「くぅくぅ土星論」 前編

261: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:54:44.89 ID:4cIxEVRT.net



地下生活をはじめてから、あっという間の3ヶ月デシタ。

定期ライブは毎度盛況で、きなきなやメイメイ、ナツナツも参加してくれるようになり、ますます盛り上がりを見せていマス。

ファンの方の間でククが神格化し、貢ぎものが贈られるようになったのは困りマシタが……。

すみれ妹とは、適度な距離を保ちながら、交流を続けていマス。たまに、すみれのことを思い出して泣きそうになるので、伏し目がちになっていマス。変に思われてないといいのデスが。


可可「こちら、タン星クク統治区(仮)」

可可「……あらため、地球星東京地下鉄駅」

可可「今日はスバラシイ日デシタ!」

可可「明日はさらにいい日になるといいデスね、グソクムシ♪」

グソクムシ「グムシャー」


可可「『お歴々と100人の私』……今日で99話目デスね」

グソクムシ「ムシャー!」

可可「クライマックスに向け、ここからどのように展開するのか! 伏線を忘れず回収できるのか……!?」

可可「──第99話、読んでいきマショウ」

262: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:56:06.43 ID:4cIxEVRT.net
『お歴々と100人の私』 第99話

とある研究所
お歴々の寵愛を受け、この日ついに、"99人目"が誕生した。
"彼女"は生まれて間もなく、染みついた痕跡に気づいた。

「わたしの名前は、"くぅくぅ"……」

意気揚々と、研究所をあとにした"くぅくぅ"。
ジャングルをぬけ、巨大な川を飛び越え、平野を駆ける。
世界の頂点に立った時には、自分が世界そのものだという気分になった。
しかし、世界を10周してようやく、"くぅくぅ"は真実にたどり着いた。
"くぅくぅ"がいままで行ってきたことは、すべて、過去の"わたしたち"がすでに行ってきたものなのだ。
どこにも、オリジナリティーなんてない。全部全部、だれかのマネごと。
そして、これから行うことも、"100人目"への布石でしかない。

「わたしはわたしであって、"私"ではない。じゃあ、いまここにいる"わたし"はだれ……?」

"くぅくぅ"は怒り、戸惑い、狂った。これもまた"98人目"までと同じ行動だった。
しかし"くぅくぅ"は、いままでの"わたし"とは違う思考を持った。

「これまでの"わたしたち"もきっと、真実を知って絶望した。そして、答えを見つけられなかったんだ」
「かくいうわたしも、どうすればいいのかわからない……」
「だったら、99人分の想いを、最後に生まれてくる"私"へと……」

"くぅくぅ"は最後に、未来を見た。
歴代99人の"わたし"から受け継いだバトンを、"100人目"はどう受け取るのか。
世界の命運を左右する決断は、すべて、"私"に託された。

263: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:57:01.60 ID:4cIxEVRT.net
可可「次でようやく100話目……最終話を迎えマス」

グソクムシ「ムシャー…」

可可「寂しいデスか? ふふっ、これが終わっても、また新しい物語がはじまりマスよ」ナデナデ

可可「明日……楽しみにしててクダサイね、グソクムシ♪」

グソクムシ「グムシャー!」


ククの上にくっついたグソクムシ。その硬い甲殻を撫でていると、ふと形容し難い不安感に襲われマス。


可可「……グソクムシ」

可可「……ずっとククのそばにいてクダサイね」

グソクムシ「ムシャー…?」


この時、ククが感じた不安は、実現してしまい……。

ククがグソクムシに、100話目を語ることはありませんデシタ。

264: 名無しで叶える物語 2022/12/12(月) 03:58:49.35 ID:4cIxEVRT.net
…………。

遠くから、不気味な歌が聞こえてきマス。

『サツリク者たちがやってくるー♪』
『みんなをころしにやってくるー♪』


可可(ん……夢デスか……?)


歌に拍を打つように、聞きなじみの足音が鳴りマス。

それはちょうど、三体分の足音。


可可「……………………」


──くるくるくる

回る環が、集めた音。

これは夢じゃない、現実。


可可「あっ…………あああっ……」

可可(外星人……!?)


この襲来によって、ククの平穏な地下生活は終わりを迎えマシタ。



第3章 地球的知己 終

269: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:25:46.38 ID:Wg2tLsDz.net
Interlude


私たちはいま、ガラス越しに顔を合わせてる。

このたった一枚の板が、声を、においを、温度を、すべてを遮断する。

四季はスマホを耳から離して、ガラスを息で曇らせた。それからすらりと伸びる指で、ハートマークを描きやがった。恥ずかしいからやめてくれ!

そして私たちは、板一枚を隔てて触れ合う。


「……四季」

「大丈夫。メイとはまた、生きて会えるから」

「……約束、だからな? 絶対忘れるなよ!?」

「うん、約束。絶対に忘れない、絶対に守るから」


少しだけ大きい四季の手に、自分の手を重ねる。しかし、そこに温度はない。

たった数ミリの厚さが、無限に感じられた。

旅立つ四季を、笑顔で見送ってやらなきゃいけないのに……。不安で声がかじかむ。

なにやってんだ、私……!

270: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:27:25.34 ID:Wg2tLsDz.net
「……メイ。いまから問題だすね」

「は?」


予想外の発言に、理解が遅れる。


「1から10までの数字を二組に分け、それぞれグループの数字をすべて掛け合わせる。その時、ふたつの積が等しくなるにはどうすればいい?」

「はあ……? なんだよ、急に……」

「これはメイへの宿題。答え合わせは、再会した時にしよう」

「!!」


四季らしい励ましに、顔が朱色に染まる。

指をどけてみると、四季はまっすぐ私を見つめている。いまさらになって気づいたが、四季は片時たりとも、その目線をそらさなかった。

透明なガラスを両側から曇らせ、指で描く。

私はそのまま、四季は逆さ文字で。ふたりの動きが鏡みたいにシンクロする。

浮かび上がった文字は透き通り、その箇所だけが、ふたりをつなぐ風穴となって、心と心を結んだ。

271: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:28:37.45 ID:Wg2tLsDz.net
それから1ヶ月後。宇宙へ行き、ようやく四季に追いつくことができると思った。だが、その希望はあえなく散った。

核が降り、隕石が降り、否応なしにはじまった地下生活。

こんな地獄で生きていく自信なんてなかった。実際、1年もしないうちに半分が死んだ。

でも私たちには"約束"がある。だから、絶対に生きなきゃならない。


私は毎日、遠く離れてしまった四季を想う。いまごろ宇宙のどの辺を、公転だか自転だかしてるんだろうか。

なぜかきな子も、同じあたりを見つめている。こいつも宇宙に行った四季や先輩たちを想ってるみたいだ。


「意地でも、生きるしかねえよな……!」

「!! ……はいっす!」


きな子とともに、地下でライブをするようになった。

ライブを通して、暗く落ち込んでる地下の住人たちにも、希望を持ってほしかったからだ。

でもそれは、私の自己満だった。私は自分のことしか見えてなかった。

272: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:30:34.95 ID:Wg2tLsDz.net
「よお、夏美! 今度さ、大型フェスをやろうと──」

「…………ああ、メイ……」

「!? おまえ、その顔……! だれにやられた!? そいつぶっ飛ばしてきてやる!!」

「や、やめてくださいですのー! これはただ転んだだけですのー! 夏美ってば、ドジしちゃいましたの~♪」

「はあ!? どう見てもそんなケガじゃねえだろ!!」

「……あはは、失敗しちゃった…………」

「夏美……」


夏美のはつらつとしたしゃべり口調は、から元気にしか聞こえなかった。

知らなかった。夏美がコミュニティーのため、自分の身を犠牲にしているなんて。

なにも知らなかった。いまのいままで気づきもしなかった。

そんな折、きな子とやってたライブ活動が、自警団による妨害を受けた。

273: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:31:57.58 ID:Wg2tLsDz.net
「衣装は……ぬい合わせたら、なんとかなりそうっす! ステージは、また一から作り直すことになりそうっすけど……」

「……やめるか、ライブ。ここらが潮時みたいだ」

「えっ……。な、なんでっすか!?」

「……私、自警団に入るよ。娯楽より、今日を生きる食べ物が必要だ」

「…………そっか。じゃあ、仕方ないね……」


それから何度も何度も、食料調達の遠征に出かけた。

地上に出るたび、寿命のメーターが急激に低下していく感じがする。

鏡を見るたび、いやでも老いが目につく。

日々、変化していく自分がいやだ。この地下空間みたいに、なにも変わらずにいたい。

四季と再会した時に、がっかりされたくない……。


──でも、進み続けなきゃ。

274: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:35:02.74 ID:Wg2tLsDz.net
あの日の約束が、私の進むべき道を示してくれる。だから、決して迷ったりなんかしない。

もう変わることは恐れない。下ばっかり見てたら、背が伸びたあいつを見落とすかもしれないからな。

四季はマイペースだしな……。私が見つけてやらないと!


なあ、四季。いつかおまえと触れ合えるって、信じてるから。

私はいつまでも、夢見てるよ。

275: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:36:40.36 ID:Wg2tLsDz.net
第4章 火星的仮説



ククは、外星人のことをなにも知りマセン。

その存在はずっと、たまに環を回している時に確認できるだけの、概念的なものデシタ。幽霊や枯れ尾花みたいなものデス。

独自の言語を持ち、宇宙から飛来した"なにか"。それが外星人デス。


どこから来た?

なにをしている?

なぜ地球へ?

どのような技術を持っている?


──外星人とは、何者?

276: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:38:02.17 ID:Wg2tLsDz.net
その生態も、容姿も、文化も、思考パターンも、なにもかもわからない。

ただひとつ、外星人について、以前の遭遇時に明らかになったことがありマス。

"彼らは嗜虐的に、人をころせる"……!



可可「…………」

グソクムシ「ムシャ…?」

可可「……いえ、なにもないデス」

可可「きっと気のせいデスよ! 夢と現実がうやむやになる、胡蝶の夢みたいなものデス!」


そうデス、気のせいデス。地下に外星人が現れるわけありマセン。

そう……きっと気のせい……。妖怪のせいデス…………。

──くるくるくる

勝手に環が回り、いやでも歌が聞こえてきマス。

『てっぴを開き♪ かいだんくだれば♪』
『ここは狩り場♪ たくさんくたばれ♪』


可可「っ……!」

277: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:40:03.22 ID:Wg2tLsDz.net
足音が甲高く、音が周囲に反響している……。発生源は、地下鉄駅の構内っぽい……。

間違いないデス……。

外星人は、地下におりてきている……!!


可可「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ…………」


ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク!!

エンジンを吹かしたように、血流が一気に促進されマス。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い…………!

ころされる……! 今度こそ、ころされる…………!!


心が揺らぎ、環が止まりマス。

訪れたしじまが、さらに恐怖をかき立てマシタ。

278: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:41:45.58 ID:Wg2tLsDz.net
できるだけ身体を小さくしようと思い、筋肉をこわばらせて縮こませマス。

すると、グソクムシが苦しそうにしていマス。まだ寝ぼけまなこのグソクムシが、上に乗っかっているのを、うっかり忘れてマシタ。


可可「…………グソクムシ……」

グソクムシ「ムシャー」


そうデス……。ここにはグソクムシがいマス……。

いえ、それだけではありマセン。

きなきな、ナツナツ、メイメイ…………ククの妹たち……。

地下には、たくさんのモグラたちがいマス。それなのに……。

みんなみんな、ころされる……!


現時点で、地下を襲う未曾有の危機に気づいているのは、ククだけデス……。

ククが、守らないと…………!!

279: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:44:38.44 ID:Wg2tLsDz.net
可可「すぅー……」

可可「はぁー……」


いつだったか、千砂都から教わった呼吸法。焦った時ほど普段通りデス!

落ち着け、私、落ち着け、私……。

怖いけど……、足がすくんでガクガクだけど……。

できるだけ平静をよそおい、がむしゃらに環をくるくる回しマス……!

いまミナサンを助けられるのは、ククだけだから……!

──くるくるくる


可可(音のテンポが変わった……階段をくだっていマス)

可可(音の拡がり方……ホームまで来てマス。線路におりて……)

可可(…………となりの駅へ、移動をはじめマシタ……!)

可可(明確な目的を持った足取りで……進んでいマス……)

280: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:45:37.20 ID:Wg2tLsDz.net
可可「……グソクムシ、起きてクダサイ」

グソクムシ「ムシャー…」

可可「起きて!!」

グソクムシ「!?」ビクッ

可可「……私になにができるのかはわかりマセン」

可可「デスが、なにもせず、モグラのミナサンが死ぬのを眺めてられマセン!」

可可「ククの大切な人を、守りたいのデス」

可可「グソクムシ……。ククについてきてくれマスか?」

グソクムシ「……グムシャー!!」

可可「……謝謝デス!」


寝室を飛び出し、声高に叫びマス!


可可「ミナサンー!! 起きてクダサイー!!」

可可「外星人が攻めてきマシタよーーー!!」

281: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:47:46.71 ID:Wg2tLsDz.net
…………。

ありぇ? 反応がありマセン。


可可「いますぐ逃げてクダサイー!!」

可可「外星人に、ころされてしまいマスよー!?」


…………。やはり返事はありマセン。『4分33秒』デショウか?

もしや、ひとりずつ声をかけ、ひとりずつ事情を説明し、ひとりずつ避難を誘導しなくてはならないのデスか……!?

そんなことしている間に、全員ころされてしまいマス……!


これは、正常性バイアスというやつデショウか。

地震などが起きた時に、「自分は大丈夫」と思い込み、避難しなかったことで亡くなってしまう人が一定数いるそうデス。

ミナサンも、地下の世界に安全神話を描き、正常性バイアスを働かせているのかもしれマセン。

なぜ起きないのデスか! グソクムシのほうが寝起きよかったデスよ!!

……なんだか、さっきからひとりで騒いでいる、ククのほうがおかしいのではないかと思えてきマシタ。

282: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:48:54.41 ID:Wg2tLsDz.net
可可「……そうだ、きなきなデス!」

可可「きなきなに手伝ってもらえたら、避難もスムーズにいくはずデス!」

可可「グソクムシ! きなきなはどこ!?」

グソクムシ「グム…?」

可可「もう! なぜ知らないのデスか! 肝心な時に役立たないグソクムシデスね!」

グソクムシ「ムシャ…」


『──突き当たりを、右にぃ~♪』


可可「!」

可可「グソクムシ……。いまの声、聞こえマシタか?」

グソクムシ「グム?」

可可「聞こえていないなら……環が聞いた音デスか……」


先ほどから、不気味な歌を歌う外星人。

いまはミュージカル風に、道案内をしているようデス。

……なぜ、地下鉄駅の地理を把握しているのデショウ? そもそも、なぜ日本語を話しているのデスか……?

それに、普段は謎の言語で会話していマスし、日本語で話しても伝わらないのでは──。

283: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:50:47.30 ID:Wg2tLsDz.net
可可「……………………」

可可「……………………」

可可「……グソクムシ」

可可「ここの突き当たりを、右に曲がってみマショウ」

グソクムシ「グム!」カサカサ


グソクムシのあとについていきマス。てくてくてく。

『そのまま、まっすぐぅ~♪』


可可「…………そのまま、まっすぐ」

グソクムシ「ムシャー!」カサカサ


てくてくてく。

『そこで、10時の方角に進路変更ぉ~♪』


可可「…………ストップ。ここで10時の方角に進んでクダサイ」

グソクムシ「グムシャー!」カサカサ

284: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:52:38.38 ID:Wg2tLsDz.net
外星人のナビを信じて、歩いていると……なんと、きなきなが眠っているテナントに着きマシタ。

なぜ……なにゆえ……。とにかくナビは、プロのスイカ割りスト並みに正確みたいデス。


きな子「んっ……。あれぇ……くーくーせんぱい……」

可可「きなきな! 大変なんデス!」


かいつまんで必要な状況だけ話すと、きなきなは飛び起き、身支度もせず出てきマシタ。


きな子「い、一大事じゃないっすかー!? どうしよう、どうしよう……!!」

可可「落ち着いて、きなきな!」

──くるくるくる

可可『──次はぁ~C-8駅♪ C-8駅ぃ♪──』

可可「ほら、外星人はまだ、ここから離れていマス!」

きな子「えっ、えっ……?」

きな子「……あ、いまのは外星人さんの声……なんすね?」

285: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:55:00.33 ID:Wg2tLsDz.net
可可「全員を助けることはできマセンが……」

可可「せめて、ククがお世話になってるコミュニティーの人たちだけでも、助けたいデス……!」

きな子「気持ちはわかるっす……。でも、身体が不自由な人も多くて、それすらもかなり難しいと思うんです……」

可可「そうデスか……」


殺意で行動する外星人に、逃げられないモグラ族……。

だったら、ククがいま、すべきことは……。


可可「……ククが、おとりになりマス」

きな子「な、なに言ってんすか……!? そんなのだめっすよ!」

可可「ククは、ミナサンを助けたいデス……。みんな、幸せに生きてほしいデス……!」

きな子「……それなら、きな子もついてくっす」

可可「きなきな……」

きな子「どのみち、先輩ひとりじゃ走ることもできないっすし、きな子が必要だと思うっす!」

可可「ありがとうございマス、きなきな!」

グソクムシ「……」

286: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:56:39.92 ID:Wg2tLsDz.net



外星人は一度、ククを取り逃した経験がありマス。

なので、ククの姿を見れば、よだれ垂らして追いかけてくるだろう──という想定のもと、作戦を立てマシタ。


まず、外星人にククの存在を視認させマス。

見つかったら、鬼ごっこ開始デス。

ククはとにかく、走って走って走りまくって、外星人のターゲットを集めマス!

その間に自警団の方々が避難誘導してくれたら文句ないのデスが、正直期待できないデショウ。なので、ククたちが外星人を地上まで連れていきマス。

そうしたら、意地の悪いポニテのことデス、きっと扉が開かないように接着剤で固めて、地下に籠城してくれるはずデス。

これで、外星人の魔の手からモグラのミナサンを守れマス!


……問題は、ククたちがうまくタゲを取りながら逃げられるか。

それと、仮に成功しても、今後一生きなきなが地上生活をしいられてしまう、ということ。


きな子「きな子は大丈夫っす! 小さいころから、寒いのには慣れてるっすから!」

可可「きなきな……。ククが毎日、暖めてあげマスから……!」

287: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:58:14.54 ID:Wg2tLsDz.net



現在。ククたちはC-4駅、三体の外星人はC-5駅を過ぎたところデス。

このまま外星人に見つけてもらい、G-2駅へと乗り換え、G-5駅でさらに乗り換え、一気にM-17駅まで行く。これが予定ルートとなってマス。


可可『──まもなくぅC-4駅♪ C-4駅ぃ♪──』

きな子「来たっす……!」


線路上に、仁王立ちでたたずむククときなきなとグソクムシ。

きなきなの手が自然と力みマシタ。ククも、汗が滝のように流れていマス……。


カン、カン、カン、カン、カン、カン。



外星人A「indtiofu」


パンッ! 出会い頭に発砲デス!


きな子「うひゃあ!? に、逃げるっすー!!」

288: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 03:59:21.64 ID:Wg2tLsDz.net



乗り換えに使う通路は、できるだけ人がいない道を選んで逃げマシタ。

背後から迫る外星人は、下卑た笑みを浮かべ、じりじりと距離を詰めてきマス。

…………。

そういえば、外星人が地下に来てから、銃声は一度しか聞いていマセン。その一回というのも、ククたちに向けた威嚇デシタし……。

……まさか、彼らの狙いは最初から、ククひとり──。


メイ「クゥクゥ先輩! きな子!」

メイ「よかった……無事だ……!」

可可「メイメイ……!」

289: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 04:00:36.11 ID:Wg2tLsDz.net
メイ「さっきうわさで聞いたんだけどよ……。なんか、やばい装備の化け物が、地下に出没してるって……」

可可「いま、その化け物と、鬼ごっこ中デス!!」

メイ「そうなのか。鬼ごっこ中……って、はああああ!?」

きな子「メイちゃん、逃げて……」

メイ「……よくわかんないけど、私もいっしょに戦う! 手伝わせてくれ!!」

可可「……メイメイ」


もし、やつらの狙いがククだけなら……。

ククの個人的因縁に、きなきなやメイメイを巻き込んでしまい、非常に申し訳ない気持ちデス……。


きな子「あ! もうそこまで来てるっすー!?」

メイ「うわ、思春期の宇宙服みたいな集団……! あれが例のやつか……」

可可「目標は、地上デス! そこまで全力で逃げマス!」

メイ「ああ! 任せとけ!」

290: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 04:01:38.71 ID:Wg2tLsDz.net



G-2駅からG-5駅まで、全力で駆けぬけマシタ!

意外と外星人の足は遅いらしく、このままのペースなら無事に逃げ切れそうデス!

……ただ、外星人に関して、少し違和感はありマシタ。うまくいえないデスけど、なにか不自然な気がするんデス……。


メイ「ホームだ……! 先にきな子が昇って、クゥクゥ先輩をあげてくれ!」

きな子「はあ、はあ……、はいっす!」

メイ「それまでは時間稼ぎだ! おら、石だ! 痛いだろ!?」ブンッ

グソクムシ「ムシャシャシャシャ!!」カサカサ

メイ「グソクムシも手伝ってくれてる……! おら、もう一発ぅー!!」


パンッ!


