【SS】LOVELIBLEACH スクールソサエティ編 前編

427: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 17:47:30 ID:???Sd

#28 INVINCIBLE  VS  - AUDREY -



かすみ「しず子……!」

しずく「……!」


しずくは無言でかすみを睨みつけていた。

その表情には、怒りと悲しみと失望が混じっていて、かすみは一目見ただけで自分の状況のまずさを自覚する。


かすみ「ち、違うんだよしず子……」

しずく「違う?」

かすみ「っ……」


客観的に見て、到底言い逃れの出来る状況ではなかった。

自身の背中には処刑の決まっている重罪人の歩夢がおり、その彼女を閉じ込められていたはずの懺罪宮から連れ出してきているのだから。

どう見ても脱獄を手引きして脱走を手伝っているとしか映らない。

そして何より、それは真実なのだから。

428: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 17:49:22 ID:???Sd

かすみ「これには、理由が……」

しずく「理由? 護廷十三隊を、私を裏切ってでも上原歩夢を逃がしたい理由があるというの!?」


しずくは俯いてそう叫ぶ。

そこには最早、普段の冷静沈着な七番隊隊長はいない。

大切な親友の今の姿を、かすみの裏切りを認めたくなく心を千々に乱した桜坂しずくがそこにはいた。


かすみ「……」

しずく「私が納得できる理由が……あなたを許せる理由があれば、教えてよ……」

かすみ「……」

しずく「……」

かすみ「……ごめん、しず子」


かすみの答えに、しずくはビクッと肩を震わせる。

429: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 17:51:50 ID:???Sd

しずく「……」

かすみ「でも、お願い聞いて……」

しずく「……」

かすみ「ねえしず子聞いて! この人の魂魄には本当に危険な『力』が宿ってるの!」

しずく「……」

かすみ「それを『双極』で処刑してラブライブ!に捧げたりなんかしたら、きっと大変なことに——」



しずく「……そう、なんですね」

かすみ「!」

しずく「わかりました」

かすみ「しず子っ!」


しずくの答えに、かすみは顔を綻ばせ近づいた。


かすみ「……!?」


だが、笑顔はそのまま凍りつく。


しずく「あなたの裏切りが真実だと言うのなら、私があなたを斬ります」


しずくはそう言って、斬魄刀の切っ先をかすみの眼前に突きつけた。

430: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 17:53:24 ID:???Sd
  LOVELIBLEACH #28 

   
    INVINCIBLE   

      VS 

     - AUDREY -




           .

431: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 17:56:03 ID:???Sd

かすみ「本気、なの……?」

しずく「あなたのやっていることは、護廷十三隊の掟を破るものであり、明確な反逆行為です」

かすみ「……違う!」

しずく「違う? まだ同じ問答を続けますか?」

かすみ「違うよ! 私が言っているのは、本気で私を殺す気なのかってことだよ!」

しずく「……」

かすみ「私の言葉を……何も聞いてくれないの……?」

しずく「……私たちは誓ったはずです。言葉にはしなくても、あの時それを共有したはず」


しずく「せつ菜先輩を『大聖別』の生贄として捧げたとき、それを護廷十三隊の掟として受け容れたときに、私たちにとって"それ"は絶対のものになった」


かすみ「……!」

しずく「学園廷の安寧と護廷の掟……私たちにそれより優先されるものなどあってはならない」

432: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:00:19 ID:???Sd

かすみ「でも……私たちは、それでずっと苦しんできた!」

しずく「っ……」

かすみ「ずっと、後悔してきたんじゃん!」


しずく「後悔なんてしてないっ!!」


かすみ「!?」


しずくの、普段からは想像もつかない苦しそうな叫びが響く。


しずく「後悔なんてしてはいけない……それはせつ菜先輩の死を、それを受け容れた私たちの決断を全て無意味にしてしまう……!」

かすみ「……」

しずく「……!」


かすみ「それでも……私はずっと後悔してきたの! 後悔してきたんだよ!」


しずく「っ!」

かすみ「だから今度はもう後悔しないために、私はこの人の処刑を止める!!」

しずく「……!」

かすみ「……!」


二人は睨み合う。

しずくは壮絶な表情をしていた。

怒りと、悲しみと、困惑と、そして……ほんの僅かな妬み。

自分を差し置いて"解放"されようとするかすみへの、無意識の羨望。

433: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:01:41 ID:???Sd

しずく「もはや問答は無用ですね」


しずくの雰囲気が急に冷たいものに変わった。

友人であるかすみを止めようとする桜坂しずくから、冷徹に敵を排除する七番隊隊長桜坂しずくへ。

彼女は、揺れそうな心を殺し、隊長という役割を演じ始めたのだ。


かすみ「しず子……!」

しずく「私の手で、あなたの愚行を終わらせてみせる」

かすみ「っ!」


かすみはしずくに背を向け、脱兎のごとく逃げ出した。
『Poppin'Up!』で飛躍した跳躍力で、その場から文字通り飛んで逃げる。


しずく「無駄です」

かすみ「!?」


だが、跳んだ先には既にしずくがいて、斬魄刀の一閃が飛んでくる。


かすみ「うあっ!?」


脚を斬られるかすみ。

434: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:04:26 ID:???Sd

歩夢を背負っての不恰好な体勢での着地となったことで、斬撃がわずかに逸れていた。

もし予定通りに綺麗な着地をしていたら、足首から下は斬り落とされていただろう。


かすみ「くっ……わ、あっ!?」


かすみは片足立ちで何度か飛び跳ね、しずくから距離を取ったところで思わず転倒する。
歩夢を自らの下敷きにしないよう、彼女を庇って。


かすみ「う、ぐ……」


斬られた足がズキンと痛む。
この傷では走ることは難しいかもしれない。
少なくとも逃げ続けることは不可能に近いだろう。


しずく「あなたの身体能力と『Poppin'Up!』で、私の瞬歩から逃れられるわけがない」

かすみ「くっ……」

435: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:06:03 ID:???Sd

しずく「でも、少し意外でした。逃げるにしても『☆ワンダーランド☆』を使うと思っていたので」

かすみ「……」

しずく「それだったら解号を唱え終える前に喉笛を斬って終わりだったのに」


かすみはしずくの冷たい言葉にぞっとした。
本気で、自分を殺しに来ている。


しずく「……次に逃げたら、上原歩夢から狙います」

かすみ「!?」

しずく「かすみさん……これで最後です。上原歩夢をこちらに渡してください」

かすみ「……っ」

しずく「あなたでは私には勝てない……七番隊でずっと一緒に戦ってきたかすみさんが一番それをわかってますよね?」


しずくは、かすみを侮っているのではなかった。
共に戦ってきた二人が今まで積み上げてきた事実を、冷淡に突きつけている。

436: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:08:03 ID:???Sd

かすみ「……そう、かもね」


かすみはしずくの様子を見ながら、歩夢をゆっくりと自身の背中から降ろし抱きかかえる。
そのまま後退りしながら、歩夢を少し離れた地面に横たえた。


しずく「……なんのつもりですか?」

かすみ「この人を抱えたまま、しず子と戦えるわけないから」

しずく「!?」


かすみの言葉にしずくは一瞬驚きを見せるが、すぐにまた冷たく硬い表情を作り直す。


しずく「あなたが私と戦う? 本気で言ってるんですか?」

かすみ「……かすみんは、確かに戦闘が苦手だよ」

しずく「……」

かすみ「今までだってずっと誰かに助けられてきたし、そんな私がしず子に勝てるなんて、私でも思ってない……」

437: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:09:07 ID:???Sd

かすみ「でも『私じゃなかったら』わからないでしょ?」

しずく「……何を言ってるの?」


かすみが斬魄刀を抜刀すると、霊圧が大きく膨張した。
今までのかすみとは思えない巨大で強い霊圧。


しずく「こんな霊圧を、いつの間に……」

かすみ「現世で特訓してきたんだよ」

しずく「そんな短期間で……いや」


しずくは首を横に振る。


しずく「だから何だと言うのです……この程度の霊圧になったところで、私にとって誤差でしかない」

かすみ「この技には、本当はずっと前から辿り着いていたんだ……でも、その頃の私じゃ全く使いこなせなかった」

しずく「辿り着いていた……?」



かすみ「卍解だよ」



しずく「なっ……!?」

438: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:10:43 ID:???Sd

かすみ「かすみんは、戦闘が苦手……それはどんだけ訓練しても変わらなかったんだ。本質的に戦闘はかわいくないから、どれだけ磨こうとしても無理だったの」

かすみ「だからかすみんは……自分が強くなるんじゃなく、『自分が信じる無敵のスクールアイドル』に『成る』ことにしたんだよ」

しずく「無敵の、スクールアイドル……!?」


かすみ「ずっと戦闘面で誰かに助けられてきた私は、今また『無敵のスクールアイドル』の力を借りる——」



かすみ「——卍解!!」



かすみの解号とともに霊圧が爆発するように吹き荒れる。

光り輝くオーラに包まれたかすみの姿は見えなくなり、そのあまりの明るさにしずくは目を逸らす。

439: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:13:01 ID:???Sd

かすみ「『無敵級*ビリーバー』!!!」


叫びと共に、かすみを覆い隠していた輝くオーラが消し飛んだ。
そこに立っていたのは……


しずく「!!!??」


在りし日の優木せつ菜だった。


しずく「何……なの、これは……!?」

かすみ「私の『無敵級*ビリーバー』は、私の信じる無敵で最強のスクールアイドルの力を借りる能力」

しずく「あなたは、かすみさん!?」

かすみ「私の霊力が続く限り、私は『無敵のスクールアイドル』に変身していられる」


せつ菜の姿をした人間が、かすみの声でそう話す。


かすみ「私じゃ確かにしず子に勝てない……」

かすみ「だけど、せつ菜先輩ならきっと負けない!」


そう叫んでかすみは、『CHASE!』を振り上げしずくに突っ込んだ。

炎の剣としずくの剣がぶつかり合う。

440: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:15:08 ID:???Sd

かすみ「はっ!」

しずく「っ!」


ガキィン!


二人の鍔迫り合いは互角だった。

本来なら、かすみはしずくとぶつかれば競り合いにもならず一方的に押し負ける。

だが、かつての七番隊隊長であり、護廷十三隊最強とも謳われた優木せつ菜となった今、その力はしずくに勝るとも劣らないものになっていた。


しずく「その姿が……あの人が、あなたにとって無敵のスクールアイドルということですか……!」

かすみ「しず子だって、せつ菜先輩の強さは知ってるよね!?」

しずく「くっ!」


かすみはしずくの剣を弾き、連続で斬撃を見舞う。
しずくは、炎を纏ったその剣戟を回避は出来ず捌くので精一杯だった。

せつ菜だ。

せつ菜と闘っている。
せつ菜と斬り結んでいる!

441: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:19:02 ID:???Sd

かすみ「はあっ!!」


渾身の唐竹割りを、しずくは斬魄刀で受け止める。
そのまま再度、二人は鍔迫り合いの状態になった。

お互いの霊圧がぶつかり合い、周囲のものがその余波で吹き飛んでいく。


かすみ「うおおおお!!」

しずく「……」


二人は互いに譲らず押し合っていたが……


しずく「……くだらない能力です」

かすみ「う、あっ!?」


しずくは冷え切った声でそう呟くと、かすみの剣を思い切り弾き返し、距離をとる。


しずく「死者を愚弄するようなそんな技で私を倒そうなど……かすみさん、あなたには失望しました」

かすみ「っ……」


しずくは斬魄刀を自身の眼前で縦に構える。


しずく「打ってきなさい……せつ菜先輩の最強の技——」


しずく「——『Just Believe!!!』を」


かすみ「!?」

442: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:21:51 ID:???Sd

しずく「それで、私とあなたの力の差を教えてあげます」

かすみ「なんだってぇ……!」


かすみは、明らかな挑発に乗るべきか一瞬悩んだ。
しかし……


かすみ「……くっ」


自身の霊圧の低下を感じ、短期決戦しかないと判断して『CHASE!』を自身の頭上に両手持ちで構える。


かすみ「いくよ……!」

しずく「……」


かすみの剣に爆炎が噴き上がる。
同時に、かすみの霊力が一気に減っていく。


かすみ(やっぱり、『無敵級*ビリーバー』は長く保たない……せつ菜先輩の力を再現するのはあまりにも霊力の消費が激しすぎる……!)


それが、かすみが短期決戦を選んだ理由だった。
この最強の技で一気にしずくを倒すしかない。


かすみ「はあああっ!!『Just Believe!!!』!!!」


かすみが巨大な炎の斬撃を放った。

443: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:23:20 ID:???Sd

しずく「散れ『Solitude Rain』」


斬撃の瞬間に霊圧を最大限に放出することで炎の斬撃を飛ばす『Just Believe!!!』に対し、しずくは斬魄刀を解放すると、剣の雨を滝のように自身の前に降り注がせた。

剣の滝がまるで盾のように立ちふさがり、かすみの放った『Just Believe!!!』にぶつかり受け止める。


しずく「……」

かすみ「なっ……そんな!?」


そして、最終的には完全に受け切ってしまった。
剣の雨が止み、その向こうに無傷のしずくの姿が現れる。

444: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:24:42 ID:???Sd

かすみ「ど、どうして……ここまでの差があるっていうの……!?」

しずく「……あなたの参照したせつ菜先輩の力は、二百八十年前のものでしかない。その期間研鑽を続けていた私に、そんなものが通用するわけがないじゃないですか」

かすみ「くっ……」


かすみの霊圧がどんどん萎んでいく。
優木せつ菜の姿をいつまで維持できるかすら怪しくなっていくほどに。


しずく「かすみさん……あなたは護廷十三隊の掟を破り、その誇りを失い、大切な人の思い出さえ穢すような愚かな真似をした」

しずく「もしあなたが信じたものが『無敵になった自分』だったとしたら、この勝負はわからなかったかもしれないのに」

かすみ「……!」

しずく「幕を降ろしましょう……友人として、せめて私の全力で葬ることにします」

445: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:26:31 ID:???Sd

そう言うと、しずくは斬魄刀の切っ先を地面に向け、そのまま手放した。


しずく「卍解——」


しずくの手から落とされた斬魄刀は真っ直ぐ地面に吸い込まれるように消えていき、しずくの背後に巨大な光の女優のシルエットが現れる。



しずく「『Solitude Rain - オードリー -』」



かすみ「!?」


解号と共に、かすみを逃げ場なく取り囲むように桜色の剣が無数に現れる。

数千本はあるその桜色の剣は、その一つ一つがしずくの『Solitude Rain』であった。


しずく「散れ」


しずくの命令と共に、桜色の剣は全て剣の雨へと変化しあらゆる方向からかすみに降り注いでいく。

446: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:27:50 ID:???Sd

かすみ「…………」

しずく「……終わりです、かすみさん」


桜の雨が降り終わったとき、そこには身体中を切り刻まれ血まみれで倒れるかすみの姿があった。

変身は既に解けてしまっている。

彼女はぴくりとも動かず、流れ出た血が血溜まりを作っていく。


かすみ(ごめ、んなさい……侑、せんぱ……)


かすみが最後に思い浮かべたのは、侑の姿だった。






侑「え……?」

マルガレーテ「?」

侑「かすみ、ちゃん……!?」


かすみちゃんの霊圧が……消えた……?

447: 名無しで叶える物語◆URT2MLTf★ 2025/09/30(火) 18:30:14 ID:???Sd
#28 INVINCIBLE  VS  - AUDREY -

END


今日はここまでです。


かすみんの霊圧が消えた……?

これをずっとやりたかったのですが、まさか初出がこんなシリアスシーンになってしまうとは……

451: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:17:53 ID:???00

#29 TWO LEADER JOIN FORCES



しずく「……」


しずくは霊圧が消えかけているかすみを一度見、そのまま気を失っている歩夢の元へと歩を進めた。


しずく「縛道の四十四『Maze Town』」


しずくが手をかざしそう唱えると、地面に亜空間が現れ横たわった歩夢の身体を呑み込むようにして隠していく。

『Maze Town』は自身の持ち物を亜空間に保管し持ち歩くことができる。

取り出すのももちろん自由に出来るが、本来は荷物に使うものであり、人を運ぶための技術ではなかった。

亜空間に『固定』された人体は、時間停止状態のようなものであり、それは決して身体へいい影響を与えるとは言えないからだ。

そんなものを使用する時点で、しずくの歩夢に対する心情が見て取れる。


しずく「……さようなら、かすみさん」


しずくは倒れたままのかすみに背を向け、その場を後にした。

452: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:19:08 ID:???00

かすみ「…………」

エマ「……かすみちゃんっ」


しずくがこの場を離れたタイミングを見計らっていたかのように、入れ替わりで十二番隊副隊長のエマが現れる。

彼女は倒れているかすみの前で納刀した斬魄刀を構えると、解号を唱えた。


エマ「抱きしめて『Evergreen』」


エマは始解し抜刀するも、その剣は見た目には何も変わっていない。


エマ「ごめんねしずくちゃん……わたしは、かすみちゃんに死んでほしくないし、しずくちゃんに親友を殺したなんて十字架を背負ってほしくもないの……」

453: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:20:31 ID:???00

エマはそう言うと、斬魄刀をそのままかすみの胴に突き刺した。
かすみの四肢が、びくんっと反射的に動く。

しばらくすると、かすみの身体から、切り刻まれた無数の傷が徐々に消えていった。


エマ(わたしの『Evergreen』で、斬魄刀の効果で傷つけられた身体は元に戻せる……)


エマの斬魄刀『Evergreen』の能力は、他の斬魄刀の能力によって起きた結果の解除・無効化である。
斬魄刀の能力によって起きた事象の消去とも言える、強力な性能を持つ。

例えば斬魄刀が生み出した炎で火傷を負ったとして、その火傷を負った肉体を『Evergreen』で攻撃することで、火傷を負ったこと自体を無かったことにできる。

エマは今、しずくの卍解で切り刻まれてしまったかすみを『Evergreen』で刺すことで、しずくの能力で負った傷を全て無かったものにしようとしていた。

454: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:23:13 ID:???00

エマ(でも、わたしの能力は回復じゃない……)


『Evergreen』は他の斬魄刀の能力で起きた結果を解除するだけであり、それによって傷を消すことは出来ても、傷ついた結果失われた血液や消耗した霊力等を回復させることは出来ない。

当然、死んでしまえば蘇らせることなど不可能だ。

またその他にも、様々な制約がある。

まず、この斬魄刀を始解している内には、斬撃によるダメージを与えることができない。

『Evergreen』を発動中は、斬魄刀の能力発動が優先され、相手を斬ろうが刺そうが傷つけることが出来なくなる。


また、斬魄刀の能力自体を打ち消すことは出来ないため、ダメージを負う等の結果が起きるまではその効果を持てない。

455: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:24:55 ID:???00

そして『Evergreen』の能力を発動するためには、結果に対して『Evergreen』による攻撃が必要なため、エマが一撃で斬魄刀を振るえないほどのダメージを負ったりすれば、使えなくなってしまう。

もちろん、始解もしていないただの斬魄刀や武器による怪我、その他要因の傷病についても治すことなどできない。


エマ(よし、傷はなくなったみたい)


それでもエマの能力は圧倒的であり、身体中にあった傷が数分の内に消えていた。


エマ(はやく、かすみちゃんを手当してあげないと……!)


エマは気を失ったままのかすみを抱きかかえ、自分の拠点……十二番隊副隊長室へと急いだ。

456: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:25:26 ID:???00


LOVELIBLEACH #29 


TWO LEADER

JOIN FORCES



         .

457: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:27:59 ID:???00

高海千歌が所属する九番隊は、通称『十千万旅館』と呼ばれる高海家の屋敷がそのまま隊舎として利用されている。

学園界にかつて存在した階級制度の中で、最も高位とされた六大貴族と呼ばれる名家の一つである高海家は、学園廷において代々『盾の守護者』を担っており、千歌は現当主である。

もっとも、千歌自身はそんな立場を鼻にかけることはなく、そもそも現在は六大貴族という地位や『盾の守護者』という役割すら何の権力も持たない形骸化したものになっているため「なんかバカでかい家が実家になってる」ぐらいの感覚しか持ち合わせていない。

とはいえ別に自身の立場や家が嫌いということもなく、家族仲も良好である。

458: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:29:22 ID:???00

かのん「千歌ちゃーん! ごめんくださーい!」


かのんは、千歌に会うためにその九番隊隊舎十千万旅館に来ていた。

屋敷の規模に見合った大きな玄関で声を上げるが、いつもは取り次ぎのため待機している隊員が今は戦時体制でいないため、返事がない。


かのん(どこにいるんだろう……霊圧は確かにこの隊舎辺りのはずなんだけど)


かのんは千歌の霊圧を探ってここまで来たわけだが、霊圧検知は細かな居場所まで特定出来るものでもなかった。

この大きな屋敷の何処かにはいるのだろうが、探すのは少し手間かもしれない。

459: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:33:36 ID:???00

かのん(仕方ない、とりあえずしらみつぶしに……)



チュドーン!!!



かのん「!? なに今の!?」


かのんが隊舎内を探そうとした瞬間、爆発音と共に屋敷全体が揺れるほどの衝撃が走った。

いったん外に出、屋根の上に移動する。


かのん「倉庫……?」


屋敷の敷地内の端にある大きな倉庫から、妙な霊圧が出ている。
九番隊副隊長の桜内梨子の霊圧であった。


かのん「あそこに、梨子ちゃんがいるの……?」


かのんは、何があったのか確認するために瞬歩で倉庫へと向かう。

460: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:35:16 ID:???00

メイ「これは……!」

冬毬「……!」


メイと冬毬は、目の前の光景に言葉を失った。


二人は、隠密行動をとりながら無事目的地に辿り着いていたが、そこには上層から地下深層まで、まるでくり抜かれたように各階に巨大な穴の開いた懺罪宮があったのだ。

これでは全く牢の機能を果たしていないのは明らかで、しかしそれ以上に不可解なことだらけだった。


まず、どんな力を使えばこんな大規模な破壊が出来るのかが見当もつかなかった。

懺罪宮は霊力を分散・吸収する殺気石で出来ており、鬼道や斬魄刀の能力を無効化レベルで減衰する。
それがこんな破壊をされているのは、霊的能力ではなく物理的な力だとしても時間的にあり得ない。

461: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:37:29 ID:???00

そして、こんな壊され方をしていて懺罪宮がまだ建物としての体裁をとっているのが理解しがたい状況だった。

各階に大穴が出来、建物全体が貫かれているのに全く崩壊もせず建ったままの建築物など、本来なら物理的にあり得ないように思われた。

最後に、こんな大事が起きていながら隠密機動総司令の冬毬に何の報告や連絡も上がってきていないことだ。

確かに今の学園廷は戦時体制にあり、懺罪宮の看守番自体は今日は非番、もとい学園廷内の警戒任務に駆り出されて不在である。

しかし、これだけの大規模な破壊活動が行われれば、学園廷全体の警察業務を行う隠密機動が気付かないはずがない。

なのに、その総司令である冬毬が、この現場に来るまでこの事実を知ることが出来なかったのだ。

つまり、隠密機動は『誰も懺罪宮の状況に気付いていない』ことになる。そしておそらくは、護廷十三隊の誰も……

462: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:38:37 ID:???00

メイ「一体、どうなってる……!?」

冬毬「わかりません……何故こんなことに……!」


混乱が焦りを生み、焦りが更に混乱させる悪循環。


メイ「……!」


だが、メイはそれに気付きぶんぶんと頭を振った。
理解出来ないことを考えても答えは出ない。
その前に自分たちの目的を思い出せと自分に言い聞かせる。


メイ「冬毬、歩夢はどこに収容されてる?」

冬毬「地下の懺罪宮最深層です」

メイ「……行ってみよう」

冬毬「……」


こんな状況なのだ、既に脱走されていてもおかしくはない。
それでも、逆にこの破壊に巻き込まれているとも限らない。

その確認は必要だろうという判断だった。

二人は懺罪宮の地下へと降りていく。

463: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:40:47 ID:???00

花帆「……」


その様子を、花帆は霊圧を消して影から隠れて見ていた。

何とか二人に見つからずやり過ごした彼女は、当初の目的通り動き出す。


花帆(なんで、あの時気付かなかったんだろう……!)


『シュガーメルト』で忍ばせた自分の霊圧が動いているということは、梢に贈ったオレンジのガーベラの髪飾りが移動しているということ。

その時花帆は、あの懺罪宮に晒されていた梢の死体がつけていたのが赤い椿の髪飾りであったのを思い出したのだ。

あの髪飾りは、五番隊隊長室に置いてあったにもかかわらず。

464: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:41:49 ID:???00

花帆(何かがおかしい……!)


考えられるのは二つ。

何者かが理由あって赤い椿の髪飾りの工作をしてでもガーベラの髪飾りを奪い、今も持ち歩いているか。

あるいは、梢の死体はなんらかの偽物で……今も梢は生きていて、ガーベラの髪飾りをつけているかだ。


花帆(梢センパイ……!)


花帆は、移動する自身の霊圧を追い掛ける。

その先に待つのが憎き仇か、誰なのかわからなくとも……絶望の中で見つけた希望に、花帆は飛びつくしか出来なかった。

465: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:44:41 ID:???00

千歌「よしっ! これで封印解除できたよ!」

梨子「ハァ、ハァ……」


十千万旅館倉庫の中で、千歌の嬉しそうな声が響く。


千歌「いやーやっぱり凄いね梨子ちゃんの卍解! 『双極』と同じ天賜兵装の封印解除には生徒会全員の霊力を使ったって一週間以上掛かりそうなのに、あっという間に出来ちゃった!」

梨子「ぜぇ、ぜぇ……おかげで……私の霊力は、すっからかんになったけどね……!」

千歌「うん! ありがとう梨子ちゃん!」


嬉しそうに笑う千歌に、梨子は恨み言の一つも言いたい気分だったが、そこにかのんが現れる。


かのん「大丈夫二人とも!? なんかすっごい音したけど……」

466: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:47:55 ID:???00

千歌「あれ、かのんちゃん? どうしたの?」

かのん「えっと、千歌ちゃんにちょっと訊きたいことがあって……って、梨子ちゃん大丈夫?」

梨子「うっ……」

千歌「えっ? わ、わああ!? 梨子ちゃん!?」


その場でふらりと倒れそうになった梨子を見て、二人は慌ててその身体を支えた。


千歌「ご、ごめん流石に無理させちゃった?」

梨子「き、気にしないで……急激な霊圧の変化で少しふらついただけだから」

千歌「そ、そっかあ……梨子ちゃんの『New Romantic Sailors』は超絶バ火力だけど、霊力消耗激しいんだっけ……」

かのん「に、『New Romantic Sailors』? 二人ともここで何してたの!?」


かのんは会話の端々に聞こえる単語に不穏さを覚える。

467: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:48:54 ID:???00

千歌「こいつの封印を解除してたの! 霊力が死ぬほど必要だから梨子ちゃんに手伝ってもらってたんだ!」

かのん「これは……」


千歌の前には、身体を覆い隠すほどの大きさの盾が立っていた。

いわゆるカイトシールドと呼ばれる形状だが、上部にだけ何かを差し込めるような二つの窪みがある。


千歌「『盾の守護者』高海家に伝わる天賜兵装『無極』……『双極』を止められる盾だよ!」

かのん「! これが、『双極』を止める兵装……でも、どうして?」


かのんは自分が探し求めていたものが突然目の前に現れた幸運に、逆に戸惑いを隠せなかった。

そもそも千歌たちはいったい何をしようとしてたのか。

468: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:49:45 ID:???00

千歌「今回の事件、なーんか納得がいかないんだよね」

かのん「納得がいかない?」

千歌「うん……なんか変なこと考えて動いてる人がいる気がして、ヤな感じがするんだ」

かのん「……」

千歌「で、その大元になってるのが何かって考えたら、『双極』による処刑だなって思ったの!」

かのん「!」

梨子「千歌ちゃん……だから『双極』をぶっ壊すって言い出して……」

かのん「そ、『双極』をぶっ壊す!?」

千歌「まあ私も使ったことないし見たこともないから知らないんだけどね! でも『双極』を止められるってことは『無極』でぶっ壊せるってことかなって!」

かのん「そ、そうかな……?」

469: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:52:29 ID:???00

千歌「で、そのお手伝いを梨子ちゃんにお願いしてたの。『New Romantic Sailors』は、梨子ちゃんの霊力を斬魄刀を通して極限まで増幅させてビームとして放つ卍解」

千歌「『無極』は『双極』と同じくらい解放に霊力が必要……だから、そいつを全部ぶち込んでみたんだ!」

かのん「え!? あの『New Romantic Sailors』のビームを、解放用の霊力充填に使ったってこと!?」

千歌「うん! ちょうどよく足りたみたいでラッキー」

かのん「えぇ……」

梨子「かのんちゃんの気持ちはわかるよ……ほんとにムチャをさせられたと思ってるから私も……」

かのん「あ、あはは……」

470: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:54:04 ID:???00

かのんは梨子の卍解『New Romantic Sailors』の能力を知っていた。


巨大化した斬魄刀に自身の霊力を注ぎ、それを増幅装置として霊圧を極大化して超強力なビームとして発射する。

その威力は凄まじく、その気になれば学園廷の区画ごと吹き飛ばしてしまうレベルであるため、下手に使用することはできない。


かのん(それを使ったって、一歩間違えれば大惨事だよ……でも)


千歌の目論見通り、目の前の『無極』はそのエネルギーを全て呑み込み、覚醒した。

それは暗に『無極』のとてつもない力を示している。

471: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:55:53 ID:???00

千歌「終わりよければ全てよしだからね!」


そう笑う千歌に何の確信があったのかは不明だが、彼女はそれがうまく出来てしまう少女だった。

直感は真実を見通し、行動力が結果を呼び寄せる。

その素質に関しては、護廷十三隊で右に出るものはいなかった。


梨子「ほんとにあり得ないんだからね!? こんなところで卍解使ったなんてダイヤさんにバレたら私がとんでもなく怒られるんだよ!?」

千歌「いやーごめんごめん! ほんと助かったよ!」

かのん「……」


……周りを巻き込むデタラメさもトップクラスだが。

472: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:57:03 ID:???00

千歌「よし、あとはこれを解放状態の『双極』の前で発動させればいいだけ」

かのん「発動?」

千歌「うん、『無極』は盾だけどこれはあくまで形だけで、『双極』をこれで受け止めるわけじゃないみたい」

千歌「この窪みのとこに二人同時に斬魄刀を差し込んでそれで発動するらしいんだけど……」


千歌はちらりと梨子を見る。


千歌「……そこも梨子ちゃんに手伝ってもらおうと思ってたけど、難しそうだよね?」

梨子「霊力使い切っちゃったから……少し休ませて……」

かのん「……あのっ」



Pi! Pi! Pi! Pi! Pi!



かのん「!?」


かのんが自分が代わりになれないかと名乗り出ようとした瞬間、伝令神機の受信音が鳴り響く。

かのんのものだけではない、千歌と梨子のそれも同じく音を出していた。

473: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 21:59:04 ID:???00

かのん「みんなに来てるってことは全隊命令……まさか!?」

千歌「えっ!? 処刑が今日に!?」

梨子「もう、『双極』を解放済み……!?」


そこには、総隊長のダイヤからの簡潔な内容のメッセージがあった。
上原歩夢の処刑の前倒しというただそれだけの報告。

理由も説明も記されてないことが、覆しようのない決定事項であることを逆に示している。


かのん「こんなのって……!」

千歌「……良くも悪くもタイミングばっちしってワケだ」


かのんと千歌は、お互い示し合わせたわけでもなく自然と視線を交わし頷き合った。


千歌「かのんちゃん、力を貸してくれる?」

かのん「うん! 千歌ちゃん、私はこの処刑を止めたい!」


二人は、どちらと言わず手を差し伸べ、握手を交わす。

474: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 22:00:19 ID:???00

梨子「……」


それを、梨子だけが浮かない顔で見ていた。


梨子「本当に行っちゃうの? 千歌ちゃん」

千歌「うん、やっぱりこの処刑は何かがおかしいと思うんだ」

梨子「……ダイヤさんと、ぶつかることになるんだよ?」

千歌「……」

かのん「……」

千歌「……そうだね」

梨子「!? だったら!」


千歌「梨子ちゃん、ごめん……今回は久々にダイヤさんと大喧嘩しなきゃいけない気がするんだ」


梨子「っ!」

千歌「曜ちゃんのいなくなった『大聖別』以来かあ……四百年も、私たちどこかバラバラだった気がする」

梨子「千歌ちゃん……」

千歌「喧嘩して、仲直りしてくるよ」


千歌はそう言って、梨子に微笑みかけた。

475: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 22:01:51 ID:???00

千歌「梨子ちゃんは、霊力回復するまでうちでゆっくりしてて」

梨子「……すぐに私も行くから」

千歌「うん、待ってるね! 早く来て止めてくれないと……学園廷にまた"温泉作っちゃう"かもしれないよ!」

梨子「もう……冗談になってないよ……」


ニコッと笑う千歌に、梨子は苦笑せざるを得なかった。


千歌「行こう、かのんちゃん!」

かのん「うん、千歌ちゃん!」


二人は『無極』を携え、『双極』の丘へと走り出した。

476: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/03(金) 22:05:58 ID:???00

#29 TWO LEADER JOIN FORCES

END


今日はここまでです。



梨子ちゃんの卍解は雀蜂雷公鞭さんのレーザービーム版だと思っていただけたら……
ちなみに本作だと副隊長も全員分卍解の設定は作ってます
バーゲンセールだ!

