1: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:10:00 ID:???00
花帆「さやかちゃーん……」ギュッ

さやか「どうしたんですか、花帆さん?」

花帆「……何か、変じゃない?」

さやか「? と、いいますと……」

花帆「さやかちゃん……」

花帆「──今日の気温、暑すぎない!?!?」

さやか「……あ、言われてみたら、確かに……冬が終わったのに、これじゃ……」

さやか(……あれ?)

花帆「さやかちゃん? どうしたの?」

さやか「い、いえ。きっと、地球温暖化の影響じゃないですかね、この暑さ……」

花帆「ううー……仕方ないのかなぁ。冬の後が夏。これくらい、当たり前だもんねー……」

さやか「……ええ。そうですね」

2: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:11:00 ID:???00
────

さやか「……」スタスタ

「私、もう冷房つけちゃったよ。本当、暑いよね~」

「それな~! 二月の暑さで、今日もアイスがうまい!」

ガヤガヤ…

さやか(あぁ、もう二月になって、数日……そろそろ、夏服の季節なんですね。花帆さんの言うとおり、最近すっかり暑くなってきましたし……)

さやか「…………?」ピタ

さやか(……二月に暑いのって、普通でしたっけ……?)

3: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:12:00 ID:???00
さやか「……いえ。なにを考えていたんでしょうか、わたし。冬が終わり、今の季節が夏……暑いなんて、当たり前なのに」

さやか(秋、冬、夏……どこも、おかしくなんてない)

さやか(…………ですが、先ほどからずっと、何かが変な気が……なんなんでしょうか、これ……?)

「──さや、見つけた」

さやか「! あれ、どうしてこちらに……? 今から教室まで迎えに向かうところでしたが……」

綴理「うん。だから逆に、ボクがさやを迎えに来た」

4: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:13:00 ID:???00
さやか「え、どうして突然、そんなことを……」

綴理「……だって、もう少しで、それもできなくなっちゃうから。今のうちに、さやの気持ちになってみた」

さやか「もう少しで…………あぁ」

さやか(そう、三月になったら、いよいよ…………いよいよ……?)

さやか「あの、もう少しで……何でしたっけ? 何もないと思いますが……」

綴理「えっ……? …………あれ」

綴理「……おかしいな。ボク、なんでこうしたんだっけ……?」ウーン

5: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:14:00 ID:???00
さやか「? どうしたんですか? 冬が終わって、夏が来て……その先、三月になっても何も変わりませんのに」

綴理「そう、だったね。……さやと、ここでずっと一緒に……か」

さやか「ええ。ずっと、一緒で……」

さやか「……っ」ズキッ

さやか(──違う。何かが……おかしい)

綴理「……? さや? 具合よくないの?」

さやか「……大丈夫です。さぁ、部室に向かいましょうか」

さやか(…………何か、大切なことを忘れたままな気が……目を逸らすことなど、決して認められないような、大切なことを……)

6: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:15:00 ID:???00
綴理「んー……そうだ。さや、さや」チョンチョン

さやか「? どうしましたか?」

綴理「部室に行く前に、あれを見に行こう」ピシッ

さやか「あれ……?」チラッ

さやか(その指が差す窓……みずみずしい桜の木が映っていました。夏なので、咲いてこそいませんが……)

さやか(……? いえ、秋も冬も桜が咲くことなんてありませんね。そんなの常識でしょう)

7: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:16:00 ID:???00
綴理「桜、きれいだよね。もうすぐ、高校生になって四度目の桜だ。チョウチョも一緒に見れたりして」

さやか「…………四度目の、桜……」ポツリ

綴理「さや?」

さやか「あ、いえ。……そうですね。少し回り道をして、桜を見に行きましょうか」

8: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:17:00 ID:???00
────

ミーンミンミンミン…

綴理「外、暑いね。どうして夏になっただけで、こんなに暑いんだろう?」

さやか「夏という季節だと、太陽の光や熱を普段よりも多く受け取りますからね。その分、気温も上がります」

綴理「そっか……太陽って、すごいね」

さやか「そうですね……」ジー

さやか(そんな太陽の日差しが照らす先……桜の木が堂々と立ち、わたし達を出迎えていました)

綴理「あ、そうだ、さや。ボク、さやに聞きたいことがあって」

さやか「……? 聞きたいこと、ですか? 夏の暑さの理由以外に、でしょうか?」

綴理「うん。……さやに、聞かなきゃいけないことができたんだ」

9: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:18:01 ID:???00
綴理「今までずっと、さやがボクの隣にいてくれて、ボクを支えてくれていた……だよね?」

