
栞子「それは……急ですね……」

慈「どうするー?何食べる?」

栞子「あまりに急すぎるんですよ、東京のほう来る時は連絡すると言っていたではないですか」

慈「したよ?さっき」

栞子「それがあまりにも藪から棒なんです、普通はもう少し前にですね」

慈「でもちゃんと来てくれてるじゃん」

栞子「それはまぁ滅多にない機会ですし……時間は作るものですし……」

慈「んーめぐちゃんに会いたかったって?、このこのーかわゆい後輩ちゃんだなぁ」ウリウリ

栞子「ん……めんどくさい先輩です」

3: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:45:29 ID:???00
慈「ほんとになんも決まってないけどどうする?どうしよう」

栞子「あまりにも行き当たりばったりじゃないでしょうか」

慈「それをキミが言うか……?」

慈「いくらめぐちゃんでも泊まるところくらいは用意してから出発するけどなー」

栞子「……その節は大変お世話になりました」

栞子「慈さんにいただいたご恩は片時も忘れたことはございません」

慈「わー棒読み」

栞子「藪から棒だけに?」

慈「…………」

栞子「無言やめてください」

5: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:46:25 ID:???00
慈「さて、じゃあどこ行くかはここがホームの栞子ちゃんにおまかせしようかな」

栞子「まかせてください。と言いますのも……」

………
……

6: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:47:20 ID:???00
彼方「zzz……」

栞子「彼方さん、このへんでおすすめのお店はありますか、紹介しようと思っているのは北陸のほうの方なんですが、あ、特にジャンルとかに制約はなく、ですが海産物だとやはり向こうに適うものというのはこちらでは少々難しいかなとも思っていまして」

彼方「どう見ても寝ている彼方ちゃん相手にこの勢いで話し続ける、その自信はどっから来るんだい?」

栞子「でも起きてますよね」

彼方「それを結果論という」

7: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:48:02 ID:???00
彼方「そうだねー、インスタ映えするテラス席が開放的な小洒落たフレンチと、この街の暗部が凝結した混沌の殿堂たる奇っ怪な飯屋、彼方ちゃんの最近のヒットだとこのへんだけど」

栞子「後者で」(即答)

彼方「彼方ちゃん、栞子ちゃんのそういうとこ好きだぞ」

8: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:48:49 ID:???00
栞子「しっかりヒアリングをしてきました。ライフデザイン学科所属、食に関しては全幅の信頼をおける先輩に」

慈「おっ期待できそうだね」

栞子「というわけでこちらです」テクテク

栞子「……」

栞子「……?」

栞子「逆でした。こっちのようです」

慈(やっぱりこの子行き当たりばったりだな……)

9: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:49:53 ID:???00
慈「栞子ちゃんってやっぱ方向音痴なんじゃ……」

栞子「いえ、私ごときがそちらを名乗るのはおこがましいというものです」

慈「別に名乗りたくて名乗るもんじゃないと思うけど」

栞子「同好会には私など足元にも及ばないマップスキッパーがいらっしゃいますので」

慈(さすがマンモス校ニジガク、逸材揃ってんな)

栞子「それに躊躇せず進むことで」

慈「わかったから、それは人生の知恵にとどめておいて物理的にはもう少し立ち止まってね、いやほんと」

11: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:51:23 ID:???00
栞子「着きました」

慈「え?ここ?ほんとに?大丈夫これ?隠れ家的とかいうレベルじゃないよこれはもう隠れ家だよ」

慈「こういうの中東ではアジトって言うんだよ」

栞子「金沢にはこういった反政府ゲリラの根城といったところがたくさんあるんですか?ずいぶんと慣れているようですが」

慈「ないよ?キミの頭の中の日本地図はどうなってるの?」

12: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:54:02 ID:???00
チリンチリン

栞子「大将やってる?」

慈「余計なこと言わなくていいから」

栞子「入店時はまずこれだとかすみさんが言っていたので……」

慈(栞子ちゃんの話にしょっちゅう出てくるかすみちゃんって子、一体何者なんだ……、ろくなこと吹き込んでないけど)

13: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:55:14 ID:???00
店員「ยินดีต้อนรับ」

