1: 名無しで叶える物語◆NsZhspKD★ 2025/04/16(水) 20:15:37 ID:???00
蓮ノ空女学院 食堂


さやか「おや、あれは……?」

泉「……さて、湯煎できる場所はどこにあるかな」

さやか「泉さん」

泉「ん? さやか先輩か。こんばんは」

さやか「こんばんは。泉さんも夕ご飯ですか?」

泉「ああ、このとおり、牛丼を食べようと思うのだが、どこで湯煎ができるのか迷ってしまってね」

さやか「それなら、向こうに共同キッチンがありますが……」

泉「ありがとう、まだ慣れないもので、助かったよ」

さやか「……ちょっと待ってください」

泉「どうしたのかな」

さやか「泉さんはいつもそのような食生活なんですか?」

泉「食生活……、そうだね、これまでは外で食べることが多かったけれど、ここではなかなかそうもいかないからね。それでも、こういうものがあるから何とかなりそうだよ」

さやか「毎日レトルトに頼るつもりですか? ……わかりました、ちょうど余分に作りましたから、一緒に食べましょう」

2: 名無しで叶える物語◆NsZhspKD★ 2025/04/16(水) 20:17:51 ID:???00
泉「ありがたい申し出ではあるけど、それは心苦しい。それに、レトルトも悪くないものさ」

さやか「一緒、に、食べましょう?」

泉「し、しかし、察するに余剰分は作り置きなのではないかな。それを私が頂いてしまっては……」

さやか「はあ、半端に察しがいいのも困りものですね」

泉「な、半端に……!?」

さやか「作り置き分なんて何とでもなるんですよ。そんなことよりあなたが心配だから誘っているんです」

泉「そうか、……そこまで言ってくれるなら、お相伴にあずかってもいいかな?」

さやか「ええ、喜んで」

3: 名無しで叶える物語◆NsZhspKD★ 2025/04/16(水) 20:24:39 ID:???00
泉「すごいな、これらを全てさやか先輩が作ったということか」

さやか「はい、わたしが作りました。大したものではありませんが」

泉「もしかしてさやか先輩はプロの料理人……、いや、まだ学生であるわけで、プロであるわけがないな。プロではないのに、これほどまでとは。感服するよ」

さやか「お褒めいただきありがとうございます。でも、そろそろいただきましょう?」

泉「そうだな。すまない。……それでは、いただきます」

さやか「はい、いただきます」

5: 名無しで叶える物語◆NsZhspKD★ 2025/04/16(水) 20:31:29 ID:???00
泉「……」

さやか「……」

泉「……」

さやか「どうしましたか? お口に合いませんでしたか?」

泉「いや、すまない。あまりにおいしくて、言葉を失ってしまった」

さやか「ふふ、気に入っていただけたようでよかったです」

泉「しかし、誰かが作ってくれる料理というのは、こんなにも素晴らしいものなのか」

さやか「……これからは、わたしがいつでも作ってあげますよ」

泉「それは流石に申し訳ない、と言いたいところだが、一度これを知ってしまっては、……断り難く思ってしまう」

さやか「甘えていいんですよ。いくら泉さんが即戦力の転入生だといっても、わたしの後輩なんですから」

泉「そう言ってもらえると、ありがたい。……恐縮だが、頼ってもいいのだろうか」

さやか「はい、お任せください。部員の健康管理も、部長の仕事です」

泉「では、改めてよろしくお願いします」

さやか「よろしくお願いします」

6: 名無しで叶える物語◆NsZhspKD★ 2025/04/16(水) 20:34:46 ID:???00
泉「しかし、これが手料理というものか……。さやか先輩になら、もしかすると」

さやか「どうしましたか?」

泉「いや、なんでもないんだ。人に言うような話では……」

さやか「健康管理は、体だけの話ではありません。心に引っかかっていることがあれば、話してみませんか?」

泉「……」

泉「その、さやか先輩を家庭的で包容力のある大人の女性と見込んでお願いしたいのだが……」

さやか「そこまで言われると自信はありませんが、はい」

泉「さやか先輩のことを、……お母さんと呼んでもいいだろうか」

さやか「は、はい?」

7: 名無しで叶える物語◆NsZhspKD★ 2025/04/16(水) 20:40:16 ID:???00
泉「……こんなことをお願いするのは、おかしいことだとわかってはいるつもりだよ。それでも、そう呼んでみたいという思いがあるのも、偽りない本心なんだ……」

