1: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:21:36.759 ID:I/II/N7pD.net
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
保阪実(69) 死刑囚
【脱獄囚】
ホーッホッホッホ……。」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
保阪実(69) 死刑囚
【脱獄囚】
ホーッホッホッホ……。」
2: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:23:46.941 ID:I/II/N7pD.net
テロップ「2019年1月――」
午後。東京、葛飾区。東京拘置所。独房には、囚人服を着た初老の男が座っている。
テロップ「保阪実(69) 死刑囚」
廊下を歩く2人の看守。看守たちの靴音が響き渡る。カッ……、カッ……、カッ……、カッ……。
保阪(看守が来た……。今日こそは、俺の命日になるかもしれない……)
2人の看守が、保阪の独房に立ち止まる。
保阪(やはり、俺の番か。俺の命も、もはやこれまで……)
独房のドア越しで、看守たちが保阪に話しかける。
看守A「おい、保阪」
保阪「はい……」
看守B「お前に面会したいという人がいる。何でも、支援者の人だそうだ」
午後。東京、葛飾区。東京拘置所。独房には、囚人服を着た初老の男が座っている。
テロップ「保阪実(69) 死刑囚」
廊下を歩く2人の看守。看守たちの靴音が響き渡る。カッ……、カッ……、カッ……、カッ……。
保阪(看守が来た……。今日こそは、俺の命日になるかもしれない……)
2人の看守が、保阪の独房に立ち止まる。
保阪(やはり、俺の番か。俺の命も、もはやこれまで……)
独房のドア越しで、看守たちが保阪に話しかける。
看守A「おい、保阪」
保阪「はい……」
看守B「お前に面会したいという人がいる。何でも、支援者の人だそうだ」
3: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:25:56.950 ID:I/II/N7pD.net
面会室。アクリル越しで、例の男――喪黒福造と面会する保阪。
保阪「あなた、俺の支援者なんですか?」
喪黒「そうです」
保阪「……悪いですが、俺のことは放っておいてください。再審の請求は、もう諦めました」
喪黒「どうしてです?保阪さんはやってもいない罪で、33年間もここに収監されているのですよ」
「再び裁判をして、無実を証明しようと思わないのですか?」
保阪「昔の俺は、それを望んでいましたけど……。今の俺は年を取りすぎました」
「もしも、無罪になってシャバへ出たところで……。世の中の流れにはついていけないでしょう」
喪黒「ですがねぇ……。このまま何もしなかったら、あなたはいずれ死刑を執行されてしまうのですよ」
保阪「死刑の執行は覚悟しています。この年齢ではもう、死ぬことに対する怖さも前よりなくなりました」
喪黒「いやぁ、ずいぶん無欲な方ですねぇ……。しかし、それではあまりにも寂しいでしょう」
保阪「あなた、俺の支援者なんですか?」
喪黒「そうです」
保阪「……悪いですが、俺のことは放っておいてください。再審の請求は、もう諦めました」
喪黒「どうしてです?保阪さんはやってもいない罪で、33年間もここに収監されているのですよ」
「再び裁判をして、無実を証明しようと思わないのですか?」
保阪「昔の俺は、それを望んでいましたけど……。今の俺は年を取りすぎました」
「もしも、無罪になってシャバへ出たところで……。世の中の流れにはついていけないでしょう」
喪黒「ですがねぇ……。このまま何もしなかったら、あなたはいずれ死刑を執行されてしまうのですよ」
保阪「死刑の執行は覚悟しています。この年齢ではもう、死ぬことに対する怖さも前よりなくなりました」
喪黒「いやぁ、ずいぶん無欲な方ですねぇ……。しかし、それではあまりにも寂しいでしょう」
