1: 名無しで叶える物語 2022/12/01(木) 20:23:23.41 ID:IgpR6P+O.net
可可「こちら、タン星クク統治区(仮)」

可可「今日はなにもない一日デシタ」

可可「連絡はおわりデス、ばいばいデス」

くるくるくる……



可可「…………ふぅ~。たくさん歩いて疲れたので、そろそろおやすみしマスよ」

可可「明日はスバラシイ日になるといいデスね、グソクムシ♪」ナデナデ

グソクムシ「グムシャー」

3: 名無しで叶える物語 2022/12/01(木) 20:26:27.44 ID:IgpR6P+O.net



宇宙のどこか、とある星。

洞穴で眠る、ひとりと一匹。

お日様のかおりがしたら、ククたちの朝が始まりマス。


可可「んん~~~!!」ノビー

可可「……重いデス」

グソクムシ「zzz…」

可可「グソクムシー。起きてクダサイ~!」

グソクムシ「グゥ…」ペチペチ

可可「触覚でペチペチしてもむだデェス! さ、起きるったら起きるデスよ」


岩壁を手すりにして、むりやり上体を起こしマシタ。それでもグソクムシは、ククの胴体にガッチリとくっついてマス。


可可「そんなにククとハグしていたいのデスね~?」ニヤニヤ

可可「やれやれ、少しだけわがままに付き合ってやるデス」ハグー

グソクムシ「ムシャー…」

4: 名無しで叶える物語 2022/12/01(木) 20:30:18.93 ID:IgpR6P+O.net
穴から這い出たら、天を仰いで大きく深呼吸。

ここまでがククたちのモーニングルーティンというやつデス。


可可「朝は放射冷却でひんやりしマスね~」

グソクムシ「ムシャー」

可可「とはいえ、グズグズしていられマセン」

可可「"雨"が降る前に、やるべきことを済まさなければ! 早く出かけマショウ」

グソクムシ「グム」ノソノソ



可可「デッデッ♪ デデデンッ♪」

可可「早起きっ♪ の日曜日はどうして~♪」

可可「こぉんなに♪ 高鳴るの♪」

グソクムシ「~♪」


坂道トンネル草っ原。陽気に歌ってお散歩デス。

どれだけうるさくても近所迷惑にならないので、思う存分声を上げてやりマス!

さて、2曲目のサビに差しかかったところで、私たちは目的地に到着しマシタ。

そこでククを待ち受けていたのは──。



可可「!?」

可可「す、すみれェ……!」

5: 名無しで叶える物語 2022/12/01(木) 20:34:21.20 ID:IgpR6P+O.net
可可「ない……」ペタペタ

可可「すみれの果実が、千砂都サイズデス……!」

可可「すみれェ……」


あ、ちなみにここでいう"すみれ"は、あのギャラクシーな方とは違うデスよ?



荒野に生えた9つの低木。

きのう見かけた際、これらをLiella!に見立て、メンバーの名前をつけておいたのデス。"9"という数字は絶対数なので、運命を感じずにはいられませんデシタ!

センターはすみれデス。一番ふさわしいと思ったから選びマシタ。

しかし、すみれの果肉がメロンサイズに実ることは、ついにありませんデシタ……。


可可「おっほー! レンレンとシキシキはでかいの果実~♪」モミモミ

可可「──それに比べ、すみれはこの有り様」ペタペタ

可可「はあ……これだから、すみれはすみれなのデス。肝心なところで真価を発揮できないとは……」

グソクムシ「ムシャー!!」カサカサ

可可「ん? どうしてグソクムシが怒っているのデスか?」

グソクムシ「ムシャムシャー!!」カサカサ

6: 名無しで叶える物語 2022/12/01(木) 20:36:59.78 ID:IgpR6P+O.net
可可「はいはい、わかりマシタ。すみれの小さな果実も収穫してあげるデェス」


その場から一歩あとずさり、


可可「……グソクムシ。少し離れててクダサイ」

グソクムシ「…」カサカサ


意識を集中し、頭の〈環〉を回転させマス。





──くるくるくる

7: 名無しで叶える物語 2022/12/01(木) 20:41:04.71 ID:IgpR6P+O.net
環。

それは、土星のようでもあり、ぶかぶかの麦わら帽子のようでもありマス。

薄くて平べったい、いくつかの"クウゲキ"を持った円盤デス。

いつどうやって出現したのかは、よくわかりマセン。デスが、とにかく、ククの頭の周りをくるくるしているのデス。

右回転なのか左回転なのかは、どうか訊かないでクダサイ。とてもデリケートな問題デスので。


可可「すぅー」

可可「はぁー」


脳に酸素を送り、さらに環を加速させマス。

──くるくるくるくるくるくる

勢いそのまま、茎へと近づけ……。

ガリガリガリガリガリガリガリガリ!!

ぽとり。


グソクムシ「ムシャ!」

可可「ナイスキャッチ!」

可可「この調子でみんな収穫デスよー!」

9: 名無しで叶える物語 2022/12/01(木) 20:43:59.36 ID:IgpR6P+O.net
ガリガリガリガリガリガリガリガリ!

ガリガリガリガリガリガリガリガリ!!

ガリガリガリガリガリガリガリガリ!!!


ファンキーなココナッツをあらかた収穫したら、慣れた手つきで選別していきマス。

小さいものは、固いカラを切って食べちゃいマス。おいしくないけど水分補給ができるので、時間対効果は神ってマス!

大きいサイズは、食べる以外にもなにかと使えるので残しておきマス。鈍器に使えば、最高のパフォーマンスを見せてくれるはずデス!


可可「いちごジャムでもあれば、おいしくなりそうなのデスが……」モグモグ

グソクムシ「ムシャー…」モグモグ


ちなみに、ククは勝手にココナッツと呼んでマスが、その実態は知るところにありマセン。形状と硬度からなんとなく想像しただけなのデス。

真夏の申し子が、こんな寒冷地にカチコミするとは思えないので、きっとココナッツではないのデショウ。

この実の名前は、神のみぞ知るというやつデス。あいにく、神のご住所は存じマセンが。

10: 名無しで叶える物語 2022/12/01(木) 20:48:54.64 ID:IgpR6P+O.net



可可「ルンタッタッタ♪」

可可「学校がぁ♪ なければ~♪」

可可「毎日ぃ日曜日ー♪ お散歩日和~♪」

グソクムシ「~♪」


グソクムシについて行き、今度は湖にやって来マシタ。

着いたら早速、クレイジーにココナッツを振り下ろし、氷をくだいておきマス。



白シャツ!
デニム!
パンティ!
ブラトップ!

全部全部、スポポーン!!


可可「グソクムシ! ちゃんと洗濯しておいてクダサイね!」

グソクムシ「ムシャ!」


遮るもののない大自然のど真ん中。

スポポーン(全裸)になったククは、氷点下の湖へ飛び込みマス!


可可「」ブクブクブク

可可「……ぷはあっ!」

可可「はぁ~、毛穴シマルヒキぃ~……」プカプカ

11: 名無しで叶える物語 2022/12/01(木) 20:53:45.28 ID:IgpR6P+O.net
ひんやりタイムを堪能したら、本来の目的へ戻りマス。

寒さのあまり考えることをやめた葦を押しのけ、ズイズイズイ。湖の中央を目指し、スイスイスイ。


可可「この辺りがよさそうデス」


再び、環をくるくると回転させマス。

──くるくるくる

そして環をつかんで、ククの身体ごと回転させマス。すると、必死に抵抗する水すら巻き込み、じょじょに巨大な渦が生まれマシタ。

私を軸に、いきおいはどんどん増しマス。

──くるくるくるくるくるくるくる

平穏な水中世界をおそったハリケーン。アリ地獄さながら、哀れな魚がククのもとへ呑みこまれるのデス。

そんな魚を、一匹一匹しとめていきマス。覚えたい漢字をノートに何十回と書いていくみたいに、リズミカルに。

初めて渦巻き漁をやった時は、吐いて吐いて、半日動けなくなりマシタ。デスが、いまでは三半規管もムキムキなので大丈夫デェス!


可可「オェ、オェ、オェ」

可可「…………今日は大漁デス!」

グソクムシ「グムシャー!」ピョンピョン

12: 名無しで叶える物語 2022/12/01(木) 21:00:09.87 ID:IgpR6P+O.net
パキパキに凍った洗濯物。氷を払えば、速乾デス!

『北海道の外干しは服が凍ってだめになるんすよ』と、いつの日か、きなきなが言っていたのを思い出しマシタ。

しかし、いまは時短が最優先デス! 衣服には申し訳ないデスけど。

着衣したら、お待ちかね、お料理の時間デス!


半分に切ったココナッツのお皿ふたつに、魚やらなにやらを添えて……。

〈なんちゃってカルパッチョ〉の完成デス!


可可「…………」モグモグ

グソクムシ「…………」モグモグ

可可「味がくたばってマス……」

グソクムシ「ムシャー…」

可可「しっかり食べてクダサイね」

可可「次いつ、満足に食べられるかもわかりマセンので」

グソクムシ「ムシャムシャ」

13: 名無しで叶える物語 2022/12/01(木) 21:04:55.53 ID:IgpR6P+O.net



ザァーーーー。


可可「ふぅ……。"雨"が降りだす前に帰れてよかったデス」

グソクムシ「グム」

可可「寒いデスか? ほら、もっと寄ってクダサイ」

グソクムシ「グム…」ノソノソ


ザァーーーー。


可可「"赤の雨"デス……」

可可「この土地では、もう食料は取れマセンね……」

グソクムシ「ムシャー…」

可可「雨があがったら、すぐに移動をはじめマショウ」

グソクムシ「ムシャ」

15: 名無しで叶える物語 2022/12/01(木) 21:08:06.28 ID:IgpR6P+O.net
しばらく待つと、静寂が訪れマシタ。どうやら雨はやんだようデス。

陰気なにおいを残して。


可可「やみマシター!」

可可「グソクムシ、新たな拠点探しに行きマショウ!」

グソクムシ「グムシャー!」





──くるくるくる


可可「!!」


おのずから回りはじめた、ククの環。

……なにかを受信したようデス。

16: 名無しで叶える物語 2022/12/01(木) 21:13:58.49 ID:IgpR6P+O.net
環はククの耳であり、アンテナでもあるのデス。

そのアンテナが、どこかから音を集めてきマシタ。

環をそばだたせ、音に集中しマス。


可可(足音が聴こえる……二足歩行のリズム……)くるくるくる

可可(……"外星人"デス。まあ、向こう視点ではククが外星人なのデスけど)くるくるくる

可可(二体…………いや、三体デス)くるくるくる

可可(音量的に、数kmは離れてると予測できるので、ここまで迫ってこないと思いマスが……)くるくるくる


可可(……歩きながら会話してマス)くるくるくる

可可(言語によるコミュニケーションを取っている……やはり、知能はかなり高いようデス)くるくるくる

可可(……"再生"してみマショウ)くるくるくる

17: 名無しで叶える物語 2022/12/01(木) 21:18:03.02 ID:IgpR6P+O.net
──再生



可可『──……………………。──』

可可『──iaoikwaaamonaakukw。──』

可可『──hwksoaiieiisnwka。──』

可可『──mwymioak……──』

可可『──…ioo……ザッ…a…──』

可可『──ザッザッ……ザッ…ザッ………──』

可可『──ザーーーッ──』

18: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/01(木) 21:24:03.01 ID:IgpR6P+O.net
可可「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……!!」


ドクドクドクドクドクドク──胸が警鐘を鳴らす! 強く、強く!!

心が乱れ、環の回転も揺らいでしまい、音を受信できなくなりマシタ。


外星人の群れは、知らない言語を扱い、なにかしらの目的を持って行動している……。

生態も、容姿も、文化も、思考回路も、なにもかもわからない……。

怖い……。

怖い、怖い……!



私が思うに、ホラー映画に出てくる怪物は、正体のわからぬほうが恐ろしいはずデス。スティーブン・キ○グ作品は別デスが。

"わからない"という状態は、悪い想像ばかり膨らませ、恐怖をかき立てるものなのデス。まさに、いまのククのように。

この星のどこかにいる、外星人たち……。

知らない、わからない、理解できない…………。

未知が、こんなにも恐ろしい……!


可可「…………グソクムシ、怖いのデスか……?」

可可「だ、大丈夫デスよ、ククがそばにいマス!」

可可「大丈夫……大丈夫、大丈夫…………」ギュー

グソクムシ「……」ムギュ

19: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/01(木) 21:31:05.17 ID:IgpR6P+O.net
結局、その日、ククたちが出かけることはありませんデシタ。

外星人は圏外に出たのか、音を受信しなくなりマシタ。

穴の外から、夜の優しい音色が聴こえてきマス。


可可「……グソクムシ」

グソクムシ「ムシャ?」

可可「いまごろ、空の暗幕には、満天の星々が輝いているのデショウか?」

グソクムシ「…」


真っ暗な洞穴の中、肩を寄せ合う、グソクムシと私。

空を仰いだって、そこにあるのは闇ばかり。夜空なんてどこにも見えマセン。

数億光年先の恒星も、宇宙船も、人工惑星も。手を伸ばしたって届きやしないのデス。


ギャラクシーというのは、ククたちの想像もつかないほどに広大デス。いまや、宇宙のどこにでも行けちゃう時代デス。

そんなオープンワールドで、ククはひとり、はぐれてしまいマシタ……。

……かのんたちはいま、どこでなにをしているのデショウか。


グソクムシ「…」ヨシヨシ

可可「ん……。グソクムシはやさしいデスね」

グソクムシ「…グムシャー」


グソクムシの触覚から伝わってくる温もり。触れた箇所から溶けてしまいそうデス。

なすがままにあやされ、ゆっくりと、眠りに落ちていきマシタ。

20: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/01(木) 21:33:40.07 ID:IgpR6P+O.net
………………………。
………………………。


可可『すみれ。"土星論"はなにデスか?』

すみれ『……ギャラクシーチックでかっこいいわね、それ』

すみれ『違う違う、私は"ド正論"って言ったのよ』

可可『なにをぬかしやがりマスか。ククはいつも、正しいことを言っているだけデス』

すみれ『ほら、そーゆーとこ!』


夏美『すみれ先輩とクゥクゥ先輩、相変わらずの仲良しさんですの~』

クゥすみ『どこが(デスか)!?』

四季『──シンクロ率120%、もう偶然では片付けられない』

メイ『すげえな!? もはや夫婦だろこのふたり』

すみれ『こら、後輩! 冷やかさないの』

可可『…………すみれと、夫婦……』

すみれ『ん? どうかした?』

可可『な、なんでもないデス!』

21: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/01(木) 21:39:57.77 ID:IgpR6P+O.net
かのん『遅くなってごめーん!』

可可『あ、来マシタ!』

恋『部室の外まで声が届いていましたが……なにかありましたか?』

きな子『どうせいつもの痴話喧嘩っすよ』

すみれ『きーなー子ー! あんた最近、口の利き方がなってないわねぇ……?』

きな子『ひ、ひはいっふ~!』

可可『きなきなを離すデス!』

夏美『三角関係……! これはいい映画が撮れそうですの~!』

四季『照明は任せて』

恋『みなさん、楽しそうでなによりです』

メイ『どこがだよ!』

かのん『あはは……今日もにぎやかだね』


千砂都『……みんな、なにやってるのかなぁ?』

22: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/01(木) 21:44:09.98 ID:IgpR6P+O.net
可可『千砂都、聞いてクダサイ! 全部すみれが悪いのデス!』

すみれ『なんでよ! 元はといえば、アンタがねぇ……!』

千砂都『…………』

かのん『ち、ちぃちゃん……?』


千砂都『もうー! 大事な話があるのに、シリアスな雰囲気ぶち壊しだYOー!』

8人『!』

かのん『大事な、話……』


一瞬で、空気が変わりマシタ。

恐らくこの時、ここにいる全員が、千砂都の言おうとしていることを察したはずデス。


千砂都『あのね、実は──』



これは、夢デス……。かつての記憶…………。

──夢寐にも忘れない思い出。


………………………。
………………………。

23: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/01(木) 21:46:56.84 ID:IgpR6P+O.net
可可「…………」


飛び起きて、必死に手を伸ばして……でもなにもつかめなくて。

空っぽの心は満たされることなく、ただ呆然とするしかありませんデシタ。

熱い露が、ほおを伝いマス。


グソクムシ「グムシャー」ペチペチ

可可「…………グソクムシ」

可可「……涙を拭ってくれているのデスね」ナデナデ

グソクムシ「グムシャー」

可可「ゴメンナサイ……。でも、弱いのククは、これで最後デス」


可可「私はもう、泣かないって決めマシタから……!」

可可「シタタカに生きると、誓いマシタから……!」

可可「"泣き虫クク"は、卒業デス!」

グソクムシ「ムシャー!」

24: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/01(木) 22:02:51.82 ID:IgpR6P+O.net
宇宙のどこか、とある星。

ここは氷に支配され、時々不思議な"雨"が降る、ヘンテコな星デス。

まさに紅蓮地獄。そんな星に落とされたのは、きっと、私への罰なのデショウ。

……しかし、なんだかんだで、ククはこれまで生きてこられマシタ。グソクムシがいっしょにいてくれたからデス。

とてもとても長い旅デシタ。喧嘩もいっぱいしマシタ。でもすぐに仲直りして、抱き合って眠りにつくのデス。

私たちは、いつもいつでもいっしょにいる、一心同体のパートナー。サ○シとピカチ○ウみたいなものデス。

しかし……。

この生活を、いつまで続けることができるのデショウか。


ククは、そう長くは生きられマセン。なんとなくわかるのデス。

ククが死ぬと、グソクムシが悲しんでしまうので、バンガッテ長生きしたいものデスけど……。


いつか迎える、この旅の終着点。それがどこにあるのかは、まだわかりマセン。

でも、もし……。

ひとつだけ、わがままをいってもいいなら……。



──最後に、みんなに会いたい!

Liella!のみんなに……私の仲間に……。


可可「…………すみれ……………………」

25: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/01(木) 22:07:25.35 ID:IgpR6P+O.net
──くるくるくる

『……………………クゥクゥ…………』


可可「!」


『…………会いたいよ……』



それは、環が集めた音デシタ。


可可(だれかが、ククを呼んでマス……!!)

可可(もしかして……すみれ、なのデスか……?)


音の出所はわかりマセン。ただ、この星のどこかにいると、無根拠に確信していマス。

たったひと言、名前を呼ばれただけで! ククの闇の世界に、一筋の希望が見出されマシタ。


可可(朝のにおいデス……)

可可「さ、出発しマショウ、グソクムシ。旅の続きデス!」

グソクムシ「グムシャー!」カサカサ


未知なる道を、ひとりと一匹は突き進みマス。

みんなに会える、未来を信じて。



序章 太陽的大冒険 終

26: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/01(木) 22:10:29.98 ID:IgpR6P+O.net
即死回避用SS

デデデッデッデッデッ デデデッデッデッデッ♪
☆くぅくぅ3分クッキング☆


6cƠᴗƠ∂ 「今日は〈なんちゃってカルパッチョ〉を作りマス」

6cƠᴗƠ∂ 「用意するのはこちらデェス」


〈材料〉
魚:獲れた分
ココナッツオイル:手さじ3杯
エキゾチック塩:少々
でかいの虫:ひと握り
野草:根から葉まで
凍土パウダー:ひとつまみ


6cƠᴗƠ∂ 「材料を混ぜたら…完成デス!」

6cƠᴗƠ∂ 「それでは、いただきますデス!」パク

6cƠᴗƠ∂ 「……パタリ」


味の評価 ★☆☆☆☆

一言メモ 「犬のえさデス」


 終
製作・著作
───
TKK

39: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 22:12:10.35 ID:XCRCCJJP.net
第1章 水星的推論



可可『──デケデケデッデッデー♪ ピローン♪──』

可可『──さあ今日もはじまりました! お昼のクウゲキを埋め……られてるといいなぁ、あはは。──』

可可『──〈スペースラジオ〉のお時間です。──』

可可『──私、ナポリタンモンスターがお送りします。よろくしお願いします!──』

可可『──実はたまに、「このラジオ需要あるのかなぁ……?」とか不安になったりするんだけど……。──』

可可『──ひとりでも聴いてくれる方がいるなら、その人のためにも、がんばって続けていきたいです!──』

可可『──それに、こうやってだれかに向けてお話するだけでも、私は楽しいですから……えへっ。──』

可可『──それでは早速、お便りのほう読んでいきたいと思います。──』

可可『──ペンネーム「哲学的ぞんびぃ」さんからいただきました。いつもありがとうございます!──』

40: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 22:13:59.46 ID:XCRCCJJP.net
可可『──ナポモンさん、こんにちは。いつも楽しく拝聴しております。スペラジは仕事の合間に聴けるので、とても重宝しています。ナポモンさんの歌も声も人柄も、すべてが心地よくて、何度聴いたって飽きがこないのです。

さて、話は変わりますが、わたくしにはずっと気になっていたことがあります。ナポモンさんの名前の由来はなんなのでしょうか? ナポリタン的なモンスターということでしょうか?

ちなみに、わたくしのペンネームといえばですね。日々生きていく中で、つくづく自らが哲学的ゾンビに思えてならないので、この名前にしました。イヌが自らをイヌと名乗るような不可思議さを感じますが(笑)。
(上記の(笑)は、本当に笑っています)

お便り、読んでいただけることを祈っております。──』

41: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 22:16:37.41 ID:XCRCCJJP.net
可可『──んー、名前の由来かぁ。そういえば、まだみんなには話したことなかったね。──』

可可『──ある日、ふと自分の左手を見てみると、「ナポリタン」って書いてあったんです。ナポリタンだよ? ナポリタン!──』

可可『──それはたしかに自分の筆跡なのに、書いた覚えがないんですよ。で、私、すごく恐ろしくなって……。──』

可可『──でも、「これにはきっと意味がある!」って、その時なぜか思って……だから、自分の名前にしました。──』

可可『──モンスターは、なんとなくの語感でつけました。あはは、変かな……?──』

可可『──これが由来です。特に深い意味があるとかじゃないけど、私はこの名前が気に入ってます。──』

可可『──なんだろうなぁ。私がこの名前でいれば、昔の親友とつながってられるような……そんな気分になれるんです。──』

可可『──…………って、ごめんなさい! リスナーさん置いてけぼりにしちゃった!──』

可可『──えーっと……。今日弾くのは、私が大好きなこの曲です。それではお聴きください。──』

可可『──「Stand By Me」──』

くるくるくる……

42: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 22:23:10.21 ID:XCRCCJJP.net



環が聞いた、かすかな声。

だれかが、ククを呼んでいマシタ。

『……………………クゥクゥ…………』
『…………会いたいよ……』

たった二行で、ククの心には光が灯りマシタ。環もきれいな回転を見せるようになったのデス。


あの日から、毎日欠かさず環を回し、アンテナを張っていマス。あの声の主の居所を、逆探知してやるのデス!