479: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:16:03 ID:???00

#30 COLOSSEUM



侑「……」


私はマルガレーテちゃんとセラスちゃんと一緒に、歩夢が捕まっているという懺罪宮に向かっていた。

先導するマルガレーテちゃんは本当はもっと凄い速さで移動できるらしいんだけど、私に合わせてその脚で走ってくれている。


セラス「……侑」

侑「……」


私の後ろを守るように走っていたセラスちゃんが、少しスピードを上げて私に並ぶ。


セラス「大丈夫? さっきから少し顔色が悪いけど」

侑「うん……何ともないから大丈夫」

セラス「……」

侑「……」

セラス「……かすみって、あなたの知り合い?」

侑「!」


セラスちゃんは、伺うように私の顔を覗き込んでくる。

480: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:17:13 ID:???00

侑「私たちを、この学園廷に連れてきてくれた人なんだ」

セラス「へー、そんな人がいるんだ」

侑「うん、でもさっき突然、なんだかかすみちゃんの霊圧がなくなった気がして……」

セラス「……」

マルガレーテ「……七番隊の中須かすみでしょ」


マルガレーテちゃんが、こちらを振り返ることなく言った。


侑「マルガレーテちゃん知ってるの!?」

マルガレーテ「まあね……隊長格のくせにやけに弱っちいヤツだったから、そっちの印象でね」

セラス「ふーん……マルちゃん隊長も虹ヶ咲に知り合いとかいたんだ」

マルガレーテ「別に知り合いってほどじゃないわ、実際私は霊圧が消えたのにも気付かなかったし……」

セラス「……」

481: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:18:50 ID:???00

マルガレーテ「ああ、でも今はちょっとした有名人になってるか」

侑「?」



マルガレーテ「護廷十三隊の裏切り者として『旅禍の一団』に認定されてるもの」



侑「えっ!?」

セラス「それじゃあ、霊圧が消えたっていうのは……」

マルガレーテ「フツーに考えたら護廷十三隊の誰かにやられたんでしょうね」

侑「そんな……」


かすみちゃんが、裏切り者としてやられた……
私たちに手を貸してくれたせいで……?


マルガレーテ「……今更理解したの? 私たちが今やろうとしてることは、そういう結末を迎えるかもしれないことなのよ」

侑「……!」

482: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:22:47 ID:???00

セラス「まあ、侑とここまで一緒に行動してる時点でもう本当に今更だけどねー」

侑「そう、だね……ごめん二人とも」

マルガレーテ「勘違いしないでちょうだい、私は別にあんたに協力してるつもりはないわ」

侑「……目的が同じなだけ、だよね」

マルガレーテ「わかってるじゃない」

侑「うん、でもありがとう」

マルガレーテ「ふん……」

セラス「……」


セラス(少し前までマルちゃんの霊圧さえわからなかったのに、マルちゃんでも感じられなかった霊圧の消失を知覚出来たなんて……)


侑「?」


セラスちゃんは、私のことをじぃっと見つめていた。


侑「どうかした?」

セラス「別に……」


セラス(この子……マルちゃんとの闘いでいきなり成長したの?)

483: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:23:20 ID:???00


LOVELIBLEACH #30



  COLOSSEUM




         .

484: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:25:14 ID:???00

侑「ここは……?」


そんなことを話してると、目の前に大きな門が現れる。
明らかに強固なその扉は、安易に人の出入りを認めないことを示していた。


マルガレーテ「大擂台よ、護廷十三隊の模擬演武なんかをやるための闘技場」

侑「そんなとこまであるんだ……」


見る限りだいぶ規模の大きなもののようだった。

そういう用途があるのかはわからないけど、数千人は収容できそうなまさしくアリーナのような建物だ。


セラス「ここを突破するの?」

マルガレーテ「ええ、懺罪宮への直線距離ならここを真っ直ぐ行くのが一番」


そう言うと、マルガレーテちゃんは不敵な笑みを浮かべて自分の中から斬魄刀を取り出す。

485: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:26:21 ID:???00

セラス「あーあ……もう止めらんないね」

マルガレーテ「ふ、フフフ……さあ! これは私たちの反逆の狼煙よ!!」


あのテンションになったマルガレーテちゃんは、『エーデルシュタイン』で目の前の門に全力の横薙ぎ一閃を見舞う。


侑「!?」


門が真っ二つになり、それどころか建物の入口自体が崩壊した。

そのまま破壊は連続し、こちら側の闘技場の壁が音を立てて崩れ落ち瓦礫に変わっていく。


マルガレーテ「さあ行くわよ!」

侑「こ、ここまで派手に壊す必要あったのかな……」

セラス「マルちゃん隊長の趣味みたいなものだからね」


私たちは瓦礫の山を踏み越え、大擂台の中へと歩を進めた。

486: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:28:20 ID:???00



??「ほんとに、ここに来るなんてね」



侑「!」


闘技場の真ん中、アリーナの中央に誰かが立っていた。

金髪の長髪の女の子と、グレージュのボブカットの女の子の二人。


可可「ほら! 可可は言いマシタよね! 南門側から上原歩夢を狙う賊が来るなら必ずここを通ろうとスルと!」

すみれ「はいはい……珍しくあんたの予想が当たったのは認めてあげるわよ」

可可「ム? なんだか随分太い態度デスねすみれ、有能副官の可可がいなければ会敵も叶わぬ無能グソクムシ隊長になりかねなかったのデスよ!?」

すみれ「うっさいわね! 今それどころじゃないのわかってるでしょう!?」


な、なんだかいきなり痴話喧嘩みたいなのが始まったよ?
ここの人たちなんかこういうの多くない……?

487: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:29:50 ID:???00

セラス「あの二人は……」

侑「知ってるの?」

セラス「六番隊の隊長と副隊長だよ、マルちゃん隊長の一応先輩なんだって」

セラス「名前は確か……なんだっけ鶏肉関連みたいな……つみれとコッコ?」

すみれ・可可「すみれよ!! / 可可デス!!」

セラス「おー、仲良しですね」

マルガレーテ「……」


マルガレーテちゃんは、無言のまま私たちより前に歩み出た。
その手には既に斬魄刀が握られている。


すみれ「マルガレーテ……!」

マルガレーテ「なんだかんだ顔を合わせるのは久々ね、すみれ先輩、可可先輩」


マルガレーテちゃんがそう言うと、二人の霊圧がいきなり敵意の強いものに変わった。

488: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:30:51 ID:???00

すみれ「マルガレーテ、あんた自分が何をやっているのかわかっているの!?」

可可「アナタがやっていることは、明確な護廷十三隊への裏切り行為デス! いくら『旅禍』に敗北を喫したとはいえどういうつもりデスか!?」

マルガレーテ「あら、随分耳が早いのね」

可可「可可の情報網をナメてもらっては困りマス」

マルガレーテ「なら話が早いわ、私はこっちにつくことにしたの」

すみれ「どういうつもりよマルガレーテ!?」

マルガレーテ「簡単な話よ、こっちについた方が『先輩方』と戦えて面白そうでしょう?」

可可「またあの戦争の頃のマルマルに戻ってしまったというのデスか……Liella!の輝きで、アナタは更生したと思っていたノニ!」

489: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:32:57 ID:???00

すみれ「ナンセンスったらナンセンスだわ……上原歩夢の処刑はもう始まるわ、あなたたちの反逆は何の意味もないのよ!」

セラス「!?」

侑「処刑が始まる!?」

マルガレーテ「……どういうこと?」

可可「さっきいきなり今日に前倒しになったんデス! 既に『双極』も解放済みデスよ!」

すみれ「しずくが上原歩夢の身柄の確保に向かってるわ、それが『双極』の丘に届き次第、処刑は始まるのよ」

侑「そんな……!」

セラス「……」

マルガレーテ「……セラス」

セラス「うん」

マルガレーテ「あんたは侑を『双極』の丘まで案内してやりなさい」 



マルガレーテ「この二人は私が相手するわ」



可可「什么っ!?」

すみれ「一人で私たち二人を相手取ろうっていうの!?」

490: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:33:56 ID:???00

マルガレーテ「ええそうよ? それが一番楽しめそうだから」

すみれ「……私も舐められたものね」

可可「マルマル、アナタがいくら強いとは言え流石に可可をナメすぎデス」

すみれ「可可なんて必要ないわ、私一人で充分よ」

可可「それはこっちの台詞デスよ! すみれなんて足手まといになるだけデス、可可が一人でやりマス!」

すみれ「ハァ!? 何ふざけたこと言ってんの!? あんたはすっこんでなさい! これは隊長命令よ!!」

可可「お飾り隊長の横暴など認めマセーン!!」

マルガレーテ「……二人同時に来いって言ってんだけど」

491: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:36:24 ID:???00


セラス「……縛道の十七『Poppin'Up!』」



侑「! セラスちゃん、これは?」


わーわー言い合ってる二人を無視して、セラスちゃんが手をかざして私に何かをした。


セラス「補助鬼道だよ、今侑の身体をすごく軽くしてジャンプ力も上げたの……なんなら少しの間は浮遊してもいられる」

侑「どういうこと?」

セラス「『双極』の丘はここから南西の場所にある。今の侑なら『双極』の放つ霊圧も感じ取れるでしょう?」

侑「……うん、何となく、すごく強い力みたいなのは感じる」

セラス「そこまでひとっ飛びできるようにしたの……あとはわかるよね?」

侑「!」


セラスちゃんは私にニッと笑いかけた。

492: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:38:16 ID:???00

侑「ありがとうセラスちゃん!」


私はそう言って霊圧を感じる方向へ思い切りジャンプした。
まるで一飛び数百メートルは跳べそうな跳躍。


すみれ「っ!? 待ちなさい!」

マルガレーテ「余所見をさせるつもりはないわよ!」

すみれ「ちぃっ!? ……可可っ!」

可可「止まりナサイ! 侑に似た旅禍の人間ー!」

セラス「あなたの相手はわたしだよ」

可可「!?」


すみれはマルガレーテに、可可はセラスに行く手を阻まれる。

四人は斬魄刀をぶつけ合い、また距離を取った。


マルガレーテ「……あんたも行ってよかったのに」

セラス「一人じゃ、あの人まで止められなかったと思うよ?」

マルガレーテ「ふん……まあいいわ、やられそうになる前に声掛けるのよ?」

セラス「マルちゃん……ナチュラルに保護者面するよね、わたしのことやっぱり好きなのかな」

マルガレーテ「は、ハァ!? こんな時に何言ってんのよ!?」


二人はいつものように掛け合いをしながら、斬魄刀を構えた。

493: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:40:54 ID:???00

セラス「ねぇあなた」

可可「厶?」

セラス「わたし、マルちゃん隊長の戦いに巻き込まれるのはゴメンなの……場所を変えない?」

可可「……」


可可が、バレないようにすみれの方を横目でチラリと見る。


すみれ「……あんたは知ってるでしょ可可? 私の能力は、乱戦になったら味方はむしろ邪魔になるの」

すみれ「あんたなら負けるわけないんだから……さっさと済ませてきなさいよ」

可可「! ……フム、いいデショウ! 着いてきなさいセラセラ!」

セラス「怒りっぽそうな名前なのに話がわかる人で助かるよ、カッカさん」

可可「可可デスよ!?」


二人はそのまま瞬歩で姿を消した。

闘技場にはすみれとマルガレーテが二人残される。


すみれ「……本気なのね、マルガレーテ」


すみれが険しい顔をして、改めてマルガレーテに問いかける。

494: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:42:16 ID:???00

すみれ「こうなったらもう、Liella!の仲間とは言え容赦はしないわよ」

マルガレーテ「それは願ったり叶ったりだわ、私がこっちについたときに思い描いた理想の展開よ」

すみれ「なんですって?」

マルガレーテ「だって……アンタとの闘いはLiella!じゃかのんの次に楽しかったもの!」


マルガレーテが凶悪な顔で笑う。
呼び方も、先輩からアンタへと変わっていた。

斬りつけるような攻撃的な霊圧がすみれに吹き荒び、彼女の頬を薄く傷つける。


すみれ「ふん……そういやあの時は中途半端で終わってたわね」


すみれは頬の傷を親指で撫でると、そのまま斬魄刀を構えた。

495: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:46:07 ID:???00

すみれ「見てろ『Starry Prayer』」


すみれが解号と共に斬魄刀を数度素振りすると、周囲の空間に煌めきを纏った亀裂が複数生まれる。
そして浮遊する亀裂自体が、まるで生き物かのように蠢き出した。


マルガレーテ「フフ、懐かしいわね……嫌いじゃないわよその技」

すみれ「私も、スクールアイドル相手に使うのはあんたとの戦争以来よ」

マルガレーテ「そりゃそうよね……Liella!で一番『相手を殺すための剣』だものねェ!!」

すみれ「そうよマルガレーテ! ここから先は、あんたのお望みの殺し合いよ!!」


六番隊隊長と十一番隊隊長。

二人のLiella!。


すみれ「うおおおお!!」

マルガレーテ「ハアァァァッ!!」


鋭すぎる霊圧を持つ両者が、闘技場の中央でぶつかり合った。

496: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/07(火) 19:47:52 ID:???00
#30 COLOSSEUM

END


今日はここまでです。

497: 名無しで叶える物語◆3TMuvdIl★ 2025/10/08(水) 06:29:27 ID:???Sd
解号すき

498: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 19:22:48 ID:???00

#31 ARRIVE THE LAST STAGE



かすみ「……う」

エマ「! 大丈夫、かすみちゃん?」

かすみ「エマ……先輩? ここは……?」


十二番隊副隊長室でエマのベッドにて眠っていたかすみが目を覚ますと、目の前には心配そうな顔のエマの顔があった。


かすみ「私は……確か、しず子に……」

エマ「うん、酷い怪我をしてたから……」

かすみ「エマ先輩が、助けてくれたんですね……」


かすみはエマの斬魄刀の能力を知っていた。
おそらくそれを使い怪我を治して……消してくれたのだろう。


かすみ「……」


それでも、かすみにははっきりとその記憶が残っていた。

身体中を剣の雨に切り刻まれる感触。
冷たくこちらを見るしずくの目。
血とともに命が流れ落ちていくような絶望感。

499: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 19:29:07 ID:???00

かすみ「っ……」


かすみはベッドで膝に顔を埋め、自身の身体を抱くようにうずくまる。
自然と呼吸が荒くなる。

しずくとの闘いと敗北は、彼女にトラウマに近いものを残していた。


エマ「……今は、ゆっくり安静にしてね? 怪我はなくなったけどまともな治療を出来たわけじゃないから……身体も霊力もだいぶボロボロだと思うの」

かすみ「……」

エマ「本当は四番隊の人でも呼べたらよかったんだけど、今はかすみちゃんに協力できるのは私しかいなくて……ごめんね……」

かすみ「……みんなに、バレてるんですね」

エマ「うん……かすみちゃんは『旅禍の一団』ってことに今はなっちゃってる……」


かすみ(そっか……かすみんもう本当に裏切り者になっちゃったんだ……)

500: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 19:32:52 ID:???00

暗い現実が、ただでさえ怯え竦んだ心を折りに来る。

このままここで休息という名の逃避を続けたくなる。
逃げ続けられるわけがないのに。


かすみ「他の人たちは……?」

エマ「まだ捕まってないみたい……でも、もうすぐ全部終わると思うから、次のことはそこから考えよう?」

かすみ「え?」



エマ「『双極』がさっき解放されたの、すぐに処刑が始まる」



かすみ「!? なんで!?」

エマ「上原歩夢さんの処刑が今日に前倒しになったからだよ」

かすみ「そんな……!」

エマ「……処刑が終われば全部終わるよ、嫌なことたくさん思い出したこの戦いもおしまい」

かすみ「……」

501: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 19:37:26 ID:???00

エマの言葉は、心身ともに傷ついたかすみにとってあまりにも甘美な響きをもって聞こえた。

まるで、諦めを誘うような言葉。

もちろん、エマにそのような悪意は無い。
彼女はただ優しいだけなのだ。

護廷十三隊の中にいながら、おそらくは最も人を傷つけられない少女。
人が傷つくのを見ていられない少女。

だからこそ、その言葉に身を委ねたくなる。


エマ「……わたし、お水か何か持ってくるね」

かすみ「……」


かすみは、エマが出ていくのをベッドの上で見送り部屋に一人になる。
斬魄刀がベッドの横に立てかけられていた。


かすみ「……私、これならどうすればいいんだろ」


自分の剣をぼぅっと見ながら、自身の置かれている現状の悲惨さをかすみは噛み締めていた。

502: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 19:40:23 ID:???00

護廷十三隊を裏切ってまで助けようとした歩夢は既に処刑場に連れて行かれ、歩夢を守るために闘ったしずくには心身ともにズタボロにされるほど惨敗した。

かすみにはもう戦い続ける体力も霊力も残っていない。

そして今は、ただ歩夢の処刑が行われるのを眺めて、自身の絶望的な将来の裁定を待つだけのような立場である。


かすみ(かすみんじゃ、やっぱりダメだったのかな……)


そもそもが、自分の能力の不具合からだった。

学園廷に突入した時バラバラになってしまったせいで、歩夢を助けるという役目がメイと四季ではなく自分に変わってしまった。

彼女たちなら、弱い自分とは違いしずくを退けて助けられたのかもしれない。



侑を危険に晒してしまったかもしれないこともそうだ。

歩夢は言っていた、侑が消えてしまうかもしれないと。

『☆ワンダーランド☆』が正常に機能していれば、彼女をそんな目に遭わせることもなかったはず。

503: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 19:43:19 ID:???00

かすみ「私じゃ、なんにも出来ないの……?」


涙が溢れてくる。

最早何を恥ずかしがる必要があるのかもわからないのに、羞恥心からかすみはまた膝を抱え身体を丸めて顔を隠した。

消えてしまいたかった。

このまま消えて無くなってしまえれば、どんなに気持ちが楽だろうか。


かすみ「う、うぅ……ひっ、ぐ……」


……かつてのかすみなら、ここで心が折れていただろう。

うずくまったまま立ち上がれなくなっていたかもしれない。


かすみ「……!」


制服のポケットに入っていた何かに、身体をぎゅうっと縮こまらせたことでその存在に気付く。

そこにあったのは、四季のパウチゼリー。


かすみ(四季先輩、メイ先輩……)


二人はまだ戦っている。

捕まれば極刑は免れぬ追放されたはずの学園廷に戻ってまで、世界を守るために戦っている。

504: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 19:47:10 ID:???00

かすみ(侑、先輩……)


侑もそうだ。

二度と死なせたくないと思った彼女が、危機に瀕しながらもまだ戦っている。

そもそも彼女を守りたくて、一緒に行くことを選んだのではなかったのか。



かすみ「そうだ……まだみんなが……仲間が戦ってるよ……!」



仲間。

それは、自分が護廷十三隊を裏切って一人ぼっちになったからそう思えたのではない。

過去を乗り越えるために、彼女たちと行動することを自分が選んだからだ。

侑を死なせないと決めたのは自分だった。
歩夢を処刑させてはいけないと決めたのも自分だ。

なのにそれを自分が放り投げてどうする?

それこそ、スクールアイドルの誇りを捨てることなんじゃないの!?

505: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 19:51:56 ID:???00

かすみ「……んっ」


『戦う力がもう無いから仕方がない』と言って、諦めることも出来たかもしれない。

でも、幸運にも回復する手段がここにはある。

濃厚ゲロ甘でそのくせデタラメに旨味のある奇天烈な味が、かすみの体力と霊力、そして気力を取り戻させる。

このヒドイ味は気付けの代わりなのかも、なんてことをかすみは苦笑しながら思った。

そう、苦笑するくらいの余裕が生まれた。


かすみ(まだ、戦えるはず!)


かすみ「ごめんなさい、エマ先輩……かすみんは行くよ!」


かすみは立てかけてあった斬魄刀を手にし、解号を唱えた。


かすみ「カモン!『☆ワンダーランド☆』!」

506: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 19:55:17 ID:???00

花帆「……」


花帆は、昨日から牢に入れられていたせいで現在の学園廷が戦時体制にあることを知らない。

だから、普段は護廷十三隊による警備がされているはずの敷地内に、呆気なく侵入出来たことに内心驚いていた。


花帆(なんで、こんなところに……)


梢に贈った髪飾りに忍ばせた自身の霊圧が位置を示した建物の前で、花帆はそれを見上げる。

理事長四十七室。

組織名であり、目の前の建築物の名前でもあるそれは、この学園界の権力の頂点に立つ者たちの聖域。

絶対的な司法判断を下す裁判所であるこの場所には、許可が無ければ護廷十三隊であろうと立ち入ることができない。


そんな場所から、自分の霊圧が発せられている。

507: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 19:58:53 ID:???00

花帆(ここに梢センパイが……?)


本来、それが梢とは何も決まっていなかったが、花帆はもうここまで来る間に思考の視野狭窄に陥っていた。

梢の死を認めたがらない心が、いつの間にか梢は生きていてこの先にいるのだと結論づけてしまっている。


花帆「……!」


花帆は、霊圧を消して理事長四十七室内への侵入を始める。

発覚すれば重い処分は免れない違法行為であったが、既に脱獄をしてここまで来ている花帆にとっては何も止める理由にはならなかった。




??「……え?」



だが、周りへの注意すら散漫になっていた花帆は、付近の哨戒任務中だった彼女に気付いていなかった。


吟子「今の……花帆先輩……!?」


昨日、自身が捕らえたはずの花帆が、あろうことか理事長四十七室に入っていくのを、吟子は見てしまったのだ。


吟子(何やってるんよ花帆先輩……!)


吟子は敷地内に入る門の前でしばらく逡巡していたが、意を決してその後を追った。

508: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 20:02:21 ID:???00

天賜兵装。

かつてのスクールアイドルの始祖が使った伝説的な武具や道具のことを指す言葉で、全部で六つあるとされている。

『双極』はそのうちの一つであり、かつての六大貴族であり『矛の持手』でもあった優木家が保護・管理していた。

だが、二百八十年前の『大聖別』であろうことかその時の当主優木せつ菜に向けて使用されることになってしまい、以降は優木家の没落に伴いかつてその屋敷のあった場所に安置されたまま、理事長四十七室の管理下に置かれている。

優木家の屋敷のあった丘は、今は『双極』の丘として処刑場となり、数十メートルはあるその巨大な矛だけが当時のまま佇んでいる。



今『双極』の丘には、四十七室付きの鬼道衆数十名ほどと、護廷十三隊のダイヤと果南がいた。

二人の下に、しずくが到着する。

509: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 20:04:57 ID:???00

しずく「七番隊隊長桜坂しずく、ただいま戻りました」


ダイヤの前で、しずくが片膝をつき頭を垂れる。
『双極』解放の儀礼中であるが故に、その所作がやけに恭しいものになっていた。


ダイヤ「ご苦労さまでした桜坂隊長……上原歩夢の身柄は?」

しずく「既に鬼道衆に引き渡しております。事後報告となり申し訳ございません」

ダイヤ「左様でしたか。万事を滞りなく進めるご配慮、流石は桜坂隊長です」

しずく「いえ……」

果南「……何かあったのしずく?」


立ち上がったしずくの険しい顔に気付いた果南が、こちらはいつも通りの態度で声を掛ける。

510: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 20:06:16 ID:???00

しずく「何もありません」

果南「そう……?」

しずく「強いて言うなら、私はこの処刑が行われることの支持の気持ちを固くしただけです」

しずく「護廷の掟があり、学園廷の安寧を守ることこそ護廷十三隊の使命だと……再確認しただけです」

ダイヤ「……」

果南「……」


いったい何があってこんなことを言っているのか、ダイヤと果南には何となくの察しはついていた。

だが、それは確認したわけでも本人からの報告があるわけでもないため、この場で触れるのは適当ではないと二人とも感じていた。



そうこうしている内に、三人の前で、気を失ったままの歩夢が十字架のようなものに寝かされ、磔のように拘束されていく。

511: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 20:09:33 ID:???00

副会長「咎人の磔架よ、『双極』の前へ」


虹ヶ咲副会長がそう唱え念じると、歩夢の磔られた十字架は起き上がり、そのままゆっくりと浮かび上がっていく。

それは巨大な矛である『双極』の刃の前まで浮上すると、そこでぴたりと止まった。


副会長「護廷十三隊総隊長の御下知を」

ダイヤ「……『杯の注手』にして護廷十三隊総隊長の黒澤ダイヤが命じます」

ダイヤ「哀れな咎人の魂を浄化し、大聖杯ラブライブ!へと捧げなさい——」



ダイヤ「——刑を始めよ」



ダイヤの言葉を受け、鬼道衆が一斉に呪文を念じ始める。
『双極』に細かな振動が生まれ、天を向いた矛の穂先に巨大な霊圧が集まっていく。


副会長「顕現せよ、燬�豺王(きこうおう)!」


『双極』の霊圧が蠢き、形を取っていく。

そしてそれは、巨大な火の鳥、炎の鷲のようなものになった。

耳を劈くような鳴き声が学園廷中に轟く。

512: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 20:12:00 ID:???00

燬�豺王。

『双極』の力の具現化した存在であり、彼の者に貫かれ燃やされることで処刑は完遂される。


歩夢「……」


熱を持った巨大な怪物が目の前に現れても、歩夢は意識を取り戻さない。

それは彼女にとって幸せだったのか、不幸だったのか。


ダイヤ「……せめて安らかにお逝きなさい」


歩夢を見つめそう呟いたダイヤの声が聞こえたかのように、燬�豺王は大きくその翼を広げ、声を上げる。

そのまま磔架の歩夢目掛け突撃した。



ドォン!!!!



砲撃のような爆発音が響く。

磔架にぶつかった燬�豺王が見えなくなるほどの巨大な爆炎が『双極』の丘の上空に広がる。

一瞬遅れて衝撃波が周囲に吹き荒んだ。

513: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 20:15:06 ID:???00

副会長「くっ……!」

ダイヤ「……」


風と光と熱を、虹ヶ咲副会長は手で避けるようにして顔を背ける。
他の鬼道衆もみな同じだった。

ダイヤたち三人だけが空に広がった炎が晴れていくのを見守っている。


そこにあったのは——


ダイヤ「なっ!?」

果南「そんな!?」

しずく「……!?」


磔架に磔になったまま無事な歩夢と、巨大な火の鳥の姿。

そして……


歩夢「……う、ん?」



??「歩夢、無事!?」



目を覚ました歩夢の目に飛び込んできたのは、いつも見慣れている彼女の顔。

ここ数日ずっと会いたくても会えなかった彼女の顔。


歩夢「侑、ちゃん……?」



侑「助けに来たよ!!」



そこには、斬魄刀を携えた侑の姿があった。

514: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 20:16:38 ID:???00


   LOVELIBLEACH #31



     ARRIVE

       THE

    LAST STAGE




              .

515: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/10(金) 20:18:55 ID:???00
#31 ARRIVE THE LAST STAGE

END


今日はここまでです。


上げてこら気付いたんですけどきこうおう()がこんなに文字化けするなんて……
次までたくさん文字列として出てくるのにどうしましょう……

520: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 19:38:08 ID:???00

#32 DECISIVE BATTLE OF SCHOOL SOCIETY  PARTⅠ



副会長「そんなバカな……!? 燬鷇王の突撃を止めたというの!?」


『双極』の持つ破壊力は、斬魄刀百万本分のそれと同等とされている。
だからこそスクールアイドルの肉体を瞬時に消滅させ魂を浄化し得る。


副会長(それを斬魄刀で受け止めた!? しかも一人で!?)


虹ヶ咲副会長は、信じられないモノを、恐ろしい怪物を見るような目で空を見上げていた。


果南「アイツはいったい……!?」

しずく「……旅禍の、人間……!」

ダイヤ「!? ではあの者が、高咲侑の名と姿を持つという……?」


ダイヤたちの見る侑は、歩夢に対して剣を振り上げ何かをしようとしていた。

521: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 19:40:14 ID:???00

侑「歩夢じっとしててね! とりあえずその後ろの十字架みたいなのを壊すから!」

しずく「!」

果南「ちっ! 人間なんかに好き勝手はやらせないよ!」

ダイヤ「っ!? お待ちなさい松浦副隊長!」


上空の侑に対して、果南は自前の跳躍力のみで文字通り飛び掛かる。
一番隊副隊長松浦果南は、護廷十三隊の中でも最強の身体能力を持っていた。


果南「はあっ!」

歩夢「侑ちゃん!?」

侑「っ!」


ギィン!


果南「なっ!?」


果南は自分の剣が、振り向きざまに簡単に受け止められたことに驚愕する。


侑「……ごめんね、お姉さん」

果南「!」


しかも、自分の剣を押しているのだ。
人間の少女が、スクールアイドルの自分を!?


侑「今だけはぶっとばしちゃうよ!!」

果南「っ!?」


思い切り振りかぶられた侑の斬撃を斬魄刀で受けた瞬間、果南は『爆発』した。

522: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 19:42:53 ID:???00

果南「がはっ!?」


爆風に巻き込まれ吹き飛ばされた果南は、そのまま地面まで叩き落とされる。


ダイヤ「果南さんっ!?」

果南「…………」


たった一撃で、果南はダウンしてしまった。

相手は人間と油断していたとはいえ、護廷十三隊の隊長格である果南の斬撃を受け止め押し返し、逆に一撃の下に斬り伏せる力……


ダイヤ(あの人間はいったい何なのです……!?)


ダイヤ「っ……総帥殿! 燬鷇王に再度の突撃を!」

副会長「は、はい!」


動揺していた虹ヶ咲副会長は、ダイヤの叱責のような色を帯びた声色に我に返る。

いまだ『双極』から顕現したままの燬鷇王に対して、再度の命令を下すために両手をかざした。

523: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 19:45:34 ID:???00

侑「また突っ込んでくるのか……!」


目の前で威嚇するかのように翼を広げた巨大な火の鳥に対し、侑がもう一度斬魄刀を構え直す。



千歌「その処刑ちょっと待ったーーー!!!」



ダイヤ「!?」


そこに千歌とかのんが瞬歩で現れる。

虹ヶ咲副会長の指示の手を隠すかのように彼女の前に『無極』を突き立てた二人は、息もつかさぬまま斬魄刀を抜刀した。


ダイヤ「千歌さん!?」

千歌「かのんちゃん!」

かのん「うん!」


二人は同時に斬魄刀を『無極』に挿入する。
斬魄刀の霊力を受けた『無極』は眩く光り出し、純白のオーラを纏ったかと思うと、いくつもの輝く鎖を生み出した。

524: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 19:48:17 ID:???00

そのまま無数の光の鎖が一斉に燬鷇王に伸びていき、その身体を拘束しだす。


副会長「ああっ、燬鷇王が!?」


苦しそうに鳴き声を上げる火の鳥は光の鎖で雁字搦めにされ、羽ばたきを封じられるとそのまま大地へと引きずり降ろされた。

燬鷇王に同調するかのように『双極』も傾き出す。


ダイヤ「くっ!」

鬼道衆「う、うわあああああああっ!!??」


『双極』が地面に引き倒されると、大きな衝撃と共に地に落ちた燬鷇王が大爆発を起こし、爆炎が鬼道衆たちを呑み込んだ。

525: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 19:49:55 ID:???00


LOVELIBLEACH #32




DECISIVE BATTLE

OF

SCHOOL SOCIETY 


PARTⅠ




           .

526: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 19:52:12 ID:???00

侑「……!」


上から眺めているだけでも、下が大事になっているのはわかった。

ビルくらいありそうな巨大な矛のようなものは人がたくさんいた方に倒れて、その後大っきな鳥と共に爆発を起こしている。

周辺はいまだ炎と土煙で様子がよくわからない。

歩夢を助けに来たとはいえ、なんだか凄いことになっちゃったよ!?


千歌「はっははー! 『双極』ぶっ壊したりー!」

かのん「そこのあなた!」

侑「わ、私?」

かのん「上原歩夢さんを連れて早く逃げて!」

侑「!」


『双極』を倒したと思われる人たちが叫ぶ。
その言葉に、自分の目的を思い出した。

そうだ、歩夢を助けなきゃ!

527: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 19:57:07 ID:???00

侑「はあっ!」

歩夢「っ」


歩夢の拘束を、後ろの十字架ごと破壊する。


歩夢「えっ……?」

侑「!?」


すると、まるでその身体を浮遊させていた力が失われたかのように、歩夢はいきなり落下し始めた。

し、しまった!?


歩夢「きゃああああああっ!!」

侑「歩夢ーーーっ!!」



かすみ「縛道の十七『Poppin'Up!』!!」



侑「かすみちゃん!?」


突然現れたかすみちゃんが、歩夢を抱き止めてくれる。
そのまま私のところまで跳んできた。


かすみ「まったく! かすみんがいなかったら大変なことになってましたよ!」

侑「ご、ごめん! でもありがとうかすみちゃん!」

かすみ「ふふん、わかればいいんです!」


かすみちゃんはドヤ顔になった後、ニコっと笑ってみせた。

528: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 19:59:38 ID:???00

侑「無事、だったんだね?」

かすみ「……まあ、一応そういうことで」

侑「そっかあ、良かっーー!?」


突然、恐ろしい霊圧がかすみちゃんの後ろに現れる。
そこには、あのリボンの子——桜坂しずくちゃんが剣を振りかぶっていた。


歩夢「!?」

侑「危ないっ!」


キィン!


私は咄嗟にかすみちゃんの頭上に剣を振り、相手の斬撃を弾いた。


かすみ「しず子……!」

しずく「……」


ちょうどそのタイミングで浮遊の時間制限が来たのか、私たちの身体は混乱の真っ只中の地上にゆっくりと降りていく。


しずく「……生きていたんですね"中須かすみ"」

かすみ「っ……」


地に立ったしずくちゃんは歩夢と一緒に私の後ろに下がったかすみちゃんを睨むと、そのまま冷たい視線をこちらにも向ける。

529: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 20:02:16 ID:???00

しずく「やはり……"お前"はあの時殺しておくべきだった」

侑「っ」


冷え切った、低い声。
そこには言葉に相応しい明らかな怒りが感じられる。


しずく「お前が、お前たちが全てを狂わせたんです……! 学園廷の安寧を乱し、私の仲間を誑かして……!」

侑「……!」


ゴオッと、しずくちゃんから強烈な霊圧が放たれる。

初めて会った時に受けたものとは比較にならないほど、重く、強く、凍てつくような冷たいプレッシャー。


かすみ「っ! 歩夢さん大丈夫!?」

歩夢「え……?」

かすみ「あ、あれ……?」


かすみ(歩夢さんはしず子の霊圧に当てられてない……もしかして、侑先輩が全部受け止めて後ろに流れないようにしているの……!?)

530: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 20:04:08 ID:???00

侑「……かすみちゃん」

かすみ「は、はい」

侑「かすみちゃんの能力で、二人で出来るだけ遠くに逃げて」

かすみ「で、でも歩夢さんにワープを使ったら……!」

侑「ここにいるよりはマシだよ、このままじゃ二人を守り切る自信がない」

かすみ「……!」

しずく「逃がすわけないでしょう?」

侑「はあっ!」

しずく「!」


歩夢たちに襲い掛かろうとしたしずくちゃんを、先制攻撃で動きを止める。
ここに押し留めるために、思い切り剣を押し付け鍔迫り合いをする。


侑「はやく!」

かすみ「わ、わかりましたっ! カモン!『☆ワンダーランド☆』!」


かすみちゃんは斬魄刀の能力で歩夢を連れてこの場から消えた。

私はしずくちゃんの剣を弾き、一旦距離を取る。

531: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 20:07:36 ID:???00

しずく「……」

侑「……二人のところには行かせないよ?」

しずく「そのつもりはありません……まずはお前の処理を先に済ませます」

侑「処理……ね」

しずく「ええ、すぐに終わらせる」


そう言うと、しずくちゃんは私の前から姿を消した。
マルガレーテちゃんも使ってたような高速移動!


