1: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:00:00 ID:???00
【予告編】


セラス「泉。──身代わり代行、って知ってる?」


泉「? ああ、もちろん。私もよく、牛丼屋さんで二杯目を頼むことがあってね……」

セラス「それはおかわり。お腹空いてるの、泉?」

泉「そうか……では、食堂のおかずのラインナップかい? 今日はハンバーグだったが、明日は紅鮭らしいよ」フフッ

セラス「それは日替わり。そうじゃなくて──身代わり代行。それも、スクールアイドル専門の」

セラス「……ね、やってみない? 泉なら、出来ると思うから」ニコッ

2: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:01:31 ID:???00
〖──身近なスクールアイドルの身代わりから〗


小鈴「わぁ……すごいすごい!! 今の泉ちゃん、どこからどう見ても徒町だよ!」パァァ

「そ、そうだろうか……。……いや、違うな」コホン

小鈴(泉)「……徒町、全身全霊で頑張ります! ちぇすとーー!!」グッ

セラス「演技完璧すぎじゃん……!?」


〖──遠く離れたスクールアイドルの身代わりまで〗


せつ菜(泉)「ふむ……」

せつ菜?「あ、あわわ……」アタフタ

せつ菜「!!!??? ふ、副会長、これは……」

副会長「そんな……まさか……」



副会長「せつ菜ちゃんが──“3人”!?!?」

3: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:02:01 ID:???00
〖金沢だけでなく、渋谷、沼津、お台場、浅草……あらゆるスクールアイドルの元に現れる〗

〖──そんな、スクールアイドル専門、身代わり代行の物語……〗


……

セラス「……やっと、身代わり代行を勧めた本当の理由に気づいたんだね」

セラス「泉なら……やってくれるって信じてたから」




泉「さぁ、今から此処で──現実を舞台とした“演劇”を始めようか、セラス」ニコッ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

(※他シリーズとのクロスオーバーを含みます)

4: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:02:15 ID:???00
以上がドラマ風の予告編です
続けて第一話を投下します

5: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:03:00 ID:???00
「……」ソワソワ


広実「──あ! いたいた、小鈴サン!」タッタッ

広実「はぁ、はぁ……いやぁ、遅れてすまねぇ! ここに来る途中で重そうな荷物を持ったお婆さんが三人も居て……」

広実「って、あれ? もしかして師匠、前より少し背伸びたか?」チラッ

「あ……う、うん!」


小鈴(泉)「…………徒町は、成長期だからね!」グッ



小鈴(泉)(……まさか私が、小鈴さんそっくりの格好をして徒町小鈴の“身代わり”を務めることになるとは、思いもしなかった)

小鈴(泉)(あぁ、一体どうしてこうなったのだったか……)

6: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:04:00 ID:???00



【第一話 恐竜の威を借る虎】



.

7: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:05:00 ID:???00
────

──少し前 スクールアイドルクラブ部室


ガチャ

泉「話があると聞いて来たんだが……」

セラス「よく来たね、泉! 話があるよ!!」ビシッ

泉「二度も言わなくても良くないか」

セラス「泉。──身代わり代行、って知ってる?」

泉「? ああ、もちろん。私もよく、牛丼屋さんで二杯目を頼むことがあってね……」

セラス「それはおかわり。お腹空いてるの、泉?」

泉「そうか……では、食堂のおかずのラインナップかい? 今日はハンバーグだったが、明日は紅鮭らしいよ」フフッ

セラス「それは日替わり。そうじゃなくて──身代わり代行。それも、スクールアイドル専門の」

セラス「……ね、やってみない? 泉なら、出来ると思うから」ニコッ

8: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:06:00 ID:???00
泉「……?? セラス、今の話だけではやるも何も、話が全く見えないね。“身代わり”だなんて、随分と物騒な響きをしているが」

セラス「やっぱり知らなかったんだ……違うよ、泉」

セラス「ただの身代わりじゃなくて──身代わり代行。これはね、ちゃんとした職業だから!」フフン

泉「え? 職業……だって?」

セラス「そうだよ。ほら、最近よく聞かない? 退職代行とか、運転代行とか、家事代行……とか」

セラス「ああいうサービス全般を、代行業って言うんだよ。疑うんなら泉、ネットで『身代わり代行』って検索してみて!」ピシッ

9: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:07:00 ID:???00
泉「いや、別に疑っている訳では無いんだが、聞いた限りはセラスの創作のようにも思えてね。……身代わり、代行、っと……」スッスッ

セラス「どう? ちゃんと実在するでしょ?」

泉「……ほう。どうやら、似たような物があるらしいね……」ジー

泉「代行業の一つで、授業参観やパーティなどの身代わりを代行する、と。ああ、つまりは代役か」

セラス「うん。現実で一番よくあるのは、謝罪の代行かな。本人になりすましたり、代役だって明かした上で代わりに謝る代行業」

泉「!? なに、そんな物まであるのか……? 倫理的には良い事なのかどうか、わからないな……」フム

セラス「あとはドラマや漫画にも、『代行女優業』や『プライベートアクトレス』みたいな……誰かの代わりになる物語が沢山あったり」

セラス「……例えばだけど、わたしが小さい頃に病院で読んだ昔の漫画。あれにも、代役専門の役者のお話があったし……」ポツリ

10: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:08:00 ID:???00
泉「…………」ジー

セラス「わたし、泉に身代わり代行を、それもスクールアイドル専門のこれを……どうしても、やって欲しくて」

泉「……ほう? その理由を訊いても?」

セラス「それは……」

セラス「……身代わり代行は、全スクールアイドルが持っているある“悩み”を解決する偉業になるかもしれないから……だよ!」

泉「?? 悩み……とは一体?」

セラス「えっ! 知らないの、泉? …………スクールアイドルが古来よりずーっと悩まされているもの。そう、それは──」



セラス「 “ ダブルブッキング ” !!」ピシッ

11: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:09:00 ID:???00
泉「ダブル、ブッキング…………予定が二重に入ること、か」フム

セラス「うん。実際の例を出すと……」コホン

セラス「──スクールアイドルのライブと、別のイベントが丁度同じ日に予定されちゃった!! さぁ、泉はどうする!!??」バッ

泉「セラスのその高すぎるテンションは一体何だ……?? えぇと、そうだな……」

泉「……無理を押してでも、両立させようとするだろうね。私を応援してくれる大切なファンを、悲しませる訳にはいかないだろう」

セラス「That’s rrrrrrrrright!!!!(巻き舌)」

泉「何なんだ」

12: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:10:00 ID:???00
セラス「泉が言うように、大抵のスクールアイドルは予定の両立を望んでいる……でも、大切な体は一つしかない……!」

セラス「正にそういう時、スクールアイドル専門の“身代わり”が居れば、全てが解決する──そう思いませんか泉さん!!」バッ

泉「ふむ。セラスの言う事にも一理はある、か?」

泉(……本人でない以上、場合によっては根本の解決にならない。だが、それでも時間稼ぎくらいには、確かになるのかもしれない)

13: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:11:00 ID:???00
泉「いや、しかし……仮にそうだとしても」コホン

泉「そもそもとして、だね。他人がその人の代わりになるなんて、現実的に不可能じゃないかい?」

セラス「ふっふっふ……ほとんどの人はそうかもね。でも!」

セラス「泉の口に言わせれば、まだまだだよ!!!」ピシッ

泉「そういう時は普通、自分の口に言わせないか?」

14: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:12:00 ID:???00
泉「…………いや、待て」ハッ

泉「もしかして、セラスが私にこの話を持ちかけたのは……それが私にしか出来ない事、だからかい?」

セラス「……ふっ気づいたね、泉。わたしが、他でもない泉に身代わり代行を勧めた理由を」フフッ

セラス「他人の“身代わり”になる為に、一番必要なのは演技力。だから、泉は全部──『演劇』だと思ってやればいいんだよ」

泉「!」

15: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:13:00 ID:???00
セラス「代行するスクールアイドルの子を、泉はただ“演じる”。本当に、たったそれだけ。泉にとっては簡単でしょ?」

泉「それは……」

泉「…………」

セラス「……泉?」



ガチャ


「私はそれ、挑戦してみても良いと思うけど」


泉「……! ──吟子部長、か」

16: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:14:00 ID:???00
吟子「その話は、私も前からセラスに聞いてたよ。身代わり代行、少しは泉だって、やってみたいと思ってるんでしょ?」

泉「……。確かに、興味がないと言えば嘘にはなってしまうが。……そういう吟子部長は、賛成しているのかい?」

吟子「……まぁ、一応」

吟子「ほら、あのさやか先輩だって、かつてはフィギュアスケートとスクールアイドルの予定が重なって色々と大変だったそうだし」

セラス「そう、つまり伝統……! ダブルブッキングはスクールアイドル、そして蓮ノ空の伝統でもあるんだよ、泉!!」ピシッ

泉「しかし……」

17: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:15:00 ID:???00
泉(…………誰かを救う“身代わり”のお芝居、か)