声の主──便宜的に「すみれ(仮)」と呼びマショウ。ククはいま、すみれ(仮)を捜している真っ最中デス。

すみれ(仮)は、この星のどこかにいるはず。しかし、あてもなく捜すわけにもいきマセン。

なので、環から得られる情報を頼りに、一歩ずつ近づいてるところデス。

……正直なところ、あれが本当にすみれなのかは、判別つきマセン。あくまで推測の域を出ないのデス。

でも、淡い希望にすがるのは、悪いことではないと思いマス。望み薄でも、明るい未来を信じたいのデス。


──話は逸れマスが。すみれ(仮)を探索する過程で、スバラシイラジオ番組を発見することができマシタ。

スペースラジオは、ククの環がたまーに受信する番組デス。

スバラシイ声の人がパーソナリティを務め、毎回ギターを弾いて、ステキな歌を届けてくださるのデス!

はあ……! あなたが歌うだけで、ククはうっとり聴きほれてしまいマス……! 一度お会いしたいものデス!

かのナポリタンモンスター様も、この星にいらっしゃるのデショウか……?

ラジオなので、どこか遠い惑星から送信している可能性も考えられマスね。地球か、新天地か。はたまた、三体問題に頭をかかえる惑星からか。

43: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 22:28:25.31 ID:XCRCCJJP.net



ククとグソクムシの大冒険は、ひたすら、東へ向けて進んできマシタ。すみれ(仮)の声を聞くより前から、ずっと。

念能力で予言されたわけではありマセンが、直感的に、東に行くべきだと思うのデス。いずれ、グ○ードアイランドにたどり着くかもしれないデスね!

東の方角は、お日様が昇る向きで確認していマス。……はたして、この星において、恒星の位置が方角の指標になるのかは知りマセンが。


とりあえずの針路を持っておかないと、あっという間に迷ってしまうのデス。

迷子は、物理的なものではなく、精神的問題なのデス。

44: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 22:35:27.18 ID:XCRCCJJP.net
可可「…………」

可可「なんデショウ、この音は?」

グソクムシ「ムシャー?」


グソクムシに聞こえていないなら、これは環が聞いた音デスね。

オノマトペで表現するなら、ブロブロブロ、という感じデス。まさか、エンジン音……?

だれかが……いる……?


可可(外星人か……)

可可(あるいは、この星の文明人か)


二通りの可能性がよぎりマシタ。しかし、どちらも考えにくいデス。

外星人の乗り物は、よく飼い慣らされた犬みたいに静かデスし……。文明に関しては、この寒冷地で栄えるとは思えないデス。

外星人が、この星の住人であるなら……いえ、それこそありえない話デス。やつらのテクノロジーは、明らかに大気圏外から飛来したものデスから。

もしククが、車や乗り物のたぐいに詳しければ、音の正体がなんなのか気づけたかもしれマセン……。いえ、仮定の話をしても仕方ないデスね。


可可(もしかしたら、ブロブロブロと鳴くタイプの動物かもしれマセン)

可可(……敵対しない限りは、気にしなくてもよさそうデスね)

45: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 22:41:13.80 ID:XCRCCJJP.net



ザァーーーー。


可可「……」グー

グソクムシ「グー…」

可可「……グソクムシ」

グソクムシ「…ムシャ?」

可可「ククたち、かれこれ何日、ごはん食べてないデスか」

グソクムシ「…グムシャー」

可可「そうデスか……」


いまのククたちは、すみれ(仮)を捜すどころではないデス。定期的に訪れる飢餓におちいってマス。ピンチデス。

外では、大つぶの"雨"が降り注いでいマス。


可可「…………」

グソクムシ「ム、ムシャ…?」

可可「おいしそうな肉デェス……うへへ……」

グソクムシ「ムシャー!?」ペチペチ

可可「痛いデス! 冗談デスよ!」

グソクムシ「ムー…ムー…」


ザァーーーー。


可可「……おなかすきマシタ、くたばりそうデス」

グソクムシ「グム…」

46: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 22:50:11.23 ID:XCRCCJJP.net
──くるくるくる

可可「こちら、タン星クク統治区(仮)」

可可「今日は空腹デシタ」

可可「アリェ? 昨日も同じような報告だった気がしマス」

可可「きっと、明日も空腹デショウ」

可可「……ばいばいデス」

くるくるくる……


ククの環は、受信専門なので、送信などできマセン。

それでもこうやって、だれに届くわけでもない交信を試みてしまうのは、せめて文化的でありたいと願うからデショウか。


可可「おなかがすいたら寝るに限りマス」

可可「まだ早いデスが、おやすみデス」

グソクムシ「ムシャー」ノソノソ


その辺に生えていた枯草を、穴ぐら一面にまいて作った、敷布団。

この草布団は、QOL(生活の質)を向上させたい文化的人間の、むなしい努力のたまものデス。

不健康で非文化的な最低最悪の生活でも、おなかがすいて倒れそうでも、多少は人間らしくありたいのデス! 

……なにか文句ありマスか? むだなことして悪いデスか!? コンチキショー!!

47: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 22:57:32.73 ID:XCRCCJJP.net
………………………。
………………………。


千砂都『はい、あと3周! もう少しだよー!』


可可『へぇ、へぇ…………まだ、3周もあるデスか……!』

かのん『クゥクゥちゃん! がんばって!』

可可『あぇ…………かのんは、余裕そう……デスね……』

かのん『いやいや、私だってかなりキツいよ?』

かのん『ほら、私、昔は合唱部で、運動とかあんまりだったし』

可可『……は、走りながら……あぇ……それだけ、しゃべれるなら…………すごいデス……』

かのん『クゥクゥちゃんもすごいよ。スクールアイドルはじめたころより、体力ついてきてるんじゃない?』

かのん『ほら、いまもこうやって、私と同じペースで走れてるじゃん!』

可可『かのん……!』


実は、かのんはもっと早く走れるのに、のろのろなククのペースに合わせてくれていマシタ。

48: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 23:03:05.86 ID:XCRCCJJP.net
『おっさきー!』

可可『あぇ…………ぬわっ!?』

かのん『あ、すみれちゃん!』


すみれ『ずえっ……うぐっ…………』

すみれ『早く走りすぎてぇ…………周回差、つけちゃったわねぇ……!』

かのん『す、すみれちゃん! 顔色が……』

すみれ『大丈夫ったら大丈夫……よ!』

すみれ『それにしても、あんたたちぃ……はあ……ちんたら走ってるわねぇ…………』

可可『な、なにをー!』

かのん『クゥクゥちゃん!?』

すみれ『それじゃ、私は……先に行ってるわ……!』

可可『……待つデス!』

すみれ『なによ……周回遅れのクゥクゥ?』

可可『!! 二つ名みたいに……言うなデス……!』

可可『…………この、グソクムシ!』

すみれ『だぁれが……グソ……クムシぃ……!』

可可『グソクムシぃ……より……ククのほうが………早い……デス……!』

すみれ『……望む、ところよ!』

かのん『望んじゃだめだよ!? すみれちゃん、クゥクゥちゃーん!!』

49: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 23:09:07.91 ID:XCRCCJJP.net
千砂都『──それで急にペースあげて、ふたりともバテちゃった、と』

かのん『あはは……。止める前に、飛び出しちゃって……』


すみれ『はあ……はあ…………わたしの……かちぃ…………』

可可『おぇ、おぇ……目がくるくる……はあ……きもちわるい……はあ…………』

千砂都『呼吸はゆっくりと、ね。苦しいけど、すぐに落ち着いてくるから』

可可『はい……デス……おぇ……』

かのん『すみれちゃん……。まさか、クゥクゥちゃんをあおるためだけに、ハイペースで走ってたのかな……』

千砂都『仲良しなのはいいけどさぁ……』

すみれ『あああ……立てない……はあ……』

可可『心臓……ばくはつ……しマス……』

かのん『だ、大丈夫かなぁ、私たち3人……』

千砂都『…………』


これは、千砂都が加入する前の話……。

──夢寐にも忘れない思い出。


………………………。
………………………。

50: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 23:16:09.04 ID:XCRCCJJP.net
可可(……また、懐かしい夢デス)


ククはいまも、周回遅れなのかもしれマセンね。

息も切れ切れ、ふらつきながら、なんとか歩いている状態デス。

『この世界はね、おっきい丸なんだよ!』
『まんまるだから、どこまでいっても、ひとつにつながってるの!』

千砂都が、こんな感じのことを言っていたような気がしマス。

どこまでいっても、つながってる……。

それなら、ククが進み続けていれば……周回遅れでも、いつかみんなに追いつけマスよね。

迷わず歩き続ければ、ククを呼ぶその人にも会えるはずデスよね!


可可「……」グー


デスが、その前に、まずは腹ごしらえデスね。腹が減ってはなんとやら。

人探しは、ディナーのあとデス。


可可「グソクムシ! 起きてクダサイ~!」

グソクムシ「ムシャー…」

可可「……一狩り、いきマスよ!」

51: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 23:21:23.80 ID:XCRCCJJP.net



草がしげる荒蕪地に、不自然に生えた木が、一本。

りんごのような果実をぶら下げる、この木はなんと、ククが植えたものなのデェス!

いつかの飢えにそなえて、果実のたねを、ずっと大切に取っておきマシタ! そなえあればうれしーデス!


たねを植えたのが、数日前のこと。ずっと"雨"が降るのを待っていたのデス。

そして、昨日。

念願かなってようやく、"青の雨"が降りマシター!

急成長した木が、立派な根を張り、誇らしげに屹立しているのデス!


グソクムシ「グムシャー!」カサカサ


幾日ぶりのごちそうを前に、グソクムシのテンションもぶち上がってマス。


可可「おっと、グソクムシくん! そこで止まるデェス!」

グソクムシ「ムシャ!?」

52: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 23:24:13.54 ID:XCRCCJJP.net
可可「ここで欲に負け、りんごをむさぼってしまえば、それまで……。アダムとイブに成り下がってしまいマス」

グソクムシ「グム…?」

可可「ククたちにはすでに、知恵がありマス! ここはクレバーにいきマショウ!」

グソクムシ「ムシャ! ムシャ!」

可可「気持ちはわかりマス。ククだってケモノみたいにかじりつきたいデス! いますぐ空腹を満たしたいデスよ!」

可可「でも、これっぽっちのりんごで、満足していいのデスか……?」

可可「どうせなら、でかいの肉……狙いマセンか!?」

グソクムシ「!!」


可可「りんごをえさに、おろかなケモノを狩りマス」

可可「おそらく、実際に狩れるのは明日以降となるデショウが……それまで我慢できマスか?」

グソクムシ「グム…グム……」

グソクムシ「…ムシャー!!」

可可「その意気デス!」


本当は、上のほうになった実は食べても問題ないデスが……。ここは、ハングリーにいきマショウ!

期間は──"赤の雨"が降るまで、デス。

53: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 23:27:30.29 ID:XCRCCJJP.net
数時間後。


可可「できマシター!」

可可「陥穽(おとしあな)の完成デス~!」

グソクムシ「グム-!」


罠はちょうど、りんごの下あたりに仕掛けマシタ。食べようとして近づいたら、穴に落っこちる……という算段デス。

落ちていたフンの大きさから鑑みるに、この一帯には、体長1m弱のケモノがいると予想していマス。

落とし穴もそれくらいのサイズにしてあるので、規格外がハマることはないデショウ。


一応、鳥に食われる可能性も考慮し、対策は打っておきマシタ。ココナッツオイルを枝にぬりつけ、滑るようにしてありマス。

あわよくば、つるんと滑って、落とし穴にハマってくれれば、出てこられないはずデス。

『鳥ってね、真上には飛べないんだよ』と、いつだったか、かのんが言っていマシタ。

たしかに、ヘリコプターのように飛ぶ鳥は見たことありマセン。……でも、ありぇ? ク○ク先生は、垂直上昇していたような……。

かのんとモ○ハン、どちらが正しいのデスか!?

54: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 23:30:05.21 ID:XCRCCJJP.net



可可「……」グー

グソクムシ「グー…」

可可「……幸いなことに、水筒にはまだたくさん、水がありマス」

可可「獲物が罠にかかるまでは……のどを潤し、耐えしのびマショウ」

グソクムシ「ムシャ…」

可可「狩りが成功したら、うたげデス! 酒池肉林を喰らいつくしてやりマショウ!」

グソクムシ「ムシャー!」


草布団に寝ころがると、すぐにグソクムシが覆いかぶさってきマス。

グソクムシは、私の胴体とぴったり同じサイズなので、かけ布団の代わりになってくれているのデス。

……当然、重いデスよ? だけど長い付き合いデスから、すっかり慣れマシタ。

いまでは、圧迫祭りがないと眠れマセン。

幼少期はぬいぐるみがないと眠れず、留学してしばらくは左に壁がないと眠れず、いまは圧迫感がないと眠れず……。いやはや、ククの成長を感じられマスね。

55: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 23:31:49.93 ID:XCRCCJJP.net
とはいえ、圧迫されていようがなかろうが、眠れない時は眠れないものデス。


ククの頭を、不安が駆けめぐっていマス。

それは、狩りの成否や、すみれ(仮)の探索、言語化できない漠然としたものなど、さまざまデシタ。

とても複雑な対流に、心が振り回されてマス。

目はパッチリと冴えていマシタ。


可可「……グソクムシ」

グソクムシ「ムシャ…」

可可「……眠れないのデスか?」

可可「やれやれ、仕方ありマセン。ククがお話を読んであげマス!」

グソクムシ「グム…」

可可「んー……今日はなんの話をしマショウ?」


『ギャラクシスターSumire ~2nd season~』は、スミレがモテすぎなので、打ち切りにしたんデスよね。

そうなると、『さよなら三角vsまた来て四角vsチサト』のスピンオフか……。

それとも、『徒恋草』の新エピソードか…………。

56: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 23:33:03.66 ID:XCRCCJJP.net
可可「────!」

可可「いま、天啓が降りてきマシタ! アイデアが爆発的にあふれて、宇宙創生デス!」

グソクムシ「ムシャー…?」

可可「久々の新連載デスよ! タイトルは……」



可可「──『お歴々と100人の私』」

57: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 23:38:20.44 ID:XCRCCJJP.net
『お歴々と100人の私』 第1話

とある研究所。
お歴々は、巨大なガラスごしに実験室を見下ろし、"1人目"の誕生を心待ちにしていた。
ランプが赤から青に変わり、カプセルを満たしていた緑の溶液が流れだす。
円筒の容器が開くと、1人目である、彼女の生がはじまる──はずだった。
そこにあったのは、溶液に混ざった赤黒いかたまり。
浮力を失ったその身体は、自重に耐えられず、つぶれてしまったのだ。

「ああ、失敗か」
「まあまだ1人目だからな。想定内だ」
「失敗は成功の準備運動、この経験を次に活かそう」

お歴々の頭脳は、すでに次の実験へと移っていた。
実験室では、すでに宇宙服を着た清掃員が、彼女の死体を片づけていた。
ゴミ袋に入れられた彼女は、なにも見ることはなかった。
彼女は死んだ。自分の名前が、"ひぃ"であることすら知らず。

58: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 23:41:18.53 ID:XCRCCJJP.net
可可「……第1話、おわりデス」

グソクムシ「……グシャ?」

可可「ま、まだ1話目デス。これから面白くなっていきマスから!」

グソクムシ「ムシャー…」

可可「1話ずつを毎夜、語っていきマス。最終話が100人目なので、100日でおわりデス」


千夜一夜ならぬ、百夜物語デス。100日後どころか、初日から死ぬ話デス。


可可「ふわぁ……。今度は眠くなってきマシタ……」

グソクムシ「グム…」

可可「……明日はおなかいっぱい食べられるといいデスね」

可可「おやすみ、グソクムシ」ナデナデ

グソクムシ「グムシャー」

59: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 23:49:17.96 ID:XCRCCJJP.net
………………………。
………………………。


すみれ『──行ったわね』

可可『はい……』

可可『…………ふぅ~、緊張しマシタぁ……』


白煙は青い空へ、まっすぐ伸びていマス。

この日、Sunny Passionのおふたりは、東京射場から宇宙へと旅立ったのデス。


すみれ『無事に打ち上がって、よかったわ……!』

可可『はいデス! 本当によかった…………』

可可『……って、いつまで握っているつもりデスか!』

すみれ『なっ……!』


ばつが悪そうに、すみれはククの手を離しマシタ。

すみれはずっと、握ってくれていたのデス。

……不安で震えていた、ククの右手を。ククを安心させるために、ぎゅっと。

そんなすみれのやさしさを、私はつっけんどんに突き放してしまいマシタ。

後悔した時には、もう手遅れ。一度離れてしまった手と手、再びつながることはありませんデシタ。

60: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 23:55:40.14 ID:XCRCCJJP.net
スペースシャトルは、群青の彼方へ。

見物のために集まっていた人々は、ぞろぞろと、港から去っていきマス。


すみれ『私たちも帰りましょう』

可可『そうデスね……』

可可『…………ん?』


打ち上げを見に来ていた人は、実にさまざまデシタ。

ククたちのように、無事を祈って見守る者。

人類の未来に期待を寄せ、歓喜する者。

どこか諦念に似た感情をかもしだす者。

そして……一瞬、ちらりと目に入ってしまいマシタ。

サニパをブジョクする、横断幕や看板を。


可可『……みんながみんな、宇宙行きを祝福しているわけではないのデスね』

すみれ『そりゃそうよ……。こればっかりは仕方ないわ』

すみれ『みんな、必死なのよ』

61: 名無しで叶える物語 2022/12/02(金) 23:59:55.51 ID:XCRCCJJP.net
自転車にまたがり、すみれと連れ立って走りマス。


すみれ『ねえ、クゥクゥは最後の晩餐、なにが食べたい?』

可可『……不謹慎デスよ』

すみれ『いいじゃない、私たちの仲なんだから』

可可『……では、ナポリタンが食べたいデス』

可可『冷凍の』

すみれ『ギャラ!? 最後なんだから奮発しなさいったらしなさいよ!』


ここで「すみれの手作りが食べたいデス!」……なんて言えたら、ククもかわいくなれるんデショウね。


さくらが、ひらひらと舞い落ちていマス。

来年も咲けるものだと、信じきっているようデス。だから、こんなにもたやすく、きれいな花を散らせてしまえるんデスね。


すみれ『あーーー! ほんっと理不尽よね、世の中!』

可可『Liella!も、ラブライブで優勝すれば……もしかしたら……』

すみれ『……そうね。その前に、隕石が落ちてこなきゃいいんだけど』


ククたちは、必死にペダルを漕ぎマシタ。

どれだけスピードを上げても、迫りくる未来から、逃げられるわけないのに。

"モノリス"が降ってきた、あの時から、すべての運命は決定づけられているのに。


──夢寐にも忘れない思い出。


………………………。
………………………。

68: 名無しで叶える物語 2022/12/04(日) 01:53:59.44 ID:B82mEJLs.net



翌日。

獲物が罠にかかるまで、穴ぐらに伏せ、ひたすら待ちマス。

朝からずっと同じ体勢を続けているので、だんだん身体が痛くなってきマシタ。


グソクムシ「…」ペチペチ

可可「……静かに。気配を消してクダサイ」

グソクムシ「シャー…」


環を回し、周囲の雑音に集中しマス。

──くるくるくる


可可(……むっ、音が近いデス)

可可(四足歩行……ひづめが土にめり込む音……)

可可(これは、もしや…………)

可可(一歩、また一歩……)

可可(警戒しているようデスが、足はまっすぐりんごへと向かっていマス……)

可可(あと、少し…………もうちょっとデス……)



グソクムシ「ムシャー!!」

可可「きたデス! 落ちマシタ!!」

可可「獲物ゲットデスよー!」

69: 名無しで叶える物語 2022/12/04(日) 01:55:04.82 ID:B82mEJLs.net
でかいの肉……いえ、でかいのケモノが落とし穴にハマりマシタ!

ここまで見事、ククの作戦通りに事が運んでいマス! 自分で自分をほめてあげたいところデス。

ただ、問題は──。


可可「……穴に落としたあとのこと、考えてなかったデス」

可可「うっかり!」

グソクムシ「グシャ…」


大きな木の下に掘られた穴から、ケモノのうめきが鳴り響いていマス。

それはもう暴れに暴れ、どったんばったん大騒ぎデシタ。


可可「がけ上からハメ攻撃したくても、長柄の武器がありマセンね……」

可可「ケモノが力尽きるまで待っていては、ククたちのほうが先にくたばってしまいマスし……」

グソクムシ「ムシャー…」

可可「……ここは、ククが行くしかないデス!」

可可「ケモノ、覚悟デス!!」ピョン

70: 名無しで叶える物語 2022/12/04(日) 01:56:09.95 ID:B82mEJLs.net
可可「あいやー!?」


穴に飛び込んだククのおなかに、グサリ。ケモノの角が刺さりマシタ!

これ、鹿! 鹿デス!

もしかしたらトナカイかもしれマセンが、正直どっちでもいいデス! 肉は肉!


暴れ鹿に抱きついて、背中にライドできマシタ!

角を押さえつけ、首筋に狙いを定めマス。


──くるくるくる


可可「もっとデス! もっと速く……!」


──くるくるくるくるくるくるくる


ククの全力ヘッドバッド!

高速回転する環の刃を、勢いよく叩きつけマス!

71: 名無しで叶える物語 2022/12/04(日) 01:58:54.23 ID:B82mEJLs.net
ギギギギギギギギギギギギギギ!!

鹿のゴワゴワ毛に、刃をいなされてしまいマシタ。寒冷地仕様になっているのか、体毛には多層の空洞を含んでいるようデス。


鹿「シカ---!!」

可可「暴れるな……デス!」


毛がジャマで、皮膚まで環が通りマセン。

だったら……!


可可「もっともっと、回ってクダサイ……!!」


──くるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくる

ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ!!


可可「こうやって回転を押しつけていれば、摩擦熱が生まれマス」

可可「毛がゴワゴワでジャマなら、焼きはらってやるデス!!」


格闘すること、数分。

とつぜん、頭がカクンと前に倒れると、吹き出した鮮血がククの顔をぬらしたのデス。

環はくるくる回り、首をえぐり続け、一匹のケモノに死をもたらそうとしていマス。

ほとばしる血の噴水は、死に瀕した鹿の、必死の抵抗に思えマシタ。

……これが、狩りデス。

72: 名無しで叶える物語 2022/12/04(日) 01:59:59.83 ID:B82mEJLs.net
鹿「シ…カァァァ!!」ブンッ

可可「うっ!?」


鹿はステップ踏んで身体を跳ね上げ、背中にいるククを壁にぶつけマシタ。

一瞬、意識を失い、環が止まってしまいマシタ。角をつかんでいた手も離れていマス。

いまが好機と、鹿はククを踏み台にして、穴から逃げてしまいマシタ。

穴の底に残ったのは、顔面血まみれの私だけ。きっとSIR○Nみたいに目から血を流しているのデショウ。


グソクムシ「グムシャー!」フリフリ

可可「! グソクムシぃ……!」


穴の上で、グソクムシがおしりをふりふりしていマス。

きっと「私につかまって、穴から出て、鹿を追いかけて!」と言いたいのデショウ。

73: 名無しで叶える物語 2022/12/04(日) 02:00:52.87 ID:B82mEJLs.net
グソクムシの手を借り、土だらけになりながらも、穴から出ることができマシタ。

しかしすでに、鹿は逃亡したあと。

ククは目が見えないので、鹿がどこに行ったのかなんてわかりマセン。鼻も効きマセン。顔についた血のにおいが強すぎるのデス。

頼れるのは、環の耳だけ。

──くるくるくる


可可(不規則な足音に、切れ切れのあえぎ声……)

可可(かなり弱っているようデス……! まだそんなに遠くへは行ってないはず……!)


