部室

かすみ「前回の合宿で先輩たちにドッキリ仕掛けようとしたら、逆ドッキリ仕掛けられちゃったでしょ？」

璃奈「うん」

かすみ「だから今度の合宿こそは、かすみんのドッキリで先輩たちをビックリさせたいの！」

璃奈「うんうん」

かすみ「それでりな子に、前に学校をお化け屋敷にした時みたいな、先輩たちをとびっきり怖がらせるメカを作ってほしくて――」

璃奈「わかった。ちょっと待って」

かすみ「？　うん」




ｶﾞﾁｬｯ（ドアを開ける音）

从・-・ = ・-・从　ｷｮﾛｷｮﾛ

かすみ「………………」


ｶﾞﾗﾗｯ（窓を開ける音）

从・-・ = ・-・从　ｷｮﾛｷｮﾛ

かすみ「何してるの？」


璃奈「誰かがこの会話聞いてないかと思って」ｶﾞｻｶﾞｻ

璃奈「――よし。盗聴器チェッカーも反応なし。璃奈ちゃんボード『一安心』」ﾌｰｯ

かすみ「そこまでする？」

璃奈「用心するに越したことはない」

璃奈「この前のドッキリが失敗したのは、彼方さんがたまたま私たちの会話を聞いていたからだから」

かすみ「それは……そうだけど」


璃奈「でも実際のところ、彼方さんに聞かれてなかったとしても、あのドッキリはどこかで失敗していた気がする」

璃奈「かすみちゃん、詰めが甘いから」

かすみ「なによりな子？　かすみんの超カンペキな計画にケチつけるつもり？」

璃奈「うん。詰めが激甘。しゅがやみパフェよりも断然甘い」

璃奈「璃奈ちゃんボード『てんぷていしょん♥』」

かすみ「かすみんのパート取らないで！！」

璃奈「かすみちゃんはこういうイタズラをよく仕掛けたがる」

璃奈「でも上手くいった試しがない。ホント、よく懲りないね」

かすみ「そんなことない――っていうか、そもそもイタズラじゃないし！」

かすみ「これもかすみんがスクールアイドルとして一歩リードするための、立派な作戦なんだから！」ﾌﾝｽ


璃奈「みんなを怖がらせるドッキリで、どうやってかすみちゃんがリードするの？　璃奈ちゃんボード『はてな』」

かすみ「ふっふっふ～！　ズバリ、今回の作戦は！！」

かすみ「怖がってるみんなをかすみんが華麗に！カワイく助けることで！」

かすみ「みんながかすみんの新たな魅力にキュンキュン♥して、かすみんに一目置いちゃう！！」

かすみ「名付けて、『プリティーゴーストバスター★かすみん降臨！』作戦です！！」ﾌﾌｰﾝ

璃奈（もうこの時点でうまく行く未来が見えない）

璃奈「……この前も言ったけど」

璃奈「かすみちゃん、そういう計画を立てるの、性格的に本当に合ってないと思う」

かすみ「だーかーらー！！　そんなことないって！！絶対！！」

かすみ「こういう努力の積み重ねが、かすみんを明日のスーパーアイドルにしてくれるんだから！！」

璃奈（そうかなあ）


かすみ「ふんだ！いいもん！」

かすみ「りな子に頼らなくても、かすみんだって先輩たちを怖がらせるくらいできるんだから！！」ﾀﾞｯ


璃奈「ちょい待ち。かすみちゃん」腕ｶﾞｼｯ

かすみ「なによりな子！？　まだかすみんのことをバカに――」

璃奈「私、協力しないとは言ってない」




かすみ「………………」

かすみ「…………え？」

璃奈「ちょうど前のお化け屋敷のときより性能がいい投影機が手に入りそうなの」

璃奈「これならもっと迫力のあるお化けを映し出せる」

璃奈「私の演出や音声加工技術も前より上がってるはずだから、臨場感もずっと向上できると思う」

璃奈「トータルで前回の数倍、いや、数十倍以上もの恐怖体験を――」


かすみ「待って待って待って待って！！りな子ストップ！！」

璃奈「なに？かすみちゃん」

かすみ「かすみんを置いて勝手に話を進めないで！！」