泉(……かつての私は、演劇を通じてすぐ傍に居た人を不幸にしてしまった。もちろん、今はもうその呪いは解けているけれど)

泉(そう……、だからこそ。私の演劇で誰かを幸福に出来るのならば、『やってみたい』とも思ってしまう。だが……)

泉「私に、そんな資格など……」



セラス「──やりたい事をやるのがスクールアイドルでしょ、泉」


泉「……!」

18: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:16:00 ID:???00
セラス「泉、もう三年生なんだよ。自分がやりたいと思った事をやらなかったら、スクールアイドル人生、絶対に後悔するって」ピシッ

泉「……。セラス……」

吟子「そうだよ、泉。やりたい事には全力で取り組んで──夢を叶えるのが、スクールアイドルクラブ」

吟子「私は部長として、そういう伝統を全力で受け継がなきゃだから。泉にだってそう言わせてもらうよ」

吟子「それに……泉も、今はもう蓮ノ空の一員なんだし」ニコッ

19: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:17:00 ID:???00
泉「……ふふっ」

泉「かつての偉大な部長のように、大胆なことを言うようになったじゃないか、吟子部長」クスッ

吟子「……//」

泉「やりたい事、か。……今の私にも、出来るのだろうか」

セラス「大丈夫、スクールアイドルの泉“だからこそ”、出来るんだよ! それに泉は、優勝請負人だった事もあるんだし!!」フフン

泉「……そう、か。そうだね。一歩踏み出す勇気は、スクールアイドルだからこそ学んだことだ。であれば、私は──」





「うわああーー!!!?」


泉「!?」

20: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:18:00 ID:???00
吟子「あー…………もしかして、また小鈴が……」チラッ

泉「?? 小鈴さんがどうかしたのかい?」

セラス「さっきからずっと唸ってるんだよ、小鈴先輩。部室の隅で、スマホとにらめっこしながら。で、たまに叫んでる」

泉「何故……?」

ドタドタ

小鈴「泉ちゃんー! 徒町、ど、どど、どーしよう!??」ガタッ

泉「んん……ひとまず落ち着こうか、小鈴さん。そんなに慌てて、どうしたんだい?」

小鈴「徒町、徒町…………」



小鈴「分裂、ってどうやったら出来るのかなぁ!?」

21: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:19:00 ID:???00
泉「…………ん??? 何がどうしてそんな話になるんだ……!?」

セラス「小鈴せーんぱい。順を追って説明してくれますか?」

小鈴「あ……う、うん!」

小鈴「…………その……徒町のご両親から少し前に、徒町にメッセージがありまして……」コホン

小鈴「何やら、徒町の家族ご一行が今日、金沢に来るらしく。受験生だから進路の話も、って徒町も顔を出すように言われたんだ」

泉「ほう? それは……小鈴さんの今後に関わる大切な用事だね。最優先で向かうべきだろう」

小鈴「で、でも、実は……何やら様子がおかしい広実ちゃんが、徒町の事をランチに誘ってくれたのも今日でして……」

小鈴「……しかもその後ずっと、広実ちゃんとは電話も繋がらないから、実際に会って話したくて……後回しにはしたく、なくて」

22: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:20:01 ID:???00
泉「……ん?」

小鈴「でも徒町、どっちの用事もどうしても外せない予定だから、動けなくて……徒町が分裂出来れば……!! うぅ……」ズーン…

泉「予定が重なって困っている……、まさか」チラッ

セラス「いやー、正にお手本のような“ダブルブッキング”! さっそく一人目の依頼人だねー、泉!!!」

泉「…………」ジトー

泉「……もしかして、セラスは悩んでいる小鈴さんの為を思って、私に身代わり代行の話を持ちかけたのかい?」

セラス「!? …………さ、さぁね!」プイ

23: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:21:00 ID:???00
泉「……まぁいいさ。小鈴さんに関して言えば、私は完璧にインストール出来るだろうからね」フム

小鈴「? え、えっと……??」

吟子「……」ジー

泉「──小鈴さん。やむを得ず予定が2つ重なってしまったのならば……」


泉「私が、小鈴さんの“身代わり”を引き受けよう」ニコ

24: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:22:00 ID:???00
小鈴「??? か、徒町の、身代わり……??」

セラス「じゃ吟子先輩。あとはよろしくお願いします」

吟子「……うん、任せて」カタッ

泉「ん……? 吟子部長も、何か手伝ってくれるのかい?」

吟子「ある意味ではね。今まで私がスクールアイドルとして培ったメイク技術やヘアアレンジ……それを使って、泉を、誰よりも」

吟子「──『徒町小鈴』に作り変えてあげる」グッ

泉「!?」

25: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:23:00 ID:???00
小鈴「???? い、泉ちゃんが徒町に……??」

泉「ちょっと待て……なんでそうなる……?」

吟子「だって、泉が“身代わり”になるんでしょ? いくら演技が上手くても、見た目が似てなかったら代役は務まらないでしょ」

泉「……! た、確かにそれはそうだが……」

吟子「それに、私が受け継ぐ金沢の伝統技術、舐めてもらっちゃ困るから……!」メラメラ

泉「それを伝統技術と捉えていいのか!?」

小鈴「????? 徒町、今何が起きてるのか、この中で一ミリも理解できていない気がするのですが……!!」

26: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:24:00 ID:???00
────

──少女変身中…


バッ

吟子「──で、出来た……! この世に、完璧な『徒町小鈴』をもう一人作り出すことに成功した……!!」

「マッドサイエンティストか何かの台詞か?」

小鈴「わぁ……すごいすごい!! 今の泉ちゃんの外見、どこからどう見ても徒町だよ!」パァァ

「そ、そうだろうか……。……いや、違うな」コホン



小鈴(泉)「……徒町、全身全霊で頑張ります! ちぇすとーー!!」グッ


セラス「演技完璧すぎじゃん……!?」

吟子「ふふっ……さすが演劇界の天才だね、泉。声まで瓜二つに似せられるなんて」クスッ

セラス「なんか泉、異様に声マネ上手いよね……」ジトー

27: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:25:00 ID:???00
小鈴(泉)「徒町、徒町のことは人として尊敬しているからね! 言動も考え方も話し方も、徒町は完璧にトレース出来るよ!」グッ

小鈴「!??」

吟子「ふ、ふふ……なんだかこれ、小鈴が自画自賛してるみたいで面白い」クスクス

小鈴「徒町への風評被害が!?!?」

小鈴(泉)「徒町は、徒町小鈴がどれだけ素晴らしい人間であるか、誰よりも理解してるよ! チャレンジ精神も最高だよね!!」グッ

セラス「小鈴先輩が絶対に言わなそうなこと選手権……??」

28: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:26:00 ID:???00
小鈴(泉)「……っと」コホン

小鈴(泉)「こんな感じになるが、どうかな、小鈴さん? 私は小鈴さんの“身代わり”に相応しいだろうか」ニコッ

小鈴「えっ、あっ、徒町が判断していいの!? コレを!?!!」

小鈴(泉)「ああ。この中で誰よりも『徒町小鈴』らしいのは、やはり小鈴さんだからね」クスッ

小鈴「当たり前のことを言ってる気がする……!!」

29: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:27:00 ID:???00
小鈴「でも……その!」

小鈴「今の泉ちゃんを見て、徒町も“身代わり”の意味はよく分かったよ! 声も見た目も演技も、完璧だと思う!」グッ

小鈴(泉)「ふふ。本人のお墨付きとは嬉しいね。あくまで私は小鈴さんの代わりになるのだから、本人の気持ちが一番さ」クスッ

小鈴「! 代わり…………そう、だよね」

小鈴「……“身代わり”って騙してるようなものだから、あとでちゃんと徒町、広実ちゃんに謝ろうと思う。でも、どうしても……」

小鈴「今日、広実ちゃんに会って──“伝えなきゃいけないこと”があるんだ。泉ちゃんにそれを……お願いしてもいいかな?」

小鈴(泉)「? ああ、勿論……なんでも構わないよ。是非お聞かせ願おうか」ニコッ

30: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:28:00 ID:???00
小鈴「えっと…………その」

小鈴「広実ちゃんは……たぶん今、色々考え込んじゃってるだけだと思うんだ。だから……」

小鈴「徒町の口で、“大丈夫”だって、伝えてほしい」ギュ

小鈴(泉)「……? ああ、承知した」コクリ

31: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:29:00 ID:???00
セラス「さてここで、依頼に入る前に! 泉に大切な忠告!」ピシッ

セラス「今ここに居る4人以外、身代わり代行の事は誰も知らない……つまり、泉は他の人に絶対バレちゃいけないんだよ!」バッ

セラス「姫芽先輩にも教えちゃダメだからね!!!」

小鈴(泉)「その念押しは一体……? そもそも、姫芽ちゃんは今日一日ショッピングに行っているようだし大丈夫だろう」コホン

吟子「っ、ふふ……、ダメだ、小鈴の見た目でその口調だと、カッコつけてるみたいで面白すぎる……」プルプル

小鈴「何故!?」

セラス「なんか吟子先輩が珍しくツボってるけど……泉! もうお昼だから、そろそろ出発しなきゃだよ! 準備できた!?」ピシッ

小鈴(泉)「ああ、任せてくれ。……さぁ、始めようか」


小鈴(泉)「現実を舞台とした“演劇”を──」

32: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:30:00 ID:???00
────

──現在 近江町市場


広実「おっ、コレ見てくれ、師匠! ピチピチのお魚だ!」

小鈴(泉)「わぁ……! 本当だね!」ニコニコ

33: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:31:00 ID:???00
小鈴(泉)「……」ジー

小鈴(泉)(…………“身代わり”として広実さんとのランチを終え、今は一緒に市場を散歩中)

広実「やっぱり、小鈴サンと一緒は楽しいなぁ……! アタシも、バイトの合間に勇気を出して誘ってよかったよ!」ルンルン

小鈴(泉)「ふふっ、徒町もすっごく楽しいよ! ……」

小鈴(泉)(今のところ、気付かれた様子も無く、広実さんは普段通りだ。……やはりこれは、ただのお出かけでしかないのだろうか)

34: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:32:00 ID:???00
小鈴(泉)(……だが、仮にそうならば。私が小鈴さんの口で言わねばならない“伝言”は、一体どういう意味を持つのだろう……?)