侑「はっ!」

しずく「!?」


私の背中を取ろうと移動していたしずくちゃんに、振り向きざまに一閃を放つ。

しずくちゃんは一瞬驚いた顔を見せたけど、私の斬撃はギリギリで受け止められる。


侑「見えてるから」

しずく「……まぐれで読みが当たっただけです」


そう言うとまたしずくちゃんは消えたように見える速度で迫って来る。


しずく「はあっ!」

侑「ふっ!」


今度は上から現れたしずくちゃんの斬撃を、私は後ろに下がってかわす。

532: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 20:10:36 ID:???00

しずく「なにっ!?」

侑「やあっ!」


着地の瞬間を狙い、一撃を浴びせる。
しずくちゃんは後ろに飛んで避けようとしたが、私の剣がかすかに触れた。


しずく「……!」


体勢を崩し片膝をついたしずくちゃんの肩が斬れ、制服にわずかに血が滲みだす。


侑「見えてるって言ったよ?」

しずく「バカな……」

侑「そもそも私はさっきも、『このままじゃ二人を守り切ることは出来ない』けど『しずくちゃんに勝てない』なんて言ってないからね」

しずく「……!」


しずくちゃんが、鋭い目で私を睨みつける。

すっと立ち上がると、斬魄刀をしっかり両手で握り構えた。


しずく「いいでしょう……ここからの私は、もうお前を決して舐めては掛からない」

侑「……本気でやるってことだね」

しずく「ええ」

侑「……」

しずく「私はお前を斬り……上原歩夢と中須かすみもこの手で処刑しましょう」

侑「させないよ、そんなこと」


私も斬魄刀を構え直し、しずくちゃんに対峙した。

533: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 20:12:22 ID:???00

かのん「……上原歩夢さんはひとまず逃げられたみたい」

千歌「そっかー、とりあえずの目標達成だね」

副会長「う、うぅ……」


土煙が薄くなり、徐々に『双極』の破壊による惨状が明らかになってくる。

ほとんどの鬼道衆たちが、命に別状はないにしても多かれ少なかれ負傷しているようだった。


千歌「……流石に派手にやり過ぎちった?」

かのん「ここに辿り着く直前、四番隊に連絡しておいた。私たちが事を済ませたくらいには救護に来てくれるように」

千歌「おっ、準備良いなあかのんちゃん! ならひと安心だね」

かのん「あはは……恋ちゃんには嘘ついてるみたいで悪いことしちゃったけどね」



かのん「……ほんと、悪いことしちゃったな」

千歌「……そうだね、とんでもなく悪いことしちゃったよ」


二人は土煙と炎の向こうに感じる、強い霊圧の方を見つめる。

534: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 20:17:06 ID:???00

突如強い風が吹き、周囲の土煙が完全に晴れた。

炎はまるで中心に立つ少女を包むように彼女の周りで踊ったかと思うと、一瞬でかき消える。


ダイヤ「……」


ダイヤの姿が現れる。
目を瞑ったまま佇み、しかし片手は腰に帯刀した斬魄刀に添えられていた。


ダイヤ「!」


その目が開き、千歌とかのんを捉える。


ダイヤ「……あなた方は、自分が何をやったのかおわかりになっているの?」

千歌「……」

ダイヤ「千歌さん、かのんさん」

かのん「……」


二人を見るダイヤの声は静かだった。
静かだが、二人を隊長という役職名ではなく下の名前で呼んでいる。

そこに、護廷十三隊総隊長ではなく黒澤ダイヤ個人の必死に抑え込まれた激情が滲み出ていた。

535: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 20:20:21 ID:???00

ダイヤ「そこに直りなさい」

かのん「っ」


声が低くなり、霊圧が一気に濃くなる。

まるで煮えたぎった鉛のような、触れるだけで全てを焼き尽くすような熱く重たい霊圧。

ダイヤが抑え込もうとした怒りの感情が、霊圧として噴き出ているかのよう。


ダイヤ「そこに直りなさい二人とも……!」

千歌「……そう言われて、はいわかりましたって答えるなら、今ここに来てないよ」

ダイヤ「……!」

かのん「ダイヤさん、私たちは——」



ダイヤ「お黙りなさい!!」



怒りに呼応するかのようにダイヤの霊圧が急激に膨れ上がる。


ダイヤ「あなた方はやってはならぬことをしました! 護廷十三隊の隊長であり、AqoursとLiella!のリーダーでもあるあなたたちが、決して許されざることを!!」

かのん「っ……」

536: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 20:24:39 ID:???00

ダイヤ「もはやブッブーでは済ましませんわよ……!」


消えたはずの炎が、その背中に見えるようだった。
それほどのダイヤを激昂を、かのんは今まで一度しか見たことがない。


千歌「……まあ、そりゃそうなるか」


千歌はかのんの肩に手を置く。


千歌「よしっ! かのんちゃん逃げるのだ!」

かのん「えっ!?」

千歌「こんなとこでダイヤさんと本気で闘り合ったら、倒れてる果南ちゃんも鬼道衆の人たちもみんな巻き込まれて死んじゃうよ?」

ダイヤ「……」


千歌はわざとダイヤに聞こえるようにそう話すと、彼女に向き直る。


千歌「いやー久々に大喧嘩するつもりで来たんだよね私!」

ダイヤ「……」

千歌「ということで今から場所変えるから、ダイヤさんも良かったら来てね!」



千歌「……四百年前と同じ、うちの旅館に!」



そう言うと、千歌とかのんは瞬歩で姿を消す。


ダイヤ「……!」


ダイヤも瞬歩でそれを追った。

537: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 20:30:32 ID:???00

恋「……」

きな子「恋先輩ー! こんなとこにいたんすね!」

恋「きな子さん」


部屋から出てきた恋の下に、息を切らせてきな子が走ってくる。


きな子「霊安所……何かあったんすか?」

恋「いえ、少し確かめたいことがありまして……もう終わりました」

きな子「?」

恋「それより、かのんさんからの出動要請ですよね?」

きな子「! そうです、それで探してたんす!」

恋「お手数をかけてすみませんでした、行きましょうきな子さん」

きな子「はいっす!」

538: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 20:31:51 ID:???00

護廷十三隊四番隊隊舎。

戦時体制における護廷十三隊救護班の詰め所となっているそこに、かのんからの出動要請があったのはつい先ほどだった。

『双極』の解放が行われ、いよいよ処刑が開始されるとなったタイミング。
各地で本格的な戦闘が始まったとの報告が上がり出している時だった。


きな子「わざわざうちの隊に直接出動を依頼するなんて、かのん先輩大丈夫なんすかね……?」

恋「……」


心配そうに話すきな子に対して、恋の見立ては少し違っていた。

南門でのメイと冬毬の会敵を受けて動いていたはずのかのんが、今は千歌と一緒に『双極』の丘に向かっている中での出動要請。

しかもわざわざ、千歌と行動を共にしていることを伝えてきている意味。

539: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 20:33:36 ID:???00

恋(かのんさんは、護廷十三隊の指示とは別の動きをしている……それはおそらく……)


メイの捕縛の報告も、逆にかのんや冬毬が撤退したとの話も四番隊には来ていない。

恋は、かのんはメイとの接触で何らかの情報を得、そして今はそれに基づいて共に行動している可能性が高いと見ていた。

つまりかのんは、『双極』による処刑を止めるために動いている。

そして、千歌もそれに同調しているのだ。


恋「きな子さん、これからの流れを確認しておきます」

きな子「はい」


四番隊隊舎の屋上はヘリポートのような開けた造りになっており、緊急時にはここから大勢の負傷者を搬入することが出来る。

540: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 20:37:36 ID:???00

恋「私たちはこれから『双極』の丘に向かい、そこに負傷者があれば救助を最優先します」

きな子「はい」

恋「仮に"不測の事態"が起きていても、ひとまずは負傷者の搬出のみに集中しましょう」

きな子「……?」


恋の念押しするような言葉の意味を測りかね、不思議そうな顔をするきな子。


恋「繋げ『結び葉』」


恋が斬魄刀を解放すると、屋上の半分を埋めるほど巨大な、黄金に輝く木の葉が現れた。

恋ときな子がそれに乗り込むと、葉はふよふよと浮上し、そのまま移動を始める。


きな子(いつも思うけど、まるで大っきな空飛ぶ絨毯みたい)


恋の『結び葉』は回道系の能力。
霊力で作り出した葉の上に乗せた者を回道で治療し、また安全な場所まで運ぶことも出来る。

葉の大きさはある程度自由に変えることができ、その気になれば数十人を同時に乗せることが可能だ。

緊急搬送と救命治療を同時に行える、移動する医療施設のようなものである。

541: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 20:43:49 ID:???00
恋「負傷者を『結び葉』に収容後は、すぐに四番隊隊舎に帰投しましょう」

きな子「了解っす」

恋「……ですが、その後の治療は隊の皆さんに任せて、私たちは別行動を取ろうと思います」

きな子「えっ?」


きな子は少しだけ恋の言うことに驚いていた。

確かに恋の『結び葉』の能力は素晴らしく、治療にあたっての不安はない。
しかし、四番隊が救護任務中にそれを差し置いて他のことをするというのは、いつもの恋ではあまり考えられないことだからだ。


恋「きな子さんにも、ご同行をお願いしてよろしいですか?」

きな子「そ、それはもちろんいいっすけど……どうして?」

恋「……一つ、気になっていることがあるのです」


恋はそれだけ言って、『双極』の丘へ向かう速度を上げた。

542: 名無しで叶える物語◆TbpIUdCs★ 2025/10/14(火) 20:48:22 ID:???00
#32 DECISIVE BATTLE OF SCHOOL SOCIETY  PARTⅠ

END


今日はここまでです。


きこうおうの件、アドバイスくれた方ありがとうございました。

543: 名無しで叶える物語◆3TMuvdIl★ 2025/10/14(火) 22:24:07 ID:???00
ダイヤさん楽しみ
設定上クッソ強いはずなのに展開の都合上あっさりやられてしまう果南ちゃんは原作通りだなw

544: 名無しで叶える物語◆V4kTulJi★ 2025/10/15(水) 12:36:47 ID:???00
氷雪系最強()は誰の斬魄刀なんやろ

545: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 20:30:30 ID:???00

#33 DECISIVE BATTLE OF SCHOOL SOCIETY  PARTⅡ



梨子「……!」


千歌たちと別れた後、隊舎内の休息所でしばらく休んでいた梨子は、まだ少しふらつく重たい身体に鞭を打ちながらも既に動き出していた。


梨子(千歌ちゃんのところに行かなきゃ……ダイヤさんと闘うなんて、やっぱり……)


梨子が部屋を出たところで、彼女はとてつもなく強い霊圧がこちらに近付いているのに気付く。


梨子「!?」


九番隊隊舎訓練場……十千万旅館中庭とも呼ばれている開けた場所に、その霊圧の持ち主は現れた。

546: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 20:34:37 ID:???00

梨子「ダイヤさん……!」

ダイヤ「……」


ダイヤは訓練場を挟んで反対側にいる梨子をちらりと確認すると、そのまま視線を誰もいない中央に戻す。

数瞬遅れて、梨子の目の前に千歌とかのんが現れた。


梨子「千歌ちゃんっ!」

千歌「いやー梨子ちゃん……ごめんね、戻ってきちゃった」


千歌は梨子の方を振り向いて苦笑を薄く浮かべると、そのままダイヤに向き合った。


梨子「……っ」


その千歌の背中に、梨子は気付いてしまう。

もうこの闘いは止められないということに。

547: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 20:35:46 ID:???00



LOVELIBLEACH #33




DECISIVE BATTLE


       OF


SCHOOL SOCIETY 


     PARTⅡ




           .

548: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 20:37:53 ID:???00

千歌「こっちが早く出発したのに、そっちが先に着いちゃうんだもんなぁ」


千歌は、あくまでいつものようにダイヤに話し掛ける。
ダイヤは、千歌をまっすぐ見据えたままにこりとも笑わない。


ダイヤ「昔から、あなたに瞬歩で後れを取った記憶はありませんわ」

千歌「だったかもね」

ダイヤ「そう……昔から、あなたたちを見てきました」

梨子「……」

ダイヤ「誰よりも真実を見抜く直感に優れ、周囲を巻き込みあらゆる物事を動かしていく千歌さん」

千歌「……」

ダイヤ「誰よりも諦めずに、皆に手を差し伸べるからこそ、誰からも協力を得て目標へと突き進めるかのんさん」

かのん「……」

549: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 20:42:45 ID:???00

ダイヤ「護廷十三隊総隊長として、あなたたちが仲間として隣にいてくれることがどれほど心強かったか」

ダイヤ「AqoursとLiella!のリーダーであるあなたたちを、わたくしがどれだけ信頼し尊敬していたことか」

梨子「……」


ただ後ろで見ているだけの梨子は、ダイヤの言葉がまるで自分にも向けられているように感じていた。

目の前の二人は、いったいどういう思いでこれを聞いているのだろうか。


ダイヤ「ずっと、同じ道を歩んでいけると思っていました」

かのん「っ」

ダイヤ「ずっと、同じ正義を共にしていると信じていました!」

千歌「……」

ダイヤ「なのに……っ」


ダイヤは、続く言葉をぐっと呑み込み、腰の斬魄刀を手にする。


ダイヤ「……最早問答は埒も無し、始めましょう二人とも」

550: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 20:45:00 ID:???00

かのん「ねえ、ダイヤさん……」



かのん「やっぱり、闘わないといけないのかな?」



梨子「!」

千歌「っ」

ダイヤ「……」


ダイヤの言う通り、かのんはそれでも諦めていなかった。
この期に及んでまだ、と言われようとも、ダイヤと闘わないで済む方法を模索していた。


ダイヤ「……問答無用と言いましたわよ」

かのん「それでも私は、ここでお互いぶつかり合う必要なんてないって思いたい」

かのん「だって私たちも、学園廷の平和っていう護廷十三隊の正義のために動いてるつもりだから……!」


それは、戦闘への恐れや対立への拒否感からではない。

自分たちが目指す先は同じだと、かのんは本当に信じているから。

551: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 20:48:01 ID:???00

千歌「……」

かのん「……」



ダイヤ「……正義?」



だが、結果的にそれは決定的なすれ違いを生んでしまう。
ダイヤの声に、隠しきれない怒りが滲んでいた。


ダイヤ「護廷の掟を蔑ろにしてまで貫く正義などありませんわ……!」

千歌「……」

ダイヤ「わたくしたちは『あの時』全てを受け容れた! あなたたちは幼馴染を、わたくしは妹と親友を喪っても!!」

かのん「!」

ダイヤ「だからこそ、護廷十三隊の仲間を生贄に捧げることすら辞さなかった! わたくしたちは『大聖別』によって、この学園界を、ラブライブ!を護持してきたのです! それこそがわたくしたちの正義!」

ダイヤ「その掟を捻じ曲げることは、今までの決断を、その犠牲を愚かなものと嘲笑うも同じ! そんなことは、わたくしが断じて許さない!!」


ダイヤの霊圧が周囲に吹きすさぶ。

灼けつくような熱を持った、圧倒的に強すぎる霊圧。

552: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 20:53:10 ID:???00

梨子「う、くっ……!?」


千歌たちの後ろにいる梨子は、本調子ではないこともあって霊圧に当てられそうになっていた。
護廷十三隊副隊長の梨子が、である。

ダイヤの霊圧はそれほどまでに凄まじかったのだ。



護廷精鋭親衛隊Aqours。
護廷十三隊内に最初に作られた特殊部隊。
その同じメンバーだからこそ、梨子は千歌とダイヤの強さを知っていた。

Aqoursのリーダー高海千歌のその底知れぬ潜在能力を。
護廷十三隊総隊長黒澤ダイヤの圧倒的な戦闘力を。

それでも、ダイヤの怒りを実際に目の前にした今、梨子は自分の見積もりの甘さを痛感する。

そして戦慄した。


梨子「千歌ちゃん……っ」


これほど強大な力と、今から千歌は闘うのだ。


梨子(こんなの……隊長格が二人とか、AqoursとLiella!のリーダーとか関係ない……!)

梨子(無理だよこんなの……千歌ちゃんっ!?)

553: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 20:56:42 ID:???00

千歌「……今やろうとしてるのは、『大聖別』じゃないじゃん」

ダイヤ「まだ理屈を捏ねますか!」

千歌「ッ! 納得いかないんだよ! 四百年前も今回も!!」

ダイヤ「笑止ッ!!」


ダイヤが抜刀し横薙ぎを一閃する。
斬魄刀開放を行ってもいないのに強烈な真空波が巻き起こり、千歌に襲い掛かった。


かのん「!」


パキィン!!


それを、千歌の前に立ったかのんが納刀したままの斬魄刀で斬り払う。

千歌もまた自身の剣をその手に携えた。


かのん「本当に……闘るしかないのかなダイヤさん」

ダイヤ「……はやく斬魄刀を解放なさい二人とも」



ダイヤ「それとも……このままわたくしの剣に消し炭にされますか?」



そう言ってダイヤが斬魄刀を自身の眼前で横に構え、左手を刀身に添える。
瞬間、熱を持った霊圧の濃度が更に上がった。

554: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:00:24 ID:???00

ダイヤ「万象一切蒼炎と為しませ——」


解号を唱え始めると同時にダイヤの斬魄刀の刀身が灰のように崩れ去り、柄だけの姿となる。

だがその代わりに柄から青白い炎が噴出し、周辺全てを熱波が覆い尽くす。

ダイヤの周りを吹き荒れる霊圧は、熱を持つだけでなく遂に炎そのものと化した。

その姿は、蒼い炎。


梨子「あ、あれは……!?」


護廷十三隊総隊長黒澤ダイヤの斬魄刀にして、炎神天下三剣の一つ。

『水の青』の名を持ちながら炎熱系最強の蒼の炎を纏ったその剣の名は——


ダイヤ「——『WATER BLUE NEW WORLD』」


柄から出た炎がダイヤの霊圧により強制的に圧縮され、それはまるで青いレーザーのような刀剣の形を取った。

555: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:06:53 ID:???00

『WATER BLUE NEW WORLD』の能力は、純粋な超高熱の炎。
青い刀身が触れた全てを蒼炎が包み込み瞬時に焼き尽くす。


溢れ出た霊圧の炎が訓練場の地面に回り、かのんと千歌の逃げ場を無くすように囲んでいく。


梨子「っ!? 千歌ちゃんっ!?」


梨子は、蚊帳の外とでも言うかのようにダイヤの炎で分断された。

ダイヤの作った蒼炎の壁は分厚く、向こうにいる三人の姿も見えないほど激しく燃えている。

そして、今の梨子にはそれを割って越えて行く力も残されていない。


梨子「……っ」


梨子は歯噛みした。
この闘いを止めることも、加勢することも出来ない、自分の弱さに。

556: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:08:40 ID:???00

千歌「今更だけどさ……かのんちゃんも付き合ってくれる?」


青い炎で作られたリングの中で、千歌はダイヤを見ながらかのんに向けて呟く。


かのん「もちろん、元々私が始めたことだから!」


かのんも、千歌の方をあえて見ずに答えた。


千歌「……ありがと!」

かのん「行こう!」


二人は、同時に斬魄刀を解放した。

557: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:11:04 ID:???00


かのん「始まれ"ぼくらの物語"……『START!! True dreams』」


解号と共にかのんの斬魄刀は眩い輝きに包まれ、そして二つの光に分かれる。

その両手には二本の刀剣が現れた。

右手には白い刀身の直刀。
そして左手には、ショーテルと呼ばれるような半円形にまで湾曲した薄い桃色の刀身の曲刀が握られている。

澁谷かのんは、学園廷、いや学園界の歴史でも稀有な二刀一対の斬魄刀の使い手である。

そして最も特異なのは、それは後天的にかのん自身が『二本にした』刀であること。

かつてスクールアイドルの歴史上最初の斬魄刀二刀流の使い手だった嵐千砂都の剣を継ぎたいとの想いで、元々一本だった剣を分割した斬魄刀である。


ダイヤ(『START!! True dreams』……通常はスクールアイドルには決して不可能とされている、他人の斬魄刀の能力すら自身のものとして使いこなすかのんさんの超絶技巧があってこその始解……)

558: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:14:10 ID:???00

ダイヤ(そして……)


ダイヤの視線は、千歌を真正面から捉えた。


千歌「飛び出せ私の青いハート!」


千歌が解号を叫ぶと、斬魄刀が砕け散りその下から深い青色の刀身が現れる。

同時に千歌の周りの地面がひび割れ、間欠泉のように水が噴き出すとそれらが全て刀身に集まっていく。

それは、その気になればこの世界の水全てを操り、海すらも呑み込み刀身に封じ込める剣。

水分の量に応じてその強度と斬れ味を増し続け、また生み出す水を氷として利用する技も強大なものになっていく。

四百年前に起きた黒澤ダイヤとの『大喧嘩』は、学園廷の地下に無限に湧き出す水とそれを沸騰させ続ける熱を生み出し、この地を温泉地に変えてしまったという伝説を持つ……氷雪系最強の斬魄刀。


千歌「『青空Jumping Heart』!!」


千歌が剣を一振りすると、周囲の炎が斬魄刀から生み出された水によってかき消され、そのまま凍り付いた。

559: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:16:58 ID:???00

ダイヤ「……!」


だがその分厚い氷も、蒼い炎がまた融かし瞬時に蒸発させていった。


千歌「……!」


訓練場は炎と氷に包まれ、それは二人の霊圧がぶつかり合うところを境界にちょうど分かれている。


ダイヤ(『青空Jumping Heart』……現存する斬魄刀の中で、本来ならばわたくしの剣が最も相性が悪いであろう氷雪系最強の斬魄刀)

ダイヤ(四百年前は打ち克てましたが……その力、相手にとって不足無し)


ダイヤは自身の斬魄刀を振りかざし、周囲を青い炎で包んだ。

560: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:21:26 ID:???00

かのん「こうして見ると、凄い景色だなあ……」


かのんは、炎と氷がぶつかり合い同時に存在するこの世のものとは思えない光景を目にし、思わずそう呟く。


千歌「……今は何とか拮抗してるけど、ダイヤさん相手にいつまで保つかは正直わからないんだ」

千歌「だから……」

かのん「二人の力がぶつかり合ってる間に、まずは私がダイヤさんを倒せたら……ってことだね」


かのんは二つの剣を構え、ダイヤを見据える。

まるで弓を引くかのように、左手の曲刀を縦に構え、右手の直刀をそれと垂直に交差させた。


ダイヤ「来なさい、二人とも」

かのん「行くよ! ダイヤさん!!」

千歌「お願い! かのんちゃん!」

561: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:23:48 ID:???00

両者が前に出たのは同時。


ダイヤ「ッ!!」

千歌「!!」


炎と氷。
青と蒼。
二つの霊圧がお互いを呑み込もうと真正面から衝突した。

その中でかのんがダイヤに突撃する。


かのん「『ユニゾン』」


右手の白い直刀を振る直前、かのんがそう呟く。
そこから高速の横薙ぎ。

しかしそれはあっけなくダイヤに受け止められる。


ダイヤ(斬撃が軽い!?)


だが、かのんもそれを止められるのを見越していたかのように、自ら振り切るように刀を弾いて流した。

身体の流れるままに勢いに乗り回転し、左手の曲刀が今度は上からダイヤに降りかかる。


かのん「!」

ダイヤ「っ!」


曲刀はその形状ゆえにかのんの右手の直刀とは斬撃の軌道もタイミングも異なる。
種類の違う二つの剣が変則的に攻撃してくる様は、まるで同時に二人と闘っているかのようだった。

562: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:27:23 ID:???00

しかもその剣は流麗にして鋭利。
舞うように振られる変幻自在の斬撃が矢継ぎ早にダイヤに襲い掛かる。


ダイヤ「……!」


ダイヤは受けに徹し、かのんの剣をひたすらに捌く。
それは防戦一方と言うより、あえて様子見をしているようだった。

かのんの剣舞を見極め、反撃のタイミングを伺うかのように。

そしてその時は来た。


千歌「!? 危ないっ!」

かのん「!」


直刀の後の曲刀の一撃。
ダイヤがそれを避けた後、かのんは曲刀を手首で切り返し再度斬り掛かる。

その連続に見えるわずかな継ぎの隙間に、ダイヤが割り込んだ。


ダイヤ「取った!!」


かのんの次の手の前にダイヤが唐竹割りを繰り出す。
それは左手で曲刀を振るかのんの中心を真っ直ぐに捉え——


かのん「こっちも『入った』よ」

ダイヤ「!?」


——られなかった。

563: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:31:37 ID:???00

かのんが既に放ち切ったはずの右手の白い直刀に吸い寄せられるかのようにダイヤの剣は意思を無視して逸れ、かのんではなく斬魄刀を打ち据える。


かのん「やあっ!」

ダイヤ「ぐっ!?」


反対に、かのんの曲刀がダイヤを捉えた。

身をかわし直撃は避けたものの、その左腕が斬られる。


ダイヤ「今のは……!」

かのん「私の『ユニゾン』は、こちらのリズムに乗ってきた相手を同じ動きにさせることが出来るの」

かのん「いまダイヤさんの斬魄刀は、横に振り切っていた私の斬魄刀を、同じように横薙ぎで追っかけちゃったってこと……」

ダイヤ「……タイミングを外したつもりが、まんまと乗せられていたということですか」

かのん「外れたリズムも大切な一撃になる、みたいな感じ!」

ダイヤ「……」


自分の剣が相手の剣に一方的に吸い寄せられるように同じ動きをするなら、剣をもう一本持つかのんの有利は動かない。

564: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:35:46 ID:???00

ダイヤはダメージを確認しながら自身の斬魄刀を見つめる。
試しにその場で素振りすると、当たり前だが自分の思うように動く。


ダイヤ「効果は至近距離の一度きり……限定的な技のようですわね」

かのん「小さい頃、ちぃちゃんと遊んでた頃に出来た技だからね……遊び心に無理矢理な強制力はあまり無いの」

ダイヤ「なるほど……だから手緩い」

かのん「っ」


ダイヤがかのんの斬魄刀を見つめる。


ダイヤ「わたくしを一撃で仕留め損ねた代償は大きいですわよ」

かのん「……」


かのん自身もそれに気付いていた。
いつの間にか斬魄刀が傷だらけになっている。

刃は融けるように毀れ、その斬れ味は落ちていた。
ダイヤへの一撃も、本来ならばもう少しダメージを与えられたはず。

565: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:39:08 ID:???00

かのん「霊圧強度は、本気で固めたつもりだったんだけどな……!」

ダイヤ「わたくしの『WATER BLUE NEW WORLD』は学園界最高温の熱そのもの……その力は打ち合う斬魄刀すら融解させますわ」

かのん「マルガレーテちゃんの剣みたいな感じかぁ、凄い話だね……」

ダイヤ「そのウィーン・マルガレーテを破った時の力も、今のあなたの斬魄刀にはもはや残っていない」

かのん「っ!?」

ダイヤ「感傷に浸った斬魄刀の分割が、あなたをそこまで弱くしたのです」

かのん「……バカにしないで!」


かのんが前のめりに挑みかかろうとする。


千歌「かのんちゃん!」

かのん「っ!」


だが、それを制するように千歌が声を掛けた。

566: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:42:16 ID:???00

千歌「選手交代だよかのんちゃん!」

かのん「えっ……で、でも」

千歌「と言うより、"巻き込まれないように退がって"ね!」

ダイヤ「!?」


突如、訓練場が暗くなる。

十千万旅館の中庭として扱われていることもあり、ここは外の開けた場所であり屋根等は存在しない。

野外のそんな場所で、昼間なのに突然暗くなったということは……


梨子「な、なにあれ!?」


梨子は、九番隊隊舎の上空に、陽の光を遮るほどの巨大な何かが浮かんでいることに驚愕した。

567: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:45:20 ID:???00

近くで見ると透明なはずのそれは、集められた量、その容積によって日光を通さないほどの紺碧に変わっている。

それは、海水。

大量という言葉では表現し足りないほどの、巨大な水の塊。



千歌「ウチウラ地区特産『海』のお届けだよ!」



ダイヤ「ば、バカな……!?」


千歌は『青空Jumping Heart』の能力で、学園廷外にある海からその水をかき集めていた。

その量、数十万トン。

そのあまりの規格外の行動に、ダイヤは唖然とする。


ダイヤ(斬魄刀を解放した瞬間から集め始めていた!? わたくしの霊圧の炎を抑え込みながらも同時に……!)

568: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:48:27 ID:???00

千歌「ダイヤさんのためにキンッキンに冷やしておいたでっかい氷入りの特別製だよ! 是非受け取ってね!」

ダイヤ「!!」



千歌「ナイアガラならぬ、ウチウラガラの滝!!」



そう叫ぶと、空の海は弾け一気に地面目掛けて降り注いだ。

自然落下ではなく霊圧で落ちる場所を限定され圧送された大量の氷塊混じりの海水は、数十メートルを滑り落ち恐ろしい速度でダイヤに殺到する。


かのん「こ、こんなのに巻き込まれないとか無理だよーー!!!??」


地面に叩きつけられた海水はそのまま大きな波となり、九番隊隊舎を破壊しながら訓練場の全てを押し流した。

569: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/17(金) 21:55:46 ID:???00
#33 DECISIVE BATTLE OF SCHOOL SOCIETY  PARTⅡ

END


今日はここまでです。


ダイヤさんの斬魄刀はめちゃ悩みましたが、色々考えてあっちにはしませんでした。
WBNWなのに水属性とか氷雪系じゃないのかよと自分でも思いましたが、どうしてもダイヤさんに最強クラスの曲を与えたくてこの位置に落ち着きました。

千歌ちゃんとダイヤさんの喧嘩で温泉地が出来たのはパンクハザード意識です!
でも千歌ちゃんは足が失くなって氷になってたりはしません。
ダイヤさん優しい!

577: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 21:10:01 ID:???00

#34 DECISIVE BATTLE OF SCHOOL SOCIETY  PARTⅢ



梨子「む、無茶苦茶だよぉ……!」

かのん「はぁー、はぁー……!」


梨子とかのんはまるで津波のような大量の海水に吞み込まれるも、なんとか二人とも脱出に成功し、九番隊隊舎の最も高い屋根まで避難していた。

彼女たちの下には濁流となった大量の水が瓦礫を巻き込み渦となっている。


千歌「いやー、ごめんね二人とも!」


そこには先に、というより技を放つ時には屋根に立っていた千歌が笑顔で待っていた。


梨子「千歌ちゃん!? あんな無茶やるなら自分だけ逃げないでちゃんと言ってよ!?」

千歌「ダイヤさんにバレたら意味ないからさー、まあでも二人とも無事で良かったよ!」

かのん「あ、あはは……」

578: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 21:13:05 ID:???00

千歌「……ということで、二人の無事を確認したからダメ押しっ!」


千歌がそう言って斬魄刀を振るうと、それまで渦を巻いていた濁流が一気に凍りだす。

十千万旅館に現れた海は、あっという間に氷河へと変わった。


かのん「す、凄い……」

梨子「こ、ここまでやる必要ある? ダイヤさん相手なんだよ?」


梨子が心配そうにささやかな非難の声を上げる。


千歌「まー、四百年前の憂さ晴らしも兼ねてるからねー? あの時は喧嘩に負けちゃって百年以上謹慎させられたし」

梨子「……」

千歌「?」

梨子「……謹慎って、自分から学園廷出て行っちゃっただけじゃない。ダイヤさんはそういう処分に後付けでしてくれたんでしょ」

千歌「えっ?」

579: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 21:16:13 ID:???00

梨子「千歌ちゃんっていっつもそう……さっきだって何も言ってくれないし、あの時だってダイヤさんと喧嘩していきなりボロボロになって帰ってきて……」

千歌「り、梨子ちゃん?」


イケナイスイッチを押してしまったことに気付いた千歌はたじろぐ。


梨子「そのまま勝手にどっか行っちゃうし! 何の連絡もよこさないで百年以上他所をほっつき歩いてさあ!? すっっっごく心配したんだよ!?」

千歌「あ、あの、今はちょっと」

梨子「何ナイアガラって! あの時現世にでも行ってたんだ!? 楽しかったんだねナイアガラ! 私をずっと心配させて振り回して、自分は現世観光してたんだ!? へぇー!?」

千歌「い、いや、ほんと、ごめ——あいたっ!? ちょ、ごめん、ごめんって!?」

梨子「~~~っ!!」

580: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 21:20:14 ID:???00

かのん(冬毬ちゃんはいっつも小言が多いけど、溜めこまないで小出しにしてくれてるのかもなぁ……)


バシバシと叩かれている千歌。
かのんは目の前で始まった痴話喧嘩じみたものを眺めながら、苦笑するしかなかった。

だが、その笑みがいきなり凍りつく。


千歌「っ! これは!?」

かのん「まずい!?」

梨子「!?」


一度緩んだ空気は、氷の下の霊圧の変化で瞬時にひりついた。


かのん「縛道の六十『Dreaming Energy』!」


かのんは咄嗟に防壁鬼道を発動した。
三人が光の膜に包まれその場から浮いた瞬間、氷河が『爆発』する。

水蒸気爆発。

超高熱に触れたことで一気に千倍以上に膨張した水分が、文字通り爆発的なエネルギーを伴って弾け飛ぶ。


かのん「くっ!?」

梨子「きゃあああああっ!?」


その威力は凄まじく、三人は光の霊力の膜で守られつつも吹き飛ばされた。

九番隊隊舎・十千万旅館が衝撃波で崩壊していく。

581: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 21:22:47 ID:???00

かのん「あれだけの氷が一瞬で……!?」


氷河は跡形もなく蒸発し、後に残ったものは、完全に瓦礫と化した九番隊隊舎と、巨大なクレーターのようなもの。

その中心にダイヤが立っていた。

氷塊混じりの数十万トンの海水を叩きつけられ、その後氷漬けにされても彼女はまだその足で立っている。


ダイヤ「……!!」


流石にダメージはあったのか、身体中のいたるところに傷を負って出血している。

それでもその双眸は鋭く、憤怒の表情で千歌たちを捉えていた。

582: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 21:23:50 ID:???00

千歌「……ま、さっきので終わるなら四百年前も負けちゃいないか」

かのん「……」

千歌「うーん、いい攻撃だと思ったんだけどなぁウチウラガラの滝」

ダイヤ「やってくれましたわね千歌さん……!」

千歌「そっちもね……うちの旅館まーた滅茶苦茶になっちゃったよ」


かのんの『Dreaming Energy』の効果が切れ、三人はダイヤと同じ地上に降り立つ。


千歌「ラウンドツー……開始かな」

ダイヤ「ッ!」

かのん「っ!」


両者はまたぶつかり合う。

千歌とかのん、ダイヤの霊圧が混じり合い、強烈な衝撃波が周囲に広がった。

583: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 21:25:44 ID:???00



LOVELIBLEACH #33



DECISIVE BATTLE

OF

SCHOOL SOCIETY 

PARTⅢ



         .

