1: ◆b3.GfOf6h. 2019/06/14(金) 18:06:09.51 ID:G/vnc86U0
GUNSLINGER GIRL トリエラ主役のSSです

全員が救われる、そんな世界線があったっていいじゃないかとおもって投稿します。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1560503169



2: ◆b3.GfOf6h. 2019/06/14(金) 18:34:05.72 ID:G/vnc86U0
トリエラ「どうして来たんですか……せっかく良い夢を見てたのに……」

ヒルシャー「君を—君を助けに来た」

トリエラ「血まみれじゃないですか、義体じゃないのに……本当に、本当に馬鹿ですね……」

ヒルシャー「君にそう言われてるのには馴れてるよ」

トリエラ「ヒルシャーさん…なんだか頭がぼおっとしてきました…もっと強く抱きしめて…」

ヒルシャー「……ダメだ!トリエラ !生きろ!生きるんだ!」

トリエラ「無茶言わないでくださいよ……きっとこれでいいんです。腕も足も吹き飛んで……こんなので生き延びたとしてもアンジェみたいに……大切ないろんな事も、ヒルシャーさんの事も全部忘れて、わからなくなってしまうから。これで……」

ヒルシャー「……それでもダメだ。君が生きてさえいてくれれば、僕は、僕は—」

トリエラ「本当にどうしようもない、わがままで馬鹿な人—」



トリエラ「……でも、それが好き—」

ヒルシャー「トリエラ—!」



一つの戦場で、少女の小さな鼓動が、一つ消えた。

そして—


3: ◆b3.GfOf6h. 2019/06/14(金) 18:34:36.84 ID:G/vnc86U0
??? 病室

トリエラ「………」

トリエラ(--生きてる)

トリエラ(あの後意識を失って—回収されて公社の病室まで運ばれたんだろうか)

トリエラ(腕も足もある—「修理」されてるという事は数日か、一週間はたってる?)

トリエラ(! それより記憶は—よかった、私もヒルシャーさんも、クラエスやエッタたちの事も全部覚えてる—奇跡的だ)

トリエラ「生きてるんだ—」

トリエラ(……でも、ヒルシャーさんは?)

トリエラ(義体じゃないヒルシャーさんがあんな怪我をしてたら—わかってる、答えは絶望的だ—)

トリエラ(ヒルシャーさんがいない世界で生き延びたって、わずかな時間を生きながらえたって、それが何になるんだろう—)

トリエラ(今ならエルザの気持ちがわかる気がする—)

トリエラ「……うう……ヒグッ……ヒグッ……ヒルシャーさん……」ガラッ





4: ◆b3.GfOf6h. 2019/06/14(金) 18:35:12.07 ID:G/vnc86U0


ヒルシャー「トリエラ……?」

トリエラ「」

ヒルシャー「体調が悪いのか……?」

ヒルシャー「僕がいると不快なのはわかる……チェニジアに帰りたいのもわかる……無理にここで友達を作ろうとしなくてもいい……だけどここから無断でぬけだすのだけはやめてほしい」

ヒルシャー「地下水道で気を失っている君が発見されたと聞いて、僕はとても心配でたまらなかった」

トリエラ「ヒルシャーさん!」ダキッ

ヒルシャー「な……なな」

トリエラ「生きてる! ヒルシャーさんが生きてる!」

ヒルシャー「ト、トリエラ……?」

トリエラ「生きてるよう…!」ガラッ



クラエス「なんだか凄いものを見させられてるけど、まあ元気みたいね」

アンジェ「心配したんだよ?みんなで一緒に探したの。プリッシラさんなんてもし万が一があったらって大泣きしてたんだから」

ビーチェ「……トリエラとヒルシャー、だきあってる。……らぶらぶ?」

リコ「「そーしそーあい」ってやつだねビーチェ」

エルザ「まあ当然私とラウーロさんには及ばないけど、やっと素直になれたのかしら」フンス



トリエラ・ヒルシャー「「」」



5: ◆b3.GfOf6h. 2019/06/14(金) 18:35:47.22 ID:G/vnc86U0


トリエラ(一週間ほどたって、私は病練から退院した)

トリエラ(その間毎日いろんな子が来てくれたのだけれど、この世界はどうみてもおかしい)