慈「なんて?」

栞子「ふたりです」ピース

店員「เชิญทางนี้ค่ะ」

栞子「こちらに座ってよさそうですよ」

慈(肝すわってんなこの子)

慈「こういうよくわかんないお店の店員はだいたいネパール人だって聞いたことあるけど」

栞子「私の見立てではスリランカかと思います」

慈(インドを選ばないそのセンスよ)

14: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:56:04 ID:???00
慈「そもそもこの店をおすすめしてくれた先輩がいるんだよね?なんて言って勧められたのここ」

栞子「†混沌の殿堂†」

慈「ご飯食べるところが冠してていい称号じゃないんだけど」

慈「そもそもここ何屋さんなの」

栞子「飲食店であることはおおむね確実かと」

慈「そこから?」

15: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:56:57 ID:???00
栞子「メニュー見てもよくわからないですね」

慈「それが最後の砦だったんだけどなぁ」

栞子「あ、見てください慈さん」

慈「なんかよさそうなのあった?」

栞子「ここPayPay使えますよ」

慈「知るかい!こちとら現金は十分持っとるわ!」

16: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:57:58 ID:???00
店員「พร้อมจะสั่งอาหารหรือยังคะ」

栞子「TWO PLATES、あ~イエス、ドゥジョヴェ?、センキュー」

栞子「ふぅ」

慈「ひと仕事終えたみたいなのやめてね、これでもう本当にこれから先何が起こるかわからなくなったからね」

栞子「すごいですねワクワクします」

慈「すごいのはキミの気の持ちようだよ」

17: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:58:50 ID:???00
慈「わーなんだこれ」

栞子「一般的にどのような文化圏においても皿と呼び慣らわされるものと同等の形状をした平板の上に乗っていますし、食べること自体に問題はないかと」

慈「推論のレベルが現代文明の標準的水準に達していない……!恐るべし混沌の殿堂……!!」

栞子「いただきます」

慈(ほんと肝すわってんなこいつ)

栞子「なんだかあん肝みたいです」モキュモキュ

慈「そっかぁ」

18: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 21:59:54 ID:???00
慈「わー、予想外のおいしさ」

慈「なんなんだろうねこの豆腐の出来損ないみたいなの」

栞子「腹部?の形状は比較的アロワナに似ていますし、たんぱく質ではあると思います」

慈「分類がざっくりしすぎてるんだよ、脂質、炭水化物みたいな、そんな家庭科室の壁に貼ってあるポスターの謎ピラミッド脇でしか見ない分類」

慈「だいたいね、この世に一体どれだけの種類の料理があると思ってるの」

栞子「人の数だけあります」

慈「それは何も答えてないのと同じだよ」

栞子「まあおいしいですしいいのではないでしょうか」

慈「それを結果論という」

20: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 22:01:20 ID:???00
慈「これもまたなんだかまったくわからないんだけど、本能が醤油を求めている」

慈「そっちにあるよね、栞子ちゃんお醤油取ってー」

栞子「はい。……ちょっと待ってください」

慈「ん?ラベル見ればどれだかわかんない?」

栞子「読めません」

慈「そうだった……」

慈「ここ日本だよね?不安になってきた」

栞子「似たような瓶が多すぎますね、左から順にいきましょうか」

慈「なんで絨毯爆撃前提なの、一番それっぽいのちょっと出して舐めてみればいいんだよ」

慈「ほらこれが一番それっぽい」

慈「これは……」ペロ

慈「たれ?」

栞子「しお?」

慈「それ絶対気に入ってるでしょキミ」

21: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 22:02:39 ID:???00
慈「ごちそうさま」

栞子「ごちそうさまでした」

慈「ほんと味に関しては文句なしだね、味に関しては。ほかはねもう日常の埒外よ」

栞子「穴場的なところでよかったですね、気に入りました」

慈「アンタほんとすごいと思うよ」

22: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 22:03:55 ID:???00
慈「じゃ会計しちゃうから」

慈(お値段もリーズナブルだね、まぁあれの相場が一体いくらなのかとかわかんないけどさ。そもそもあれがなんだかわかんないんだし)

慈(おっレジ富士通製だ!これならレシートには日本語が印字されるはず……!つまり少なくとも料理名はわかる……!!)