璃奈「私に協力してほしいんじゃなかったの？」

かすみ「それはそうなんだけど、いま完全に断る流れじゃなかった！？　懲りないとか向いてないとか言って！」

璃奈「そうかな？」

かすみ「そうだよ！」

かすみ「なに？もしかしてこれがツンデレってやつ？　りな子がかすみんにデレてくれたの？」

璃奈「ツンデレ……」


璃奈「私、かすみちゃんにツンツンしてるって思わせちゃったんだ」

かすみ「えっ？」

璃奈「そんなつもり、これっぽっちもなかったのに」

かすみ「…………あっ」


璃奈「また誤解させちゃった。ごめんなさい、私、わかりづらくて」

かすみ「ちがっ！かすみんそんなつもりじゃ……！」ｵﾛｵﾛ




璃奈「………………」ｶﾞｻｺﾞｿ


ｽｯ

璃奈「璃奈ちゃんボード『べ、べつに落ち込んでなんかないんだからねっ！？』」

かすみ「ツンデレじゃん！！！！」

かすみ「あとそれ本当は落ち込んでるやつじゃん！！！！　かすみんどうすればいいの！！？」

璃奈「大丈夫。まったく気にしてないから。全部冗談」

かすみ「ほんっっっとうに反応しづらいのはやめてよ！！！！」

璃奈「ごめんごめん」

璃奈「閑話休題」

璃奈「お化け屋敷装置改良版、今から作り始めれば次の合宿にはギリギリ間に合うはず」

璃奈「だからそっちは私に任せて。かすみちゃんはみんなのカワイイ助け方とか考えておくといい」


かすみ「…………うーん……」

璃奈「どうしたの？かすみちゃん」

かすみ「かすみん、まだ納得いってないんだけど」

璃奈「？」


かすみ「ぶっちゃけりな子は、今回のかすみんの計画もどこかで失敗するって思ってるんでしょ？」

璃奈「ノーコメント」

かすみ「つまり思ってるってことね？」

璃奈「ノーコメント」

かすみ「もちろん、かすみんは絶対うまく行くって信じてるよ？」

かすみ「でもなんでりな子はかすみんに協力してくれるの？」

かすみ「失敗するって思ってるのにそんなにノリノリなの、おかしくない？」


璃奈「なんでって……そんなの決まってる」

璃奈「かすみちゃんと一緒に“こういうこと”をしてる時間が」

璃奈「とっても、とっても楽しいから」


かすみ「……そんなに？」

璃奈「うん。そんなに」

璃奈「私、ずっとずっと、お父さんとお母さんの手のかからないように生きてきた」

璃奈「それが正しいんだって、そう思ってた。思い込んでた」

かすみ「…………」


璃奈「そうやって過ごしてきたから」

璃奈「きっと、自分でも知らないうちに」

璃奈「友達と一緒に“こういうこと”をして過ごす時間に」

璃奈「憧れてた……んだと思う」

璃奈「あの子、愛さん、ミアちゃん――同好会のみんなと過ごす時間は、とっても大好き」

璃奈「だけどその中でもかすみちゃんは、“こういうこと”に私を誘ってくれる」

璃奈「“こういうこと”で私を頼ってくれる」


璃奈「かすみちゃんは」

璃奈「みんなとはちょっと違うワクワクを、私にくれる」


璃奈「だからかすみちゃんが、これからも私を面白そうなことに誘ってくれるなら」

璃奈「一緒に楽しいことができるなら」

璃奈「たとえうまく行かなそうな計画だったとしても、私はかすみちゃんにつき合うよ」


璃奈「うまく行っても、行かなかったとしても」

璃奈「私にとっては、友達と一緒に楽しいことができる時間、そのものが大切だから」

かすみ「……りな子……」




璃奈「――それはそれとして」

璃奈「かすみちゃんはそろそろ懲りた方が自分のためになるんじゃないかな、と思ってるのも本当だけど」

かすみ「一言多くない！！？」ｶﾞｰﾝ

かすみ「あと一瞬スルーしかけたけど、『うまく行かなそうな――』も余計だよ！！！」