4: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:27:29.450 ID:I/II/N7pD.net
保阪「まあ、何と言うかその……。欲が全くないと言えば嘘になりますけどね……」
喪黒「ほう……。では、保阪さんの今の望みとは一体何ですか?」
保阪「そうですね……。俺の今の望みは、死んだ両親への墓参りをすることですね」
喪黒「なるほど、ご両親へのお墓参りですか。あなたは親孝行な人のようですねぇ」
保阪「でも、俺の再審はあり得ませんから……。所詮、かなわぬ夢です」
「むしろ、このまま死刑が執行されれば、あの世で死んだ両親に会えるかもしれませんよ」
喪黒「そうですか……。くれぐれも言っておきますが、希望を捨てないでくださいよ」
保阪「お気持ちはありがたいですが、今の俺は何もかも諦めていますから……」
真夜中。東京拘置所。電気が消えた保阪の独房。布団に入り、眠り続ける保阪。
鍵のかかった独房の中に、保阪以外の謎の人物の姿がゆっくりと姿を現す。瞬間移動で現れたかのごとく――。
喪黒「ほう……。では、保阪さんの今の望みとは一体何ですか?」
保阪「そうですね……。俺の今の望みは、死んだ両親への墓参りをすることですね」
喪黒「なるほど、ご両親へのお墓参りですか。あなたは親孝行な人のようですねぇ」
保阪「でも、俺の再審はあり得ませんから……。所詮、かなわぬ夢です」
「むしろ、このまま死刑が執行されれば、あの世で死んだ両親に会えるかもしれませんよ」
喪黒「そうですか……。くれぐれも言っておきますが、希望を捨てないでくださいよ」
保阪「お気持ちはありがたいですが、今の俺は何もかも諦めていますから……」
真夜中。東京拘置所。電気が消えた保阪の独房。布団に入り、眠り続ける保阪。
鍵のかかった独房の中に、保阪以外の謎の人物の姿がゆっくりと姿を現す。瞬間移動で現れたかのごとく――。
5: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:29:23.851 ID:I/II/N7pD.net
喪黒「保阪さん、起きなさい」
謎の人物――喪黒の声を聞き、目を覚ます保阪。彼が布団から起きると、目の前には喪黒がいる。
保阪「あ、あなたは……!昨日の昼間に会ったあの――!」
喪黒「私ですか?私はこういう者です」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
保阪「ココロのスキマ、お埋めします?」
喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」
保阪「今の時代、そんなお仕事があったんですか……。33年間も拘置所にいると、どうしても世間に疎くなりがちで……」
喪黒「私のやっていることは、ボランティアみたいなものです」
「心に何かしらのスキマを抱え、人生が行き詰まった人たちを救うための仕事ですよ」
保阪「確かに、俺の人生は行き止まりのまま……。出口がどこにもないですけどね」
謎の人物――喪黒の声を聞き、目を覚ます保阪。彼が布団から起きると、目の前には喪黒がいる。
保阪「あ、あなたは……!昨日の昼間に会ったあの――!」
喪黒「私ですか?私はこういう者です」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
保阪「ココロのスキマ、お埋めします?」
喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」
保阪「今の時代、そんなお仕事があったんですか……。33年間も拘置所にいると、どうしても世間に疎くなりがちで……」
喪黒「私のやっていることは、ボランティアみたいなものです」
「心に何かしらのスキマを抱え、人生が行き詰まった人たちを救うための仕事ですよ」
保阪「確かに、俺の人生は行き止まりのまま……。出口がどこにもないですけどね」
6: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:31:24.942 ID:I/II/N7pD.net