グソクムシ「グムシャー!」

可可「そっちにいるんデスね! 追いマショウ!」

グソクムシ「ムシャー!」カサカサ

74: 名無しで叶える物語 2022/12/04(日) 02:02:47.82 ID:B82mEJLs.net
鹿は、遠くないどころか、すぐ近くにいマシタ。


鹿「シ……シカ…」フラフラ

可可「…………」


世のカップルがそうするように。ククは鹿の背後から、やさしくハグしマシタ。

環を回し、そのたくましい命に終止符を打ちマス。

できるだけ苦しまぬよう、一思いに。


可可「はあ、はあ、はあ…………」

グソクムシ「……」カサカサ

可可「……グソクムシ」


可可「数日ぶりの、ごちそうデスよ!」

グソクムシ「ムシャー!!」

75: 名無しで叶える物語 2022/12/04(日) 02:05:11.82 ID:B82mEJLs.net



鹿を焼くため、環をくるくるして火をおこしマス。環はほんとに便利でいつも助かってマス。

さて、今日いただくのは〈鹿の直焼き〉デス!

火の上に鹿を立たせ、おなかを重点的に焼いていきマス。名づけて"ファラリス焼き"デス! ……あ、中にだれもいマセンよ?

今度はひっくり返し、背中をファイヤーデス。脚を持って、ぶら下げる形で火を通しマス。

ひもやロープがあれば、もっと楽にぶらぶらできるのデスが……。あいにく、持ち合わせていマセン。

私の服をやぶれば作るには作れマス。しかし、この服は大切なものなのデス。よほどの事態でないかぎりは消費したりしマセン。


可可「……それでは、いただきマス!」

グソクムシ「グムシャー!」

可可「…………」ガブガブ

グソクムシ「……」ハムハム

可可「…………おいしいデスぅ……!」

グソクムシ「ムシャー…!」

可可「ヒンナヒンナ……」モグモグ

77: 名無しで叶える物語 2022/12/05(月) 01:36:13.92 ID:H3zDBM8s.net
たらふく食べて、大大大満足したククたち!

これ以上むだな体力を使わぬよう、穴ぐらに戻り、余韻にひたりながらおやすみタイムデス。

草食獣を狩って、肉をむさぼり、横になる……。なんだか、ライオンにでもなった気分デシタ。

昔見たサバンナが舞台のアニマル映画みたいに、あーすべんにゃーしてしまいそうデス。

ラフ○キに見つかったら、崖の上でかかげられるかもしれマセン!


グソクムシ「ムシャー」カサカサ

可可「んっ……」


グソクムシがククに乗っかりマシタ。圧迫祭りデス。

重みを抱きしめながら、まどろみに落ちていきマス。


可可「グソクムシ。またお話を読んであげマス」

可可「今日語るのは、わくわくを予感させる2話目デスよ」

グソクムシ「ムシャー…」

78: 名無しで叶える物語 2022/12/05(月) 01:37:24.06 ID:H3zDBM8s.net
『お歴々と100人の私』 第2話

とある研究所。
荘厳なるお歴々の見下ろす中、"2人目"が誕生しようとしていた。
前回の失敗を受け、"2人目"には改良がほどこされている。自重に耐えうるよう、筋肉を増量したのだ。
ブザーとともに、溶液のカサが減り、じょじょに彼女の身体が現れはじめる。
容器が開き、ついに、生が始動した。そしてまばたきせぬ間に死んだ。
赤く染まる水たまり。変形した"それ"が横たわる。
青黒く変色した皮膚。彼女は大気圧に押しつぶされたのだ。

「ああ、また失敗か」
「いつになれば完成を見られるんだ」
「我々はまだスタートラインに立ったばかり。気長にいこう」

彼女は死の間際、なにも見ることはなかった。
彼女の名前は、"ふぅ"。その名はだれに呼ばれることもなかった。

79: 名無しで叶える物語 2022/12/05(月) 01:39:04.71 ID:H3zDBM8s.net
……………………。
……………………。


頭がクラクラ、しマス……。

意識もうろうで、視界はぼんやり……。

鈍った思考は気休めの安心感を求め、こうして宇宙船外層まで逃げてきたのデス。

重力を感じながら、壁を背にして座り込みマス。なにかに触れているだけで、気持ちが幾分か、楽になりマシタ。


すみれ『────クゥクゥ!』

可可『!! すみれぇ……!』


ククを見つけると、すみれは胸を撫で下ろしたようで、いつものやわらかい笑顔を見せマス。

そして、こちらに駆け寄ろうとして、派手にずっこけマシタ。

いきなり走ろうとするからデス。この区域は遠心力によって、人工重力が発生しているというのに。

ふらふら揺れながらも、すみれは私のもとへ、シャニムニ歩み寄ってくれマス。


私の、いとしい人。

……なんて、口が裂けても言えマセンが。

80: 名無しで叶える物語 2022/12/05(月) 01:40:24.73 ID:H3zDBM8s.net
クク『……すみれ、どうしてここへ?』


返事はわかっていマス。「あんたが心配で探してたのよ!」


すみれ『はあ、はあ……あんたが、急にいなくなるから……心配で探してたのよ……!』

可可『すみれ……』

すみれ『……ちょっと、大丈夫!? すごくしんどそうだし、汗すごいし……』

すみれ『あっつ! あんた熱あるじゃない!! なんでこんなところにいるのよ、早く医務室へ──』

可可『すみれぇ……まって……』

すみれ『……で、でも! もしかしたら、宇宙熱かもしれないでしょ!? あんたになにかあったら、私──』

可可『…………こえが、きこえるんデス……』

すみれ『え、声……? ……………………』

すみれ『なにも聞こえないわよ……?』

可可『あたまのなか……ひびいて…………ちゅうこく、してるんデス……』

可可『ん……すみれぇ…………おねがいデス。……だれにも、いわないでクダサイ』

可可『ククなら……だいじょうぶ、デスから……』

すみれ『……』

81: 名無しで叶える物語 2022/12/05(月) 01:42:12.33 ID:H3zDBM8s.net
すみれ『……わかったわ』

可可『すみれぇ……』

すみれ『ただし、ムリはしないこと。もし危なそうだと思ったらすぐに船員さん呼ぶから! いい?』

可可『……謝謝』


すみれは着ていた白シャツを脱ぎだし、その豊満なバストをあらわにしマス。


すみれ『ほら、これ着てなさい。身体冷やさないようにしないと』

可可『……ありがとうデス』

すみれ『ちょっ! ……な、なんか恥ずかしいから、くんくんしないで!』

可可『あっ……すみマセン』


すみれがとなりに座り、右手の小指を出しマシタ。ククはそれを、左手の小指で結びマス。


すみれ『クゥクゥ……大丈夫ったら大丈夫よ』

すみれ『私が絶対に、まもるから……!』


──夢寐にも忘れない思い出。


………………………。
………………………。

82: 名無しで叶える物語 2022/12/05(月) 01:44:36.89 ID:H3zDBM8s.net
可可「……おはようデス、グソクムシ」

グソクムシ「…」ギュー

可可「グソクムシ……?」


グソクムシは14ある脚で、がっちりとククをホールドしていマス。

たゆたう触覚から、動揺が伝わりマシタ。


可可「んふっ、今朝はいつにも増して、ハグが激しいデスね?」ナデナデ

グソクムシ「…」ギュー

可可「グソクムシ……大丈夫デスよ」

可可「ククが絶対に、グソクムシのことをまもりマスから!」

グソクムシ「グシャ…」ギュー


人さし指を眼前に持ってくると、グソクムシが触覚の先を合わせてくるのデス。

指と指でつながるコミュニケーション! 『E.○.』以来の異文化交流デス!

……まあ、あの映画の本編には指を合わせるシーンなんてありマセンが。ひどい広告詐欺デス。


可可「さて、今日からは、すみれ(仮)探しの再開デスー!」

グソクムシ「ムシャー!」

83: 名無しで叶える物語 2022/12/05(月) 01:45:35.01 ID:H3zDBM8s.net



穴から這い出たら、天を仰いで大きく深呼吸。

──しようとしたところ、ある異変に気がつきマシタ。

空のようすが、変デス……。


消極的太陽が、なにかに怯えながら淡い光をもらす。それがこの星の普段デシタ。

デスが、今朝の空からは、いままで感じたことないほどの、強い意志があふれていたのデス。


可可「…………グソクムシ」


天に開いた穴から、一筋の光が差し込んでいマス。

それはまるで、偉大なる知性がもたらした、祝福のように。



可可「逃げ────」


ドゴォォォォォォォォォン!!

84: 名無しで叶える物語 2022/12/05(月) 01:47:35.65 ID:H3zDBM8s.net
耳をつんざく轟音、一拍おいて巻き起こる暴風。

すさまじいインパクトを前に、なすすべなく吹き飛ばされるしかなかった。

数秒、地面から離れ、必死にもがいてもクウを切るばかり。


可可「──へぁっ!!」


なにかに叩きつけられる。それが地面なのか岩壁なのか、判別できないほど混乱していた。

しばらくすると、風が弱まったので、すぐさま体勢を立て直しマス。

『オ○ッセイ』の主人公くらい吹っ飛ばされマシタ……。このままではマット・デ○モンみたいに、惑星にひとり取り残されてしまいマス。まあ、すでに同じような境遇デスが。

……いえ、いまはそんなことより──。


可可「…………グソクムシ……?」

可可「どこデスか、グソクムシ……? 返事してクダサイ!!」

可可「グソクムシ……!」

85: 名無しで叶える物語 2022/12/05(月) 01:48:36.36 ID:H3zDBM8s.net
可可「グソクムシ……グソクムシ……」


落としたメガネを探す要領で手を振りマスが、見つかるはずもありマセン。

──くるくるくる

不安定に回る環で、グソクムシの気配を探りマス。


可可「どこデスか……どこなんデスか…………」

可可「ううっ……いやだ、いやだ…………」

可可「ククを、置いてかないでクダサイ…………」

可可「ひとりにしないでぇ…………」

可可「グソクムシ…………」

可可「ううっ、あぐっ……あああ……ぐすっ…………」

可可「グソクムシぃぃ…………」


カサカサカサ。


グソクムシ「グムシャー!!」カサカサ

可可「!! グソクムシぃ……!」

86: 名無しで叶える物語 2022/12/05(月) 01:50:40.94 ID:H3zDBM8s.net
カサカサと地を這って現れたのは。

ククの闇を照らす、光。


可可「やー! グソクムシー!!」ハグー

グソクムシ「ムシャー!!」ギュー

可可「もう! どこ行ってやがりマシタか!」

可可「この、ばかばか! ……ばーか!」

可可「……もう、私から離れないでクダサイね!」

グソクムシ「グムシャー!」


グソクムシの触覚が、ククの目もとを撫でマス。


可可「……な、泣いてなんかないデス!」

可可「私はもう、泣かないって決めたんデス!」

グソクムシ「グム…グム…」ナデナデ

87: 名無しで叶える物語 2022/12/05(月) 01:52:28.44 ID:H3zDBM8s.net
感動の再会をはたした、ククとグソクムシ。……まあ、別れといっても数分デシタが。

そんなククたちは、さっきの衝撃が発生した地点へと向かうことにしマシタ。

なにが起こったのか、知りたいのデス。

グソクムシのあとについていき、たどり着いたのは……。


可可「……これ、クレーターになってマス」

可可「まさか……隕石…………」

グソクムシ「グ、グムシャー!」


高い熱により気流の吹き上がる、クレーターの中心部。

そこにあったのは、ククがよく見知った機体、"脱出ポッド"デス。この特徴的な周波数は忘れられマセン。

ククがこの星に墜落した時に乗っていたものと、同じ型番デショウか。

88: 名無しで叶える物語 2022/12/05(月) 01:57:39.79 ID:H3zDBM8s.net
──くるくるくる


可可「!!」

可可「だれか、いマス……」

可可「あのポッドの中に、だれか乗ってマスよ……!」

グソクムシ「グム…!」


平穏な日常に、突如として舞い降りた非日常。

鬼が出るか、蛇が出るか。牛鬼蛇神のたぐいが顕現するか。

翼のある使者は、ククたちに、いったいなにをもたらすのデショウ。



──のちに、この出来事が引き金となり、ククたちはあと戻りできない波乱の道を歩むことになるのデスが……。

この時のククにはまだ、知るよしもなかったのデス。



第1章 水星的推論 終

89: 名無しで叶える物語 2022/12/05(月) 01:59:41.79 ID:H3zDBM8s.net
Interlude


──その日、世界は一変した。

広告や映画のキャッチコピーではなく、本当に180°、変わってしまった。

あれからどれだけの月日が経ったのかは、壁に刻んだ「正」の文字が教えてくれる。

正、正、正、正、正、…………。


はて、いったいなにが正しいの? どうすれば私は間違わずにいられたの?

そんなの、知っていたら苦労しない。無知を知るからこそ、よりいっそうつらい。

一日、また一日と、消えることのない傷が増えていく。


凍てついた窓、光の隔絶された車内。

私はひとり、闇にひたる。これでいいはず。

それなのにどうして、希望を探してしまうのだろう? 温もりを求めてしまうのだろう?

……この感傷は、私の弱さだ。


「…………会いたいよ……」


ぽつり。つぶやいたその言葉は、だれよりも生きていた。

けれど、だれにも届きやしない。

決して、だれにも。

95: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/06(火) 00:49:55.63 ID:LD47aUj9.net
第2章 金星的近接



上空からなにかが落ちてくる──。

古今東西、数ある映像作品の導入としては、わりと定番なのかもしれマセン。

「親方、空から○○が!」と言わせておけば、視聴者諸氏には、ここから物語が展開するであろうことは伝わりマスから。いわゆるテンプレートというやつデス。

落ちてくるものは、作品のテーマや売りによってさまざま。

飛行石を持った少女や、重さのない女子高生など、人間の落下率はかなり高めデスね。さえない主人公に力を与えてくれる天使や悪魔のケースも多いデス。

中には、トルネードに巻き込まれたサメが降ってくるパターンもありマス。……ファフロツキーズにしても、かなり珍しい部類デスが。

生物だけではありマセン。デ○ノートやスマホなど、物を落としたことが事件のきっかけになる場合もありマス。

『アル○ゲドン』に代表される、宇宙から飛来物が落ちてくるというはじまり方も、わりと定番なのデェス。


今回の落下物は、どれに該当するデショウか。

少女か、天の使いか、飛来物か。それともサメか。

……サメ映画のことはいったん忘れマショウ。

96: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 00:52:29.94 ID:LD47aUj9.net



現在ククたちは、天から降ってきたポッドを見下ろす形で、クレーター手前に立っていマス。

地面はぼっこりくぼんでいマス。かつてネットでよく見かけた、ヤムチ○の画像とは比べものにならないほどに。

サイズは東京ドーム……何個分デショウ? なぜ日本人はなにかと東京ドームで喩えたがるのデスか?


可可「……よいしょ」ピョン


リスクヘッジの観点から見れば、この時ククが取った行動は、愚行に他なりマセン。

あろうことか、考えなしにクレーターへ飛び込んだのデス。

なぜ危険をかえりみず、そのような行為におよんだか。一言でいうなら、直感デシタ。

それはスピリチュアルではなく、内在的な衝動だったのデス。まったく合理的ではないデス。

ただ、いますぐポッドに駆け寄るべきだと強く思い、そう思った時には行動はすでに終わっていマシタ! ……どこかで聞いたことある言い回しデスね。


そんなわけで、気づくとククは、クレーターのど真ん中──落下したポッドの手前に立っていマシタ。

親譲りの無鉄砲、というやつデス。姐姐譲りかもしれないデスが。

行動力だけは、万人からほめていただけるのデス。

97: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 00:54:52.00 ID:LD47aUj9.net
ガコン、プシュー。

ギイイイイ。


可可「ひゃっ」ビクッ


勝手に機体のハッチが開きマシタ!?

って、もちろんそんなわけありマセン。なに言ってるんデスか。中にいる者が、意図して開いたに決まっていマス。

……こちらの存在に、気づいてる……?


──くるくるくる

いまさらになって怖気づいてしまいマシタ。しかし、ここまで来たら確認せずにはいられマセン。

手遅れ感がすごいデスが、機体内部の音に耳を傾けマス。


可可『──…………ア……──』

可可『──ア……アア…………──』

可可(たしかに、声がしマス……)

可可(しわがれた音で、言語なのかすらもあやしいところデス。外星人なのデショウか……)


容姿も言葉も目的も、なにもかもわかりマセンが、ひとつだけ確信していたことがありマス。

この"人"は、敵ではありマセン。

98: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 00:57:45.06 ID:LD47aUj9.net
可可「……グソクムシは待っててクダサイ」

グソクムシ「ムシャ…」


熱せられた合金が冷気に当てられ、機体周辺は常に高温の霧をまとっていマス。

手をぱたぱたしたり、息をふうふうしたりしながら近づき、ようやくハッチ入り口までたどり着きマシタ。

焼けた金属のにおい。やはり、宇宙から来たみたいデス。


可可「あ、あのぉ……大丈夫デスか……?」

「ア……ア…………」


大丈夫なわけがないのに、ばかな質問をしてしまいマシタ。もしククが逆の立場だったら、ブチギレ案件デスよ。

その人は苦しそうに息をもらしていマス。ククがなんとかしなければ!

公助が必要だとすばやく判断し、まずは近づこうと思いマシタ。

敵意がないことを示しつつ、接近を試みて──。

99: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:03:20.98 ID:LD47aUj9.net
可可「!?」ツルッ


中に入ろうとしたら結露で手がすべり、闘牛のように突っ込んでしまいマシタ。

衝突寸前、反射的に首を後ろにもたげられマシタ。おかげで頭の環が刺さることはなかったデス。

その代わりに、全体重をのせた、ククのあごで攻撃してしまいマシタ。


可可「あわわわわわゴメンナサイ! 殺意はなかったんデス!? 信じてクダサイ!!」


あごが凶器になるなんて、レンレンがやってた恋愛ゲームでしか見たことありマセンよ!


「アア……アッ……」

可可「!!」


どうやら生きているようデス。よかったデス……! 苦しそうにうめいてマスが。

ククは、彼女の胸に耳を当てるような体勢で、倒れ込んでいマス。心臓は弱々しくも動き続けていマシタ。

もみもみ。ぱふぱふ。

サイズはククと近く、ふわふわやわらか。さわり心地ばつぐんデスねぇ~……ふむふむ……。

途端に親近感が湧いてきマシタ。この人、すき。

100: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:06:37.02 ID:LD47aUj9.net
「アア……ア……アア…………」

可可「! もしや、どこかケガしてるんデスか……?」

「アア……アア…………」


理解はできなくても返事があるので、なぜか会話できているような錯覚におちいってしまいマス。

それでも、ククの想いはしっかり伝わっている気がするんデス。


可可「あの……」

可可「危害はくわえたりしないので、全身をさわってもいいデスか……?」

「ア……アア…………」


その嗄声を肯定と捉え、つま先から頭部まで、なめるように指をすべらせマシタ。

決して、ただ身体をさわりたいだけではありマセンよ? 本当デスよ!


可可(すごい! 宇宙にいたとは思えないくらい、筋肉がひきしまっていマス……!)

可可(全体的にすらりとしながら、女性的な肉つきも忘れてないのは高評価デスね)

可可(骨格は、いわゆる人間と同じデス……。肌はつるつるで、毛はないようデス)

可可(鎖骨……うなじ……のど……)

可可(そして…………これが、顔)

101: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:09:59.09 ID:LD47aUj9.net
ククは彼女の顔立ちを、知っているように思えてなりませんデシタ。


可可(まゆ……目もと……鼻筋……)

可可(くちびる…………)



「アァアァ……アア……?」

可可「!」


集中するあまり、無意識に顔を寄せていたようで……。

気づけば、互いの息がふれあうほどに接近していマシタ。


可可「あ、スミマセン! 違うことを考えていて、つい──」


……………………ありぇ?

いま、この人……。

ククの名前を、呼びませんデシタか……?

…………いえ、気のせい……デスよね。

天井のシミが人の顔に見えたりするように、ククの潜在的孤独感が都合よく聞きとっただけデス。きっとそうに違いありマセン。

102: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:14:58.48 ID:LD47aUj9.net
触診の結果、たいへんなことが発覚しマシタ。


可可(左腕が、付け根あたりから、なくなってマス……)

「アア……」


どうやら、かなり出血しているようデス。

ククは着ていた白シャツをやぶり、布切れを彼女の左肩に結んで、止血しておきマシタ。

映画やフィクションでは時折見かける場面デスが、まさか実際にやる日がくるとは……。結び加減がわからないので、念のため、かなり強くしておきマス。

……それと、すみれから借りていた大切な服を、やぶってしまいマシタ。でも、だれかのために使えてよかったデス。


「アア……アア……ア…………」

可可「な、なんデスか……? なにか伝えたいのデスか?」

「ア…………アア……」


言葉の通じない歯がゆさをあらためて感じていると、彼女は片腕でそっと、ククの手を取りマシタ。

そして、ククの手のひらの上を、指先でなぞりだしたのデス。

ふと、ヘレン・ケラーとサリバン先生の話を思いだしマシタ。

目と耳の不自由をかかえ、言葉も話せなかったというヘレン・ケラー。そんな彼女に「言葉」を教えた、サリバン先生を彷彿とさせる、言語伝達法デシタ。

103: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:16:59.53 ID:LD47aUj9.net
手のひらに全神経をそそぎ、彼女の思いを余すことなくシンシャクせんとしマス。

つるつると彼女の指がおどりマス。さながら、手のひらサイズのステージに立った、小人のダンサーデス。

指が離れ、ピリオドが打たれたようデス。ククはその軌跡をなぞりながら、なんとか理解しようとバンガッテみマス。


可可(……形象化すると、とてもアルファベット的デスね)


とりあえず総当たりで、私の知識に当てはめ解読してみマショウ。

まずは、アルファベットに変換してみマス。

『W,A,T,E,R』


可可(water……ゥワラー……)

可可「水デス! 水がほしいんデスね!」

104: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:19:21.37 ID:LD47aUj9.net
……いえ! いったん冷静になりマショウ。

先ほどククが、サリバン先生のことを考えていたせいで、無意識のうちに想起し、勘違いした可能性が高いデス!