584: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 21:31:34 ID:???00

学園廷大擂台。
本来は護廷十三隊の模擬演武で使われる場所で『実戦』が行われている。


マルガレーテ「ハァっ!」

すみれ「ふっ!」


マルガレーテの『エーデルシュタイン』と、すみれの『Starry Prayer』は平然と打ち合う。

お互いの剣に傷は入らず、霊圧混じりの火花を散らして数度斬り合ったところでまた二人は距離を取る。


マルガレーテ「ふん、流石の剣ね」

すみれ「あんたの剣も、相変わらず狂った斬れ味だこと」


すみれは自身の斬魄刀の霊圧強度を保たないと、下手をすれば一撃で刀身が切断されると感じていた。

だからこそマルガレーテとの闘いは一瞬の気も抜けず、長時間の戦闘継続自体が困難なのである。

585: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 21:34:22 ID:???00

すみれ「だから、さっさと終わらせてもらうわ」

マルガレーテ「っ!?」

すみれ「逃げようとしても無駄よ、もう"そこに置いてる"から」


すみれはそう言うと、斬魄刀を持っていない方の指をパチンと鳴らした。



すみれ「ギャラクシースパイキー」



マルガレーテの右肩の上の空間が弾け、煌めきと共に鋭利な針状結晶の塊が弾け出る。
マルガレーテは咄嗟に手で振り払うように庇いながら身を仰け反らせるが、飛び出た針がその身体を刺し貫く。


マルガレーテ「……!」


肩に、腕に、そして側頭部に命中し、血が流れ出した。


すみれ「あら、首に当てるつもりだったけど」

マルガレーテ「ふ、フフ……本当に殺す気でやってくれるじゃない! 確かに頸動脈に当たってたらアウトだったわ……!」


顔の右半分が血に塗れた凄惨な顔でマルガレーテが笑う。

586: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 21:39:44 ID:???00

すみれ「容赦しないって言ったでしょ?」


すみれは全くそれに動じず、当然とでもいうように言い放つ。


すみれ「私の『Starry Prayer』は、設置型でありながら移動する罠……一度作り出したら停めることも手加減も出来ないのよ」


すみれの『Starry Prayer』は煌星系の斬魄刀。
その能力は空間を切り裂き罠を設置する能力。

彼女の斬魄刀によって裂かれた空間は霊力によって強制的に押さえつけられ、いわば穴が無理矢理塞がれた歪(ひずみ)となる。

霊圧で限界を超えて圧縮され続ける歪は解放の時までその反発力を高め続け、すみれの合図か、あるいは目標が近付いた時に自動的に弾け飛ぶ。

その際にすみれの霊力がまるで星の瞬きのごとき煌めきと共に鋭利なトゲだらけの結晶を作り出し、敵を刺し貫く。

587: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 21:42:45 ID:???00

すみれ「まあ深手は負わせたわ、もうその利き手じゃまともに剣も振れないでしょ?」

マルガレーテ「……」


肩と腕を負傷したマルガレーテの右腕は血塗れになっており、斬魄刀こそまだ握れているもののだらりとぶら下がっている。


すみれ「そして……次で終わりよ」

マルガレーテ「!」


いつの間にかマルガレーテの周りには三つの空間の歪が迫っていた。

『Starry Prayer』で作られた歪は本来何も無い空間であるがゆえ目視が難しく、近づかなければ視認が出来ない。

そんな目に見えない移動する罠が、すみれの意思で近づいてくるのだ。

ジジジと今にも弾け飛びそうな音を立てながら、マルガレーテの逃げ場を失くすように三方向から同時に迫る。

588: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 21:45:30 ID:???00

すみれ「……生きてたら、恋のところぐらいには連れてってあげるわ」


すみれは指を鳴らすために手を眼前に持って来、その先にマルガレーテを見据えた。


マルガレーテ「フッ……優しいのねェ? すみれ先輩」


マルガレーテはにやりと笑うと、斬魄刀を右手から左手に持ち替える。


すみれ「!? ギャラ——」

マルガレーテ「ハァッ!!」


マルガレーテは左手で剣を横に薙いだ。
周りを一掃するように一回転し、自身の周囲の空間の歪を斬り払う。


すみれ「なっ!? 私の霊力ごと空間そのものを斬ったっていうの!?」

マルガレーテ「いつも言ってるわよ!? 私の『エーデルシュタイン』に斬れないものは無いわ!」


突っ込んでくるマルガレーテの剣を、すみれが受け止める。

ギリ、とすみれの斬魄刀に『エーデルシュタイン』がわずかに食い込んだ。

589: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 21:48:13 ID:???00

すみれ「ぐうっ……!」

マルガレーテ「ほらほら、ちゃんと気合を入れないと斬魄刀がぶった斬れちゃうわよ!?」

すみれ「利き腕じゃなくたってフツーに闘えるってワケ!? 相変わらずムカつくくらい天才ね!?」

マルガレーテ「ハァッ!」

すみれ「!?」


マルガレーテはすみれの剣を強引に上に弾き、身体が流れた隙に一撃を加える。

すみれは咄嗟に後ろに跳んで下がろうとしたが、それでも左袈裟斬りがすみれを捉え、右肩からその身体を斬り裂く。


すみれ「が、はっ……!?」

590: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 21:50:52 ID:???00

マルガレーテ「……!?」


だが、わずかな違和感にマルガレーテが気付く。

マルガレーテの剣は、すみれの肩の上にいつの間にか置かれていた空間の歪を先に斬っていた。
.障害物を斬ったことでわずかに斬撃の威力が落ち軌道も逸れたことで、すみれは致命傷を免れる。


すみれ「ぎ、ギャラクシースパイキー!」

マルガレーテ「ぐっ!?」


そして、仕込んでいたもう一つの罠を発動させた。

マルガレーテの足元付近で弾け飛んだ針状結晶が、その左のふくらはぎと太ももを刺し貫く。


すみれ「うぅ……!」

マルガレーテ「くっ……」


二人は睨み合いながら、同時に地に膝をついた。

591: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 22:01:39 ID:???00

セラス「うおぉぉぉ!! マルちゃんかっけー!!」


大擂台から数キロほど離れた雑木林。

セラスはそこで、映像確認用にカスタマイズされた伝令神機を食い入るように見つめている。

その機械にはマルガレーテが華麗に戦う様が映像として収められており、虚を切り裂いた後、風の中孤高に佇む美少女が映っていた。

物憂げにため息を吐き、ちらりと流し目する彼女にセラスは顔を真っ赤にして興奮している。


可可「フフン! スバラシイ出来デショウ可可の秘蔵スクールアイドル映像集は!」

セラス「まじやべーっす! ぱねーっす可可先輩!! 画の構図も編集も良すぎます!!」

可可「セラセラが用意したイズミのもスバラシイモノデシタよ! まさかアナタがこれほどのスクールアイドルを愛する者だったトハ!」

592: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 22:04:04 ID:???00

セラス「可可先輩がこれだけスクールアイドルに造詣深い方とは露ほども知らず……!」

可可「~っ!」

セラス「嗚呼……わたしは、わたしは今まで何というもったいない時間をー!?」

可可「ワカリマスよセラセラ! 可可もアナタほどの逸材がいることにもっと早く気付いていれバ……!」


おいおいと泣きだす可可。
だがセラスは可可の手を取り、励ますようにその手に力を籠める。


セラス「これから取り戻しましょう、スクールアイドルを愛でる素晴らしい時間を!」

可可「!」

セラス「私たち二人で……スクールアイドルを愛する同志で!」

可可「……!! せ、セラセラー!!」


二人は力強く抱きしめ合った。

……いつの間にか、二人は仲良くなっていた。

593: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 22:07:05 ID:???00

発端は、セラスが言い出したゲームの提案である。 

お互い斬魄刀の能力を封じ純粋な剣の勝負で先に一撃を当てた者が、相手に対して一つ言うことを聞かせられるというゲーム。

言うことを聞ける状態である必要があるため、逆刃で峰打ち。

当初、セラスはさっさと勝負をつけてマルガレーテの下に戻ろうと思っての提案だったが、しかし結果はセラスの敗北だった。


セラス「まさか……こんなスーパードクター×2みたいな人に負けるなんて……!」

可可「ケーケーではありマセーン!? 可可デスよ!?」

セラス「うぅ……」

可可「大胆な提案をしてくる割には思ったより弱かったデスね……まあでも、これで可可には言うことを聞かせる権利がありマス」


ニヤリと可可が笑う。

594: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 22:08:51 ID:???00

セラス「くっ……いったいわたしに何をさせようっていうの? まさか、容姿端麗豊満痩躯のこのわたしにあんなことやこんなことを……!?」

可可「ホーマンソウク? なんデスかその矛盾の言葉は……」

セラス「ロリ巨 の言い換え?」

可可「……自分で容姿端麗と言うところといい、中々のオカシイアタマノヒトみたいデスね? 逆に少し興味が沸いてキマシた」

セラス「?」

可可「というか、あのマルマルが心を開く少女がどういう子なのかは元々興味があったのデス」

セラス「えっ……?」

可可「そうデスね……まずはアナタの趣味から教えてもらいマショウか」

セラス「……なにそれ? わたしホントに狙われてる? 恋させちゃったの?」

595: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 22:11:32 ID:???00

可可「ホラ早く言えデス!」

セラス「んー……ホラー映画と、バイオリンを弾くことかなあ?」

可可「フム……それは可可の持ってるプロフィール表と同じデスね、ツマラナイ」

セラス「え、なんでそんなの持ってるの怖……」

可可「もっとアナタの深いところを教えナサーイ! 可可は、学園界の全てのスクールアイドルの全てを知りたいのデス!」

セラス「スクールアイドルの100%中の100%!?」

可可「そうデス!」

セラス「……えっと、御宅ってひょっとして、スクールアイドルがお好きだったりします?」

可可「き、急に丁寧語になりマシたね? しかし、それは愚問デス! 護廷十三隊スクールアイドル研究会現会長はこの可可なのデスから!」

セラス「!!! ホンマでっか可可先輩!?」

可可「お、オオう? なんかモノスゴイ食い付き方してキマシたよ……セラセラ、ひょっとしてアナタも……?」

596: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 22:12:45 ID:???00

そこから二人はお互いのスクールアイドルへの想いを語り合い、いつの間にか自分が持つスクールアイドル映像の霊子データを披露する鑑賞会が始まっていた。


セラス「わたし、可可先輩と会えて幸せです……! 今日という機会を与えてくれたラブライブ!に感謝……!」

可可「可可もこの世界の神たるラブライブ!に感謝シマスよ!」

セラス「うおおおスクールアイドル最高ー!」

可可「サイコー!! ……ヌっ?」


突然、可可が険しい顔をして空を睨む。
彼女の視線は、『双極』の丘の方を向いていた。


可可「始まったようデスね……この霊圧はしずくと……」

セラス「侑の霊圧だ……」

597: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 22:15:37 ID:???00

可可「侑……やはりあの人間の名は侑というのデスか」


可可が神妙な顔をして『双極』の丘の方を見つめる。


セラス「? 可可先輩は侑を知ってるの?」

可可「あの人間は知りマセン……ただ、彼女にそっくりで同じ名前の友達が、昔学園廷にいまシた」

セラス「昔の友達……」

可可「昔は、スクドル研にももっとメンバーがいたのデスよ……メーメーにセッツー、コズエやルビィ……ユーユーもとい侑もそうデス」

可可「護廷十三隊の広報としての活動をして、後ろ盾にダイヤさえついていたのデスよ! しかし、みんな『大聖別』でいなくなったり、離れていって……」


可可の表情が曇る。

598: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 22:19:37 ID:???00

セラス「……」

可可「……いえ、ヘンな話をしてシマイましたネ」


可可が、悲しげな表情を無理矢理笑顔に変えてセラスに笑いかける。
セラスは、そんな可可の姿にいたたまれなさを覚えた。

今日ちゃんと仲良くなったばかりの彼女を心から笑顔にする方法。
そんなものはセラスには一つしか思い浮かばない。


セラス「……可可先輩、続きをやりましょう」

可可「!」

セラス「スクールアイドルを愛でる時間は、まだこれからなんですから!」

可可「……セラセラ!」


可可の顔がぱあっと明るくなる。


セラス「ルールは同じ、剣の勝負で先に峰打ち一撃当てた方の勝ち」

可可「負けた方が、自分の秘蔵のスクールアイドル映像を持ってクる!」


ニヤリと二人が同時に笑う。


セラス「次は負けないよ! 学園廷に代々伝わる伝説のスクールアイドル伝説……それを見せてもらいたいから!」

可可「フフ……アレに目を付けるとは流石デスねセラセラ! しかし、可可もまだまだアナタの持つスクールアイドル愛を確かめタイのデス!」


二人は一気に距離を詰め、斬魄刀をぶつけ合った。

599: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/21(火) 22:25:37 ID:???00
#34 DECISIVE BATTLE OF SCHOOL SOCIETY  PARTⅢ

END


今日はここまでです。


原作の、周りがシリアスに戦ってるのに斑目と射場が酒飲みながら一騎打ちしてるシーン、めちゃくちゃ好きなんですよね……
マルガレーテとすみれはガチガチの闘いをやってるのにネタみたいなセラスと可可、みたいなのをどうしても書きたかったのでした。

いよいよ本章のクライマックスですので、更新頻度的なモノも一気に駆け抜けられたらなーと思っています。
書き溜め分を本章のラストまで仕込んでから毎日投下とかにしたいなー、と。
なので次は少し期間が空いてしまうかもしれません!
しばしお待ち下さい!

600: 名無しで叶える物語◆hrRNB5S7★ 2025/10/22(水) 08:04:50 ID:???00
わかる
尸魂界編終盤の隊長同士とか副隊長同士の戦い好き

601: 名無しで叶える物語◆7PuTd40w★ 2025/10/22(水) 12:31:37 ID:???00
十千万旅館津波被害どころか跡形もなく崩壊しててわろた
高海家と隊員の人たちかわいそう

602: 名無しで叶える物語◆EapqdR7C★ 2025/10/22(水) 14:04:38 ID:???Sa
四席と五席と六席が直してくれるから…

603: 名無しで叶える物語◆7PuTd40w★ 2025/10/29(水) 01:10:27 ID:???00
期待してる

604: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 19:34:40 ID:???Sd
#35 DECISIVE BATTLE OF SCHOOL SOCIETY  PARTⅣ



侑「……」

しずく「……」


私たちは斬魄刀を構えたまま、しばらく睨み合っていた。
その間もしずくちゃんの霊圧は浴びせ続けられ、決して攻撃を尻込みしてるような逃げの姿勢でないことだけは伝わってくる。


侑「……来ないの?」


自分が値踏みされてるような気持ちの悪さに、思わず挑発的な言葉が出る。


しずく「わかりやすい挑発ですね、そんなに逸るのならそちらから仕掛ければいいのに」

侑「確かにそうだね……じゃあ、行くよ!」


逆に乗せられていることを自覚しながら、私は前に出た。

605: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 19:36:36 ID:???Sd

思い切り振りかぶった剣を、しずくちゃんに叩きつける。


ガキィン!


しずく「……!」


彼女はその剣を捌かなかった。
受け止め、そのまままた押し合いになる。

しずくちゃんの霊圧と私の霊圧がぶつかり合い、お互いの周りの物が衝撃波で吹き飛んでいく。


しずく「なるほど……松浦副隊長の件といい、先程の回避といい、確かに肉体面での強化はされている」


しずくちゃんが苦虫を噛み潰したような表情で呟く。


しずく「中須かすみも言っていた現世での特訓とやらのせいですか」

侑「うおおお!」

しずく「ですが、スクールアイドルの闘いは単純に剣術だけで押し切れるほど甘くはない!」



しずく「散れ『Solitude Rain』」



侑「!?」


私は咄嗟に剣を弾いてバックステップすると、直後その場にあの剣の雨が降り注いでくる。

606: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 19:38:52 ID:???Sd

侑「その技か……!」

しずく「はっ!」


しずくちゃんが剣を振るうと今度はその切っ先から剣の雨が直接こちらに向かって飛んできた。
私は必死に走り続けそれを避ける。


しずく「『Solitude Rain』は、避ければ終わりの技と思いましたか?」

侑「!」


しずくちゃんがもう一度剣を振り、新たな剣の雨を作り出す。

それは移動し続ける私の行き先に向けられたものだったけど、それとは別に先程回避したはずの剣の群れまで向きを変えてこちらを追尾してきている。


侑(自分の意思で追っかけさせられるのか!)


気付けば上から降り注いできていた剣も、地面から起き上がって私の方に向かってきている。

もうそれは剣の雨ではなく生き物だ。

剣の塊で出来た鋼色の蛇が、私を執拗に追い掛けてくる!

607: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 19:40:43 ID:???Sd

侑(しずくちゃんが生み出す剣の雨は本当の剣じゃない……彼女が自在に操れるいわば霊力の刃の集まり)

侑(だったら、マルガレーテちゃんが言ってた『霊力を燃やす』コイツで……!)


私は『CHASE!』を握る手に力を込める。
斬魄刀から紅い炎が現れ、刀身が炎を纏う。

その様子を見たしずくちゃんの顔が歪んだ。


しずく「……お前がその剣を振るうな!」


鋼の蛇が三方から私に襲い掛かる。


侑「はあああっ!」


私は迫りくるそれを連続で薙ぎ払った。
紅蓮の炎は鈍色の大蛇の身体を切り裂き、燃やし、散らしていく。

けたたましい金属音と共に周囲が焼け焦げた鋼片だらけになり、それは紅の炎の中で灰になっていった。

608: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 19:42:03 ID:???Sd

しずく「なにっ!?」

侑「今度はこっちからだよ!」


強い思いを込めながら両手で剣を固く握り頭上に構えると、応えるように刀身から爆炎が噴き上がる。

真っ赤な炎はそのまま『形成』され、紅の刃と化す。


しずく「まさか……!」

侑「いっくよーー!」


その言葉は、いつの間にか『私の中』にあった。
その技を、いつの間にか知っていた。
まるでこの剣を自分の中から取り出した時みたいに。

斬撃と共に霊圧を最大開放し、炎の斬撃を"飛ばす"。
この斬魄刀が持つ最強の必殺技。


侑「『Just Believe!!!』!!」


私は思い切り剣を振り降ろし、しずくちゃんに向け炎の斬撃を放った。


しずく「っ! お前ごときのその技が、この『Solitude Rain』を貫くことはない!」


しずくちゃんの前に剣の雨が滝のように降り注ぎ、彼女を守る防壁になる。

609: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 19:43:35 ID:???Sd

侑「っ!!」

しずく「……!」


私の『Just Believe!!!』がしずくちゃんの作った剣の滝に直撃する。
降り続ける剣の雨を呑み込み砕きながら、紅の刃が前に進み続ける。


しずく「押されてる……!? そんなバカな!」

侑「行っけええええ!!」

しずく「この技が……"本物"だって言うの!?」

侑「!!」

しずく「ッ!?」


しずくちゃんの眼前まで迫った炎の刃が、その場で大爆発を起こした。


侑「くっ!」


爆炎が上がり、衝撃波が私まで巻き込む勢いで吹き荒れる。


侑「……!」


目を細めながら、それでも炎の向こうにいるしずくちゃんを私は探した。

610: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 19:45:42 ID:???Sd



LOVELIBLEACH #35



DECISIVE BATTLE

OF

SCHOOL SOCIETY 


PART Ⅳ




            .

611: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 19:48:50 ID:???Sd

副会長「そんな……!」


鬼道衆総帥・虹ヶ咲副会長は、二人の闘いを実際にその目にして驚愕していた。

報告では聞いていた、自分と同じ虹ヶ咲学園に昔いた少女と瓜二つの人間。

学園廷に招かれるほどのスクールアイドルとしての適性を持ちながら、スクールアイドルにならず、最期は『大聖別』に巻き込まれて消滅したはずの少女……高咲侑。

その彼女の、本当に生き写しとでも呼ぶほど同じ風貌の人間が、紅の炎を纏った剣を使って闘っている。


副会長(あの剣は……会長のもの! 何故それを彼女が持っている!?)


せつ菜に近侍し、憧れてもいた彼女がその剣を見間違うはずはなかった。

優木せつ菜が『大聖別』で消えてから失われた斬魄刀『CHASE!』。
それを何故か謎の少女が振り回し、せつ菜の技すら使用している。

612: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 19:50:16 ID:???Sd

しかもそれで、七番隊隊長桜坂しずくを追い詰めてさえいる!


副会長「本当に、何が起きてるのいったい……!?」


副会長は不安と不快さを同時に覚える。
この状況はまるで、二百八十年前の時と同じ展開だからだ。

あの時は、高咲侑が儀式中に『双極』の丘に乗り込んできて、鬼道衆を強引に押し切りせつ菜の処刑を止めようとした。

かろうじて、その場に居合わせていた当時の七番隊副隊長だったしずくがそれを止め、燬鷇王による処刑は完遂したが、その時の反省からこの儀式は護衛目的の護廷十三隊の隊長副隊長の参加が原則になったのである。


副会長(でも今回は既に『双極』は無力化され、しずくさんも……!)

613: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 19:52:37 ID:???Sd

恋「——四番隊葉月恋、鬼道衆の皆さんの救援に参りました」

会長「!?」


そこに、恋が現れる。
副隊長のきな子は既に他の鬼道衆と果南を恋の『結び葉』に収容し出していた。


果南「ごめんなさい、きな子……」

きな子「い、いえ……さ、早く!」


きな子(一番隊副隊長の果南さんを一撃でここまで……あの旅禍の人間さん、いったい何者なんすか……!?)


恋「お乗りください総帥、あなたで最後です」

副会長「か、かたじけない……」

恋の手を借り、浮遊している巨大な黄金の葉の上に乗せてもらう。
途端、がくんと力が抜けるような気がした。

戦場を離脱出来ると理解した身体に、一気に疲労とダメージが来たのだ。

614: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 19:53:38 ID:???Sd

恋「きな子さん、最終確認を!」

きな子「負傷者全員の収容完了しました!」

恋「よろしいです! ではこれより四番隊隊舎に帰投します!」


恋の声で黄金の葉が上空に浮かび上がる。

数十人が薄い木の葉に乗っているにも関わらず、その乗り心地はとても安定していた。

副会長は痛む身体を押して下の様子を確認する。
爆炎に呑まれたしずくの姿はいまだ見えない。


副会長「くっ……」


燃え盛る炎を睨みつける謎の少女の横顔を、納得の行かないものを感じながら彼女は見送った。

615: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 20:24:29 ID:???00

侑「……!?」

しずく「……」


しずくちゃんが、炎の中からゆらりと出てくる。

しっかりとした霊圧があったから、まだそこにいるのはわかっていた。
それでも、身体の至る所に炎の斬撃を受けた跡を残したその姿は、自分がやったこととはいえ痛々しい。


しずく「……」


しずくちゃんが冷たくこちらを睨む。
一目で、彼女がとても怒っているのがわかった。

しずくちゃんは本気で怒ると静かになるタイプだから。


侑(……? なんでそんなことがわかるの?)


しずく「……忌々しい」

侑「!?」


そんな頭をかすめた疑問は、彼女のあまりに低く凍りついたような声に霧散する。

616: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 20:28:12 ID:???00

しずく「"お前"の声を聞くたび……"あなた"の姿を見るたび、私の心は軋む」

侑「……」

しずく「その剣が振るわれるたびに、私が犯した罪が目の前に突きつけられるよう……」

侑「罪……?」

しずく「……あなたは何なの? そんなにも……迷い出てまで、私を苦しめたいの?」

侑「何を、言って……?」



しずく「そんなにも……"あなたを殺した"私のことが憎かったの?」



侑「えっ……!?」

しずく「……消えなさい」

しずく「消えろ亡霊!!」


しずくちゃんは叫ぶと、斬魄刀の切っ先を地面に向けた。

途端、しずくちゃんの雰囲気が変わる。

それはまるで別人を演じ始めたかのように。
激昂していたしずくちゃんが、冷徹な戦士に変わる。

617: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 20:30:01 ID:???00

しずく「——卍解」


しずくちゃんが斬魄刀を手放す。
刀はそのまま地面に吸い込まれるように消えていった。


しずく「『Solitude Rain -  オードリー -』」


彼女の後ろに巨大な光のシルエットが浮かび上がる。
ドレス姿の美しいそれはまるで女優か何かのよう。


侑「何これ……!?」


でも、そんなものに見入っている暇はなかった。
周囲に数え切れないほどの桜色の剣が現れたからだ。

逃げ場なく上空まで螺旋を形どりながら、数千の剣が私を取り囲む。


侑「くっ……!」

しずく「……散れ」


しずくちゃんの言葉と共に、無数の桜色の剣が全てあの剣の雨に変わった。

ありとあらゆる方向からそれが私に向かって降り注ぐ!

618: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 20:32:31 ID:???00

侑「うおおおおおおっ!!?」


剣で斬る!
捌く!
燃やす!

それでもあまりの数に追いつかない!?


侑「うぐっ!?」


肩を斬られた。
そちらに気を取られている間に今度は脚に。

斬撃を受けるたび私の力も反応も衰えていく。


侑「う、うわああああっ!?」


全身に剣の雨が降り注ぐ。
身体中が切りつけられていく。

それはまるで、最初にしずくちゃんと出会ったときの再現のようで。


ドシュッ


侑「……!?」


後頭部に、まるで打撃のような重さの斬撃を受け、意識が一瞬飛ぶ。

歩夢から貰った、いつも髪をまとめているヘアゴムが切れ、髪がばらりと広がった。


侑「……ぁ」


自分の髪を目にしたのを最後に、私は、なすすべなく全身を斬り刻まれる。 

視界が赤く染まり、そして真っ暗になっていく……

619: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 20:33:32 ID:???00


??『これは……まずいですね!!』



??『日に二度も呼び出される上に『彼女の楔』も無いとなると、コントロールを完全に奪ってしまいそうですが……仕方ありません!!』




……誰かの声が、聞こえた気がした。

620: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 20:35:45 ID:???00

しずく「……」


しずくは、倒れた侑をじっと見つめていた。

霊圧の低下する瀕死の相手に対して、卍解はまだ解除していない。
慎重というより、最早それは過剰な対応であった。
しずくもそう理解している。

自分は何にそこまで敵意を抱いているのか。
あるいは……何をそこまで恐れているのか。


しずく「……」


自分の周りに浮かぶ桜色の剣を一つ手に取る。
霊力で出来たそれは、単純な斬魄刀と違って肉体的なダメージだけしか与えられないわけではない。

目の前の弱った相手なら、おそらくは魂魄へのダメージさえ取れる。

ましてやそれが、死点への一撃なら……

621: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 20:50:59 ID:???00

しずく「!」


しずくは霊力で出来た剣を、わざわざ鋭利な刺突用に変形させた。

これで死点を突き、魂魄から絶命させられる。

完全なる決着。
亡霊だろうが何だろうが、魂魄を滅せれば消えない存在はいない。

……それが例え『大聖別』から復活したかもしれない存在だとしても。


しずく「これで終わりです、全て」


しずくは逆手に持った剣を振り上げ、うつ伏せに倒れている侑の背中……死点と呼ばれる心臓近くに突き立てようとした。


侑「!!」

しずく「!?」


瞬間、がばっと侑の身体が起き上がる。

振り下ろしたしずくの剣はわずかに間に合わず、地面へと突き刺さった。

622: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 20:54:53 ID:???00

しずく「なっ……!?」
 


侑「ふぅ~……何とか『交代』が間に合いました!!」



しずく「な、に……!?」


目の前で立ち上がった侑は、血塗れの顔でニコッとしずくに笑い掛けた。

いつの間にか彼女の髪から、毛先に掛けての緑のグラデーションがなくなっており、ほどけた髪も元のそれより長く伸びている。


侑「お久しぶりですね! しずくさん!!」

しずく「っ」


あまりに場違いな、明るい笑顔。
いつも大きな、昔と変わらないその声量。

しずくがずっと後悔し続けていたこと。

『あの時』確かに、侑と共に消えた……殺したはずの人。



侑「優木せつ菜、数百年ぶりに学園廷に参上ですっ!!」

623: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/30(木) 20:56:44 ID:???00
#35 DECISIVE BATTLE OF SCHOOL SOCIETY  PART Ⅳ


今日はここまでです。

書き溜めた分で、多分あとは手直ししながらラストまで一気に駆け抜けられると思います。
多分……!

624: 名無しで叶える物語◆hrRNB5S7★ 2025/10/30(木) 21:56:33 ID:???00
Number Oneが脳内で流れた

625: 名無しで叶える物語◆StwTK50A★ 2025/10/31(金) 01:25:52 ID:???00
ふぅん侑木せつ菜ということか

626: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 21:59:50 ID:???00

#36 SHOWDOWN YOUR FATE






これは、私の罪の記憶——





しずく『侑先輩!?』

侑『どいてしずくちゃん! 私はせつ菜ちゃんを助ける!』


二百八十年前……せつ菜先輩の『大聖別』の時。
私は『双極』の丘にいた。

護廷十三隊七番隊隊長のせつ菜先輩を処刑しラブライブ!へ送り出すために、同隊副隊長の私はその移送役と立会人になったのだ。

『双極』の解放が終わり、燬鷇王が出現したその時、私の目の前に侑先輩は現れた。

返り血で制服を、その顔を汚した姿で。


しずく『まさか……鬼道衆の人たちを倒してここまで来たんですか!?』

侑『……!』

しずく『あなたが、斬魄刀を人に向けるなんて……!?』

627: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:01:10 ID:???00

侑先輩。
護廷十三隊の一員でもなければ、スクールアイドルでさえない人。

……学園廷に招かれるほどの高いスクールアイドル適性を持ちながら、私たちのファン、マネージャーだと言ってその道を選ばなかった人。

そんな人が、斬魄刀を血に染めて悲壮な表情で目の前に立っていた。


侑『お願いだよしずくちゃん、邪魔をしないで……しずくちゃんまで私は斬りたくない!』

しずく『……!?』


剣を構えて、私さえ倒せると口にする彼女は、それだけ切羽詰まっていたのだと思う。

そして、護廷十三隊隊長格に劣らない彼女の才能と能力は、それを確かに可能にしていた。

628: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:03:21 ID:???00

しずく『もう既に燬鷇王は顕現しています! 処刑を今から止めるなんて不可能です!』

侑『あの鳥がぶつかる前にせつ菜ちゃんを助ければ……!』

しずく『っ……そんなこと許されません! この『大聖別』はせつ菜先輩が選んだこと! あの人の誇りを穢すような真似は私がさせないっ!』

侑『それでもっ! 私はせつ菜ちゃんを助ける!』

しずく『侑先輩……『大聖別』は、この世界を支え守護するラブライブ!を守るために必要なことなんです! それを止めたりなんかしたら……!』



侑『……誰かを不幸にしないと維持できないなら、ラブライブ!なんて要らない!!』



しずく『……!?』

私が制止する前に、侑先輩が先に跳躍した。
移動用鬼道を前もって自分に掛けていたのだ。

上空で磔にされているせつ菜先輩の下に、彼女が辿り着く。

629: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:05:03 ID:???00

せつ菜『侑さん……』

侑『今助ける! 一緒に逃げようせつ菜ちゃん!』

せつ菜『ごめんなさい侑さん……私は、あなたにとんでもない罪を犯させてしまいました……』

侑『そんなことどうだっていい! 大切な人を守れるなら、犯罪者にだって極悪人にだってなっていい!』

せつ菜『……っ』


侑先輩が斬魄刀を振り、せつ菜先輩を拘束していた磔架を破壊した。


しずく『駄目ェっ!? ……ッ!?』


侑先輩を止めたくて届きもしない手を伸ばした時、それは『発現』した。

護廷十三隊隊長格だけが持つ、斬魄刀の潜在能力を全て引き出した最終奥義。

斬魄刀解放第二段階・卍解。

それまでずっと鍛錬し続けても辿り着けなかったのに、何故かそのタイミングで私のそれは完成した。

完成してしまった。

630: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:07:13 ID:???00

しずく『そんな……待って!?』

侑『!?』


侑先輩とせつ菜先輩の周りに、桜色をした霊力の斬魄刀が無数に現れる。

彼女たちを逃がさないように、決して逃げられないように二人を取り囲んで。

そしてそれは一斉に彼女たちに襲い掛かった。


侑「せつ菜ちゃんっ!?」

せつ菜『……!』

しずく『い——』


庇うようにせつ菜先輩を抱きしめた侑先輩。
彼女に抱かれて、応えるように背中に手を回して涙を流したせつ菜先輩。



そんな二人を、私の剣が貫く。



しずく『いやああああああああああっ!!!!??』



その直後に二人は、燬鷇王の突撃を受けて消滅した。



……最期のせつ菜先輩の表情が、今でも目に焼き付いて消えない。




これが、私の罪の記憶——

631: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:08:19 ID:???00




 LOVELIBLEACH #36


  
     SHOWDOWN

   YOUR FATE




           .