さやか「そう、ですね……もう二年ほどでしょうか」

綴理「ん。そしてこれからも、冬、夏、秋……その先もずっと、さやと一緒にすごせてしまう。……さや」

綴理「さやにとって──この今、そして未来って、幸せかな?」

さやか「……え?」

10: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:19:00 ID:???00
綴理「もし、これがさやの幸せなら……ボクもずっと、隣にいよう。ボクだって、そうしたい」

綴理「……どうかな、さや? さやの答えを聞きたいな」

さやか「?? え、っと……すみません、仰った意味がよく……」

さやか(当たり前の今、そしてその先のことに……わざわざ疑問を投げかけた意図が掴めなくて)

さやか「幸せ……かどうかを、聞きたいんですか……?」

綴理「うん。さやが、どう思うかだ」

さやか「え、えー……? よくわかりませんが、そうですね……」

さやか(これから先……わたし達がお互いに、決して一人にならず、一緒に過ごせてしまう未来…………あれ?)

11: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:20:00 ID:???00
さやか「……っ!」ズキッ

さやか(……違う。そんなわけがない)

さやか(こんな未来だと知って、今まで進んできたわけじゃない、と……わたしでも、そのことを知っています)

さやか(いえ、ですが何故……わたしがそれを認識して……??)

さやか「あの、わたし……何かを忘れていたりしますか……?」チラッ

さやか(そう言って、顔を合わせようとしたとき……)

綴理「…………さや」ジー

さやか「ぁ……」

さやか(その、優しい瞳が視界に映りました)

13: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:21:00 ID:???00
さやか(──瞬間……この人のために、わたしが今まで何をして、どう生きてきたのかを……思い出して)

さやか「…………あぁ」

さやか(……そういうこと、でしたか)

14: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:22:00 ID:???00
さやか「……」

綴理「さや?」

さやか「……質問に、答えますね」コホン

さやか「幸せ……なわけ、ないです。こんな──偽りの世界など」

綴理「!」

さやか(わかってしまった。気づいてしまった。この世界ができた理由も、おそらく……)

さやか「ごめんなさい。……全て、わたしが原因だったんですね」

15: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:23:00 ID:???00
さやか「わたしが願ったこと……わたし、決して受け入れたくなかったんです。あの季節が来てしまう、なんて」

さやか「だから、無理矢理にでも理屈をつけてしまった。……別れと出会いの季節。逆に、その季節が消えてしまうと、別れが訪れない」

さやか「本当に、我ながら荒唐無稽な理論ですが……今、この世界を見て、確信してしまいました」

さやか「わたし──卒業を、否定していたんです」

16: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:24:00 ID:???00
綴理「……」

さやか「……申し訳ありません。八重咲ステージでああ言って、この気持ちだって、とうに乗り越えていたつもりでしたが……」

さやか(きっと、この世界もわたしが作り出した幻想なのでしょう。あまりにも、わたしに対してだけ都合が良すぎましたから)

さやか(ですが、おそらく……)チラッ

綴理「……そっか。それなら、さやがボクをここに呼んでくれたのか」

さやか「そうなります。……最初から、気づいていらしたんですよね? この世界が、現実と違うことに」

17: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:25:00 ID:???00
さやか(……違和感があった。放課後、迎えに来てくださったときの言動もそうですし、桜を見に行こうと仰ったときだって……)

──

綴理「桜、きれいだよね。もうすぐ、高校生になって四度目の桜だ。チョウチョも一緒に見れたりして」

──

さやか(あの言い方……桜が咲くことを知っていないと、できません)

さやか(……つまり、わたしの幻覚の世界に引き込んでしまっていた、ということで……)

さやか「本当に、申し訳ないです……わたし一人ならまだしも、余計に巻き込んでしまって……」

綴理「……ううん。いいんだ。ボクだって……さやの気持ち、わかってしまったから」

18: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:26:00 ID:???00
綴理「最初のうちだけ、演技してたんだ。さやも知らない現実なら、ボクも知らないことにした方がいいと思ったから」

さやか「あぁ……だから、迎えに来てくださったとき、あのような対応を……」

綴理「うん。でも……さやが言う世界も、ボクにとって魅力的だった」

綴理「卒業がなくて、さやとずっと一緒の世界……それでもいいかな、って、ボクも……少し思ってしまったんだ」

19: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:27:00 ID:???00
さやか「……」

綴理「でも……思い出した。だから、さやに聞くことができた」

綴理「ボクだって……さやと約束したんだ。さやがいなくても生きていくために、背中を押してもらった」グッ

綴理「そんなボクの思い出に、ボク自身が気づけた。だから、さや。さやの言う偽りの世界から、また現実の世界に行くために……」

綴理「──“別れ”を受け入れよう、さや」

さやか「……!」

20: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:28:00 ID:???00
さやか(あぁ……至極、簡単なことです。わたしが卒業を否定してしまい、この世界ができた)