……しかしどのみち、彼女は水を求めているかもしれマセンね。機内は暑くて熱いデスし。

たしか、まだ水筒に残っていたはず──



グソクムシ「ムシャー!」カサカサ

可可「グソクムシ!? 待ってるように言ったのに……」

グソクムシ「ムシャムシャー!」

可可「これは……ココナッツ水筒! 持ってきてくれたのデスね!」

グソクムシ「グム!」エッヘン


水筒が必要になるのを察し、先回りして行動できるとは……。

やたらめったらかしこいとは思ってマシタが、まさかここまでなんて! 就職したら一気に出世しそうデスね!

「外で待ってて」というククの言葉がむしされて、少しショックではありマスけど……、まあ今回は許しマス!

105: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:22:17.41 ID:LD47aUj9.net
「んっ……ん…………」ゴクゴク


ココナッツを下から支えてあげ、彼女にゆっくり飲ませマス。

この人が、間接キスを気にするタイプでないことを祈りマス。


「アア…………アア……」

可可「ん、また文字を描くんデスね。どうぞデス」


彼女はふるえる指で、ククの手相を切り裂いていきマス。

『f,o,o,d』


可可(food……やっぱり、アルファベットとしか思えないデス……!)

可可(食べものデスか……。まだりんごがいくつか残っていマス)

可可(吹き飛ばされてなければ、寝ぐらに戻れば取ってこれマスね)

106: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:23:57.29 ID:LD47aUj9.net
彼女のお願いはさらに続きマス。

『m,o,n,e,y』


可可(マニー!? こんな星では貨幣なんて無価値な紙切れデスが……)


『l,o,v,e』


可可(あ、愛……。哲学デスか……?)


『s,l,e,e,t』


可可(sleet……? なんデショウ、この英単語は)


んー、単語自体は聞いたことありマス……。たしか、シキシキと勉強していた時に覚えたような…………。

あ、そうデス! "あられ"デス! ……でも、なぜあられ?

あめゆじゅとてちてけんじゃデスかー? まるで宮沢○治の作品みたいデスね……?

……この人を助けてあげたいと思っていマシタが、さすがに注文が多すぎマセンか!?

107: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:27:27.83 ID:LD47aUj9.net



片腕の彼女から、かぐや姫よろしく、とんでもない注文を受けマシタ。

無理難題というわけでもないデスが、曖昧模糊な概念を用意するのに、かなり時間がかかってしまったのデス。


可可「……グソクムシ。これで満足してもらえると思いマスか?」

グソクムシ「ムシャ」

可可「お金は葉っぱ、愛はククのちゅー、あられは雪デス」

グソクムシ「……」フリフリ

可可「やはりだめデスか……」


ククの労力は、すべて水泡に帰してしまいマシタ……。

仕方がないので、とりあえず食べもの──りんごだけでも、彼女のもとへ届けにいきマショウ。

きっと、おなかをすかせて待っているはずデスから!

ケガの具合も心配デスし、早く戻って安心させてあげマショウ!



……そういえば、今日は"雨"が降らないデスね。

変な日もあるものデスねー。

108: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:28:55.66 ID:LD47aUj9.net



現在ククたちは、天から降ってきたポッドを見下ろす形で、クレーター手前に立っていマス。

さて、ゆるやかな斜面をくだって、ポッドの中にいる彼女のところへ行きマショウ──そう、思っていマシタ。


ドクン。

いやな予感がする。

なんなのデショウ、この空気は……。


──くるくるくる

このクレーターの穴に落ちれば、蟻地獄のように、飲み込まれてしまう……そう感じマシタ。

なので、取り返しのつく間に、危険がないかを調べておきマス。

──くるくるくる

環がここら周辺の音を拾ってくれマス。

いまだったら、脱出ポッドの機械音と、中にいる彼女の息づかいが聞こえてくるはずデス。

109: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:30:55.58 ID:LD47aUj9.net
可可「…………」


ひゅー、ひゅー、と空気がもれるような音がしマス。

まるで、肺に穴が空いたかのような音──。


可可「あっ……!!」


ゾワリ。

一瞬で心拍数が跳ねあがり、冷や汗がぶわっと噴き出しマス。


足音の数は、全部で三つ。

ククはこの音を、知っていマス。この星で、何度も聞いてきマシタ。


可可「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ…………」

可可(外星人……!!)

110: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:32:41.75 ID:LD47aUj9.net
──くるくるくる

──再生


可可『──アァアァ……アア…………。──』

可可『──?dhnkoowattiwn。──』

可可『──lhsklafooheolwheesy。──』

可可『──?wlsruooaeeeywrlrfeh。──』

可可『──…………アア……。──』

可可『──…………lilk。──』


パンッ。

短い銃声。

飛び散る血。

倒れる人間。

下卑た笑い。

111: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:35:59.85 ID:LD47aUj9.net
可可「っ~~~~~!!」


ぐちゃぐちゃに撹拌された感情は抑えがきかず、乱れた環は、アンテナとしての機能を失いマシタ。

音はもう、聞こえマセン。


可可「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ…………」


ククの怖れ続けていた外星人たちが、ほんの数十mの距離にいる……!

怖い……怖い……!

片腕で、    がやわらかくて……"あられ"を持ってきてと、ククにお願いした彼女は、ころされた……。

ククも……?

ころされる……。

ころされる……!!


グソクムシ「…」ナデナデ

可可「はあ……はあ…………」

可可「グソクムシ……」

112: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:38:57.08 ID:LD47aUj9.net
可可(…………そうデス)

可可(焦った時ほど、冷静にならなくては……)

可可(外星人との距離は離れていマス。まだ気づかれていないはず……)

可可(こっそりと逃げれば、事なきを得られるはず……)

可可(そうデス……、逃げマショウ……)

可可(そうすれば、グソクムシとククは平穏に暮らせるのデスから……)


可可「…………」


可可(……ゴメンナサイ、片腕の人)

可可(助けてあげられなくて……ゴメンナサイ……)

可可(私が……もっと強ければ…………)


可可「……………………」

可可「……………………………………」





可可「あ」

113: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:42:11.89 ID:LD47aUj9.net
だめデス。だめデス。だめデス。

すべて手遅れデシタ。


ククは、彼女の左肩に、ククの着ていたシャツを結びつけマシタ。全力で、なるたけ強く結んだものデス。

外星人がそれを見た時、どのような思考をするデショウか。

「片腕なのに、器用に止血したんだなあ」なんて思うわけありマセン。

「近くに仲間がいる」と、そう考えるはずデス……。


ドクンドクンドクンドクン。

心臓が、ククの身体を激しく揺さぶる。

逃げなきゃ。

いますぐ、立ち去らなきゃ。

114: 名無しで叶える物語 2022/12/06(火) 01:43:42.53 ID:LD47aUj9.net
聞こえてくる、足音、足音、足音。

クレッシェンドに、だんだん強くなる。


可可「」


息ができなかった。


可可(…………いま、環は止まっていマス)

可可(つまり、聞こえてくるこの音は……)

可可(私の…………すぐ、近く……!)


ゆっくり、一歩ずつ、後退する。

がさり。


可可「!?」


ちょっと触れただけの小石が、大げさに転がり、静寂を壊しマシタ。

まがまがしい殺気がまっすぐに、私をねめつけマス。

死は刻々と歩を進め、気づけば、その息づかいを感じられるほどに迫っていマシタ。



外星人「smaismrmilmepoetaleumibunenugttauiras」

120: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:26:18.96 ID:gA185jaE.net
ドクンドクンドクンドクンドクンドクン。

ゆっくりと、外星人が歩いてきマス。

明確な殺意を持って。


可可「はあ……はあ……はあ…………」


……考えてクダサイ、クク! 思考を放棄するな!!

環が回らなくても、頭を回しやがるデス!!


可可「すぅー……」

可可「はぁー……」


グソクムシを守りながら、このピンチを切りぬける方法が、必ずあるはずデス……!

……………………。

ありぇ? そういえば、グソクムシはどこに──。



グソクムシ「…」カサカサ


ちゃっかり逃げてマス!!

……なるほど。安全な道を示してくれているのデスね!

121: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:27:42.01 ID:gA185jaE.net
外星人「!sltflailwnkirziaeele」


発砲。近くの岩が四散する。


可可「へあっ!?」


ひるんでも、ふり返りマセン! 全速力でグソクムシを追いかけマス!

走って! 走って! 走りマス!

──ガコン。なにかにつまずく。


可可「んなっ!!」バタリ


ダイナミックにずっこけマシタ!

立ちあがろうとするククの背後から、聞こえてくる足音。ずり、ずり、ずり。

射程範囲に入ったのか、外星人は足を止めマシタ。

そして銃をかまえ、焦らすようにじわじわと、ククに照準を定めマス。

今度こそ、終わる……。

122: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:28:35.35 ID:gA185jaE.net
爸爸、妈妈、姐姐……。

ククを大切に育ててくれて、ありがとうございマシタ……。いろいろ迷惑かけマシタが、大好きデスよ……。


かのん、千砂都、レンレン……。

きなきな、シキシキ、メイメイ、ナツナツ……。

たくさんの思い出をともに過ごせて、よかったデス……。短い時間デシタが、楽しかったデス……。


…………。

すみれ……。

123: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:30:41.03 ID:gA185jaE.net
ゴメンナサイ……。ククはあなたに、謝らなくてはなりマセン……。

それなのに……謝りたいのに、どうやっても会えなくて……。

つのるのはいつも、後悔ばかり…………。

ゴメンナサイ……すみれ……。

せめて、最後に…………すみれの顔を、一目見たかった……デス…………。

すみれ……会いたいよ…………。

すみれぇ──。





グソクムシ「グムシャー!!」ドドド

外星人「!ahtw」グラッ

可可「グソクムシ……!?」


グソクムシのタックルで、外星人は尻もちをつきマシタ!


グソクムシ「ムシャー!」

可可「……はい!」


ククとグソクムシ。

指と指で伝わるカンバセーション、デス!

124: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:31:48.51 ID:gA185jaE.net



可可「どうしておまえだけでも逃げなかったのデスか……! ほんと、ばかなグソクムシ……」

グソクムシ「ムシャー…」

可可「…………助けてくれて、ありがとう」ナデナデ

グソクムシ「~♪」


グソクムシのあとについていき、なんとか岩場の影にかくれられマシタ。

それでも外星人は、ねちねちとククたちを捜索しているようデス。しつこい性格デスね。


外星人「!dmudyhdeeoewuhoeioitcr」


可可(グソクムシ、息をころしてクダサイ)

可可(Quite Quietly……とても静かに……)

グソクムシ(ムシャ)

125: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:33:55.27 ID:gA185jaE.net
外星人「!cytsmakuonetioluaiol」

可可「……………………」

外星人「!lyuykokllkoikkyolyloiiuuliilyoulull」

グソクムシ「…………」

外星人「!tgstteujrwerlcwcceyaoirsniriaasauoec」

可可「…………………………………………」


未知の言語を叫び、暴れる外星人。その様子は、酩酊したDV夫のようで、怖くてたまりマセン。

……ふと、懐かしい記憶を思いだしマシタ。それは、最初に"スバラシイコエノヒト"を見かけた時のことデス。

かのんも、ククが怖かったのデショウか……?

『太好听的吧!!』
『な……なに!?』
『你唱歌真的好好听啊!! 简直就是天籁!!』
『えっ、中国語……?』
『我刚才听到你唱歌了!! 我们以后一起唱歌好不好!? 一起唱!!』
『ひぃぃぃぃぃ~~~……!』
『一起做学园偶像!!』
『……にいはお、しぇいしぇい、しょうろんぽー!!』

126: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:35:27.20 ID:gA185jaE.net
ガサッ。


可可「!?」

可可(音が、こちらに向かって接近中デス……)


外星人「nfouoidyu……♪」


可可(さっきまでとは違い、声色に余裕を帯びていマス)

可可(もしや、ククたちの場所がバレたのでは……!)

可可(音はたてていないはず……どうしてデスか……!?)

可可(……あ、足跡! うっかりしてマシタ!)

可可(バックトラックするべきデシタ~! ……いえ、あの状況で、そんなことする猶予ありませんデシタが)


外星人「?rwyuraeeeoh……♪」


可可(せめて、グソクムシだけでも、生き残ってくれれば……)

可可(そうすれば……ククはあと腐れなく死ねマス……)

可可「……………………」ギュー

グソクムシ「…………」ギュー



逃れようのない死を覚悟した、その時。

どこかから、歌が聞こえてきマシタ。

127: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:37:25.55 ID:gA185jaE.net
ま~るま~る♪


外星人「?nihuatswdhosits」

可可(…………なんデショウ、この気のぬけるメロディーは?)


それは、死神のマーチか。

それとも、天使のファンファーレか。

……どちらかは知りマセンが、とにかくククたちは、その歌に命を救われたのデス。


可可(……? 外星人の音が聞こえなくなりマシタ)

可可(先ほどの歌につられ、どこかに行ってくれたのなたら、幸いなのデスが)


グソクムシ「!!」

可可「グソクムシ……?」


警戒するグソクムシ。どうやら外星人と入れ替わりに、別の物体が現れたらしいデス。

…………いったい、ククの周辺でなにが起きているのデスか……!?

128: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:39:20.91 ID:gA185jaE.net
──しゅるしゅるしゅる


可可「…………な、なんデスか、これは」

グソクムシ「ムシャー…?」


ククたちの隠れている、岩場の影。そこに、動物のようなものがやって来マシタ。

細い糸で覆われていて、毛玉みたいデシタ。敵意もなく、平然と居座っていマス。


可可(西部劇でよく見かける、タンブルウィード……デショウか?)

可可(いえ、熱を持っていマスね……。動物であるのは確かなようデス)

可可(それと……この毛、絹のようにすべすべデスぅ……! はぁ~、ヤミツキになっちゃうやつデスよ、これ!)

可可(時代が違えば乱獲されて、富豪なんかのお召し物になってそうな高貴さがありマスねぇ~……)


丸くて、すべすべな毛に覆われたボディ。バランスボールくらいのサイズ感。

…………この動物は──。


可可「あるまじき(アルマジロ)デス……!」

あるまじき「……?」

129: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:41:02.68 ID:gA185jaE.net
可可「……はっ!」


まだ近くに外星人がいるかもしれないのに、大声を出してしまいマシタ!

焦って環を回し、索敵しマシタが、やはり外星人はいなくなっているようデス。ふぅ~、よかったぁ……。


可可「……この子はどこから来たのデスか?」ナデナデナデナデ

可可「いえ、そんなことより……ほゎ~!」ナデナデナデナデ

可可「半永久的にさわってしまう中毒性がありマス……ハゲるまでナデナデ……」ナデナデナデナデ

あるまじき「~♪」

グソクムシ「……」


グソクムシ「ムシャー!!」ペシペシ

可可「む、なにを怒っているのデスか、グソクムシ?」

グソクムシ「ムシャムシャー!!」

あるまじき「」コロン

可可「あー! あるまじきが逃げちゃいマシタ。全部グソクムシのせいデス!」

グソクムシ「グム!? グシャ! グシャグシャ-!!」

130: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:43:09.55 ID:gA185jaE.net
──しゅるしゅるしゅる

ぎゅっ。


可可「!?」

可可「あぇ、あぇ……?」

可可「いま、たしかに……"だれか"が、ククの手をつかんだような…………」

グソクムシ「……」


あるまじき「」コロコロ

グソクムシ「…グムシャー!」カサカサ

可可「え、あるまじきについていくんデスか……?」


しかし、ククたちにとってこの展開は、願ったり叶ったりデシタ。

この付近はもう安全とは呼べマセン。いつ外星人が戻ってくるかもわからないので、さっさと安全な場所に身を寄せたかったのデス。

こうして、ひとりと二匹は、その場をあとにしマシタ。


"巣"までは、そんなに遠くありませんデシタ。

ざっと2~3時間、休まず歩いた程度デス。

131: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:45:46.67 ID:gA185jaE.net



たどり着いたのは、なにもない場所。

ただ、地面には"穴"が空いていマシタ。

大きさはだいたい、東京ドーム……の周辺道路にある、マンホールくらいデス。ククはドームで喩えたりしマセンよ!

その穴からは、なぜか、異質な空気がただよっていマス。

深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている……。この奥に、だれかがいるのかもしれマセン……。


可可「……ここに、入れと?」

グソクムシ「……」


あるまじきは完全に静止し、そのまんまるな身体を休ませていマス。まったく、いつさわってもすべすべぇ~……。

……そして、不思議なことに。

地面に空いた、その"穴"のふちも、あるまじきの毛と同じくらいにすべすべぇ~なのデス。

二者に関係性を見出すことは、簡単そうで、とても難解な気がしマス。なので、いまある事実にだけ目を向けるようにしマショウ。

132: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:48:00.29 ID:gA185jaE.net
可可「ぐ、グソクムシ……どうしマスか……?」

グソクムシ「…グムシャ」

可可「ズルいデス! ククにばかり責任を押しつけて!」

グソクムシ「ム、ムシャー…」


この穴に入るのは、外星人から身をかくすなら、うってつけに思えマシタ。

それにもしかしたら、この穴の中に、すみれ(仮)がいるかもしれマセン。デスが……。

さっきからずっと、私の内在的直感がささやきかけてきマス。

「ここから先はもう、あと戻りできないったらできないわよ」……と。

落とし穴や、クレーターなどとは、わけが違う……。

入ったら本当に、出られなくなってしまうような……そんな不安がとぐろを巻いて、締めつけてくるのデス。


無鉄砲な私でも、考えなしに進んではいけないことだけは、理解していマス。

しばしの逡巡──。

133: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:50:38.39 ID:gA185jaE.net
可可(……わかってマス)

可可(クク自身が、決断しなくては)


マトリッ○スだったら、赤い薬と青い薬、どちらを飲むか選ぶシーンデス。

これまでの世界から離れ、未知なる未来へ飛び込むか……。

これまでとなにも変わらず、グソクムシとともにサバイバルを続けるか……。


可可(選択肢を用意するなら、こんな感じデスね)


くく
1.「なにか不安デス、行きたくない」
2.「未知が怖いデス、行きたくない」
3.「いやだいやだ、行きたくない」
4.「いまのままでいいデス、行きたくない」
5.「心胆を寒からしめマス、行きたくない」
6.「憂いていマス、行きたくない」
7.「恐れていマス、行きたくない」
8.「戦いていマス、行きたくない」

134: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:52:04.46 ID:gA185jaE.net
可可(……って、全部いっしょではないデスか!)


仕方ないデスね……。

頭の中にゲーム画面を浮かべて、カーソルを選択肢の下部まで持っていきマス。

そして、十字キーを下に押し込み、怒涛の99連打デス! オラオラオラ!!

テキストフレームが波を立て、震えはじめマス。ゆがんでは直り、またゆがみ、直りマス。


可可(……かくしコマンド、見つけマシタよ)


一行分、縦に伸びたフレーム。

ククは迷うことなく、一番下にある選択肢をクリックしマス。


9.「行きマショウ!」


──選ばれたのは、赤い薬デシタ。

135: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:53:57.38 ID:gA185jaE.net
可可「……グソクムシは、地上での生活のほうがよかったデスか?」

グソクムシ「…ムシャー」

可可「ククの選択についていく……デスか。それだけ信頼してくれているのデスね」


すみれ(仮)に会う──それがククの行動指標デシタから。ククたちは、新たな世界に飛び込まなくてはなりマセン。

なので、この決断はきっと、間違いではないはずデス。

徒労に終わるかもしれマセン。だけど、進まなければ道は切り拓けないのデス。

ククには、行動力しかありマセンから! 猪突猛進に突っ走るしかありマセン!


可可「グソクムシ。ククに抱きついてクダサイ」

グソクムシ「ムシャー」カサカサ

可可「前ではなく、後ろに……まあいいデスけど。こちらのほうがなじみ深いデスし」

あるまじき「」コロン

可可「では、行きマショウ──!」


グソクムシとともに、穴の中へ。そこに待つのは不思議の国か、はたまた、魔界への入り口か。

どちらにせよ、もう帰ることは叶いマセン。

なぜなら、"穴"は最初から、存在していなかったのデスから。

136: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:55:00.86 ID:gA185jaE.net



アンダーグラウンドの世界は、イメージどおりに閉鎖的なようで、かすかな物音でも何倍にも増幅され、耳に届きマシタ。

ククたち御一行は、地面の下の、さらに下へ。小さな段差をゆっくり刻んでくだりマス。

……段差は、感触からして石造りで、高さも幅も、すべてが均一に整えられていマシタ。


可可「すごいデスね、ここは……」

グソクムシ「グムシャー…」

可可(……これは間違いなく、文明の力デス)

可可(ほら、壁には強固な手すりもあって、階段として申し分ない仕上がりになってマス)

可可(曲がり角も、きれいな直角デス……。壁はどこも、コンクリートのような材質デスね……?)

可可(…………)

可可(これでは、まるで──)



「な、何者!?」

可可「!!」

137: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 02:57:50.22 ID:gA185jaE.net
可可(人の声……! しかも、日本語デス!)

可可(……いったい、なにがどうなってるのやら)

可可(いえ、それよりも……いまの声は…………)


「…………」

可可「あのぉ……」

「……う、うそ……信じられない…………」

可可「……? あのぉ……」

「こんなことって……あるんだ……! 夢見てるみたい……!」

可可「……あの」

「…………クゥクゥ先輩っ……!!」


とつぜん抱きつかれてよろめきマシタが、なんとか踏ん張りマシタ。意外とクク、体幹ムキムキなのかもしれマセン。


「先輩っ……! 会いたかったです……!!」

可可「…………」

可可「もしかして……」

可可「きなきな…………?」

きな子「──はいっ!!」

138: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 03:00:04.84 ID:gA185jaE.net
文明がないと思っていた星に、文明が存在して。

人間はいないと思っていたら、地下に人がいて。

しかも、その人は……ククの、大切な仲間……!


可可「っ~~~!! きなきなぁ~!!」ギュー


思いの丈をありったけ込めて、きなきなを抱きしめ返しマス!

きなきなは、ククが知っているころよりも成長したようで、背はククをゆうに超えていマシタ。

胸も立派に育って、どこに出しても恥ずかしくない存在感をかもしていマス。


可可「お顔……さわってもいいデスか?」

きな子「え……? はい、いいですよ」

可可「あぁ……本当にきなきなデスぅ~……!」ペタペタ

きな子「…………」

きな子「あ、あの、失礼だったらごめんなさい」

きな子「クゥクゥ先輩……」

きな子「目が、見えてないんですか……?」

139: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 03:02:46.73 ID:gA185jaE.net
可可「はいデス。この星に落ちた時点で、すでに見えていなかったような記憶がありマス」

きな子「そ、そうだったんですね……」

可可「気をつかわなくていいデスよ? ククも気にしてないデスから」

可可「…………でも、ありぇ?」

可可「そういえば、どうして、きなきながこの星にいるのデスか……?」

きな子「えっと……それってどういう意味ですか?」

可可「ククは、この星に落とされマシタ。デスが、きなきなは地球に残されて──」


……もしや。

そう思った矢先に、きなきなが答え合わせをしてくれマシタ。


きな子「クゥクゥ先輩…………」



きな子「ここは、地球ですよ」

140: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 03:03:59.15 ID:gA185jaE.net
可可「…………ギャラ」

きな子「日本の、東京の、地下鉄駅です」

可可「…………ギャラクシー!?」


まさかもまさか、超まさか!