メイ「ひぃぃ!? 撃たれた、撃たれた……!」

可可「メイメイ!? 大丈夫デスか!!」

きな子「違うっす! いまのはクゥクゥ先輩を狙ってたっす!」

可可「!! ククを……」

291: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 04:02:50.71 ID:Wg2tLsDz.net
きな子「……だめっす。先輩をホームにあげる時のすきを狙って、待ち構えてるっす……!」

メイ「くそっ! ちょっとはひるみやがれ! このっ……!!」ブンッ

可可「……予定変更。このまま線路を進みマス!」

メイ「……ああ、そのほうがよさそうだ」

可可「きなきなは、そのまま構内に逃げてクダサイ!」

きな子「えっ……」

きな子「……いやっす! クゥクゥ先輩を、置いてけるわけないじゃないっすか!」

可可「……」

きな子「よいしょ……。行きマショウ、先輩!」

メイ「先輩!」

可可「……はい」

292: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 04:03:52.66 ID:Wg2tLsDz.net



G-6駅までも、外星人とほどよい距離を保って逃げられマシタ。

あるいは、向こうがほどよい距離を保って、追いかけているのか……。


メイ「よし! 今度こそ乗り換えできる!」

きな子「クゥクゥ先輩!」

可可「……ありがとうございマス」ギュ

メイ「ぐ、そくむしぃ……重っ……!」

グソクムシ「グム!」

きな子「『重いとか言わないで』って言ってるっす」

メイ「いま通訳してるひまねえだろ!?」

可可「……さっきとは違って、全然撃ってきマセンね」

メイ「ま、それなら好都合。早く行こうぜ!」

293: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 04:05:05.58 ID:Wg2tLsDz.net



G-6駅からM-14駅への乗り換えの最中、またしても環が、歌を聞きマシタ。


可可『──ここを左にぃ~♪──』

可可「きなきな! ここを左デス!」

きな子「えっ!? でも、こっちはN-6駅の乗り換えっすよ?」

可可「……天啓があったんデス」

メイ「……わかった、そっちに行くぞ!」

きな子「ええっ……!?」


ククもびっくりデス。なぜ天の声は、こちらへの乗り換えをすすめたのデショウか……。

なにか、狙いがあるはず…………。

294: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 04:07:27.19 ID:Wg2tLsDz.net
可可『──ひとりでいいぃ~♪──』

可可「ひとり……?」

可可『──ひとりでいいから、おさえてくれたらぁ~♪──』

可可『──なんじは救われるぅ~♪──』

可可「……信じていいんデスね」

可可『──決断はあなたがすることぉ~♪──』

可可「…………」


可可「きなきな、メイメイ……」

可可「ククを、信じてくれマスか……?」

きな子「はいっす!」

メイ「もちろん!」

可可「……では、N-5駅方面に行きマショウ!」

メイ「おう! ……って、マジかよ!?」

きな子「乗り換えもできず、行き止まりっす……」

きな子「……でも、クゥクゥ先輩にはなにか考えがあるんすよね!」

可可「はいデス!」

可可「──ここで、外星人を倒しマス!」

295: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 04:09:13.13 ID:Wg2tLsDz.net



可可(この鬼ごっこ……。さんざんククが足を引っ張ってきマシタ)

可可(きなきなとメイメイの力を借りなくては、ククは走ることもままなりマセン……)

可可(デスが、そろそろ……。ふたりのお姉ちゃんとして、かっこいいとこ見せないとデスね……!)


外星人B「?gdhtdeieaonwras」

外星人C「……dnkooiontw」

外星人A「skhfrueotdtoloonlfitatarbh」


カン、カン、カン、カン、カン、カン。


可可「…………」


カン、カン、カン、カン、カン、カン。


外星人B「……?tashsthwii」

グソクムシ「ムシャー!!」

可可(──グソクムシの合図!!)

296: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 04:11:18.04 ID:Wg2tLsDz.net
物陰から飛び出し、まっすぐ突進!

命中さえすればどこでもいいので、手を横に広げ、エゾシカの構えで突っ込みマス!


可可「たぁーーー!!」

外星人B「!?」


もちろん、ククのへなへなタックルで倒せるとは考えてマセン。

ただ、少しよろけさせたら、それでいいデス。


外星人B「!huuau」フラッ


くずれたその先に待つのは──。

むき出しになった、配線デス!!



バチバチバチバチバチバチッ!!


外星人B「!!aaaaaaaaaaaaaa」

297: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 04:14:38.16 ID:Wg2tLsDz.net
ジュー……パタリ。


可可「うげっ!」


感電した外星人が、可可にのしかかりマス。グソクムシより重い……!


この駅にある発電所は、ライブの関係でよく来ていマシタ。なので、細かい設備まで覚えていたのデス。

……蓄電器の場所も。接続を変えれば、高圧電気(こわいでんき)を逆流できることも。


可可「ふぅ~……。なんとかひとり、倒せマシタ……!」

グソクムシ「グムシャー!」

可可「はいデス! 天の声の言う通りなら、これでどうにかなるはず──」


パンッ!


グソクムシ「ムシャー!?」

外星人A「smaismrmilmepoetaleumibunenugttauiras」

可可「──!!」

可可(ひとり倒したのに、ころされそうデス……!? 話が違いマス!!)

可可(うっ、外星人が上にいて、動けない……!)

可可(きなきなとメイメイは、蓄電器のほうにいマス……。ここからは遠い……)

可可(万事休す────)

298: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 04:16:16.60 ID:Wg2tLsDz.net
短い銃声。

飛び散る血。

倒れる…………人間?



外星人A「…………etuutbert」


パタリ。

だれかが撃たれた……? 外星人が倒れた……? なにが起きているのデスか……!?

とにかく、事態が急転していることだけはわかりマシタ。

……とりあえずククは、死んだふりしておきマショウ。


可可「」パタリ

外星人C「……死んだふりしなくてもいいよ」

可可「!!」

可可「もしかして、あなたは……天の声さんデスか!?」

外星人C「うん。もう、全部終わらせた」

299: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/13(火) 04:18:17.17 ID:Wg2tLsDz.net
カチッ。一瞬、どこかから聞こえた金属音。


可可(ん? いまの音は……)



メイ「うおおおおおおお!! クゥクゥ先輩から離れろーーー!!」


棒状のものを振る音、ぶつかる音、棒状のものが地面に落ちた音、手がしびれて悲鳴をあげるメイメイの音。


きな子「く、クゥクゥ先輩だけは……! お助けっす……!」

メイ「こ、これ以上近づくな!」

可可「待ってクダサイ! この人は……」


外星人C「…………久しぶり」

メイ「…………」

メイ「…………おまえ」

メイ「四季……なのか…………?」

外星人C「…………」

307: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:22:49.67 ID:idXfhcVt.net
きな子「え、四季ちゃん……!?」

可可「シキシキ……なのデスか……?」


声を聞いただけではわかりませんデシタ。まあ、宇宙服を着ているそうなので、当然といえば当然デスが。

シキシキ(?)は沈黙のまま。それでもメイメイは声をかけ続けマス。


メイ「……四季、だよな? そうなんだろ……?」

外星人C「…………」

メイ「なあ、四季。なんとか言えって──」


カチャ。撃鉄を起こす音。

再び、物語に拳銃が出てきマシタ。


夏美「……メイ。そいつから離れてください」

308: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:25:44.79 ID:idXfhcVt.net
きな子「夏美ちゃん……! どうして、ここに?」

夏美「朝からクゥクゥ先輩が叫んでいたので、気になってあとをつけてきましたの」

可可「そうだったのデスか……」

メイ「というか、その銃! やっぱおまえが盗んだのかよ……!」

夏美「そんなこと、いまはどうだっていいですの」

夏美「メイ。いますぐその不審者から離れてください。夏美が撃ちころしますの」

可可「ナツナツ! 聞いてクダサイ! この人はなんと、シキシキなのデスよ……!!」

きな子「そうっすよ! Liella!の1年生、14年ぶりの集結っす!」

夏美「……その危険生物が四季だという証拠は、どこにあるんですの?」

可可「メイメイがそう言ってマス!」

夏美「それは憶測といいますの。エビデンスもなにもない、当て推量ですの」

可可「……たしかに」

きな子「クゥクゥ先輩!? 負けないでっす!」


しかし実際、「外星人=シキシキ」を示すエビデンスは、いまのところ見当たりマセン。

メイメイが一方的に主張し、ナツナツが追求、当の外星人はだんまり決め込み……。話はきれいな平行線を描いてマス。

309: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:28:41.34 ID:idXfhcVt.net
夏美「メイ……。"それ"が四季でなければ、あなたがころされてしまいますの……!」

夏美「お願いだから……、そこをどいて……!」

メイ「……できねえ」

夏美「なんで…………」

可可「ナツナツ。もしこの人がシキシキでなくても、それすなわち、敵意があるとは限らないデスよ?」

可可「少なくともククたちは、この人のおかげで助かりマシタ。だからククは、味方だと思っていマス」

夏美「いまは羊のふりしているだけ。腹を見せた瞬間、食いころされてしまうかもしれませんの!」

可可「……たしかに」

きな子「先輩! 論破されないで!」


夏美「……ねえ、あなた。いますぐそのヘルメットを脱いでちょうだい」

夏美「そうしたら、夏美も少しは信用できるかもしれないですの」

外星人C「…………」


この沈思黙考は、やはりシキシキを彷彿とさせマス。……先入観によるバイアスがかかっているのは否めないデスが。

310: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:31:02.01 ID:idXfhcVt.net
夏美「どうして脱がないんですの? お顔を見せてくれないんですの?」

夏美「やはり、なにか企んでいますの……? ここにいる全員を、ミナゴロシにする方法を──」

メイ「夏美! いいかげんにしろ!」

夏美「じゃあメイは! その得体の知れない人間を信じるの!? それでみんなころされたら、だれも救われないよ……!!」

夏美「私がみんなを守る……私が、守るから…………」

メイ「夏美……」

きな子「夏美ちゃん……」


ナツナツは、純粋にククたちを助けようとしてくれていマス。

だからこそ、このコウチャクがもどかしいのデス。


外星人C「ごめん。私のせいで、混乱させてるみたい」

外星人C「だけど…………この顔を見たら、みんな、びっくりしちゃう」

メイ「……大丈夫、見せてくれよ。全部、受け止めるからさ」

外星人C「…………わかった。脱ぐね」


カチャ、ギュッギュッ、スポッ……。

311: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:33:02.42 ID:idXfhcVt.net
…………息のつまる音。出かかった声は、唾とともに飲み込まれマス。

駅構内はいっそう、静けさに包まれマス。


メイ「…………!!」

きな子「うっ……!?」

夏美「……………………」

夏美「ば、化け物っ……!!」

外星人C「…………」

可可(あぇ……あぇ……?)


目の見えぬが幸か不幸か。状況がまったくつかめマセン。

話は、ククを置いて加速しはじめマス。


夏美「メイ……。わかったでしょ? "それ"は四季じゃない……」

メイ「…………」

夏美「ここで、ころしておくべきですの……。それが、地下のためですの……」

メイ「だめ……だ……。撃つな…………」

夏美「どうして! メイにはその化け物が、四季に見えるの?!」

メイ「っ……」

312: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:35:45.94 ID:idXfhcVt.net
メイ「……おい、四季! なんでずっと黙ってんだよ!!」

メイ「おまえが四季だって、みんなに認めさせれば……それですべて解決するのによぉ!!」

夏美「どうせ、できるわけないですの!」

夏美「その化け物は、自分が四季でないとバレたら、ころされる可能性が高い……。だったら、ボロを出さないように黙っておくのが賢い方法ですの」

きな子「うぅ……もうわかんないっす……」


混迷を極める後輩たち。このままでは、死人が出てしまいマス……!

この場を変える切り札をあれこれ考えていると、まさかの人物が口を開きマシタ。


外星人C「私は、自分のことを……」

外星人C「みんなの記憶の中にある"四季"と、同一人物だと……言い切る自信がない」

外星人C「だから、メイに証明してほしい」

メイ「はあ!?」

外星人C「私が"四季"であることを、証明して」

メイ「わ、私がかよ……」

313: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:37:04.75 ID:idXfhcVt.net
メイ「四季の証明……四季の証明…………」

メイ「……あ、四季がつけてるピアス! これは四季である証拠品だろ!?」

きな子「あとLiella!のミサンガがあれば、もう間違いなく確定っす!」

外星人C「……うん、つけてる」

メイ「ほんとだ! どんどん正解に近づいてるぞ……!」

メイ「それから、口調とか、しゃべる時の間の取り方とか…………」

メイ「…………」


メイ「いや、違うな」

メイ「言葉なんていらないんだ……」

メイ「……なあ、四季」

メイ「おまえなら、私の考えてること……わかるよな」

外星人C「……うん」

314: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:41:41.57 ID:idXfhcVt.net
夏美「メイ! それ以上四季に近づいたら……撃ちますの!!」

グソクムシ「ムシャー!!」ピョン

夏美「なつぅ!?」パタリ

夏美「おもなっつぅ~!! な、なにするんですの……!」

可可「グソクムシ! いたんデスね、よくやりマシタ!!」

グソクムシ「…ムシャ」


きな子「はわわぁ~……!! ふたりの手と手が、重なって……指をからめて…………」

きな子「っ~~~!? せ、先輩は見ちゃだめっすーーー!!」バッ

可可「なにごとデスかぁ……?」


きなきな大興奮の光景が、目の前で繰り広げられているみたいデス。いったいふたりでなにをしているのやら。


メイ「うわっ! くちびる、ぬるぬるじゃねえか……。おまえの身体どうなってんだよ?」

四季「ちょっといろいろあって。メイは……老けた?」

メイ「うるせ! いい歳の取り方したって言ってくれ」

315: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:43:38.17 ID:idXfhcVt.net
四季「オッカムの剃刀……。だけど、メイがこんなに大胆になってるなんて……」ポッ

メイ「もういいだろ! さ、さっきしたことは、恥ずかしいから忘れろ!!」

四季「……ごめん、むり」

メイ「~~~!!」

メイ「…………やっぱり、目線そらさないな」

四季「?」

メイ「なんでもねえよ、ばーか」

四季「理不尽……」


いちゃいちゃオーラを放っているカップルをよそに、くずれ落ちるナツナツ。

なんと声をかけようかあぐねていると、先にきなきなが動きマシタ。


夏美「どうして、どうして…………」

きな子「……夏美ちゃんの想いは、間違ってないと思うっす。みんなを守りたいっていう想い……」

きな子「夏美ちゃんは、地下に来てからずっと……きな子たちのことを守ってくれてたんすよね。ありがとうっす!」

夏美「きな子……。あぅ、私……」

316: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:45:43.60 ID:idXfhcVt.net
きな子「……でもね、夏美ちゃん。すべてを疑って、暗鬼になってたら、心が壊れちゃうっすよ」

夏美「……でも、でも…………」

きな子「うん……。だから今度は、きな子たちが夏美ちゃんを守る番!」

きな子「もうひとりで、つらいこと全部、背負い込まないでほしいっす……。きな子たちを頼ってほしいっす……」

きな子「四季ちゃんは、私たちに危害を加えたりしないから……。大丈夫っすよ」

夏美「きな子…………」

きな子「…………ごめんっす……。いままで夏美ちゃんの心に、向き合えなくて……」

きな子「こんなあたりまえのことを言うのに、10年以上かかって……ごめんなさい……!」

夏美「……謝らないでよ……。気持ちが、楽になっちゃうから…………」


可可「……どうやらククたちはおじゃま虫みたいデスね。先に戻りマショウか」

グソクムシ「ムシャ!」


そう言って立ち去ろうとした時、ククたちのもとへ、新たな足音が近づいてきていマシタ。

317: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:47:14.67 ID:idXfhcVt.net
ポニテ「な、なんですか、これは……!」

可可「あ、ポニテの耳ざわりな声デス!」

ポニテ「……あなた! どうして、この女が生きているんですか!?」

四季「……」


ポニテはシキシキを知っているようデス。しかし、なぜ……?


メイ「お、おい、どういうことだよ……?」

四季「私たちは、この人の案内で、地下にやって来た」

可可「なんデスと!?」

ポニテ「話と違います! 唐さんをころしたいと言うから、地下へと招き入れたのに……!」

ポニテ「早くしとめてください!!」

メイ「こいつが黒幕か……!」

夏美「地下の住人を守るはずの自警団が、銃を持った危険人物を呼び込んだんですの!?」

きな子「ゆ、許せないっす……!」

318: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:48:04.14 ID:idXfhcVt.net
ポニテ「……わかりました。では、モグラたちに協力をあおぎ、化け物退治をさせましょう」

メイ「おいこらてめえ! ただで帰すと思ってんのか!?」

夏美「自警団幹部がこんなことして、黙ってるわけないですの!」

ポニテ「……私がなにかした証拠でもあるんですか?」

四季「夏美ちゃんみたいなこと言ってる」

可可「証拠ならありマス! ここにいる全員が、証言者デス! 綱紀粛正デェス!」

ポニテ「……あなた方の言葉を、だれが信用するんですか? 印象操作なんて簡単ですよ」

ポニテ「"あなたたち"を主語にして、私がしたことをモグラどもに吹聴します」

ポニテ「そうすれば、今日からモグラどもは、あなたたちの敵になるんですよ」

きな子「な、なんすかそれ……! でたらめじゃないっすか……!」

四季「……すべての住人が信じるとは思えない。なぜなら、クゥクゥ先輩は地下で絶大な人気をほこっているから」

可可「えへえへ」

ポニテ「そうですか……。では、決定的な"証拠"を作ればいいわけですね」

319: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:49:53.92 ID:idXfhcVt.net
ボギッ! なにかが折れる、嫌な音デス。


きな子「きゃあ!?」

メイ「はあ!? な、なにやってんだよ、ばか!!」

可可「……?」

ポニテ「……証拠、できましたー!」

ポニテ「腕、折れましたー! いえ、この人たちに折られましたー!!」

ポニテ「この人たちが呼び寄せた化け物が、私を襲ったんです!!」

ポニテ「私は被害者です! この人たちは加害者です!!」

ポニテ「ひぃ……ひぃ……これで、私の言葉は強い説得力を持ちましたよ……!!」

きな子「な、なんすか! この人……」

夏美「ここで撃っておくべきですの……。グソクムシ、銃を返しますの!」

グソクムシ「ムシャー!!」

メイ「そんなにいまの地位が大事かよ……!」

可可「…………」


言葉が通じないというのは、やはり恐ろしいものデス……。

320: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:51:25.22 ID:idXfhcVt.net



その後。ククとシキシキ……あとグソクムシは、地下を出ることにしマシタ。

今回の襲撃の件や、ポニテの策略によって、地下から追放されるのは目に見えていたからデス。

きなきなたちも、いっしょに地上へ行くと意気込んでいマシタが、すぐに考え直してくれマシタ。


きな子「……きな子たちがいなくなったら、コミュニティーのみんなが困っちゃうっす……」

可可「いえ、仕方ないデス。ククと違って、人生の半数近くをここで過ごしてマスからね」

可可「どのみち、地上で暮らすのは、ククでないと難しいと思いマス」

メイ「たくましいなあ……!」

可可「しかし……。みんなを置いて、ククだけ逃げるみたいで、なんだかもやもやデス……」

四季「それは違う。結局、ポニテさんの目的は、クゥクゥ先輩を消すことだから」

四季「先輩が地下に残るのは、一番の悪手。だからこれでいい」

可可「はい……」

321: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:56:08.80 ID:idXfhcVt.net
可可「どうか、ククの悪口で盛り上がってクダサイ! 敵の敵は味方デスから、ミナサン仲良しデス!」

メイ「いや、死んでも言わねえ! どんなに迫害されたって、クゥクゥ先輩の悪口はだれにも言わせねえから! 安心してくれ!」

夏美「あぅ……。できれば平穏に暮らしたいですの……」

きな子「大丈夫っす! 夏美ちゃんが嫌がらせされてたら、きな子たちが守るっす!」

メイ「おう! 背中は任せたぞ!」

夏美「きな子……メイ……!」


可可「三人は仲良しさんデスねぇ~」

四季「……ちょっとジェラシー」

可可「おほ、シキシキは嫉妬ファイヤーデスね? かわいいデスぅ~」ナデナデ

四季「あ、先輩……。私をさわったら……」

可可「気にしマセンよ? 外見がどうであれ、シキシキはシキシキデェス! ククのかわいい妹!」

四季「Thanks. そう言ってもらえるだけでもうれし……妹?」

322: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:57:29.55 ID:idXfhcVt.net
M-17駅。地上への階段を昇っていきマス。

すでにポニテのデマは流布されているようで、背後ではモグラたちのブーイングの嵐が巻き起こっていマス。


「悪魔め!」「信じてたのに!」「消え失せろ!」


きな子「前までは、天使天使ってほめたたえてたっすのに……。クゥクゥ先輩、気にしないでくださいっす!」

可可「はいデス。ネットの誹謗中傷よりはダメージ少ないデスから、心配いらないデス!」

夏美「スクールアイドルは効率的にメンタル鍛えられますの……」


四季「……メイ。"宿題"の答え、わかった?」

メイ「いや、全然! ……これでも一応、ちゃんと考えたからな?」

メイ「数字の中に7があるからさ、どうしてもイコールにならなくて、そこで頭ストップするんだよ」

四季「じゃあ、答え合わせ。7が孤独になるのは正解。問題は、どうすれば7を救えるか」

メイ「んー……。どうすればいいんだ?」

四季「……"7"は、メイのこと」

メイ「は?」

四季「だから、孤独なメイを救うには、だれかがそばにいてあげなきゃいけない……」

メイ「……おい、待て。さてはいまから、恥ずかしいこと言うつもりだろ!?」

四季「結婚しよう、メイ」

メイ「うわあああああ!! ばか、場所選べよ! もっとロマンチックな感じにしてくれよ!!」

323: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 03:58:34.30 ID:idXfhcVt.net
ガコン。ピュゥゥゥ…………。

鉄扉を開けると、あいも変わらず死の世界が広がっていマス。

遠征で外出することは何度もありマシタが、今回はもう、ここに帰ってくることはありマセン……。

そう考えると、地下の国にも感慨深いものがありマスね……。シミジミワタルシミ……。


可可「きなきな! メイメイ! ナツナツ!」

可可「いっぱいお世話になりマシター! 三人に会えて、ククは幸せデスー!! 拜拜デスー!!」

きな子「ううう……せんばいぃ~……!!」

メイ「泣くなよ! こういう時こそ、笑って見送ってやろうぜ!」

夏美「はいですの! クゥクゥお姉ちゃん、またいつか、どこかでお会いしますの~!!」

メイ「四季も……またな!」

四季「……私は、定期的にここへ来ると思うから。式の日程も決めないといけないし」

メイ「おまえなぁ……」

夏美「ふぅふぅ~! おふたり、あつあつですの~♪」

きな子「末永くお幸せにっす……!」

メイ「ほら、茶化されるじゃねえかよー!」


可可「みんな、笑顔になってくれて……本当によかったデス!」

グソクムシ「ムシャー!」

324: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 04:02:09.26 ID:idXfhcVt.net



可可「では、シキシキ! ククとグソクムシは、また旅に出マス。拜拜デス~!!」

四季「……お達者で」


可可「それではグソクムシ! 旅の続きを──」

可可「…………」

グソクムシ「……ムシャ?」


可可「……ククたち、どこに行けばいいのデショウ?」

可可「Liella!のみんなに会うためには、この星をぐるぐる回ってても仕方ないデス……。だってここ、地球デスから……!」

可可(かのんや千砂都、レンレン……)

可可(それに、すみれに会うためには…………)


四季「……クゥクゥ先輩は、宇宙に行きたい?」

可可「あ、シキシキ……。んー、ククの旅の目標を達成するには、宇宙へ行くのにマストとなりマスが……」


しかし、ククは一度宇宙に行って、強制送還させられていマス……。

果たして、いまさらどうすれば、惑星国家へと旅立てるのデショウか……。

325: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 04:03:23.60 ID:idXfhcVt.net
四季「惑星国家」

四季「またの名を、『フロンティア』」

可可「フロンティア……」

四季「──私は、そのフロンティアから来た」

可可「あ、そうデス……。外星人は、地球外から来ていマシタ!」

四季「もし、クゥクゥ先輩が宇宙に行きたいなら……私が協力する」

可可「!?」


なんと! これは願ったり叶ったりな展開デス!