632: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:10:37 ID:???00

侑「優木せつ菜、数百年ぶりに学園廷に参上ですっ!!」

しずく「っ……優木、せつ菜……!?」


目の前で堂々とそう宣言した少女に、しずくは動揺した。

確かに雰囲気は『優木せつ菜』に似ている。
太陽のような笑顔は少なくとも先程までの高咲侑ではない。

何より、霊圧が彼女のものだった。
数百年ぶりとは言え間違えるはずがない、優木せつ菜の霊圧。

だが、それはあくまで雰囲気の話である。

見た目は、髪型とその質が変わったとはいえ高咲侑であり、声も彼女のものだ。
何より、彼女は今までずっとしずくの前に倒れていたのだ。

別人に入れ替わってなどいない。
少なくともしずくの目の前では。

633: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:12:23 ID:???00

しずく「っ……ふざけるな」


ぎり、と奥歯を噛み締める。


しずく「お前は、優木せつ菜なんかじゃないっ!!」


しずくは喉を痛めるほどの勢いで叫んだ。
優木せつ菜を名乗る侑の周りを、桜色の剣が螺旋を作りながら取り囲む。


しずく「せつ菜先輩も侑先輩ももういないっ! いるはずがないっ!!」

しずく「だって、『あの時』私が確かに殺したんだからっ!!」


叫びながら、しずくの視界が滲む。
それは涙。
昂った感情が当時の思い出したくもない記憶を呼び起こし、彼女の心を軋ませる。


侑「……確かに、今の私は侑さんでも優木せつ菜でもないかもしれません」


少し寂しそうに侑が笑う。


侑「そうですね、あえて名付けるなら『侑木セツナ』といったところでしょうか」

634: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:13:34 ID:???00

しずく「……!」

セツナ「今の私は侑さんの身体を借りている身……彼女を守るためにここにいるんです」

しずく「もう、喋らないでっ!!」


しずくが霊力の剣をその場で振り上げると、セツナを取り囲む数千本の剣が一斉に剣の雨に変わる。

全方位から敵を包み込み押し潰すように斬り刻む『Solitude Rain - オードリー -』の型。
この技に逃げ場はなく、回避方法はない。


セツナ「いきなりクライマックス!! 燃える展開ですっ!!」


セツナは『CHASE!』を両手で持ち、爆炎を噴き上げさせた。

それは『Just Believe!!!』の構え。

635: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:15:23 ID:???00

しずく「その技では私の『オードリー』は防げない!」


しずくが剣を振り下ろすと、セツナを取り囲んだ桜色の剣の雨が一斉に襲い掛かった。

寸分の隙間もないそれは、最早中にいる者をすり潰す剣の渦。


セツナ「『Just Believe!!!』……」


セツナは、斬魄刀が生み出した爆炎のエネルギーを刀身に込めたまま、斬撃を飛ばさなかった。

その代わりに剣を横に構えながらその場でくるくると連続で回転し、炎の渦を作り出す。


セツナ「せつ菜☆スカーレットストォォォォムッ!!!」


セツナが叫びながら『Just Believe!!!』の炎刃を放つと、爆発的に勢いを増した炎の渦は迫りくるしずくの剣の雨を弾き返し呑み込みながら、全てを燃やし尽くす。

636: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:18:01 ID:???00

しずく「なっ……!?」


それは、その力は、正しく優木せつ菜の持っていたもの。
彼女の下で副隊長だった頃に、しずくだけが見たことのある『Just Believe!!!』を応用した必殺技だった。

その威力は凄まじく、『Solitude Rain - オードリー -』が生み出した霊力の剣を全て消し飛ばしてしまうほど。

実際、"本物の優木せつ菜"だとしたら可能な……いや彼女でなければ不可能な芸当であった。


しずく「……っ!」


だが、しずくは再度手で指示を作り、霊力の剣をまた生み出す。
消えたはずの剣がまた数百本、数千本と現れる。


しずく「はぁっ、はぁっ……!」

セツナ「なるほど、霊力の続く限り何度でも作り出せるのですね!」


感心したように自分を取り囲む桜色の剣を眺めながらセツナが呟く。
そして、辛そうに息を荒くしたしずくを見据えた。

637: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:19:46 ID:???00

セツナ「これほどの技を連続使用するのは相当な霊力の消耗となるでしょう……それを可能とするとは、流石はしずくさんですっ!」

しずく「っ……黙れ」



セツナ「『あの時発現した』あなたの卍解……ここまで磨き上げるには相当な努力があったのでしょうね」



しずく「っ!? 何故、そんなことを……!?」

セツナ「この数百年間研鑽を続けてきたあなたを、私は尊敬しますよ!!」


セツナが笑う。
太陽のようなあの笑顔。


しずく「あ、あぁ……!」


自分とあの二人しか知らないはずの出来事を、目の前の少女は知っている。

その事実の意味することに、しずくはひどく動揺した。

638: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:21:22 ID:???00

だが……いやだからこそ、その瞬間彼女のスイッチが切り替わる。


しずく「……」


しずくの表情が、冷たい能面のようなものに変わった。
彼女が自身の罪と向き合う時には、自動的に『演じる』スイッチが入る。

しずくの卍解は、彼女にとって自身の罪の象徴。

だからそれを使う際には、彼女は心を痛めない冷徹で無機質な戦士を『演じている』のだ。

この技に『オードリー』と名付けた所以である。


セツナ「なるほど……その状態に入ることで、あなたは限界を超えてもこの技を振るい続けてしまうのでしょうね?」

しずく「……」

セツナ「罪の意識が、最終的にはしずくさんを傷つけるような真似をさせているのかもしれませんが……それは、あまり良くないことですっ!」

639: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:24:16 ID:???00

セツナの言葉を無視して、しずくは桜色の霊力の剣を、今度は直接目の前の"敵"に向ける。

細かな剣の雨に変えないことでわずかに回避される可能性が生まれるが、その破壊力は比べ物にならない。

彼女の『Solitude Rain - オードリー -』の最も攻撃特化の型にして、あの時侑とせつ菜を刺し貫いた技であるがゆえに、二度と使うことはなかったもの。


しずく「殲刑『やがてひとつの物語』」


周囲を取り囲む全ての斬魄刀がセツナに切っ先を向けた。

640: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:27:11 ID:???00

セツナ「これは……中々厳しい状況ですっ」


自身に向けられた数千本の剣を前にしても、せつ菜の態度は変わっていなかった。
先程のように『Just Believe!!!』を使う構えすら見せない。

それは傍から見れば諦めたようにも見えた。

だが、その実は違う——


セツナ「私も本気を出さざるを得ませんが……そうなればすぐに『私の存在』はまた影に隠れてしまうでしょう」


セツナはしずくを見、そしてまた笑いかけた。


セツナ「だから……今の内にこれだけはお伝えしておきますね、しずくさん!」



セツナ「優木せつ菜も侑さんも……決してあなたを憎んでなどいませんよ!!」



しずく「っ!?」


しずくの『演技』にヒビが入る。


しずく「……私を惑わせるなっ!!」


しずくは俯くように叫んで、攻撃の指示を出した。

セツナに向けて数千本の斬魄刀が一斉に突撃する。

641: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:30:55 ID:???00


セツナ「——卍解」



セツナは迫りくる剣に不敵に笑ってそう呟いた。



セツナ「『DIVE!』!!!」



しずく「……!?」


解号と共に、パリン、と空間が割れ世界が暗転する。

セツナに向かって飛んでいたしずくの剣が空中で止まり、そのまま一瞬で燃え尽きる。

直後、世界はセツナを中心に全てが紅の炎に包まれた。


しずく「!? なっ、こ、これは!?」


炎が燃やすのは、物だけではない。
霊力を燃やす紅の炎が問答無用でしずくの身体にも回り、"強制的に"燃やされていた。

回避や防御などというものが介在出来ない攻撃。



それは——世界を『煉獄』に変える能力。



『DIVE!』は、せつ菜を中心とした半径数十メートルの範囲を、彼女の作り出した霊圧領域固有結界に『飛び込ませる』卍解。

範囲内に巻き込まれた者は彼女の作り出した煉獄に落ち、なす術なく紅蓮の炎に包まれる。

642: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:32:52 ID:???00

しずく「き、きゃあああああっ!!?」


叫ぶしかなかった。

煉獄の世界では霊力を燃やす炎を消す手段も無く、それは絶え間なくしずくの力を削り続け、卍解を維持するどころか戦闘を継続することも不可能。


セツナ「……!!」


一方でせつ菜……セツナはその炎を浴びているだけでその力を増し、霊圧が強まっていくのだ。

彼女はあえて攻撃をしていなかったが、その気になれば爆発的に向上した力を振るうことが出来る。

あまりにも理不尽極まりない能力。


しずく(これが、かつて黒澤総隊長と並び最強と称されたせつ菜先輩の真の力……!)


肉体を燃やされながら、霊力を破壊され続ける痛みに悶えながら、どこかしずくは安堵していた。

これは、優木せつ菜の能力。

目の前の少女は、間違いなく優木せつ菜に違いないと理解出来たから。

643: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:37:24 ID:???00

しずく「ああっ! ああああああっ!!?」


そしてこれは、罰だと思えたから。

侑とせつ菜を殺した自分の罪への……罰。

紛い物ではない彼女に、罰を与えられている。

苦痛の中で叫びながら、しずくは痛みや絶望とは別の理由で涙を浮かべていた。


しずく(そうか……私はずっと、誰かに罰して欲しかったんだ……)


セツナ「自分を責めるのはこれでもうおしまいにしましょう、しずくさん!」


しずく(この罰で……おしまい……? ああ、私は赦されるのかな……)


炎に焼かれながらセツナの顔を見た。
彼女は、笑顔だった。

全てを認め肯定してくれた、あの笑顔。


しずく(ああ……ごめんなさい、せつ菜先輩……)


安息の中で、しずくが意識を失おうとした瞬間——

644: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:40:07 ID:???00

セツナ「!?」


バキン、と煉獄の世界がひび割れ、そして崩れ去る。
周囲の景色は一瞬で元の『双極』の丘に戻っていた。


セツナ「……」

しずく「……」


一陣の風が吹く。
これからを、仕切り直すかのように。


セツナ「予想通り、ベストタイミングで時間切れ……ですっ」

しずく「……」



セツナ「……あとは頼みますよ、侑さん」



セツナはそう言うとふらりと前に倒れ込み、その場に両膝をつき項垂れた。

645: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:41:40 ID:???00

侑「……!?」


これで何度目だ?

また、だった。
殺されると思った瞬間、意識と記憶が無くなり、目を覚ますと目の前に敵が倒れている。


しずく「……」


いや、今回はしずくちゃんは倒れていなかった。
ボロボロになりながらも確かに彼女は立っていて、私を見つめている。

でもその瞳は、どこか遠くを見ていて。


しずく「……侑、先輩」

侑「せん、ぱい……?」


デジャブのような感覚があった。
私は、しずくちゃんに先輩と呼ばれるような心当たりはない。

でも、かすみちゃんが私をそう呼んだ時のような、懐かしさが確かにあって。

646: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:43:22 ID:???00

しずく「……罪ある者は裁かれなければならないように、選ばれた者は捧げられなければならない」

侑「え……?」

しずく「私は……私たちはずっとそう信じてきた。そう信じなければ、仲間が選別され生贄にされることなど、耐えられなかったんです」

侑「……」

しずく「でも、あなたはいつもそれを打ち壊そうとする。あの時も、そして今回も」


……正直、何の話なのかはよくわからなかった。
だけど、独白じみたしずくちゃんの言葉は、確かに私に答えを求めているような気がして。

先程まで闘っていた……殺されかけた相手ではあったけれど。
でも、応えてあげたいと思ったんだ。

……しずくちゃんが、後輩だから?

647: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:44:50 ID:???00

侑「……確かに、ルール原則を守ることは大事だって思うよ?」

侑「でも、信じなければ耐えられない掟なんて、私はおかしいと思う」

しずく「それが……この世界を支え守護するラブライブ!を護持するために必要なものだとしてもですか?」


どこか遠くを見ていたような感じのあったしずくちゃんが、目の前の私にまっすぐ焦点を当てる。


侑「私は、こっちの世界がどういう成り立ちになってるのかとか、しずくちゃんたちがどういう目的で組織されてるとか、そういうのはわからない」

侑「でも私は、私の大好きな人を犠牲にしないと維持できないシステムなんて認めない」



侑「そんなものなら……ラブライブ!なんて要らないと思う」

648: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:46:20 ID:???00

しずく「……」


私の言葉を聞いて、しずくちゃんが目を伏せる。


しずく「奔放、あるいは自分勝手ですね……ですが、今はそれが羨ましい」


しずく(私も、自分を『塗り潰す』演技ではなく、自らの罪に向き合った『本当の私』になれていたら……)

しずく(今からでも……なれるでしょうか?)


しずく「侑先輩」

侑「?」

しずく「……私は、先ほど自分の罪に対して罰を受けていました」

侑「……私じゃない私と闘っていた時のこと?」

しずく「だけど、もう一つ罪はあるんです」


そう言ってしずくちゃんは剣を構える。


侑「!」

しずく「侑先輩、あなたは私に罰を課してくれますか?」

侑「しずくちゃん……?」

649: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:47:56 ID:???00

しずく「私は自分の罪と向き合い、裁きを受け、新しくやり直したい」

しずく「その時こそ、本当の自分になれる……」

侑「!」

しずく「……今更なれるのかはわかりませんが」

侑「……なれるよ、きっと!」


私も、しずくちゃんの思いに応えて斬魄刀を構える。


しずく「!」

侑「!!」


前に出るのは同時。
構えも同じ、斬魄刀を両手で持った上段振り下ろし。


侑「はあっ!!」

しずく「っ!!」


二人の剣が、お互いを捉えた。


しずく「……!?」


しずくちゃんの剣は私には届かず。

そして私の『峰打ち』は、彼女の肩に打ち込まれていた。

650: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:49:36 ID:???00

しずく「何故……?」

侑「敵意がなかったから、当てる気がないんだなってわかって」

侑「そんな人を斬ったり出来ないよ」

しずく「その割には、しっかりと重い一撃でした……」

侑「そうしてほしいのかなって、思ったからさ!」

しずく「ふっ……」


しずくちゃんは顔をしかめながら笑う。


侑「あ、ご、ごめん、ほんとに痛かった?」

しずく「いえ……それでいいんです」

侑「ほ、ほんとはこんなことしたくないんだよ!? 可愛い女の子に剣を向けるなんて今でも慣れないんだから……」

しずく「……殺されかけた相手なのに、どこまでも甘い人」

651: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:51:17 ID:???00

侑「それは……お互いの立場の違いで仕方ない話だからね」

しずく「……」

侑「しずくちゃんにも私にも信じるものがあって、それがぶつかって、もしそういう結果になったんだとしたら——」



侑「——私は、しずくちゃんを憎まないと思う」



しずく「……!」


しずくちゃんは驚いたように私を見つめると、そのまま穏やかな表情で目を閉じた。


しずく「……ありがとう、侑先輩」

侑「え?」



しずく「そして……この勝負、私の負けです」



侑「!? しずく、ちゃん……?」


しずくちゃんはそう言うと、そのままその場に倒れてしまった。

652: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/10/31(金) 22:52:40 ID:???00
#36 SHOWDOWN YOUR FATE

END


今日はここまでです。

侑木セツナ、見事に予想されててちょっと笑いました。
まあみんな一回は考えるよね!

655: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:09:00 ID:???00

#37 AND , THE CURTAIN ROSE



侑「し、しずくちゃん!?」

しずく「…………」


気を失っているのか、呼び掛けてもしずくちゃんからは全く反応がない。
でも、どんどん霊圧が下がって行っている。

この状態は……まずいんじゃないの!?



侑(そうだ、四季ちゃんのゼリー!)

侑(……は、セラスちゃんに渡したんだった!)


あの闘いの後懺罪宮に向けて出発する際、私は四季ちゃんから貰ったゼリーを、私より怪我の程度が酷くて回復しきれていなかったマルガレーテちゃんに渡そうとした。

でもマルガレーテちゃんは要らないと言って受け取らずこっちに返そうとしたので、間を取ってセラスちゃんが受け取って行ったのだ。

元々三人で行動するつもりだったから深く考えていなかったけど、別行動となってしまった今それが仇になっていた。


侑(ど、どうしよう……!)

656: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:11:34 ID:???00

侑「うっ……」


そもそも、気付けば自分の状態もかなり酷かった。

今まで誰かに身体を『使われていた』後は致命傷すらある程度治っていたのに、今回はそこまで回復が出来ていないみたいだった。

何故か、ほどけたはずの髪だけは元に戻されてるけど……


侑(このままじゃ、ここで二人とも……!?)




??「しずくちゃん、侑ちゃん!」



侑「!」


そこに、彼女が現れる。


侑「あなたは……」

エマ「侑ちゃんお願い……わたしなら、しずくちゃんを助けられるの!」


かすみちゃんから聞いていた、私のことを『知っている』という少女。
実際初めて会うはずなのに私の名前を呼んでいるその子は……


侑「エマ・ヴェルデさん……?」

657: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:13:13 ID:???00

かすみ「なんで、こうなっちゃうの……!」

歩夢「…………」


かすみは隠密行動を取りながら、時折機を見て全速で走っている。

『☆ワンダーランド☆』の能力で歩夢と共に『双極』の丘から逃げ出した彼女は、学園廷の北西にワープしていた。

いや、正確には『ワープしてしまった』と言うべき、あまり良くない状況であった。


かすみ(かすみんの『☆ワンダーランド☆』……ほんとにどうしちゃったの!?)


……かすみは、またもや自分が意図した場所とは別の場所に転移してしまっていたのだ。

658: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:16:46 ID:???00
かすみが本来行きたかったのは、十二番隊隊舎のエマの部屋。
今いる場所から学園廷内の位置で言えば東西逆の場所であった。



元々、南門と東門付近では戦闘が行われていたとの報告が伝令神機に来ており、また西門側では元いた『双極』の丘が近い。

北門にはあの破壊された懺罪宮があり、今は騒ぎになっている可能性がある。

十一番隊隊舎のある学園廷南西、九番隊隊舎のある学園廷南東でも戦闘が起きているような報告が上がっている。



そんな状況を踏まえ、かすみは学園廷の北東か北西に行くのが比較的安全だと感じ、最終的には北東を選んだ。

決め手となったのは、自分を匿ってもらえたエマの存在である。
エマのいる十二番隊隊舎は、学園廷北東に位置するのだ。

かすみはそこを指定して『☆ワンダーランド☆』を使用した。

659: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:18:49 ID:???00

だが、実際にワープしてきたのはエマの部屋ではなく、北門から西に行った学園廷北西部だった。
一応同じ北側とはいえ、北東部の十二番隊隊舎まではかなりの距離がある場所だ。

着地点の近くには二番隊の隊舎もあり、そこに待機や出入りしている隊員たちに見つかる可能性さえあった。



仕方なく、かすみは背に歩夢を抱えたまま、瞬歩も『Poppin'Up!』も使用しつつ隠密行動を取りながらエマの下に向かっていた。

エマに匿ってもらおうというのと、そしてもう一つは……


かすみ(やっぱり、歩夢さんは倒れてしまった……!)


『双極』の丘からのワープ後、歩夢は危惧した通り気を失ってしまったのだ。

しかも、今回は初めて学園廷に跳んできた時のような気絶とは違う。

660: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:21:12 ID:???00

歩夢は懺罪宮を破壊した後に意識を失くした時のような状態になってしまったのだ。
眠りから覚める様子はなく、徐々に霊圧も下がりだしている。


かすみ(この状態が『私の斬魄刀による効果』の範疇なのかはわからない……でも、今はエマ先輩の能力を頼るしかない!)


彼女に『直して』もらうためにも、かすみは隠れながらもエマの下へ急いでいる。


かすみ「はぁっ、はぁっ……!」


走りながら、かすみは強い疲労感を覚えていた。

やけに霊力消費と身体への負担を重く感じている。

確かに不得意な瞬歩と鬼道を使い、しかも鬼道は隠密用移動用の二つも使ってはいるが、それにしても消耗の度合いが激しい。

661: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:24:09 ID:???00

かすみ(四季先輩のゼリーでも、完全に回復しきれなかったってこと……?)


それほど、しずくとの闘いで受けたダメージは大きかったのだろう。
走力も霊力も徐々に落ち始めている。

仮に今不測の事態で緊急的に『☆ワンダーランド☆』を使うことになったら、あと一回で霊力は枯渇してしまうだろう。

やはり、さっきの『☆ワンダーランド☆』がちゃんと機能していたら……


かすみ(でもやっぱりおかしいよ……何かがおかしい……!)


かすみは失敗した『☆ワンダーランド☆』のことをまた考えていた。

負の思考の悪循環が起きかけている……

それは理解しているし実際今となっては詮無いことではあるが、それでもずっとかすみの中で引っ掛かるものがあった。

662: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:25:51 ID:???00

まず失敗とその原因があやふやでわからないのが、納得がいかなかった。

仮に歩夢がいる時にはワープが失敗するのだとしたら、最初に彼女を学園廷に連れてきた時にまずおかしなことになっているはずだ。

だが、そうはならなかった。
それに、学園廷にみんなで来た時の最初の失敗は、歩夢がいない時に起きている。



次に、仮に現世で『☆ワンダーランド☆』が成長したせいで不具合が起きているのだとしたら、そもそも成功している時があるのがよくわからない。

かすみは、エマの部屋から出る時『双極』の丘の近くにまずワープした。
いきなり儀式中の場所に突っ込むのは無謀すぎると思ったからだ。

そして気付かれない程度に離れた場所で様子を伺い、侑が行動に出たのに合わせて再度処刑の現場、歩夢のいる近くまでワープをした。

663: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:28:18 ID:???00

かすみ(あの時は完璧に出来たのに、その後すぐ歩夢さんを連れて逃げる時は失敗した……)


しかも、その失敗には法則性も再現性もない。

最初はみんなバラバラになり、自分は懺罪宮に転移していた。
今度は歩夢とバラバラにはならず、学園廷の北西部だ。
位置はもちろん、高度も違う。

確かに、前提となる条件が同じものは無いかもしれない。

だが、今まで学園界内や学園界に行くときには一度もミスの無かったこの能力が、突然こんなに信頼性を損なうものなのだろうか?


かすみ「……」


かすみは、現世での特訓では斬魄刀が『成長』したと感じていた。
デタラメに『変質』したとは考えていない。
確かにその実感があったのだ。

664: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:31:44 ID:???00

かすみ(そもそも、最初の失敗の時もなんで懺罪宮深層なんかに跳んだんだろ……かすみん、あんなところ行ったことないんだけど……)


基本的には『☆ワンダーランド☆』は知っている霊圧を検知しそれがある場所か、行ったことのある場所しか指定できない。

つまり、行ったことのない懺罪宮深層にワープしたのは……考えられるとしたら、かすみが歩夢の霊圧を検知しそこを自分で指定して跳んだということ。


かすみ(私は絶対にそんなことしてないよ……! 暴走や不具合にしてもなんだか出来すぎてる……)

665: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:34:04 ID:???00

かすみ「……!? ち、ちょっと待って!?」


そこでかすみは、もう一つおかしなことが起きているのに気付いてしまう。
思わず立ち止まり、ポケットの中のそれを取り出して見つめた。

伝令神機。
護廷十三隊隊長格にだけ配られる霊子通信機器。
カスタマイズ性はあるものの、基本的には総隊長や隊長からの指令や、隠密機動からの報告を確認する受信専用装置であり、こちらから発信は出来ない。

その伝令神機で各地の戦闘の情報を知っていたから、かすみは安全そうな学園廷北東、十二番隊隊舎を目指すことにした。


かすみ(でもよく考えたらおかしい! 私はもう護廷十三隊からは裏切り者扱いのはず……!)


何故その自分に、変わらずまだ情報が送られてきている?

666: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:37:04 ID:???00

連絡リストの更新は隠密機動や各隊長によってすぐにでも出来ることであり、戦争状態とはいえ、いや戦時体制だからこそ情報管理は徹底されるはず。


かすみ(どういうこと……これ、誰が私に送ってきてたの!?)


差出人は管理組織である隠密機動になっているが、送信リストの更新漏れというのはあのきっちりした隠密機動総司令・鬼塚冬毬のことを考えればあり得ない。

では、いったいこれは……



??「——中須副隊長」



かすみ「!?」


かすみがいよいよ自身に起きている疑惑の核心に辿り着こうとしたとき、見計らったように一人の少女が目の前に現れる。


かすみ「あ、あなたは……」

667: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:40:57 ID:???00

花帆「なに、これ……!?」


ここは理事長四十七室。

何にも邪魔されず、誰の気配も感じないことに違和感を覚えつつも、花帆は四十七室にある理事長たちの居住スペースまで辿り着いていた。

そこで花帆が見たのは、凄惨極まりない光景。


花帆「理事長さんが、みんな死んでる……!」


そこにあったのは、皆殺しにされている理事長たちの姿。
学園廷で最上位の権力を持つはずの者たちが、一人残らず惨殺されていた。

それは、極刑は免れぬ、などという言葉で足りないほどの蛮行であり重罪。
だが、それを裁くための人間がみな殺されてしまっているのだ。

明らかな異常事態だった。

668: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:43:35 ID:???00

花帆「うぅっ……!?」

しかも、既に殺されてから大分時間が経っている。
少なくとも、近づけば腐臭がするほどの酷い遺体の状態である。


花帆「なんで、こんなことに……!?」


花帆は混乱する。

何より彼女を追い詰めているのは、いまだに感知できる自身の霊圧。
そう、『シュガーメルト』で霊圧を織り込んだガーベラの髪飾りはまだこの建物に存在しているのだ。

こんな凄惨な状況の理事長四十七室の、更に奥に。


花帆「っ……」


花帆は、理事長四十七室の建物としての構造を把握していない。
それでも、地下には『裁定の間』と呼ばれる裁判所のような場所があり、そこはだいぶ大きなものだと聞いている。

髪飾りの霊圧は、その地下から発せられていた。

669: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:48:12 ID:???00

花帆(こんなことするのは、梢センパイなんかじゃない……)

花帆(誰……まさか、泉ちゃん……!?)


ぎり、と花帆は奥歯を噛みしめる。

梢の生存を信じて、彼女がいるはずとここまで来たのに、花帆の中ではもうそれは泉への怒りと復讐心に置き換わっていた。

一瞬で、花帆の目標は『生きているはずの梢に会いたい』ではなく『泉が奪った髪飾りを取り戻す』になってしまっている。

論拠も整合性もない、短絡的な思考……
それだけで、彼女があまり良い精神状態でないことがわかってしまう。

だが、この場には花帆しかおらず、それを指摘する者も彼女を止める者もいなかった。


花帆「許せない……!」


花帆は、泉が奪ったであろう髪飾りを取り戻すために、地下へ向かう。

螺旋状の長い階段を数分も降り、彼女の息も切れた頃、そこに辿り着く。

670: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:51:01 ID:???00

花帆「はあ、はあ……ここが……理事長四十七室『裁定の間』……」


その大仰な重たいドアを開けると、花帆はやけに大きな、まるで数百人は収容できるアリーナのような作りの場所の上部席に出た。

こんなに広い場所なのに、自分が今いるスタンド席のような上部には座席は等間隔に数十しかない。

真ん中の広場に罪人が立ち、おそらくここからそれを見下ろしながら四十七室の人間が座るのだろう。

裁判というよりは、見せしめを行う場みたいだと花帆は思った。

671: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:54:54 ID:???00


花帆「え——?」



その広場の中央に一人の人間が立っているのに気づく。



花帆「————梢センパイっ!!?」



そこに立っていたのは、今までずっと探していた人物。
数日前自分の前で悲惨な姿を晒していたはずの少女。

五番隊隊長乙宗梢。

花帆が誰よりも尊敬し、誰よりも……好きだった人。


梢「花帆——」


彼女は花帆を見上げ、そして笑った。
いつもの優しく、穏やかな笑み。

それでもその顔は、ようやく会えた、そう言っているように見えて。


花帆「梢センパイっ!!」


花帆は、蹴躓きそうな勢いで一気に駆け下りた。

広場と上部席には結構な高さの段差があったが、正式な階段など探すことなど思いつきもせず、そのまま落下防止用の壁を乗り越えて進む。

672: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:57:05 ID:???00

花帆「いたっ……」

梢「!」


思ったより高く、花帆は着地に少し失敗してしまった。
梢が目を丸くする。
それでも、花帆は足の痛みなど一瞬で忘れて梢のところへ駆け寄る。


花帆「梢センパイ……梢センパイっ!!」


そして、そのまま彼女の胸に飛び込んだ。

梢は、花帆をしっかりと抱きとめる。


花帆「こ、梢せん、ぱ……う、うぅ、うわぁぁぁぁぁぁっ!!」


花帆は、梢に抱きついた途端泣き出してしまった。
そんな彼女を、梢があやすように抱きしめながら頭を撫でる。


花帆「う、うぅ……こずえ、センパイぃ……!」

梢「ごめんなさいね花帆、あなたを不安にさせてしまって」

673: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 20:58:43 ID:???00

花帆「あ、あたし、怖くてっ! 梢センパイが死んじゃったって……どうしたらいいかもわかんなくって……う、ひぐっ……」

梢「ええ、本当に申し訳なかったわ」

花帆「……こ、梢センパイは、梢センパイですよね? 死んでなんていなかったんですよね?」


花帆は喜びと混乱がない交ぜになり、意味のわからない言葉が口をついてしまう。

梢は苦笑したものの、彼女を抱く力をわずかに強くして安心させようとする。

その温かな抱擁の中で、花帆も確信した。


花帆(ああ、この匂い、この優しい空気は……梢センパイだ……)


花帆(梢センパイは生きてた……今までの怖いのなんて、全部なかったんだ、嘘だったんだよ……)

674: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 21:00:23 ID:???00

花帆「良かった……今までのことは、ぜーんぶ嘘だったんですね……」

梢「ええ、そうよ……」






泉「——今までのことは全部、嘘だったよ」






ドスッ


花帆「…………え?」


花帆は、自分の身体に何かが触れたのを感じてそちらを見る。
胸には、細い刺突剣が突き刺さっていた。

背中側から、などではなく、正面から。


花帆「こず…………え?」

泉「……」


自分の胸から視線を戻すと、目の前には泉がいた。
至近距離で、片方の手は背中に回され、もう片方は剣を握り花帆を貫いている。



今まで花帆を抱きしめていたのは、泉だった。

675: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 21:28:17 ID:???00

泉「……ふ」


ずるっと、泉が剣を花帆の身体から抜き取り、背中に回していた手を離す。

支えを失くした花帆は、まるで糸が切れた操り人形かのようにその場に崩れ落ちた。


花帆「……?」


花帆は、何が起きたのか全く理解出来ていなかった。
起き上がろうと身体を動かそうとしても力が入らない。

放心の中で、視線だけが動きそれを捉える。



梢「……」



視線の先にいたのは、梢。
先程まで自分を抱きしめていたはずの彼女が、泉の後ろ、それも数歩も距離を取った位置に立っていた。

最初から、そこに立っていたかのように。



自分は、梢センパイに抱きしめられていない?
自分は、梢センパイじゃない人に抱きしめられた?
自分は、梢センパイじゃない人に刺された?

梢センパイは、刺されたあたしをただ見ている。
あたしが知らない、見たことのないような目で。
あたしは、梢センパイに助けてもらえない。


だって——



花帆「嘘……」



こぽ、とわずかな血が口から溢れ出し、花帆の目からは光が失われた。

676: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 21:29:15 ID:???00

泉「検分しますか?」

梢「……その必要はないわ、あなたの仕事は信用している」

泉「ふふ……ありがとうございます」



梢「行きましょう……"泉"」

泉「ええ、”梢センパイ”」



二人は、花帆に背を向け歩き出す。



??「——なんで、あなたが!?」



梢「……」

吟子「梢……先輩……!?」


そんな二人の前に現れたのは、花帆を追い理事長四十七室に侵入していた吟子だった。

677: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 21:29:57 ID:???00



 LOVELIBLEACH #37



AND , THE CURTAIN ROSE




            .

678: 名無しで叶える物語◆guPVfDLf★ 2025/11/01(土) 21:33:33 ID:???00
#37 AND , THE CURTAIN ROSE

END


今日はここまでです。
アップ中にWith×MEETS始まってちょっと中断しました……
なんてタイミングでこんな話上げてんだ……

最近、この辺書くために速水奨氏の声ばっか聞いてたので、坂倉花さんの移籍の件で変な笑いが出てしまいました。
お二人の今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます。

682: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 16:32:49 ID:???Sd

#38 SMELLS LIKE SCARRED LOTUS PART1



吟子「梢……先輩!?」

梢「……花帆を追ってあなたまで来ていたのね、吟子さん」


惨殺された死体だらけの理事長四十七室を乗り越え、地下の『裁定の間』で吟子が見たのは、護廷十三隊五番隊隊長の乙宗梢だった。

数日前に旅禍の一団に殺されたことになっていた、自分もその凄惨な死体を見たはずの彼女の姿に、吟子は驚愕する。


吟子「ど、どうなって……梢先輩はこないだ……? そもそも、無事——」



吟子「——えっ?」

花帆「…………」



吟子「か、花帆先輩!!?」


そして、何より吟子を混乱に陥れたのは、梢の立つ後ろには探していた花帆の姿があったからだ。

うつ伏せに倒れた状態で。

683: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 16:34:34 ID:???Sd

吟子「花帆先輩っ!? 花帆先輩しっかりしてよ!?」

泉「無駄だよ」

吟子「!?」


倒れた花帆に駆け寄る吟子に、涼やかな声が掛かる。


吟子「桂城、隊長……?」


いつも通りの、凛とした中にどこか何を考えているのか読めないあの顔。
誰も彼もが魅了されるのに、どこか胡散臭さも同居するあの笑顔で、梢の横に泉は立っていた。

そう、花帆が倒れているこの異常な状況の中でも、彼女は笑っていた。


泉「数分前に死点を貫かれているんだ、花帆先輩があなたの声に応えることはないよ」

吟子「死点!? そんな……」


死点はスクールアイドルの肉体における急所のひとつであり、肉体への損傷はもちろん、魂魄へのダメージを与える致命的な弱点である。

684: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 16:36:53 ID:???Sd

ただしそれは相当な霊圧を持った鋭利に研ぎ澄まされた斬魄刀でなければ刺し貫くことなど出来ず、また点の名の通り一点を的確に突く必要がある。

そう、それこそ泉の斬魄刀『Edelied』のような刺突型の剣でもなければ……


吟子「……桂城隊長が、これをやったってことなんですか?」

泉「ああ」

吟子「じゃあもしかして……あの時も……」

泉「そうだよ」


平然と言ってのける泉に、吟子の混乱は更に拍車が掛かる。


吟子「ど……どうしてこんなことをっ!?」

泉「花帆先輩は、梢センパイの死体が偽物だって気付いてしまったのさ。だからここで処理せざるを得なかった」

吟子「偽物……し、処理? じゃあ数日前からのあの騒動は……?」

泉「もちろん、今までのは全て私達の偽装工作だよ」

梢「……」

685: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 16:37:56 ID:???Sd

吟子「? ……??? 何、を……っ?」


泉とのやり取りに、吟子は強烈な違和感を覚える。
目眩のする中で吟子は二人を見た。

何かがおかしい。

この人たちは……一体誰だ?