璃奈「あ。どんな計画でもつき合うとは言っても、限度ってものはある。そこのところよろしく」

かすみ「そんなこと言われなくてもわかるよ！！　りな子はかすみんのことなんだと思ってるの！！？」

璃奈「靴にコッペパン詰めようとする人」

かすみ「ｸﾞﾊｯ」

璃奈「あれは私もさすがにどうかと思う」

かすみ「あっ、あれは……若気の至りとか、そういうので……！！」

璃奈「若気の至りって言えるほど昔の話じゃないよ？　私たちまだ1年生。同好会に入ってから1年経ってない」

かすみ「細かい事ツッコまないでよ！！　いまそういう話じゃないでしょ！！？」

璃奈（……なんて、もうわかってるけどね）

璃奈（かすみちゃんには、本当にイタズラやドッキリで済まされないようなことはできないって）

璃奈（例え自分では、何をしてでも誰よりリードしたい――って考えていたとしても）


璃奈（だって――）


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

璃奈「また誤解させちゃった。ごめんなさい、私、わかりづらくて」

かすみ「ちがっ！かすみんそんなつもりじゃ……！」ｵﾛｵﾛ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


璃奈（かすみちゃんは、誰かを傷つけたと思った時、本気で慌てちゃうような人だから）

璃奈（……あくどい作戦を考えようとする。でも心の底では誰も傷つけたくないと思ってる）

璃奈（だから最後には自分が損をする）


璃奈（まったく）

璃奈（“性格的に本当に合ってない”って言ったのは、そういうところもなんだよ？　かすみちゃん）

璃奈（でも、結局私も――そんなかすみちゃんだからこそ、）

璃奈（これからもずっと友達でいたいって、思っているんだろうな）




かすみ「とーにーかーくー！！」

かすみ「次のドッキリは絶対に成功させて、りな子の鼻を明かしてやるんだから！！！」

璃奈「それだと私、自分の鼻を明かすために協力することになるんだけど」

かすみ「でもりな子だって、失敗するよりは成功した方が嬉しいでしょ！？」

璃奈「……それは……」


璃奈「……うん。もちろん」

かすみ「でしょ！？」

かすみ「だからりな子も、ちゃんと先輩たちを怖がらせる装置作ってよ！？」

璃奈「わかった。天使天才天王寺の名にかけて、絶対に手抜きはしない」

璃奈「このドッキリが成功するように、尽力する」

かすみ「おおっ！頼もしいこと言ってくれるじゃん！」

かすみ「期待してるからね、りな子！！」

璃奈「璃奈ちゃんボード『ムンッ！』」




かすみ「よ～し！！」

かすみ「次の合宿こそは、先輩たちを恐怖でビビらせまくってあげますよ～！！」


――――――

――――

――

jΣﾐｲ˶º ᴗº˶ﾘ　――その後

jΣﾐｲ˶º ᴗº˶ﾘ　璃奈さんは本当に手を抜かず、合宿前日ギリギリまで時間をかけ、かすみさんのために最恐の恐怖装置を作り上げました


jΣﾐｲ˶º ᴗº˶ﾘ　そして迎えた合宿当日の夜

jΣﾐｲ˶º ᴗº˶ﾘ　装置を受け取ったかすみさんが試しに一人で起動してみたところ、あまりの怖さに泡吹いて卒倒

jΣﾐｲ˶º ᴗº˶ﾘ　そのまま次の日まで目を覚ましませんでした


jΣﾐｲ˶ˆ ᴗˆ˶ﾘ　こうしてドッキリは大失敗してしまいましたとさ。めでたしめでたし




かすみ「………………」

璃奈「………………」


かすみ「……ねぇ、りな子」

璃奈「………………」




かすみ「限度って知ってる？」

璃奈「ごめんなさい」


jΣﾐｲ˶ˆ ᴗˆ˶ﾘ　後日、璃奈さんはかすみさんに巨大パフェをおごったそうです。てんぷていしょん🩵

終