可可「あの、シキシキ! ひとつだけ教えてクダサイ!」

可可「その、フロンティアとやらには……かのんたちが、いマスよね……?」

四季「…………」

四季「うん……」

可可「っーーー!!」

326: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 04:05:18.94 ID:idXfhcVt.net
ついに、会えマス……! Liella!の、はじまりのメンバーに……!

かのん! 千砂都! レンレン!

すみれぇ……!


ククたちの旅は、氷の地上をわたり、地下にもぐり、そして──。

目指すは、雲の上の世界……。

惑星国家〈フロンティア〉へ!



第4章 火星的仮説 終

327: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 04:07:37.88 ID:idXfhcVt.net
Interlude


「998、999、……1000」


惑星探査任務の訓練をはじめてから、3年。

"いまの身体"になってからは、1年と4ヶ月。

長期にわたる惑星探査にあたり、私たちは日々、過酷な訓練を重ね、艱難辛苦を乗り越えてきた。

そして、その時が訪れた。

ついに明日、私は"チキュウ"と呼ばれる惑星へと飛び立つ。


この星では最後となるかもしれないトレーニングメニューを終える。ベンチに座り、ぼんやりとタイルのしみを目でなぞっていく。

同じ任務に配属された仲間がとなりに座る。私は仲間にたずねてみた。

328: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 04:09:03.24 ID:idXfhcVt.net
「あなたは、なぜこの任務に志願したの?」

「さあ……? わからないな、覚えてないさ」


仲間は、まったくどうでもよさそうに答える。関心すら失っているようだ。


「そういうあんたは?」

「…………わからない」


気づけばここにいた。気づけば訓練の日々だった。でも、きっとこれは、自分の意思で選んだ道だと思う。

私はなぜここにいる? なにか目的があったのだろうか……?

時々、頭のすみにちらつく、赤い髪の少女。

私には、とても大切な人がいたような気がする……。

329: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 04:10:11.63 ID:idXfhcVt.net
寮部屋に戻る。さっきシャワーを浴びたばかりのに、もう全身がぬるぬるしている。

ござに座り、小さな机の上に並んだ思い出の数々を眺めた。

人さし指と中指を足に見立て、思い出の品々を、山あり谷あり飛び越えていく。軽やかな足取りではじくたび、ひもづいたエピソードがシャボン玉となって現れ、私の視界を満たした。

しかし、最後に着地したその箱からは、シャボン玉は生まれなかった。私の記憶にない存在。

箱を開けてみると、中には丁重に仕舞われた、ふたつの赤い玉。星に照らされ淡く光る。

その玉を片方、持ち上げようとすると手が滑り、床に転がる。拾おうとして手を伸ばす。

チクッ。

ありのままを述べれば、赤い玉にはトゲがあり、それが指を刺した。反射的に手を引っ込めたが、痛みはさほどなかった。

ただ、私の意識はひどく混濁していた。

気だるげな声が聞こえてくる。


『あー、未来の私へ……』

『このメッセージを聞いているということは、私の目論見はうまくいったみたい』

『さあ、思い出して…………』


『──あなたの名前は、若菜四季』

330: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 04:13:19.41 ID:idXfhcVt.net
刹那に、膨大な量のデータがインプットされる。


『私は若菜四季。生まれは太陽系第三惑星地球。誕生日はグレゴリオ暦で2006年6月17日。おそらく平凡で幸せな家庭で育つ。ともに科学者である両親の影響を受け、幼少から科学の道に興味を持つ。クワガタは裏切らない。……(略)』

『高校ではメイとともに、スクールアイドルをはじめる。そのグループ名は"Liella!"。地球最後の青春は、一生忘れられない宝物。……(略)』


映像がフラッシュバックする。光景はふわふわ浮かぶシャボン玉となって、私の心を満たした。

過去の自分は、もしもの時のために"記憶のバックアップ"を取っておいたのだ。よしよしとほめてあげよう。

策略通り、すべての記憶は戻ったが、まだ録音データには続きがあった。


『……最後に、ひとつだけ』

『このメッセージを残している現時点……つまり、過去の私は、メイのことが好き』

『いまのあなたは……?』


答えはもう知っていた。


「Me too」

331: 名無しで叶える物語 2022/12/14(水) 04:15:54.92 ID:idXfhcVt.net
「地球に行き、メイとの約束を果たす」──それが、私が任務に志願した動機。

調べたけど、メイはフロンティアには来ていなかった。なぜかロケット打ち上げが失敗し、まだ地球に残っているようだ。

隕石落下後の地球がどうなっているのかは不明。しかし、メイが生きている可能性はじゅうぶんある。希望はまだある。


宇宙船の窓。星々きらめくブラックスクリーンに、醜悪さが覗く。

鏡が怖かった。自分の変わり果てた姿を、メイに見られたくなかった。

メイと再会したとしても、気がついてもらえないかもしれない……。

ああ……。一度ネガティブになると、不安は方々にうずたかく積み上がっていく。

巨大な糸に飲まれて消えた千砂都先輩。鳴り響く神の声。変異体。フロンティア。

──それでも、前に進もう。約束を胸に抱いて。


一度、忘れてしまったけど、いまは全部思い出したから。

もう二度と忘れないように、ちゃんと、宝物箱に入れておこう。

334: 名無しで叶える物語 2022/12/15(木) 03:01:09.23 ID:9lpBqYrP.net
第5章 木星的黙示



目を開くと、そこに広がるのは無数の星々。

砂つぶのような小さな光の群れが、漆黒の合間にきらめきマス。

その景色は、懐かしい故郷を思わせマシタ。ひとつ持って帰っても怒られないだろうと、目いっぱい手を伸ばしマスが、なにもつかむことはありませんデシタ。


私はいま、無重力をただよっていマス。

地に足つかず、ティアラのようにふわふわと直線運動を続ける浮遊物。

じたばたしても物理法則を逸脱できるわけもなく、五体は真空にさらされ、黒く膨張してきマシタ。

音速の数千倍の速度でしている自覚もなく、なすがままに流され続けマス。

あてのない漂流。そのうち、考えるのをやめてしまいそうデス。


突如、私の軌道が放物線を描きはじめマシタ。遠い彼方で、とてつもないエネルギーが、手をこまねき待っていマス。

抵抗する余地もないまま、運動はみるみる加速度を増し、黒い穴へと飲み込まれていくのデシタ。

………………………………。

335: 名無しで叶える物語 2022/12/15(木) 03:03:47.13 ID:9lpBqYrP.net



可可「おぇ……。また死にマシタ……」

四季「おかえりなさい」

可可「ただいまデス……」


ゴーグルを外し、その場でうんと伸びマス。

全身にはまだ宇宙を漂う浮遊感が残っており、重力が異質に感じて気持ち悪いデス。

ククが"宇宙シミュレーション"で死んだ数は、ゆうに三桁を超えているデショウ。


ククは日夜、宇宙飛行訓練に励んでいるのデス。

シキシキが乗ってきたハイテク宇宙船の設備をフル活用し、来たる宇宙生活に備えマス。

筋力トレーニングは欠かせマセン。フロンティアの公用語"新言語"も、シキシキの手を借り、点字を使って頭に叩き込みマス。

──いまから半年後。ククは再び、宇宙へ行きマス。

336: 名無しで叶える物語 2022/12/15(木) 03:06:37.39 ID:9lpBqYrP.net



時は少し遡り、2週間前。

シキシキから宇宙行きの勧誘を受けたあと、ククとグソクムシは、外星人の乗り物におじゃましマシタ。

異様にでかいのイスに腰かけ、シキシキと対面し、身の上話に興じマス。


そこでククは、これまでの半生を語りマシタ。宇宙に行って、地球に帰って、グソクムシと出会って、旅をはじめて…………。

地下に来てからの動向は、超小型ドローンで観察されていたらしく、ククよりもシキシキのほうが詳しいほどデシタ。

ククが環を耳にしていることも把握済みで、それを利用して、鬼ごっこ中のククに方向の指示を送っていたそう。

こうしてひとつ、疑問が解消されたわけデスが、一方で新たな疑惑が浮上してきマシタ。


可可「か、観察というのは、どこまで見ていたのデスか……?」

四季「プライベートなところはあまり映してないから、ご安心を」

四季「すみれ先輩の名前を叫び、悶絶しているところしか見てないので」

可可「一番やなとこ見られてマス! シキシキぃ……後生デス、忘れてクダサイ~!」

337: 名無しで叶える物語 2022/12/15(木) 03:08:32.19 ID:9lpBqYrP.net
シキシキは、惑星国家に着いてから、地球に戻って来るまでのことを話してくれマシタ。


可可「地球探査……惑星再生……」

可可「向こうのお偉方たちは、地球を復興しようと試みているのデスか?」

四季「まあ、それに近しい考えを持っているみたい」

可可「だとしたら朗報デス! また地上で暮らせるようになるかもしれないんデスね!?」

四季「うん。そのために、こつこつと"種まき"を続けてるところ」

可可「種まき……」

可可「それはもしや、"雨"のことデスか?」

四季「雨……。そうか、地上からだと雨みたいなものだね、うん」

可可「ククはついこの前まで、この星が地球だと知らなかったんデス。だからここは、緑、青、赤の雨がローテーションに降る、へんてこな星だと思っていマシタ!」

四季「……先輩、色の識別ができるの?」

可可「いえ。なんとなくのイメージを色で表現しているだけデス」

四季「なるほど……。クオリアが色をつけたわけだ」

可可「デスデス」

338: 名無しで叶える物語 2022/12/15(木) 03:11:35.55 ID:9lpBqYrP.net
ククが敵だと認識していた外星人たちは、実は地球にやさしい集団なのデシタ。ヤンキーが捨て猫をかわいがるようなものデスね。違いマス?

しかしだとしたら、なぜやつらはククに殺意を向けてきたのデショウか……? ククも地球の一部デスが? ククinアース!


四季「先輩を消そうとした理由、それは……」

四季「クゥクゥ先輩が、『変異体』だから」

可可「変異体」


聞きなじみのない単語を反芻しマス。へんいたい、へんいたい。

突然変異的な、なにかだと推測……。はて、ククはいたって普通の人間デスが……。


四季「なぜ変異体が命を狙われるのか。それを説明するにはまず、惑星国家について知る必要がある」

四季「私も、多くを知っているわけではないから。知っている範囲で話そうと思う」


シキシキは、自身の目で見てきた、フロンティアについて語りはじめマシタ。

339: 名無しで叶える物語 2022/12/15(木) 03:14:34.18 ID:9lpBqYrP.net
四季「地球を脱出した人類の新天地(フロンティア)、人工惑星」

四季「その人工惑星に築かれたのが、惑星国家と呼ばれる"若い地球"だった」

四季「フロンティアは、進化論を否定し、創造論を体現した世界であり、フロンティアの住人には『"偉大なる知性"が生み出した世界』だと信じられている」

可可「なんだかID論みたいな話デスね?」

四季「そう、人類史を捻じ曲げる偏向教育……。それはまさしく、"歴史ロンダリング"と呼ぶべき」

可可「歴史ロンダリング」

四季「人工惑星、隕石、モノリス……」

四季「それらはすべて、"人類洗浄"のために仕組まれた、半世紀以上にわたる陰謀だった」

可可「人類洗浄」

四季「人々が救いを求め、希望を抱いた『方舟計画』」

四季「その実態は、優秀な者だけを選別し、その他の人類を滅亡させるというもの」

四季「宇宙行きのチケットを手にした各界の著名人──為政者、資産家、医者、宇宙飛行士、エンジニア、科学者、アスリート、クリエイター、スクールアイドル」

四季「……これらに属さず、人類の発展に寄与しないと判断された70億超の人間は、ばっさりと切り捨てられた」

四季「すべては、"新人類"のために」

340: 名無しで叶える物語 2022/12/15(木) 03:18:38.67 ID:9lpBqYrP.net
そこまで話すと、シキシキは一息つきマシタ。

…………。

宇宙行きのチケットを手にした、そうそうたる職種の方々……。

なんだか、最後だけ浮いてマセンか? スクールアイドルは未来に受け継ぐべき宝ではありマスが……やはり浮いてマセンか!?

……きっと、方舟計画を敢行しただれかさんは、スクールアイドルヲタだったに違いありマセンね!


可可「しかし、シキシキ」

可可「技術跳躍(テクノロジー・ワープ)の恩恵で、仮に人類洗浄ができたとしてデスよ」

可可「地球からの異邦人たちは、国も言葉も宗教も、ダイバーシティにバラバラなはずデス。どのようにして歴史を刷り込ませたのデスか?」

四季「そう難しいことじゃない。データを消して、入れ替えればいいだけ」

可可「まさか、『メン・イン・ブ○ック』な非人道的行為が行われているのデスか!?」

四季「そのまさか。地球にいたころの記憶を消したら、『歌姫』の歌で洗脳され、新人類として作り直される」

四季「それが、フロンティアの真実」

341: 名無しで叶える物語 2022/12/15(木) 03:22:20.86 ID:9lpBqYrP.net
可可「そんな……! では、かのんや千砂都たちも、記憶を……?」

四季「…………その可能性はある」

可可「……でも、ありぇ? シキシキは、ククたちのこと覚えてマスよね。なにか裏技で切り抜けたのデスか?」

四季「私は記憶を保存してたから、なんとか……。それでも、完璧にすべて思い出せたか、自信はないけど」

可可「そうデシタか……。向こうは向こうで大変なのデスね……」

四季「その記憶消去のおかげで、人種国籍にかかわらず、すべての人間がひとつになれた」

四季「こうして生まれた新たな人類を、"新人類"と呼んでいる」

可可「安直デス」

四季「言語も、地球の文化に汚染されていない新たなものに刷新され、すべての新人類に統一の言葉が与えられた」

可可「あ、それはいいデスね! エスペラント的なものデショウか」

四季「うん、その通り。少し違うのは、この"新言語"は新人類の母語であり、第一言語だということ」

可可「『バベルの塔』の話では、言語の違いがアツレキを生みマシタからね。これは賢い方法デスよ」

四季「そういう捉え方もあるんだ……」

342: 名無しで叶える物語 2022/12/15(木) 03:22:36.83 ID:9lpBqYrP.net
四季「──と、ここまでが前置き」

可可「あ、そうデシタ! たしか、変異体とやらの話をしてたんデスね」

四季「うん。まずは変異体が発生するメカニズムから話そうか」

四季「地球から人工惑星への道のり。この間に、『魔の円球領域』と呼ばれるバミューダ的エリアが存在する」

可可「宇宙船が事故にあうのデスか?」

四季「宇宙船ではなく、これは人間に作用する」

四季「このエリアには特殊な重力場が発生していて、それが一部の人間に突然変異をもたらすの」

四季「その兆候として、異常な発熱があげられる。"宇宙熱"といわれたりしてたかな」

可可「宇宙熱……! ククもその症状になりマシタ!」

四季「先輩と同様、突然変異の末に、異形の変異体になる者は少なくなかった」

四季「そして、変異体たちの存在は、フロンティアにとっての不穏分子となった」

可可「だから害虫みたいに、見かけ次第にころす……と?」

四季「That's right」

343: 名無しで叶える物語 2022/12/15(木) 03:24:47.81 ID:9lpBqYrP.net
四季「たいていの変異体は、人間とは似ても似つかない容姿をしている」

四季「偉大なる知性が新人類という単一種族を作り上げた……という設定なのに、それに反する存在が街中を闊歩するのは、フロンティアにとって都合が悪いことらしい」


なるほど。姉が黒髪なのに、妹は赤髪みたいなものデショウか。


四季「それと、変異体は特殊な能力を有していることが多い」

四季「もし変異体が組織して、反動的運動をはじめたら、抑えが効かない」

四季「だから軍の人間は、変異体を優先して処刑するよう、命令を受けている」

可可「……つまり、ククにとってフロンティアは、危険地帯であるわけデスね? 前途多難デス……」

四季「変異体でも、かくれて生活している人もちらほらいる。土台無理というわけでもないから安心して」

344: 名無しで叶える物語 2022/12/15(木) 03:25:55.15 ID:9lpBqYrP.net
可可「……ククの能力は、このくるくるデスか」


──くるくるくる


四季「私も変異体。だけど、私の場合は人工変異体と呼ばれる」

可可「では、なかまデスね! ところで人工とは?」

四季「……あまり話したくないけど、とにかくむりやり、変異体にさせられる」

可可「ひどいデス! だれがシキシキにそのようなことを!?」

四季「ううん。私から望んでなった。地球探査任務に配属されるためには、必須だったから」

可可「……? 人工の変異体は、存在が容認されているのデスね」

四季「野犬は殺処分されるけど、警察犬は安全が保証されるようなもの」

四季「その代わり、人工変異体になる時、心臓に爆弾を埋められる。いつでも処分できるように」

可可「!? 身体の中に爆弾が……」

四季「たぶん、この身体じゃ、そう長くは生きられない……。それでも、メイに会いたかった」

四季「先が短くても、できる限りメイのそばにいたいから。……あ、このことはメイにはないしょで」

可可「シキシキぃ……」

345: 名無しで叶える物語 2022/12/15(木) 03:28:29.28 ID:9lpBqYrP.net
四季「それと、地下でクゥクゥ先輩だけが狙われてたのには、もうひとつ理由が」

四季「……私が、他の仲間を先導したから」

可可「し、シキシキ……?」

四季「……新人類は、地球にいる人間を虫ケラとしか思っていない」

四季「地球が再生したら、原住民を奴隷にしてやる、といった意気込みだから」

可可「な、なんデスか……! 自分たちももとは同じ星の人間だったのに……」

四季「洗脳があったから、仕方ない……」

四季「……私の仲間も、地球人をころすのに躊躇がなかった。だから、クゥクゥ先輩にヘイトを向けさせたかった」

可可「……そういうことなら、許してあげマショウ! ククのせいで犠牲者が出たら嫌デスから」

四季「ありがとう、先輩」

可可「んー、しかし、フロンティアにいる人間が新人類なら、地球に残っている人間はなにになるのデショウ? 旧人類?」

四季「…………新人類にとって、彼らは反動的人類……」

四季「だから、反人類と呼ばれてる」

346: 名無しで叶える物語 2022/12/15(木) 03:29:50.82 ID:9lpBqYrP.net



そして、現在。


可可「evv……evlle……」

グソクムシ「…」カサカサ

可可「ん……グソクムシ……」

可可「スミマセン、今日も先におやすみしててクダサイ……」

グソクムシ「ムシャー…」

可可「いまはとにかく、フロンティアに行くことだけを考えたいので……」

グソクムシ「……」

347: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/15(木) 03:31:28.52 ID:9lpBqYrP.net
環にひっかからないよう、腕を少し遠回りしてから、ゴーグルを装着。

ククが眠れば、シミュレーションがはじまりマス。


可可「このゴーグルがあれば、目が見えて楽しいデス~♪」ピョンピョン

四季「正確には、"脳が見てる"」

可可「どちらも同じことデス!」


宇宙シミュレーションでは、宇宙でのトラブルを想定し、その対処法を身体で覚えることができマス。

実際にククが宇宙に行く時には、なにも見えていないわけなので、いまのうちに映像を記憶しておかねば!


四季「……眠れ、青二才。あたりまえの宇宙航行じゃないか」


意識の棉は水面でまどろみ、だんだん水を吸って、底へと沈んでいきマス……。

…………。



目を開けば、そこは宇宙船の中デス。

350: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:41:47.28 ID:9T+I79IP.net
………………………。
………………………。


四季『……我々は、今ある次元でしか事象を観測できない…………』

可可『つまりは、すべてが視点の問題であり…………』


すみれ『……なんだかあのふたり、仲良さげね』

メイ『あ、すみれ先輩。よくわかんねえけど、"SF"の話をしてるんだとよ』

すみれ『ふーん……』


すみれ『…………ねえ! 私も混ぜなさいったら混ぜなさい!』

可可『なんデスか、すみれはお呼びでないデス。グソクムシには理解できない話デスよ』

すみれ『だれがグソクムシよ! 私だって、SF映画も多少は観るんだから』

すみれ『たとえば、車でタイムトラベルするやつとか、親指立てて溶鉱炉に沈むやつとか……』

可可『ククたちが話しているのは、その"SF"ではありマセン』

すみれ『え、違うの……? SF(すこしふしぎ)のこと……?』

可可『"狙撃手と農場主"の話デス』

四季『“Shooter and Farmer”──略してSF』

351: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:43:05.06 ID:9T+I79IP.net
すみれは勘違いをしていたようで、それっぽい言い訳を述べながら、ばつが悪そうにしていマス。

やれやれ。仕方がないので、すみれの尊厳はククが守ってあげマショウ。


可可『すみれが言うところのSFは、ククも好きデス!』

すみれ『そ、そう……?』

可可『見て。紙の両端に、ペケ印を書きマス』

可可『すみれは鉛筆を使って、このペケとペケを最短距離でつないでみてクダサイ』

すみれ『それだけでいいの? じゃあ、こうやって……』


すみれは自慢気に、ふたつのペケを結ぶ曲線を描きマシタ。


すみれ『ふふん、どう!』

可可『ぜんぜん違いマァス!』

すみれ『ギャラ!?』

可可『正解は、紙を折って、ふたつのペケを重ね、鉛筆で貫く……デシタ!』

すみれ『うっ……。文句をつけようと思ったけど、たしかに最短ね……』

352: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:44:15.57 ID:9T+I79IP.net
可可『……ところで、すみれ。なぜ直線にしなかったのデスか?』

すみれ『そんな簡単な問題、クゥクゥが出すわけないでしょ? だから少し頭をひねってみたの』

すみれ『まず、この紙が平面地図と仮定して』

すみれ『こっちのペケが東京、こっちが上海だとしたら……この曲線こそ、最短距離よ!』


思わず息を呑みマシタ。

勝手な設定を盛り込んではいマスが、その仮定のもとなら、すみれの解が正しいデス。

すみれとの視点の違いに、感嘆とさせられマシタ。


すみれ『……え? 私、変なこと言った……?』

可可『いえ……。むしろ…………』

可可『……それより、すみれ。なぜ東京と上海なのデスか? もっと遠い国でもよかったのでは?』

すみれ『だって、私とクゥクゥで考えたんだもの』

可可『!?』


すみれは平然と言ってきやがりマス! 変なこと言ってるのはいまデスよ!