広実「──あ! 小鈴サン、アレも新鮮でいいんじゃないか? 刺身にしたら美味そうだ!」

小鈴(泉)「? あ、これは……えっと」

広実「割と見分けが難しいって感じる人も居るっては聞くけど……小鈴サンならもちろん、この魚が何なのか分かるよな!」ニコニコ

小鈴(泉)「!?」

35: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:33:00 ID:???00
広実「なんたって師匠は、福井の漁師家系の子だもんなぁ! スクールアイドルとして、そういうところも魅力的だ!」ウンウン

小鈴(泉)「え、えぇっと……」アタフタ

小鈴(泉)(魚の知識……何か、ヒントは……)

広実「コレ、蝶とか葉っぱみたいに薄い体なのが、漢字の由来なんだってさ。バイトでお客さんに教えると良いリアクション貰えるんだよなぁ」クスッ

小鈴(泉)「!」

36: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:34:01 ID:???00
小鈴(泉)「…………鰈《かれい》、かな? ほら、漢字の右側がそういう意味で、鮃《ひらめ》とは違うんだよね?」

広実「! おっ、当たりだ! さすが小鈴サン、魚に関して右に出る者はいないな!」ニコニコ

小鈴(泉)「そ、そうかな? えへへ……」

小鈴(泉)(…………『咲かnow!』を歌った経験が活きたな……)

37: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:35:00 ID:???00
広実「まぁでも、見分けるのもスマホがありゃ今は調べられちまうからなぁ……店員にも聞いてくれないし、寂しい事もあるよ」ポツリ

小鈴(泉)「! スマホ…………あ、そういえば!」パンッ

小鈴(泉)「あのさ、広実ちゃんが徒町に連絡をくれた後、何回かけても電話が繋がらなかったんだけど……スマホはどうしたの?」

広実「……ん? 電話……?」

小鈴(泉)「…………あれ?」

広実「……」ゴソゴソ

38: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:36:00 ID:???00
広実「…………」ゴソゴソ

広実「……」

広実「……」タラタラ

小鈴(泉)「広実ちゃん?」

広実「師匠…………アタシ、スマホ落としちまったかもしんねぇ」

小鈴(泉)「!?」

39: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:37:01 ID:???00
小鈴(泉)「そ、それって一大事なのでは!? ……あ、だから広実ちゃん、徒町の電話に出られなかったんだ……!」ハッ

広実「マジか、全然気づいてなかった……すまねぇ師匠! えっと、あの後アタシがスマホを落としてそうな場所は……」ウーン

広実「…………そっか、裏倉庫の方だ!」パンッ

小鈴「裏倉庫?」

広実「そうだ思い出して来た! 小鈴サンに連絡を入れてからバイトで荷物を運んだから、そん時に落としたのかもしれねぇ……!」

40: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:38:00 ID:???00
小鈴(泉)「…………」

小鈴(泉)「……じゃあ徒町も、広実ちゃんのスマホ探すの手伝うよ!」

広実「!? い、いやいやいや! わざわざ師匠のお手を煩わせる程のことじゃねぇって!」ブンブンブン

小鈴(泉)「えっと……ううん、手伝わせて! 徒町、広実ちゃんが困ってるのはほっとけないよ!」ニコッ

広実「!! 小鈴サン……! ありがてぇ、恩に着るよ!」パァァ

41: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:39:00 ID:???00
小鈴(泉)(……そう、『徒町小鈴』さんならば言うだろう。善性とチャレンジ精神の塊のような、小鈴さんはそんな人であって──)

小鈴(泉)「!」ピタ

小鈴(泉)(あぁ……なるほど。──“身代わり”とは案外、その人の持つ魅力を、再確認する行為でもあるかもしれないな)

広実「って……小鈴サン? どうかしたのか? 行くなら行くで、早く行かねぇと日が暮れちまうぞ!」

小鈴(泉)「あ……う、うん! 徒町、今ついてくよ!」

小鈴(泉)(……。しかし、今こういうアクシデントが起こったとはいえ)

小鈴(泉)(この調子ならば、特に何の問題もなく“身代わり”を終えられそうだな──)

42: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:40:00 ID:???00
────

──間


カァカァ…


小鈴(泉)「…………どうして、こんな事に」

広実「本っっっ当に申し訳ない、師匠! 前にも同じ事があったのに……また、繰り返しちまうなんて……」

小鈴(泉)「同じ事……」

広実「小鈴サン?」

小鈴(泉)「そっか……これ、徒町は2回目なんだね」チラッ…



小鈴(泉)「──裏倉庫に閉じ込められる、なんてことが……」

43: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:41:00 ID:???00
広実「あん時、ちゃんと扉が歪まないように直した筈だったんだけどなぁ……すまねぇ、師匠!」パンッ

小鈴(泉)「う、ううん、大丈夫だよ! 広実ちゃんのスマホは無事見つかったわけだし……それに怪我もなかったし!」ニコッ

広実「……」

小鈴(泉)「って……あ、あれ? 広実ちゃん?」

広実「……小鈴サンさ。昼間、会った時からずっと思ってたんだけどさ」

広実「今日…………何か、アタシによそよそしくないか?」

小鈴(泉)「!?」

44: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:42:00 ID:???00
小鈴(泉)(こんなタイミングでまさか、気付かれた──か?)

小鈴(泉)「そ、そう……かな?」アセアセ

広実「ああ。……でも、多分」

広実「師匠は、アタシの気ぃ遣ってくれてるんだろ? やっぱり、小鈴サンは優しいな」クスッ

小鈴(泉)「……え?」

45: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:43:00 ID:???00
広実「ほら、今朝、このお出かけを提案したときにさ……アタシ、少しだけ小鈴サンに変な対応しちまっただろ?」

広実「慌ててたっつうか……言いたいことを濁すような感じで師匠に話しちまってたから、変に心配させちまったのかなって」

小鈴(泉)「それは……」

広実「や、別に隠さなくていいぜ、師匠。……これはアタシの不甲斐なさが原因で、ホントは師匠に聞かせちゃいけなかったんだ」

小鈴(泉)「…………」

小鈴(泉)「徒町に聞かせちゃいけない、なんて……そんなこと、ないと思うよ?」

46: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:44:00 ID:???00
広実「え?」

小鈴(泉)「確かに広実ちゃんの様子は変だなって、徒町、思ってたけど……でも、だからこそ」

小鈴(泉)「そういうの全部……隠さないで、徒町に聞かせてほしいな。──徒町、広実ちゃんの気持ち、知りたいから」

広実「!」

広実「はは……だよなぁ。『徒町小鈴』なら、こんなアタシにも、そう言ってくれるよな……」クスッ

小鈴(泉)「……広実ちゃん?」

広実「分かった。でもこれは、小鈴サンにしか話せないことで……アタシの師匠だからこそ、言えることだからな」

小鈴(泉)「……! ……うん」

47: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:45:00 ID:???00
カァカァ…

広実「……」

広実「……BGP、ほんっと凄かったよな」ポツリ

広実「アタシも、アタシの友達もさ、みんな夢中になって、夢を……追いかけたステージだった。師匠のライブも良かったし」

広実「で、改めて思ったんだ。アタシが最初に歌えたのも、その次のBGPのステージも全部、蓮ノ空の皆サンのおかげだったから」

広実「結局のところアタシは、小鈴サン達と一緒じゃなきゃ……」


広実「…………夢を見れないんじゃねぇか、って」


小鈴(泉)「!」ピク

48: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:46:00 ID:???00
小鈴(泉)「……」

小鈴(泉)(あまりにも知っている感情……他人の情熱でしか燃え上がれないのかと絶望した、あの日の私と……、よく似ている)