そ、そんな……猿の○星みたいなオチが、現実に起こるなんて……。


……しかし、考えてみれば、とても明快なことデシタ。

風が吹けば桶屋がもうかるように、"隕石"が降れば、"氷河期"が来るものデス。

恐竜を絶滅させたのも、隕石飛来によってもたらされた、氷河期が原因なのデスから。……あ、諸説ありデスよ。

この星が地球とは思えないほど凍え切っているのは、隕石が"預言通り"に落ちたことの、証左にほかなりマセン。

そうデスよ……。自転の周期が地球と同じだったり、大気が生存に適していたり、車が走っていたり……ヒントはたくさんあったはずなのに……。

141: 名無しで叶える物語 2022/12/07(水) 03:05:17.97 ID:gA185jaE.net
声を大にして、叫びたい気分デス。

なんてことだ、ここは地球だったのか……!



そして、ククにとって、一番ショックだったことは……。

もう、『タン星クク統治区(仮)』という、勝手極まる土地の主張を、使えなくなったことデス……。

今日からここは、地球星東京デス。()もいらないので外れマシタ。

──いえ、この星はずっと、地球デシタね。


可可(遅くなりマシタが……)

可可(ただいまデス、地球……!)


地下での再会は、ククの今後を大きく左右する、隕石衝突級のイベントとなりマシタ。

「最後に、みんなに会いたい!」……いつの日か願った、ククのわがまま。

それがいま、まだ1/8デスが……実った瞬間デシタ。



第2章 金星的近接 終

146: 名無しで叶える物語 2022/12/08(木) 01:03:36.88 ID:CHYXj8mf.net
Interlude


地下生活をしいられるようになって、早一年。意外なことに、こんな劣悪な環境にもだんだんと慣れてきました。

住人はそれぞれのコミュニティーを形成し、それぞれの暮らしの色を生み出しています。

どうやら多くの人は、地下での暮らしを後ろ向きなものと考えているみたいです。

ですがきな子は、前向きに捉え、"冬眠"と呼んでいます。

いつか来る、春を信じて。


「みんな、覚悟してるんだろうな。ここで一生過ごすことになるって」


地下に来てからメイちゃんは、ねこみたいに、なにもない空間を見つめる時間が多くなりました。フェレンゲルなんとか現象というらしいです。

きな子もマネして、同じあたりをぼーっとながめます。


「…………適者生存っすか……」

「ああ……。人口は半分以下まで減り、問題は山積み、打開される展望もなし……。まさに、お先真っ暗だな」


自嘲気味につぶやいたメイちゃん。いつの間にか、きな子のほうに視線を送っていました。


「けどよ……意地でも、生きるしかねえよな……!」

「!! ……はいっす!」

147: 名無しで叶える物語 2022/12/08(木) 01:04:36.33 ID:CHYXj8mf.net
ある日きな子は、元スクールアイドルとして、地下に暮らすみんなに笑顔を届けたいと思いました。

この暗くてよどんだ世界を、ライブステージに変えようと思いついたんです! 大がかりなセットは組めないので、すごく簡素な舞台になりますけど……。


「それいいな! やろうぜ、私たちで!」


メイちゃんとふたり、いろんな駅をどさ回り。たくさん歌って踊りました。

お客さんはじょじょに増えていきました。みんなの沈んでいた心が浮かび、笑顔が戻ってきたような、そんな実感があったんです。

夏美ちゃんも、よく観に来てくれました。でも、ただの一度も、きな子たちといっしょのステージに立つことはありませんでした。


きな子たちのアイドル活動は、そう長く続きませんでした。

自警団によって、ステージや小道具はすべて破壊され、地下での"ライブ行為"全般が禁止されてしまいました。


「あいつら……私たちが支持を集めて、力を持つようになるんじゃないかって、ビビってるんだよ。……くそっ!」

「なんすか、それ……。みんなを笑顔にして、なにがいけないんすか……!」

148: 名無しで叶える物語 2022/12/08(木) 01:05:52.53 ID:CHYXj8mf.net
……あれから、どれだけ時が進んだでしょうか?

住人も半分の半分まで減り、さらに空虚さが増した、この世界。服のこすれる音が反響するほど、静寂に満ちていました。

残念ながら、きな子は変えられませんでした。地下の光になれなかったです。

そうですよね……。がんばったからといって、必ず報われるわけではないですから。だれもが認めてくれるわけではないですから。


自身を鼓舞し、心がくだけないようにするのが、いまの精一杯です。

いつか……、いつか。

いつか、なにかの出来事がきっかけで、いい方向に変わるような気がします。

だから、いまは耐え忍びましょう。


クゥクゥ先輩やすみれ先輩が言っていたような……

「春のにおい」が訪れる、その日を夢見て。

149: 名無しで叶える物語 2022/12/08(木) 01:06:44.58 ID:CHYXj8mf.net
第3章 地球的知己



夜、ククとグソクムシの寝室。

うんと伸びて、ふかふか枕に頭を沈めマス。環が食い込まないよう、サンバイザーくらいの角度に調整しておくのがポイントデェス。

ククが床に就くと、毎度恒例のグソクムシonクク。グソクムシが上に乗っかりマス。

さあ、いよいよお待ちかね、読み聞かせの時間デス!


可可「『お歴々と100人の私』……今日で99話目デスね」

グソクムシ「ムシャー!」

可可「クライマックスに向け、ここからどのように展開するのか! 伏線を忘れず回収できるのか……!?」

可可「──第99話、読んでいきマショウ」


毎夜、一話ずつ語ってきた、この物語。気づけばそれも、残すところ二話となっていマシタ。

ククたちが地下に来てからすでに、三ヶ月もの月日が流れていたのデス。

150: 名無しで叶える物語 2022/12/08(木) 01:08:26.17 ID:CHYXj8mf.net
きなきな、メイメイ、ナツナツ。ともにLiella!として活動していた、かつての仲間たちとの交流。

消えたあるまじき。モグラ族の生活様式。

コミュニティー。内集団バイアス。

自警団。広告でよく見たやつ。狩り。

消えた銃。刻まれた「正」の文字。映画館。

ホタテ、湯たんぽ、お風呂。

グソクムシ語検定。「あい」の続き。

ポップコーンは沈黙の春へ。ジンギスカン。

スペースラジオ、自動車免許を取った「哲学的ぞんびぃ」さん。

消えたミサンガ。

神。ライブ。

ロケット、方舟計画、宇宙船ノア。

意味深に語られる、世界の真実。惑星国家。

夢。揺らぐ過去と未来、自己の存在。


この三ヶ月は……本当にいろんなことがありマシタ。

151: 名無しで叶える物語 2022/12/08(木) 01:09:51.71 ID:CHYXj8mf.net



地下生活 初日


地下におりたククを待ち受けていたのは、なんと、きなきなデシタ!


可可「はぁ~! きなきなぁ~!!」スリスリ

きな子「せ、先輩……。再会のハグが激しいですぅ……!」

可可「ククはきなきなに会えて嬉しいんデスよ~! まさにギョウコウ!!」スリスリ

可可「……きなきな、よく生きてマシタ……!」

きな子「はい、なんとか……。私ひとりじゃ生きられなかったですけど、地下の人たちと支え合って、それで」

可可「なんと!? タクマシイジンルイ……!」

きな子「東京の地下は、広大な迷路ですからねぇ。駅やエリアごとにコミュニティーが発展してるんですよ」

きな子「いま私たちがいるのは、C-2駅です。向こうに改札があって、あっちには……」

きな子「って、あ! 先輩、目が見えてないんでした……! す、すみません……」

可可「気にするなと言ってマス! きなきな!」

可可「見えなくても、ククはこうして、きなきなと話せていマス……いまは、それだけでいいデス」

きな子「……そうですね。できるだけ、普通に接するようにします!」

可可「よしよし、いい子デス!」ナデナデ

152: 名無しで叶える物語 2022/12/08(木) 01:11:19.77 ID:CHYXj8mf.net
きな子「ところで、先輩はどこから来たんですか……?」

可可「…………上からデスか……?」

きな子「ええ! 私に訊かれても……」

可可「ククたちは、あるまじきにいざなわれて、穴の中におりて──」

可可「…………ありぇ? そのあるまじきはどこデスか?」

きな子「あ、あるまじき……?」

可可「グソクムシ! あるまじきはどこ行きマシタか!?」

グソクムシ「グムシャー…」

可可「むー、肝心なときに役立たないデスねー」

きな子「え、グソクムシ……? なんか、でかくないですか!?」

可可「そうデスか? これが普通デスよ。それよりいまは、あるまじきデス!」

可可「あへぇ~……あのすべすべを、もう一度味わいたかったデス~……」

グソクムシ「ムシャ!? ムシャー!!」ペチペチ


きな子「ツッコミどころが多すぎて、どこから触れていいのやら……」

153: 名無しで叶える物語 2022/12/08(木) 01:12:41.76 ID:CHYXj8mf.net
可可「ククとグソクムシは、ずっと外の世界を冒険してきマシタ」

きな子「えっ!? そ、外ですか……? 冗談、ですよね?」

可可「ククは冗談言いマセンよ?」

きな子「ええ……。そんなタンクトップ一枚で、どうやって生きてきたんですか……!?」

可可「…………」


そういえば、ククはどうやって生きてこれたのデショウか?

いままで過ごしてきたのは、異常こそ日常な世界だったので、なにも感じませんデシタが……。

こうして、常識の尺度を持つきなきなと話していると、ククのほうがおかしいように思えてきマシタ。いえ、おかしいのデス。


可可「ククは……変デスか?」

きな子「あ、いや、そんなことないです! 昔と変わらない、かわいさで──」

きな子「って、なんか頭についてませんか!? 輪っか!! ええ、なにこれぇー?!」


いま気づきマシタか!

154: 名無しで叶える物語 2022/12/08(木) 01:13:38.12 ID:CHYXj8mf.net
しばらく環に夢中になっていたきなきなデシタが、満足したらすぐに離れマシタ。

さわられるのはムズガユイのデスが、さわられないのもさびしい……。乙女心は複雑デス。


きな子「あの、クゥクゥ先輩は……どこか行くあてとか、あるんですか?」

可可「"あて"はここデス。ククはすみれを探して地下へ来たのデス!」

きな子「すみれ先輩……」

可可「!! もしや、ここにいマスか!?」

きな子「あ、いえ。本人ではないですけど……」


きなきなは、やけに含みのある口調でにごしマシタ。

ただ、ここにすみれがいないのは確かなのデショウ。


きな子「先輩。もしこの地下に留まる予定なら、私がここを案内しますよ」

可可「ほんとデスか! 助かりマス、きなきな~!」


せっかくきなきなに会えたので、何日かはここでいっしょにいたいデスね~。

急いで地上に戻る理由もありマセンし。すみれ(仮)の捜索も、少し休憩ということにしマショウ。

155: 名無しで叶える物語 2022/12/08(木) 01:15:24.62 ID:CHYXj8mf.net



きなきなにされるがまま……。ククはいま、介助を受けていマス。

手を腰に当て、ひじに角度を持たせる形(前に習えの先頭のポーズ)にすると、そこにきなきなが手を添えマシタ。

どうやらこれで、ククの歩行をサポートしてくれるみたいデス。


きな子「地下には……失明した人もいまして、それで介助とか手伝ってたんです」

可可「うむうむ……。きなきなはやさしいデス」

きな子「そ、そんなことないですよ? みんな、助け合わなきゃ生きてけないですから……」


……実は、ククにはグソクムシがいるので、介助はいらないのデス。しかし、きなきなの好意はありがたいので、全力で受け取りマス!


きな子「線路におりますよ、よいしょ……。ここから、C-3駅まで歩きます」

可可「線路……。高圧電気(こわいでんき)は流れてないデスか……?」

きな子「はい、心配ないです。この辺はそもそも、電気なんて送られてこないので」

156: 名無しで叶える物語 2022/12/08(木) 01:16:25.49 ID:CHYXj8mf.net
きなきなと連れ立ち、線路を歩きマス。

『スタ○ド・バイ・ミー』的展開デスが、電車が来ないとわかっていると、なんだか味気ないデス。

カサカサカサ。グソクムシは、背後からついてきている様子。線路を歩くのは初めてデショウか?


可可「きなきな以外にも、Liella!メンバーがいたりしマスか?」

きな子「はいっ! ここには夏美ちゃんとメイちゃんが──」

きな子「…………あ、いや。ここはサプライズで再会したほうが感動するよね…………」

きな子「──さ、さあ!? わかんないですぅ~~~!!」

可可「……そう、デスか」


きなきな……。自信たっぷりにかくしたつもりらしいデスが、ばっちり聞こえていマシタ。

ククはいま、試されていマス……!

おそらく今後訪れるであろう、サプライズ再会イベント……。そこでみんなが喜ぶ、盛大なリアクションをとらなければなりマセン。

やるしかありマセン……。かわいい後輩のため!

162: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:11:22.82 ID:RWluUGdp.net



可可「ふぅ~…………」

可可「今日はこれまでの中で、最もあわただしい一日デシタね……」

グソクムシ「ムシャー…」


ククたちは、きなきなに案内された部屋(駅長室らしい)を、寝室にあてがってもらいマシタ。

きなきなもいっしょおやすみしようと誘いマシタが、「やることがある」とのこと。


可可「ソファふかふかデス~……」

可可「革がボロボロで綿が飛びでてマスが、野外で寝るよりはましデスね」

グソクムシ「グム」


可可「……今日のお話は、3話目デスね」

可可「新しい世界にやってきマシタが、ククたちは変わらず過ごしマショウ」

グソクムシ「グムシャー!」

163: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:12:30.99 ID:RWluUGdp.net
『お歴々と100人の私』 第3話

とある研究所。
お歴々の眼下ではいま、"3人目"が生まれようとしている。
"彼女"はあぶくに包まれ、やがてその身に空気をまとう。
扉が開いた。彼女はおもむろに、生への一歩を踏みだす。
もろ手を挙げ、喜ぶお歴々。しかし、その表情はほどなく曇ることになった。
容器から出た彼女は、首をおさえてよろめき、地に伏せた。
それから陸にあがった魚のようにケイレンし、白目をむいて動かなくなった。
彼女はうまく息ができなかった。だから、地上で溺れ死んだのだ。

「少しずつだが、進捗は見られる」
「次はさらに完成へと近づくだろう」
「今後に期待しよう」

彼女は最後に、白い壁と、白い床を見た。
"みぃ"は死んだ。生まれた意味も知らず、ただ苦しみだけを味わって。

164: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:14:41.83 ID:RWluUGdp.net
………………………。
………………………。


可可『た、たいへんデスー!!』

かのん『クゥクゥちゃん、どうかしたの?』

可可『すごいデス、見てクダサイ~! じゃじゃーん!』


開け放たれた部室のドアを、結ヶ丘の生徒たちがぞろぞろとくぐりぬけマス。


夏美『なにごとですのー!?』

可可『聞いておどろいてクダサイ! ここにいるのは全員、スクールアイドルになりたいという、情熱あふれる子たちなのデス~!!』

きな子『えっ……』

恋『わあ、こんなにたくさん……!』

かのん『この部も大所帯になるね! みんな入りきれるかなあ!?』

可可『せまければ、拡張するまで! 第二第三部室を用意するのもいいデスねぇ~!!』


きゃっきゃと盛り上がるククたちをよそに、厳しい表情が数名。

165: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:16:11.99 ID:RWluUGdp.net
すみれ『……ねえ、入部希望のあなたたち。ちょっと訊いてもいい?』

すみれ『あなたたちは……本当にスクールアイドルをやりたいの?』

可可『なにを言うデスか、すみれ! もう新入りいびりデスか!?』

すみれ『あんたは黙ってなさい』

可可『なにをー!?』

女生徒A『も、もちろん! 前々から、スクールアイドルになりたくて……』

千砂都『"やりたい"じゃなく、"なりたい"か……』

かのん『え……。ちぃちゃん、どういうこと……?』

四季『センサー反応。この人たち、なにかをかくしてる』

メイ『だろうな……』

夏美『だいたい理由は察しがつきますの』

可可『……みんな、なにを言っているのデスか?』


すみれ『はあ……。宇宙行きのチケット欲しさに、スクールアイドルをはじめようとしてるんでしょ?』

可可『!?』

166: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:17:49.49 ID:RWluUGdp.net
可可『…………な、なにを……ばかな……』

可可『だって……、だって! ミナサン、スクールアイドルにあこがれていたと言ってマシタ!』

可可『……デスよね、ミナサン……?』

女生徒B『…………はー、だる。さっさと入部させてよ』

女生徒C『べつに宇宙目的でもいいでしょ? リエラに迷惑かけるわけじゃないし』

女生徒D『私たちは、楽して宇宙に行きたいんだよ』

可可『……!!』


胃のあたりから、ふつふつと湧きあがる激情。

気管を逆流し、口から吐きだされようとしマス。


可可『ばかに──』



きな子『ふざけるなっ!!』

167: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:19:30.56 ID:RWluUGdp.net
きな子『先輩たちが……きな子たちが! どれだけ勧誘しても、見向きもしなかったくせに…………』

きな子『いまになって、あこがれてましたー、だなんて……虫が良すぎるっす! 都合が良すぎるっす!!』

きな子『きな子たちは! 本気でラブライブ優勝目指して、毎日がんばってるんすよ!! 最後まで輝こうって、倒れるまで、必死に!!』

きな子『あなたたちにその覚悟があるんすか!? 千砂都先輩の鬼トレーニングについていく気力はあるんすか!? ないなら帰ってほしいっす!!』

きな子『──スクールアイドルを、ばかにするなっ!!』

きな子『……………………っす』


その場にいた全員が、あっけにとられていマシタ。

きなきなは息を整えるうちに、静まり返った空気を察し、そのあどけない顔が燃えるように染まりマス。


女生徒A『あーそうですか。よかったですね? あなたたちには地球脱出の可能性があって』

女生徒B『私たちには、指をくわえて死を待ってろっていうのかよ……!』


入部希望者は、ひとり残らずいなくなりマシタ。

168: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:21:43.68 ID:RWluUGdp.net
きな子『あっ……あああ……』

きな子『……ご、ごめんなさいっす! 急に怒鳴ったりして……勝手にスクールアイドルを語ったりして……』

可可『いえ、ありがとうございマス』

きな子『え……?』

すみれ『よくやったわ、きな子。あんたが代弁してくれたおかげで、だいぶ溜飲も下がったわ』

メイ『きな子ぉ! ナイスファイトー!』

きな子『あ……ありがとうっす……!』

かのん『でも……ちょっと、かわいそうな気もするなぁ』

すみれ『同情の余地なんて皆無よ。あの子たちは自分で努力もせず、都合のいい結果だけを求めてここに来たのよ』

恋『それに、そもそもわたくしたちも、宇宙に行けるとは限りませんし……』

かのん『そうだよね……。でも、なんかなぁ……』

かのん『私が神様だったら、みんな助けてあげられたのに……』


かのんが変なことを言いはじめるのとほぼ同時に、千砂都がカバンの中からなにかを取り出しマシタ。

169: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:23:32.98 ID:RWluUGdp.net
夏美『なんですの、これ?』

千砂都『これはね、Liella!のファンから届いたプレゼントだよ。自分の色のやつを付けてみて』

かのん『わあ、ミサンガだ! なつかしいねー』

メイ『小学生のころとか流行ったよなー。友達とおそろにして』

可可『へー。そのようなものがあるのデスね』

恋『……OKグー○ル、ミサンガについて教えていただけませんか?』

四季『手首や足首につけるアクセサリー。切れると願いごとが叶うというジンクスがある』

恋『なるほど……。お守りのようなものですね』

すみれ『それにしても、高そうな素材ね……。大丈夫? あとで高額請求されない!?』

可可『ひとりだけなにを心配しているのデスか。ファンの方からのプレゼントには、普段の素行やパフォーマンスでお返しするのデス』


ククは右の手首に、パステルブルーのミサンガを巻きマシタ。

つやつやした毛糸が派手に思えマシタが、意外にも自然となじんでいマス。


千砂都『これはね、私たちが仲間である証』

千砂都『これを付けていたら、その人はLiella!の仲間だって、わかるでしょ?』

メイ『ワ○ピースのアラ○スタ編みたいなこと言ってるな……』

170: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:24:56.73 ID:RWluUGdp.net
かのん『仲間の、証……』

きな子『うれしいっす……! みんなと、つながってる気持ちになれるっす!』

恋『さすが部長です!』

千砂都『えへへ~』

可可(みんなと、つながってる……)

千砂都『じゃあかのんちゃん! 全員のミサンガに、願いを込めてちょうだい!』

かのん『ええっ、私が!? えー……うーん、そうだなぁ…………』

かのん『──わ、私たちは、Liella!だー!』

千砂都『…………それ、願いごと?』

かのん『だめだった!? じゃあ変えよう……!』

可可『いえ、これがいいデス! Liella!だー!』

すみれ『ぷふっ……Liella!だー!』

かのん『わぁああ!! 恥ずかしいからやめてー!!』


こうして9人のLiella!が、ひとつなぎになりマシタ。


──夢寐にも忘れない思い出。


………………………。
………………………。

171: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:26:18.46 ID:RWluUGdp.net
可可「…………」


右腕を伸ばし、指先でさすってみマス。

肩からひじをすーっと伝い、手までたどり着きマシタ。

そこに、パステルブルーの証はありマセン。


可可(ミサンガ……いつの間になくなったのデショウか……?)

可可(物的なつながりが途絶えてしまいマシタ……)

可可(……デスが、ククたちは、心でつながってマス!)