喪黒「そんなことはありません。活路は必ずありますよ」
保阪「活路ですか……。昨日も言ったように、俺は再審を請求する気なんて毛頭ありませんよ」
喪黒「保阪さんが再審を望まないのなら、別の形で活路を見出させてあげますよ」
保阪「ハハハ……。まさか俺に、脱獄をしろとでも言うんじゃないでしょうね?」
喪黒「その『まさか』ですよ、保阪さん。あなたを拘置所から脱獄させてあげますよ」
保阪「ほ、本気でそんなことを言ってるんですか!?それは不可能ですよ!!」
喪黒「不可能ではありません。現に、私がこの独房の中に忍びこめたではないですか」
保阪「で、ですが……」
喪黒「私は、あなたの望みをかなえに来たのですよ」
保阪「俺の望みだって!?」
喪黒「思い出してください、保阪さん。昨日の昼、あなたはこう言ったでしょう」
「自分の望みは、死んだ両親への墓参りをすることだ……と」
保阪「活路ですか……。昨日も言ったように、俺は再審を請求する気なんて毛頭ありませんよ」
喪黒「保阪さんが再審を望まないのなら、別の形で活路を見出させてあげますよ」
保阪「ハハハ……。まさか俺に、脱獄をしろとでも言うんじゃないでしょうね?」
喪黒「その『まさか』ですよ、保阪さん。あなたを拘置所から脱獄させてあげますよ」
保阪「ほ、本気でそんなことを言ってるんですか!?それは不可能ですよ!!」
喪黒「不可能ではありません。現に、私がこの独房の中に忍びこめたではないですか」
保阪「で、ですが……」
喪黒「私は、あなたの望みをかなえに来たのですよ」
保阪「俺の望みだって!?」
喪黒「思い出してください、保阪さん。昨日の昼、あなたはこう言ったでしょう」
「自分の望みは、死んだ両親への墓参りをすることだ……と」
8: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:33:11.736 ID:I/II/N7pD.net
保阪「あっ……!!」
喪黒は保阪に右手の人差し指を向ける。
喪黒「保阪さん……。私の手をじっと見ていてください……」
「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
保阪「うわああああああああ!!!」
保阪が気がつくと……。彼は、舗装された地面の上に寝転がっている。
保阪(ん?明るくなりかかった夜空が見えるな。それと、身体にはひんやりした感覚がするぞ……)
(外の冬らしい寒さに、地面のアルファルトの冷たさ……)
喪黒「気がつきましたか、保阪さん?」
起き上がる保阪。彼の側には喪黒が立っている。周りを見渡す保阪。
保阪「お、俺は外にいるんですか……?」
さらに、保阪が後ろを見ると……。後ろの方には、東京拘置所を囲んだ巨大な塀がそびえ立っている。
喪黒は保阪に右手の人差し指を向ける。
喪黒「保阪さん……。私の手をじっと見ていてください……」
「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
保阪「うわああああああああ!!!」
保阪が気がつくと……。彼は、舗装された地面の上に寝転がっている。
保阪(ん?明るくなりかかった夜空が見えるな。それと、身体にはひんやりした感覚がするぞ……)
(外の冬らしい寒さに、地面のアルファルトの冷たさ……)
喪黒「気がつきましたか、保阪さん?」
起き上がる保阪。彼の側には喪黒が立っている。周りを見渡す保阪。
保阪「お、俺は外にいるんですか……?」
さらに、保阪が後ろを見ると……。後ろの方には、東京拘置所を囲んだ巨大な塀がそびえ立っている。
9: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:35:12.651 ID:I/II/N7pD.net
保阪「!!!」
喪黒「どうです、保阪さん。見事に脱獄できたでしょう」
保阪「し、信じられません……!!俺は、夢でも見てるんですか!?」
喪黒「夢ではなく、現実の出来事です。さあ、この服に着替えてください」
鞄から一般人用の衣服、伊達眼鏡、帽子、ジャンパ―、靴を取り出す喪黒。保阪は囚人服を脱ぎ、着替えを済ませる。