353: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:45:02.70 ID:9T+I79IP.net
四季『クゥクゥ先輩との意見交換、とても有意義だった』

可可『ククもデス! 話の続きはまた別日にしマショウ』

四季『うん。……いまはメイが寂しそうだから、構ってあげなきゃ』

メイ『そ、そんなことねえよ!』


可可『では、ククも……』

すみれ『……そうだ、映画の割引券があるんだけど、よければいっしょに観に行かない?』

可可『!! はい、行きマス! ……あ、もちろん映画のためデスよ?』

すみれ『はいはい、わかってるから』


かつての日常の断片。

──夢寐にも忘れない思い出。


………………………。
………………………。

354: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:46:06.29 ID:9T+I79IP.net



『デケデケデッデッデー♪ ピローン♪』

『さあ今日もはじまりました! 〈スペースラジオ〉!』

『みんなの心のクウゲキを埋め……られてるのかなぁ……? そうだといいなぁ』

『私、ナポリタンモンスターがお送りします。よろくしお願いします!』

『……私といえばですね、今日も今日とて、部屋でごろごろ~としております』

『お散歩とかして、ラジオで話す用のネタとかを集めたいんだけどね~。終日ずっと、天井を見つめる毎日です』

『天井にある黒いしみの位置を、だれにでも理解できるように伝えられないかな~とか考えたりするんだけど、いつも途中で諦めちゃいます』

『どれだけ考えても、答えを出せない……。そういう人間なんだろうなぁ、私って』

『あれ? なんで悲観的になってるの!? ポジティブポジティブ! 私はこのラジオで、リスナーのみなさんに笑顔を届けたいって思ったんだから!』

『よしっ……。それでは今日も、お便りのほう読んでいきたいと思います』

『ペンネーム「哲学的ぞんびぃ」さんからいただきました。いつもありがとうございます!』

355: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:47:11.30 ID:9T+I79IP.net
可可「スペースラジオ……! 初めて生で聴くことができマシタぁ~!!」

四季「いつもは環で聴いてたから、新鮮?」

可可「はいデス! この宇宙船で流れているラジオの音を拾ってたんデスねぇ」

四季「そうかも。ノアを経由して電波を受信してるから。地球でのリスナーは、私たちだけかもしれない」

可可「では、ククたちは名誉リスナーデスね。ほこらしいデス!」


『わたくしは毎日、ギターの練習を続けているのですが、なかなか上達しません。できることがひとつ増えるたび、できないことがその輪郭をあらわにし、わたくしの前に立ちふさがるのです』

『ナポモンさんにあこがれ、はじめたギター。なにか上達する方法などあるのでしょうか? ご教授いただけるとうれしいです』

『……えー、私にあこがれてはじめたのー? そんなこと言われたら……えへへ~、どうしよう~?』

『んー、ご教授っていわれても、私は気がつけば弾けてたからなぁ……。諦めずにがんばる……しかないかと思います、やっぱり』

『今日お聞きいただくのは、哲学的ぞんびぃさんのように、頑張るみんなに送りたい、このメッセージテーマ──』

356: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:48:11.56 ID:9T+I79IP.net
可可「そういえば、このラジオは日本語なんデスねぇ」

四季「!」

可可「……フロンティアにも、日本語を話せる人がいるのデスね。日系新人類などのコミュニティーが形成されているのデショウか?」

四季「……その可能性はある」

可可「惑星国家……いったいどのような世界が広がっているのデショウ……!」

可可「政権による支配が強そうに思えマスけど、平和で幸せあふれる、スバラシイ国なのデショウねぇ~……」

可可「かのんたち、元気にやっているといいデスねぇ~」

四季「…………」


四季「……先輩。非常にまずい状況」

可可「ふぇ?」

四季「やられた……」

四季「宇宙には、行けないかもしれない……」

可可「なんと!?」

357: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:49:05.08 ID:9T+I79IP.net
こちらのハイテク宇宙船は、オーバーテクノロジーによって、地球の重力圏外まで飛行することができるそうデス。

シキシキの考えでは、この宇宙船を使って『ノア』に向かう予定だったそうデス。しかし現在、ノアとの連絡が遮断されているとのこと。


四季「私が地下でころしたのが、任務のリーダーだった」

四季「もしかしたら死の間際に、私が裏切ったことを、ノアへ報告したのかも……」

可可(……たしかにあの時、カチッという変な音がなっていマシタね)

四季「もし宇宙に行っても……ノアには乗れない。どころか、撃ち落とされる可能性もある」

可可「!?」


このままでは、空気がないのに音がする『スタ○ウォーズ』的な宇宙バトルがはじまってしまいマス……!


可可「……では、諦めるしかないデスね」

四季「……待って。まだ可能性はある」

四季「本来、メイたちが乗るはずだったロケット……。それが打ち上げ失敗のまま、保管されていたら……」

可可「宇宙に……!」

358: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:50:05.95 ID:9T+I79IP.net
二機のロケットを横並びで同時発射させる、通称『アルマゲ○ン式発射法』。

この無茶な打ち上げを敢行しようとしたせいなのか、きなきなたちは宇宙に行けなくなりマシタ。

しかし、そのおかげで今回、ククが宇宙へと舞い戻れる機会が巡ってきたのデス……!


四季「……ノアの周回軌道を考えると、いまから2日後に発射しなくては。今回を逃すと、次に近くを通るまで年単位でかかる」

可可「2日後!? まだククは2週間しかトレーニングしてないデスよ……!」

四季「先輩は要領がいいから、大丈夫」

可可「適当デス……」

四季「ロケットの確認もかねて、いますぐ射場に出発したい」

四季「だけどその前に、先輩にはひとつ、決断しなければならないことがある」

可可「はい、なんデショウ?」

四季「…………」

四季「グソクムシを、どうするか」

グソクムシ「!」

可可「グソクムシ…」

359: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:51:02.56 ID:9T+I79IP.net
なんとなく、グソクムシもいっしょに出立できるものだとばかり考えていマシタ。

ククとグソクムシは、どんな時でもそばにありマシタから。

…………グソクムシとは、離れたくないデス……。


四季「これは、いずれ決めるべきことだった。それが早まっただけ」

四季「グソクムシの身体が、打ち上げや無重力環境に対応できるかどうか、私にはわからない」

四季「最悪、命に関わることになるかも……」


まんまるな機体に細い脚の生えたスプートニクが、脳裏をよぎりマス。


可可「……グソクムシ」

グソクムシ「ムシャー…」

四季「フロンティアに着いたあと、地球に戻って来られるとは限らない。ここで別れたら、もう会えないかもしれない」

四季「どうするかは、先輩が決めるべき」


可可「…………グソクムシ。あなたはどうしたいデスか?」

グソクムシ「ムシャ…グムグム…グムシャー!!」

可可「…………」

可可「なにを言っているか、わかりマセンよ……」

360: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:52:06.62 ID:9T+I79IP.net
長考の末、出した結論。

ククが下した決断。


可可「……グソクムシは、置いていきマス」

グソクムシ「!?」

四季「……最終確認。本当にそれでいいの?」

可可「ククは……グソクムシに死んでほしくありマセン」

可可「もし同伴するのが危険なら……ククが守れないなら、グソクムシは安全な場所にいてほしいデス」

グソクムシ「ムシャー…」

四季「わかった。じゃあグソクムシは、きな子ちゃんにお願いして、預かってもらうね」

可可「お願いしマス」


可可「……グソクムシ。おまえと会うのは、今日で最後になるかもしれないデス」

グソクムシ「ムシャー…!」

可可「最終話……。いつか絶対、話しマスから……!」

可可「…………愛してマス、グソクムシ」ギュー

グソクムシ「グムシャー…!!」ギュー


グソクムシの重みをしっかりと味わい、最愛のパートナーに、今生となるかもしれない別れを告げマシタ。

361: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:53:03.98 ID:9T+I79IP.net



シキシキが操るハイテク宇宙船は、重力に囚われず、自由自在に空を飛び回りマス。気づけば、あっという間に目的地にたどり着いていマシタ。

東京射場。地球脱出のために作られた、人工島。

急ピッチで建設されたこの発射場は、機能性だけを重視し、張りぼて感満載のデザインとなっていたのが、14年前の印象デシタ。


四季「太陽光発電は……いまのお日様の光じゃ、心許ない」

可可「電力、足りないんデスか?」

四季「土の雲が、光をほとんど遮ってるから……。それに、発電能力が生きているかも怪しいところ」

四季「でも、大丈夫。こんな時のために、私の"能力"がある」


シキシキの身体からは、バチバチとはじける音がしマス。どうやらそれで、電気をまかなえる様子。

燃料もじゅうぶんあり、打ち上げに支障はありませんデシタ。

グソクムシと別れてからというものの、話がとんとん拍子に進んでいきマス。

まるで、憑き物がとれたかのように。

362: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:54:03.56 ID:9T+I79IP.net



可可「"fytleiouauubaer"、あなたは美しい……」

可可「"ewkaiiauaryo"、あなたはかわいい……」


四季「ん……。まだ勉強してたの?」

可可「はい。きれいな言葉を覚えているところデス」

四季「うん……。殊勝な心がけ」


私は頭をフル回転させ、余計な考えをはじき飛ばしマス。

心にできたクウゲキを意識しないように。

グソクムシとの別れは……ククが決めたことデスから……。

363: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:55:05.91 ID:9T+I79IP.net
………………………。
………………………。


ククはすみれが嫌いデス。

デスが、唯一認めているのは、その横顔。端正に整った絵画のような美しさは、華になりマス。


すみれ『……なに? 人のことジロジロ見て』

可可『み、見てないデス!』

可可『……それより、ロクオン寺はなにデスか? なにを録音しマスか?』

すみれ『違うわよ、この時代にそんなハイテク技術ないし!』

すみれ『いい? 鹿苑寺っていうのは、金閣寺のことよ! 1397年に足利義満が創建して──』


人に頼られると、すみれはつんけんしつつも、うれしそうに応えマス。恐らく性質的に世話焼きな人間なのデショウ。

すみれが熱く弁を振るっている間は、横顔をじーっと眺めていても、不自然ではないはず。

だからククは、"すでに知っていること"をわざわざ質問し、すみれに答えさせているのデス。

364: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:56:03.24 ID:9T+I79IP.net
すみれ『……やっぱり。さっきからあんた、なにも聞いてないでしょ』

可可『!』


さすがに見過ぎたようデス。

すみれは自分の話をスカされ、立服している模様。まゆの端が吊り上がっていマス。


すみれ『あんたが質問したから答えてあげたのに、なんで聞いてないのよ!』

可可『……グソクムシの説明がわかりづらいのデス』

すみれ『なっ……!』

可可『グソクムシは語彙が貧弱で、金閣寺の美しさを1ミリも表現できていマセンよ~』


やめて。


可可『まあ、そのオツムでは仕方ありマセンね~。グソクムシは、愚鈍デスから!』


違いマス……!

ククはだれかを攻撃するために、日本語を勉強してきたわけではありマセン!

人を傷つけるために覚えた語彙じゃないのに、こんな使い方しかできないなんて……。

自分の性格の悪さが見え透いて、嫌になりマス。

365: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:57:09.16 ID:9T+I79IP.net
前に観た、言語を解読しながら異星人と交流する映画で、こんなセリフがありマシタ。「言葉は武器だ」

ククは悪びれもなく、罪のない彼女をナイフで斬りつけたのデス。

すみれを傷つけた。謝らなくては。


可可『……「歴史はいつだって午前中に学ぶべきよ。なにかが起こる前にね」』

すみれ『それ、だれの名言?』

可可『……ペパーミ○ト・パティ』

すみれ『だれよそれ……』

可可『ス○ーピーの親友のチャー○ー・ブラウンに片恋している少女デス』

すみれ『ふふっ。だれったらだれよ、それ!』


ククの試し行動を、すみれはいつも許してくれマス。

でもそれは、すみれのやさしさに甘えているだけなのに。勝手に許されていると、勘違いする私。

愚鈍は、ククなのデス。

ククには、すみれのとなりにいる資格なんて、ないのかもしれマセン……。


──夢寐にも忘れない思い出。


………………………。
………………………。

366: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:58:08.18 ID:9T+I79IP.net



打ち上げ前日。

ククたちはいま、神津島に来ていマス。


四季「……ひとりで平気?」

可可「ククは子どもじゃないデスよ」

四季「OK. じゃあ私は、夏美ちゃんたちに、明日ロケット打ち上げすることを伝えてくる。数時間で戻る予定」

可可「はい! グソクムシにもよろしく言っておいてクダサイ!」

四季「うん、言っておく」


巨大な機体が音もなく消え去ると、いよいよひとりぼっちになりマシタ。ふらふらと島を探索しマス。

薄明かりの太陽が、島と私を見守っていマス。

ここはもう人が住んでいないので、無人島という分類になるのデショウか? 悲しいデス……。


……Sunny Passionのおふたりは、無事フロンティアにたどり着いたのデショウか。向こうに行った時にお会いできたら、最高にハッピーなのデスが……。

いまでもまだ、歌って踊ってアイドルしているデショウか?

久しぶりにサニパのステージが見てみたいデスぅ~……。見えないデスけど、せめて音響と空気だけでも感じたい……!

367: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 03:59:12.17 ID:9T+I79IP.net
ザッ、ザッ。凍った砂浜に、足跡を残しておきマス。

もちろん、アポロ11号のアームストロングと比べたら、このスタンプには大した価値はありマセン。

これは記念なのデス。ククが地球にいたことを示す、大切な記念デス。


それから、シキシキにいただいた干し肉をしゃぶり、スポポーンで海に入ろうとして引き返し、意味もなく環をくるくるさせて遊んでみたり……。

非生産的に、一日を消費しマシタ。

日が暮れ、世界は本格的に闇に染まりマス。

ククは一応、太陽の存在は感知できマス。なので、強い光であれば"見える"のデス。

それともうひとつ、ククの目に見えているものがありマシタ。

それは、グソクムシデス。

厳密にいえば、グソクムシの体内にある、ふわふわとした光の玉。

この光の玉があったから、ククはグソクムシを見失わずに済みマシタ。グソクムシはククを照らし、導いてくれる光デシタ。

そんな光が、いまはどこにもありマセン。

あるのは、底知れぬ闇。"なにもない"だけが目の前にありマス。

368: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 04:00:28.17 ID:9T+I79IP.net
潮のにおいも、波の音も、風の歌も。すべてが凍っていマス。

ただ、雪のにおいだけが、鼻腔をくすぐりマシタ。

…………。

シキシキが帰ってきマセン……。数時間で戻ると言っていたのに……。

……長いこと闇の中にいると、自分の存在が不確かになってきマス。

触れている地面も錯覚でしかなく、無重力にたゆたうような感覚。

この世界から飛んで消えてしまいそうになり、得も言われぬ不安が、大挙して押し寄せてきマス。


孤独の怖さなんて、すっかり忘れていマシタ。

だって、ククのそばにはずっと、グソクムシがいてくれマシタから。

……地下では、きなきなの力を借りていたので、グソクムシのお仕事はあまりなかったデスね……。

最近ずっと、忙しさを言い訳に、構ってあげてませんデシタ……。

もっと……グソクムシといる時間を、大切にするべきデシタ……!

グソクムシ…………。

369: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 04:02:12.14 ID:9T+I79IP.net
四季「……クゥクゥ先輩」

可可「! シキシキ……おかえりなさいデス!」

四季「ただいま。遅くなってごめんなさい」

可可「いえ、大丈夫……デス」

四季「打ち上げ予定時刻も伝えておいた。三人仲良く、港から見届けるらしい」

可可「そうデスか……」

可可「……グソクムシは、どんな様子デシタ?」

四季「様子はわからないけど、元気そうだった」

可可「それならよかったデス……」

四季「…………」

四季「先輩。昔みんなで撮影した、未完成の映画がある」

可可「……クク"以外"の演技がひどすぎて、メイキング映像が本編になった、あの?」

四季「記憶に齟齬がある……」

四季「私と千砂都先輩が先に宇宙へ旅立った時、夏美ちゃんからお守りとして渡されてたの」

可可「……観たいデス」

四季「じゃあ、宇宙船に戻ろう」


シキシキの大きな手に引かれ、音のない砂浜を去りマシタ。

370: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 04:03:03.10 ID:9T+I79IP.net
………………………。
………………………。


かのん『きな子ちゃん…………メイちゃん…………夏美ちゃん…………』

すみれ『っ……! どうしてどこの家族も乗ってないのよ……!』

恋『…………サヤさん……』


船員『もし、体調の悪い方がいましたら、すぐに船員へとお伝えください』

船員『特に宇宙熱の場合、早く治療しないと、大変なことになりますので……。症状があれば、すぐに船員へと──』

少女『あ、あの! 私の家族はどこですか!?』

船員『あー、すみません。我々にはなにもわからないので……』

少女『家族もいっしょに搭乗しているはずなんです! どこですか! 会わせてください!!』

船員『…………わかりました。では、ちょっとあちらのほうで落ち着きましょうか』


可可『…………』

371: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 04:04:54.51 ID:9T+I79IP.net
ノアの船内には、動揺が喧々とこだましマス。

船に乗り合わせたスクールアイドルたちはみな、不安と混乱を体外へと発散させていマシタ。


かのん『家族……会える、よね……?』

かのん『遅れてやってきてるんだよね……そうだよね……?』

すみれ『…………ええ、そのはずよ』

恋『ですが、話と違います……! いっしょに、人工惑星まで行けると聞いていました!』

恋「それが……どうして、どうして……!』

すみれ『落ち着きなさいよ! 私たちは、ただ信じるしかないでしょ!?』

恋『ううぅ…………』

可可『……大丈夫デスよ、きっと会えマス』

かのん『く、クゥクゥちゃん……』

372: 名無しで叶える物語 2022/12/16(金) 04:06:55.22 ID:9T+I79IP.net
すみれ『あんた……』

すみれ『ああ、ごめん……思ってるより余裕がないみたい……。頭がおかしくなりそう…………』

可可『気にしないでクダサイ。みんながつらいなら、ククがサポートしマスから!』

恋『…………クゥクゥさんは、強い人ですね』

すみれ『…………あー、だめね、私……』

すみれ『この子が一番つらいはずなのに、こんなに明るく振る舞ってるんだから』

すみれ『……いつまでも、ぐじぐじしてられないわね!』

かのん『……うん。信じなきゃ! またみんなに会えるって』

恋『……はい!』

可可『……きっと大丈夫デス』

可可『ククたちの進路は、希望を指しているのデスから!』


船内放送では、いくつかのパターンのCMのあとに、決まって同じ定型文が流れマシタ。

『惑星国家へいらっしゃい♪』
『ユートピアへようこそ!』


──夢寐にも忘れない思い出。


………………………。
………………………。

380: 名無しで叶える物語 2022/12/17(土) 02:09:19.82 ID:RZ5P+0Ag.net



朝。寝不足の目をこすって、起き上がりマス。

ぼんやりとした頭は、上体をたやすく起こせたことを違和感に思いマシタ。あるべきはずのものが、失われている感覚。


可可「…………そうデシタ。もう、グソクムシとは離ればなれ……」


いつもの重みも、ククをつかんで放さない14ある脚も、いまはありマセン。

硬い甲殻をなでることもできず、熱い抱擁をかわすことも叶わないのデス。

無気力がククを支配し、動けなくなってしまいマシタ。

虫喰いのように、心の芯の部分がぽっかり穴を開けていマス。


カウントダウンは刻々と迫りマス。

打ち上げまで、あと5時間。

381: 名無しで叶える物語 2022/12/17(土) 02:10:29.89 ID:RZ5P+0Ag.net



四季「……先輩、顔色がよくないけど……」

可可「あまり眠れなかったんデス……。グソクムシに圧迫祭りしてもらうのが、いつも寝る時のルーティンだったので……」

四季「……」

可可「グソクムシとは道を別にすると、決めたのはククなのに……。いなくなったら、不安で不安で仕方ないんデス……」

可可「……そういえば、以前宇宙へ旅立った時も、あまりいい精神状態ではなかったデスね。シキシキにはこの話、しマシタか?」

四季「ご家族の件?」

可可「はい……」

可可「ひどい話デスよね……。ククの家族は宇宙に行く予定デシタのに、チケットを持っていない暴徒たちに襲われて……」

四季「日本だと、宇宙行きが決まった人とその家族は、政府によって速やかに保護されるから。……ご愁傷様です」

可可「もし、ククがスクールアイドルでなければ、家族はまだ生きていたかもしれないデスね……。無意味な仮定デスけど」

382: 名無しで叶える物語 2022/12/17(土) 02:12:00.70 ID:RZ5P+0Ag.net
四季「……私の家族は、いまもフロンティアにいる」

可可「お元気デスか? ご両親はかわいい娘と離れて、寂しい想いしてないデスか?」

四季「うん、大丈夫」

四季「家族は私のこと、忘れてるから」

可可「! ……す、スミマセン、そうデシタ」

四季「ううん。というより、記憶を取り戻した私が異端なだけ。忘れているほうが幸せだったのかな……」

四季「この宇宙で、私は孤独だった」

四季「だから、『メイに会うこと』は私にとって、約束であり……夢になってたんだ」

可可「夢……」

四季「そのために、たくさんころした。直接手を下さなくても、見ごろしにした。仲間もころした」

四季「……"夢"なんて、きれいなものじゃないね」

可可「……生きる希望になれるなら、それは夢デスよ」

四季「クゥクゥ先輩……」

四季「先輩には夢、ある?」

可可「ククデスか? ククの夢は、最後にLiella!のみんなに会うこと、デス!」

四季「…………」

383: 名無しで叶える物語 2022/12/17(土) 02:14:17.94 ID:RZ5P+0Ag.net
シキシキは、含みのある沈黙を続けていマス。


四季「こんな直前になってから言うのは、卑怯だって承知してる……。でも、言わなきゃ……」

四季「私……先輩に、謝らないといけないことがあるの……」

可可「謝る? ククはなにもされてないデスよ」

四季「……私はずっと、先輩のことを騙してた」

四季「宇宙に出て、フロンティアに行っても…………会えない」


四季「Liella!メンバー全員には、会えない」

可可「え」


会えない……? Liella!に?

かのん。千砂都、レンレン……。

すみれ…………。


四季「すみれ先輩は、私が記憶をなくしてる時に見かけたから、会える可能性は高いと思う」

可可「ほんとデスか……!!」


……なぜ喜んでいるのデスか!? かのんたちの安否はまだ聞いていないのに……! すみれが無事とわかっただけなのに……!

うぅ……。ククは、こんなにも利己的で非情な人間だったのデスか……?