                             ・・・・・・・・・・

トリエラ(だってエルザもアンジェもキアーラも、ピアも。もう死んでいるはずの子たちが普通にしゃべって、呼吸して、笑って、生きているのだ)

トリエラ(義体のわたしたちがどうかは知らないけれど、人は死ぬ前に走馬灯を見るという。

アンジェはその死の前にずっと公社に来る前の夢をみつづけていたらしい)

トリエラ(呼吸も感覚も、リアルすぎるほどリアルだけども、これはもしかしたら死ぬ前に見せられている長い長い夢なのかもしれない。そう思って絶叫してみたり、自分の頬をつねったり、何度も水で顔を洗ったりしてみた。)

トリエラ(その度にヒルシャーさんが物凄い心配そうな顔をしてすっとんでくるのであんまり目立つ事は控える事にしたけれど、夢は醒める事なく—眠りに落ちて目が覚めても同じ病室のまま)

トリエラ(夢は醒める事なくつづいていき、いつのまにやら退院する事になってしまった)





6: ◆b3.GfOf6h. 2019/06/14(金) 18:36:36.29 ID:G/vnc86U0
トリエラ(目覚めてから違う点が更に三つ)



ヒルシャー「訓練?」

トリエラ「ほら、ナイフ格闘とか狙撃とか銃とか。やらないんですか?ずっと座学で」

ヒルシャー「君たちにそういうのを教えて何になる……将来軍警察に入りたいのか?」

トリエラ「……」

ヒルシャー「君の意思は尊重する。尊重するが……担当官としてはできれば危ない仕事は避けて……ひょっとして軍警察じゃなくて僕の前職のインターポールに憧れてるのか?」

トリエラ「……」

ヒルシャー「いや、光栄だ。……本当に嬉しいよ。ただインターポールはそういうのが出来れば入れる場所じゃないんだ。まずはちゃんと座学ができるようにならないと。その上で警察官としてのキャリアを積んで……」

トリエラ「……もういいです」

ヒルシャー「トリエラ、どこに行くんだ?--トリエラーッ?」



トリエラ(一つは「この公社」はどうやら純然たる福祉施設で—

私たちは義体ではあるけれど殺人機械ではないらしい、という事)





7: ◆b3.GfOf6h. 2019/06/14(金) 18:37:16.71 ID:G/vnc86U0


エリザヴェータ「……で、その夢には私はいなかった、と」



トリエラ(もう一つは、「私がいた」公社で暮らしていた何人かの義体の子たちがおらず、その替わりに別の子がいる、という事)

トリエラ(たとえば、ペトルーシュカが座学で座っていたはずの席にはエリザヴェータがいた)

トリエラ(ショートの赤毛のボーイッシュなペトラと、艶やかな長い金髪なエリザヴェータは一見受ける印象が正反対だけど、快活で明るい笑顔は変わらない)

トリエラ(そうまるで、同じ人みたいに---)



エリザヴェータ「にしてもトリエラさん、そういうの好きだったんだ」

トリエラ「好きって、何が」

エリザヴェータ「007みたいな、テロリストをこう、かっこよく、バッタバッタするようなやつ」

トリエラ「……見た事無い」

エリザヴェータ「ん、じゃあなんでそんな夢見たんだろうね……欲求不満?」



エリザヴェータ「えっと確か、夢で見る銃とかって男のひとのアレと同じだって—」

トリエラ「……」

エリザヴェータ「わわっ。ごめん!変な事言っちゃった」

トリエラ(時々自爆するのも同じだ)



エリザヴェータ「社会の闇と戦う正義の戦闘用義体の女の子かあ。カッコイイかも」

トリエラ「そんなんじゃないよ。単なる使い捨ての道具だった」

エリザヴェータ「夢なのに身も蓋もない世界だなあ……でもありがとね、トリエラさんがこんなに饒舌なのって初めてだから」

トリエラ「トリエラでいいよ……あのさ、以前の私ってどう見えてたの?」

エリザヴェータ「……言っていいの?」

トリエラ「うん」

エリザヴェータ「……つっけんどんっていうか、友達いないというか、みんなから怖がられてたというか……」

トリエラ(……どんなやつだったんだ……)

エリザヴェータ「でも、今話してすごくいい子ってわかったよ、ここってめんどくさいの多いもんね……こんど007見ようよ。いちばん最初のやつ」





8: ◆b3.GfOf6h. 2019/06/14(金) 18:38:02.91 ID:G/vnc86U0


トリエラ(そして最後の三つ目は)



リコ「ジャンさん? うん、大好きだよ。時々来てくれて、みんなにプレゼントくれるの!