囚人服を鞄にしまう喪黒。
喪黒「保阪さん、急いでここを離れましょう!」
保阪「は、はい……!」
拘置所から逃げ出す2人。喪黒に言われるまま、保阪は後をついていく。
喪黒「こっちです、こっち!!」
早朝。小菅駅。自販機で2人分の切符を買う喪黒。喪黒の隣には、一般人になり済ました保阪がいる。
喪黒「どうです、保阪さん。見事に脱獄できたでしょう」
保阪「し、信じられません……!!俺は、夢でも見てるんですか!?」
喪黒「夢ではなく、現実の出来事です。さあ、この服に着替えてください」
鞄から一般人用の衣服、伊達眼鏡、帽子、ジャンパ―、靴を取り出す喪黒。保阪は囚人服を脱ぎ、着替えを済ませる。
囚人服を鞄にしまう喪黒。
喪黒「保阪さん、急いでここを離れましょう!」
保阪「は、はい……!」
拘置所から逃げ出す2人。喪黒に言われるまま、保阪は後をついていく。
喪黒「こっちです、こっち!!」
早朝。小菅駅。自販機で2人分の切符を買う喪黒。喪黒の隣には、一般人になり済ました保阪がいる。
10: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:37:18.127 ID:I/II/N7pD.net
自動改札口の前にいる喪黒と保阪。機械に切符を投入し、自動改札口を通り抜ける喪黒。
保阪「これが自動改札口ですか……。初めて見ましたよ」
朝一番の電車に乗る喪黒と保阪。
東京駅。電車を降り、プラットフォームに立つ喪黒と保阪。喪黒は保阪に、2つ折りの財布を渡す。
喪黒「保阪さん、この財布には5万円が入っています。往復の交通費はこれで足りるでしょう」
保阪「なるほど……。ここから先は、俺1人で行けってことですね」
喪黒「その通りです。だから、あなたには私と約束していただきたいことがあります」
保阪「約束!?」
喪黒「そうです。あなたが脱獄をできる期間は、今日1日いっぱいに限ります」
「ご両親へのお墓参りを終えたら、今日中に東京拘置所へ戻ってきてくださいよ。いいですね!?」
保阪「わ、分かりました……」
保阪「これが自動改札口ですか……。初めて見ましたよ」
朝一番の電車に乗る喪黒と保阪。
東京駅。電車を降り、プラットフォームに立つ喪黒と保阪。喪黒は保阪に、2つ折りの財布を渡す。
喪黒「保阪さん、この財布には5万円が入っています。往復の交通費はこれで足りるでしょう」
保阪「なるほど……。ここから先は、俺1人で行けってことですね」
喪黒「その通りです。だから、あなたには私と約束していただきたいことがあります」
保阪「約束!?」
喪黒「そうです。あなたが脱獄をできる期間は、今日1日いっぱいに限ります」
「ご両親へのお墓参りを終えたら、今日中に東京拘置所へ戻ってきてくださいよ。いいですね!?」
保阪「わ、分かりました……」
11: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:39:15.321 ID:I/II/N7pD.net
切符の自販機の前に、保阪と駅員が立っている。駅員とともに、自販機を操作する保阪。
駅員「新幹線の切符の買い方ですか?それはですね……」
プラットフォーム。朝早くからの新幹線を待つ乗客の列。列の中に保阪がいる。
保阪(これが、今時の女性の髪形や服装か……。昔に比べると、洗練されてるなー)
さらに、スマホを操作する人間を何人か見つめる保阪。
保阪(あの小さな板は一体何だ?あれを持って何をやってるんだ?)
線路を走る新幹線。窓側の座席に座る保阪。しばらくした後、彼は居眠りを始める。夢を見る保阪。
テロップ「1986年――」
夜。銭湯を出て、道を歩く保阪。彼の前にパトカーが止まり、警察官たちが姿を現す。
警察官により、保阪の両手に手錠がはめられる。
駅員「新幹線の切符の買い方ですか?それはですね……」
プラットフォーム。朝早くからの新幹線を待つ乗客の列。列の中に保阪がいる。
保阪(これが、今時の女性の髪形や服装か……。昔に比べると、洗練されてるなー)
さらに、スマホを操作する人間を何人か見つめる保阪。
保阪(あの小さな板は一体何だ?あれを持って何をやってるんだ?)