広実「アタシさ、小鈴サンの進路とかこれからの106期を応援したいって……ずっと、ずっと思ってた筈なのに」

広実「最近だと、これからも永遠に金沢に居てほしいし……なんだったら、もう一度この時間を繰り返したいとも思っちまうんだ」

小鈴(泉)「……それは」

広実「師匠はあと一年で卒業するし、将来も金沢に居るってわけでもない……BGPの度に帰ってくるってのも現実的じゃないだろ?」

広実「それで、アタシは……小鈴サンがいなきゃ、やっぱり何も出来やしねぇって再確認しちまって……」ポツリ

広実「なんだかアタシ一人残って歌っても……、何の意味も無いんじゃないか、ってそう思っちまうんだよ……」

小鈴(泉)「…………」

49: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:47:00 ID:???00
小鈴(泉)「……──広実ちゃん!」ギュ

広実「!? し、師匠!?」ビクッ

小鈴(泉)「…………」ギュ…

広実「!?!!? な、なな、なんで師匠がアタシの手を強く握ってんだよ、金輪際洗えなくなるだろ!!!」

小鈴(泉)「んん……あのね、広実ちゃん」

50: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:48:00 ID:???00
小鈴(泉)(……握った広実さんの手が温かい。伝えたいこの気持ち、私自身経験もしている感情。いま小鈴さんとしてならば──)

小鈴(泉)(──私にも、言える)

小鈴(泉)「……きっと、広実ちゃんは今は考えすぎてるだけ」

小鈴(泉)「徒町は、広実ちゃんが広実ちゃんの力で、スクールアイドルになった事をちゃんと知ってるもん」ニコ

広実「小鈴、サン……」

小鈴(泉)「広実ちゃんがスクールアイドルを通して手に入れた夢は、情熱は! 絶対、消えない!」


小鈴(泉)「だから──“大丈夫”だよ! 広実ちゃん!」ニコッ


広実「……!!」

51: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:49:00 ID:???00
広実「あぁ……」

広実「……そ、っか」

広実「はは……小鈴サンに“大丈夫”って言われて、信じねぇ訳ないだろ……あぁ、やっぱり、師匠の言葉はすげぇな……」

小鈴(泉)「!」

52: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:50:00 ID:???00
広実「師匠の言う通りだ。……アタシが今まで皆のおかげで手に入れられた夢とか、そういうの全部、無駄にはならない、んだな……」

広実「そっか。──ありがとな師匠! おかげでだいぶ、アタシも吹っ切れたよ」ニコッ

小鈴(泉)「……! ど、どういたしまして……」

小鈴(泉)「…………」

広実「ああ、こうしちゃいられねぇな! アタシ、また何かのカタチで歌うステージが出来ないか動いてみるよ! 約束する!」ギュ

小鈴(泉)「! ……うん! “徒町”も応援するよ、絶対──!」ニコッ

53: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:51:00 ID:???00
────

──間


「あ! 泉ちゃんーーー!!」ブンブン


小鈴(泉)「おや……? ふふっ、やあ。──小鈴さん」ニコッ

小鈴「はい、徒町です!」ニコッ

小鈴「泉ちゃん、広実ちゃんと一緒に裏倉庫にまた閉じ込められたって聞いたんだけど……だ、大丈夫だった?」

小鈴(泉)「ん、あぁ、ご心配には及ばないよ」ニコッ

54: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:52:00 ID:???00
小鈴(泉)「少し話をした後、元気になった広実さんが大声で助けを呼んでくれてね。心配してくれて感謝するよ、小鈴さん」

小鈴「そっか! ……改めて、今の泉ちゃんの見た目だと自分自身に徒町って言われてるみたいで、不思議な気分……!」

小鈴(泉)「ふふ、今の私も『徒町小鈴』だからね。見た目も仕草も完璧に似せているわけだし」クスッ

小鈴「あははっ! 何も知らない人が徒町達のこの瞬間を見たら、びっくりしちゃうね! “身代わり”、だなんて」フフ

55: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:53:00 ID:???00
小鈴(泉)「本当に……貴重な体験が出来たよ。小鈴さんの方は、家族とキチンと話し合えたかな?」

小鈴「それはもう、とっても! 徒町、これでももう三年生なので!」グッ

小鈴(泉)「ふふ、そうか」クスッ

小鈴(泉)「……こちらも広実さんにはキチンと伝えたよ。情熱は、夢は──消えないから大丈夫、と」

小鈴「!」

56: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:54:00 ID:???00
小鈴(泉)「小鈴さんは気づいていたんだね。広実さんの今朝の様子からして、何か悩んでいること。……そして、欲しい言葉も」

小鈴「…………うん」

小鈴「だから、絶対言わなきゃって思ってたんだ。徒町も……先輩たちを見て、少し思っちゃってた事だったから」

小鈴「予定が被っちゃって焦ったけど……泉ちゃんが“身代わり”として伝えてくれて嬉しかったよ!」

小鈴「だから──ありがとう、泉ちゃん!」ニコッ

小鈴(泉)「……!」

57: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:55:00 ID:???00
小鈴(泉)(……広実さんにも、小鈴さんにも感謝の気持ちを伝えられるなんて。……あぁ。これは、嬉しいものだ)

小鈴「ねぇ、泉ちゃん」ニコ

小鈴「泉ちゃんは、徒町以外の人に対して、これからも続けるんだよね? この──スクールアイドル専門の“身代わり”代行」

小鈴(泉)「……、それは……」


小鈴(泉)「…………そう、だね」コクリ

58: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:56:00 ID:???00
小鈴(泉)「詳しくはセラスにも相談しなければならないけれど……やはり、私個人としては、是非『やってみたい』と思っている」

小鈴「! そっか……!」

小鈴(泉)「ああ。今回で、その魅力に気付けたのが大きい。それに……改めてにはなるが、小鈴さんの魅力も再発見できたからね」クスッ

小鈴「ふぇ!?? 徒町の魅力って……そ、そうかなぁ? でも、やっぱり泉ちゃんは──」

59: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:57:00 ID:???00
────

──同時刻 二人のすぐ近く


姫芽「ふんふん~♪」トコトコ

↑何も知らない安養寺姫芽

60: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:58:00 ID:???00
姫芽「いや~、今日は良いものを買えた~♪」ニヤニヤ

姫芽「今頃、クラブのみんなは何してるかな~……今度のお休みはアタシも、誰か誘ってみたりして……」ニコニコ

ガヤガヤ…

姫芽「……?」ピタ

姫芽「ん、あれ……こっちの方から知ってる声が聞こえた気が~……? 誰だろう~……」コソコソ…

姫芽「……」チラッ



小鈴「──本当にいつも、徒町の事をよく見てくれてるんだね! そういうところ、徒町、大好きだよ!」ニコ

小鈴(泉)「いやいや、小鈴さんの魅力あってのことだよ。いつもの小鈴さんが眩しいから、目を引かれてしまうのさ」クスッ

61: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 20:59:00 ID:???00
ガヤガヤ ワイワイ…


姫芽「……」ジー

姫芽「……」ゴシゴシ

姫芽「…………????」ジー

姫芽「えっ、何……小鈴ちゃんが分裂してる?????」


(後日、疲れてたから幻覚を見たんだよ! で納得させた)


第一話 おしまい

62: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/08(金) 21:00:00 ID:???00
今日はここまで

次回 第二話→明後日に投下
次からシリーズ越境のクロスオーバー多めです

63: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:00:01 ID:???00
ガヤガヤガヤ…


泉「ほう……? これが、噂の……」ジー


メイ「────そう!!! 古今東西の素晴らしいアイドルをありったけ纏め、それ自体が伝説となった伝説のアイドル伝説──通称『伝伝伝』!!! そのスクールアイドルエディションってのがあってさ、そもそもの起源と噂されてる椿咲花と滝桜女学院のステージも……」ペラペラ

すみれ「はいはい。その辺にしときなさい、メイ」パンッ

すみれ「今までのLiella!とか、最初期スクールアイドルの歴史まで……そんな話、一気に話したって誰もついていけないでしょ」

メイ「! そ、そっか……悪い! 金沢のスクールアイドルが来るなんて滅多にない事だから……」シュン

泉「ふふ。いや、気にしないでおくれ。私も、結ヶ丘やLiella!……その他スクールアイドルの事を多く知れて、楽しかったさ」クスッ

セラス「……」ジトー

ガチャ

「すみません、遅れて……! 代行業の桂城泉さん、ですよね?」

泉「……! ああ、そうさ。……では、貴女が依頼人の」



恋「ええ。──葉月恋、と申します」ペコリ

64: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:01:00 ID:???00



【第二話 前門の虎、後門のクマ】



.