私の知る乙宗隊長と桂城隊長は……梢先輩と泉さんは、目の前に花帆先輩が倒れていてこんな平常時のように会話が出来る人たちではない。

こんな人間は、知らない……


泉「流石に混乱しているみたいだね吟子さん」

吟子「っ……」


見透かされたような言葉に、吟子は久々にあの感覚を思い出す。

そうだった……自分は昔、桂城泉が苦手だったのだ。

686: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 16:41:56 ID:???Sd

上司と部下の関係となった今でこそ当たり前のように接せられている。

だが、かつて護廷十三隊の中で勝手にライバル視して、それをまるで相手にしないかのごとくどんどん先に行く彼女に、複雑な感情を覚えていた。



そもそものきっかけは、泉が五番隊に入隊してきたことだ。

当時、五番隊内の特殊遊撃部隊『スリーズブーケ』として活動していた自分達の間に割って入るかのように、彼女は唐突に現れた。

そしてあっという間に古参の花帆先輩と……自分を差し置いて、梢先輩の直属の副隊長の座に就いた。

あの時の花帆先輩の、本当の気持ちを悟らせないために無理に作った笑顔で祝福する姿が忘れられない。

そして、それを感じ取っているのかいないのか、笑みを浮かべながら素直に祝福を受け取る泉さんの姿も。

687: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 16:43:07 ID:???Sd

そのくせ、しばらくしたら突然その立場を放り投げるかのように再設された八番隊に転属になり、そこで隊長になったかと思えば、何故か異動してきたばかりの私を副隊長に取り立てて。



今思えばずっと……彼女のそういう不可解な立ち回りや行動が引っかかっていた。

それはそのまま、自分の中での無意識の苦手意識のようなものになって。


吟子「……っ」


ぞわっ、と怖気が走った。
桂城泉に抱いていたそんな違和感さえ忘れさせられて、彼女を隊長として信頼しきっていた自分に。

彼女の前で、涙を見せる程になっていた自分に。

そこまで彼女を信じながら、彼女のことを何もわからない自分に。

私は、今までいったい誰と……

688: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 16:44:23 ID:???Sd

泉「——さて、どうしようか?」

吟子「っ!」


掴みどころが無いのに、見る者の心だけはがっちり掴んでくるあの笑顔。
いつの間にか、吟子は抜刀に向けて柄を握りしめていた。


泉「ここも私が処理を?」

梢「いえ……必要ないわ」

泉「そうですか」



梢「吟子さんには私が相手をしたほうがいいでしょう」



梢が泉を置いて吟子へと踏み出す。

瞬間、ずる……と重たいプレッシャー、霊圧が足元から吟子に襲いかかる。
吟子は無意識のうちに後退りしようとして、しかし足は絡め取られたかのように動かない。


吟子「っ!」


自分を奮い立たせるかのように、吟子は目の前の梢を鋭く見据えた。
震えだしそうな足を押さえ込みたくて、無理矢理言葉を紡ぐ。

689: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 16:46:34 ID:???Sd

吟子「二人とも何を言ってるのかわかりません……! そもそも何で、そんな平然と……」

吟子「花帆先輩がっ、今こんな酷い怪我をしてるんですよっ!!?」

梢「……わかっているわ、これは私が泉に命令したのだから」

吟子「いず、み? ……い、いや、何のために!?」

梢「全ては私の……"夢"のためよ」


梢はそう言って、悪びれもせず正面から吟子を見据えた。

いつもの、凛々しさと優しさの同居する、真面目そうな彼女の顔。
吟子がかつて彼女と同じ隊で闘っていた頃、その横で憧れた彼女の顔。

梢はいつも言っていた。

夢があるから、夢を追いかけていられるから自分を誇りに思える。
夢を追いかけている自分を、胸を張れるような自分でいたいと。


夢……その言葉が、今は全く別のものに思える。

690: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 16:49:16 ID:???Sd

吟子「ゆ、夢……?」

梢「……」

吟子「花帆先輩は、私に会う前からずっとあなたを追いかけて来たんでしょ!?」

梢「……」

吟子「花帆先輩はあなたと『スリーズブーケ』になれたことを誇りに思ってたんですよ!」

吟子「いつも、あなたみたいになりたいって……もっとあなたの力になりたいから、あなたと肩を並べて闘いたいからって!」

吟子「それを目指して身体が弱いのに辛い修行を積んで、あなたの副隊長にだってなった!」

梢「……ええ」

吟子「ずっとずっと、梢先輩のことを尊敬して、梢先輩のことを目標にして……!」


目の前の異常な状況を否定したくて、吟子は口早に言葉を紡ぐ。

しかし梢の雰囲気は、吟子の想いを否定するかのようにどんどん冷たいものに変わっていく。

まるで何かを無理矢理にでも抑え込むかのように。

691: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 16:51:02 ID:???Sd

吟子「ずっと、あなたの側にいることを……」

梢「……」

吟子「それこそ、夢見てきた人だったのに……」

梢「っ……」

吟子「花帆先輩はあなたのことを、そこまで想っていたんですよ!?」

梢「……そう、でしょうね」

吟子「それを、どうしてこんな!?」



梢「……邪魔になったからよ」



吟子「っ!?」

梢「あなたは……いえ、あなたたちは誰も私のことを理解してなどいない」


そう言い放つ梢に、吟子の中に熱いものが生まれる。
それは、悲しみなのか怒りなのか。


吟子「何言ってるかわからない……わからないよ梢先輩っ!」

梢「……」

吟子「なんで……なんで斬れるの!? あなたにずっと憧れていた花帆先輩をっ!」

梢「……吟子さん」




梢「憧れは、理解から最も遠い感情よ」




吟子「……!?」

692: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 16:53:52 ID:???Sd

泉「……」


愕然とする吟子を見て、梢の後ろで泉はくすりと笑った。


吟子「……今までの私たちは……梢先輩のことを、何も理解してなかったって言うんですか……?」

梢「……そう、よ」

吟子「————」


吟子は、ふらりと後ろに倒れ込みそうになって、そのままがくんとうなだれる。


泉「そこまで言っては可哀想なのではないかな?」


言葉とは裏腹に全く同情の色の感じられない、変わらぬ笑顔で泉は梢を咎めるようなことを言った。

それは明らかに、次の言葉を促すような他意が含まれていて。


梢「……問題ないわ」



梢「花帆も吟子さんも、初めから私にとっては何者でもないのだから」



泉「! っく……はははっ!」


まるでその言葉を待ち受けていたかのように泉は笑う。

さて、こんなことを言われた吟子さんは一体どんな顔をしているのだろう?

泉は吟子の方を見た。

693: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 16:56:05 ID:???Sd



吟子「…………初めから、何でもない?」



泉(おや?)


吟子の様子は、泉の予想とは違っていた。

梢の言葉に心をバラバラに打ち砕かれた姿などそこにはなく。
むしろ、怯え竦んでいた足元は堅くなり、その声色には悲惨さよりも明らかな怒りが感じられる。

吟子の霊圧が膨れ上がっていく。


吟子「ずっと……そう思ってたんですか?」

梢「……」 

吟子「私たちが五番隊で共に闘っていた仲間だったときから!?」

梢「……」

吟子「私たちが『スリーズブーケ』だったときからっ!!」

梢「……言葉の通りよ吟子さん」



梢「『あの時』からもう私は、この世界で"ただ一人"しか仲間だと思ったことはない」



その言葉と共に、三人が立つ空間はしんと静まり返った。

694: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 17:02:58 ID:???Sd

静寂の中で、ちり、と静電気の弾けるような音がした。
吟子の霊圧はどんどん大きくなり、彼女の纏う空気が帯電していく。


吟子「……許さない」

梢「……」

吟子「花帆先輩の想いを裏切ったあなただけは、絶対に許さない!! 絶対に!!!」


吟子の叫びが木霊する。
彼女の放つ霊圧は遂に放電現象そのものへと変わり、周囲に吹き荒れた。


吟子「——卍解!!」


抜刀と共に稲妻が渦巻き、巨大な甲高い鳴き声のような金属音が響き渡る。



吟子「『月夜見海月』!!!」



梢「……少し前まで副隊長でもなかったあなたが、卍解を会得していたとはね」


梢も、漆黒の刀身を持った自身の斬魄刀を抜いた。

695: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 17:04:15 ID:???Sd



LOVELIBLEACH #38



SMELLS LIKE SCARRED LOTUS

PART1


TRAITOR IS NOT DEAD




              .

696: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/02(日) 17:11:08 ID:???Sd
#38 SMELLS LIKE SCARRED LOTUS PART1

END


今日はここまでです。

実はこの作品、この辺だけやりたい一発ネタで書き出したのになんだか随分続いてしまいました。
良かったらもうしばらくお付き合いください。

697: 名無しで叶える物語◆QulIMpyP★ 2025/11/02(日) 17:16:04 ID:???MM
たておつ
話数的に泉さんと梢さんの真意は判明されなさそう……

698: 名無しで叶える物語◆3XTprncT★ 2025/11/02(日) 20:26:10 ID:???00
月夜見海月の能力楽しみ

699: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 20:49:33 ID:???00

#39 SMELLS LIKE SCARRED LOTUS PART2



理事長四十七室『裁定の間』は、数百人を収容できるアリーナほどの広さがある。

そんな広い空間に、吟子の解号と共に無数のクラゲの群れが現れた。
水ではなく空中に浮かぶクラゲは幻想的な青白い輝きを放っており、美しくも荘厳な雰囲気を帯びている。

『月夜見海月』……吟子の卍解は、雷撃系の能力。

美しく儚いクラゲは見るものを魅了するが実際は雷の塊であり、触れた瞬間超高電圧の電流が接触者を襲う。

スクールアイドルだろうと致命的な被害は免れぬ威力の雷撃だ。

700: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 20:51:14 ID:???00

梢「……少し前まで副隊長でもなかったあなたが、卍解を会得していたとはね」


心から感心したように梢は辺りを見渡す。
斬魄刀は抜刀したものの、梢には見物をする余裕があった。


梢「綺麗なものね、海ではなく宙に浮かぶ海月……吟子さんらしい美しく見事な技だわ」

吟子「……舐めないでっ!」


吟子が斬魄刀を縦に構えると、梢の上にいる複数のクラゲたちが帯電し始め稲妻で結びつきだす。

上空でまるで幾何学的な電流の文様のようなものが生まれその中心に梢を捉えると、一気に電気が集まり巨大な雷の塊が生まれる。


梢「!」


稲光と轟音と共に、雷撃が梢に向け放たれた。
だが、それを予想していたかのように梢は瞬歩で移動しており、落雷を回避している。

雷の落ちた場所には小規模なクレーターが出来ていた。

直撃すれば梢であろうとおそらく無事では済まない。

701: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 20:53:06 ID:???00

梢「素晴らしい威力……こんな技をいつの間に」

泉「知らなかったのかい? 吟子さんは八番隊に来る前から卍解を出来たようだよ」

梢「……そう」

泉「あなたは本当に、吟子さんには興味がなかったんだね」


泉がこれ見よがしにちらりと吟子に視線を送りながら、彼女に聞こえるように言う。


梢「……」

泉「ああ、秘密にしてたのは花帆先輩に遠慮してじゃないかな? 卍解が知られたらあなたの副官の座は彼女ではなく吟子さんに——」



吟子「喋るな!!」



吟子が斬魄刀を振るうと、周囲のクラゲが一斉に泉に向かって突撃した。

吟子が号令を掛ければ、漂っているクラゲは対象に向けてなだれ込ませることができる。

702: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 20:55:06 ID:???00

泉「おっと」


泉は触れるかギリギリのところでクラゲたちをかわし、いなしていく。

地面にぶつかったクラゲはいったん潰れてしまうが、そのまま分裂して周囲にその数を増やしまた宙に浮かんでいく。


吟子「っ!」

泉「怖いな、吟子さん」


睨みつける吟子に、泉は変わらず余裕のある笑顔を見せてみせた。

浮遊するクラゲは見た目こそただそこを漂っているだけだが、触れただけで発動するそれには一切の手加減の余地はなく、問答無用の殺意だけが詰め込まれた殺人術だ。

しかもクラゲは時間と共に梢と泉の周りを囲うように増え続け、二人の逃げ場を無くすどころか移動すら困難な状況を作り上げていく。

増えたクラゲは次々に帯電し、それらが電流で結びつき、獲物を捕らえる網のように裏切者を追い詰める。

703: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 20:56:56 ID:???00

吟子「『月夜見海月』は、空間を制圧する卍解。次は絶対に逃さない……!」


吟子が梢を睨みつけた。


吟子「梢先輩……いえ、乙宗梢!」



吟子「私は、あんたぁ殺す!!!」



ボコボコとクラゲが増殖する。
バチバチと激しく電気の弾ける音が増えていく。

まるで吟子の怒りに呼応するかのように。


梢「方言が出ているわよ吟子さん……それと」



梢「あまり強い言葉を遣うものではないわ」





梢「——弱く見えるわよ」





吟子「っ!!」


梢の挑発的な言葉に、吟子は斬魄刀を梢に対して振り上げた。

上空のクラゲが結びついた網が、今度は中心だけではなく隙間なく無数の雷撃を作り出す。
また、上にいない周囲のクラゲも、一斉に梢へと突撃した。

しかし——

704: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 20:59:14 ID:???00





「——射殺せ『全方位キュン♡』」





ドシュッ


吟子「がはっ!?」


吟子が刀を振り下ろす前に、彼女は背後から刺し貫かれた。

背面から肋骨の間を貫いたその剣は吟子の胸から突き出し、鮮血が噴き出す。振り向いたその視線の先にいたのは——


吟子「藤島……隊長……!?」

慈「……ごめんね、吟子ちゃん」


護廷十三隊三番隊隊長の藤島慈の姿だった。

斬魄刀の刀身が伸長させた平突きが、本来なら届かない距離から一瞬で吟子を刺し貫いている。
それでも、同じ空間に彼女がいたことに、何の霊圧も気配も知覚できずここまでの接近を許したことに、吟子は驚愕の表情を浮かべた。


吟子「嘘……でしょ……!?」


伸びていた慈の斬魄刀が縮み、身体から抜き取られた瞬間、吟子は支えを失ったかのようにその場に崩れ落ちる。

『月夜見海月』が生み出した雷のクラゲも、一斉に光の粒となって霧散してしまった。

705: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 21:34:16 ID:???00



LOVELIBLEACH #39




SMELLS LIKE SCARRED LOTUS

PART2


JELLYFISH IS KILLED BY YOU




              .

706: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 21:35:35 ID:???00

吟子「う、ぐ……ぅ……」


身体から血が流れ出ていくたびに意識が遠のいていく。

これは……まずい。

自分の状態のこと、だけじゃない。三人目が現れたことがだ。



先程までの困惑と怒りに駆られていたときとは違って、吟子は目の前の状況を冷静に分析し、そして最悪の想定が現実になっているのではないかということに気付く。


吟子(梢先輩と泉さんはかつての隊長と副隊長の仲……元々結託していた二人が、偽装のために別々の隊に別れて今まで準備をし、同時に決起した……)


さっきまではそう考えていた……でも、そうじゃない。

慈先輩……三番隊の隊長まで同調して行動を起こしている。

707: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 21:37:21 ID:???00

吟子(なら、一体あと何人いるん……!?)


そもそもこれが梢先輩を首領とした企みなのかはわからない。

でももしそうだとすれば、既に隊長格の人間が三人も参加している時点で、護廷十三隊の中に、梢先輩に同調する者があと何人いるのか最早想像もつかない。

いや……逆だ。

なんとなく"想像がつく"からこそ、最悪なのだ。

吟子は暗澹とした気分になる。


吟子「う、ぅっ……」


吟子(報らせんと……護廷十三隊のみんなに、他の隊長たちに……!)


でないと、大変なことになる。

708: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 21:38:22 ID:???00

彼女たちの目的は何なのかさえわからない。
それでもこのままでは、学園界自体が滅茶苦茶になってしまうような何かがきっと……!


吟子「げほっ……」


そう思っても吟子は身体を起こすことさえ出来ず、伝えたい言葉は血となって口から吐き出されるだけ。

なんとか動かせたのは視線だけだった。

暗く染まりつつある視界に入ったのは、こちらを見下ろす梢、慈、泉の三人。

そして、倒れ伏した花帆の姿。



みんな、蓮ノ空の仲間だったはずなのに。



吟子「どう、して……」

梢「……さようなら吟子さん」


その言葉が聞こえたのを最後に、吟子の意識は闇の中へと呑まれていった。

709: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 21:40:04 ID:???00

梢「……行きましょうか」

泉「ああ、待ってくれ……鎖せ『Edelied』」


泉が斬魄刀を解放し振るうと、吟子の周りの空間が切り取られ亜空間が生み出される。

吟子は倒れたままの状態で空間の『穴』に吸い込まれるように呑まれ、姿を消した。
切り開かれた空間は何もなかったかのように閉じ、後には吟子が倒れていた痕跡は何も残っていない。


梢「……」

慈「証拠隠滅のつもり? ……ならどうして花帆ちゃんは隠さないの?」

泉「吟子さんは"お気に入り"なのでね、お持ち帰りといったところかな」

泉「それに、これから為すことを考えれば『戦力』は多いほうがいいだろう?」

慈「悪趣味だなあ……」


慈は不快そうに泉を見た。

710: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 21:42:13 ID:???00

泉の斬魄刀がどういう能力なのかは慈は把握していないが、見たところ異なる空間に閉じ込めることは出来るのだろう。

半死半生の吟子にそんなことをして彼女が無事で済むのかはわからない。
無事だったとしても、その後彼女をどうするつもりなのかも。

もちろんそれは、吟子を直接傷付けた自分にどうこう言える筋合はないが、まるで死体を保管するかのような悍ましい真似に思えて慈は嫌悪感を隠せなかった。


慈「……」

梢「……」


梢が何故泉をこの企てに引き入れたのか、慈にはいまいち理解できなかった。

確かに腕は立つ。

今回についても、花帆が梢の死体の正体に気づいたと判明した際に、彼女の処理……花帆を手に掛ける役割を受け持つという提案をしたのは泉からだった。

それは花帆と親交の深い梢や自分の心理的負担を軽減したとは、慈も思っている。

711: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 21:44:28 ID:???00

しかし、そんな提案を申し出ること自体があまりにも思考が異質すぎる。

そして、その提案した手法がまた狂っていた。

泉が梢に成り代わり、梢のふりをして花帆を直接刺殺するという手段を、彼女は主張して譲らなかったのだ。

まるでドラマを演出するかのように、花帆が最後に、梢だと思っていた人間は泉で、その先に本当の梢の姿を確認して息絶えるようにしたい、と。

確かにその演出は『可能』だった。

そのためには梢の協力が必要であり、それをやらせるということは、結局は梢にも花帆を殺害する一端を担わせるということ。


泉「ああ、これからが本当に楽しみだ」


冷徹や冷酷という言葉では足りない、もっと別の何か……

712: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 21:48:59 ID:???00

慈(この子、一体何を考えてるんだろ……)


梢と目的を同じにしているとは思えない。もしもの時は、自分が『抑止力』として動かなければならないのかもしれない。


慈(そう、この子は梢とも私とも違う)


あの事件に遭遇してもいなければ、あんな思いをしたこともない。


彼女たちを喪った、『あの時』の……


梢「慈」

慈「!」


慈の思考を無理矢理止めるかのように、梢は声を掛ける。


梢「行きましょう……私たちには最早、先に進むしか道はないのだから」


慈「……そうだね」





??「——やはり、生きていらしたのですね乙宗隊長」





梢・慈「!」

恋「……」


声のした方を向くと、裁定の間の入口には四番隊隊長葉月恋が副隊長の桜小路きな子を伴って立っていた。

713: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/03(月) 21:51:06 ID:???00
#39 SMELLS LIKE SCARRED LOTUS PART2

END


今日はここまでです。


吟子ちゃんはスタイルが良くて胸も大きいので、BLEACHにいたら絶対リョナ担当だろうなーと思っています。

714: 名無しで叶える物語◆3XTprncT★ 2025/11/03(月) 22:37:13 ID:???00
恋ちゃん頑張れ

715: 名無しで叶える物語◆x9YZy1jD★ 2025/11/03(月) 23:07:04 ID:???Sa
有能恋ちゃん

716: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 19:57:24 ID:???00

#40 SMELLS LIKE SCARRED LOTUS PART3



恋「やはり、生きていらしたのですね乙宗隊長」

梢「……葉月隊長」

恋「いえ……最早隊長と呼ぶべきではないのでしょうね、叛逆の大罪人・乙宗梢」


その目は鋭く梢を見据え、既に状況を完全に理解しているようだった。


きな子「こ、これは一体どういうことっすか!? 隊長さんたちが三人も、いやそれより——」


一方、きな子は倒れたままの花帆とその傍らに立つ梢を見て、信じられないというふうに首を振る。

717: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 19:58:39 ID:???00

泉「驚いたな……他にもうここに来れる人がいるとは」

梢「元々気付くなら葉月隊長だとは思っていたわ。四番隊は検分役として誰よりも長く『私の死体』に触れていたから」

きな子「そ、そうっすよ……確かに乙宗隊長は……な、なんでこんなことが……」


きな子が亡霊か何かを見るような、強張った表情で再度梢の顔を見た。


きな子「乙宗隊長は昨日、きな子たちがずっと死体を検分してたのに!?」

恋「……つまり、あれは巧妙に工作された偽物の死体で、彼女ではなかったということです」

きな子「そ、そんな……」


愕然とするきな子。
恋自身もこの光景を見るまでは確信は持てなかった。
あくまで検分したときのわずかな違和感から、その可能性を推察するに至っただけだ。

しかもそれは、先程霊安所で再度死体を徹底的に調べなおしてようやく得た、ほんのわずかな違和感。

718: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:02:36 ID:???00

梢「すぐにここだとわかったのかしら?」

恋「わざわざ自らの巧妙な死体を作りその死を演じてまで潜伏するとすれば、私たち護廷十三隊でも許可なく立ち入れないここだと思いました」

梢「……なるほどね」

恋「それに……最近の理事長四十七室の命令には違和感がありましたので」

梢「違和感?」

恋「そもそも今回の発端となった四十七室から確保命令が出された上原歩夢さんは、『かつてあのような経緯があった』高咲侑さんを名乗る人間のご友人だった……」

恋「まずこれが、あまりに出来過ぎだと思いませんか?」

梢「……」

恋「しかも派遣されたのは、侑さんとかつて関係の深かった七番隊のお二人……人選まで何かの意思を感じるものです」

恋「私たち護廷十三隊のスクールアイドルをただの駒としか思っていない理事長たちの思惑とは思えない」

719: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:07:35 ID:???00

恋「そして裁判を待たずしての処刑決定……現世の人間を強制連行してきてのそれは横暴がすぎます」

恋「かつての大乱以降、規制派の理事長が中心にいるにしてもいくらなんでも事を急き過ぎている……」

恋「それを聞いたときから、四十七室は何らかの理由で機能していない……いや下手をすると、別の何かに乗っ取られているのではないかとの疑問が浮かびました」

恋「……生徒会が招集されたあの時、私と同じく処刑に異を唱えていたあなたが、まさか裏で動いていたとは思いもしませんでしたが」


恋は、ここに来るまでに見た理事長たちの死体の数々を思い出す。
どれも酷い状態だったが、何より時間が経過していた。

いったいいつから理事長四十七室の命令は梢たちに操作されていたのだろうか。

720: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:08:44 ID:???00

恋「疑念が深まったのは、あなたが殺されたように偽装したあの事件もそうです」

恋「隠密機動の冬毬さんが事件後に発見したというメイさんたちの霊圧の痕跡……元八番隊隊長で隠密機動総司令だったメイさんが、そのような見つかってしまうレベルの隠蔽を果たして行うでしょうか?」

恋「メイさんたちに誤解のあった冬毬さんは挑発と判断したようですが、私にはメイさんがそのような真似をするとはどうしても思えず……」

恋「むしろ誰かがわざと冬毬さんにそう進言させるために、彼女の再調査のタイミングで仕込んだのではないかと考えました」

梢「……」

721: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:10:33 ID:???00

恋「……そもそもあの時点では、メイさんたちはまだ学園廷にいなかったのではないですか?」

恋「護廷十三隊隊長格の廷内配置後に彼女たち『旅禍の一団』と私たちは会敵しましたが、あの時こそ彼女たちが本当に学園廷に来たタイミングであり、それまでのメイさんたちの痕跡は全てあなたの作った偽装物なのでしょう?」

梢「……」

恋「あなたは処刑の日程を利用してメイさんたちを学園廷に呼び込むタイミングまで操作し、脱獄未遂からあなたの事件、そして戦争開始とメイさんたちの学園廷突入……これら全てを怒涛の山津波のように連続させた」

恋「全ては学園廷と護廷十三隊に混乱を起こし、その機能を麻痺させるため……そして」

恋「上原歩夢さんの奪還に来るであろうメイさんたちに護廷十三隊をぶつけている間に処刑を前倒しし、彼女の処刑を確実に執行するため」

梢「……ふっ」


梢は薄く笑みを浮かべて見せた。

722: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:12:35 ID:???00

恋「……再検査で死体に違和感を見つけた時、今までの様々な疑問が、初めてあなたの暗躍という可能性に繋がりました」

恋「悔やんでいるのは……」


沈痛な面持ちで倒れている花帆を見やる。


恋「自分の考えに確信を持ってもう少し早く動けていれば、花帆さんたちをこんな目に遭わせずに済んだかもしれません」


泉(花帆さん"たち"……吟子さんの霊圧が消えたことにも気付いているのか)


梢「気に病む必要はないわ。四番隊は戦時体制になれば後方支援が義務付けられ、救護任務から離れることはそう出来ない」

恋「っ……まさかそこまで……?」

梢「その役職上、本来なら最初に気付くのはあなただと思っていた。だからあなたの立場を利用してなるべく動けなくしただけよ葉月隊長」


梢は挑発的な素振りを見せるでもなく、ただ淡々と自身の企みを述べた。

723: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:16:19 ID:???00

恋「……花帆さんは」

梢「……」

恋「本来なら私が立ち会うべき場面に来てしまったがために、あなたたちに斬られてしまった」



恋「だとしたら、私は必ずあなたたちを退け、彼女を救わなければなりません」



泉「!」

慈「っ」


抜刀に向けて斬魄刀に手をかけた恋の霊力が爆発的に膨らみ、凄まじい霊圧が三人を襲う。


きな子「れ、恋先輩……っ」


副隊長とはいえ同じ護廷十三隊隊長格のはずのきな子は、自分に向けられてもいない霊圧の余波に圧倒されその場にへたり込みそうになっていた。

恋はまだ斬魄刀を解放していないにもかかわらず、だ。

それほどまでに圧倒的な霊圧。

724: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:19:10 ID:???00

恋「時間がありません、抜きなさい三人とも」

慈「三対一で本気でやるつもりなの……!」

泉「面白いね、ワクワクしてきたよ」


泉が斬魄刀を抜き戦闘態勢を取る。
恋も遂に斬魄刀を抜こうとした。


梢「——やめなさい泉」

泉「おっと……」


だが、梢の呼びかけに泉は剣を下ろす。


梢「『死活剣』と今全力で闘うわけにはいかないわ……負けはないにしても手が掛かりすぎる。そもそも既に"次の刻"が迫っている」

恋「逃げると? ……逃がすとでもお思いですか?」



梢「残念ながらあなただろうが、私たちを捕らえることは絶対に不可能よ」



恋「っ!?」


梢がそう言った瞬間、恋は自分の目を疑った。
目の前にいたはずの三人が、いつの間にか姿が見えなくなっている。

姿だけではない。
霊圧も感じられなくなっており、それこそ言葉通り三人は跡形も無く消えていた。

725: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:22:14 ID:???00

恋「どこに!? ……っ!?」


恋は直感的に後ろに飛び退くと、目の前にはいつの間にか梢がいて超速の横薙ぎを繰り出していた。

彼女の漆黒の斬魄刀は、間一髪恋の隊長羽織と制服の胸元部分だけを切っている。


梢「流石ね」

恋「……!」


梢はそう言うとまた恋の前から消え、そして次の瞬間には随分と離れた位置に姿を現した。

他の二人は相変わらず『消えて』いる。


恋「これは、一体……!?」

梢「先程のあなたの考察、素晴らしかったわ。少なくとも私が理事長四十七室を支配して以降に行ったことはほぼ事実通りに言い当てている」



梢「ただ、決定的に理解出来ていない部分がある」



恋「……なんですって?」

726: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:26:20 ID:???00

梢「まず私は、身を隠すためにここ理事長四十七室に来たのではないわ」

梢「私が用があったのはここの地下最深にある霊書回廊・学園廷大倉庫」

恋「大倉庫……? 理事長のみが閲覧できる資料があるという、あの?」

梢「よくご存知ね、流石は結ヶ丘の元理事長関係者といったところかしら?」

恋「いったい何のために?」

梢「あえて言うなら『保険』ね……実際、必要にはなりそうなの」

恋「……」

梢「そしてあなたが最も理解していないのは、私がいくつかの小細工を施して様々な状況を作り出したと思っているところ……そうではない」

恋「……どういう意味ですか?」

梢「言葉の通りよ……私が何か偽装物を作り出したのではなく、あなたたちが『そう認識した』だけなのだから」

727: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:27:26 ID:???00


梢「例えば——『コレ』は死体なんかじゃない」



恋「なっ!?」


恋は驚愕した。
梢の手に、先程まで検分していたあの——


きな子「お、乙宗隊長の死体!??」


——梢自身の死体が現れたのだから。


恋「一体どうなっているのです!?」

梢「ずっと手に持っていたわ……私が『そう見せようとしていなかった』だけ」

恋「なに、を……?」

梢「教えてあげましょう、私の斬魄刀の能力を——」



梢「——砕けろ『ユメワズライ』」



恋・きな子「!?」


梢の解号と共に、手にあった死体は黒い刀身の斬魄刀へと姿を変えた。

それでも、恋ときな子は目の前で起きた現実が理解出来ずにいる。

728: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:32:48 ID:???00


梢「私の斬魄刀『ユメワズライ』……有する能力は"完全催眠"よ」 



恋「完全、催眠……!?」

梢「そう。『ユメワズライ』を発動した瞬間、その能力下にあるスクールアイドルは五感と霊感の全てが私の思うがままに支配されるわ」

梢「この能力をもってすれば、ハエを龍に見せることも、ドブ臭いドロ沼を美しい蓮の湖に見せることだって可能」

恋「先程からあなたの姿が見えたり消えたりしているのも、そういうことですか」

梢「そうよ、もちろん今こうして見えている光景も『私がそう見せている』だけかもしれない」

恋「では、私たちが診ていたあの死体も……」

梢「私の死体でもなければ、そもそも死体でさえないわ」

恋「……!」

729: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:35:12 ID:???00

梢「鬼塚冬毬が見つけた霊圧もそう。何もないところをあの時から『米女メイたちの霊圧がある』と錯覚しただけ」

梢「あとこちらから付け加えるなら、処刑前倒しを可能にした本日付けの鬼道衆の出動要請も、私は何も偽造はしていない……鬼道衆はみな『今日の日付の要請だと思い込んでいた』けれど」

恋「そもそも四十七室の異変に鬼道衆も護廷十三隊も誰も気付けなかったのも、あなたの能力ということですか……」

梢「ええ」

恋「っ……」


恋(なんという恐ろしい能力……しかし一体どうやって私たちはこのような催眠にかけられたのです……?)

730: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:38:37 ID:???00

きな子「か、完全催眠……? で、でもそんなのおかしいっすよ!?」

梢「?」

きな子「だって、乙宗隊長は昔見せてくれたじゃないっすか! 私たちの前で『ユメワズライ』の始解を! 見た敵全員に微熱のようなデバフを与えて弱体化させる対軍性能の斬魄刀だって……!」

梢「そうね、大擂台での模擬演武の中で護廷十三隊の隊員と鬼道衆には"全員見てもらった"わ」

恋「……なるほど、それこそが催眠の儀式というわけですか」

きな子「!?」

梢「御名答。私の『ユメワズライ』発動の第一条件は、この斬魄刀の始解を目にさせること」

梢「そして二つ目は……夢を持ったスクールアイドルであること」

恋「!」

731: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:40:39 ID:???00

スクールアイドルは、その成り立ちからして何がしかの目標や志を持った存在である。
その頂点に立つ護廷十三隊のメンバーであれば、それは尚更だ。

恋は、自分も含めて隊長副隊長たち含む全ての護廷十三隊の人間が、梢の斬魄刀の影響下に置かれてしまった事実に戦慄する。

そして——


恋「……まさかっ」

梢「そう……『ユメワズライ』は夢を持たない者には影響を持たない」

梢「つまり最初から夢を持てない桂城泉、そして『あの事件』で夢を喪った藤島慈と——」





かすみ「二番隊の、村野隊長……!?」

さやか「単刀直入に言います」

さやか「上原歩夢の身柄をこちらに渡してください」





梢「——村野さやかが私の同志よ」

732: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:43:09 ID:???00

恋「!!」

きな子「みんな、蓮ノ空の人たち……!?」



梢「我々は『傷つけられた蓮(スカードロータス)』……私たちは『復讐』する」



恋「復讐……?」

梢「……完全催眠下で私の死体に違和感を持てたこと、先ほどの一撃をかわせたことは褒めておくわ」

恋「待ちなさい!」

梢「さようなら葉月隊長……もうあなたとは会うこともないでしょう」


そう言うと、梢は恋の前から姿を消した。

733: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:44:38 ID:???00



LOVELIBLEACH #40




SMELLS LIKE SCARRED LOTUS

PART3


"DREAM BELIEVERS" CAN'T ESCAPE
FROM COMPLETE HYPNOSIS




                .