可可(大丈夫デス! ……つながっている、はずデスから)


可可「私たちは、Liella!だー!」

グソクムシ「ムシャー!」

172: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:28:49.58 ID:RWluUGdp.net



地下での暮らしは、きなきないわく"冬眠"みたいなものらしいデス。

それを証明するかのように、出会うだれもかも、なんというか、停滞していマシタ。

冷えれば冷えるほど分子の運動はにぶくなりマスし、布団から出たくなくなりマスからね。

かというククも、なにかこれといって劇的な進展があるでもなく、のつそつと暮らし、地下の空気に慣れていきマシタ。


きなきなとは多くの時をいっしょに過ごし、その間、いろんな話をしマシタ。

最初に訊いたのは、"ククたちと別れた"あとのことデシタ。


きな子「ご存知かもしれませんが……」

きな子「私とメイちゃん、夏美ちゃんが乗るはずだったロケットは、打ち上げられませんでした」

可可「……やはり、そうデシタか」

きな子「なにかのトラブルだったらしいんですけど……そのあと回復することなく、ついにXデーを迎えることになりました」

きな子「……あ、実はそのXデーというのは、二回あったんですよ」

可可「二回? 隕石衝突と……もうひとつあるのデスか?」

きな子「はい……。隕石が降る前」

きな子「世界中に、核の"雨"が降り注いだんです」

173: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:30:50.98 ID:RWluUGdp.net
それは、耳を疑いたくなるほど荒唐無稽で、ふざけた話デシタ。

某国の発射を皮切りにして連鎖的に、世界中の空を、核が飛び交うようになったそうデス。

どうせ地球が終わるなら、最後に撃っちゃえ……というノリだったのデショウか? 卒業間近の思い出作りで羽目を外すのと同じかもしれマセン。

政治も法律も、倫理も道徳も、すべてが機能不全を起こしていた社会。追い詰められた国家は、ヤケになって、自滅を選んだのデショウか。


きな子「発射の映像は、まだテレビ局が生きていた時に一度だけ見ることができました」

きな子「世界各国の地面や船やらいろんなとこから、細長いミサイルがポップコーンみたいに、ポンポン飛んでいくんです」

きな子「もちろん、東京も壊滅しマシタ。ただ、地下に避難していた人は、とりあえず生き残ることができたんです」


そして、遅れてやってきた隕石が、ダメ押しするように地球環境を破壊したのデス。

追突の衝撃で巻き上げられた土や砂などが、空を覆いかくす。それらはやがて地球全土を飲み込み、太陽をしりぞけ、闇の世界を作りあげマシタ。

放射能に加え、年中氷点下。環境保護団体は卒倒ものの、地獄絵図が完成したのデス。

174: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:32:41.67 ID:RWluUGdp.net
こうして地球歴は、地上から地下へと移転しマシタ。

もしかすると、まだ地上に生存者がいるかもしれないデスが……。その可能性は、シキシキがSNSアカウントを作るよりも低いデショウ。いまは乱期デス。


きな子「ここ、東京地下界隈」

きな子「そのすべてのエリアを統括するのが、"自警団"です」

可可「ほぉ……。こんな世の中でも、自治組織は生まれるのデスね」

きな子「う、うーん……。どうでしょうね……?」


きなきなは苦々しい面持ちを浮かべていマス。

見なくてもなんとなくわかりマス。超直感ではなく、きなきなが顔に出やすいタイプなのを知っているだけデス。

どうやら、その自警団とやらの評判は、あまり芳しくはない様子。初期のレンレンみたいな狂犬集団なのかもしれないデス。


きな子「自警団の一部の人は、ここの住民のことを蔑んで、『モグラ族』って呼んでます」

可可「ククもモグラになりマスか?」

きな子「いえ、クゥクゥ先輩は……」

きな子「──天使です!」

175: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:35:00.55 ID:RWluUGdp.net



モグラ生活 7日目


この日は、きなきなに連れられ、少し遠出。

他の駅に出向き、地下街をお散歩デス。

出かける時は、いつもきなきながエスコートしてくれマス。慣れてきたので距離を詰めると、きなきなは恥ずかしそうに照れ笑いしマシタ。見なくてもわかりマス。

一方、案内役を解任されたグソクムシというと、RPGの勇者パーティのように、ククたちの後ろをぴったりついてくるだけデス。


可可「……たったの七日デスが、ここで暮らしてわかったことがありマス」

きな子「なんですか?」

可可「それは…………」


可可「きなきなが、スバラシイ人だということデェス!」

きな子「え、私!?」

176: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:36:51.68 ID:RWluUGdp.net
可可「この暗い世界でもくじけず、前向きでいられるきなきな! 本当にスバラシイデス!」

きな子「……そうですか? だとしたらそれは、クゥクゥ先輩のおかげですよ」

きな子「このポジティブさは、Liella!の先輩方からいただいたものですから!」

可可「き、きなきなぁ~……! いつ何時も、先輩を立てることを忘れない……! デキタコウハイ……!」

可可「はぁ、かわいいデス……。妹にしたいデェス……」スリスリ

きな子「クゥクゥ先輩……? なんか、顔が怖いですよ~!」


きなきなをすごいと思うのは、ククの本心デス。心から尊敬していマス。

しかし、ククにはずっと気になっていたことがありマス。

きなきなの、特徴的な語尾である「っす」は、どこに消えたのデショウか?

成長とともに抜け落ちるものなのデスか? だとしたら、いまだにカタコトなククは、まるで成長していないのデスか……!?

177: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:38:24.53 ID:RWluUGdp.net



きな子「いまいるのが、G-4駅デス」


そう言われても、ククにはさっぱりデシタ。

目が見えない分、他の感覚が鋭敏になっているのデスが、この地下世界はどこもかしこも似たような情報しかありマセン。

においが換気されず、常に死臭が漂い、聞こえてくるのは虚ろなため息ばかり。

いずれきなきな並みに、迷うことなく、駅から駅へと渡り歩けるようになるのデショウか?

……なんだか、地下暮らしを続ける前提で話してマスが……。ククはいつまで、ここにいるつもりなのデショウか?


きな子「先輩。部屋に入りますよ~」

可可「なんの部屋デスか?」

きな子「それは~……」



「──クゥクゥ先輩!」

可可「!」

178: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:40:35.16 ID:RWluUGdp.net
この声は……!


可可「……メイメイ、なのデスか!?」

メイ「ああ!」

可可「メイメイ……!」

きな子「どうですか、驚きましたか!? これが先輩への、サプライズです!」


ついに、この時がやってきマシタ……!

かわいい後輩たちに、ククの演技力、とくと見せつけてあげマショウ!


可可「んメイぃメイぃぃ…………!!」

可可「はあっ~! まさかまさか、こんなところで会えるだなんて…………ユメにも思いませんデシ……タぁ~!!」

メイ「おい、きな子」

きな子「なんですかー?」

メイ「サプライズ、バレてるぞ」

きな子「えーっ!? そ、そんなはずは……!」

可可「びっくりぃ……ドゥェェス…………」

メイ「昔から思ってたけど、力入りすぎだろ! どこ目指してんだよ!?」

179: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:42:26.93 ID:RWluUGdp.net
メイ「……あー、クゥクゥ先輩。ほんと、久しぶり……何年ぶりだ? もう長すぎて、わかんねえな……」

可可「はいデス!」

可可「メイメイぃ~……! 抱きしめさせてクダサイ~!」

メイ「なっ……! ……うん、わかった」


ギュー。

胸の中におさまったメイメイは、思っていたより小さかったデス。

いえ、きなきなのイメージが強かったので、メイメイも大きいのではと勝手に想像していただけなのデスが。


メイ「ああ…………クゥクゥ先輩だ……」

メイ「この骨格、肉付き、声質…………変わんない……。高校のころと、なにも変わんない……!」

可可「……メイメイ?」

メイ「!!」

メイ「……すまん、泣くつもりなかったのに…………感極まって…………ああ、だめだ……」

180: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:44:31.09 ID:RWluUGdp.net
メイメイの熱いしずくが、ククの心にワタルシミぃ……。


可可「…………メイメイ……!」ギュー

メイ「先輩……!!」ギュー


感動が伝播して、ククの涙腺もいままさに、くずれかけていマス……!

でも、泣きマセン! ククはシタタカに生きるんデス!

もう泣かないって、決めマシタから!


メイ「だめだな……歳とって、涙もろくなっちまった……」

メイ「先輩……先輩、先輩……!」

メイ「…………おいきな子! なに見てんだよ!!」

きな子「ひぃ!? ご、ごめんなさい~!」

181: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:46:13.79 ID:RWluUGdp.net
ククは、ひたすら泣いているメイメイの頭を、ずっと撫でてあげマシタ。

メイメイは、泣きながらもニマニマしているような気がしマス。見なくてもわかりマス。かわいい妹デス。


メイ「わりぃ、クゥクゥ先輩……。私のせいで服、汚しちまった」

メイ「……ってか、おいっ! なんでそんな薄着でいられるんだよ……!?」

可可「変デスか?」

メイ「変じゃなきゃつっこまねえよ!?」


メイメイはククのことについて、すでにいくつかの情報を持っていマシタ。きっときなきなが前知識をいれておいたのデショウ。


メイ「見えなくて不便なことはたくさんあるだろうけどよ……」

メイ「もしなにか困ったことがあったら、いつでも私に言ってくれ!!」

可可「ありがとうございマス。メイメイもデスよ」

メイ「私も……って、なにが?」

可可「メイメイも、困ったことがあったら、いつでもお姉ちゃんに言ってクダサイ」

メイ「おう! ……あれ、私いつの間にか妹にされてる!?」

182: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:47:13.64 ID:RWluUGdp.net
きな子「で、こちらが、クゥクゥ先輩とともに旅をしてきた、グソクムシ……ちゃん? さん?」

可可「グソクムシは呼び捨てでいいデスよ。グソクムシなので」

グソクムシ「ムシャー!!」ペチペチ

可可「痛いデス!」

メイ「……仲良いんだな」

可可「はいデス! ククはグソクムシと会話もできマスよ!」

メイ「マジかよ!? な、なんか話してみて……!」

可可「わかりマシタ~」


可可「グソクムシ。なにかククに話してみてクダサイ」

グソクムシ「…グムシャ、ムシャー」

きな子「えっ……!」

可可「『愚かな人類よ、我にひれ伏せ』……と言っていマス」

メイ「やばいじゃねえか! とんでもねえ魔獣連れてきたな!?」

きな子「……全然違います」

メイ「違うのかよ! というかきな子、動物と話せるって、グソクムシ語もわかんのか……?」

きな子「う、うん……そうみたい」

183: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:48:15.70 ID:RWluUGdp.net
メイ「先輩……。ほんとは話せないのに、私たちにいいとこ見せたくて見栄張ったんだな」

可可「!? そ、そんなわけ……ない……デェス……」

可可「さっきはたまたま調子が悪かっただけ! ククはグソクムシ語検定1級デスよ!?」

メイ「めちゃくちゃニッチな検定だな……」

可可「グソクムシ! またなにかしゃべって!」

グソクムシ「…」

グソクムシ「ムシャー、グムグム」

きな子「…………」

可可「『我、森羅万象を統べる神なり』……と言っていマス」

メイ「絶対に違うってのはわかる。きな子、正解は?」

きな子「えっ!? ……あー、おなかすいたなー、って……」

可可「そんなこと話してたのデスか!? さっき食べたばかりデショウ!」

メイ「やっぱりわかってねえのかよ!」

可可「はっ!?」


グソクムシ語検定1級の称号は、きなきなに譲らなければなりマセン……。

うう、ククが一番グソクムシを理解していると思ってマシタのに……。悲しい現実デス……。

184: 名無しで叶える物語 2022/12/09(金) 03:53:14.89 ID:RWluUGdp.net



『お歴々と100人の私』 第9話

とある研究所。
お歴々は、いよいよ来たる"9人目"に、心躍らせていた。
容器が開き、現れる"彼女"。
彼女はきょろきょろと周囲を見回し、次に、自分の身体を観察しはじめた。
スピーカーを通じて、お歴々が話しかける。

「きみの名前は"くぅ"だ」
「わたしは、"くぅ"……」
「そうだ。やはり、賢くしたかいがあったな」
「ああ。ガラスの破片を食べ、脳を突きやぶって死ぬマヌケはもう生まれない」
「やはり、9は絶対数だ」

お歴々は互いの肩に触れ合い、喜びを表現している。
その様子を、"くぅ"は観察していた。

「……ねえ、わたしよりまえには、なんにんいた?」
「8人だ。そしてきみが、9人目」
「だからなまえが"くぅ"なのね」
「すばらしい……! まさか、ここまで成長するとは!」

お歴々は、もはや、"くぅ"に視線を向けていなかった。
おのおの、自分の功績をほこり、自分がより優れていることを示すために、隣人をひどい口調で罵った。
お歴々のひとりが、チラッと彼女に目を配った。その視線の先には、一心不乱に頭を壁に打ちつける、"くぅ"の姿があった。

「死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる死んでやる」
「おい、やめろ!」
「命を粗末にするんじゃない!」
「賢すぎるのも毒なのか!」

"くぅ"は死の間際、悲壮に叫ぶ人間たちを見た。
その姿があまりにも滑稽だったので、痛みも忘れ、ほほえみながら果てた。

188: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:23:28.06 ID:fPMMqnho.net



アングラ生活 16日目


ここでの暮らしに慣れてきたククデスが、それに反比例して、ある問題が浮き彫りとなってきマシタ。

それというのも、どうやらモグラ族にとって、ククの存在はうとましいみたいなのデス。


可可「……ほうぼうから冷たい視線を感じマス。アツレキデス」

きな子「あはは……。たぶんみんな、様子をうかがってるんですよ」


ある日とつぜん降ってきた、頭に環がついた盲目の女と、でかいのグソクムシ。たしかに距離をとりたくなる気持ちもわかりマス。

駅構内に点在する、デカダンス的オーラをまとったモグラたち。毛布のすき間から、そのにごった双眸を見開き、投げかけてきマス。

おまえは、天使か悪魔か……。

彼ら彼女らが期待しているのは、タダ飯喰らいの招き猫ではなく、自身や集団に直接的な益をもたらす福の神なのデス。

んー。ククにもなにか、お手伝いできることはないデショウか……?

189: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:25:58.09 ID:fPMMqnho.net



きなきなが連れて行きたいという場所があるので、ククたちはF-16駅に向かいマシタ。

ちなみに、メイメイは自警団のお仕事があるので、普段あまり会えないのデス。あのオラついた声が聞けなくて寂しいデス……。

ナツナツに関しては、なぜか話題にもあがりません。まだ、きなきなプレゼンツのサプライズ企画は続いているのデショウか?


「移動は認められません」

きな子「な、なんでですか! メイちゃんがちゃんと、許可を取ってくれたはずです!」

「移動の許可ぁ? 知らないですね、決めるのは私です」


地下ではコミュニティー間の移動にも、いちいち自警団の許可が必要なようデス。そしていま、ククは厄介者として通せんぼされていマス。

しかしこの人、でかいの態度が鼻につきマスね。

この横暴な自警団幹部の髪型はポニテらしいので、ポニテと呼んでやりマス! こんぬぉコンチキショー、その髪ちょん切りマスよ!!

190: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:28:55.66 ID:fPMMqnho.net
ポニテ「頭に変なのがある化け物と、巨大な虫を、おいそれと通すわけにはいきませんよ」

ポニテ「そもそも、我々と同じ空間にいることすら許し難い。追放しないだけ感謝してほしいくらいです」

きな子「うっ……許可はちゃんともらったんです! それなのに通れないのは……おかしいです!」

可可「そうデスそうデス」

ポニテ「……はあ、わかりました。どうぞ通ってください」

ポニテ「しかし、あなたたちが問題を起こせば、それらはすべて米女さんの責任となります。それだけは忘れないように」


可可「いやな人デスねー。あれが自警団デスか!?」

きな子「うーん、いい人もいるんですけどね……。たとえば、メイちゃんとか……メイちゃんとか」


身内しかあがらないあたり、自警団の評判はお察しなのデショウ。

権力者はいつの時代も同じようなものなのデスね。

191: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:30:07.93 ID:fPMMqnho.net



「クゥクゥさん……!」

可可「この声……この胸は! すみれ──」

可可「…………妹……」

すみれ妹「はい! クゥクゥさん……またお会いできてうれしいです……!」


大きくなったすみれ妹の温度は、まるで本物のようで……。彼女に、すみれの影を重ねてしまいそうになりマス。


可可「…………」

すみれ妹「クゥクゥさん……!」ギュー


抱きしめてはいけない気がして、手持ち無沙汰になった両手はぶらりと垂れ下がりマシタ。


すみれ妹「こっちがうわさのグソクムシですね。こんにちは」

グソクムシ「ムシャー♪」

すみれ妹「なんだかこの子、お姉ちゃんみたい……」ナデナデ

可可「……はい」

192: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:32:30.46 ID:fPMMqnho.net
ふたりの話題は自然と、すみれに移りマシタ。


すみれ妹「……あの、クゥクゥさん」

可可「なんデスか?」

すみれ妹「もしよければ……お姉ちゃんのこと、聞かせてもらえませんか……?」

すみれ妹「お姉ちゃん自身も心配ですし……。家族を置いていくことになって、私たちを心配してたんじゃないかって」

すみれ妹「お姉ちゃん……やさしいから……。ひとりだけ助かったなんて知ったら、自分を責めちゃいそうで……」

可可「……はい。すみれは家族の安否を、とても心配していマシタ。何日も眠れていなかったのを覚えてマス」

すみれ妹「そうですか……。あー、なんで打ち上げが別々だったんだろ……なんでこんなことに…………」

すみれ妹「あ、ごめんなさい! 過ぎた話を掘り返しても、仕方ないですよね……」

すみれ妹「……あの、お姉ちゃんは……無事なんでしょうか……?」

可可「……ゴメンナサイ、ククにはわかりマセン。気づけば、地球に追放されていたので」

すみれ妹「そう、ですか…………。ありがとうございます……クゥクゥさん……」

すみれ妹「姉のそばにいてくれて、ありがとうございます……」

193: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:33:47.20 ID:fPMMqnho.net
すみれ妹と話している間、頭の環は終始、とても不規則に揺らいでいマシタ。すみれのことを強く想起しすぎたのかもしれないデス。

すみれ妹とわかれた後は、コミュニティーを飛び出し、きなきなに連れられ、駅のホームにあるベンチに落ち着きマシタ。


きな子「……迷惑、でしたか?」

可可「いえ! そんなわけありマセン」

可可「すみれ妹に会えて……ほんとによかったデス」

きな子「…………」

可可「きなきな」

きな子「え……はい?」

可可「まさか、ククの家族のことで気づかってるのデスか?」

きな子「!? そ、そういうわけでなくてですね、そのぉ……」アタフタ


きなきなは本当にわかりやすいデス。


可可「ククは早くから、家族が亡くなったことを知っていたので……ある意味、幸せだったのかもしれマセン」

可可「……そうやって、心に折り合いをつけていマス。だから心配いりマセン」

きな子「クゥクゥ先輩は、強いんですね……」

可可「ククは強くなんてないデス。いつもだれかの支えがあったから、ここまで生きてこられマシタ」

グソクムシ「……」

194: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:35:13.71 ID:fPMMqnho.net



C-3駅に戻り、寝室でぼーっと虚空を眺めマス。すると、すみれ妹に会った時のことが呼び起こされマシタ。

妹に、姉の姿を重ねるなんて、ククは最低デス……。それでもすみれへの劣情は膨張し、ククの頭を圧迫するのデス。

黒を背景に、すみれの姿が浮かびマス。

すみれ……すみれ……すみれ…………。

平安名や、ああ平安名や、平安名や。

記憶の中でまっすぐ微笑みかけられるだけで、悶々としてしまいマス。

しゅみりぇぇ…………。


グソクムシ「ムシャ…?」

可可「…………すみれ……」


衝動を抑えられず、ホワイトボードに、あふれる想いを書きつづりマス。

会いたい……!

195: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:37:37.20 ID:fPMMqnho.net
「あ」
「い」

そこまで書いて、ペンが止まりマス。

違いマス、違いマス、違いマス……。いえ、違わないのデス……!

すみれに、会いたい……。でも、それだけじゃない……。


可可「あああああああああ~~~!!」モジモジ

可可「ううあああ~~~……!!」バタバタ


ククは、欲張りさんデス! すみれとしたいことがいっぱいありマス……。やりたいことが、泉のごとくあふれてくるのデス……!

すみれの声を聞きたい、すみれの肌に触れたい、すみれの呼吸を感じたい、すみれに名前を呼ばれたい…………。

──すみれのとなりにいたい。


可可「ああ……あああぁ…………」

可可「すみれぇ……」



きな子「えっと……お取り込み中でしたか?」

可可「!?」

196: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:39:21.19 ID:fPMMqnho.net
見られた……! 恥ずかしいところを見られマシタ……!


可可「き、きなきな…………」

きな子「あの……一応ノックはしたんですけど……」

可可「……クク、いつもこんなことしてるわけではないデスから! ないデスから!!」

きな子「は、はい! わかりましたー!」


自分の顔が熱くなるのがわかりマス……。はぅ、トケそうデスぅ……。


きな子「…………『あいしてる』?」

可可「あぇ?」

きな子「これ、先輩が書いたんですか?」

可可「……?」


ククがボードに書いたのは「あい」だけデシタ。しかしなぜか、文字が増え、「あいしてる」になっているそう。

……不思議なこともあるものデスねぇ。

197: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:41:51.95 ID:fPMMqnho.net
可可「……スミマセン、取り乱しマシタ」

可可「それで、どうかしマシタか? きなきな」

きな子「……クゥクゥ先輩」


きなきなは真剣な面持ちで、ククを見つめマス。


きな子「──明日、夏美ちゃんに会ってくれませんか?」

198: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:43:16.35 ID:fPMMqnho.net



翌日。

C-1駅。そのさらに奥にある、車両が眠る暗室。

そこにはナツナツがいて、ひとり闇の中、ふさぎこんでしまっているそうデス。


メイ「夏美がああなったのは、私たちのせいだ……」

きな子「……私たちは夏美ちゃんが苦しんでるのに、気づいてあげられなかったんです」

可可(いったい、ナツナツの身になにがあったのデショウか?)


ちょっぴり不安を抱えながら、車庫へと足を踏み出しマス。

すると──。


夏美「オニナッツ~!」

夏美「夏美のお家へ、ようこそですの~!」

可可「!! この声は、ナツナツぅ……!」

夏美「クゥクゥ先輩~!!」

199: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:44:45.53 ID:fPMMqnho.net
夏美「先輩ー! 超超超お久しぶりですの~! 会いたかったですの~!!」

可可「ナツナツー! ククも会いたかったデスぅ~!!」


ナツナツと手をつなぎ、あてもないままくるくる回りマス。ランランラーン♪


メイ「なっ……! どうなってんだよ……急にキャラ変してんじゃねえか……」

きな子「……先輩に会えて、元気になったんじゃないかな?」

メイ「……だといいんだけどな」

可可「ナツナツ! この再会を喜びマショウ!」

可可「実に……ありぇ、何年ぶりの再会になるのデショウか……?」

夏美「……14年と5ヶ月ぶり、ですの♪」

可可「14年……! ククの半生デス……」

可可「しかし、よく覚えていマシタね?」

夏美「にゃはっ♪ 『正』の文字で、毎日欠かさず数えてますの」

夏美「いまの暦は、2022年184月17日ですの!」

200: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:47:19.66 ID:fPMMqnho.net
それからククたちは、日々のあれこれエトセトラについて歓談しマシタ。


夏美「先輩、そんなに肌を露出して寒くないんですの? よければ夏美の服を……」

可可「ククはあったかデスよ。ほれ」ピトッ

夏美「ほゎ~……。手がぬくぬくですの~……」


ナツナツは、失った14年にひたるように、とても楽しくおしゃべりしているように思えマシタ。

しかし、帰りの時間がやってくると、ひとりでまた暗闇の中に帰ってしまったのデス。


きな子「クゥクゥ先輩に会えば、いい方向に転ぶと思ったんだけど……」

メイ「くそぉ、だめかぁ……」


ククはナツナツについて、詳しくは訊きませんデシタ。ふたりもそれを望んでいないように見えたからデス

かつてのLiella!メンバー3人は、つながりこそあれど、昔とは違う関係性になっていマシタ。

201: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:48:33.05 ID:fPMMqnho.net



冬眠生活 22日目


もうすっかり、モグラ族の一員になっていたククの胸に、おき火のようにくすぶる激しい欲求。

ずっと考えていた、地下やモグラ族のためにククができること……。ククだからできること……。

──それは、ミナサンに笑顔を届けることデス!