さやか(なので、解決にあたって……わたしが、その“別れ”を受け入れてしまう必要があります)

さやか(…………ですが……)

綴理「さや。……もしかして、不安?」

さやか「……すみません。この世界がおかしいことくらい重々理解した上で…………少し、怖いんです」

さやか(“別れ”……本当にそれが来たとき、わたしが耐えられてしまうのかどうか……想像さえできない)

21: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:29:00 ID:???00
綴理「……そっか。でも、さや。大丈夫だよ」ナデナデ

さやか「で、ですが……」

綴理「んー……じゃあ、こうしよう。ここで、十一月のときみたいに、ボクに気持ちを教えてほしい。それで絶対、さやも大丈夫だ」ニコッ

さやか「……え…………!? ま、まさか、八重咲ステージでやったのを、もう一度……!?」

綴理「うん。今ここで、大声で叫ぼう。──ビッグボイス選手権の復活だ」ニコッ

22: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:30:00 ID:???00
さやか「そんな、無茶苦茶な……たとえそうしても、上手くいくかどうか、わかりませんのに……」

さやか(再度この気持ちを表したって、何も……)

綴理「ううん、違うよ、さや」

綴理「今のさやだって、もう受け入れてしまう準備が終わってて……一歩踏み出す、きっかけが必要なだけなんだ」

さやか「きっかけ……」

綴理「さやに助けてもらった分、ボクもさやのことを支えたい。だから……お願い、さや」ニコッ

23: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:31:00 ID:???00
さやか(……あぁ、こんなにも優しい人がわたしを想っていて……なんて幸せ者なんでしょうか)

さやか「……そう、ですね」

さやか(…………最初からもうすでに、気づいていたことです。今になってようやく、理解できたなんて)

さやか(時間が前に進むことで、わたし達も生きていく……止めていても意味がない)

さやか(だからこそ……こんな世界から早急に出て、時計を進めなきゃいけない……!)グッ

さやか「わかりました。……聞いていてください。わたしの、想いを」

綴理「……うん」

さやか(この願いを──叫ぶ!!)

さやか「──あなたと一緒にいたい! だけど、それ以上に……未来に進んでいくあなたの姿を応援したい!!」

さやか「だから、こんな世界……わたしにとって、必要ありません!! 卒業を肯定し、前に進む世界に、わたし達を連れて行けーー!!!」

24: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:32:00 ID:???00
────

──

さやか「……っ!」

さやか(喉を枯らす勢いで叫び、そして──)

さやか「……!」

さやか(──その瞬間、突然、全てが元に戻りました。あたかも、何事もなかったかのように。季節も、別れも……また、平等に)

さやか「…………これで、良かったんですよね?」

25: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:33:00 ID:???00
綴理「うん。……さや、見て」

さやか「……? ……あ」

さやか(目の前の景色……先ほどまでもずっと見ていた桜の木が、先ほどと異なった姿でそこにあった)

綴理「つぼみだ。三月になったら、きっと……咲くんだろうね。とっても、きれいに」フフッ

さやか(三月…………四度目の、桜……)

26: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:34:00 ID:???00
綴理「さや」ギュッ

さやか「……!? ど、どうしましたか?」

綴理「不安に思うかもしれないけど……大丈夫だよ、さや。さやなら、きっと……」

さやか「ふふっ……ええ。ちゃんと、理解しましたよ。なので、安心してください」クスッ

さやか(もう……迷いません。わたしが進む未来を、全て受け入れてしまう決意を、改めて抱きましたから)

27: 名無しで叶える物語◆nV2siX45★ 2025/02/03(月) 23:35:00 ID:???00
さやか「未来にも必ず、楽しいことがあります。否定せずとも、わたしも……前を向いて進んでいきますよ」フフッ

綴理「! そっか。……ねぇ、さや。ボク、この桜をさやと一緒に、三月にもまた見たいんだ。……いい、かな?」

さやか「ええ、もちろんです。わたしも、あなたの期待に応えたいので……それまでの日々も、全力で過ごしていきます!」グッ

綴理「ん。楽しみだ」ニコッ


おしまい

引用元: 【SS】さやか「消えた季節」