734: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/04(火) 20:49:43 ID:???00
#40 SMELLS LIKE SCARRED LOTUS PART3

END


今日はここまでです。


梢の斬魄刀の名前は最初ドリビリだったのですが、流石にやり過ぎかなと思って変えました。
でもどうしてもドリビリの単語は使いたくてタイトルに使いました。

737: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:11:55 ID:???00

#41 SMELLS LIKE SCARRED LOTUS PART4



梢が姿を消した後、『裁定の間』は再び静寂に包まれた。


恋「……」


恋は梢を取り逃がしたことを悔やむよりも先に、彼女の次の動きに思考が向かっている。


恋(彼女たちはこの後何処に向かう……目的が上原歩夢さんの処刑だったのならまた彼女を狙う可能性が高い?)

恋(ですが、そもそもそれは何のため? 乙宗梢の能力をもってすれば、牢にいた時に彼女の命を奪う機会はいくらでもあったはず……)

恋(なのにこれほどの手を掛けて『双極』による処刑にこだわった理由は何です……? 殺害ではなく『双極』の解放が目的だった?)

恋(『双極』儀礼は受刑者の肉体を滅ぼし魂魄を浄化してラブライブ!に捧げる……まさか!?)

738: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:14:15 ID:???00

恋「……きな子さんっ」

きな子「は、はいっ!」

恋「今見聞きした事実を……乙宗梢の反乱を、あなたの能力で学園廷にいる全てのスクールアイドルに伝えてください。なるべく早く、護廷十三隊だけでなく全てのスクールアイドルに、です」


恋はきな子の目を見ながらそう話す。
依頼した内容は中々に大変なものだったが、きな子にはそれが『出来る』のだ。

恋がきな子を連れてここまで来た理由でもある。


きな子「わ、わかったっす! 届け!『てくてく日和』!」


きな子が斬魄刀を解放すると、無数の小さなリエラのうたぬいぐるみが現れた。

霊力で出来たぬいぐるみは自分の意志を持っているかのように動き出し、物理的な障害物をすり抜けながら猛スピードで各地にてくてくと歩いていく。

739: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:16:14 ID:???00

桜小路きな子は、完全非攻撃型・サポート系の斬魄刀の持ち主。

『てくてく日和』は自分の知覚できる霊圧の持ち主のもとに霊子のぬいぐるみを飛ばし、それを媒介としてテレパシーを使い、多数の人間とも同時通信を行うことができる。


恋「私は花帆さんの救命措置に入ります」


そう言うと恋は斬魄刀を解放した。


恋「繋げ『結び葉』」


優しい黄金の光で出来た巨大な木の葉が現れ、倒れている花帆の身体を包んでいく。

まるで超高速高精度の外科的な縫合のように花帆の傷が見る見る繋ぎ合わされ、修復されていく。

740: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:18:25 ID:???00

恋(出血量が少ない割に霊圧がほとんど消えている……おそらくやられたのは、霊力が最も交流し魂魄の急所となる死点への一撃)

恋(ですが、花帆さんは『とある事情』で死点への一撃は魂魄への致命打とならない可能性があります……! ならば私の『結び葉』なら救命出来る!)

恋(あとは、花帆さんの傷ついた精神次第……!)


恋「花帆さん……! 戻ってきてください!」


きな子(お願い早く……! みんなに繋がって……!)

741: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:20:40 ID:???00

かすみ「む、村野隊長、今なんて……?」

さやか「聞こえなかったはずはありませんよね? 上原歩夢の身柄をこちらに渡してください」

かすみ「!?」

さやか「あなたは護廷十三隊から追われている身……ですが、今の私にはもうあなたを捕縛する義務はなく、同時にあなたに興味もありません」

かすみ「な、何を言って——」

さやか「上原歩夢を引き渡していただけたら見逃してあげます」


かすみの疑問には答える気がないとでも言うように、さやかは有無を言わせないような言葉で遮る。


かすみ「……」

さやか「……」

かすみ「……そんなこと言う人に、はいわかりましたって言うわけないですよね!?」


だが、その態度が逆にかすみに覚悟を決めさせる。
かすみは斬魄刀を構え、さやかと相対した。

742: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:23:24 ID:???00

さやか「……なるほど。あなたほど弱い人なら丁寧に脅しつけるのが有効と考えましたが、私の見誤りでしたね。思ったより骨がある」

かすみ「かすみんをバカにしないことですっ!」



さやか「まあ、頭の悪さから来る無駄骨というものになりますが」



かすみ「!?」


かすみに強烈な霊圧が浴びせられる。
それは先刻闘ったしずくとはまた別種の、冷たく硬い霊圧。

その根源にあるのは怒りや悲しみではなく、もっと黒く暗い感情。

憎しみ。


さやか「これから為すことを考慮して力を温存しようとした私も愚かでした、最初から実力行使で済ませるべきだった」

かすみ「!」

さやか「踊れ『パラレルダンサー』」


さやかは斬魄刀を鞘に納刀したまま、解号を唱えた。

かすみを見るその瞳は憎悪に暗く染まり、光がない。

743: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:24:17 ID:???00



LOVELIBLEACH #41



SMELLS LIKE SCARRED LOTUS

PART4


WE ARE SCARRED LOTUS , 
WE AVENGE ON THE WORLD




              .

744: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:26:17 ID:???00

きな子「——来た! 聞こえますか皆さん!? こちらは四番隊副隊長桜小路きな子っす! これは緊急伝令です!」

きな子「これからお伝えするのは、四番隊葉月隊長と私がこの目で見た、今回の一連の事件の真実です……!」



きな子『今回の一連の事件の首謀者は、五番隊隊長乙宗梢! 彼女は死を偽装して生存しており、理事長四十七室を殺害し、その後五番隊日野下副隊長、八番隊百生副隊長に危害を加え、現在逃走中!』

きな子『乙宗梢は斬魄刀の能力により、自身の死さえも偽装したようにあらゆる我々の認識を操作出来ます……! 彼女と接触する際は最大限の注意を!』

きな子『また確認された敵の一団は、乙宗梢、藤島慈、桂城泉、そして村野さやか! 目的はいまだ不明ですが、おそらくは上原歩夢を狙っている模様!』

745: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:28:03 ID:???00

かのん「梢ちゃんが……!?」


闘いの最中、突然きな子の声が聞こえかのんたちはその手を止めていた。

きな子の能力は、霊力のぬいぐるみを飛ばし対象を見つけると自動的に霊的に繋がる。

激しい戦闘の中だろうと、ぬいぐるみは意図的に破壊でもされなければその能力を発揮できるほど頑丈な上、妨害を防ぐために基本的にはきな子以外には見えないようになっている。

かのんたちでさえ戦闘中ということもありぬいぐるみの接近には気付かず、声の接続が成功していた。


梨子「千歌ちゃん! ダイヤさん! 今のって……!」

千歌「ねえダイヤさん……私たちこんなことしてる場合じゃなくなったかもね?」

ダイヤ「っ……!」


ダイヤはわなわなと震え、一度俯くとすぐに顔を上げる。

746: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:34:58 ID:???00

ダイヤ「……わたくしは、反逆者の鎮圧に向かいます」


ダイヤの『WATER BLUE NEW WORLD』から蒼い炎で形成された刀身が消え、元の刀が柄からまた生えてくる。
始解を終えたということは、ここでの戦闘を放棄したということだった。


ダイヤ「此度の件は——」

千歌「私も行くよ、ダイヤさん」

ダイヤ「……千歌さん」

千歌「なんか……まーだ嫌な予感がするんだよね」


千歌ももうダイヤと協力する姿勢を見せていた。
そしてそれは、かのんと梨子も。

護廷十三隊隊長による反乱。
それを止めなければならない。


かのん「……行こう!」

千歌「うん!」

747: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:36:17 ID:???00

小鈴「村野隊長が、吟子ちゃんたちを……!?」

姫芽「そ、そんな……めぐちゃん隊長が反乱なんて……」

小鈴「ひ、姫芽ちゃん!?」


姫芽はショックのあまりぺたんとその場に膝をついて座り込んでしまう。


姫芽「なんでっ……めぐちゃんせんぱい……」

小鈴「っ」

姫芽「あんなに楽しかったのに……あなたといるだけでアタシは幸せだったのに……」

小鈴「……」

姫芽「それは、アタシだけだったってことなんですかっ……?」

小鈴「……!」


違う、と小鈴は言ってあげたかった。
だけどそれは、何の慰めにもならないただの言葉でしかない。

実際、小鈴もさやかの気持ちはわからないのだ。

748: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:37:46 ID:???00

小鈴「……」




さやか『あの人のいないこんな世界なんて、壊れてしまえばいい』




……いや、その片鱗は垣間見たことがあった。
さやかの真っ暗な"それ"に、小鈴はかつて一度だけ触れてしまったことがある。


小鈴(そんなにも……この世界が嫌だったんですかさやか先輩……)


小鈴「っ……行こう、姫芽ちゃん」

姫芽「え……?」

小鈴「吟子ちゃんと花帆先輩の代わりに、徒町たちが先輩たちを止めなきゃ!」

姫芽「そんな……アタシには無理だよ……めぐちゃんせんぱいを倒すなんて、出来ないよ……!」

小鈴「出来る出来ないじゃない! あたしたちは行かなきゃいけないよ!」

姫芽「……!?」

749: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:40:43 ID:???00

小鈴「このまま、何もわかんないままでいいわけない……!」

姫芽「……」

小鈴「もし他の隊長さんたちが先に捕まえたりしちゃったら、もう二度と先輩たちに会えないかもしれないんだよ!?」

姫芽「そ、それは……!」

小鈴「……行こう、姫芽ちゃん! 先輩たちに会わなきゃ!」

小鈴「会って、お話して、止めないと!」


小鈴が諭すように、励ますように座り込んだ姫芽の正面に膝をついてその目を真っ直ぐに見据える。


姫芽「……うん!」


姫芽も、その想いに応えるように涙を拭い立ち上がった。

750: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:41:55 ID:???00

侑「今のなに……私にも何か少し聞こえたよ!?」

しずく「くっ……!」

エマ「し、しずくちゃん!? まだ安静にしてなきゃダメだよ!?」

しずく「私は、行かなければ……かすみさんが危ない!」

侑「かすみちゃん……?」

しずく「私は彼女に酷いことをしてしまいました……それが許されるとは思いません……でも、私のせいで彼女はただでさえ消耗しているはずなんです!」

エマ「……!」

しずく「私が、かすみさんを守らなきゃ……!」

侑「守る、ってどういうこと……!?」



しずく「敵の一味の内一人の霊圧は、かすみさんと上原歩夢さんのすぐ近くにあるんです!」



侑「!?」

751: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:43:48 ID:???00

すみれ「……今のきな子の通信、聞いたわよねマルガレーテ」

マルガレーテ「……」


すみれとマルガレーテは、あの後も壮絶な斬り合いを続けお互い傷だらけになっている。

それでも、きな子の声が聞こえた瞬間、二人とも剣を下ろしそれに聞き入っていた。

伝令神機でもなくきな子が自身の能力を使って伝令をするなど、よほどの事態が起きているからだ。

そしてその内容は、護廷十三隊隊長複数人による反乱という衝撃的なものだった。


可可「すみれーっ!」

セラス「マルちゃんっ!」


そこに、セラスと可可が息を切らせながら走ってくる。

752: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:45:21 ID:???00

可可「すみれ、今はLiella!同士で闘ってるような時ではないデス」

すみれ「ええ……そうみたいね」

可可「……マルマル、可可たちはもうアナタたちを止めマセン。追ってくるなら迎撃せざるをえませんが、今はそんな場合じゃないことはアナタもわかりマスね?」

マルガレーテ「……」

セラス「マルちゃん……い、泉が……花ちゃんが……!」

マルガレーテ「……私たちも行くわよ、セラス」

セラス「! う、うん……」



マルガレーテ「……っ!?」

すみれ「ぐっ……!」



可可「すみれ!?」


だが、マルガレーテもすみれも歩き出そうとした途端その場でふらつき出す。
それほどまでにお互いのダメージは大きかったのだ。

753: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:48:26 ID:???00

セラス「ま、マルちゃん!?」

マルガレーテ「……我ながら情けないわね」


マルガレーテが顔をしかめながら自分に毒づく。


すみれ「ふん、私と全力で闘り合ったんだから当然よ……ああ、少し先輩として大人げなかったかしら?」

マルガレーテ「そういうすみれ先輩も、可愛い後輩相手に随分ボロボロになられたように見えるけど?」

すみれ「そんな減らず口が叩けるなら大丈夫そうね」

マルガレーテ「……セラス、例のゼリーをちょうだい」

セラス「……!」


セラスが四季のゼリーをマルガレーテに渡す。
彼女はそれをひと口飲むとすみれに差し出した。


すみれ「……なによそれ」

マルガレーテ「四季先輩のゼリーよ」

すみれ「四季の? ……ああ、あのヤバイ味のやつ」

マルガレーテ「先輩がお辛そうだから、優しい後輩からの差し入れよ」

すみれ「……まあ素直にいただいとくわ」 


すみれがそれを受け取る。

754: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:50:33 ID:???00

セラス「ち、ちょっと待って!」


だが、セラスが突然食って掛かった。


セラス「く、口つけちゃダメだからね! り、龍◯散ダイレクトみたいに喉に流し込んで!」

すみれ「は? なんなのよこの子」

セラス「か、間接だって許さないから! マルちゃんの、く、く唇はわたしだけのものなんだから!」

マルガレーテ「は、ハァ!? こんな時にな、なに言ってんのあんたは!?」



セラス「っ……」



マルガレーテ「!? 違うわねセラス、あんた『発作』が!?」

可可「!」

すみれ「発作?」

セラス「ご、ごめんなさいみんな、こんな時に不謹慎、だよね……でも、わたし、今、ほんとに、ギリギリで……っ」


セラスは小刻みに震え、呼吸は荒く、間隔が短くなっている。
その顔は涙ぐみながら青ざめていた。

755: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:53:19 ID:???00

すみれ「……なんだかわからないけど、大丈夫なの?」

可可「セラセラ、本当に苦しいのナラ、ここで休んでもいいのデスよ!?」

セラス「う、うぅ……!」

マルガレーテ「……少し、肩貸しなさいセラス」


そう言うとマルガレーテはセラスの肩を借りるようにして彼女に密着し、抱き寄せる。


セラス「!」

マルガレーテ「落ち着きなさい……くだらないこととか、バカな冗談でも考えて、いつものあんたに戻りなさいよ」


マルガレーテはセラスの頭に額をくっつけるほど密着しながら、彼女に言い聞かせるように囁く。


セラス「う、ん……」

マルガレーテ「大丈夫よ……あんたは悲しみや怒りに呑まれた『怪物』になんてならない……私がそうさせないわ」

セラス「ふ……う、うぅ……ふ……」

756: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:55:38 ID:???00

セラスは目を瞑り涙をこぼしながら、マルガレーテの声だけに集中し、深呼吸をしようとする。

すると徐々に長い呼気と吸気を繰り返せるようになり、セラスは少しだけ落ち着き出した。


可可(この二人は……どういう関係なのデス? そしてセラセラ、アナタにはいったい何が……)


可可は、ただの仲の良さや信頼関係ではないようなものを覗き見てしまったことに、複雑な表情を浮かべる。


マルガレーテ(全く……初代の『騎士』様は何を考えているのよ!)


マルガレーテは目の前の哀れなセラスの姿に同情しながら、彼女を苦しめている存在のことを思い、怒りに奥歯を噛みしめた。

757: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 21:57:28 ID:???00

四季「……まだ続けるの?」

彼方「うーん……こんなとこで埒のあかない持久戦やってたらちょっとまずい感じだねえ~」

四季「Me too……」

彼方「よーし……彼方ちゃん、今回は四季ちゃんのこと見逃すことにするよ」

四季「……!」

彼方「護廷十三隊としては怒られるかもだけど、今の状況に対応しないほうがよっぽどドヤされそうだぜ」

四季「正直、助かる……」

彼方「……ところで、この後どうするの?」

四季「私は、メイとの合流を目指す……」

彼方「ふ~ん、じゃあここでお別れかな?」

四季「……どうかな」

彼方「?」

四季「なんだか、とてつもないことに私たちは既に巻き込まれているような気がする……」

彼方「……」

758: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 22:01:48 ID:???00

メイ「今の聞いてたよな冬毬」

冬毬「当然です。きな子先輩があなたにも伝令したのは少し納得行きませんが」

メイ「お前はどうするんだ?」

冬毬「……隠密機動として、今回利用されてしまったこと、そして反乱を未然に防げなかったのは痛恨の極みです」

冬毬「せめて後始末は迅速に行う必要があるでしょう」

メイ「なら、アタシも同行する」

冬毬「あなたの協力など不要です」

メイ「そうじゃねーよ、霊圧検知を利かせろ! かすみと歩夢の霊圧が今さやかの側にあるんだよ!」

冬毬「!」

759: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 22:08:00 ID:???00

かすみ「くっ……」

さやか「無意味な抵抗ですね、早く諦めて降参してはどうですか?」

かすみ「っ……誰があなたみたいな裏切り者の言うことなんか!」

さやか「? ……ああ、四番隊副隊長の能力か何かですか」


眠り続ける歩夢を背中に抱えながらの戦闘。
しかも相手は護廷十三隊の隊長。

かすみは防戦一方だった。

いや、ほとんど防戦にもなっていない。
彼女は既に刀傷だらけになっている。

歩夢を守ることを優先したせいで、まともに戦闘体制を取れていないのもある。

だが、それ以上に……


かすみ(斬撃が……見えない……!)

760: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 22:14:51 ID:???00

さやかは攻撃の際立ち位置からほとんど動いてない上に最初は納刀している。
なのに、彼女が斬魄刀を抜く度にかすみはなす術なく斬られていく。

かすみが回避のために距離を離した分いつの間にか詰められ、そしてその剣速は異常に速い。

本人が高速で移動して斬り掛かってくるのではなく、彼女が剣を抜き振るう速度が速すぎるのだ。

居合。

さやかの剣技は護廷十三隊で唯一のものだった。


かすみ(でも、それだけじゃない……!)


どんなに速い斬撃だろうと、来るのがわかっていればある程度予測はできる。

しかも居合は、さやかの場合左の腰の鞘から抜刀しての斬撃。
基本的には相対するかすみからすれば向かって右から発生する斬撃が来るはず。 

実際その通りであり、かすみはそれは毎回何とか受け止めていた。

しかし……

761: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 22:18:46 ID:???00

さやか「裏切り者……それはあなただってそうでしょう?」

かすみ「かすみんはこの世界を守るために頑張ってるんですっ!」

さやか「この世界を守る? ……実にくだらない」


かすみ(来る!?) 


さやかの手が柄へと触れ、居合に移行する。
かすみはそれを確認出来るほどになっていた。


キィン!


かすみ「あぐっ!?」


初動を確認し、確かに斬撃を受け止めたはずなのに、それとは全く別の太刀筋の斬撃が同時に来る。
そしてそれは、一太刀目を刀で受けている以上無防備なかすみに当然のように直撃するのだ。

村野さやかの始解『パラレルダンサー』は一振二斬の剣。

全く方向の違う二種類の超速の居合が同時に襲い掛かる、回避も防御も至難の斬撃。

762: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 22:23:18 ID:???00

さやか「力の差は明白、これ以上続ける意味がありますか?」

かすみ「うぅ……!」

さやか「……これで最後です中須副隊長、上原歩夢の身柄をこちらに渡してください」

かすみ「!」

さやか「拒否すれば次の一撃はあなたが斬魄刀を握るその右手を切断します」

かすみ「なっ……!」


さやかの目は本気だった。
そもそも彼女はずっと、殺意と敵意を微塵も躊躇なくぶつけてきている。
最初から『そのつもり』なのだ。


かすみ(斬魄刀がなくなったら、それこそアレも無理になる!)

かすみ(なら、危険でも今それに賭けてみるしか……!)


かすみは目を瞑って心の中で背中の歩夢に謝る。
今の霊力では最後の一回。
頼むから成功してくれと祈り、その目を開けた。


さやか「……」

かすみ「カモン!『☆ワンダーランド☆』!」


かすみは解号を叫ぶと、その場から一瞬で消え離脱した。

763: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/05(水) 22:27:12 ID:???00
#41 SMELLS LIKE SCARRED LOTUS PART4

END


今日はここまでです。

   

766: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 20:24:24 ID:???00
#42 SMELLS LIKE SCARRED LOTUS PART5



きな子「皆さんへの伝令終わりました!」

恋「ありがとうございます、きな子さん」

きな子「何か追加で伝えなきゃいけないこと、あるっすか?」

恋「……いえ」

きな子「? 恋先輩?」


きな子は、恋が一瞬言い淀んだのを見逃さなかった。


恋「……これは不確定な私の推測でしかなく、それが外れた場合致命的な初動の遅れになる可能性があります。伝令としては不適格です」

きな子「推測……」

恋「乙宗梢の行き先です」

きな子「!」

767: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 20:26:05 ID:???00

恋「ですが……乙宗梢を追うのは私一人で動きます」

きな子「そんな!? きな子も行くっす!?」

恋「ごめんなさいきな子さん、あなたは花帆さんを四番隊隊舎に連れて行ってあげてほしいのです」

きな子「そ、それは……」

恋「『結び葉』でなんとか命は取り留めたと思います。あとは花帆さん次第ですが、ここに置いていくわけにはいきません」

きな子「……了解です」

恋「よろしくお願いします」

きな子「でも! 行き先だけ教えてください! 花帆ちゃんを送ったらきな子も向かうっすから!」

恋「……わかりました」



恋「おそらく、乙宗梢の行き先は——」

768: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 20:28:40 ID:???00

かすみ「!? ここは……?」


かすみは、転移先にエマの部屋を指定していた。

今度こそという思いで使用した『☆ワンダーランド☆』だったが、またも見知らぬ場所にワープしてしまっている。

かすみが転移したのは、学園廷の中央に位置する一番隊隊舎の屋上。

そこは本来、外からは見ることも入ることも出来ない聖域。
『大聖別』の際にラブライブ!が顕現する、通常は立ち入りが許可されていない場所。

一番隊隊舎内に隊長のダイヤ、副隊長の果南のどちらかがいる時は自動結界によって厳重に秘匿と守護がなされるため、『二人が戦場に出てここにいない』今しか侵入することが出来ない場所。

769: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 20:30:53 ID:???00



泉「やあ、中須副隊長——」



かすみ「!?」


掛けられた声にかすみが振り向くと、そこには……



梢「——ここまでご苦労様でした中須副隊長」



かすみ「そ、そんな……」


四人の、護廷十三隊隊長が立っていた。

先程緊急伝令によって知らされた、護廷十三隊を裏切った蓮ノ空の四人。



梢「上原歩夢を置いて下がりなさい」

770: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 20:31:31 ID:???00



LOVELIBLEACH #42




SMELLS LIKE SCARRED LOTUS

PART5


FALLEN ANGEL OF ISCARIOT NUMBER





                 .

771: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 20:33:16 ID:???00

かすみ「はあ、はあ……」

梢「……随分と苦しそうね、中須副隊長」

かすみ「……!」 

梢「今のワープであなたの霊力は尽きたのでしょう? 霊圧がどんどん萎んでいくのがわかるわ」

かすみ「くっ……」


かすみ(護廷十三隊の隊長が四人……こんなの……)


梢「ええ、彼我の戦力差は圧倒的。あなたには万が一の勝ち目も無い」

かすみ「……っ」

梢「もう一度言うわ、上原歩夢を置いて下がりなさい」


梢から静かな、それでもあまりにも重たく強い霊圧が放たれる。
それは相手を圧倒するというよりギリギリと絞め殺すような霊圧。

かすみは吐き気を覚えるようなプレッシャーを受けていた。

772: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 20:36:54 ID:???00

かすみ「……やっぱり『☆ワンダーランド☆』は何か変なことをされてたみたいですね」

梢「あら、どうしてそう思うの?」

かすみ「こうもあなたたちに都合の良い失敗ばかり起きたら、流石にわかりますよ……!」

かすみ「そもそもさっきだって、さやかさんはわざとかすみんに跳ばせたんですよね? 私なんてすぐにでも倒せたのに、ここに連れてこさせるために……!」

さやか「……」

梢「その通りよ、あなたは今までずっと私の『ユメワズライ』の影響下にいた」

梢「あなたは『意図しない転移』を自分の能力の不具合や失敗だと思っていたようだけれどそれは違う。あなたの能力は完璧に機能していた」

かすみ「……!」

773: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 20:39:14 ID:???00

梢「私が遠隔でずっとあなたの転移先を指定していた……正確には指定したのはあなただから、『させていた』と言うべきかしら」

かすみ「あなたの能力……かすみんの意思すらねじ曲げられるんですか?」

梢「少し違うわね。あなたが指定した『場所や霊圧』を、全く別のものをそう思い込ませただけ」


かすみ(……エマ先輩の霊圧と思って指定したものがほんとは村野隊長のものだったり、十二番隊隊舎を指定したつもりのものが、ここだったってこと?)


かすみ「それで、村野隊長が待ち伏せした場所に飛んじゃったり、今こんなとこに連れて来られてるんですね……」


かすみは改めて向こうに立っているさやかを見る。

さっき転移しようとした際、彼女は自分から離れていたはずだった。
それが何故か一緒にワープしてきている。

774: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 20:42:11 ID:???00

おそらくは最後の瞬間彼女は既に自分の身体に触れていて、目の前で対峙していたように見えていた彼女は『錯覚』だったということなのだろう。


かすみ(デタラメな能力すぎて、呆れるしかない……)


かすみは乾いた笑いさえ出そうだった。

視覚を含む自分の感覚全てが偽物の可能性があるなら、もう何を信じて動けばいいのかわからない。

ましてや闘うなど……


かすみ「……いったいいつからですか?」

梢「最初からよ、あなたが現世で高咲侑と出会う時にはあなたは私の影響下にあった」

かすみ「現世まで斬魄刀の能力範囲が届くなんてことが……」

泉「通常は不可能だよ。だから私が梢センパイの霊力を常にあなたの側に置いておくことにした」

泉「あなたの伝令神機に梢センパイの霊基を仕込んでね。ついでにあなたの全ての行動も筒抜けになるように」

かすみ「……」

775: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 20:44:09 ID:???00

泉「ああそうだ、あと色んな情報を送って操作させてもらったよ。あなたは想像以上に都合よく動いてくれた」

かすみ「……っ」


やはり、自分の伝令神機はおかしかったのだ。
かすみはここまで来ると今までの疑問に答え合わせをされている小気味よさすら感じ始めていた。

……それほどの、絶望的な状況。


かすみ「……せっかくなんで気になること全部聞いときますね」

梢「……」

かすみ「今日こっちに来た時みんなバラバラに転移したのはどうやったんですか? かすみんのワープはそんなこと出来ないと思うんですけど」

梢「……正直に答えるならあれはイレギュラーだったわ。こちらとしてもそんなつもりはなかった」

776: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 20:54:05 ID:???00

梢「あなたたちをまとめて懺罪宮に送り、その能力を封殺するつもりだった……米女メイは斬魄刀の性能からして殺気石で霊圧を封じれば牢を突破することは不可能と見ていたから」

梢「強いて言えば不安要素は若菜四季だったけれど、その対策もきちんと打っていたわ」

慈「……」

梢「空振りというより、あなたたちがバラバラになったせいで慈は別の動きになったけれど」

かすみ「じゃあ、なんであんなことが……?」

梢「そうね……あえて推測するなら、あなたの能力の上限は四人同時までだったのかもしれないわね」

かすみ「えっ? 四人なら……」

梢「四つの魂魄、と言ったほうがいいかしら」

かすみ「!?」

梢「……あなたも薄々感じているのではなくて? 高咲侑が二つの魂魄を持つ存在かもしれないということを」

かすみ「っ……」

777: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 20:57:37 ID:???00

梢「……」


梢はかすみの表情が変わったのを見て、目を細めた。


梢「……さて、もう思い残すことはないかしら?」


梢が斬魄刀を抜き、一歩前に出る。
それだけでかすみの足は金縛りにあったかのように後ろにも退けなくなった。


かすみ「置いて去れ、じゃなかったんですかね……!?」

梢「そのつもりがなさそうだもの……あなたを無力化して上原歩夢を奪うことにするわ」

かすみ「!?」

梢「ああ、動かないで頂戴」


かすみ(は!? 身体が……ほんとに動かない!?)


かすみは霊圧だけで身体の動きを封じ込められてしまった。
二人の間にはそれほどの霊圧差があるという証明。


梢「……動き回る小虫を潰さないよう必要な部分だけ取り除くのは私でも難しいのよ」

梢「でもこれですぐに終わるわ」


かすみ(や、やられる……!)

778: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 20:59:57 ID:???00



??「——天上の調べ、この者の耳に堕ちよ」




慈「!」

さやか「!?」



??「『Deep Resonance』!!」



梢「っ」


ガキィン!!


突如上空から降ってきた斬撃を、梢は事も無げに受け止めた。
だが、その攻撃の主も軽い身のこなしで彼女から距離を取る。


かすみ「あ、あなた……!」


金縛りのような拘束が解け、声を出せるようになったかすみが見た者。
彼女の窮地を救ったその少女は——


??「裏切りのイスカリオテナンバー・デスサーティーンを持ちながら、真の邪悪を誅するために我が漆黒の翼は舞う……」



善子「堕天使ヨハネ、ここに顕現」



——護廷十三隊十三番隊隊長津島善子だった。

779: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 21:04:30 ID:???00

善子「フッ……」


かすみの方を、そして梢の方を見るでもなく、謎のカッコイイポーズを決めている。


かすみ「ヨハ子っ!」

善子「ヨハ子じゃない! ヨハネ! それに他所の副隊長のくせに隊長の私を呼び捨てするなかすかす!!」

かすみ「は、はあ!? かすみんもかすかすじゃないもん!」


二人がぎゃあぎゃあと言い争っていると……


花丸「よ、善子ちゃ~ん……」


十三番隊副隊長の国木田花丸も善子の後を追うように現れる。


善子「遅いわよずら丸!」

花丸「善子ちゃんが猪すぎるだけだよ……うわなんなのこれ、敵が勢揃いずら……」

梢「……」

泉「ふふっ、あなたの船出には随分と余計な来客が多いな……よほど望まれていないと見える」


いちいち芝居掛かった物言いをする泉を無視して、梢は善子を見ている。

780: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 21:11:45 ID:???00

梢「やけに早い到着ね、どうして私たちがここだと?」

善子「フッ、堕天使の直感というヤツかしら」

花丸「何言ってるの……学園廷巡回サボってダラダラしてる時にさっきの緊急伝令来て流石に焦って飛び出したら偶然近くに敵の霊圧があっただけずら」

善子「ばっ!? カッコ悪いから余計なこと言うな!?」

花丸「はぁ……善子ちゃんが考えなしに突っ込むからマル達だけで裏切り者の四人の隊長を相手することになるなんて……不幸ずら~」

泉「相手をする……か。まるで面倒だけど勝てなくはないと言っているように聞こえるな」

花丸「……それはまあその通り? 面倒なだけずら」

泉「……ふっ、楽しめそうじゃないか」


泉と花丸の霊圧が静かに高まっていく。

781: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 21:15:48 ID:???00

善子「……ずら丸、フォーメーション・デスサーティーンで行くわよ」

花丸「そのフォーメーションは初めて聞いたけど、いつもみたいに前衛が善子ちゃんでサポートがまる担当ってことでしょ?」


十三番隊の隊長副隊長はそれぞれ得意分野に特化しており、善子が斬術と歩法、花丸が鬼道の達人であった。

また二人はツーマンセルでの戦闘のスペシャリストでもあり、主に善子が前衛で花丸が後衛のサポートである。


花丸「抜けられないずら『メイズセカイ』」


花丸は自身の斬魄刀を解放するも、その剣は見た目には何も変わっていない。

ただ彼女と善子の周りに、まるで迷路か機械回路のような複雑な光の紋様が一瞬浮かび上がる。


善子「堕天の剣技、その身に刻むがいい」


善子は長尺の剣を柳に構え、梢たちを見据えた。

782: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 21:17:20 ID:???00

かすみ「っ……ヨハ子! 私も……!」

善子「ヨハネ! あんたはヘロヘロのかすかすなんだからそこで見てなさい」

かすみ「で、でも……!」

善子「私を誰だと思ってるの? 護廷十三隊最後の隊長、十三番隊隊長堕天使ヨハネよ!」

かすみ「……!」


そうだった。
彼女はこう見えて同期の桜坂しずくに勝るとも劣らない、護廷十三隊でもトップクラスの剣の使い手。

護廷十三隊内に作られた最初の特殊部隊・護廷精鋭親衛隊Aqoursのメンバー。

自称堕天使ヨハネ、デスサーティーン。
通称……『死神』津島善子。


花丸「最後の隊長の意味はよくわからないし実際頭は良くないが、その戦闘力は折り紙付きだった」

善子「勝手に変なモノローグ入れるなずら丸!?」

783: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 21:19:30 ID:???00

梢「……副隊長が絶対的に強固な鬼道防御を前衛の隊長に掛け、鬼道で邪魔されない純粋な斬術の速攻に持ち込む」

善子「!」

梢「一方でその剣は敵と打ち合うたびに、剣戟の音の共鳴が精神に干渉し相手を幻覚の世界に引きずり込むという」

梢「相手には幻惑のデバフを与えつつ自身は得意の剣術の領域で圧倒する……よく考えられた戦術だわ」

花丸「ありゃあ……善子ちゃんの『Deep Resonance』のやり口全部バレてるずら」

善子「フッ、私のマークをきつくしてるとは中々見る目があるじゃない」

梢「他人の精神や感覚に干渉出来る斬魄刀と聞いて、少し興味を持ったのよ」




梢「もっとも……私の『ユメワズライ』の足元にも及ばない能力なのだけれど」




花丸「!?」


気付けば花丸の目の前に梢が立っていた。

784: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 21:26:09 ID:???00

善子「なっ——」


善子(バカな!? 乙宗梢はまだ私の目の前に……!?)


一閃。


花丸「……えっ?」


その一撃で花丸は肩から胸まで深く斬り裂かれ、倒れる。


善子「花丸ッ!!?」

梢「これで鬼道防御は失われた、あとは剣を使わずあなたを撃てばいい」

善子「!?」


梢が手のひらを善子に向ける。

それは——破道の構え。



梢「破道の"九十"——」



善子(九十番台破道!?)