ライブデス! この地下世界で、ライブをするのデス!

14年もの月日が流れてしまいマシタが……まだ卒業していないので、ぎりぎりスクールアイドルのはず!

この暗澹たる世界に、希望の光を灯しマショウ!

そうしたら、きっと、ナツナツも…………。


思い立ったが吉日。早速ライブを敢行するため、もろもろの相談をきなきなにすると、全力で否定されてしまいマシタ。


きな子「だ、だめです! ここでライブなんてしたら、自警団が……」

可可「では、自警団に見つからないよう、ゲリラライブにしマショウ!」

きな子「むりですよ……。だって、みんな……自警団のいいなりなんですから……」

きな子「お客さんが通報して、団員が駆けつけ……全部壊されるんです。ステージも、衣装も、希望も……なにもかも」


きなきなは、まるで実体験かのように語っていマシタ。

202: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:50:19.44 ID:fPMMqnho.net
可可「でも……やっぱり、ククはライブがしたいデス!」

きな子「クゥクゥ先輩……」


ククの脳裏を、これまで地下で出会った人たちの声が反響しマス。

生気をなくしたまま生きている、抜け殻のようなモグラ族。

彼ら彼女らは、毎日ウックツしながら、現実に絶望しながら、それでも自身の地位だけは失わないよう必死にもがいていマス。

ククは……そんなミナサンを変えたいデス。毛布の間からのぞくよどんだ目を、輝かせたいのデス。

きなきな、メイメイ、すみれ妹、ナツナツ……その他大勢! みんなに、ほんの一瞬でもいいので、楽しむ気持ちを思い出してほしいのデス!


きな子「……わかりました。きな子もできるだけ、先輩に協力します!」

可可「きなきなぁ……!」

きな子「では、まずは、自警団に許可を得るところから……ですね」


いきなりの超難関。デスが、ククたちなら乗り越えられるはずデス!

203: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:52:27.59 ID:fPMMqnho.net



ポニテ「……認められません」


ククときなきなは自警団本部まで出向き、ライブの企画を口頭で説明しマシタ。

しかしポニテ自警団幹部コンチキショーは、たいして熟慮もせず、テンプレ生徒会長のごとく、ククたちの案を一蹴しマシタ。


ポニテ「だいたい、なにがライブですか。ただ遊んでいるだけでしょ?」

可可「なにをー!?」

きな子「クゥクゥ先輩! 落ち着いて……!」

可可「ふぅ、ふぅ……。命拾いしマシタね……」


すぐカッとなってしまうのがククの悪いくせデス。


ポニテ「ライブの力で、みんなを笑顔に……? はっ、笑止千万!」

ポニテ「あなたたちは何様ですか? 神様にでもなったつもりですか?」

ポニテ「残念ながら、あなたたち程度の人間にできることなんて、これっぽっちもありませんよ」

可可「…………」

204: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:53:45.95 ID:fPMMqnho.net
かのん……。ククに勇気を……!


可可「…………やってみなくては、わかりマセン!」

可可「音楽の可能性は、無限なのデスから!!」

きな子「先輩……!」

ポニテ「……」

ポニテ「はあ、わかりました。ライブとやらは認めてあげてもいいでしょう」

可可「!! やりマシター!」

きな子「クゥクゥ先輩ー!」

ポニテ「……ただし、条件があります」

ポニテ「あなたは自分の主張ばかり通していますが、そもそも、あなたの存在をよく思わない人がたくさんいることを知るべきです」

可可「うっ……」


実際、ククの思いは独りよがりで、モグラのミナサンにとっては迷惑この上ない、ただの嫌がらせと受け取られてしまうかもしれないデス……。

それでも、なにかを変えたいと心が騒ぐから、ククは無鉄砲に走り続けマス! 結果はあとからついてくると信じて!

205: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:55:37.58 ID:fPMMqnho.net
ポニテ「もしライブがしたいのであれば、大前提として、この地下世界のためになにか貢献するべきではないですか?」

可可「貢献……」


「ライブこそ、まさに貢献デス!」……なんて言おうものなら、ヤマアラシのジレンマに陥ってしまうので、やめておきマス。


ポニテ「なんでもいいですよ。食料調達、施設修繕、治安維持……なんなら売春でも」

ポニテ「まあ、あなたにできるとは思えませんが」

可可(食料……!)


その時、「男の人っていつもそうですね!」と女性の叫ぶ声。廊下のほうで口論しているようデス。

まだ地球がかりそめの平和に満たされていたころ、広告でよく見たやつが、いますぐ目の前で行われていマシタ。


ポニテ「やれやれ、またですか……」

ポニテ「我々が寿命を削って地上を探索し、やっとの思いで手に入れた貴重な食料。それを、無産のモグラどもにも分け与えてあげているんです」

ポニテ「その見返りとしては、あれくらいして当然だと思いますけどねぇ」

きな子「…………」

可可「……なるほどデス」


見つけマシタ! ククが、ミナサンに貢献できる道……!

206: 名無しで叶える物語 2022/12/10(土) 02:56:48.83 ID:fPMMqnho.net
可可「食料調達は、自警団が行なっているのデスね?」

ポニテ「ええ、そうですが……」

可可「では、ククも行きマス!」

ポニテ「…………は?」

可可「ククも狩りしマス!」

きな子「せ、先輩……?」

ポニテ「……めくらのあなたに、なにができるというんですか」

可可「ククは約14年もの間、地上の世界でサバイバルしてきマシタ。そこで培った狩りのノウハウは、ここでも活かせるはずデス!」

きな子「あっ……そうですよ! クゥクゥ先輩には、圧倒的サバイバル能力があります! 熊だって倒したことがあるんです!」

可可「ククが集めた食料は、無償で各コミュニティーに配りマス。そうすれば、ミナサンハッピーになりマスよ」

ポニテ「……机上の空論ですね。ええ、どうぞ、食料調達部隊への参加を許可します。そこで無能をさらせば目が覚めるでしょう」

可可「はいデス! ……あと、ライブの約束も、忘れないでクダサイね?」


可可「もし約束をやぶったら──そのポニテ、ククの環でズタズタにしてやりマス!」

ポニテ「……いいでしょう、望むところです」

211: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:38:02.34 ID:j9XB83Jt.net



ハードボイルド・ワンダーランド生活 25日目


ブロブロブロ。5人を乗せた車は、がれきを蹴飛ばし、果てしなく広がるオープンワールドをひた走っていマス。

運転席、助手席には、自警団団員の男の人がひとりずつ。荷台には、同じく男の人ひとりと、ククとメイメイ。


──くるくるくる

可可『──……〈スペースラジオ〉のお時間です。──』

可可『──私、ナポリタンモンスターがお送りします。よろくしお願いします!──』

団員C「おい、なんだ? いきなり独り言はじまったぞ」

可可「……失礼な。それではククの頭がおかしいみたいではないデスか」

メイ「クゥクゥ先輩は、むさい車内を盛り上げようとしてくれてんだ! 文句言うんじゃねえ!」


メイメイは、ククがなにをしても擁護してくれマス。狂信者というやつで、最近ちょっと怖いデス……。

212: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:39:16.33 ID:j9XB83Jt.net
中断してしまいマシタが、再び意識を環に集中させマス。ラジオ再開デス。


可可『──ペンネーム「哲学的ぞんびぃ」さんからいただきました。いつもありがとうございます!──』

可可『──……実はわたくし、このたびようやく、自動車の免許を取ることができました。普段、うちのメイドに運転を任せきりなので、その労を減らせたらと思い、数年前から挑戦していたのです。そしてついに、試験に合格しました!──』

可可『──……しかし、事故を起こしたり、人をはねてしまうのではという不安に駆られてしまい、恐ろしくて車に乗れません。なので、結局、前と同じようにメイドさんに運転をお願いすることにしました。──』

可可『──ナポリタンモンスターさんもなにか、挑戦したものの、むだになってしまったことなどござい……──』

メイ「はぁ~! くるくる回ってるぅ……! かわいいぃ…………」

団員C「回転軸が安定してるな……。どれどれ……」

メイ「汚い手でさわんじゃねえ! 私も先輩にさわりたいけど、がんばって我慢してんだぞ!」

可可(……集中できマセン)

213: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:40:31.09 ID:j9XB83Jt.net
くるくるくる……


可可「ふぅー……」

メイ「やっぱ先輩ってすげえな! その環がソナー代わりになって、かなり広範囲の音を集められるんだろ?」

可可「はいデス! さっきのラジオも、どこかで流れているものを拾ってきただけデスよ」

団員C「こんな世界で、どこからラジオなんて流れてくるんだよ」

メイ「決まってんだろ。スペースラジオなんだから、宇宙からだよ!」

可可「宇宙デスか……」

可可(環はあくまで音しか感知しないので、だとしたら、電波を地球上で受信する者がいるはずデス……。しかし、地下の住人がそんなことしているとは思えマセン……)


団員B「ガソリン見つけたぞー!」

団員A「いつもよりお荷物が増えたのに、燃料も見つからなかったら最悪だったな」

可可「むっ」

メイ「クゥクゥ先輩がお荷物だと……!? いまに見とけよ、先輩はすごいんだからな……!」


なぜか、メイメイが代わりに怒ってくれマス。だんだんククのマネージャーのように思えてきマシタ。

214: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:42:36.51 ID:j9XB83Jt.net



"雨"が降りはじめたので、食料調達を打ち切り、ククたちはM17駅に戻ってきマシタ。

構内に待機していた団員は、働き蟻のように手際よく、大量の肉と大漁の魚を運んでいきマス。

いっしょに出かけた調達班の人たちは、ククのことを口々に、「すげえ」「見くびってた」などと呟いていマシタ。ククを見るその視線も、出発前とは異なっている感覚がありマス。


一仕事を終えたククとメイメイは、階段に座り込んで、だべりタイムデス。


可可「車という機動力があると、狩りはここまで効率化できるんデスねぇ~」

メイ「いや、それよりもクゥクゥ先輩がすごいんだよ!」

メイ「私たちは着ぐるみ状態だから動き鈍いけど、先輩は一枚着で、指示さえあれば軽々走り回れてるし!」

可可「はい! スイカ割りを思い出して楽しかったデス!」

メイ「急に全裸になって川に飛び込んだ時はさすがにビビったけどな……。男ども気絶させる羽目になっちまった」

可可「えへえへ」

215: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:44:31.35 ID:j9XB83Jt.net
先ほどまでククたちがいた地上には、いまだ放射能が滞留しているそうデス。

ぽつねんと置かれたガイガーカウンターは、常に沈黙を保っていマス。

どうやら放射線量が基準値を超えると、音が鳴らなくなるそうデス。なので、"音が鳴っている"ほうが安全なんだとか。

いまの世界はさながら、『沈黙の春 99レベル』といったところデショウか。


可可「……地下人にとって、外に出るのはかなり危険なのではないデスか?」

メイ「まあな……。命と引き換えにしてるようなもんだし」

可可「では、なぜメイメイはこの仕事に?」

メイ「私がやらないと、きな子たちが属してるコミュニティーが飢えちまうからな」

メイ「それに……夏美も……」

可可「!」

可可(メイメイが、ナツナツの話を……)

メイ「……でも、心配いらねえよ。私は絶対に死なねえから!」

メイ「"約束"があるからな……。私は絶対、生きなきゃいけないんだ」

216: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:45:21.53 ID:j9XB83Jt.net



可可「今日は久々に狩りをして、つかれマシタぁ……。ヘロヘロデェス……」

グソクムシ「ムシャー」

可可「グソクムシはお留守番デシタね。いい子にしてマシタか?」

グソクムシ「グム!」

可可「よしよし、えらいデス!」ナデナデ


グソクムシはククの上に乗っかり、いやすように抱きついていマス。

まったく、やさしいグソクムシなのデスね。


可可「今日は……27話デスね」

可可「では、読んでいきマショウ……」

グソクムシ「グムシャー」

217: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:46:17.17 ID:j9XB83Jt.net
……………………。
……………………。


かのん『大事な、話……』


部室が、静謐に満ちマス。みな立ち尽くし、千砂都の言葉を待っているのデス。


千砂都『あのね、実は私……』

千砂都『宇宙行きのチケット、もらえたの』

かのん『…………』

かのん『おめでとう、ちぃちゃん! すごいね……!?』

千砂都『かのんちゃん……』


そのチケットは、新天地で生きる道。全人類が喉から手が出るほど求めてやまない、希望行きの紙片デス。

それをなんと、千砂都が手に入れたというのデス。

218: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:47:40.37 ID:j9XB83Jt.net
恋『おめでとうございます!』

可可『千砂都のダンスが認められたんデスね!? これはすごいことデス!』

千砂都『……うん』

すみれ『千砂都……。絶対行きなさいよ』

千砂都『っ……。で、でも……』


いまの千砂都は、らしくない態度だと思いマシタ。

しかし、その内情はよくわかりマス。

この決断いかんで、Liella!のメンバーとは今生の別れとなるかもしれないからデス。


四季『実は、私も』

メイ『四季……おまえ……』

きな子『四季ちゃんも持ってるんすか……!?』

四季『両親の研究が認められて……。家族だから、私も』

夏美『……寂しくなりますの』

夏美『映画も……未完成になっちゃうんだ……』


一気に空気の重みが増し、だれも言葉を発せられなくなりマス。

219: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:48:40.54 ID:j9XB83Jt.net
夏美『四季……。千砂都先輩……』

夏美『…………"先に"行っててください』

千砂都『!』

すみれ『……そうね。どうせ私たちだって、あとから行くに決まってるんだから!』

かのん『ちぃちゃん! 四季ちゃん! 私たち、絶対ふたりのこと追いかけるから……!』

かのん『"Liella!"として、必ず宇宙に行くから……!』

千砂都『かのんちゃん……』

四季『……それなら、私もLiella!として宇宙に──』

メイ『おい、四季! おまえは賢いんだからわかるだろ?』

メイ『推しは推せる時に推せ……。宇宙は、行ける時に行くべきだ』

可可『もし今後、スペースシャトルに7人分の空きができた場合、9人だったら乗りあぐねてしまいマス』

可可『だったら、いまはふたりだけでも乗るべきデス!』

きな子『おまえ船降りろ、なんてことになったらいやっすもんね』

四季『…………そうだね。これは、私だけの話じゃないんだ』

千砂都『うん……。決めた、宇宙行くよ!!』

220: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:51:48.88 ID:j9XB83Jt.net
みんな、自然に手を重ね合わせ、いつもの円陣を組んでいマシタ。


かのん『あ、ミサンガ……』


9色がグラデーションとなって、丸を生み出しマス。


千砂都『これがある限り……』

千砂都『私たちは、つながってるよ……!』

かのん『……うん!』

可可『はいデス!』

すみれ『当然!』

恋『糸が、みなさんを結び合わせています!』

きな子『絶対に離れないっす!』

メイ『ああ! つながってる!』

四季『私たちはひとつ』

夏美『ですの!』

9人『私たちは、Liella!だー!』


みんな、顔がしわくちゃになるくらい泣いて……でも、重ね合わせた手だけは、だれも離しませんデシタ。


──夢寐にも忘れない思い出。


………………………。
………………………。

221: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:53:04.98 ID:j9XB83Jt.net



地下スクールアイドル生活 30日目


この日は狩りの収穫を祝って、コミュニティー内でささやかな晩餐会を開きマシタ。

鉄板を直火であぶり、焼き肉パーティーデス!


可可「ジンギスカン~♪ ジンギスカン~♪」

メイ「クゥクゥ先輩! ありがたくちょうだいします! いただきます!」

きな子「こんなに贅沢できるなんて、夢にも思わなかったです……。ありがとうございます、クゥクゥ先輩!」


ジュー。ふぅふぅ。ぱくっ。ジュー。

遠巻きに眺めていた住人たちも、香ばしい油のにおいに誘われて、鉄板を囲みだしマシタ。


モグラA「……おいしい! かなりかたいけど、おいしい……!」

モグラB「ありがとう……ありがとう……!」

222: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:55:05.47 ID:j9XB83Jt.net
いつしか、肉の焼ける音が聞こえなくなるほど、コミュニティーは活気に沸いていたのデス。

ミナサン、どんな表情を浮かべているのデショウか……? 笑顔だったらうれしいデス!


モグラC「クゥクゥさん、目が見えてないのにすごい!」

モグラD「頭の輪っかも天使みたいでかわいい~!」

モグラE「よく見たら、グソクムシもかわいい気がしてきた」

グソクムシ「ムシャー!」


お世辞にもおいしいとは言えない味デシタが、みんなで囲む食事は、とても幸せな時間になりマシタ。


きな子「夏美ちゃんの分、持っていってあげなきゃ……」

可可「……」


どうやらこの集団の中に、ナツナツはいないようデス。

人々の声はたくさん聞こえマスが、どこか物足りなさを感じマス。

223: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:56:07.41 ID:j9XB83Jt.net



焼き肉パーティーのあと、自警団からの許可を受け、ついにライブ開催が決定しマシタ!

会場設営から電力調達まで、すべてククたちがしなければなりマセン。デスが、なんとかなるはずデス!

やる気さえあれば、なんだってできるのデス! ククが言うと説得力も段違いデスね。


地下の電気はいくつかの発電所で作られているそうで、ここN-2駅もそのひとつ。

ライブに照明は必要不可欠なので、ここから電力を盗……いえ、拝借しようと思い、連れてきてもらいマシタ。


きな子「毎日毎日、自転車をこいで発電してるんです。それを蓄電器に貯めて……」

可可「ほへー」

きな子「あっ! 気をつけてください!」

きな子「むりやり工事したみたいで、壁にむき出しの配線が張り巡らされてるんです」

可可「さわったらどうなりマスか?」

きな子「まあ、自転車の電力なので大したことないですけど、ちょっとピリッときましたよ」


実体験のように語るきなきな。いえ、これは実際に経験してマスね。わかりマスわかりマス。

224: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:57:47.80 ID:j9XB83Jt.net



初ライブ当日。

ステージ、衣装、音響設備、照明器具、エトセトラ……。限られた資源でつくろったにしては、なかなかいいのではないデショウか!?

惜しむらくは、ククはその出来ばえを、目に焼き付けることができないデスけど。


きな子「いよいよですね!」

可可「はいデス! 資材集めから準備まで手伝っていただき、ありがとうございマス。きなきな!」

きな子「私たちの分まで、がんばってください!」

メイ「クゥクゥ先輩! 私が考えたセトリ通りなら、100%盛り上がること間違いなしだから!」

可可「はい! メイメイも、ありがとうございマス!」

メイ「先輩のためならお安い御用だ!」

225: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 03:59:29.75 ID:j9XB83Jt.net
きな子「先輩……。肝心のパフォーマンスは大丈夫そうですか?」

きな子「目が見えないのもありますけど、14年ぶりに踊るわけですし……」

可可「心配には及びマセン! ククには、"ドリブル"がありマスから!」

きな子「ど、ドリブル……?」


『Liella!って、どのメンバーもすごいんだよ』
『かのんは歌うまいし』
『千砂都はダンスが抜群だよね』
『すみれはショウビジネスで』
『恋はかわいいもん』
『クゥクゥは……ドリブルがうまい』

いま思えば、あれはばかにされていただけデシタが……。でも、いいデス!

いまのククは、あれから成長していマスから! 圧巻のパフォーマンス、披露してやるデス!

226: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 04:00:55.68 ID:j9XB83Jt.net



照明の反射できらめく天井は、夜をかざる星々となり、ククのステージを見守ってくれマシタ。

地下街の広いスペースに設置した、即席ライブ会場。満員御礼とはいきマセンが、気配を感じるくらいには多くの人が観に来てくれていたように思いマス。

ライブ中、ククの身体は、思っていたよりも動いてくれマシタ。14年前とまるで変わらず。


可可「────♪」


メイメイが言っていたとおりデス。曲が進むにつれボルテージはどんどんとブチ上がり、終盤になると、フェスクラスの盛り上がりを見せマシタ。

観客の顔が見えないのが、残念でなりませんデシタ。この時ククは初めて、自身の盲目を悔やみマシタ。


可可「最後まで盛り上がっていきマスー!!」

観客「Fooooooo!!」



夏美「…………」


ステージから、少し離れたあたりに位置していたナツナツ。

その影は、ライトを避けるように、長く伸びていたのデショウか。

227: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 04:02:27.08 ID:j9XB83Jt.net



ライブ後。号泣するメイメイをあやしていると、きなきなに声をかけられマシタ。


きな子「……クゥクゥ先輩。ちょっといいですか」

可可「……?」


ふたりきりでその場を離れ、ホームまで下りマシタ。

線路に足を投げ出す形で、白線の外側にふたり、横並びに座りマス。


きな子「……まずは、ライブお疲れさまでした! 素晴らしいステージでした!」

可可「本当デスか! それならよかったデス!」

きな子「ほんとに……いいライブでした。とっても」


きなきなは、どこか遠くをぼんやり眺めていマシタ。古いアルバムをめくるように。

229: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 04:03:56.19 ID:j9XB83Jt.net
きな子「……実は、私……昔、この地下世界で、アイドル活動してたことがあるんです」

可可「なんと! それは初耳デス」

きな子「初めて言いましたからね……。メイちゃんもいっしょだったんですけど……まあ、言わないですよね」

可可「……"昔"の話、なんデスね」

きな子「はい……」


少しでも言葉が絶えると、空虚さがコンクリートの壁を反射し、闇に吸いこまれていきマス。


きな子「私たちもクゥクゥ先輩みたいに、この世界をよくしようと、奔走してたんです」

きな子「でも、だめでした……」

きな子「この闇の世界を照らす、星になることはできませんでした」


きなきなの視線が、ククに向いた気がしマス。重なった手から熱が送られてきマス。


きな子「……今日のライブ。きらきら輝くクゥクゥ先輩を見て、思いました」

きな子「クゥクゥ先輩なら、闇をはらう光になれる……」

きな子「──きな子はそう思ってるっす!」

可可「!!」

230: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 04:05:36.48 ID:j9XB83Jt.net
きな子「勝手にハードルあげて、期待を背負わせてるのはわかってるんす……」

きな子「だけど、クゥクゥ先輩こそ希望の星だって、きな子は思ったんす!」

きな子「先輩なら、この地下を…………いや、世界を! 変えられるはずっす!」

可可「きなきな……」

きな子「……あっ! わ、私、ひとりでべらべら変なこと言ってました……! 恥ずかしい……」


ククは身体をひねり、重なった手に、さらに手を重ねマス。


きな子「!」

可可「では……きなきなの期待に応えられるよう、ククも努力しなければ、デスね!」

きな子「先輩……!」

きな子「……きな子には、夢があるっす。叶うわけがないから、いままでずっと、心のうちにかくしてたんすけど……」

きな子「いつか、ここから地上に出て…………そして、"春"を見たいっす!」

可可「はいデス! ククが桜を咲かせてみせマス!」

きな子「ふふっ……。ありがとうっす、先輩♪」

231: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 04:06:57.30 ID:j9XB83Jt.net



それからは多忙な日々デシタ。

ライブツアーと称してコミュニティーを回り、行く先々で歌い踊り、くるくるしマシタ。


あと、ククの体温が高いことが、人口にカイシャしはじめていたようで……。

いつの間にかククは、湯たんぽや"ホタテ"として重宝されるようになっていマシタ。

三角座りするククをモグラ族が囲み、ご利益のある仏像を拝むように、手を差し出すのデス。


メイ「おい、そこ! おさわり禁止だ!」

メイ「そっちも! 先輩にセクハラしたらぶっ飛ばすからな!!」


メイメイはいつしか、アイドルの握手会などでよく見かける"剥がし"になってマシタ。いよいよどこに向かっているのかわかりマセン。

んー……。モグラ族のミナサンに頼ってもらえるのはうれしいのデスが、ククはいつも湯たんぽでいるわけにもいきマセン。そこで考えマシタ。

すでにある施設を改築して、お風呂屋にしてしまうのデス! これならいつでも、おっほ~できマスね!