65: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:02:00 ID:???00
────

──葉月家 応接間


恋「──申し訳ありません、泉さん。わざわざ学校から場所を移させてもらって……あちらは賑やかすぎたくらいでしょう?」クスッ

泉「ふふっ。全然、構わないよ。私としても、あそこのスクールアイドル部の面々と話すのは楽しかったし」ニコ

セラス「……泉、やったらめったらはしゃいでたよね。浮かれポンチ泉、だったよね!」ジェラ…

泉「……おや? まさかセラス、私に妬いているのかい? ふふっ、可愛いね」クスッ

セラス「!?? ……そ、それより!//」コホン

セラス「恋……先輩!」ガタッ

66: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:03:00 ID:???00
セラス「どうして一度、話す場所を変えたんですか? 静かに話したかったから、ですか?」

恋「あ、いえ。それもありますが……あそこで話すと、誰かに聞かれてしまいそうでしたから」

恋「今回お願いする──“身代わり”についての、大切なお話を」

泉&セラス「!」

恋「その……私、趣味でネットを巡回してるんですが、そこでこの、スクールアイドル専門の身代わり代行を知ったのです」コホン

恋「同じ時、私もスクールアイドルのイベントでダブルブッキングが起き悩んでいたので……こうして連絡させていただきました」ニコ

67: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:04:00 ID:???00
泉「ほう……。セラス、ネットにHPまで作っておいたのかい? 随分と用意がいいんだね」クスッ

セラス「ま、まぁね。……あの後、小鈴先輩以外にも身代わり代行を続けたいって泉が必死に言うから、一応の体裁上……」

セラス「…………でもまさか、本当に依頼が来るとは……」ボソッ

泉「? セラス、何か言ったかい?」

セラス「う、ううん、なんでもない!」ブンブン

恋「それで、あの……私が依頼したいお願い、なんですが」



恋「私の“身代わり”として──舞踏会に参加してほしいんです!」

68: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:05:00 ID:???00
泉「ほう? 舞踏会、だって?」

恋「はい。あ、ですが厳かなものではなく、コスプレや被り物もありで演劇等の出し物も自由に行える、緩い仮装パーティらしいですよ」ニコニコ

セラス「!? ぱ、パーティ……!? 楽しそう……!」パァァ

泉「……ふむ。恋さん、一つ質問があるんだが」コホン

泉「舞踏会というのはある種、人脈作りなどの社交場だ。それなのに、“身代わり”を使ってもいいのかい?」

恋「あぁ、それでしたら……ふふっ。それが実は、今回に限って言えば大丈夫なんですよね」クスクス

泉「……? と、言うと?」

恋「だって、今回のイベントは──スクールアイドルだけが参加できる“仮面”舞踏会、なんですから」クスッ

69: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:06:00 ID:???00
泉「!」

セラス「えっあっ、仮面……!? そっか、それなら」

恋「ええ、概ね、貴女がたのご想像の通りです。顔を隠した上での匿名性を楽しむのが、仮面舞踏会……」

恋「ですので、“身代わり”でも問題はないんですよね」クスッ

70: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:07:00 ID:???00
恋「という訳で、実際に今、ここに葉月家特製の仮面を準備しました。泉さん、本番はこちらを使っていただけますか?」スッ

泉「ふむ、これが……」ジー

泉「……この仮面、デザインはもしや、コーヒーカップかい? 素晴らしい意匠が施されているね」ジー

恋「ええ。この舞踏会は、スクールアイドルのアイコンをモチーフとした仮装や仮面を身につける、というコンセプトなので」ニコ

セラス「!? あ、ああ、アイコンの…………仮装……!!」

71: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:08:00 ID:???00
恋「本番の舞踏会では、泉さんがそれを付けてくだされば、あとはもうそれっぽく演技した上で好きに過ごしてもらって構いません」

恋「穏便に過ごしてくだされば、それでいいのです。仮面がある以上、よっぽど目立たない限り“身代わり”だとは気付かれませんし」

泉「ふむ、確かに……そうかもしれないね」

泉(……? であれば、今回の身代わり代行は……もしや)

泉「…………」

恋「では当日、よろしくお願いしますね」ニコッ

72: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:09:00 ID:???00
セラス「…………よしっ!」ガタッ

セラス「そうと決まれば泉! まずはちゃんとした舞踏会の踊りとか、マナーとかを覚えなきゃだよ! …………あ、そういえば」ハッ

泉「……ん? どうかしたのかい、セラス?」

セラス「泉マナーって何回も繰り返して書くと、なんか斜めって見えるんだよ。知ってた?」フフン

泉「知ってる訳ないだろう」

セラス「泉マナー泉マナー泉マナー泉マナー……どう? 見える?」

泉「それを口頭で言われて分かると思うかい?

73: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:10:00 ID:???00
────

──間


タタッ…

セラス「──いい感じ、じゃない?」ニコッ

泉「そう、だろうか……」

セラス「? うん。泉、ワルツもやっぱり上手なんだなぁって」

泉「……まぁ、私は私でスクールアイドルとしての経験があるからね。……けれど」

泉「彼女の──完璧な『葉月恋』さんの様にはいかないな……」シュン

セラス「??? えっ、いや泉、何で急に落ち込みモードになってるの??」

泉「ん、いや……すまない」

74: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:11:00 ID:???00
泉「ただ……、少しだけ弱気になってしまってね」

セラス「弱気?」

泉「ああ。……前回は小鈴さんの“身代わり”、だったろう?」

泉「小鈴さんの事は、既に一年以上も尊敬し見続けてきた。だから私にも、ある程度インストールした演技が出来た訳だ。……だが」

泉「今回は、そうじゃない」

セラス「!」

泉「前にね。セラスは演技力が一番、身代わり代行に必要なものだと言っただろう? だが、役を理解せずに演技力を発揮するのは不可能に近い……」

泉「……ならば。演じるにあたって何を理解すれば、仮面を付けても『葉月恋』さんらしくなるのか、イマイチ分からなくてね」

75: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:12:00 ID:???00
セラス「…………泉は少し、考えすぎじゃない?」

セラス「依頼人の恋先輩だって、そういうのを合意の上で頼んでるんだよ? 仮面舞踏会なんだし、好きにして良い、とも言ってたじゃん」

泉「それは……、そうだが。私は私で演劇で最善を尽くしたいだけさ。彼女の願いには、なるべく良い形で応えたいだろう?」

泉(……せっかく“身代わり”を演じるのならば、誰にも見抜かれないほどの擬態をしたい。そう思う、個人的な気持ちもあった)

セラス「……そっか」

セラス「よし、わかった! じゃあ……」コホン



セラス「──特技:モノマネのわたしが、似せるコツを泉にたっぷり教えてあげる! これでどう!?」ピシッ

76: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:13:00 ID:???00
泉「……ん? モノマネ、だって??」

セラス「おっと泉、舐めてもらっちゃ困るよ! 全ての道はモノマネに通ず、と言っても過言じゃないんだからね!」バッ

泉「過言だろう」

セラス「モノマネの真髄! それは、事前に調べたり聞いたりして知った、本人の喋り方から普段の癖まで……その全てを使いこなす事!」

泉「!」ピク

泉「……なるほど、表面的な物を演技に活かすという事か」フム

泉(却ってその方が、“身代わり”らしくなるのだろうか……? まだ分からないが、試す価値くらいはあるかもしれない)

77: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:14:00 ID:???00
セラス「ま、やってみてダメならダメで元々。泉に代行を勧めたのはわたしなんだから、責任はわたしが負うし」

セラス「それと……実は一つお願い、というか提案もあって」コホン

泉「セラス?」

セラス「スクールアイドルの仮面舞踏会だから……一応、わたしも参加して、泉の近くで見てようかなー……って」ポツリ

泉「!」

セラス「……ダメ、かな?」

78: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:15:00 ID:???00
泉「ふむ。確かにセラスが傍に居てくれるならありがたいが……」

泉「これはあくまで仮面舞踏会、だろう? 私は依頼人のを使うが、セラスは仮面の用意が無いんじゃないか?」

セラス「ふっ……甘いね泉!!! 実はもう、既にここに用意してあるんだよ!」バッ

泉「最初から参加する気満々じゃないか……」

泉(……そういえば、セラスは恋さんにパーティの話を聞いた時点で、既に楽しそうと興味を持っていたか)

セラス「と言うわけで……泉! うららかな~……以下略! 見て行きナ──!」



カポッ

(・(エ)・) <クマー

泉「えっ」

(,,・(エ)・) 「……どう、泉。わたしの仮面」ドヤッ

泉「セラス、まさかその“クマの被り物”で行く気なのかい???」

79: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:16:00 ID:???00
\(・(エ)・)/ 「ふっ、勿論! こんな感じだけど案外めちゃリアルな造形だし、仮面舞踏会にはピッタリかな、って」

(・(エ)・) 「ほら、わたしのスクールアイドルのアイコンってクマじゃん? ね?」

泉「ね? と言われても」

(・(エ)・) 「さぁ泉! 明日の舞踏会、頑張って楽しもうクマー」グッ

泉「何のキャラ付けなんだそれは……?? ま、まぁ、いい」コホン

泉「私も精一杯、舞踏会で“演劇”をやってみよう──」

80: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:17:00 ID:???00
────

──翌日 仮面舞踏会 会場


~♪

泉「……」スチャ(仮面装着)