線路を走る新幹線。窓側の座席に座る保阪。しばらくした後、彼は居眠りを始める。夢を見る保阪。
テロップ「1986年――」
夜。銭湯を出て、道を歩く保阪。彼の前にパトカーが止まり、警察官たちが姿を現す。
警察官により、保阪の両手に手錠がはめられる。
12: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:41:47.318 ID:I/II/N7pD.net
西多摩警察署、取調室。机の上に、保阪の顔を叩きつける刑事。
刑事「往生際が悪いな、保阪……!!」
壁際にいる刑事と保阪。刑事は保阪の服の胸ぐらを掴み、彼を怒鳴りつける。
刑事「おい、保阪!!何が何でも、お前が犯人でなければ困るんだよ!!」
テロップ「2019年1月――」
新幹線の中で目を覚ます保阪。通路側の席の乗客が、隣にいる保阪に声をかける。
乗客「あなた大丈夫ですか?うなされてましたよ……」
広島駅、プラットフォーム。キヨスクでアンパンを買う保阪。彼は、売り物の新聞の日付を見つめる。
保阪(今は『平成31年』か。『平成』という年号が、本当に使われているとは……。その『平成』も、今年で終わりらしいな……)
保阪はアンパンを口にする。
保阪(これが俺の今の食事だ。食事代はケチろう)
刑事「往生際が悪いな、保阪……!!」
壁際にいる刑事と保阪。刑事は保阪の服の胸ぐらを掴み、彼を怒鳴りつける。
刑事「おい、保阪!!何が何でも、お前が犯人でなければ困るんだよ!!」
テロップ「2019年1月――」
新幹線の中で目を覚ます保阪。通路側の席の乗客が、隣にいる保阪に声をかける。
乗客「あなた大丈夫ですか?うなされてましたよ……」
広島駅、プラットフォーム。キヨスクでアンパンを買う保阪。彼は、売り物の新聞の日付を見つめる。
保阪(今は『平成31年』か。『平成』という年号が、本当に使われているとは……。その『平成』も、今年で終わりらしいな……)
保阪はアンパンを口にする。
保阪(これが俺の今の食事だ。食事代はケチろう)
13: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:43:38.121 ID:I/II/N7pD.net
山の中の道路を走る高速バス。バスの窓際の席で、居眠りをする保阪。彼は再び夢を見る。
東京拘置所。今より若い姿の保阪が、アクリル越しで両親と面会している。
保阪の母「実……。母さんはお前を信じているよ」
保阪「ありがとう。母さん……」
裁判所。保阪に判決を言い渡す裁判長。
裁判長「主文。被告人を死刑に処す」
青ざめた顔の保阪。傍聴席にいる支援者たちの顔に、みるみる落胆の表情が浮かぶ。
テロップ「2019年1月、島根県石見市――」
とある寺、墓地。墓の前に座る保阪。彼の目は涙ぐんでいる。
保阪「父さん、母さん……。俺は帰ってきたよ……」
墓に向かって手を合わせる保阪。彼の頭の中に、過去のことが思い浮かぶ。
東京拘置所。今より若い姿の保阪が、アクリル越しで両親と面会している。
保阪の母「実……。母さんはお前を信じているよ」
保阪「ありがとう。母さん……」
裁判所。保阪に判決を言い渡す裁判長。
裁判長「主文。被告人を死刑に処す」
青ざめた顔の保阪。傍聴席にいる支援者たちの顔に、みるみる落胆の表情が浮かぶ。
テロップ「2019年1月、島根県石見市――」
とある寺、墓地。墓の前に座る保阪。彼の目は涙ぐんでいる。
保阪「父さん、母さん……。俺は帰ってきたよ……」
墓に向かって手を合わせる保阪。彼の頭の中に、過去のことが思い浮かぶ。
14: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:45:40.077 ID:Izp5vNw/D.net
テロップ「1995年――」
保阪の回想。東京拘置所、応接室。
看守「保阪。今日、お前の両親が亡くなったよ」
保阪「何だって……!?」
看守「お前の両親が乗っていたバスが、トラックと衝突したんだ。お前に面会に行く途中だったんだろうな」
愕然とした表情になる保阪。
テロップ「2019年1月――」
両親の墓に話しかける保阪。
保阪「俺は、そろそろ帰らなきゃいけないんだ。ある人との約束でな……」
午後。帰りの新幹線に乗る保阪。保阪は回想する。
テロップ「1988年――」
東京拘置所、面会室。アクリル越しで、支援者と面会する保阪。
保阪の回想。東京拘置所、応接室。
看守「保阪。今日、お前の両親が亡くなったよ」
保阪「何だって……!?」
看守「お前の両親が乗っていたバスが、トラックと衝突したんだ。お前に面会に行く途中だったんだろうな」
愕然とした表情になる保阪。
テロップ「2019年1月――」
両親の墓に話しかける保阪。
保阪「俺は、そろそろ帰らなきゃいけないんだ。ある人との約束でな……」
午後。帰りの新幹線に乗る保阪。保阪は回想する。
テロップ「1988年――」
東京拘置所、面会室。アクリル越しで、支援者と面会する保阪。
15: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:47:26.085 ID:Izp5vNw/D.net
支援者「保阪さん。西多摩市の市長の息子さん、どうなったか知ってますか?彼は2年前に高校を転校し……」
「今年、アメリカの大学に留学したそうです。私が彼について言えるのは、それだけですよ」
独房。一連の事件の真相を知り、驚いた表情になる保阪。
保阪(確か、市長の息子は暴走族の一員で相当なワルだった……)
(あの事件が起きた後、市長の息子は高校を転校し……。現在は海外に留学している……)
保阪の頭に、取調室での刑事の言葉が思い浮かぶ。
(刑事「おい、保阪!!何が何でも、お前が犯人でなければ困るんだよ!!」)
保阪(あの言葉の意味は、そういうことだったのか!!)