こうして地下世界は発展していきマシタ。 そして、人々の心持ちにも、じょじょに変化が生まれはじめていマシタ。



ポニテ「ちっ……」

232: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 04:08:07.20 ID:j9XB83Jt.net



地下に来てから、何日目だったかのこと。

M14駅。ここでククは、ひとりの好々爺と出会いマシタ。


「おやおや、私になにかご用ですかな?」

きな子「この人は、"ソーリ"と呼ばれてるんす」

可可「ソーリ?」

きな子「総理に似てるからって理由なんすよ。安直っすよね」

ソーリ「ああ、困りましたなあ」

可可「なにかお困りデスか? ククにできることならなんでも──」

ソーリ「いやはや、大統領が殺された! こりゃ参りましたよ、ええ」

ソーリ「世界は真実をかくしている……私もそうだ! なんてことだ!」

可可(……話の脈絡が見えないデス)

233: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 04:08:55.32 ID:j9XB83Jt.net
ソーリ「ああ、きみは……"方舟計画"の端くれですね?」

可可「!」

ソーリ「なんてことだ、きみのような女の子が地球にいる! 正解です!」

可可「正解……?」

ソーリ「私はねえ、宇宙に行けたんですよ。なぜここにいると思うかね?」

可可「……地球と心中したかったから?」

ソーリ「そうだ! 私は惑星国家にいるんですよ、ええ!」

可可「あなたは、ここにいマスよ」

きな子「……この人は、あまり話が通じない人なんすよ。さ、先輩」

ソーリ「ここにいる、そうさ、ああいる! だけど、私の意志は惑星国家で生きる!! はははははは」

きな子「先輩!」

可可「……拜拜デス」

ソーリ「ははっはっはーはははっ」

234: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 04:10:39.21 ID:j9XB83Jt.net



地下暮らし 66日目


この日、ククの地下暮らしにおける、最も象徴的なイベントが起こりマシタ。


可可「食料調達デスね、ククにお任せデス!」

ポニテ「はい。ですが少し、あなたに知ってもらわなければならないことがあります」

可可「なんデス?」

ポニテ「あなたとともに食料調達に出向く、我が自警団の団員たち。彼らは日々、危険な屋外での作業で、身を削っています」

ポニテ「私としては、そんな団員たちの身の安全を優先したいんです」

可可「……と、いうと?」

ポニテ「わかりませんか? 察しの悪いオツムだこと」

可可「むっ」

ポニテ「あなた"ひとり"で、食料調達に出かけてください」

可可「クク、ひとり……デスか」

235: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 04:12:04.01 ID:j9XB83Jt.net
メイ「ちょっと待てよ! あんたよぉ、自分が何言ってるかわかってんのか!?」

可可「メイメイ!」

ポニテ「おや、米女さん。立ち聞きとは感心しませんね」

メイ「また、嫌がらせするつもりか……?」

メイ「クゥクゥ先輩が、地下の住人からしたわれてんのが気に食わないんだろ?」

メイ「あんたは自分より上の人間がいるのが怖いんだもんなぁ? なあ、ビビってんだろ?」

ポニテ「なっ……!」

ポニテ「……唐さん。聞くところによると、あなたは地上世界で十数年間、たったひとりで生きてきたとか」

可可「ひとりではありマセン。ひとりと一匹デス」

ポニテ「なんでもいいです。とにかく、あなたならひとりでも、食料調達が可能だと推定しての提案です」

ポニテ「この提案が飲めないならば、今後、地下でのライブ活動は禁止します」

可可「!?」

メイ「くそっ……! 結局こうなるのかよ……」

236: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 04:13:55.46 ID:j9XB83Jt.net
可可「待ってクダサイ! ククひとりだと、狩りの効率が著しく低下しマスよ」

ポニテ「……では、ひとりだけ連れていってもかまいません。あなたには盲導犬が必要でしょう?」

メイ「じゃあ、私がついてく。車も……がんばれば運転できるだろうし……」

ポニテ「……それは認められないです」

メイ「はあ!? なんでだよ、ひとりなら連れていってもいいって──」

ポニテ「あなたは自警団団員ですので、あなたの身は守らなくてはなりません。ですから、米女さんがついていくことは許可できません」

メイ「んだよ……! 普段あんな扱いのくせに、こんな時だけ仲間ぶりやがって……!」

可可(……モグラのミナサンのためには、このポニテの言うことを聞くしかありマセン)

可可(ひとりだけ連れていいそうデスが、だれにすればいいのデショウ……)

可可(…………グソクム──)


「オニナッツー!」

237: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 04:15:39.65 ID:j9XB83Jt.net
可可「!! ナツナツ……?」

メイ「なんでここに……!?」

ポニテ「あなたは……たしか、鬼塚さんでしたか。移動許可はとってあるんでしょうね?」

夏美「当然ですの~! 夏美はそのへん、抜かりないですの!」

メイ「……夏美! どうして、急に……」

夏美「話は聞かせてもらったですの~」

夏美「クゥクゥ先輩。お供には、ぜひ夏美をお選びくださいですの!」

可可「ナツナツを……?」

メイ「おい、夏美……なに企んでやがる……」

夏美「別にぃ? なにも企んでませんの~」

夏美「危険な外に行きたいと立候補する人はそういませんよ。さ、夏美を選んでくださいな」

可可「……はい。ナツナツ、いっしょに来てクダサイ」

夏美「喜んで、ですのー!」

238: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 04:18:08.57 ID:j9XB83Jt.net
ポニテ「……ではいつものように、食料調達のほう、頼みましたよ」

メイ「っ……」


可可「……ナツナツは、車の運転できマスか?」

夏美「夏美にお任せですのー! それくらい、お茶の子さいさいにこなしてみせますの!」

可可「では、お願いしマス!」

夏美「はいですの!」


ククたちはそのままの足で、外への唯一の出口がある、M17駅へ。

階段を昇ろうとすると、メイメイに止められマシタ。


メイ(クゥクゥ先輩。夏美に聞こえないよう、耳打ちで話す)

可可「!」

メイ(これは、私の杞憂で済めばいいんだが……)

メイ(実は、10年近く前……。自警団の管理していた銃が、なくなったことがあるんだ)

可可(銃……!)

239: 名無しで叶える物語 2022/12/11(日) 04:19:17.60 ID:j9XB83Jt.net
メイ(いまだに行方知れずで、特に事件も起きなかったことから、みんな忘れちまってるんだろうけど……)

メイ(……とにかく、夏美には注意しろ! あいつはなにするかわからない……!)

メイ(……夏美を、頼む)

可可(メイメイ……)


ふと、昔読んだ小説を思い出しマシタ。

「物語の中に拳銃が出てきたら、それは発射されなくてはいけない」

外星人が持っていた銃は、躊躇も容赦もなく発射されマシタ。

……では、「消えた銃」は、どうなるのデショウか……?


夏美「なにしてるんですの、先輩。早く行きますの~♪」

可可「……はいデス!」



物語的にいえば、これは死を予感させるメタファーなのかもしれマセン。いえ、もっと直接的な表現デスね。

ククは、かつて出会った片腕さんのように、むざんにころされてしまうのかもしれマセン。

一歩、また一歩。死が大きな足音を立てて接近しマス。

……しかし不思議と、恐怖はありませんデシタ。

246: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:23:10.33 ID:4cIxEVRT.net



夏美「なっつ~!」キキー

可可「──!?」


ガンッ! ふわりと跳ねる車体。着地の衝撃で舌を噛みそうになりマス。

ナツナツの運転は、カーアクションを売りにした映画並みにひどいものデシタ。技術というより、エンターテイメント優先な運転態度に問題がありそうデス。

安全バーの代わりに目かくしをつけた、危険きわまりないジェットコースターデス。


可可「おぇ……」

可可「ナツナツぅ……。運転はだれに習いマシタか……?」

夏美「そんなの決まってますの。ドミ○ク・トレットですのー!」

可可「……納得デス」

夏美「さ、先輩。ここで降りてください」

247: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:24:20.98 ID:4cIxEVRT.net
言われたとおり車から降り、これからはじまる狩りにそなえ、軽くストレッチしておきマス。

…………。

車のそばで待機すること数分。おかしいデス、ナツナツがいマセン。

てっきりナツナツは狩りの準備でもしているのだと思っていマシタが、完全に気配がなくなってマス。

まさか、置いていかれた……?

しかし移動の足である車は、ククのとなりにでかでかと鎮座していマス。この状態で、いったいどこへ……。


環を回してナツナツを探そうかと思っていると、けたたましい鳴き声が、どこかから近づいてきマシタ。

ブォンブォーン!


可可(エンジン音が車とは違いマス……。これは……)

可可(…………バイク?)


爆音はククを目がけて直進してきマス。

ブォンブォンブォーン!


可可(ひかれる……!)


キィィィイイ!

248: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:25:09.11 ID:4cIxEVRT.net
夏美「お待たせしましたですの、クゥクゥ先輩!」

可可「ナツナツ……。なぜ、バイクに……?」

夏美「クゥクゥ先輩とツーリングしたかったからですの! ここに保管してあるのは聞いていましたから」

夏美「食料調達なんて、適当に済ませばいいんですの。それより、せっかくふたりきりなんだから、いっしょにデートしましょう!」

夏美「ほら、先輩! 早く後ろに乗ってくださいですの!」

可可「あぇ、あぇ」


ククの中で、メイメイの話していた言葉が浮かびあがりマシタ。

『……とにかく、夏美には注意しろ! あいつはなにするかわからない……!』

いぶかしく思いながらも、後部座席に乗るしかありませんデシタ。


夏美「しっかり夏美をつかんでくださいね。それでは、行きますのー!」ブォンブォーン

可可「……ナツナツ。バイクの運転は、なにを観て勉強したのデスか……?」

夏美「もちろん、『○KIRA』ですの!」

249: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:26:14.89 ID:4cIxEVRT.net
びょうぼうと広がる死の土地。ククとナツナツはでかいのバイクにまたがり、風をきってひた走りマス。

かすめる空気が、ナイフのように鋭く、肌を切り裂きマス。


夏美「にゃはぁ~~~! フルスロットルでブッ飛ばしますの~!!」

可可「ナツゥ~~~!?」


振り下ろされぬよう、ナツナツの手を回して必死にしがみつきマス!

ナツナツは楽しそうにはしゃぎ、エンジンを吹かせていマス。運転すると性格が変わるタイプなのかもしれないデスね。

しばらく走ると、エンジンは落ち着きを取り戻したようで、ふたりを乗せた車体は惰性で進み、やがて止まりマシタ。


夏美「クゥクゥ先輩、着きました!」

可可「……ここはどこデスか?」

夏美「東京湾に面した港です。ここから、東京射場が見えるんですの」

可可「あ、ククも来たことありマス! 隕石が落ちる前、すみれとふたりで」

夏美「…………そうでしたか」

250: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:27:56.79 ID:4cIxEVRT.net
カチャリ、撃鉄を起こす音。殺意が顔を覗かせる。

背後から死の宣告を突きつけられる。

その銃は、ナツナツのきれいな手には似合わないだろうと、勝手に妄想を膨らませてしまいマス。


夏美「…………クゥクゥ先輩、死んでください」

可可「……」

251: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:29:05.97 ID:4cIxEVRT.net
見えもしないのに、東京湾をながめ続けているクク。その至近距離にいるナツナツは、淡々と述べマス。


夏美「勘違いしないでください。私はクゥクゥ先輩が好きですし、ころしたいとは思いマセン」

夏美「でも……先輩には、ここで死んでもらわないといけません」

可可「……ウラハラというやつデスね」

夏美「だから、お願いです。この港で入水してもらえませんか……?」

夏美「でなければ、心臓を撃ちます。一発しか装填されてなかったけど、この距離なら絶対に当たりますから」


ククはくるっと振り返り、足の裏の感触を味わうようにゆっくりと、ナツナツに迫りマス。


夏美「う、撃ちますよ……!」


触れ合える距離まで近づいたら、両手でやさしく、ナツナツの手を包み込みマス。

それは、生きている人間の手デシタ。


可可「──殺していいデスよ」

夏美「なっ……つ……!?」

252: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:30:32.77 ID:4cIxEVRT.net
ナツナツの動揺は、指先まで伝わりマシタ。


可可「たまーに、死にたくなる時があるんデス。グソクムシのこととか過去の記憶とか、なにもかも投げ捨てて、楽になろうとしてしまうのデス」

可可「ひもやロープがあれば、ククはいまごろ、木の下でぶらぶらしてマシタ」

夏美「…………なにを言ってるんですか、先輩?」

可可「ククが死ぬとグソクムシが悲しむので、これまではなんとか生きてきマシタ」

可可「デスが、いまは地下という安全基地があり、モグラのミナサンがいマス」

可可「あそこでなら、グソクムシもかわいがってもらえるし、暮らしていけるはずデス」

可可「ククはもう、不要なのかもしれマセン」


夏美「……………………」

夏美「…………クゥクゥ……」

253: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:33:35.47 ID:4cIxEVRT.net
ナツナツの手から力がぬけ、銃が垂れ下がりマシタ。


可可「撃たないのデスか?」

夏美「…………撃てるわけ、ないよ……」


すでにひき金からは、指が外されていマシタ。銃はあてもなく、空中をさまよっていマス。


夏美「私、ずっと、変化が怖かった……」

夏美「寒くて暗い、地下の国……。自警団に支配され、資源も乏しい劣悪な環境だったけど……」

夏美「だけど、あそこには14年の生活があって、そこに安定が生まれていた……。波風立てず平穏に暮らせば、命は保証された」

夏美「だから、クゥクゥ先輩が現れ、地下がじょじょに変わりはじめて……恐怖したんです」

夏美「"私たち"の安寧が、破壊される……って」

可可「……そうデシタか」

夏美「大好きな先輩だとしても、目ざわりだったし、追い出したかった……」

夏美「でも、もうできないよ……。クゥクゥ先輩も、悩んだり葛藤したりする、普通の人間なんだって気づいちゃったから……」

夏美「先輩も……"私たち"の一部なんだから……」

254: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:35:09.55 ID:4cIxEVRT.net
ふるえるナツナツの手を握りマス。

つい先ほどまで自分をころそうとしていた人間を、励まそうとしているのデス。


夏美「……クゥクゥ先輩」

可可「はい?」

夏美「先輩が、死のうとしてたって話……だれかに言いました?」

可可「いえ、いまナツナツにしたのが初めてデスよ」

夏美「……じゃあ、絶対、きな子やメイには言わないでください」

夏美「あの子たちに、こんな悲しい想いはしてほしくないですから……」

可可「……はい」

可可「ナツナツ、ひとつだけ言っておきマス。ククは決して、自分から死のうとは思いマセンよ」

夏美「……信じられません。銃口を向けられてるのに、平然と近づいてくる人の言葉なんて」

可可「ナツナツは撃たないと、わかっていマシタから!」

夏美「……ほんと、ばかですの。夏美を信じちゃうなんて…………」

255: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:38:51.49 ID:4cIxEVRT.net
港を離れ、再びバイクで移動しマス。

デートはまだ続いているようで、今度はどこか、がれきの山にやってきマシタ。


夏美「先輩! ささ、こちらの席へ」

可可「ふかふかデス……! まさか、このいすは……」

夏美「はいですの! なんとなんと、映画館のシートですの~!」

可可「おっほー! すごいデス、座るだけで映画館の気分にひたれマスよ!」

夏美「まあ、壁や天井、スクリーンに映写機すらないんですけどね~」


寒風にさらされながら、貸切映画館でふたり語らいマス。


可可「ほ~。ナツナツの映画趣味はしぶいデスねぇ」

夏美「夏美は作品より、出演者で視聴を決めることが多いので、自然とそうなりますの」

256: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:40:41.13 ID:4cIxEVRT.net
可可「SF映画は観ないのデスか?」

夏美「んー……ベタですけど、タイムリープものは好きですの! 『○をかける少女』に感銘を受けたのがきっかけだと思いますの」

可可「実写のほうデスか? それともアニメ?」

夏美「両方ですのー」

可可「ククは『20○1年宇宙の旅』がSFの最推しデェス」

夏美「ずいぶんと古典作品が出てきましたの……。たしかに時代背景を考えれば、素晴らしい映像技術ですけど、やはり近代映画と比べると見劣りする部分が多く感じますのー」

可可「そうデスか……。ククたちが生まれたころにはすでに映画はCGが主流デシタから、そう感じるのも致し方なしデショウか」

可可「ただ、ククはCGに頼らない映画のほうが好きデス! CGを使わず創意工夫で表現している映像を観ると、監督や技術スタッフなどに賞賛を送りたくなりマス!」

夏美「あー、それは少しわかりますの! クゥクゥ先輩、ノー○ン監督とか好きそうですね?」

可可「『インタース○ラー』の監督さんデスね! はいデス! 『インセ○ション』の重ね合わさった図書館やぐるぐるホテルなんて興奮しすぎて鼻血ものデスよ!」

夏美「それ、渡○謙さんが出てたから観ましたのー! ああ、しぶくて深みのある演技、最高ですの……!」

257: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:43:15.08 ID:4cIxEVRT.net
肘かけの上で、ナツナツの手をにぎりマス。


可可「ナツナツ……。スクールアイドルになってくれて、ありがとうございマス」

夏美「な、なんですの? 藪から棒に……」

可可「……ククはよく、高校時代の夢を見るんデス。思い出補正込みの回顧なのかもしれマセンが、そんな夢寐にも忘れない思い出が、ククの救いなのデス」

可可「……その思い出の中に、ナツナツがいてくれてよかったデス」ナデナデ

夏美「あぅ……先輩……」


ナツナツは返答に窮しているようデス。なんだかソワソワしているような。


夏美「……せ、先輩、昔は夏美のこと、ナツゥと呼んでくれていましたよね。どうしていまはナツナツなんですの?」

可可「んー、妹だから……デショウか」

夏美「…………妹」

夏美「はあ……。そうですか……まあべつにいいですの……」


ナツナツはすねたようにボソボソつぶやきマス。クク、なにか変なこと言ってしまったデショウか?

258: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:47:56.96 ID:4cIxEVRT.net
可可「ククはずっと、Liella!妹化計画なるものを水面下で進行してきたのデェス」

夏美「なんですの、それ……」

可可「ククはLiella!の姐姐的存在なので、みんなを妹にしようと企んでマシタ。まあ、うやむやになって、最近まで凍結していたのデスが」

可可「ククの妹はみな、きなきな~、メイメイ~、レンレン~のような呼び方になるのデェス!」

夏美「すでに恋先輩も妹化してましたの!?」

可可「そういうわけで、ナツナツもククのこと、お姉ちゃんと呼んでクダサイ!」

夏美「いやですの……。クゥクゥ先輩は、クゥクゥ先輩ですよ」

可可「……デスが、ナツナツは裏ではククのこと、『クゥクゥ』と呼び捨てしてマスよね?」

夏美「なつぅ!? なぜそれを……」

可可「ククの環は、地獄耳なのデス!」

可可「まさか、すみれ(仮)の正体がナツナツとは思いませんデシタ。びっくりデス」

夏美「すみれかっこかり……?」

可可「いえ、こちらの話デス」

可可「ククは、ナツナツが毎日、Liella!のみんなの名前を呼んで泣いていることも、ぜんぶ知っていマァス!」

夏美「な、泣いてなんかいませんの!」

可可「ナツナツはかわいいデスねぇ~」ナデナデ

夏美「うぅ~……!」

259: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:50:20.86 ID:4cIxEVRT.net
可可「……今日はナツナツとたくさん話せて、とても楽しかったデス!」

夏美「夏美も……久々に、人といっぱい会話して、疲れましたの」

可可「では、そろそろ帰りマショウか……あ! 食料調達が……」

夏美「それなら大丈夫ですの。倉庫にはまだまだ備蓄がありますから、また今度でもいいはずですの」

可可「そうデスか……ほっ」


映画館を出て、駐輪場へと向かう道すがら。ナツナツはずっと、ククの手をにぎってくれていマス。


夏美「先輩。さっき夏美に、『スクールアイドルになってくれてありがとう』って言ってましたよね」

夏美「私からも言わせてください……。スクールアイドルの素晴らしさを教えてくれて、ありがとうございます……ですの!」

可可「ナツナツぅ……!」

夏美「Liella!でいた期間は短いですが……最高な日々でしたの」

夏美「唯一悔いが残るのは、映画が未完成のままということだけですの」

可可「はい……。ククのスバラシイ演技が歴史に埋もれてしまいマシタ……」

夏美「そんなものは、もとからありませんでしたの……」

260: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:52:55.77 ID:4cIxEVRT.net
砂けむりの雲のすき間から、太陽が覗いていマス。

それがスポットライトのように、ククたちが乗るバイクを照らしだしていマシタ。


夏美「……クゥクゥ先輩ー!!」ブォンブォーン

可可「なんデスかー!?」ブォンブォーン

夏美「今日、こうやって外に出て……ぼやけたお日様を拝んで……夏美には夢ができましたのー!!」ブォンブォーン

可可「それはよかったデスー!!」ブォンブォーン

夏美「マニーは天下の回りもの……!」ブォンブォーン

夏美「いつか、このお日様のもとで、資本主義社会を復活させる……それが、夢になりましたのー!!」ブォンブォーン

夏美「遠い未来になるかもしれませんが、夏美は絶対に、叶えてみせますの……!! そして、億万長者になってみせますのー!!」ブォンブォーン

夏美「クゥクゥ先輩!! その時はいっしょに、夏美の夢を叶えるのを、手伝ってくださいですのー!!」ブォンブォーン

可可「もちろんデス!!」ブォンブォーン

夏美「…………ありがとう!! お姉ちゃん!!」ブォンブォーン

可可「!!」


この日、ククは初めて、お姉ちゃんと呼んでもらえマシタ……!

だから今日は、お姉ちゃん記念日デス。