恋(泉)「さて。舞踏会の会場でまず、すべき事は……」

恋(泉)「……そうでした。誰かと、ワルツを踊るんでしたよね」コホン

恋(泉)「誰か……と……」キョロキョロ

81: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:18:00 ID:???00
ザワザワ…

恋(泉)「……」

恋(泉)(食パンを模った仮面、Wi-Fiに耳が生えたような仮面……広い会場に、そんな多種多様な仮面を付けた女性たちが大勢)

恋(泉)(……ふむ。果たしてこれでは、一体誰をダンスに誘うべきか分からないな……)ジー


「あ、あの……!」オズオズ

「さっきから見てたんですけど、もしかして一人ですか?」


恋(泉)「!」クルッ

82: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:19:00 ID:???00
恋(泉)(振り向くとそこには──ピアノをモチーフとしたデザインの仮面を付けた、綺麗な女性)

恋(泉)「……ええ。私、こういった場には不慣れなものでして……貴女もですか?」

「は、はい……。私はその、スクールアイドルの中でもやっぱり地味な方なので……」オドオド

恋(泉)「? そう、ですかね? 随分と可愛らしい顔をしていると思いますよ」

恋(泉)「ほら、近くだとこんな……」(壁ドン)

「──!?!??」ビクッ

83: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:20:00 ID:???00
「は、はわわ……♡//」カァァ

恋(泉)「ふふ。もう、そんなにイチゴみたいに赤くなって……照れ隠しですか? 可愛いですね」クスッ

「!?!?!??????? あ、あの!!」

恋(泉)「?」

「ち、近く、ない、ですか……//」

恋(泉)「え? …………あっ!」バッ

84: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:21:00 ID:???00
「……////」ドキドキ

恋(泉)「す……すみません、すみません! 何でもありません! お互い、舞踏会を楽しみましょうね!」ニコッ

「え、ええ……////」ドキドキドキドキ

スタスタ…

恋(泉)「……」

恋(泉)「………………はぁ」

恋(泉)(自分が今まで培ってきた癖とは……恐ろしいものだな……)

85: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:22:00 ID:???00
恋(泉)(……表面的な『葉月恋』さんの敬語の部分だけを切り取って“身代わり”を演じても、内面の『桂城泉』が滲んでしまう)

恋「それなら一体、どうすれば……」スタスタ…



ザワザワ…

壁|

壁|・) ヒョコ

壁|(エ)・) ジー…

(・(エ)・)

(・(エ)・) 「──い、泉、めっちゃ目立ってるじゃん……!!」

86: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:23:00 ID:???00
(・(エ)・) 「……話しかけた女性に壁ドンしてオトすのは、もう完全に王子様!!! PRINCEε>ε>の経験が裏目に出てる……!」

(・(エ)・) 「穏便に“身代わり”……出来てる、コレ?」

(・(エ)・) 「はぁ……」

(・(エ)・) 「……」

(・(エ)・) 「わたしは別に……、泉がここまでやってくれるなんて思ってもなかったんだけどなぁ……」ポツリ

87: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:24:00 ID:???00
(・(エ)・) 「確かに、全てのスクールアイドルの悩みを解決できる、とは言ったけど……身代わり代行……こんな筈じゃ……」ブツブツ

ザワ…

(・(エ)・) 「……ん、あれ? 泉、あっちの方に行っちゃってるじゃん。急いで追いかけなきゃ」

(,,・(エ)・) ノソノソ







きな子「……」ジー

きな子(やべぇのが居るっす)

88: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:25:00 ID:???00
きな子(……あれ、クマっすよね!? なんで北海道でもないのにリアルフェイスのクマが居るんすか!?)

きな子(い、いつぞやのかのん先輩の時よりも現実よりのクマすぎて……今にも銃で撃たれちゃいそうっすけど……)

きな子(いくら動物と話せるきな子とは言え、流石にあのクマは……たぶん人間、なんすよね?)

きな子「……」チラッ



(,,・(エ)・) ノソノソ ノソノソ



きな子「仮面舞踏会と聞いて、きな子は狐のお面にしたんすけど……場違いだったんすかねぇ……」シュン

きな子「……」

89: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:26:00 ID:???00
────

──間


~♪

恋(泉)(さて。あと少しで、この仮面舞踏会も終わる時間だが……)


「──あ、ああぁぁ!! その仮面、恋先輩っすよね!!!??」


恋(泉)「!?」

90: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:27:00 ID:???00
きな子「や、やーっと見つけたっす! 恋先輩~!」ハァハァ

恋(泉)「……貴女は、えっと」

きな子「? どうしたんすか、Liella!の桜小路きな子っすよ! この仮面のせいで分かりづらいのかもっすけど!」フンフン

恋(泉)「……」


(・(エ)・) 「仮面舞踏会で名前を名乗ってどうするんだクマー」ヒョコッ

きな子「え?」チラッ

91: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:28:00 ID:???00
(・(エ)・)ノシ

きな子「!?!? さっき見た……く、クマっすか!?」ビクッ

恋(泉)「あぁ、いえ……彼女は人間ですよ」コホン

(・(エ)・) 「ただの仮装クマー」

きな子「はにゃ……か、仮装……? そうなんすね、教えてくれてありがとうっす……」

きな子「……って、そんな事より恋先輩!! きな子を……きな子を助けてほしいっす~~!!!」ギュッ

恋(泉)「きゃ!? き、きな子さん?」

92: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:29:01 ID:???00
きな子「うぅ……きな子、所詮きな子は北海道生まれの田舎モンっすから、やっぱり舞踏会なんて無理だったんすよ……」シュン

恋(泉)「え、えぇと……その」

恋(泉)(……彼女は──桜小路きな子さんは、確か『葉月恋』さんのLiella!および生徒会関連の後輩、だったか)

恋(泉)「……きな子さん。何かあったのですか? 私でよければ是非お力添えしますよ」ニコッ

きな子「!! 恋先輩……!」ジーン

93: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:30:00 ID:???00
きな子「その……実は」

きな子「きな子、まだ誰とも踊れてなくて……」シュン

恋(泉)「? 踊り……あぁ、舞踏会のワルツですか」

きな子「はいっす。恋先輩みたいにカッコよく踊りたくて、きな子、この舞踏会に参加したんすけど」

きな子「やっぱり……きな子、声をかける勇気が出ないんす……何というか、きな子と一緒に踊りたい人なんて居ない気がして……」シュン

94: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:31:00 ID:???00
きな子「せっかくの仮面舞踏会で、踊らず一人でいるだけなんて……きな子はすっごくダメダメな子っす……」シュン

(・(エ)・) 「? でも、わたしも踊ってないよ? いず……えっと、人を追いかけてウロウロして、ついでに他の子と写真も撮った」

恋(泉)「意外とエンジョイしてますね」

きな子「……でも、だからこそ、そういうクマさんのことも見てたら一層、きな子がここに居るのは場違いなんじゃないか、って」

きな子「スクールアイドルのクマすら楽しんでるのに、きな子は誰とも話せないなんて……と気分も下がってしまうっす……」ズーン

恋(泉)「……。なるほど、今のきな子さんはどのみち、クマ……いえ、人と自分を比べてしまっているのですね」

(・(エ)・) 「クマったことになったね」

恋(泉)「言ってる場合ですか」

95: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:32:00 ID:???00
恋(泉)「……きな子さん。あの……」

恋(泉)「──!」ピタ

恋(泉)(今から言うのは……大切な後輩に対してかける台詞だ)

恋(泉)(だが果たして、表面的な“身代わり”をしている私に──『葉月恋』さんのそれを演じる事は、出来るのか?)