慈「『B定食』……」

栞子「定食でしたか、でしたら仕方ありませんね」

慈「なにが?そもそもこれ注文したのキミだからね?あれを注文と呼んでいいのなら」

23: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 22:04:50 ID:???00
栞子「街歩きしましょう」

慈「ま、やっぱ定番だよね。歩くことでその街を理解することができる。私はね、結構そう思ってるよ」

慈「いつも栞子ちゃんが歩いてるところ紹介してほしいな」

栞子「はい、もちろんです」

栞子「このあたりはすごくお台場らしいと思っています」

栞子「お台場らしい光景というと、このきれいなレインボーブリッジとお世辞にもきれいとは言えない東京湾ですからね」

慈「後半いる?」

24: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 22:05:54 ID:???00
栞子「ここのスムージーは割とよく飲んでいます」

栞子「私たち同好会の1年生の事実上の行きつけです」

慈「じゃあここで一杯引っ掛けていこうかな~」

慈「クコの実ドリンクってなんか珍しいのあるけど」

栞子「あ、かすみさん曰く『クコは罠』だそうです」

慈「出たかすみちゃん」

栞子「人柱の語るところによると、これはYouTuber向けの飲み物とのことで」

慈「犠牲者を偲んでせめて名前は呼んであげて」

栞子「よかったですねかすみさん、骨は拾ってあげますよ」

慈「そういう偲び方じゃないと思う」

25: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 22:06:55 ID:???00
栞子「もういい時間になってしまいましたね」

慈「ほんと、突然だったのにありがとうね」

栞子「いえ、私も来たかったですし」

栞子「……」

栞子「これで……気分転換くらいにはなったでしょうか、慈さん」

慈「っ……、わかってたんかい」

栞子「なんとなくです。なんとなくですが、以前のあなたとは少し違う気がしていました」

26: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 22:07:43 ID:???00
栞子「私に何ができるかはわからないですが、少しでも元気になってもらえればなと」

慈「だからあの変なご飯屋さんだったの?」

栞子「いえ、あそこはどのみち行くつもりでした」

慈「そう……」

栞子「そのために何か行ったことというと、慣れないジョークを2、3飛ばして滑り倒したことくらいですね」

慈「滑ってる自覚あったんだ」

栞子「ままなりませんね」

27: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 22:08:31 ID:???00
慈「ままならないねーほんと」

慈「……」

慈「んー、私はね、世界中を夢中にしたいんだ」

慈「そのためならどこへだって行ってやるって覚悟もある」

慈「でも全方位に大見得切った手前、出立前におセンチになってるのもらしくないというか」

慈「大好きな蓮ノ空を離れて、ずっと過ごしてきた金沢を離れて、って考えるとどうにもちょっとね」

28: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 22:09:32 ID:???00
栞子「でもそれは、慈さんの素直な気持ちですよね」

栞子「自分らしくあればいいだけだと私に言ってくださったのはあなたではありませんか」

栞子「と言うのは出過ぎた真似なのかもしれませんが……。1年生の私と3年生の慈さんではきっと抱えているものの重さも違うのでしょうし」

栞子「……」

栞子「……でしたら、最後に私を夢中にしてください」

慈「うん?」

栞子「世界中、私以外のすべてを夢中にし終えたら。その時まで」

栞子「それまで私は、あなたの虜にはなりませんから」

栞子「待っています。また戻ってきてくれるのを」

慈「あはは……、やっぱりキミは変な子だよ」

慈「だって言ってることぜんぜん意味わかんないよ……」

慈「でもね」

慈「ありがとう」

29: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 22:10:05 ID:???00
栞子(もうとっくに……とは思うんですが、最初のひとりになれなかった以上、残る特別は最後のひとりなので……)

栞子(私も特別になりたいです……なんて)

30: 名無しで叶える物語◆R6iHf3b2★ 2025/01/23(木) 22:11:16 ID:???00
おわり〇
ありがとうございました

一応これの続きのようなものでした
【SS】慈「栞子ちゃん拾った」 

引用元: 【SS】慈「栞子ちゃーんご飯行こ」