384: 名無しで叶える物語 2022/12/17(土) 02:15:26.14 ID:RZ5P+0Ag.net
四季「千砂都先輩は、こつぜんと消えた」

可可「姿を消した……ではなく、消えたのデスか?」

四季「そう、消えた。いま思えば、宇宙熱の兆候があったから、千砂都先輩も変異体になってたんだと思うけど……」

四季「皮膚をやぶって全身から毛の束が生まれ、そのまま飲み込まれて…………」

四季「──最後には、まるで何事もなかったかのように、"無"だけが残った」

可可「千砂都……」

四季「恋先輩はわからない……」

四季「かのん先輩は……なぜか、塔に軟禁されている」


かのん、ディ○ニープリンセスみたいなポジションにいマスね……。いつか髪を伝って外に出るのデショウか。


四季「……そもそも、私が先輩に宇宙行きの話を持ちかけたのは……かのん先輩のことを、救ってほしかったから」

四季「全部、私の都合で話を進めてたの。騙しててごめんなさい」

可可「……そうデシタか」

385: 名無しで叶える物語 2022/12/17(土) 02:18:11.98 ID:RZ5P+0Ag.net
四季「当然だけど、シャトル打ち上げに失敗したら、命の保証はできない」

四季「いまならまだ引き返せる。先輩が地球に残りたいというなら、私は止めない」

四季「……いや、止める権利なんてない。だって、私は先輩を騙し、自身の思惑通りに担ぎ上げてきたんだから」

四季「やめてもいい口実はある。だから、ここからは、クゥクゥ先輩が決断して」


危険があるのは、もちろん承知の上デス。

それでもなお、宇宙を目指したいかどうか。

ククの頭に、8つの選択肢が現れマス。


くく
1.「すみれに会いたい──!」
2.「すみれに触れたい──!」
3.「すみれの横にいたい──!」
4.「すみれとともに歩みたい──!」
5.「すみれと未来を見たい──!」
6.「すみれと   なことしたい──!」
7.「すみれに愛されたい──!」
8.「すみれと飽きるまで遊びたい──!」

386: 名無しで叶える物語 2022/12/17(土) 02:20:56.14 ID:RZ5P+0Ag.net
相変わらず、ほとんど同じ内容が並んでいマス。

どれを選んでもいいデスが、一応9番の選択肢も確認しておきマショウ。

十字キーの下を連打し、処理落ちする寸前まで脳に負荷をかけ続けマス! ガガガガガ!

すると、8の次の数字──"絶対数"が現れマシタ。



9.「……嫌な予感がしマス。やめておきマショウ」



嫌な予感? なにをぬかしてやがるのデスか!?

打ち上げが100%成功するとは考えていマセン。ククだってそこまで楽観的にはなれないデス。

それでも、ククには夢がありマス!

『我愿意为我的梦想而死──!!』
『你是个爱哭鬼……』

…………覚悟は、もうとっくの昔に決めてマシタ。


可可「シキシキ」

可可「……眠れ、青二才。あたりまえの宇宙航行じゃないか」

四季「……OK. 決行しよう」

四季「私が宇宙へ連れて行く」

可可「はい! よろしくデス!」

387: 名無しで叶える物語 2022/12/17(土) 02:23:05.64 ID:RZ5P+0Ag.net
これから、ククは再び、地球を離れマス。

二度目の宇宙体験デス。人類史においてはなかなか珍しいのではないのデショウか?

……最後にもう一度、グソクムシとお別れがしたかったデスが……ぜいたくは言えないデスね。


四季「クゥクゥ先輩。あなたへの敬意を込めて、その環に口づけしたい」

可可「はい、いいデスよ。切らないようにだけ気をつけてクダサイ」

四季「切れるの?」

可可「ノートの端くらい切れマス」

四季「それは危険だ。気をつける」


ククは環をつかみ、おじぎで環を差し出しマス。

シキシキは下からやさしく支え、そっとぬくもりを与えマシタ。


可可「いまは、ククの目標がフロンティアにいるメンバーに向いてマスが……」

可可「シキシキに会えたのも、ククはうれしかったデスよ!」

四季「私も……。クゥクゥ先輩と話すのは、何年経っても楽しい」


可可「……また会いマショウ、シキシキ」ギュー

四季「……行ってらっしゃい。宇宙へ──」

388: 名無しで叶える物語 2022/12/17(土) 02:27:02.00 ID:RZ5P+0Ag.net



東京射場を望む港。

三人は、打ち上げの時を待っていた。期待と不安を胸に抱いて。


きな子「ふたりとも、どうか無事にいきますように……!」

メイ「頼むから、成功してくれ……!」

夏美「…………2037年9月3日」

夏美「ようやく、夏美たちのロケットが、飛び立つんですの……!」


夏美は、グソクムシから返してもらった銃を振り上げ、その銃口を空に向けた。

パンッ。

撃ち出された鉛玉は、重力に逆らい垂直上昇していく。その姿はじょじょに変容し、内から風船のように膨張する。やがて、いびつな過渡期を経て、ロケットの形になった。

ロケットは白煙を吐きながら、ぐんぐん伸びていく。勢いが落ちることが致命的であると悟ったように、余すことなく、全力で。

いよいよその先端が土の雲にかかると、容赦なく突き刺し、そして、貫いた。

白煙が薄らぐにつれ、雲に空いたまんまるな穴から、光が差し込みはじめた。


およそ14年10ヶ月ぶりに、地球に降り注いだ"天使のはしご"。

その光景を人々は見上げた。そして、この星の未来を夢見るのだった。

だれかが言った。「光あれ」と。

392: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:28:04.96 ID:GAjsNsMX.net



体重の約3倍の負荷が、身体にのしかかりマス。

のしかかられるのはグソクムシで慣れたと思っていマシタが、地球脱出にかかるGは想像を絶するものデシタ。


『こちら、東京。クゥクゥ先輩、Are you ok?』

可可「……No」

『大丈夫そうだね。よかった』

可可「……成功、デスか……?」

『うん。無事に切り離しは終えた。機体も安定している』


シキシキからの指示を受け、ベルトを外した途端、身体がふわふわと浮きはじめたのデス。

地上の絶対法則である重力からの解放デス。もうなにもククを縛りつけるものはありマセン。


可可「おぇ…………」


吐きたい衝動をなんとか抑えマス。エチケット袋がどこにあるかわからないので、吐くに吐けマセン。

いま吐いてしまうと、表面張力で顔に張りついた吐瀉物で窒息するという、ダーウィン賞ものの最悪な死を迎えてしまいマス。それだけは嫌デス!

そういえば、前に来た時も吐いていたような……。あれから全然成長してないデスね、クク。

393: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:29:18.12 ID:GAjsNsMX.net
可可「……帰ってきマシタ、宇宙!」

『先輩。心拍数が急上昇してる』

可可「スペースハイというやつデス! テンションが最高潮に達しているみたいデス!」

『うん、精神状態を自己分析できてるね』

『加速してるけど、ノアまではもう少しかかる。それまでは、来たる宇宙船潜入へと備えて』

可可「はいデス!」


ふわふわ浮いていると、頭をよくぶつけるので、身体を壁に固定して過ごすことにしマシタ。

以前の打ち上げや、シミュレーションの時とは違い、今回はなにも見えない状態デス。

地に足つかない完全な闇の世界に、早く順応しないと……。


可可「……グソクムシ」


宇宙に来て、まず最初に考えたのは、他のなにでもない、グソクムシのことデシタ。

見てマスか、グソクムシ? ククはいま、宇宙にいマスよ。

ふわふわ浮いているククの姿なんて、想像できないデショウ?

グソクムシ……。ククは元気デスから、心配しないでクダサイね……?



カサカサカサ。

394: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:30:26.56 ID:GAjsNsMX.net
ククの黒い視界に、光の玉が現れマシタ。

それはビリヤードの的球のように、あちこちの壁に跳ね返り、宇宙船内を飛び交っていマス。

右へ左へ、上へ下へ、近くへ遠くへ。

そして、ククの正面あたりに止まったかと思うと、光の玉は勢いつけて拡大されマス。


グソクムシ「ムシャーーー!!」フワフワ

可可「……………………」

可可「グソクムシぃ……!!」

グソクムシ「グムシャーーー!!」ギュー

可可「グソクムシ……!!」ギュー

可可「なんで、なんで……!?」

395: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:31:56.29 ID:GAjsNsMX.net
『こちら東京。グソクムシも無事だったようでよかった』

可可「シキシキ! どうしてグソクムシも乗っているのデスか……?」

『グソクムシがきな子ちゃんに話したらしい。どうしても、クゥクゥ先輩といっしょにいたいって』

可可「……そうなのデスか?」

グソクムシ「ムシャー!」

『クゥクゥ先輩に黙っていた理由は、ふたつ』

『ひとつは、言えば先輩が拒否してしまう可能性があったから。もうひとつは……』

『「今度こそ、クゥクゥ先輩にサプライズっす!」……だって』

可可「……はい! びっくりしマシタ! 本当にサプライズデス……!!」


可可「グソクムシ……。強がってマシタが、やっぱりククにはグソクムシが必要なんデス……!」

可可「私たちは、イチレンタクショー!」

可可「これからはずっと、いっしょデスよ……!」

グソクムシ「グムシャー!!」

396: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:32:59.03 ID:GAjsNsMX.net



グソクムシとの再会に沸いた船内。

ククたちは喜びを分かち合い、無重力下でくるくる踊り、よく頭をぶつけマシタ。

備え付けの宇宙食を分け合い、寂しがっていたであろうグソクムシをいっぱい撫でてやりマシタ。

そして、ついに──。


『……ここからはもう、私の声は届かない』

可可「はい……。ここまで連れてきていただき、ありがとうございマシタ」

『クゥクゥ先輩。健闘を祈ります』

可可「……行ってくるデス」

可可「かのんは、ククが必ず助けてみせマス……!」


ドッキングが完了、ノアへの扉が開かれマシタ。

焼けた金属のにおい。肌を撫でる冷ややかな空気。


可可「…………行きマショウ、グソクムシ」

グソクムシ「グム…!」

397: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:34:50.48 ID:GAjsNsMX.net



…………。

いまから、十数日ほど前デショウか。

宇宙船ノアに侵入し、スニークミッションをこなしていた、ククとグソクムシ。

ククがシミュレーションで培った空間認識能力と、グソクムシの索敵能力を遺憾なく発揮し、無事に目的地へとたどり着きマシタ。

この船内の大部分を過ごすことになるその部屋は、コクーンと呼ばれていマス。

コクーンにあるコールドスリープ装置。これを使って、フロンティアまでの数ヶ月を冬眠するのが、当初の予定デシタ。

100日で起床するよう設定し、眠りについたクク。

グソクムシは装置の下にかくれておやすみデス。(グソクムシという生物は、じっとしていれば、数年単位で絶食しても生きていけるそうデス)


──そして、現在。

コールドスリープが中断され、すやすや眠っていたククは、むりやり叩き起こされマシタ。

容器を満たしていた溶液のかさがじりじりと減り、肌が空気に露出しマス。

近づいてくる足音が三つ。恐らくは船員デス。

398: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:36:17.00 ID:GAjsNsMX.net
はっきりしない意識で、なんとか状況をつかもうと努めマス。

なぜコールドスリープが中断されたのデショウか……? このままいれば、ククは捕まるのデショウか、それとも……。

かつて、宇宙熱を発症した時のことが頭をよぎりマス。

船員に注射を打たれ、ククは意識を失いマシタ。そして気がつけば、未知の惑星……死んだ地球に堕とされていたのデス。


可可「……グソクムシは隠れててクダサイ」


船員に聞こえない声量で、装置の下にいるグソクムシに指示しマス。

むくりと起き上がり、船員たちのほうに向きなおりマス。


船員C「あ、頭になにかついてる! 変異体だ……!」

可可「……抵抗しマセン。撃たないでクダサイ」


向こうの言葉を使い、両手を頭の後ろに組んで無抵抗をアピールしマス。

シキシキいわく、変異体は警告なしでころしてもいい存在らしいデス。

なので、あからさまに敵意がないことを伝え、なんとか生存のチャンスを作ろうと試みマス。

399: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:38:57.07 ID:GAjsNsMX.net
船員A「そうだ、そのまま容器を出てこい」

可可「…………」


転ばないよう、ゆっくりと足を下ろし、船内の床に着きマス。

冬眠明け、久しぶりに動くので、脚がぷるぷると震えていマシタ。

足裏にしっかりと、人工重力を感じマス。


全員A「こっちへ歩いてこい」

船員A「敵意がないなら、こちらも手は出さない。だからくれぐれも変な気は起こすなよ」


いま、服を全部脱いでスポポーン状態なのを思い出しマシタ。そんなことどうだっていいデス。

見えない目で、船員たちに必死の目配せ。ククはまだ、死にたくありマセン……!


船員B「以前いた侵入者も、ここにいたからな……。定期的に使用状況を確認しておいてよかったぜ」

船員A「余計な口を叩くな。こいつを連行する」

可可(……とりあえず、危機は脱せそうデスね)

400: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:40:09.86 ID:GAjsNsMX.net
カチャ。


可可(!!)


撃鉄を起こす音。ククの耳は聞き逃しませんデシタ。

船員の中にひとり、明確な殺意を持った者がいる……!


船員C「ふぅ…………ふぅ…………」

可可(1時の方角にいる人……。ククを撃とうとしてマス……)

可可(このままでは、ころされる……!!)


その時、光の弾丸がまっすぐに飛んでいきマシタ。


グソクムシ「ムシャー!!」

船員C「うわあーーーっ!?」ドテッ

可可「グソクムシ!?」


隠れているよう言いつけたのに、グソクムシは勝手に動き出していマシタ。

401: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:41:26.94 ID:GAjsNsMX.net
船員B「なんだ……!?」


グソクムシが作ってくれた隙をつき、ククは船員のひとりに飛びかかりマス。


可可「むきゃー!!」

船員B「うぐっ!?」


思いっきり頭突きをかます。どこに命中したかはわからないが、船員は力なく倒れた。

その間に、まだ残っている船員が、銃口をククのほうに向けていた。

倒した船員を盾にしようと思うも、ククの膂力で持ち上げられる体重ではなかった。

ククがタゲを取っている合間に、グソクムシが特攻しマス。


グソクムシ「ムシャー!!」

船員A「このっ……!」


バキッ。グソクムシの甲殻が、くだける音。


可可「!?」

可可「……あああああああ!!」

402: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:42:33.68 ID:GAjsNsMX.net
訳もわからず走り、頭突きともタックルともいえない体勢で、最後の船員を押し倒す。

両手を振り下ろし、みぞおちのあたりをなぐりつけた。気の済むまで、何回だって。

まだ気絶していないので、落とした銃を拾い、船員の頭を数回なぐっておく。


可可「はあ……はあ……」


グソクムシが攻撃を受け、つい血の気が多くなってしまいマシタ。死んでないデスよね……?

息を落ち着け、改めて状況整理デス。


可可「……グソクムシ、いマスか?」

グソクムシ「…グム」

可可「グソクムシ……! もう、無茶しマスね……」

グソクムシ「ムシャ…」

可可「これ以上のコールドスリープはむりそうデス。これからは、客室かどこかに潜伏することにしマショウ」

可可「服は……まあ、あとで適当に見繕いマス。早くここを離れたほうがよさそうデス」

403: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:44:02.73 ID:GAjsNsMX.net
コクーンを出て、連絡通路へ。

眠っていた分の体力がまだ戻ってないのか、戦闘の疲れからか、足もとがふらつきマス。

とにかく、できるだけ早く、安全な場所へ──。


──くるくるくる

足音が、ひとつ。

意味もないのに振り返ると、そこにだれかがいた。


船員C「化け物ぉ……! 死ねぇーーー!!」


根拠のない直感で、相手は私の胸を撃とうとしているのがわかった。

しかし、反応しようと思った時には、もうすでに、船員は引き金を引いていた。


パンッ。

銃声は、地上でも宇宙でも変わらず、軽やかにはじけた。

404: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:45:16.89 ID:GAjsNsMX.net
『私が絶対に、まもるから……!』


可可「…………………………………………」

可可「…………………………………………」


理解するのが怖くて。

必死に思考を先延ばす。


私は、知っている。

この重みを。

この14ある脚を。

ククの上半身にくっつき、なかなか離れない。ククたちのモーニングルーティンであり、いつもの風景。

……………………。

何度考えても、すべての要素が、ひとつの結論を導き出す。

最悪の結末を。



可可「…………………………………………」

可可「……………………グソクムシ…………?」


返事はなかった。

私にへばりついていた、14の脚は、弱々しくはがれていった。

いつもはぜんぜん離れてくれないくせに。この時だけはあっけなく、はがれ落ちた。

405: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:46:09.85 ID:GAjsNsMX.net
船員C「ふぅ……ふぅ……!」

可可「………………………………」


息を乱している船員のことなど、眼中になかった。

私の目の前に転がっている、でかいの死骸。

触れても撫でても微動だにせず、作りもののようにすら思えた。

そっと抱き上げようとして気づいた。グソクムシの甲殻はひび割れ、そこかしこでめくれ上がっている。

生温かい体液が、とめどなく流れる。

けいれんしていた脚は、吹いていた風が凪いだかのように、ぴたりと動きをやめた。

グソクムシの生きていた証が、どんどん消えていく。


可可「」


グソクムシが、しんだ。

406: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:47:03.08 ID:GAjsNsMX.net
──くるくるくる


環。

それは、土星のようでもあり、ぶかぶかの麦わら帽子のようでもありマス。

薄くて平べったい、いくつかの"カンゲキ"を持った円盤デス。


──くるくるくるくるくるくる


環とともに、私の心中もくるくると回転していマス。

憤怒。

瞋恚。

忿懣。

慨嘆。


可可「ああ…………あああ……」


──くるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくる狂くる

407: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:48:02.84 ID:GAjsNsMX.net
激昂。

慚愧。

愁傷。

勃然。


可可「ああああ……ああ……あああ…………」


──くるくるくるくる狂狂くるくるくるくるくる狂くるくるくるくるくるくる狂くるくる狂くるくるくる狂くるくる


切歯。

絶句。

自責。

動転。


可可「ああ…………あ……ああああ……ああ……」


──くる狂くるくる狂狂くる狂狂狂くるくる狂くるくる狂狂くる狂狂くるくる狂狂くる狂狂くるくるくる狂くるくる狂狂くる狂狂狂狂くるくる狂くる


紊乱。

周章。

敵愾。

慟哭。


可可「ああああああああああああああああああああああああああああああ…………」


──狂くる狂狂狂狂狂狂狂狂くる狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂くる狂狂狂狂狂狂狂狂くる狂狂狂

408: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:49:34.70 ID:GAjsNsMX.net
くる狂と回る環は、次第に大きくなっていマシタ。

ガリガリガリガリガリガリガリガリ。

壁を削り、狂狂と拡大していきマス。


船員C「う、うわあああああああああ!?」


だれかいる……? だれデシタっけ。

このままでは環に切られて死にマスよ?

……そうデス、グソクムシをころしたやつデス。

じゃあ、ころしマショウ。



ころすころすころすころすころすころすころすころすころす殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。


可可「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!

409: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:51:03.99 ID:GAjsNsMX.net
──狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!!


可可「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…………!!!!!!!!!」

船員C「や……やめて…………」


グソクムシグソクムシグソクムシグソクムシグソクムシグソクムシグソクムシグソクムシグソクムシグソクムシグソクムシグソクムシグソクムシグソクムシグソクムシグソクムシグソクムシ!!!!!!!!

…………グソクムシぃ……!





~♪

どこかから、歌が聞こえマシタ。

やさしい歌が。


可可「…………」

船員C「ひぃ……!!」

可可「……woaayg(失せろ)」

船員C「……は、はいっ……!!」

410: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:53:30.18 ID:GAjsNsMX.net
可可「………………………………………」

可可「………………………………ああ……」

可可「……あああ…………ああ……ああ……」

可可「…………グソクムシ」

可可「グソクムシ……グソクムシ…………」

可可「クク…………クク、が……」

可可「あああああああ…………ああ……なんで……グソクムシ…………ああ……」

可可「いやだ…………いやだよ……あああ…………」

可可「私…………ああ……いや…………なんで…………あああああ……………………」



可可「…………………………………………」

可可「グソクムシぃ……………………」


もう、どうでもいい……。なにもかも……。

どうでもいい…………。

…………………………………………。

411: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:54:48.13 ID:GAjsNsMX.net



あぜ道を、一台の車が走っていた。

黒光りして、長い車体が特徴の車だった。


「先生。11時から東地区で会食があります。終わったらどこか食べに行きますか?」

「わたくしを食いしんぼうのように扱わないでください。心配には及びません、お腹いっぱい食べてきますから」

「そうですか。そちらのほうが食いしんぼうの印象を与えそうですが」

「……では、会食後に、どこか別のお店に行くことにしましょう」

「はい、承知しました」


先生と呼ばれる女は、窓の奥を眺めていた。右手に広がる景色はいつ見ても変わらない、ありきたりなものなのに。

しかし、その日は違った。


「……サヤさん、止めてください!」

412: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:56:12.66 ID:GAjsNsMX.net
運転手は、車を道の傍に停車させた。そしてすぐに車を降り、反対の座席のドアを開く。

先生と呼ばれる女は、礼を言って車を降り、いつもとは違う光景へと足を運んだ。


「どうかしましたか?」

「いやあ、どこから来たのか……。畑の中に、素っ裸の少女が倒れてたんですよ」

「体温が高いから、変異体かと思ったんだがなあ。どこからどう見ても、普通の"人間"だ」

「えっ……」

「どうかしましたか、先生? まるで、"ありえないもの"を目撃したかのようなお顔ですよ」

「…………」


「…………クゥクゥさん……?」



第5章 木星的黙示 終

413: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:57:10.41 ID:GAjsNsMX.net
Interlude


目を開くと、そこは真っ暗闇デシタ。再起動をかけるようにぱちくりしても、変わらずじまい。

不意に身体を動かそうとすると、節々に違和感を覚え、身悶えるような激痛が走りマス。

脈打つたびに痛みを思い出すので、何度も心臓を恨みマシタ。完全な八つ当たりデスが。


「うっ……ふぅぅ…………ぐっ……」


機内に充満しているこのにおいは、宇宙由来のものか、はたまた私の血なのか。

そんなことに思考を巡らせていると、とつぜん口内に、鉄の味が流れてきマシタ。

まさかと思い、おもむろに手で顔に触れてみると……ベタリ。

見えなくてもわかりマス、頭から出血していマス。同じ温度の鮮血が顔を滴っていても、どうやら人間はなかなか気がつかないみたいデス。

はやく、ここから出なければ──。


脱出方法を求め、暗闇の中、手探りで機内のあちこちを捜索しマシタ。

整然と並ぶボタンの平野を越え、林立する突起物の峰をすり抜け、灼熱の鉄板地帯を駆けていく。

そしてようやく光明をつかみ取りマシタ。手に馴染むようしっかりと握って、時計回りにひねっていきマス。

これで、やっと外に出られマス……!