恋(泉)「……え、っと」

きな子「? 恋先輩?」

(・(エ)・) 「……」ジー

96: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:33:00 ID:???00
(,,・(エ)・) 「えっと、きな子さん……クマ? 気分転換に、一つ質問しても良いクマ?」

きな子「へ?? あ、はい! なんっすか?」

恋(泉)(……? セラス……?) チラッ

(・(エ)・) 「きな子さんは……その」

(・(エ)・) 「恋先輩のことを尊敬してるんですクマー? かなり信頼してるように見える……クマけど」

きな子「ふぇ……? 恋先輩っすか? そんなの、勿論! きな子、恋先輩のこと大好きっす!」ニコニコ

恋(泉)「……」

(・(エ)・) 「……じゃあ、貴女は恋先輩のどういう点が好きなんクマー? 弱点がない完璧超人なところ? 礼儀正しいところ?」

きな子「それは……」

きな子「……確かに恋先輩は、そういう面もあるっすけど、でも!」バッ

きな子「きな子が思うに──恋先輩は、完璧なトコロが本質なんじゃない、っすよ!」フンフン

97: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:34:00 ID:???00
恋(泉)「……え? 完璧が、本質じゃない……?」

きな子「あれ?? 恋先輩、覚えてないっすか?」

きな子「きな子、恋先輩の事、最初はすっごく遠い世界の人だと思ってたんすよ。弱点が無い完璧な人だって」

きな子「ただ外から見ただけだと、恋先輩は生徒会長で凛として真面目な印象が強くて……ゲームだってやらなそうでしたし」

恋(泉)「……」

恋(泉)(…………分かる、な。『葉月恋』さんの表面的な部分だけ見れば、おそらく同じ印象を抱いていた筈だ)



きな子「──でも」

98: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:35:00 ID:???00
きな子「きな子も結ヶ丘の生徒会に入って、恋先輩の近くに居ることが多くなってから……、その印象は変わったっす!」

きな子「恋先輩はお茶目なところも多くて、ホントは素直な人っすよね! “今までのLiella!”でだって、ずっとそうだったっす」

きな子「だからきな子は──そういう恋先輩の、内面の魅力も含めて大好きっす!」ニコッ

恋(泉)「……!」

99: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:36:00 ID:???00
(・(エ)・) 「ふむふむ……教えてくれてありがとうクマー」

きな子「はにゃ!? クマにきな子のコーレスとられたっす!?」

恋(泉)「…………なる、ほど」ポツリ

恋(泉)(今まで……Liella!で、『葉月恋』さんがどのような活動をしていたのか──それを私はもう、知っている)

恋(泉)(あの時、部室で、赤髪のスクールアイドルの子が教えてくれたじゃないか)

恋(泉)「……」

恋(泉)(──……ああ、そういう事だったのか)

100: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:37:00 ID:???00
(・(エ)・) 「……何か掴めた、泉?」ヒソヒソ

恋(泉)「! ああ……、そうだね。……すまない、ありがとう」コソッ

恋(泉)(私はあくまで──“身代わり”、なのだから。本人の内なる魅力を、最大限、活かすべきだったんだ)

恋(泉)(それを理解さえしていれば、『桂城泉』が滲むこともなく、私は魅力的なスクールアイドルの“身代わり”となれるだろう……)

恋(泉)「……でしたら、あの! きな子、さん」コホン

101: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:38:00 ID:???00
きな子「? 恋先輩、どうしたんすか?」

恋(泉)(ああ。きっと……スクールアイドル専門の身代わり代行に必要なものは──これだ)

恋(泉)「きな子さんが、この舞踏会で踊れる為の方策……私に一つ、その考えがあります」

きな子「?? 考え……っすか?」

恋(泉)「ええ。素直な私らしさと、きな子さんらしさを組み合わせたこれなら、舞踏会で楽しく踊れる筈です! その方法とは──」


(∩ (エ) ・∩) チラッ…


恋(泉)「……」

(・(エ)・) 「大丈夫大丈夫、見てないベアー」

恋(泉)「せめて語尾は統一してくれますか」

102: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:39:00 ID:???00
恋(恋)「……というより。その考えを実現するためにも、優しいクマさんには協力してほしいのです」

(・(エ)・) 「ん、えっ? わたしに?」

きな子「??」

恋(泉)「ふふっ。さぁ、今からきな子さんとクマさん、私の三人で──」



恋(泉)「──皆を巻き込んだ、“寸劇”をしましょう!」ニコッ

103: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:40:00 ID:???00
────

──間



ザワザワ…


\(・(エ)・)/ <クマー


恋(泉)「大変です! クマが、仮面舞踏会に現れました!」

104: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:41:00 ID:???00
ザワザワ…

\わぁ、面白そうな演劇だ!/
               \また出し物かな?/

恋(泉)(──『演劇等の出し物も自由に行える、緩い仮装パーティ』。それが……、この仮面舞踏会)

恋(泉)(だからこそ皆……この突発的な寸劇、即興のヒーローショーであっても、盛り上がってくれているようだ)クスッ

恋(泉)「さぁ──私達スクールアイドルは、人を襲うようなクマには決して屈しません……! この舞踏会は守ってみせます!」バッ

(・(エ)・) <クマー……‼︎



「──ちょ、ちょっと待つっす~~!!」

105: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:42:00 ID:???00
(・(エ)・) !?

恋(泉)「……! この声は……まさか、スクールアイドル!?」クルッ


きな子「戦いはやめるっすよ~~! クマさんは、平和を望んでいるっす!」


(・(エ)・) <クマー

106: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:43:00 ID:???00
恋(泉)「平和を……? やめてください、そのクマは明らかに危険なんですよ!」

きな子「違うっす! 外から見たら怖いクマさんでも、一頭一頭その中身は違うっすよ! だから、決めつけちゃダメっす!」

   \頑張れー/

(・(エ)・) <クマー

きな子「! ふんふん……なるほど! 分かったっす!」

107: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:44:00 ID:???00
恋(泉)「……? もしかして貴女は、動物の言葉がわかるスクールアイドル、なんですか?」

きな子「そうっす! このクマさんは、こう言ってるっす……」

きな子「……『スクールアイドルの皆と一緒に踊りたくて、つい舞踏会まで遊びに来ちゃったクマー』……って!」フンフン

(・(エ)・) コクコク

恋(泉)「なんと! 本当は優しいクマさんだったのですね」

きな子「そうっす! クマさんはただ踊りたいだけっす!」

108: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:45:00 ID:???00
恋(泉)「なるほど……では、こうなったらすべき事は一つですよね、皆さん!」クルッ

ザワザワ…

\参加型!?/
        \わたし、あのスクールアイドルの子とも踊りたいな~/


きな子「さぁ──きな子たちの舞踏会はまだまだこれからっす! 皆で一緒に踊るっすよ~!」


~♪

109: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:46:00 ID:???00
────

──後日


恋「泉さん! 先日は“身代わり”を引き受けてくださり、本当に助かりました!」ペコリ


泉「あ、ああ……」

泉「いや、その依頼についてなんだが……」コホン

110: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:47:00 ID:???00
泉(──あの後、演劇を通じて仮面舞踏会のダンスは大いに盛り上がった。きな子さんも、色んな人とたくさん踊っていたようだ)

泉「……とても『穏便に』とは、いかない“身代わり”となってしまった。だからもし、何か不満があれば甘んじて受け入れるが……」

恋「? ふふ、いえいえ。むしろ私は泉さんに感謝しているんですよ」ニコッ

泉「……えっ?」

111: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:48:00 ID:???00
恋「あの後……きな子さんから、改めてお礼を言われたのです」


恋「──『恋先輩のおかげで、きな子、とっても楽しい舞踏会を過ごせたっす! ありがとうございますっす!』……と」ニコッ


泉「……! …………ふふ」

泉「貴女のその読み上げる声、もしかして……きな子さんのモノマネかい? 上手だね」クスクス

恋「ふふっ、でしょう? もしや私も“身代わり”になれるかもしれません」クスッ

112: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:49:00 ID:???00
泉「ああ……、よくきな子さんの特徴を捉えているよ」フフ

泉(本当に、恋さんは意外とお茶目な人なんだな。純粋で……だからこそ魅力的なスクールアイドルなのだろう)

恋「それに、沼津の方のスクールアイドルからも、コーヒーカップのスクールアイドルを調べたとかで応援が届いたのです!」ニコニコ

恋「私、嬉しくて……。泉さんの身代わり代行は、誰かと繋がる結ヶ丘の名も、大切なLiella!のことも、両方大事にしてくださったんですね」

恋「本当に──ありがとうございます、泉さん!」ニコッ

113: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:50:00 ID:???00
泉「……! ふふっ。こちらこそ、依頼してくれて感謝するよ、恋さん」

泉(おかげで、知ることが出来た)

泉(──“身代わり”とはただ皮を被ることではなく、その魅力的な内面まで表現する事だ、と)

恋「泉さん。もし、良かったら私たちLiella!のことも……今後ともどうぞよろしくお願いしますね」フフ

泉「! ああ、勿論さ」ニコッ


第二話 おしまい

114: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/10(日) 20:51:00 ID:???00
次回 第三話→明後日

115: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:00:03 ID:???00
チュンチュン…


ダイヤ「──遠くからご足労いただきありがとうございます」

泉「あ、ああ。……えっと」キョロキョロ

ダイヤ「ふふ。すみません、この辺りは書類が多く。どうぞ、そちらにお掛けください」

泉「そうさせてもらおうか……おや、何やら読むことすら難しい書類ばかりだけれど?」チラッ

ダイヤ「遠くから来ていただいた方には、難しく思われるかもしれませんが……わたくしは、そういう物の処理も仕事ですから」クスッ

泉「……ふむ。貴女は……、この場所が好きなんだね」

ダイヤ「ええ。だってここは、とても素敵なところでしょう?」ニコ

116: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:01:00 ID:???00



【第三話 虎伏す野辺、鯨寄る浦】



.