テロップ「2019年1月――」
新幹線にいる保阪。
保阪(でも、時間の流れとは皮肉なものだ……。今では当時の市長の息子に対して、あまり怒りが湧かなくなった)
「今年、アメリカの大学に留学したそうです。私が彼について言えるのは、それだけですよ」
独房。一連の事件の真相を知り、驚いた表情になる保阪。
保阪(確か、市長の息子は暴走族の一員で相当なワルだった……)
(あの事件が起きた後、市長の息子は高校を転校し……。現在は海外に留学している……)
保阪の頭に、取調室での刑事の言葉が思い浮かぶ。
(刑事「おい、保阪!!何が何でも、お前が犯人でなければ困るんだよ!!」)
保阪(あの言葉の意味は、そういうことだったのか!!)
テロップ「2019年1月――」
新幹線にいる保阪。
保阪(でも、時間の流れとは皮肉なものだ……。今では当時の市長の息子に対して、あまり怒りが湧かなくなった)
16: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:49:21.196 ID:Izp5vNw/D.net
保阪の側を、弁当や飲み物の売り子が通り過ぎる。
売り子「お弁当にぃー、ホットコーヒー……」
保阪(腹が減った……。飯が食いたい……。いや、我慢だ……!我慢……!)
とある街。家電量販店。売り場にある大型テレビが、ニュースを報道している。
テレビ「警視庁は都内に捜査員を大量投入し……。引き続き、保阪受刑者の行方を捜索している模様です……」
東京駅の中を歩く保阪。駅の壁には、彼の指名手配写真が貼られている。
保阪(何てことだ!!俺はすでに指名手配中となっているのか……!!逮捕される前に、拘置所に戻らなければ!!)
(何しろ、俺は約束したんだ……!独房で出会ったあの不思議な人と……)
線路を走る電車。吊り革を掴みながら、座席に座る客たちを見つめる保阪。
保阪(ま、まさか……。ここにいる乗客たちが、俺のことに気づいたりしないだろうか!?)
売り子「お弁当にぃー、ホットコーヒー……」
保阪(腹が減った……。飯が食いたい……。いや、我慢だ……!我慢……!)
とある街。家電量販店。売り場にある大型テレビが、ニュースを報道している。
テレビ「警視庁は都内に捜査員を大量投入し……。引き続き、保阪受刑者の行方を捜索している模様です……」
東京駅の中を歩く保阪。駅の壁には、彼の指名手配写真が貼られている。
保阪(何てことだ!!俺はすでに指名手配中となっているのか……!!逮捕される前に、拘置所に戻らなければ!!)
(何しろ、俺は約束したんだ……!独房で出会ったあの不思議な人と……)
線路を走る電車。吊り革を掴みながら、座席に座る客たちを見つめる保阪。
保阪(ま、まさか……。ここにいる乗客たちが、俺のことに気づいたりしないだろうか!?)
17: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:51:33.518 ID:Izp5vNw/D.net
夜。東京。ふらふらと道を歩く保阪。
保阪(うう……。疲労と空腹と寒さで、身体がどうにかなりそうだ……。だが、俺は……。俺は……)
保阪の目の前に、東京拘置所の塀が見える。力を振り絞りながら歩く保阪。彼の前に喪黒が姿を現す。
喪黒「お帰りなさい、保阪さん。よくぞ、私との約束を守ってくれましたねぇ」
喪黒の顔を見て、倒れ込む保阪。保阪はゆっくりと起き上がる。
保阪「こ、これだけのことをやったら、俺は後で逮捕されるんでしょうけど……。何も悔いはないです……。どうせ、俺は死刑になる身……」
喪黒「大丈夫ですよ。あなたが脱獄をした事実は、この世界から完全に消えますから……」
喪黒は保阪に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
保阪「ギャアアアアアアアアア!!!」
朝。東京拘置所。独房内の布団で、目を覚ます保阪。彼の服装は、囚人服に戻っている。
保阪(ああっ、夢か……。それにしても、ずいぶん生々しい夢だったな。ん……!?これは何だ!?)