──扉を開くと、そこは真っ暗闇デシタ。

414: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 03:59:32.64 ID:GAjsNsMX.net
私が墜落したこの星には、幸運なことに大気がありマシタ。……デスが、それはあまりにも冷え切り、紅蓮地獄のようデシタ。

タイミングを見計らったように吹き始めた、吹雪、ブリザード──いえ、呼び方はなんでもいいデス。

風の群れは、どこからともなく無秩序に吹きすさび、温度と体力を奪おうと躍起になっていマス。

機内へ戻ろうと、身体を反転させマシタ。しかし今度は、辺りに広がる闇が、強い悪意を持って行く手を阻みマス。

さっきまではあれほど出たかった機内なのに、今は戻りたくて仕方ありマセン。

手を伸ばしても空を切るだけ。機体はどこにもなく、たったひとり、世界に取り残されてしまいマシタ。


「だれか……だれか……」


絞り出した声は、内で反響するだけ。

ホワイトアウトに加え、ブラックアウト。視界は完全にシャットアウト。

チェスで喩えるなら、チェックメイトというやつデス。

こわい。

さむい。

あつい。

415: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 04:02:32.89 ID:GAjsNsMX.net
(闇と氷の星で、ククは野ざらしのままくたばっていくのデスね……)

(見えない吹雪になぐられ続け、天然の冷凍庫で恒久的に保存されていくのデショウ……)


真っ暗な視界にぽつり、死が浮かびあがってきマシタ。

死は私のもとへ、寄り道もせずにまっすぐ行進してきマス。

今際の際、ククはすみれのことを思い出していマシタ。

もし、すみれがギューっと抱きしめてくれたなら……。

いま感じている恐怖も、瞬く間に氷解してしまうのデショウね。

すみれ……ごめんなさい……。

すみれ…………。



カサカサカサ。

私の眼前で、"なにか"が光っていマス。

それは私に覆いかぶさり、寒風を防いでくれていマス。

まるで、ククを救おうとしているような……。

416: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 04:04:13.09 ID:GAjsNsMX.net
そっと手を沿わせ、光の根源に触れマシタ。

その固い甲殻は瓦屋根のように連なり、細い脚は鉄筋のように立派に自重を支えていマス。

触覚は巧みに操られ、ワイパーのようにククに積もった雪を払い落としてくれマシタ。

このフォルムを、ククは知っていマス。

記憶にある姿よりも、かなりでかいデスが……。


「…………グソクムシ?」

「グムシャー!」


さも当然のように返事するグソクムシ。

それがとてもおかしくて、思わず破顔すると、心がポカポカ暖まってきマシタ。


「まさか、天の使いがグソクムシだとは……。天界はよほど人材不足なのデスね」


私は、グソクムシの頭(?)を撫でながら、天に召されるのを静かに待ちマシタ。

…………。

……なかなか召されマセンね。

417: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 04:06:40.81 ID:GAjsNsMX.net
もしかして、召し作業の前にしなくてはならない事務処理でもあるのデショウか? グソクムシに書類仕事ができるとは到底思いマセンが。

それとも、召しの順番待ち……? 天界の受け入れ態勢が整っていないのかもしれマセン。繁忙期に死んでしまって申し訳ないデス。

──そんなくだらないことを考えている最中、ふと気づきました。


心臓は力強く稼働を続けていマス。血が駆け巡るたびに、全身が痛みを訴えているのデス。

私、生きてる……。


「ムシャー」


長い触覚で二回ほどククを叩くと、グソクムシは移動をはじめマシタ。

どうやら、このグソクムシは天使でもなんでもなく、ただのでかい海生甲殻類らしいデス。

グソクムシの内に輝く光。その明かりを頼りに、移動したあとを追いかけることにしマシタ。

418: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 04:08:57.38 ID:GAjsNsMX.net
追いついたその場所は岩壁に囲まれており、雪に吹かれることはありませんデシタ。

ようやく一息つくことができマス。グソクムシも脱力して休んでいるようデス。

……本当に、このグソクムシは、私を助けようとしてくれているのデショウか?

訊いたとて、「グムシャー」と返ってくるばかりデスが。


落ち着いたところで、改めて、グソクムシを観察してみマシタ。

果てしない闇の中。なぜかククには、グソクムシだけが光って見えてマス。

グソクムシの中にふわふわと浮いている光の玉。これだけが、この世界で唯一、輝きを持っていマス。

それは周囲を照らす光源ではなく、まるで空間に付着した白いしみのように、単体として光っているのデス。グソクムシ本体すら、照らすことなく。

……グソクムシは、私のことが見えているのデショウか。

419: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 04:11:00.57 ID:GAjsNsMX.net
岩陰に隠れてから、30分。

心に余裕が生まれたおかげか、頭の中をいろんな考えが巡りはじめマシタ。

これからどうしよう……。

いずれ吹雪はやむとして……肝心なのは、その後のことデス。

ククはこの得体の知れない星で、生きていかなければなりマセン。食べ物は? 水は? 寝床は? 環境に適応できる?

考えれば考えるほど不安が積み重なってしまいマス。


グソクムシがいるということは、他にも生物の系譜が見られるはず……。つまり、地球と同様に、ここが弱肉強食の世界であろうことは推測できマス。

さらに、このグソクムシは従来のものよりも巨大デス。ということは比例して、この星に棲む他の動物たちも、巨大生物である可能性が高いデェス……。

…………小さな可可は、あっけなく食べられてしまうかもしれマセン。

この闇は、いつになったら晴れるのデショウか。もし晴れたとして、ククは未知の星で生きていけるのデショウか。

あふれる疑問も、晴れることはありませんデシタ。

420: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 04:14:11.64 ID:GAjsNsMX.net
……これはきっと、神様だか閻魔大王様だかが与えた、ククへの罰なのデショウ。

夢寐にも忘れられない記憶が回顧される。


『ねえ、クゥクゥ。やっぱりいますぐ診てもらうべきよ! あんた、すごくつらそうだし……』

『はあ……はあ…………はあ……………………うるさいデス……』


宇宙船。熱に侵される私。心配するすみれ。

ふらつく頭で絞り出した言葉は、すみれを傷つけるための凶器の数々。


『…………だれにでも、やさしくして……善人ぶって…………何様のつもりデスか? 気持ち悪い……』

『はあ……はあ……だれも、助けてなんて…………頼んでマセン……』

『……すみれは、だれからも相手にされない……寂しい人間デスから……』

『ククみたいな、弱者を助けて……取り入れば……自分を崇拝して、相手してくれるから…………さぞ、気持ちいいのデショウね…………』


膿を出すように、ククの中に湧いた不安な感情を置換し、すみれにぶつけマシタ。

すみれなら許してくれるだろうという、傲慢な思い込みのもとに。

すみれは気持ちを押しころし、口を結んでいマス。ククのすべてをその一身に受け止めるかのように。

421: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 04:17:48.49 ID:GAjsNsMX.net
『はあ……はあ………………あなたは、ククのこと……好きかもしれマセンが……』


だめ。やめて。


『ククは、あなたが……………………』


それ以上は言わないで。


『………………大嫌い、デス……!』

『っ……!!』


なにを言われたっていい。ただ、その言葉だけは聞きたくなかった。……そんな表情。

これが、すみれとの最後デシタ。


後悔だけがつのる。あんなこと言わなければよかった。もっとすみれを大切にすべきだった。もっと素直になればよかった。

でもそれらはすべて、後の祭り。SF映画のように、時間を遡行してやり直すことなんてできマセン。

過去を変えられないなら、いまを変える……なんてこともできマセン。すみれはとなりにいないから。会いに行くこともできないから。

すみれに、「ゴメンナサイ」を伝えることすら、叶わないのデス。

422: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 04:19:38.40 ID:GAjsNsMX.net
すみれに、あんなつらそうな顔をさせてしまった。

地獄への流刑でも足りない。……それくらいの大罪デス。

手は自然と首もとに回り、憎しみを込めて全身全霊で締め上げる。


「ムシャー!?」


グソクムシのタックルを受け、中断された。そのまま馬乗りされ、身動きが取れなくなりマス。


「…………まさか、『生きろ』と……そう言うのデスか?」

「グムシャー!」

「ひどいグソクムシデスね……」

「ムシャ!」

「……わかりマシタ。ククもちょうど、さあ生きようと思ったところデス」

423: 名無しで叶える物語 2022/12/18(日) 04:22:07.90 ID:GAjsNsMX.net
これからはじまるのは、ククの贖罪の旅。


「……決めマシタ!」

「ククは、これからずっと、シタタカに生きマス。絶対に泣いたりなんてしマセン……!」

「グムグム」

「未来のことなんてわかりマセンが……きっと、超特大スペクタルな大冒険になるはずデス……!」

「グソクムシ……。いっしょについてきてくれマスか?」

「グムシャー!」


耳ざわりな吹雪は、いつの間にか止んでいマシタ。


「さ、出発しマショウ、グソクムシ。旅のはじまりデス!」


ククとグソクムシは横並びになって歩きだしマシタ。

いつか来る、旅の終着点へ向けて。

426: 名無しで叶える物語 2022/12/19(月) 02:25:38.59 ID:zR+Nrqfg.net
第6章 天王星的転回



意識が、世界に接続されマシタ。

しかし身体はうまく動かせマセン。私の上に、見えない巨大な分銅が乗せられていマス。

重いまぶたを持ち上げてみマスが、見えている視界は真っ黒のまま、なにも変わりありマセン。


「おや、お目覚めになられましたか」

可可「…………だれ、デスか」


手を伸ばすと、案外あっさり声の主に触れられマシタ。

ふるえる手で感触を確かめマス。皮膚の上を滑らかに伝い、肩を始点に、首を通り抜け、最後は顔に。

私はその顔立ちを、知っているように思えてなりませんデシタ。……いえ、間違いなく、知っていマス。

427: 名無しで叶える物語 2022/12/19(月) 02:27:08.67 ID:zR+Nrqfg.net
「少々お待ちください。いま、先生を呼んでまいります」

可可「せんせい……」

「先生は、あなたを運んできてからというもの、一睡もしていません。ですから、これでようやく安眠できますね」


それだけ言うと、その人はドアを開け、部屋を出ていきました。うまく聞き取れませんデシタが、「先生」と呼ばれる人物を呼びに行ったのデショウか?

待っている間、私が置かれている状況を把握しようと、自分を俯瞰してみマス。

どうやら私は、ベッドに寝かされているようデス。自分の顔に触れ、いま確かに存在していることを確認しマス。


そう待たないうちに、バタバタと忙しない足音が響きマス。

音は階段を下り、角を曲がり、部屋へと入って私に急接近しマス。


「クゥクゥさん……! お目覚めになられたのですね……!!」

可可「!」

428: 名無しで叶える物語 2022/12/19(月) 02:28:35.20 ID:zR+Nrqfg.net
可可(私のことを知っている人デス……)

可可(この声、もしかして…………)

「丸三日は眠っていたんですよ。もしこのまま目覚めなかったら、どうしようかと……」


そう言って、その人はぬくもりを感じさせる両手で、私の手を包みマシタ。


可可「スミマセン……。まだ言語の勉強はじめたばかりで……もう少しゆっくりがいいデス」

「あ、そうだったのですね……。では気をつけます」

可可「……ここは、地球?」

「いいえ。ここは人工惑星ですよ」

可可「そうデスか……。いつの間にか、着いたんデスね」

可可「…………あの、あなたはだれデスか?」

「え……」


その声には、驚きの感情がこもっていマシタ。

429: 名無しで叶える物語 2022/12/19(月) 02:29:37.74 ID:zR+Nrqfg.net
「もしかして、目が見えないのですか……?」

可可「……はい。いまは真っ暗にしか」

「…………」


私の手を握る力が、少し強くなりマシタ。しばし沈黙を続け、何かを考え込んでいるようデス。



「…………では」

「──わたくしは、哲学的ぞんびぃと申します」

430: 名無しで叶える物語 2022/12/19(月) 02:30:30.30 ID:zR+Nrqfg.net



互いに自己紹介を交わすと、ぞんびぃさんから、事の顛末を聞かされマシタ。

三日前。私がスポポーンで倒れているのを、たまたま警察が見つけ、処刑するか迷っていたそう。

そこにぞんびぃさんが現れ、私を家まで連れ帰ってくれたらしいデス。


ぞんびぃ「すみません……。服は、お下がりのものしかありませんでした」

ぞんびぃ「わたくしのサイズなので、クゥクゥさんには合わないですが……」

可可「……いえ、ありがとうございマス」


胸もとがぶかぶかの寝間着を遊ばせながら、独り言のようにぼやきマシタ。


可可「声を聞いて……友達ではないかと思ったのデスが……」

可可「どうやらあなたは、レンレンではないみたいデス」

ぞんびぃ「!!」

ぞんびぃ「……ええ。あいにく、"恋"という方は存じておりません」

431: 名無しで叶える物語 2022/12/19(月) 02:31:23.42 ID:zR+Nrqfg.net
それから、ぞんびぃさんは、この家に住む"同居人"を紹介しマシタ。

……人と呼んでいいかはよくわかりマセンが。


ぞんびぃ「わたくしのそばに、メイドのサヤさんが立っています」

ぞんびぃ「サヤさん。クゥクゥさんにご挨拶を」

サヤ「サヤです。先生の秘書兼小間使いとして働いております」

可可「サヤさん……デスか」

ぞんびぃ「サヤさんは、この辺りでは珍しい、アンドロイドなんですよ」

可可「へえ、アンドロイ……ギャラ!?」

ぞんびぃ「それと、"電気いぬ"のチビがいます」

チビ『ワン』

可可「でんきいぬ……」


目の前で『ブレードラ○ナー』的世界観が展開され、かなり混乱していマシタ。

アンドロイドは電気いぬの夢を見るデショウか? いえ、見ないデス。相場が決まっていマス。

432: 名無しで叶える物語 2022/12/19(月) 02:32:26.86 ID:zR+Nrqfg.net
ぞんびぃ「あの……」

ぞんびぃ「クゥクゥさんは、どのようにして、この星に来られたんですか?」

可可「…………」

ぞんびぃ「す、すみません……。答えたくなければ、よいのです……」


ぞんびぃさんは、私との距離感を測りかねているようで、私に触れたり離れたりと、モジモジしていマス。


ぞんびぃ「……えっと、その…………」

ぞんびぃ「もし、クゥクゥさんに行くあてがないのであれば……しばらくうちに、お泊まりになりませんか?」

可可「いいんデスか……?」

ぞんびぃ「はい! 客室は8つあるので、問題ありません!」

可可「迷惑でないなら……」

ぞんびぃ「ほんとですか!? ありがとうございます!」


なぜ、ぞんびぃさんが礼を言うのデショウか? 私が言うべきなのに。

433: 名無しで叶える物語 2022/12/19(月) 02:34:40.64 ID:zR+Nrqfg.net
ぞんびぃ「すみません、クゥクゥさんは疲れているのに、長話になってしまい……」

ぞんびぃ「病み上がりですから、いまはとにかく、安静にしていてくださいね」

可可「はいデス」


ぞんびぃさんたちは私に気を遣い、ぞろぞろと部屋をあとにしマシタ。

メイド兼アンドロイドのサヤさんいわく、ぞんびぃ先生は三日も寝ていないそうデスが……。それでも私を気にかけてくださるとは、親切な方デスね。


うんと身体を伸ばし、ベッドの感触を確かめマス。

これまで、ほら穴の地べたや、地下鉄のソファで寝てきマシタ。それがいまでは、こんなにふかふかなベッドで眠れマス。

ふと、頭に触れてみマシタ。

……環はどこにもありマセン。

私の心のありさまを表していた環がなくなり、言いようのない不安が、いたずらに鼓動を早めマシタ。

私の質量が増え、ふかふかベッドに沈み、めり込んでいく錯覚に襲われマス。


そのうち、意識が切断されマシタ。

439: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 03:37:06.39 ID:vHIQknhh.net
………………………。
………………………。


すみれ『いいじゃない、恋! とても似合ってるわ』

恋『そ、そうですか……? すみれさんに選んでいただいてよかったです!』

可可『…………』


なにやら、すみれとレンレンが仲良しデス。面白くありマセン。


可可『…………レンレン~!!』

恋『わあ、クゥクゥさん!?』

可可『はぁ~……! レンレンいいにおい……』

恋『ひゃあ! 恥ずかしいから嗅がないでください~!』

すみれ『……ちょっと。いま私と恋が話してたところなんだけど?』

可可『なんデスか、すみれぇ? まさか嫉妬してるんデスかぁ~??』

すみれ『はあ!?』

440: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 03:38:12.38 ID:vHIQknhh.net
私はよく無意識のうちに、自分の感情を、他の人へとすり替えているみたいデス。

つまり他人の心に、私の気持ちを代弁させているわけデス。

無意識なので当然、その時々の私は気づいていマセンが。


可可『やれやれ、すみれはまったく……』

可可『嫉妬深く、傲慢で、欲深く、怒りっぽくて、   で、健啖家で、なまけものデスねぇ』

すみれ『だれが七つの大罪コンプリート女よ!』

可可『すみれ。ククとレンレンの仲を邪魔しないでクダサイ』

可可『ククたちは、"ヒヨクゥレンリ"なのデスから!』


すみれはきっと、自分のほうが仲良しだと言い張ってくるデショウ。そうしたらククは、さらにレンレンとの仲良しエピソードで応戦しマス! 先読みはレスバの基本戦法デェス!

……そう予想していマシタが、実際には、すみれは口を開けたまま固まってマス。"会話しゅみれーしょん"失敗デス。

441: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 03:39:34.26 ID:vHIQknhh.net
すみれ『あ、あんた……。それ、意味わかって言ってるの……!?』

可可『えっ……。仲良しさん、という意味デスよね?』

すみれ『……ええ、そうよ。でも私たち以外に軽々しく言っちゃだめだからね?』

恋『びっくりしました……。身体が熱いです……』

可可『?』


レンレンは顔を手であおぎながら、IMOを展開しマス。


恋『わたくしが思うに……』

恋『クゥクゥさんはすみれさんのことを慕っているので、もしや三角関係というものになるかと、内心ヒヤヒヤでした……! ほっ……』

可可『!? だ、だれが、すみれなどを好きになりマスか!』

すみれ『……そうよ。そんなことあるわけないでしょ』

可可『っ……!』

3人『…………』


千砂都『みんなー! ういっすー!』

千砂都『…………あ、あれ……? なにこの空気……』


──夢寐にも忘れない思い出。


………………………。
………………………。

442: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 03:41:01.94 ID:vHIQknhh.net



惑星国家──フロンティアでの生活がはじまりマシタ。

私は、お世話になっているぞんびぃさん家のお手伝いをして、毎日過ごしていマス。

……といっても、できることは少ないデスが。ハイテクな家電たちが、あらゆる家事を勝手にこなしてくれるのデス。


今日もキッチンに立ち、じゃがいもの皮をむいていきマス。方程式に決まった公式をあてがうような、パターン化された流れ作業デス。

なんの苦労もせず、他力で一皮むけて身軽になっていくじゃがいもに、強く嫉妬しマス。

なくした夢……いまの私は抜け殻デス。脱皮した本体は、私のことなど気にも留めず、カサカサとどこかに消えマシタ。

…………家族よりも、長い時間をともに過ごした存在。

それは、親友でもあり、パートナーでもあり、新たな家族でもありマシタ。

夜に寝ていても、違和感で目が覚めマス。

私を圧迫してくれる、重石はもういないのデス。

443: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 03:42:18.62 ID:vHIQknhh.net
ここに来てから、アンドロイドのサヤさんは、毎日スバラシイ料理を振る舞ってくれマス。

配給された野菜を余すことなく詰め込んだ、ホワイトシチュー。ほっぺが落ちるおいしさデス。

ハイクラスの衣食住が保証された、恵まれた生活。蛇口をひねると清潔な水が出てきた時には、思わずため息がもれマシタ。


フロンティアは気候も常に安定していて、一年中快適に過ごすことができるそう。

なんでも、空にはプラネタリウムのように天幕が張られていて、惑星全体が箱庭になっているらしいデス。

そして惑星中心部にあるという「循環器」が、"気候"そのものを司り、天気予報は100%的中するのだとか。


不自由のない生活、満たされた環境。QOLは最高。

デスが、私の心はいつも渇いてマス。

どれだけ水を注いでも、器の底に空いた穴から、すべてこぼれマシタ。

かけがえのない者が、欠けていたのデス。いつもそばにいたはずの、旅の友が。

444: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 03:44:01.88 ID:vHIQknhh.net
………………………。
………………………。


可可『…………』

可可『すみれ……いマスか……?』

すみれ『いるわよー』

可可『返事が適当デス……本当にいマスか……? すみれのふりした妖の類ではありマセンか……?』

すみれ『だからいるったらいるわよ……! こっちも眠たいの……』

すみれ『もう、まったくぅ……。なんで怖いの苦手なのに、ノリノリで怪談話に参加しちゃうのよ……?』

可可『まさか、日本の百物語が、あれほどハイレベルなものとは思っていませんデシタ……』

すみれ『クゥクゥってよく、後先考えず突っ走ったりするわよね……』

可可『うるさいデス! ぐちぐち言わず、黙っててクダサイ!』

可可『…………』

可可『……すみれぇ? いマスか……?』

すみれ『あんたが黙ってろって言ったんでしょ……!』

445: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 03:46:06.58 ID:vHIQknhh.net
すみれ『というか、用足すのにどれだけかかってるのよ!? 早く寝させて……』

可可『……緊張して出マセン』

すみれ『あんたねぇ……』

可可『すみれ。緊張がほぐれるような面白い話をしてクダサイ』

すみれ『むちゃぶり!?』

すみれ『そうね……。この前、うちの神社の賽銭箱に、間違えてスマホを投げ込んじゃったのよ』

可可『面白いデス! 無様なすみれの姿を想像するだけでニヤニヤしマス!』

すみれ『それで、「やばー!」っと思って賽銭箱を覗いてみたら、たまたま中でキャッチしてくれた人がいて、なんとか助かったのよー』

可可『…………賽銭箱の中に、人が……?』

可可『さ、最低デス、このギャラクシーばか……! ううぅ……また怖くなってきマシタ……!』

すみれ『ははは! クゥクゥはほんと、"かわいい"わね~』

可可『…………』

可可『……出マシタ』

すみれ『あ、そう……? じゃあ部屋に戻りましょ……ふあぁ~……』


たった一言で、ククに巣食っていた恐怖心が灰に変わり、一息で吹き飛びマシタ。

まあ、寝ぼけて言った、何の意味もない言葉デショウけど。

446: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 03:47:31.33 ID:vHIQknhh.net
可可『歩くたび、床がぎいぎいと鳴りマス……』