ほらこれ、前来てくれた時にもらったくまのぬいぐるみ」

トリエラ「時々って、リコの担当官は?」

リコ「もちろんジョゼさん!優しくて大好きだよ! ただ今度くる子も担当するらしくて……仲良くなれるかなあ?」

トリエラ「なんて子?」

リコ「えっとね、プリッシラちゃんが言ってたけど、ヘンリエッタって子だって!」

トリエラ「…そっか、リコならなれるよ。だってほら、私ともこうしてお友達になれたでしょ?」

リコ「うん!」



(ジャンさんは公社にはいない、という事だった)





9: ◆b3.GfOf6h. 2019/06/14(金) 18:38:39.44 ID:G/vnc86U0


トリエラ(そして最後の三つ目は)



リコ「ジャンさん? うん、大好きだよ。時々来てくれて、みんなにプレゼントくれるの!

ほらこれ、前来てくれた時にもらったくまのぬいぐるみ」

トリエラ「時々って、リコの担当官は?」

リコ「もちろんジョゼさん!優しくて大好きだよ! ただ今度くる子も担当するらしくて……仲良くなれるかなあ?」

トリエラ「なんて子?」

リコ「えっとね、プリッシラちゃんが言ってたけど、ヘンリエッタって子だって!」

トリエラ「…そっか、リコならなれるよ。だってほら、私ともこうしてお友達になれたでしょ?」

リコ「うん!」



(ジャンさんは公社にはいない、という事だった)





10: ◆b3.GfOf6h. 2019/06/14(金) 18:39:28.93 ID:G/vnc86U0


ヒルシャー「……君も変わったな」

トリエラ「何がです?」

ヒルシャー「以前の君ならこうやって食事に誘っても、絶対に来なかった。誰とも打ち解けようとしなくて……こんな事を言ってもいいかわからないが、担当官としてどうやって付き合えばいいのか、とても悩んだよ」

トリエラ「……実は別人ですよって言ったら、信じます?」

ヒルシャー「……どういう事だ?」

トリエラ「そうですね、すごく長い夢を見ていたというか……」



ヒルシャー「……面白い夢だね。ただそれは夢だよ。現実じゃない」

トリエラ「どうしてです?」

ヒルシャー「僕には正直、自信がない。ラシェル・ペローの遺志が実現したこの場所でも悩みが絶えないんだ。そんな、君たちを殺人の道具として使い潰すようなところだったら……僕は君に向き合えない。……それがわかった時点で耐えられなくて目覚める前に君を殺して、僕も死ぬかもしれない。いや、それも出来ず、君に向き合う事も出来ずに道具として扱ってしまうかもしれない。

……その夢みたく、最後まで向き合う事は僕にはできないよ」

トリエラ「……変わらないですね、でも、その夢では最後まで向き合って、腕や足が吹き飛んだ私を、抱きしめてくれたんです。自分も撃たれて血まみれなのに、ぎゅっと力強く」

ヒルシャー「……僕も、いいだろうか」

トリエラ「?」

ヒルシャー「君たち福祉義体の寿命はおよそ10年前後だ。君がいった「条件づけ」や投薬などはしないからその分のダメージはないが、それでも義体の脳負荷の問題からは避けられない。

勿論日々研究は続いているし、数年寿命が延びるかもしれないが……

……おそらく、僕より君の方が早く……」



トリエラ(そのあと、少し困ったようにいいよどんで、ヒルシャーさんは言った)



ヒルシャー「抱きしめるかはおいておくとして、最後まで側にいても、いいだろうか。その手を握っていても、いいだろうか?」



トリエラ(何と答えればいいのだろう、いや、勿論決まっている—)