保阪(うう……。疲労と空腹と寒さで、身体がどうにかなりそうだ……。だが、俺は……。俺は……)
保阪の目の前に、東京拘置所の塀が見える。力を振り絞りながら歩く保阪。彼の前に喪黒が姿を現す。
喪黒「お帰りなさい、保阪さん。よくぞ、私との約束を守ってくれましたねぇ」
喪黒の顔を見て、倒れ込む保阪。保阪はゆっくりと起き上がる。
保阪「こ、これだけのことをやったら、俺は後で逮捕されるんでしょうけど……。何も悔いはないです……。どうせ、俺は死刑になる身……」
喪黒「大丈夫ですよ。あなたが脱獄をした事実は、この世界から完全に消えますから……」
喪黒は保阪に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
保阪「ギャアアアアアアアアア!!!」
朝。東京拘置所。独房内の布団で、目を覚ます保阪。彼の服装は、囚人服に戻っている。
保阪(ああっ、夢か……。それにしても、ずいぶん生々しい夢だったな。ん……!?これは何だ!?)
18: 以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします 2018/11/26(月) 18:54:43.567 ID:Izp5vNw/D.net
右手に、小さな紙切れを握っている感触を覚える保阪。彼が右手を顔の方へに上げると……。
保阪(『ココロのスキマ、お埋めします』……か。俺が両親の墓参りに行ったことは、夢じゃなかったんだな……)
保阪の右手には、喪黒から貰った名刺が握られている。涙目になりながら、喪黒の名刺を見つめる保阪。
ある日の夜。とある大衆食堂屋。客たちに交じり、食事をする喪黒。店の中にある液晶テレビが、ニュースを報道している。
テレビ「東京高裁は、強盗殺人罪で死刑が確定した保阪実死刑囚の再審を決定しました」
東京拘置所の前にいる喪黒。
喪黒「この世にいる人間は、誰もがいつか必ず死を迎えますが……。普段は、なかなか自らの死への実感が湧かないものです」
「普段、やりたいことをいろいろ思い浮かべていても……。死ぬ前にやってみたいことが思い浮かぶ人は、めったにいません」
「しかしながら……。人間は自らの死を本格的に意識した時、自分の人生とは何だったのかについて思い知らされるものです」
「死に対する覚悟ができた人間は強いですよ。何しろ、保阪実死刑囚は、私との約束を見事に守り抜きましたから……」
「死刑囚として死ぬつもりでいた彼は……。事と次第によっては、第二の生を得ることができるかもしれませんねぇ」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
保阪(『ココロのスキマ、お埋めします』……か。俺が両親の墓参りに行ったことは、夢じゃなかったんだな……)
保阪の右手には、喪黒から貰った名刺が握られている。涙目になりながら、喪黒の名刺を見つめる保阪。
ある日の夜。とある大衆食堂屋。客たちに交じり、食事をする喪黒。店の中にある液晶テレビが、ニュースを報道している。
テレビ「東京高裁は、強盗殺人罪で死刑が確定した保阪実死刑囚の再審を決定しました」
東京拘置所の前にいる喪黒。
喪黒「この世にいる人間は、誰もがいつか必ず死を迎えますが……。普段は、なかなか自らの死への実感が湧かないものです」
「普段、やりたいことをいろいろ思い浮かべていても……。死ぬ前にやってみたいことが思い浮かぶ人は、めったにいません」
「しかしながら……。人間は自らの死を本格的に意識した時、自分の人生とは何だったのかについて思い知らされるものです」
「死に対する覚悟ができた人間は強いですよ。何しろ、保阪実死刑囚は、私との約束を見事に守り抜きましたから……」
「死刑囚として死ぬつもりでいた彼は……。事と次第によっては、第二の生を得ることができるかもしれませんねぇ」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
コメントする
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。