可可『す、すみれ……いマスか……?』

すみれ『はいはい、ちゃんといるから』

すみれ『暗いのが嫌なら、電気つければいいのに』

可可『灯りで、みんなを起こしては悪いデス……』

すみれ『あーそう、私以外には気を遣えるのね……?』

可可『…………すみれ、いマスか……?』

すみれ『いるわよ。そんなに心配なら……ほら、私と手、つなぎましょう?』

可可『はい……。あ、いえ! ククが子どもみたいなので嫌デス!』

すみれ『大人なら、私を揺り起こしてトイレまで同行させないわよ……』

すみれ『はい、問答無用。文句もクレームも受け付けないから』


すみれは縮むククの手を、有無を言わさず握りマシタ。

真っ暗でなにも見えなくても、すみれに触れられるだけで、不思議と心安らぎマシタ。


──夢寐にも忘れない思い出。


………………………。
………………………。

447: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 03:49:16.66 ID:vHIQknhh.net



ぞんびぃ「……クゥクゥさん。よければ、ドライブに出かけませんか?」

可可「ドライブ……」


それは、突然の誘いデシタ。


ぞんびぃ「あ、もちろん、無理強いはしません! ……いかがですか?」

可可「はい、行きマス」

ぞんびぃ「ほんとですか!?」


ぞんびぃさんは、声に感情がよく現れるようデス。とてもうれしそうにしっぽを振っていマス。

サヤさんも同行し、三人(?)で車に乗り込みマシタ。


サヤ「運転は先生がなさるのですね」

ぞんびぃ「は、はいっ……! わたくしだって、運転免許、持ってます……」


声色から、これでもかというくらいの緊張が伝わってきマス。


サヤ「どうか、あおり運転にはお気をつけください」

448: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 03:51:33.39 ID:vHIQknhh.net



ぞんびぃ「あ、やっ……あああ!!」ガリガリガリ

サヤ「やりました! 先生、車降りて見てください! 公用車が傷だらけですよ!」

ぞんびぃ「わ、わかっています……!」

サヤ「先生、ご存知ですか? 道路は右側通行なんですよ、キープライトです。なぜふらふらと反対車線に行こうとしているんですか?」

ぞんびぃ「違うんです……! まっすぐが、わからなくなって……」

サヤ「あ、ウィンカー出すの遅いですよ! ここで曲がるのはわかってましたよね? まさか、後続車への嫌がらせですか!? 流石です!!」

ぞんびぃ「す、すみません……!」

サヤ「なにをちんたら走ってるんですか? さては、公道でトラクターごっこですね! ははは、先生はユーモアのあるお方ですねぇ」

可可「あおり運転デェス……」


その後、ぞんびぃさんとサヤさんは運転を交代しマシタ。

ぞんびぃさんは泣きながら後部座席へと移っていきマシタ。でも、これでよかった気もしマス。ロケットに乗るより怖かったデスから。

449: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 03:52:32.08 ID:vHIQknhh.net
可可「……本当に秘書さんなのデスか?」

ぞんびぃ「はい……。わたくしの運転が危なっかしいので、サヤさんには指導してくださるよう、お願いしてあるんです」

サヤ「それにしても、先生。とつぜん運転したいなどとおっしゃって、どうかされましたか?」

ぞんびぃ「ひ、久しぶりにハンドルを握ってみようと思いまして……」

可可「できれば、二度としないほうがいいデス。世界のために」

ぞんびぃ「はい……」シュン


三人を乗せた車は、とても静かに進行していきマシタ。


可可「……私たちはどこに向かっているのデスか?」

サヤ「いえ、どこにも」

可可「はい……?」

ぞんびぃ「実はいま、わたくしの公務の真っ最中なんです。フロンティアの開拓現場の視察、および治安維持のための巡回をしています」

サヤ「先生は偉い為政者なんです。このUR地域を治めていらっしゃるんですよ」

可可「なるほど、合点がいきマシタ。だから"先生"」

ぞんびぃ「僭称ではありますが……一応」

450: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 03:54:19.85 ID:vHIQknhh.net
空から降り注ぐ光線が、地上の温度をほどよく保っていマス。外では、子どもたちのはしゃぎ声が聞こえてきマシタ。

公務兼ドライブは、無限の時間を最大限楽しむように、緩慢に続きマス。


『デケデケデッデッデー♪ ピローン♪』

『さあ今日もはじまりました! 日常のクウゲキを埋めるためがんばります。〈スペースラジオ〉のお時間です』

『私、ナポリタンモンスターがお送りします。よろくしお願いします!』


可可「……スペースラジオ、やってるんデスね」

ぞんびぃ「! こちらの番組をご存知なのですか!?」

可可「はいデス。地球にいたころに、たまに流れてきて…………」


地球での思い出は、失った友の姿を呼び起こしマシタ。……実際に姿を見たことはないので想像のものデスが。

胸が絞った雑巾のようにねじれ、ぎゅーっと痛みマス。


サヤ「先生は、こちらの番組のヘビーリスナーですからね」

可可「このラジオが理解できるということは、ぞんびぃさんも、地球の言葉がわかるんデスね」

ぞんびぃ「え、ええ……。わたくしも、地球出身ですので……」

451: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 03:56:07.31 ID:vHIQknhh.net
恋「──あ、サヤさん! 止めてください!」


話題を逸らすかのように、ぞんびぃさんは叫びマシタ。

車が停まると、運転席を降りたサヤさんが、わざわざ後部座席のドアを開けていマシタ。

どこかから、歌が聞こえてきマス。


恋「……ありがとうございます。少々お待ちを」


ぞんびぃさんは、ドアをきっちり閉め、それから駆け出しマシタ。

車内に残ったのは、サヤさんと私。


サヤ「質問をシミュレートし、先に回答しておきます」

サヤ「先生は、歌集会の取り締まりにまいられました」

可可「……歌を規制するのデスか?」

サヤ「ええ。惑星国家では、"音楽的行為"は総じて禁止されていますので」


サヤさんは、私が言い切るのを待たずに答えマシタ。いまの反応すら、シミュレート通りだったのデショウか。

452: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 03:58:37.27 ID:vHIQknhh.net
………………………。
………………………。


ククとすみれは、机の上にある物体に視線を落としマス。

それは、ククの愛情だけを込めた、"甘くて冷たいなにか"デシタ。


すみれ『……どうやったらアイス作りで失敗できるのかしら』

可可『デスが、現に失敗しマシタよ?』

すみれ『なんで開き直ってるのよ!』

可可『ありぇ……。ククにしては珍しく、しっかり軽量したはずなのに……』

すみれ『はあ……。こういう時のために、普段から料理の練習しときなさいよ』

可可『……ぐうの音も出ないとはこのことデスね。非常に腹立たしいデス』

すみれ『一言多いのよ! ……仕方ないから、このケーキをいっしょに作ったってことにしましょう』

可可『背に腹はかえられマセン……。断腸の思いデス。泣いて馬謖を斬りマス』

すみれ『また変な言葉覚えてる……』

453: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 04:00:31.57 ID:vHIQknhh.net
アイスもどきは机の端に追いやられ、キッチンステージは、ケーキの独壇場となりマシタ。


すみれ『それにしても……恋の誕生日に、いちごのデザートを送ろうだなんて、いいアイデア考えたわね』

可可『はい! レンレンは友達と過ごす誕生日が初だというので、せっかくなら盛大にお祝いしたくて!』

すみれ『へー。あんた、結構やさしいところあるのね』

可可『なにを言いマスか! ククはやさしさの結晶体デスよ』

すみれ『だったらもっと私にも分けてほしいわね』

可可『だれがトートロジー女に分け与えるものデスか!』


すみれはきっと「だれがトートロジーったらトートロジーよ!」とつっこむので、ククはそこにブーメランをお見舞いしてやりマス!


すみれ『とーと……もしかして、私のことったら私のこと……?』

可可『……そもそもの知識が足りませんデシタか』

すみれ『はあ? なんの話よ……?』

454: 名無しで叶える物語 2022/12/20(火) 04:02:12.35 ID:vHIQknhh.net
すみれは、不思議なグソクムシ……いえ、人物デス。

最初は、ただただ嫌いデシタ。すみれの悪いとこばかり探して、いかに陥れてやるかばかり考えていマシタ。

しかしそのうち、すみれの人柄が見えてきたのデス。

すみれは、ククの姐姐にどことなく似ていマシタ。……まあ、姐姐のほうが美人さんデスが!

姐姐の面影を重ねてすみれを見ていたクク。さらに時間が経つと、今度は姐姐とは違うところが見えてきマシタ。

いまはもう、グソクムシでも姐姐でもない、"平安名すみれ"として、ククの視界に映っていマス。


そこまでの変遷で、すみれへの評価も乱高下し、からまったコードみたいによくわからなくなりマシタ。

「嫌い」だったはずが、すみれの人たらしのやさしさにほだされてしまったのデス。しかし、「好き」でもないのデス。

ククの中に芽生えた、知らない気持ち。この花に名前はあるのかどうか、それすらも判別つきマセン。


可可『……って、ああーーー!!』

すみれ『ギャラクシー!? なにったらなによ!!』

可可『…………アイスが、溶けかけてマス……』

すみれ『……はあ、何事かと思ったじゃない。もったいないし、ふたりでこっそり食べちゃいましょ?』

可可『……はい』


──夢寐にも忘れない思い出。


………………………。
………………………。

458: 名無しで叶える物語 2022/12/21(水) 03:46:32.96 ID:G+Ld0uGd.net



ぞんびぃさんとサヤさんがどこかに出かけていきマシタ。

玄関先で手をふりふりして見送ると、家の中は私とチビだけデス。


可可「仲良くお留守番デスよ、チビ」

チビ『ワン』


電気いぬ。

もこもこの毛に覆われた厚い皮の下には、複雑な回路が組み込まれているのを考えると、少しだけゆかいな気持ちになれマシタ。

私は、じゃがいもの皮むきを効率的に済ませてしまい、手持ち無沙汰デス。

なにかに触れていないと落ち着かず、手当たり次第に物を拾い上げていきマス。


この丸いオブジェは、千砂都が見たらよろこびそうデスね。
この肉球クッションは、メイメイが好きそうデス。
このつやつやなフラスコは、シキシキが持つと映えそうデスね。
このスムージー型インテリアは、ナツナツにぴったり。
このコーンアイスは、とてもおいしそうデス。
この土星のような物体は、ギャラクシーを思わせマス。
このきつねのぬいぐるみは、きなきなみたいデス。

そして、リビングの壁に立てかけてあるギターは、かのんのスバラシイ歌声を思い起こさせマシタ。

459: 名無しで叶える物語 2022/12/21(水) 03:49:31.22 ID:G+Ld0uGd.net
可可「…………チビ。私はなにしてるんデショウね」

可可「なんのために、宇宙まで来たのデショウか」

可可「大切なパートナーを失ってまで、私がすべきことなどあるのデショウか……」

チビ『ワン』


カコン。家のポストに投函される音。

私はぞんびぃさんから、勝手に外出しないよう言いつけられていマス。

しかし、ポストを覗きに出かけるくらいなら、外出にはならないデスよね。

靴を履いて、ドアを開けマス。そこからよちよちと進み、17歩のところにあるポストまでたどり着きマシタ。


可可「!!」


いま……すみれの声がしマシタ……。

間違いありマセン……。あれは、すみれデス……!

私はそのまま庭を抜け、すみれの影を追いかけマス。

環がないので、どこから聞こえたか探知できマセンが、まだそう遠くは行っていないはず……!

すみれすみれすみれすみれすみれすみれすみれすみれすみれすみれすみれすみれすみれすみれ…………。



「──クゥクゥさん!!」

460: 名無しで叶える物語 2022/12/21(水) 03:50:16.41 ID:G+Ld0uGd.net
車のドアを開け、飛び出してきたぞんびぃさん。二の腕を力強くつかまれマシタ。


ぞんびぃ「どこに行くつもりですか!? 危ないですよ!」

可可「でも……すみれが…………」

ぞんびぃ「…………すみれさんは、どこにもいませんよ」

ぞんびぃ「さ、家に帰りましょう」

可可「…………」


あれは確かに、すみれの声デシタ……。

シキシキも、惑星国家ですみれを見かけたと言ってマシタ。だから、その辺でばったり会っても、不思議ではないはずデス。

すみれ……。

すみれ、なのデスか……?

461: 名無しで叶える物語 2022/12/21(水) 03:53:26.10 ID:G+Ld0uGd.net



家に帰ると、ぞんびぃさんから説教がありマシタ。


ぞんびぃ「いいですか、クゥクゥさん! あなたが想像しているより、外の世界は危険なのですよ」

可可「車にひかれるから、デスか?」

ぞんびぃ「そういう問題だけではなくてですね……」

ぞんびぃ「と、とにかくだめなんです! もしまた、無断で外出しようとしたら……わたくし、堪忍袋の尾が切れますよ!」

可可「……はい。スミマセン」

ぞんびぃ「うぅ……近くで見ていないと心配です。わたくしもこの機会に、"夢見"の頻度を減らすべきなのでしょうか……」

可可「……夢見はなにデスか?」


知らない言葉が出てきたので、ぞんびぃさんに訊ねてまマシタ。すると、代わりにサヤさんが答えてくれマシタ。


サヤ「惑星国家の娯楽ですよ。庶民の間では広く親しまれてます」

サヤ「人工的に夢を見られるので、『夢見』。一部では魔術師とも呼ばれてるんですって」

可可「魔術師……」

462: 名無しで叶える物語 2022/12/21(水) 03:54:26.95 ID:G+Ld0uGd.net
息を殺すように黙っていたぞんびぃさんが、ようやく口を開きマシタ。


ぞんびぃ「クゥクゥさんにはあえて紹介しませんでしたが……。実は道路の傍に、数百キュビト間隔で『夢見所』があるんです」
>>1キュビト=約50cm)

ぞんびぃ「夢見所は、人ひとりが入れるサイズのボックスです。そこでダイヤルを回すと、夢見ができます」

サヤ「先生は、夢見ジャンキーですよ。一時期は一日に五回、夢見で絶頂されてましたからね」

ぞんびぃ「誤解を招く表現しないでください! 夢見は合法ですから! ……ほんとですよ!?」

可可「…………それは、好きな夢が見られるのデスか?」

ぞんびぃ「まさか、興味がおありで……? く、クゥクゥさんにはまだ早いですよ」

ぞんびぃ「夢見は……禁断の世界です。未成年の利用は固く禁止されています」

可可「私は計算上、32歳デスよ?」

ぞんびぃ「…………ええっ!?」

463: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/21(水) 03:57:46.45 ID:G+Ld0uGd.net
ぞんびぃ「……ああ、そうですよね。普通に考えれば……」

可可「?」

ぞんびぃ「す、すみません……。クゥクゥさんの容姿が、17歳のころと寸分違わず同じなもので……」

ぞんびぃ「てっきり、歳をとっていないのだと思い込んでいました」

可可「ウラシマ効果デスか? 年齢はしっかり重ねていると思いマスよ、私の身体が異常なだけで」

ぞんびぃ「ですよね……。ということは、地球でよく質問された『あなたは成人ですか?』にも、首肯できるわけですね……!」

可可「……冗談を言う気分じゃないデス」

ぞんびぃ「す、すみません…………」


うやうやしく謝るぞんびぃさん。腰まで伸びた黒髪が、藤の花のように美しく垂れ下がっているのデショウ。


ぞんびぃ「音楽が禁止され、娯楽に乏しいこのフロンティアでは、夢見は人々の心の安寧なのです」

ぞんびぃ「しかし、わたくしとしましては……クゥクゥさんには、使ってほしくありません」

ぞんびぃ「あるのは一時的な快楽のみ……。だれも、幸せになりませんから」

464: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/21(水) 04:00:51.35 ID:G+Ld0uGd.net
外では、大音量のスピーカーから、洗脳放送が流れていマス。

『ラーラーラ~♪ ラーラーラ~♪』


可可「……音楽が禁止なのに、なぜかこの歌は許されていマスね」

ぞんびぃ「はい……。というより、この歌を傾聴させるために、一般国民の音楽活動を規制しているんです」

ぞんびぃ「わたくしも本音は、取り締まりなんてしたくありません……。しかし、立場上仕方ないのですよ」

ぞんびぃ「歌うことは、"神"への反逆。我々はいつも、五線譜に思いを馳せるほかないのです」

可可「……そうデスか」


しかし、私は知っていマシタ。

ぞんびぃさんは、毎日こっそり、ギターの練習をしているということを。

465: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/21(水) 04:01:55.67 ID:G+Ld0uGd.net
………………………。
………………………。


かのんは、窓越しに外界を眺め、たそがれていマス。


かのん『……なんか、想像できないよね』

可可『なにがデスか?』

かのん『ほら、いまはこうやって、5人で毎日楽しく過ごしてるけどさ?』

かのん『あと数年以内には、世界そのものが終わっちゃうだなんて……』

すみれ『そうね。事実としては受け止めてるけど、実感は湧かないわね』

かのん『ねえ、隕石ってほんとに降るのかな……?』

可可『かのんが陰謀論めいたことを言い出しマシタ……! 隕石は来マスよ、絶対!』

かのん『だよねー……。あー、だれかが壊してくれたらなー』

千砂都『──恋ちゃん、いける?』

恋『むりですよ?』


伝説のジャム職人の不在に、みんな落胆していマス。

そもそも、ガッカリするほど期待を寄せていたのデスか……?

466: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/21(水) 04:03:57.66 ID:G+Ld0uGd.net
すみれ『いまは、世界の心配してる場合じゃないでしょ』

千砂都『うん。新曲の心配しなきゃだね』

かのん『あーもう、どうしよぉー!?』

恋『いつも通り、かのんさんが作詞してくだされば、わたくしがメロディーを……』

かのん『ねえ、みんな! 今回は、新しい方法にチャレンジしてみない?』

可可『かのんの顔がキリッとしてマス!』

恋『新しい方法?』

かのん『うん。みんなで歌詞を持ち寄って、ひとつの歌にするの!』


かのんの言葉を要約すると、「歌詞ひとりで考えるの大変だから手伝って!」デシタ。


千砂都『もちろんオーケー! どんどんライム響かせちゃうYO!』

恋『しかし、わたくしの書いた歌詞では、世間からはあまりよく思われないのでは……』

可可『レンレン! 眼高手低な俗人どもに臆する必要はないデス!』

可可『書きたいものを書く、やりたいことをやる──それこそ、夢を追うということではないデスか!?』

恋『クゥクゥさん……! なるほど、おっしゃる通りですね……!』

467: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/21(水) 04:05:44.15 ID:G+Ld0uGd.net
いいアドバイスができ、姉気取りで鼻高々なククを、レンレンは的確に突き刺してきマシタ。


恋『クゥクゥさんは、どのような歌詞をお考えなのデスか?』

可可『!?』

かのん『あ、クゥクゥちゃんって中国にいたころから、歌詞ノートつけてるんだよね』

可可『あぇ……。ありマスけど……』


ククがカバンからノートを取り出すと、みんなそろって覗き込みマス。


千砂都『わあ。中国語で書いたあとに、日本語訳にしてるんだ!』

すみれ『どれどれ……。「きみを知るたび、ぼくの世界は広がる」…………』

可可『あー!? 新しいページは見るなデス! あと朗読するなデス!!』


なんだか、スポポーンなククを視 されているようで、いまさらながら恥ずかしくなってきマシタ……。

うぅ、ククの思いを書きつづったポエムが、みんなに見られていマス……!

468: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/21(水) 04:08:23.84 ID:G+Ld0uGd.net
かのん『…………ねえ、これ……!』

かのん『……クゥクゥちゃん! この歌詞、すごくいいよ……!!』

可可『……あ、それは…………』


開かれた、最初のほうのページ。

かのんが指さすのは…………。



可可『……………………』

可可『ククの、大好きな人の言葉デス』



──夢寐にも忘れない思い出。


………………………。
………………………。

469: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/21(水) 04:12:27.88 ID:G+Ld0uGd.net



ここに来てからのクゥクゥさんは、常に重たい表情を変えません。

いったい彼女の身になにがあったのか、わたくしたちと離れてからどうやって生きてきたのか……。

訊きたいことは、列挙できないほどあります。

そんなある日、ダメ元で話題を切り出すと、クゥクゥさんは意外にもあっさり答えてくださいました。


変異体となったクゥクゥさんは地球へと追放されました。そして、滅びた地球で、およそ15年を過ごします。

旅のパートナーは、巨大なグソクムシ。頭にはいつの間にか環がついており、十徳ナイフのような汎用性をほこったとか。目が見えなくても、たくましく生きていたのです。

そんな地上でのサバイバル生活は、突如一変、地下での暮らしに変わりました。

地下にはなんと、きな子さんたち1年生3人組が! 他にも生き残った人類が身を寄せ合って、生活を続けていたのです!