トリエラ「……ええ、喜んで」





11: ◆b3.GfOf6h. 2019/06/14(金) 18:40:20.81 ID:G/vnc86U0


トリエラ(その後、とりとめも無い静かな日常が続いた)

トリエラ(訓練も「仕事」もない、普通の子供たちが送るような静かで、にぎやかな日々)

トリエラ(ただ一つ、ハプニングがあったとしたら—)



トリエラ「見つけたよ。ずっと探したんだから」

ヘンリエッタ「…………」

トリエラ「もうみんな心配しちゃってさ、リコやプリッシラさんなんてすっごく泣いてたんだから。ジョゼさんなんか警察の人にすごい剣幕でさ。……いっしょに帰ろう?」

ヘンリエッタ「……帰りたくない」

トリエラ「……」

ヘンリエッタ「……お父様もお母様ももう、いない……」

トリエラ「……」

ヘンリエッタ「……帰る場所なんてない……」

トリエラ「……そうだね、私たちはお父さんやお母さんそのものにはなれないかもね」

ヘンリエッタ「……」

トリエラ「たださ、すぐ側には居れるんだ。苦しい時や辛い時も、ずっと側にはいれるんだよ。

だからさ、それじゃダメかな?」

ヘンリエッタ「……怒らないの?」

トリエラ「前の私も、結構問題児だったらしくてさ、そんなのが怒れるわけ無いじゃん…ほら」

ヘンリエッタ「パン……?」

トリエラ「お腹減ってるでしょ……美味しい?」

ヘンリエッタ「……うん」



トリエラ(「ここの」公社は理想的な場所かもしれないけど、天国じゃ無い)

トリエラ(条件付けが存在しない、という事は私たちはじゅくじゅくと血が溢れ出るような傷や痛みをそのまま持っているという事で、「前の」公社とは別の形の苦しみを背負っている)

トリエラ(おそらく以前の私も、それを一人で抱え込んで、孤立して苦しんでいたのだろう)

トリエラ(そう、今のヘンリエッタみたいに)



ヘンリエッタ「おいしいよう……」



トリエラ(その後ずっと、ポタポタと、涙を溢れさせる彼女を抱きしめていた)





12: ◆b3.GfOf6h. 2019/06/14(金) 18:41:22.69 ID:G/vnc86U0


公社病練

ジャン「君がトリエラか」

トリエラ「ええ、一度会ってみたくて」

ジャン「「夢」の話はジョゼから聞いた」

トリエラ「……広がってるんですか、あの話」

ジャン「君の担当官のヒルシャーからビアンキ博士経由でな……機密が漏れたかと焦ったよ」

トリエラ「機密?」

ジャン「誰にも言わないと約束できるか?」

トリエラ「……ええ」

ジャン「事実、ここはそうなりかけた事があるからだ。最新鋭の義体技術を使ったコストだけバカ高い福祉施設なぞ必要か、もっと「リターン」を、とな。俺もその立場に一旦たった事がある」

トリエラ「……「クローチェ事件」、ですか?」

ジャン「……そうだ。復讐のためならば地獄に落ちてもいい。君たちみたいな子供を殺人の道具として使い潰してでもテロリストに復讐を遂げてみせる—君にとっては鬼畜にも劣る言葉だろう」

トリエラ「ええ」

ジャン「それを変えたのは生死の境をさまよった「彼女」が生き残ったからだ。守ってほしいと、遺言を託されたからだ……緊急的に試験義体にされた彼女のダメージはひどく、もうあまり時間はない。会いに来ても俺の事を覚えていない。けれどソフィアに託されたここは守って行かなければならない……」

トリエラ「……いっしょに彼女と会ってみても、いいですか?」



トリエラ(ジャンさんは、静かにうなずいた)



トリエラ(病室で彼女は静かに本を読んでいた)

トリエラ(大量の医療機器に繋がれ、まるで操り人形のようだと思う)

トリエラ(彼女は私たちに気づき、顔を上げる)



エンリカ「……あら、かわいいお客様。」

トリエラ「……初めまして、トリエラと言います」



トリエラ(不完全で天国じゃ無いかもしれないけれど)

トリエラ(この場所で生きていこう、そう思う)



fin.



 


引用元: トリエラ「本当にどうしようもない、わがままで馬鹿な人—」