さやか「泉さん……」

泉「いや、すまない。今のは忘れてほしい。手料理の暖かさに触れて、どうかしていたんだ」

さやか「……どうしてその思いを抱くのか、詳しくは聞きません。ですが、……わかりました。わたしが泉さんのお母さんになりましょう」

泉「……! その、本当にいいのだろうか」

さやか「ええ。ちょうど手のかかる先輩がいなくなって、時間を持て余していましたから」

泉「本当に、本当に、……感謝するよ。それじゃあ、早速だが呼んでみても……?」

さやか「いつでもどうぞ。泉さん」

泉「あの、……お、お母さん」

さやか「はい、なんでしょう」

泉「ああ……、ああ……」

泉「お母さん」

さやか「はい、お母さんですよ」

8: 名無しで叶える物語◆NsZhspKD★ 2025/04/16(水) 20:43:16 ID:???00
泉「……こんなことが実現するなんて。……ありがとう」

さやか「こんなことでいいならいつでも歓迎です。それに、他にも何かリクエストがあったら遠慮しなくてもいいんですよ」

泉「リクエスト。そうだな、……今晩レトルトの牛丼を食べようとしていたのは、何も手間をかけずにすませようとしていただけではないんだ」

さやか「はい」

泉「牛丼が好物なんだ。だから、お母さんの作った牛丼を食べてみたい、……と言ったら困らせてしまうかな」

さやか「いいえ、牛丼くらいならいつでもご用意しますよ」

泉「そ、そうか。重ね重ね、本当にありがとう。もし、私にもできることがあればなんでも言ってほしい。私の誇りにかけて、協力させてもらうよ」

さやか「ふふ、見返りを求めてのことではないので大丈夫ですよ。それにしても、大人びた見た目で意外と子供っぽいところ、あの人に似ていますね」

さやか「背格好も髪の色も近いですし。……そういえば姫芽さんが何か言っていましたね。薄目で見ると、とかなんとか」

泉「?」

さやか「そうですね。……では、少しお願いしたいことがあるのですが、聞いてもらえますか?」

泉「……! ああ、任せてくれ、お母さん」

10: 名無しで叶える物語◆NsZhspKD★ 2025/04/16(水) 20:51:38 ID:???00
翌日


さやか「それでは、わたしが薄目でそちらを見ますので、首を傾げて『さや』と呼んでください」

泉「はい、お母さん」

さやか「では、お願いします」

泉「さ、さや……💚」

さやか「もっと可愛らしい声で。それでも勝利請負人ですか? 次は誰の夢を叶えようかなどと言っていたのは本気ではなかったのですか?」

泉「いいや、私はいつだって本気さ。……だから、もう一度やらせてくれないだろうか」

さやか「わかりました。そういう挫けないところ、素敵だと思いますよ」

泉「ふふ、そんなことはないさ。……よし、いくよ。……さや❤️」

さやか「ああ……、ああ……」

泉「さや❤️ さや❤️」

さやか「綴理先輩……、どうして……、私を置いて……」

12: 名無しで叶える物語◆NsZhspKD★ 2025/04/16(水) 20:55:57 ID:???00
さやか「……はぁ、……はぁ、……ありがとうございました。よくできましたね」

泉「どういたしまして。それで、あの……」

さやか「はい、わかっていますよ。こちらがご褒美の特製牛丼です」

泉「あぁ……、ありがとう、……お母さん」

さやか「はいどうぞ、特別にチーズも乗せておきましたよ」

泉「これは……! さ、早速いただいていいかな」

さやか「どうぞ召しあがれ」

泉「……おいしい。……こんなおいしいものが食べられるなんて、編入した甲斐があるというものだね」

さやか「ふふ、慌てずよく噛んで食べてくださいね」

泉「はい、お母さん」

13: 名無しで叶える物語◆NsZhspKD★ 2025/04/16(水) 21:04:59 ID:???00
瑠璃乃「……えっと、あれは、どういうこと?」

花帆「うーん、お互い色々あるみたい。二人が納得してるならいいと思うよ」

瑠璃乃「まあ、そうかな……?」

花帆「でも、いいなあ。あたしもさやかちゃんに梢センパイやってもらおうかなー」

瑠璃乃「花帆ちゃん……?」

姫芽「いいですね~。そうすると泉ちゃん(綴理先輩)←さやか先輩(梢先輩)←花帆先輩(めぐちゃん先輩)←アタシということになりますね~」

瑠璃乃「ひ、ひめっち? ……ちょっと、ルリ段ボール取ってきていいかな」

セラス「我らがスクールアイドルクラブの明日はどっちだ」

小鈴「ちぇすとー!!」

吟子「完」

引用元: 【SS】「薄目で見るので、さやと呼んでください」「はい、お母さん」