……サヤさんの安否を知りたかったですが、質問はやめておきました。いまのわたくしには、"サヤ"さんがいますから……。

それから、四季さんの助力のもと、ノアを経由して人工惑星へと向かったそうです。


こうして、わたくしが抱いていた「どのようにフロンティアへ来たのか」という疑問は、解消されました。

470: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/21(水) 04:18:29.43 ID:G+Ld0uGd.net
クゥクゥさんは、この数週間で、新言語がかなり上達しました。それでも、その容姿はやはり、17歳のまま。

もしかすると、精神年齢もまた、高校二年生で止まっているのかもしれません。

数多の愁嘆場は、未熟な少女の心には重すぎました。


ぞんびぃ「それでも……ここまでたどり着いたんですね」

ぞんびぃ「わたくしは、クゥクゥさんは強い人だと思います」

可可「……そんなことありマセン」

可可「私は、ずっと強がって……シタタカに生きているつもりになっていただけデス」

可可「絶対に泣かないと、心に誓ったのに……結局、何回も泣いていた気がしマス……」

可可「私が生きてこられたのは、私の力じゃない……。グソクムシがいてくれたから……」

可可「かのんや千砂都、すみれにレンレン……みんなに会いたいと思えたのも、グソクムシのいる安心感があったからデス」

可可「グソクムシがいなくなったいま、私はどうすればいいのかわかりマセン……」

可可「目標を見失い、行き先も不明……」

可可「もはや、自分の存在意義すらわからなくなっていマス……」


クゥクゥさんの叫びは、他人事には思えませんでした。

471: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/21(水) 04:21:41.79 ID:G+Ld0uGd.net
可可「私……ずっと夢を見てるんデス」

可可「それは、夢寐にも忘れない思い出……」

可可「楽しかった高校生の時のこと……Liella!と過ごした濃密な2年間の記憶……」

可可「そんな過去に、ずっとしばりつけられているんデス……」

可可「もし、夢見というものを体験できるのであれば、私は……」

可可「もう二度と、過去のことを思い出さないように、記憶を改ざんしてしまいたいデス……」

ぞんびぃ「…………」


その日、わたくしはクゥクゥさんの心に、初めて触れられたような気がしました。


ぞんびぃ「……これは、わたくしの話です」

ぞんびぃ「かつて、わたくしにも……再び会いたいと願う人たちがいました」

ぞんびぃ「そのために、できることはなんでもしました」

ぞんびぃ「記憶を消さなくて済むよう、権謀術数を用いて成り上がり、いまの地位を確率しました」

ぞんびぃ「ずっと、ずっと……またあの人たちと会えることを願い、待ち続けたてきたのです」

472: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/21(水) 04:26:30.45 ID:G+Ld0uGd.net
ぞんびぃ「…………しかし、もう疲れました……」

ぞんびぃ「重すぎる希望は心の底のほうに埋もれていき、何度掘り出しても、すぐに沈んでいってしまいます」

ぞんびぃ「……そのうち、わたくしは掘るのをやめました。希望を捨てました」

ぞんびぃ「いま残っているのは、器と地位と空虚な心だけ」

ぞんびぃ「なにをしている時でも、わたくしは自分自身がハリボテのように思えてならず、自分が何者かわからなくなるのです」

ぞんびぃ「これは、哲学的ゾンビと呼んでも差し支えないのではないでしょうか」

ぞんびぃ「……唯一の救いは、夢なんです」

ぞんびぃ「夢見の世界なら、わたくしは満たされていたあのころに戻れるのです……」

ぞんびぃ「あの世界でだけ、わたくしは人間に戻れるのです」

ぞんびぃ「夢に、すがるしかないんです……」


クゥクゥさんは、なにも言いませんでした。

その目がなにを見つめているか、だれにもわかりません。

473: 名無しで叶える物語(たこやき) 2022/12/21(水) 04:27:37.54 ID:G+Ld0uGd.net
わたくしは、いまのクゥクゥさんを、放っておくことができませんでした。


ぞんびぃ「クゥクゥさん」

ぞんびぃ「よければ、今夜は…………いっしょに寝ませんか……?」

可可「…………はい」


そう言うと、クゥクゥさんはお下がりの服を、スルスルと脱ぎはじめました。

その背徳的光景を、わたくしはただ、凝視することしかできませんでした。

しかし我に返り、慌てて止めます。


恋「ち、違います! この誘いは、そういうのではありません!」

可可「……そうデスか」


服を着るのを手伝い、それからわたくしの部屋へと案内します。

クゥクゥさんととなり合い、同じ空間で眠りにつきます。


ぞんびぃ「!」


クゥクゥさんは、わたくしの胸に顔をうずめ、声を押しころして泣いています。

熱いしずくが波紋となって広がり、わたくしの胸を湿らせました。

477: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 03:52:34.62 ID:xqB05Zzn.net



私とぞんびぃさんが一夜を明かした、明くる日。サヤさんが人目を盗んで、私に接触してきマシタ。

いよいよじゃがいもむきは免許皆伝で、新たな野菜の皮むきを任せてもらえるかと思いきや、私の想像とはまるで違う用件デシタ。


可可「……車に乗っていればいいのデスか?」

サヤ「はい。先生にはバレないよう、後部座席でかくれていてください」


抑揚もなく、淡々とした声。恐らくは表情も鉄仮面のように固着して変わらないのデショウ。

サヤさんの思考が読めず、いぶかしんでしまいマス。


サヤ「クゥクゥさんには、先生の夢見に、同行してほしいんです」

可可「夢見……」

サヤ「ああ、すみません。とてもおかしな提案をしていることは、重々承知しています。私、なんだか変ですね……」

可可「エラー、デスか?」


サヤさんは、肯定も否定もしませんデシタ。


サヤ「私の存在意義は、先生の幸福にあります。そして、私に搭載された知能が、ある結論を導き出しました」

サヤ「あなたが、先生を照らす光になると」

478: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 03:54:29.42 ID:xqB05Zzn.net



私はいま、車の後部座席に転がっていマス。


ぞんびぃ「クゥクゥさんはお昼寝されているのですね」

サヤ「……昨日は皮むきでお疲れだったようです」


私がいなくても不自然じゃないよう、サヤさんは適当な理由をつけてくれているようデス。適当すぎる気もしマスが。

ぞんびぃさんが車のドアを閉めると、音もなくエンジンがかかり、気づけば発車していマシタ。


夢見所には、さまざまな形態があることは、サヤさんが教えてくれマシタ。

町の方々に設置されている、ボックス型。専門の店舗に備えつけられた、店舗型。そして、ドライブスルー型。

ぞんびぃさんは、個人を特定されず、なおかつじっくり夢見したいという需要を満たすため、いつもドライブスルー型の夢見所を選ぶそうデス。

なので、このまま後部座席にいれば、ぞんびぃさんとともに夢見を体験できるわけデス。

……それがなぜ、ぞんびぃさんの幸福につながるかはわかりマセンが、夢見には興味ありマシタ。せっかくなので体験してみマショウ。

479: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 03:57:55.51 ID:xqB05Zzn.net
車が停止し、いつの間にかエンジンも切られていマシタ。


『ファミリープラン、90分コースを開始します』


開いた窓から、ガス状のなにかが流れ込んできマス。

そのにおいに魅せられるうちに、意識は底なしの湖へと沈んでいきマシタ。

深く、深く。



私の、遠い記憶。

夢寐にも忘れない思い出へ──。

480: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:00:07.48 ID:xqB05Zzn.net
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ククは、土踏まずのない子どもだった。





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481: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:01:21.93 ID:xqB05Zzn.net
幼少のころから、ありとあらゆる運動が苦手だった。

走る、泳ぐ、跳ぶ、投げる、蹴る、打つ、踊る……。どれもすべて、だめだめ。

だからなのか、ククは自然と、家にいることを好むようになった。


姐姐『そうやって引きこもってるから、いつまで経っても上達しないのよ。ほら、お姉ちゃんと遊びに行きましょ?』


ククの姐姐(姉)は、いつも正論で、ククのことをばかにしてくる。

姐姐は、ククが嫌いだから、こうやっていじめてくるのだ。


可可(7)『運動できなくても……クク、お勉強がんばってるもん……』

姐姐『ふーん。日本語のテスト、何点?』

可可『……30点』

姐姐『ははは! あれだけ勉強しても、30点なのね。毎日遊んでる私はいつも100点よ?』

可可『う、うるさい……! ばーかばーか!!』

姐姐『あら、泣いちゃった。ククはほんとに泣き虫ね』


成長につれ、ククはますます引きこもりになった。

運動がだめだめな分、勉強だけでもがんばらなければ……!

ククは、勉強ができる理想の自分を妄想し、その虚像を追いかけるようになっていった。

482: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:02:13.08 ID:xqB05Zzn.net
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ククは、お気に入りのぬいぐるみがないと眠れなかった。





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483: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:03:05.88 ID:xqB05Zzn.net
そのくまさんのぬいぐるみの名前は……もう忘れちゃったけど。

幼少期のククにとってその子は、爸爸(父)よりも大好きな、お友だちだった。


可可(5)『……妈妈(母)』

母『小可、なにか用?』

可可『腕……ククのぬいぐるみ、取れちゃった』


毎夜毎夜ククに抱きしめられ、よだれを垂らされても、文句ひとつ言わなかったぬいぐるみ。そのフェルトの身体にも、いよいよガタが来ていた。

目が飛び出てるのも愛嬌だと、かわいがってたけれど、ぬいぐるみはとっくに限界を迎えていたのだ。


母『ごめんなさい、お母さん忙しいの。また今度、新しいの買ってあげるから』

可可『い、いやだ! このくまさんがいい!』

母『まったく……。お姉ちゃんが小可の歳のころは、もっと利口だったわ』

可可『……また、姐姐の話…………』

484: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:04:10.34 ID:xqB05Zzn.net
翌日。


可可『ばあああ~~~!! あーんあああああ~!?』

母『なに!? 帰ってくるなり騒々しい……!』

可可『ククの……ククの、ぬいぐるみ……』


ククは、サイボーグ手術を受けたくまさんのぬいぐるみを、自分から離すように両手で持つ。

ぬいぐるみは、身体中つぎはぎだらけだった。そこかしこに空いた穴から、はらわたが飛び出している。


可可『妈妈! ククが、ぬいぐるみ卒業しないから……こんなことしたの!?』

母『知らないわ。言ったでしょ? お母さん忙しいって』

可可『でも……でも…………』

母『裁縫道具なら家にあるから、自分で繕いなさい』

可可『…………うん』


それからククは、お裁縫の練習をはじめた。

最初はいっぱい指を刺し、いっぱい泣いた。だけど続けていくうちに、だんだんと手際よくこなせるようになった。

楽しくてつい夢中になり、勉強がおろそかだと妈妈に怒られることもあった。もともと、引きこもりだったククには、お裁縫はちょうど合っていたのかもしれない。

9歳のクリスマスには、サンタさんからミシンをもらった。その時はうれしさのあまり、犬みたいにリビングをくるくると駆け回った。……なぜか、両親は不審がっていたけど。

485: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:05:13.43 ID:xqB05Zzn.net
ククの好きなものは、他にもある。

くまさんのぬいぐるみが屠殺されてから、3年後。妈妈とふたり、ショッピングモールに出かけた時のこと。


母『小可。気に入った服があったら買ってあげる』

可可(8)『うん!』


ククは年相応に、ステレオタイプなかわいいものが好きだった。

この日も、いつものようにかわいらしい服を選んだ。ピンクで花柄のワンピースだ。

しかし、妈妈は呆れた様子でククを見下した。


母『まだそんな服を着るつもりなの?』

可可『えっ……』

母『こっちのほうがいいんじゃない? 見て、水色のパンダ! 小可にお似合いでしょ?』

可可『…………うん。これにする』


ククはいつも、親の言いなりだった。

486: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:06:32.43 ID:xqB05Zzn.net
帰宅後。姐姐のために買ってきた服を、本人に見せると……。


姐姐『なにこれ。私、こんなダサいの着たくない!』

母『ダサい……!? そ、そう……じゃあ自分で買ってきなさい』

姐姐『うん、わかった。だからお金貸して』


そう言って、自然な流れでお金をせしめた。

姐姐は、両親に対して臆することなく、自分の意見をはっきり申すことができる。ククには、とてもじゃないけどできないことだった。

くるっと、振り返った姐姐。水色パンダのTシャツを身につけたククを見ると、鼻で笑った。


姐姐『我が妹も、かわいそうに……。そんなダサい服、着させられるなんてね』

可可『…………』

姐姐『これからお洋服買いに行くけど、いっしょに来る?』

可可『!』


妈妈が見ている……。妈妈を否定したくない……。


可可『…………パンダ、好きだから……』

姐姐『……そう。ならいいけど』


それは嘘ではなかった。だけど、本心でもなかった。

487: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:07:42.65 ID:xqB05Zzn.net
しばらくして、とびきりおしゃれな装いで帰宅した姐姐。

妹だけど、その姿に、思わず見惚れてしまう。


姐姐『はい、クク。これはあんたのお洋服』

可可『ククに……?』

姐姐『そうよ。パンダ服の妹なんて、こっちが恥ずかしいわ。早く着替えてきなさい』

可可『…………いらない!』


ククへのプレゼントを、力任せにはたき落とした。

姐姐ブランドのおしゃれ服をもらえるせっかくの機会だったのに、ククは固辞したのだ。

ピンクで花柄のワンピースは、廊下のすみで萎れている。怒られるかもと身構えたが、姐姐はなにも言わずにそれを拾い上げた。


姐姐『……妈妈にも、同じように言えばいいのに。なにがそんなに怖いの?』

可可『…………』

姐姐『はあ……。あんた、いつもそうよね』

姐姐『言いたいことも言えず、うじうじ足踏みして、立ち止まってばかり。見ててイライラするわ』

可可『むっ……』

488: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:09:15.84 ID:xqB05Zzn.net
姐姐はその無鉄砲さで、なんにでも恐れずチャレンジしてしまう。

もちろん、失敗することは多少なりともあるのだろうが、たいていは成功した。

でもそれは、姐姐がすごいから。だれにでも真似できるものではないのだ。

ククは、失敗が怖い。だから、最初の一歩すら踏み出せない。

ククが踏み出せるのは、徒競走のようにピストルで合図があった時と、逃げ出す時だけだ。


姐姐『好きなものを好きだと言う、やりたいことにチャレンジする……。最初は怖くても、一歩踏み出しちゃえば、恐怖なんて吹き飛ぶわ』

可可『……それは、姐姐だから』

姐姐『私は関係ない。いまは、あなたの話よ、クク?』

姐姐『物事はね、はじめたい時にはじめなきゃはじまらないの。……って、なんかトートロジーになっちゃったわね』


姐姐『思い立ったが吉日』

姐姐『……私の好きな日本語よ』


姐姐が好きな言葉……。

じゃあ、ククはその言葉が嫌いだ。

489: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:10:25.62 ID:xqB05Zzn.net
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ククは、なんでもできる完璧な姐姐が嫌いだった。





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490: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:11:45.76 ID:xqB05Zzn.net
姐姐は賢かった。小学のころからテストは常に上位で、いまでは国内で五本の指に数えられる大学に通っている。

おまけに、運動神経もよかった。なにをやらせても、それなりにこなせてしまう。それが、ククの姉だった。

さらにあろうことか、姐姐は美人なのだ。色恋のうわさは常に絶えなかったに違いない。

ついでに、人格も優れ(少なくとも体面では)、人望も厚かった。

文武両道で才色兼備。どんなほめ言葉も当てはまるような、全方位完璧人間。

……だから、嫌いだ。


姐姐のせいで、ククは周囲から"姐姐の妹"としてしか、見てもらえなかった。

そのくせ、姐姐の劣化版なのだから、あらゆる場面で見下された。

期待してくれている人を落胆させるたびに、申し訳ない気持ちと、姐姐への恨みつらみがつのっていった。

だから、姐姐が嫌いだ。

491: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:13:33.62 ID:xqB05Zzn.net
……姐姐が嫌い。だけど、姐姐が姉であることは、ククにとってほこらしいことだった。

いつもククの進む道の先にいて、先を照らしてくれた。

ククは、本当は、姐姐みたいな人になりたかった。

"泣き虫クク"とは違い、絶対に泣かない姐姐。したたかに生きるその姿に、密かにあこがれていたのだ。


…………でも。姐姐は、ククが嫌いなのだ。

なんでもできる自分に対し、妹はてんでだめだめだから、さぞかしガッカリしただろう。

嫌うには、それだけでじゅうぶんな理由となった。

先に嫌いはじめたのは、姐姐のほうだった。

なので、ククが姐姐を嫌うのも、当然の流れである。

492: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:14:43.72 ID:xqB05Zzn.net
──他の家族について。


妈妈は、好きだ。

学歴至上主義で、ククに勉強ばかりさせるが、それも全部ククのためだと理解している。

妈妈の言うことは、常に正鵠を射ている。だから、言われた通りに従うのが最適解なのだ。


爸爸は、どちらかというと好きだ。

……正直なところ、特にこれといった感想はないのだが。

ククが中学に入ったあたりから、爸爸は毎日仕事詰めとなった。なにをしているかは知らないが、そこまで大変な仕事なのだろうか?

493: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:16:45.53 ID:xqB05Zzn.net
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ククには、夢がなかった。





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494: 名無しで叶える物語 2022/12/22(木) 04:18:11.16 ID:xqB05Zzn.net
光が集まり、夜の街をにぎやかす。

見上げると、街頭モニターにでかでかと映し出されている広告。

それは、どこかの大学の案内だった。偏差値はかなり上のほうだったと記憶している。


可可『…………』


勉強して、勉強して、勉強して。

いつか、大学に入って、卒業したら企業に就職して……。

それが、ククの幸せ。だからククは、がんばらなくてはいけない。

妈妈の言う通り、勉強し続けるしかない。

ククは、夢を見たことがなかった。でも、別によかった。

だって、いまいるこの世界は、現実なんだから。


街頭モニターから目を離し、重たい足取りで歩き出した。

──クク、13歳の春。

499: 名無しで叶える物語 2022/12/23(金) 03:45:09.64 ID:pjIk2hZ5.net
…………。


母『お父さん、聞いて!』

母『小可……この子、このごろは塾に行かず、毎晩ゲームセンターに通ってたそうなのよ!?』

母『今日、警察の方から連絡を受けて、初めて知ったわ……。私、ショックで卒倒するとこだったわ……』

父『ああ、そうか……』

母『なにその反応……? ちゃんと話を聞いてよ! 娘の将来がかかってるのよ!?』

父『そうだなぁ……』

可可『…………』


母『中学に入ってから、成績が落ちてるのが気にかかってたけど……まさか、勉強をサボって遊んでるなんて……!』

母『……ねえ、小可。あなたはゲームセンターに通ってたから、成績が落ちたのよね……?』

母『これから、ちゃんと塾に通い続ければ、また成績も上位に戻るわよね……?』

可可『…………うん』


ククは嘘をついた。因果関係がまるっきり逆だ。

小学から中学に進学し、周囲のレベルが格段に上がったことで、相対的にククの成績は急降下した。

ククは、その現実に耐えられなかった。だから逃げ出した。勉強から逃げ、非日常を味わえるゲーム体験に身を置こうとしたのだ。

500: 名無しで叶える物語 2022/12/23(金) 03:46:33.86 ID:pjIk2hZ5.net
…………。

なにもしゃべらず、大人しくうなずいていると、説教はすぐに終わった。

自室に戻ろうとすると、扉の前には姐姐が立ちふさがっていた。


姐姐『ゲーム、楽しかった?』

可可『……なに、嫌味?』

姐姐『単なる日常会話よ。姉妹なんだし、それくらい普通でしょ?』

可可『…………』


早く部屋に逃げ込みたかったが、姐姐がそれを阻止する。


姐姐『ねえ、クク。もし明日、地球が滅ぶとしたら……最後の晩餐はなにがいい?』

可可『……なんの話?』

姐姐『日常会話。で、なに食べたい?』

可可『……ナポリタン。冷凍の』

姐姐『えっ、そんなのでいいの……? 謙虚というか、発想が貧しいというか……』

可可『さっきからなんなの! 早くそこどいてよ。レポート忙しいんじゃないの?』

姐姐『そんなの通学中の数分で終わらせるわ。でも、ククと話せる時間は、家にいる間だけでしょ』


ククは、姐姐と話すことなんてなかった。それでも姐姐は話を続ける。

501: 名無しで叶える物語 2022/12/23(金) 03:47:23.39 ID:pjIk2hZ5.net
姐姐『……隕石が落ちたら、流石に地球もおしまいよね~』

可可『まさか、そんなデマ信じてるの……? クラスの子が言ってたよ、隕石騒動はアメリカの陰謀だって』

姐姐『そうだったらいいわね……』

姐姐『あと数年内に降ってくる、それは間違いないわ。爸爸も家族での宇宙脱出のため、必死に働いてくれてるでしょ?』

可可『…………』

可可『ほんとに、地球……終わるの……?』

姐姐『……さあ、どうかしらね』

姐姐『案外、隕石落下後もしぶとく人類は続くかもしれないし、落下前に暴動が起きて勝手に絶滅するかもしれないわね』


とつぜん目の前に降ってきた、余命宣告。

数年以内に、地球はなくなる……?

……そうしたら、もう勉強しなくて済むのかな、なんてことを考えてしまう。

だって、人類に未来は存在しないのだから。

502: 名無しで叶える物語 2022/12/23(金) 03:49:54.84 ID:pjIk2hZ5.net
姐姐『ねえ、クク』

姐姐『あんた……夢はある?』

可可『……ない』

姐姐『寂しいわねぇ。ちなみに、私はいっぱいあるわよ!』

可可『そう、よかったねー』


夢。

人が生きるのに、夢は必要なのだろうか。もし必要なのであれば、夢がないククは、なぜ生きているのだろう?

……なんてことを考えてしまう。


ククはどこか、現状を達観していた。いや、諦念というのだろうか。

余命宣告受容RTAがあるなら、ククは上位に入れる自信があった。

503: 名無しで叶える物語 2022/12/23(金) 03:51:07.94 ID:pjIk2hZ5.net
…………。

──この日、ククの人生は変わった。


光が集まり、夜の街をにぎやかす。

見上げると、街頭モニターにでかでかと映し出されている広告。

それは、ククの人生の中で、見たことのない光景だった。


可可『』


息をするのも忘れて、その映像に観入った。

明るい曲に合わせ、ふたりの女の子が歌い、踊っている。

アイドルだろうか……? いや、どうもただのアイドルとは違うらしい。

あとで調べたところによると、このふたりは"スクールアイドル"という、日本ではかなりの知名度をほこる存在なんだとか。

……でも、名称なんてものは、いまはどうでもよかった。

その神々しいきらめきに、魅了されてしまった。

噴き出す炭酸飲料のように、ククの全身はエネルギーに満ちあふれていた。


その映像が流れ終わるまで、ククの目は、釘づけとなった。

街頭モニターから目を離したあとも、余韻が身体を支配し、軽やかな足取りで帰路についた。

──クク、15歳の秋。

504: 名無しで叶える物語 2022/12/23(金) 03:52:23.70 ID:pjIk2hZ5.net
…………。

初めての夢は、壮大だった。

胸の奥から込み上げる衝動に、身体が驚き、震えが止まらなかった。


──ククは、スクールアイドルになりたい!


この興奮は、筆舌に尽くしがたい。

目に映るすべてが星のように輝き、耳に入るすべてが歓喜に沸いたのだ。

ククはインターネットで、ひたすら情報を漁った。アップロードされている映像を舐め回すように見まくった。

スクールアイドル……! Sunny Passion……!!


気づけば、ククは埃をかぶっていたミシンを取り出し、湧き起こる衝動がままに衣装を作りはじめていた。

かわいさだけを追求した、ククが考えた最強の衣装! ……ちょっと露出が多すぎるかもしれないけど。

この日から、ククは無我夢中で、衣装作りに没頭した。

……だけど、作った衣装はすべて、だれにも見つからない場所へとかくした。


ククの夢は、あまりにもでかすぎた。

スクールアイドルになるためには、日本へ留学しないといけない。しかし、両親がそれを許すとは到底思えなかった。

叶わない夢に夢見たって、仕方ないから……。この気持ちは全部、衣装とともにタンスにしまわないといけない。

思いは日増しにくすぶる。それでもククは、衣装作りを通して、スクールアイドルへの欲求を満たすしかなかった。