善子の周りに黒いオーラの壁が現れ、一瞬で彼女を冥闇の直方体の中に閉じ込める。

それは暗黒の棺とも呼ばれる破道。

全破道の中でも別格の殺傷力を持つ九十番台の破道の中で、乙宗梢だけが使えるとされる技。



梢「——『be proud』」

785: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 21:27:43 ID:???00

梢の破道名詠唱と共に、黒い箱の中に超重力が生まれ、中にいる全ての存在を押し潰す。


ギシュッ


善子「ごはっ……!」


善子は全身の骨がめちゃくちゃに折れ、悶絶する間もなく意識を失った。
闇の直方体は一瞬で崩壊し、中にいた善子が投げ出されそのまま倒れる。


善子「…………」

花丸「…………」

かすみ「そ、そんな……!?」


かすみ(同じ護廷十三隊隊長格なのに、こんなにも"差"があるっていうの……!?)


かすみは目の前で起きた現実に戦慄した。

786: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 21:29:19 ID:???00

慈「九十番台の破道をこんな一瞬で撃てるんだもんなあ……いつ見てもエグいよあんたのそれ」

梢「でもしくじっているわ、最初に剣を受け止めたとき少し感覚が壊されていたみたい……国木田花丸も津島善子も芯を捉え損ねた」

梢「……流石は護廷十三隊の隊長格といったところね」


ほとんど皮肉にしか聞こえない台詞を、梢は平然と言ってのける。


梢「……さて、邪魔が入ってしまったけれど」

かすみ「ひっ……!」


かすみはこっちを見る梢に思わず小さな悲鳴を上げた。
視線を受けただけで身体は恐怖に震えている。


かすみ「……!」


それでも、背中の歩夢のことを思い出しかすみは斬魄刀を構えた。

折れかけた心を必死で繋げる。

787: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 21:34:36 ID:???00

かすみ「……やあっ!」

梢「……」

かすみ「!?」


思い切って先手を打って斬り掛かったが、あっけなく剣を弾かれる。
軽く振られただけなのに、かすみは剣を取り落としてしまった。


かすみ「うぅ……!」


霊力が枯渇し身体能力の維持さえ出来なくなっている。
今のかすみは普通の人間の女子高校生程度の力しか持っていない。


かすみ「っ……」

梢「ここ数日前に会ったばかりのその子を、何のメリットも無いのにあなたがそこまで守ろうとするのは何故?」

かすみ「……メリット? そんなもの関係ありませんね!」

梢「……」

788: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 21:39:53 ID:???00

かすみ「かすみんはただ、"大切な先輩"からこの人を託されたんです! だから絶対渡せません!」

梢「っ」



『梢センパイっ!』



梢「……随分と先輩想いだこと」


梢が剣を振り上げる。


梢「これで終わりよ」

かすみ「っ!」


かすみは思わず目を瞑り、来たる最期の時に備える。




キィン!


かすみ「……?」

梢「……」

かすみ「!」


……だが、その斬撃がかすみに届くことはなかった。



侑「かすみちゃん、今まで歩夢を守ってくれてありがとう!」



かすみ「ゆ、侑先輩!」


二人の間に割って入った侑が、梢の斬撃を斬魄刀で受け止めている。


侑「ここからは、私が二人とも守るよ!」

梢「……高咲侑」


梢は冷たく目の前の少女を見つめながらそう呟いた。

789: 名無しで叶える物語◆TMY84Uft★ 2025/11/06(木) 21:41:00 ID:???00
#42 SMELLS LIKE SCARRED LOTUS PART5

END


今日はここまでです。


次で本章はラストになると思います。

795: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:15:16 ID:???00
#43



梢「……!」

侑「はあっ!」


私は思い切り剣を上に突き上げ、受け止めていた斬魄刀を弾き返す。

かすみちゃんに襲い掛かっていた紫の髪をサイドポニーにまとめた女性は、特に驚いた様子もなくこちらを見ていた。


かすみ「気をつけてください侑先輩……その人は乙宗梢、彼女の能力は認識を操作します!」

侑「この人が……」


しずくちゃんたちが言ってた裏切りの首謀者……
そして、歩夢の命を狙っている人。


梢「……」


たおやかな女の子だった。
見た目の年齢は本当は私たちとそんな変わらないのかもしれないけど、なんだか雰囲気はだいぶ大人びて感じる。

でも、その長い髪をまとめている大きなオレンジ色の花の髪飾りだけが、やけに明るく目立っていて。
どこか可愛らしいギャップが年相応に似合っているというか、更に彼女の魅力を引き立てているようだった。

796: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:16:58 ID:???00

慈「ごめんね梢、思ったより速くて素通りさせちゃった」

梢「……構わないわ」

梢「人間が一人現れたところで、私たちにとって障害ですらない」

侑「……!」


剣を構えながら、後ろのかすみちゃんの様子を伺う。


かすみ「……」


彼女は確かにボロボロのようだった。

身体中の切り傷もだけど、霊力がほとんど無い。
この状態じゃ闘うのはおろか、歩夢を連れて逃げ続けるのも難しいだろう。

逃げる時間を稼いでどうにかなる状況じゃない。


侑(だったら、リーダーを叩いて追い払うしかないんじゃない!?)


私は覚悟を決めた。


侑「っ!」

梢「……なるほど、『彼女の力』でなくともこれだけの霊圧はあるのね」

侑「行くよ!」


私は上段に剣を構え、そのまま全速で相手に向かって走った。
斬魄刀に火が灯り、それは激しく燃え盛って炎を纏った剣となる。

797: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:22:00 ID:???00

侑「うおおおおおっ!」


私は目の前の相手ーー乙宗梢に思い切り剣を振り下ろした。


梢「……」

侑「……!?」


でも、その斬撃は軽く止められてしまう。

剣で受け止められたんじゃない。
片手で、指の二本で静止させられていた。
斬魄刀が纏っていた炎さえ霧散している。


侑「は……!?」

梢「『理を逸脱した』者とはいえこの程度なのね」


一閃。


侑「ぐふっ!?」


乙宗梢の横薙ぎが私の胴体を背骨を残して両断する。


かすみ「侑先輩っ!?」

梢「……」

かすみ「えっ……あうっ!?」

侑「……!?」


その直後に後ろにいたかすみちゃんまで斬られてしまった。
いつ移動したのか速すぎて見えないほどの速度。

かすみちゃんと歩夢を結びつけていた霊力の紐のようなものが解かれ、かすみちゃんだけがその場に倒れる。

乙宗梢は眠っている歩夢の胸ぐらを掴み、片手でその身を持ち上げていた。

798: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:23:59 ID:???00

侑「う、うぅ……!」


私は何とか彼女を止めようと近付こうとするけど、身体は地に這ったまま貼り付いたように動かない。

どくどくと大量の血が地面に広がっていく。


梢「泉、例のものをお願い」

泉「ああ……卍解『Retrofuture』」

泉「"失伝術式"『Take It Over』」

さやか「……」

侑「……!?」


背の高い、髪を一つにまとめた泉と呼ばれた女の子が目を瞑り何かを唱えると、乙宗梢の手に黒い手袋のようなものが現れる。

いったいあれは何……!?
卍解を使ってまで何をやろうとしてるの!?


侑「やめっ、う、ぐ……」

泉「……気になるかい?」

侑「!」


泉と呼ばれた彼女はうつ伏せに倒れた私の横に来て中腰になる。
そしてそのまま私の髪の毛を掴んで引き起こした。

背中が海老反りのようになり、割れた身体が更に開かれ激痛が走る。

799: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:26:49 ID:???00

侑「あ、が……ぎゃあああっ!?」

泉「よく見ておくといい……あなたの大切な人が、魂魄を斬り開かれていく様を」

侑「……!?」

慈「……ほんと、悪趣味」


魂魄を、斬り開く!?

それがどういう意味かはわからなくても、根源的な焦りが襲い掛かる。
乙宗梢は手袋に包まれた指を貫手に構え、歩夢に狙いを定めていた。


侑「や——」

梢「……」



侑「やめろおおおおおおおおっ!!!!」



歩夢「っ……? ……だ、れ?」





ドシュッ




歩夢「……!?」

侑「!!!」


乙宗梢の手が、歩夢の胸を貫いた。
歩夢はビクンっと一度大きく痙攣するとその身体を突っ張らせたまま動かなくなる。


梢「っ」


乙宗梢は何かを抜き取るように手を歩夢の身体から引き抜いた。
そのまま捨て置かれた歩夢は、ぐにゃりと膝から崩れ落ちる。

800: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:28:28 ID:???00

侑「あ、ああ……」

泉「……ふ」



侑「うわああああああああっ!!!」






歩夢「……? ゆ、侑ちゃん?」






侑「……えっ!?」


歩夢は、きょとんとした顔で私を見ていた。

ぶ、無事……なの?


泉「くっ……あっはっはっは!」

侑「っ? ……!?」


泉は、私から手を離してまで笑っていた。
何がそんなにおかしいんだろう?
怒りとも羞恥とも言えないものがこみ上げる。

801: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:30:20 ID:???00

梢「凄い技術ね……魂魄を割り開き一部を取り除いても、肉体にも魂魄自体にも傷ひとつ無いなんて」

梢「……流石だわ、綴理」


乙宗梢はどこか遠くを見るような表情をして、手の中にあるものを見つめていた。

その手には小さなガラス玉のようなものが握られている。


梢「これが『崩玉』……こんな小さなものに、あれだけの破壊の力が込められている……」

梢「! これは……」

慈「? どうしたの梢」

梢「……いえ、想像通りの結果だっただけよ」



梢「『崩玉』は眠ってしまっている」



慈「じゃあ……」

梢「ええ、今この場では我々の目的は果たせそうにないわ」

さやか「……」

梢「『双極』を使えなかった時点で半ばこれは予想出来ていたこと……あと少し待つしかない」

梢「我々は『崩玉』を手に入れた……今回はそれで充分よ」

侑「……っ」


場の空気がわずかに緩んだのがわかった。
それは彼女たちの失望なのか、私の安堵なのか。

802: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:32:42 ID:???00

泉「なんとも白けた結末だな……こんなことなら、ラストにもう一展開欲しいところだ」

侑「……?」


彼女は倒れ伏している私の耳に顔を寄せる。


泉「……実は私は、ホラーが大の苦手でね」

侑「え……?」

泉「だからこそ、やられると嫌なこともわかるんだ……恐怖から解放されたと安堵したところからのジャンプスケアとか」


な、なんなの?
この子は何を言っている?


泉「あなたの先程の恐怖は実に味わい深かった……その後の呆けたような滑稽な様子もね」

侑「な……!?」

泉「そこから一転しての絶望……そして最後に私に向けられるだろう憎悪も、きっと甘美なのではないかな?」


彼女はそう囁くと、にこっと笑って立ち上がった。



泉「そうだ梢センパイ、ここにいる人はみんな始末してしまっていいんだろう?」



侑「!?」

803: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:35:26 ID:???00

泉はそう言って私を見て薄く笑う。
そしてそのまま視線を歩夢に向けた。


歩夢「っ……!」

侑「ま、待っ、で……げほっ!」


口から血が吐き出される。
痛みすらもうあまり感じなくなってきたほど身体は死に近づいている。

それでも、ダメだ!
こいつのやろうとしてることを……止めなきゃ!


侑「や、やめ……ろ……!」

泉「ふふ……」

梢「……」


乙宗梢は何も言わず私たちを見ている。
それは無言の肯定なのか、黙殺なのか。


慈「……気分悪いな」


その時、近くにいた女の子がぼそりとそう言った。


慈「ねえ……私がやるよ梢」

侑「なっ!?」

梢「慈……」

慈「この子が気持ちよくなるのはちょっとムカつく」

泉「おや、敬愛する先輩に嫌われてしまったかな」

慈「……ま、その子には悪いけど」


慈と呼ばれた彼女は私を見て、そして歩夢に斬魄刀の切っ先を向けた。

804: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:38:32 ID:???00

歩夢「えっ……!?」

侑「や、やめて……やめてよ……! あゆ、む、逃げ……っ!?」


ごばっ、と血が口に溢れる。

言葉が出ない。
身体が動かない。

私は……歩夢を守れない……!?



慈「射殺せ『全方位キュン♡』」



彼女の斬魄刀の刀身が、距離の離れた歩夢まで一気に伸長する。
目標を刺し貫くために。


侑「……!」

歩夢「ひっ!?」






ドスッ





侑「!!」

梢「……」

歩夢「!?」





しずく「っ……」


だけど、彼女の剣が貫いたのは歩夢じゃなかった。

歩夢を庇いその前に立ったしずくちゃんを刺している。

805: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:43:18 ID:???00

慈「……!」

しずく「ぐ、うっ……」


しずくちゃんは自分が串刺しにされながらも剣を掴み、歩夢に届く直前で斬魄刀を押し留めていた。

慈と呼ばれた女の子が刀を元に戻すと、しずくちゃんは腹部から大量に出血しながらその場に膝をつく。


侑「しずくちゃん!?」

梢「……理解に苦しむわね」


歩夢と自分の間に割って入られたような形の乙宗梢が、しずくちゃんを見下ろしながら呟く。


梢「さっきまで上原歩夢を処刑するために闘っていたあなたが、何故今になってその子を庇うの?」



しずく「この人が……」

しずく「この人が、侑先輩の大切な人だからです……!」



歩夢「……!」

梢「……」


乙宗梢は一瞬だけほんのわずかに顔を歪めた。


梢「そう……ならば私は、あなたたちのその想いも絆も断ち切りましょう」

梢「私がそうしたように!」


真っ黒な斬魄刀がしずくちゃんに振り下ろされる。

806: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:46:42 ID:???00



エマ「——縛道の六十七『Cara Tesoro』!」



侑「!?」


突然聞こえたエマさんの声と共に、私の周りに光の壁が現れ包まれた。
そのまま瞬時に、やられていた『私たち六人』が全員エマさんの下へと引き寄せられる。


梢「!」


一瞬虚を突かれた乙宗梢の所に、高速の赤い閃光が突っ込んでくる。
その"茜色"は乙宗梢に勢いのまま拳を放った。


侑「メイちゃん!?」

メイ「はあっ!!」


カァン!


メイ「っ!」

梢「……!」


拳と剣とは思えない、金属をぶつけたような音。
衝撃波が辺りに拡がる。


冬毬「はっ!」


メイちゃんの後ろから、もう一人ミントグリーンの三つ編みツインテールの女の子が飛び出し、アクロバティックに飛び蹴りを放つ。

だが、その蹴りは寸でのところで乙宗梢が回避し、彼女はそのままバックステップで距離を取った。

807: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:49:42 ID:???00

可可「破道の七十七『星屑クルージング』!!」

梢「!」


今度は乙宗梢の移動した先に、上から声が掛かる。

四つのキラキラした星のような光……人が乗っている!

人を乗せた流星は、そのまま彼女めがけて降り注いだ。
乗っていた人たちは着弾する直前に離脱するも、流星は地面にぶつかるとそのまま爆発し、辺りに土煙と炎が舞う。

いったい、何が起きてるの……!?


エマ「大丈夫!?」

侑「エマ、さん……?」

四季「侑ちゃん、生きてる……?」

侑「し、四季ちゃんまで……」

エマ「みんなを助けに来たんだよ!」


あの時、かすみちゃんと歩夢が狙われてると聞いて、私は一目散に二人の霊圧のする方にすっ飛んで行ったんだけど、しずくちゃんもエマさんも後を追いかけてきてくれていたようだった。

でも、それだけじゃない……


エマ「わたしたちだけじゃない……『みんな』が来てくれてる!」

侑「……!」

808: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:51:19 ID:???00

土煙が晴れると、視線の先には四人の女の子が立っていた。
マルガレーテちゃんとセラスちゃん、そしてさっき闘技場で会った二人もいる。

四人は、あの何を考えているのかわからない女の子……泉と対峙していた。


マルガレーテ「……」

セラス「泉……!」

泉「やあ、セラス……こないだの夜ぶりかな?」

可可「イズミ……もはやアナタの年貢の収めドキデスよ」

すみれ「あんたたちが何考えてんのか知らないけど、もう終わりね」

泉「ふふっ……」

809: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:53:23 ID:???00

彼方「お疲れ様~エマちゃん」

エマ「! 彼方ちゃん……!」

彼方「しずくちゃんもかすみちゃんも、無事ー?」

エマ「一応……でも、これだけの怪我はわたしの能力だけじゃ心許なくて」

彼方「おぉ~、じゃあちょうどそこでいい人連れてきたよ」

恋「……これは、皆さんひどい傷ですね」

きな子「す、すぐにみんなの治療を始めます!」

恋「お願いしますきな子さん、私は……」



梢「……」



恋「メイさんたちと共に、乙宗梢を鎮圧します」


恋はメイと冬毬の前に立つ梢を睨みつけた。

810: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:54:52 ID:???00

慈「流石に出方が早いなー護廷十三隊……」


慈たちは先程の『星屑クルージング』により、少し距離を置いてバラバラに散らされていた。

全員一番隊隊舎の屋上にはおり、互いの動向は視認出来るものの、連携した動きは少し難しいような絶妙な距離。

ひとまず梢もさやかも、そして泉も無事のようではある。
だが、どうも自分たちは救援に来た護廷十三隊に囲まれているらしい。


慈(さて、どうしよっかな)



姫芽「——動かないでくださいっ」



慈「!」


突然、後ろから声が掛かり背中に斬魄刀が突きつけられる。

811: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:57:44 ID:???00

慈「……」

姫芽「めぐちゃんせんぱい……斬魄刀を納刀したら、そのまま両手を上げてください……!」


言われた通りにしながら首だけ後ろに振り向くと、そこには必死な顔をした姫芽の姿があった。


慈「全然気付かなかったよ……隠密、上手くなったねぇ」

姫芽「アタシは、ずっと、あなたの背中追っかけてついて来てたんです……!」

慈「ああそっか……確かにもう最近は『いつも一緒』だったから、傍にいても意識出来なかったのかも?」

姫芽「っ……」


姫芽は、いつものように笑う慈とは対象的に、突き付けた斬魄刀を震えないよう持つのに必死だった。

812: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 18:58:51 ID:???00

小鈴「村野隊長……どうして、こんなこと……!」


小鈴はさやかの前に一人立っている。

周囲には他の裏切った隊長、仲間の隊長もいるのに、二人の周りだけ切り取られたかのように静かだった。


さやか「……」

小鈴「……」

さやか「……」

小鈴「徒町には……何も、言ってはくれないんですか?」

さやか「……」

小鈴「さやか先輩……」


小鈴はさやかの正面に立ち真っすぐ見つめているのに、彼女の目に自分が映っているのかはわからなかった。

彼女の吸い込まれるような漆黒の瞳は、いつも誰も映さない。

813: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:00:20 ID:???00

梢「随分と懐かしい顔まで来ているのね」

メイ「なーに意外な顔ぶれみてぇなこと言ってんだ、とっくにアタシたちの動きなんて把握してたクセに」

梢「……」

冬毬「あなたのくだらない企てもここまでです、乙宗梢」

メイ「もう終わりだ梢……護廷十三隊の隊長格全員が今ここに集まって来てる」


梢は周りを見ると、確かに他の隊長格も続々と来ているようだった。


かのん「梢ちゃん……」

千歌「……」

ダイヤ「……!」

恋「……」

梨子「……っ」


錚々たるメンバーが、梢を睨みつけ包囲している状況。

彼女だけではない、梢の一団はみな護廷十三隊に捕捉されている。

814: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:02:45 ID:???00

梢「……ふっ」

冬毬「何が可笑しいのです?」





梢「いえ……"迎え"が来たわ」





恋「っ!? メイさん冬毬さん、離れてくださいっ!!」

メイ「!?」


突然、梢を取り囲むように空から虹色の光が降り注いだ。
梢を囲んだ虹の光は壁となり、メイや冬毬を含む周囲の全てから隔絶する。


さやか「……」

小鈴「さやか先輩っ!?」


その光は梢だけでなく、他の三人にも降り注いでいた。

光の照射源である空には大きな亀裂が広がり、その奥には真っ暗な空間だけが垣間見える。

815: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:05:17 ID:???00

ダイヤ「まさか、これは……!?」

マルガレーテ「反膜(ネガシオン)……!」


マルガレーテが、裂けていく空を睨む。

虹の光に包まれた梢たちが浮かび上がり、ゆっくりとその裂け目へ向けて昇っていく。


小鈴「さ、さやか先輩っ!」

かのん「待って小鈴ちゃん!!」

小鈴「!?」

かのん「その光に触れちゃダメ……! 外側から触れたらあなたの存在が削られちゃうよ」

小鈴「そ、存在が削られる……?」

かのん「この光は反膜……この虹の壁に囲まれたら最後、完全に内と外は干渉不可能な隔絶されたものになっちゃうの」

かのん「……『四十七圏外』との戦争を経験した人はみんな覚えてるの」

小鈴「『四十七圏外』……!?」

かのん「そう、学園廷ではない向こうの……『四十七圏外』の移動技術」

816: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:07:17 ID:???00



??「久しぶりね!! マルガレーテ!! セラス!!」



セラス「!?」


セラスは、空からの声を聴いた瞬間びくっと身体を硬直させた。


マルガレーテ「その声は……ランジュ!」

ランジュ「温室での数百年間はどうだったかしら!?」


声の主の姿は見えない。
なのに、セラスは酷く怯えカタカタと震えだす。


ランジュ「アナタたちと会えるのを楽しみにしているわ! 特にマルガレーテ!!」

ランジュ「アナタはこのランジュがクシャクシャにしてあげたいもの!!」

マルガレーテ「……!」





泉「……」

泉は、怯えるセラスとそれを支えるように隣で肩を抱くマルガレーテを一度だけ見、つまらなそうにすぐに目をそらした。

817: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:09:46 ID:???00

姫芽「めぐちゃんせんぱい……!」


姫芽は、空へ登っていく慈を信じられないという風な表情で見上げている。

結局彼女は慈を止めることも、彼女の気持ちを聞くことも出来なかった。


姫芽「なんで、ですか……?」

慈「……」

姫芽「アタシは、あなたと一緒に過ごした時間は本当に幸せでした! 何の不満も嫌なこともなかったっ!」

姫芽「あなたも同じだって……思っていたのに……っ」

慈「……」


慈は姫芽に背を向けている。
その表情は見えない。


慈「……ごめんね、姫芽ちゃん」

姫芽「!」



慈「もしるりちゃんもいたら……私たち三人で『世界中を夢中にする』ようなことが出来たって……ずっとそう思ってたよ」



姫芽「るり……ちゃん……?」

慈「……さよなら」

姫芽「……!?」


最後に姫芽の方を振り向いた慈は、寂しそうに笑っていた。

818: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:12:07 ID:???00

小鈴「さやか先輩……」

かのん「……さやかちゃん」


かのんと小鈴は、さやかを見上げている。
上空のさやかは、下にいる二人には気も留めないかのようにまっすぐと前だけを見ていた。

その背中に、かのんが問いかける。


かのん「……あの子は」



かのん「綴理ちゃんは、さやかちゃんがこんなことするのをきっと望んでないんじゃないかな?」



そのかのんの言葉に、さやかが初めて視線を下に向けた。


小鈴「……っ」


恐ろしい表情だった。

さやか先輩は、こんなに暗い目をしていただろうか?

小鈴はその目で見つめられているだけで、底冷えのするような恐怖を覚える。


さやか「……」


いつもは何者も映さない瞳が、怒りと憎悪でギラギラと光っていた。
コールタールのような粘ついた真っ黒な瞳。
見る者を呑み込む暗黒の瞳。


さやか「あなたが……」

さやか「結ヶ丘のあなたごときが、夕霧綴理を語るな……!」

かのん「……!?」


さやかはそれだけ言うと、再び二人に背を向けた。

819: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:16:06 ID:???00

ダイヤ「『四十七圏外』とまで手を組んだのですか?」

梢「……」


ダイヤは、反膜が梢に使われていることで……彼女が『四十七圏外』と組していることで、事態は大きく変化したと感じていた。



『四十七圏外』……理事長四十七室の自治が届かない、文字通り四十七の自治圏の外側の地域とそこの住民を指す。

かつて、スクールアイドルの始祖との戦いに敗れた『もう一つの始祖』の末裔の土地。

ラブライブ!の恩恵を得られない虚の跋扈する過酷な土地で生きる彼女たちは、その環境故に時折強力なスクールアイドルが生まれ、独自の技術や文化を発展させてきたのと共に、歴史上幾度も理事長四十七室と学園廷に反旗を翻してきた。

820: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:19:06 ID:???00

つまり、これはもう護廷十三隊の隊長が反乱を起こした『だけ』の事件ではない。

学園廷への……理事長四十七室が治めるこの学園界の構造そのものへの叛逆なのだ。

それはつまり、この学園廷と『四十七圏外』の戦争を意味する。

昨日から起きていた内部抗争じみたものではなく、約二百八十年前に起きた『ウィーン・マルガレーテの乱』以来の、学園廷以外の勢力との戦争。



ダイヤ「あなた方は、いったい何が目的なのです……!」





梢「我々は『スカードロータス』……私たちは、ラブライブ!を破壊する」





恋「なっ!?」

千歌「本気で言ってるの……!?」

ダイヤ「……愚かな」


梢は、天を見上げる三人を見下すように睨みつけた。
応えるようにダイヤも鋭い目つきで彼女と向き合う。

821: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:21:48 ID:???00

ダイヤ「乙宗梢……わたくしたちはかつて、同じ志を有していたはずです」

梢「……」

ダイヤ「『スクールアイドルの始祖』μ's、そのメンバーにして初代護廷十三隊総隊長エリーチカ」

ダイヤ「彼女たちの作り出した学園廷とその理念を守ることこそが、わたくしたち護廷十三隊のスクールアイドルの使命!」

ダイヤ「……わたくしとあなたは、同じ道を歩いていたはずではなかったのですか?」

梢「……私がいつまでも何も知らないとは思わないことね、黒澤ダイヤ」

ダイヤ「なん……ですって……?」

梢「あなたと私が敬愛したエリーチカ……彼女は果たしてどうなったのかしら?」

ダイヤ「!」

梢「そしてそれをあなたたち六大貴族が今までどう扱ってきたのか……『杯の注ぎ手』黒澤家のあなたが、その罪を知らないとは言わせない」

ダイヤ「……!」

恋「……」

千歌「何の話……?」

822: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:24:27 ID:???00

梢「……挙句の果てに壊れてしまった大聖杯は、もはや私たちを守護し支える願望器などではなくなってしまった」

梢「アレは……ラブライブ!はもう、ただのスクールアイドルを苦しめる荒ぶる神となっている」



梢「浦の星も、虹ヶ先も、結ヶ丘も、そして蓮ノ空も……私たちは皆、アレに大切な人達を奪われてきた……!」



ダイヤ「……あなたは何もわかっていない! 我々スクールアイドルはラブライブ!無しで生きていくことなど出来ない!」

ダイヤ「どれだけ荒んだ神だろうと、我々にとっては神なのです……!」

823: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:27:16 ID:???00



梢「……ならば私は、壊れた神など殺し排除する」



ダイヤ「……!?」

梢「そして望まれれば、私が新たな器ともなりましょう……私の憧れであり"夢"であったエリーチカのように」


梢はオレンジのガーベラの髪飾りを取り、まとめていた髪を解く。
おろされた美しい長髪が、流れるように広がる。



梢「……いえ、誰に望まれずともなってみせる」



そう言って梢は、花帆から貰った髪飾りをその手で粉々に砕いた。

それは……訣別のしるし。

護廷十三隊との、幸せだった彼女との思い出との、完全なる訣別の証。

824: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:28:18 ID:???00




梢「神のいなくなった、誰も何も寄る辺の無い新しいセカイで——」





LOVELIBLEACH  #43





梢「——私が天に立つ」






I WILL STAND ATOP THE HEAVEN'S THRONE




                .

825: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:29:28 ID:???00


梢「さようなら護廷十三隊」

侑「……」

梢「さようなら『理を逸脱した』旅禍の人間」

侑「!?」



梢「……あなたの存在を、私は決して認めはしない」



乙宗梢は最後にそう言うと、空の割れ目へと消えていった。

826: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:31:56 ID:???00
#43 I WILL STAND ATOP THE HEAVEN'S THRONE

END


本章はここまでです。
皆様お付き合いいただきありがとうございました。


この後、次章の予告編的なネタをちょびっとやります。

827: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:36:35 ID:???00

護廷十三隊を離脱し叛逆する『傷つけられた蓮(スカードロータス)』

そして新たなる敵『傷の十刃(レシオンエスパーダ)』の出現。



侑「なんで歩夢を狙うの!? あの子は関係無いでしょ!?」

栞子「あなたとあの子こそが全ての元凶、そして私たちの希望だからです」

侑「!?」

慈「……あなたは自分がどういう存在なのか、なーんにもわかってないんだね」



かすみ「もし、『四十七圏外』にウィーン・マルガレーテ級のスクールアイドルが五人以上いたとしたら……?」

メイ「……学園廷はいっかんの終わりだ」



聖良「面白い、あなたの剣と私の剣、どちらが最後まで残るか根比べと行きましょう」

しずく「……!」



愛「いやー! 全力で暴れられるってのは楽しいなあ! メッチャテンション上がるよね!」

果林「あまりやり過ぎないでよ? ここは学園廷ではなく私たちの城なんだから」



悠奈「わたしと闘うのは太陽と闘うのと同じ! ぜーんぶ燃やしてパァ!にしちゃうよ!」

千歌「いやあ、ここまでのは流石にキツイな……!」



果南「私は『敵』には容赦しない」

璃奈「……」

果南「悪いけどこの世界から"消え去って"もらうよ」

828: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:45:01 ID:???00
動き出す思惑と暗躍する野望。



ランジュ「今回の戦は神代の戦争再現よ! でも勝つのはもちろんこのランジュ!」

ランジュ「『もう一つの始祖』ARISEと私たちは違うわ!」



四季(ラブライブ!はそもそも何のために作られた……? 『大聖別』は……いったい何のために起きている?)

四季(あの大聖杯は……私たちの魂を『補充』しようとしているの……?)



ダイヤ「選抜した精鋭を敵の本拠地に強襲させます」

ダイヤ「敵を叩き、学園廷も守るにはこれしかない」



きな子「は、蓮ノ空が……!」

きな子「蓮ノ空の校舎が空を飛んでるっす!?」



泉「あなたは元々そうなることをわかっていた……違うかな?」

梢「……また現れるのなら、その時は私の手で殺すだけよ」

829: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:46:21 ID:???00

明かされる過去と真実。



沙知「マルガレーテ、あたしはキミにもうその能力は使ってほしくないと思っているよ」

沙知「あたしの最期のお願いだと思ってほしいねぃ」
 


綴理「さやの剣は、とてもきれいだ」

綴理「……出来れば、さやの剣を最後まで見ていたかったな」



夏美「冬毬は本当に捻くれ者ですの……」

夏美「だからこそ! この能力はどんな状況さえひっくり返す、何にでも化けちゃうし負けちゃうカードですの!」



千歌「この技は『大喧嘩』でも使えなかった」

千歌「昔、ウチウラの海を完全にぶっ壊して曜ちゃんに怒られたからさ」



花帆「あたしは……魂魄がほとんど空っぽなんだ……」

かすみ「え……?」



セラス「わたしは『四十七圏外』の三皇の姫」

セラス「この世界を終わらせ新たな黎明を齎すために、学園廷に送り込まれた」



恋「黒澤、高海、葉月……そして今はもう亡き小原、優木、そして大賀美」

千歌「……」

恋「私たちはかつて天賜兵装を持つが故に、その強大な武力が権力となって六大貴族と呼ばれてきました」



摩央「私は、私たちは確かにラブライブ!を手に入れた! 掴んだのよ!」

摩央「なのに何故『そちら側』にいないの!?」

830: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:49:25 ID:???00

宿命の対立。



さやか「憎い、憎い、憎いっ……!」

さやか「何故綴理先輩が消えなければならなかった!? 何故あなたじゃなかったの!?」

さやか「……あなたが消えれば良かったのに!!」



マルガレーテ「別に、いまだアンタに特別な感情を抱いてそうなあの子がいると邪魔なだけよ」

マルガレーテ「アンタを殺すにはね」

泉「ああ嬉しいよ……私だけがあなたを想っていたわけじゃなかったんだね」

泉「私もずっと、あなたを殺したかった」



小鈴「吟子ちゃん!? 私だよ! 徒町だよ!?」

吟子「…………」

姫芽「アタシたちのことが、わからないの……!?」



慈「私は『抑止力』……『世界を守るヒーロー』」

慈「それが、るりちゃんが望んでいた夢のはずだから!」

831: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:51:38 ID:???00

新たなる力と闘い。



ランジュ「帰刃(レスレクシオン)『Eutopia』」


ミア「ボクの『眼』を覗いたな……!?」


善子「無限の剣閃、吸えるもんなら吸い尽くしてみなさい吸血鬼!!」


梨子「これが私の全力全開! ……なんてね!」


エマ「ごめんね、こんな卑怯なやり方で……」


彼方「じゃあ、百年後までごきげんよう~」


可可「神経と認識を操作出来る斬魄刀が、アナタだけのものとは思わないことデス」


メイ「『瞬閧・茜猫神獣戦型"CatChu!"』!!」


恋「私はこの斬魄刀があまり好きではないのです」

恋「……生命を弄ぶ刀みたいでしょう?」

832: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:52:48 ID:???00

すみれ「あんたの『刀剣解放』……なんともデタラメったらデタラメな能力ね」

すみれ「私とあの子以外にはきっと負けないと思うわ……でも残念だけど、ギャラクシーな私が相手なのよ!」



かのん(ごめんねちぃちゃん……私は、ちぃちゃんの剣を継ぐことは出来なかったよ……)

かのん(……でも私は、今ここで負けるわけにはいかないの)

かのん「——始まれ"私の物語"」



花帆「あたしはもう諦めない……可能性がゼロじゃないなら!」

花帆「強く強く、咲かせてみせる!!」



かすみ「届けえええええええ!!!」



梢「結着をつけましょう護廷十三隊……」

梢「私たちの全てに」



せつ菜「さようなら侑さん……」

せつ菜「これが私の、最後の『Just Believe!!!』です!!!」

833: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:54:02 ID:???00



LOVELIBLEACH




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LOTUS REBELLION









歩夢「……ようやく一つになれるね、侑ちゃん」


                  .

834: 名無しで叶える物語◆nOciDdgy★ 2025/11/08(土) 19:58:50 ID:???00
これで終わりです。

しばらくは書き溜めながら別の   な話とか書きたいなと思います。

引用元: 【SS】LOVELIBLEACH スクールソサエティ編