117: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:02:00 ID:???00
ダイヤ「さて、本題に入りましょう」コホン

泉「……そう、だね。貴女が今回の身代わり代行の依頼人、ということで構わないのかな?」

ダイヤ「ええ。如何にも、その通りですわ」コクリ

ダイヤ「目の前のことに手一杯で、身体がもう一つあれば……と調べていたところ、代行を知りまして。依頼させていただきました」

泉「なるほど……であれば私に任せておくれ。どんな“身代わり”でも請け負おう」

ダイヤ「ふふっ、ありがとうございます」クスッ

118: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:03:00 ID:???00
ダイヤ「──わたくしには、ルビィという可愛い妹がおります」

ダイヤ「……といってもパッと見、髪の色や背丈は似ていないのですけれど」クスッ

泉「ふむ、妹さんか……可愛らしい名だね」クスッ

ダイヤ「ふふっ、でしょう? 今回の依頼というのは、正にそのルビィが関係しているのですが……」

ダイヤ「わたくしの妹で可愛いルビィを──ここから南の方に行った浦の方まで送りとどけてほしい、それが今回の依頼の内容です」

119: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:04:00 ID:???00
泉「ふむ? つまり、私がやるのは貴女の……姉としてのダイヤさんの“身代わり”、ということかい?」

ダイヤ「ええ、確かにそういう事なんですが……その。別に、わたくしに『なりすます』必要はありませんわ」ニコ

泉「……ん? と、いうと?」

ダイヤ「実はある旅館の方と、合同で話し合いがありまして。ルビィと一緒に、わたくしも向かわねばならないのですが……」

ダイヤ「わたくしはわたくしで少しすべき仕事が残っていたため、ならば先にルビィだけを送り、現地で落ち合おうと思ったのです」

泉「……」

120: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:05:00 ID:???00
ダイヤ「ただ……妹を一人にすると、身体も小さいですから何処かで迷子になってしまいそうでしょう? 誘拐も防ぎたいですし」

泉「! ああ……そういう事か。ならば、彼女を送ってあげる自分がもう一人いれば、と貴女は思った訳だね」フム

ダイヤ「ええ。そういった訳があって、貴女に依頼をいたしました。ルビィには既に、代行の事を伝えてあります」

ダイヤ「歩くと骨が折れる距離かもしれませんが、ほんのお出かけ気分で構いませんので……」

ダイヤ「──ルビィを、よろしくお願いいたしますわ」ニコッ

121: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:06:00 ID:???00
泉「……分かった。貴女の依頼、確かに了承したよ」

泉(つまりこれは子守り……いや、護衛のような、散歩のようなものか)

泉「……」


泉(……? これは本当に、身代わり代行なのか……?)


泉「…………」

泉(何かを、忘れている気がする……)

122: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:07:00 ID:???00
────

──間


ルビィ「──こんにちは! あなたが一緒に来てくれる人ですね!」ニコ


泉「ああ、よろしく頼むよ。その……」

ルビィ「あ、ルビィのことはお姉ちゃあから聞いてますよね? ルビィ、って呼んでください!」ニコッ

泉「! ふむ、分かった。ルビィ……ちゃん」

泉(しかし、それにしても小さいな……)ジー

ルビィ「?」

123: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:08:00 ID:???00
ルビィ「えっと、あの! 実はルビィ、浦の方の旅館まで向かう途中で行きたいところがあって……」

泉「ほう? どんな場所だい?」

ルビィ「その……海のそばにある、美味しいスイーツが食べられるカフェなんだぁ。そこのケーキが、美味しいらしくて」

ルビィ「……だから、もしゆっくり目的地に向かうんだったら……ルビィ、そこに行きたいなぁって……」ポツリ

泉「……」

124: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:09:00 ID:???00
ルビィ「ルビィ、たくさんは食べられないから、あなたが頼んだものを分けてほしいんですけど……」

ルビィ「ダメ、ですか?」ウルウル

泉「……いや。良いじゃないか、そのくらい構わないよ」クスッ

ルビィ「……! うゆ……ありがとう」ニコッ

125: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:10:00 ID:???00
泉「それに、さっきからこの辺りも香ばしく美味しそうな匂いがしているからね。お腹も空いてしまうよ」クスッ

ルビィ「! じゃあ、さっそく行きましょう! ルビィ、近道知ってるんだぁ♪」

泉「ふふ、頼もしいね。ああ、行こうか」ニコ


ザザ…

泉「……?」チラッ…

泉(……気のせいか)

126: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:11:00 ID:???00
────

──カフェ シーサイド店


ルビィ「わぁぁ……!」パァァ

泉「ほう、素敵な雰囲気の内装だね」クスッ

ルビィ「うん! さっそく注文しよぉ!」

泉「そうだね。これがメニューか……」ジー

泉「……」

泉「……?」

127: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:12:00 ID:???00
ルビィ「あれ? もしかして、何を注文すれば良いか迷ってるんですか?」

泉「あ。ああ、いや……」

泉「……そうだ、貴女とケーキを分け合うんだったね。オススメを聞いても良いかな?」

ルビィ「! もちろん♪ えっとね……」

ルビィ「ルビィは……この、甘~いイチゴのショートケーキ! これがオススメかなぁ♪」

泉「イチゴ……か。分かった、それを頼もうか──」

128: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:13:00 ID:???00
──注文後


ルビィ「~♪」ジー

泉「ふふっ。それにしても……ルビィちゃんは、随分と楽しそうだね」クスッ

ルビィ「ぴぎゃ!? え、えっと……あの」

泉「ああ、すまない、詮索する気はないんだが……。ルビィちゃんが何を見ていたのか、少し気になってね」

泉(頼んだケーキはすぐには来ない筈だが……小さな彼女は、楽しそうに何かを見つめていた)

ルビィ「あ、それは…………その、ルビィ……」



ルビィ「ここに来てる皆に、楽しそうな“笑顔”を見てたんだぁ」ニコ

129: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:14:00 ID:???00
泉「……ふむ?」

ルビィ「えっと! ……ルビィ、ね」

ルビィ「周りと違って浮いてたり、引っ込み思案だから、あまり上手く話せなかったりする事……が、実は結構あるんだぁ」ポツリ

泉「それは……」

ルビィ「でもね! ──この街の人は、そんなルビィにだって、すっごく優しいんだよ」クスッ

130: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:15:00 ID:???00
>>128
誤字修正

ルビィ「ここに来てる皆に、楽しそうな“笑顔”を見てたんだぁ」ニコ

ルビィ「ここに来てる皆の、楽しそうな“笑顔”を見てたんだぁ」ニコ

131: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:16:00 ID:???00
泉「優しい……街の人、か」

ルビィ「うん!」ニコッ

ルビィ「お姉ちゃんもこの辺では有名人だから、ルビィも気後れしちゃうんだけど……、それでも、あたたかい地元の人」

ルビィ「──だから、皆が笑顔になってるとね。ルビィもすっごく嬉しくて♪ それで、つい……ルビィ、見つめちゃうんだぁ」ニコッ

132: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:17:00 ID:???00
泉「ほう。なるほど……」

泉「……ルビィちゃんが大切にしている、ここは──景観も人もあたたかく、素敵な街なんだね」クスッ

ルビィ「ふふっ。うん、もちろん! だからルビィ、この海辺の街、大好きなんだぁ♪」ニコッ

泉「……そう、か」

ザザ…

泉「……」

133: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:18:00 ID:???00
────

──


ルビィ『送ってくれてどうもありがとうございます! ルビィ、今日すっごく楽しかったぁ♪』

ルビィ『あ! そういえば、もう遅い時間だけど、夜のうちには森の方を出歩かないでくださいね。すっごく危ないから──』



泉(……そう、言われて旅館の目の前で別れた)

泉(その後も少し観察していたが……、ルビィちゃんが旅館の娘らしき人と一緒に森の中へと消えてしまい、姿は見えなくなった)

泉「これで、身代わり代行の依頼は完了した……のだろうか?」

134: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:19:00 ID:???00
泉「……」

泉「…………」

泉(いや──何か、おかしい気がする)

泉「しかし、さっきからずっとそうだ。私は確かに忘れている事がある筈なのに、何も思い出せない……」ウーン

135: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:20:00 ID:???00
泉(……私は、スクールアイドルの“身代わり”をする為に、この海辺の街まで依頼でやってきた筈だ)

泉「怪しいな……彼女達は本当に『スクールアイドル』なのか?」

泉「……」

泉「……」

泉「……森の中まで、追いかけてみようか」

136: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:21:00 ID:???00
────

──森


ザッザッ…


泉「……」

泉(静かで暗い森の中を、こうして一人で歩いていると……荒唐無稽であまり良くない考えばかりが頭を埋め尽くす)



泉(もしや──文字通りの意味での“身代わり”、だったのではないか、と)

137: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:22:00 ID:???00
泉(……身代わりという物には様々な使われ方があるが、以前調べたところによると、事故の身代わり出頭という物もあるらしい)

泉「……」

泉(それに近しい事で、闇バイトか何か知らないが……私をこうして森の中に誘導し、この身を悪事に利用する気では?)

泉(例えば。……誰かの“代わり”となる臓器を、奪う為、とか)

138: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:23:00 ID:???00
泉(……怖いな。そんなの、ただの猟奇的な事件じゃないか……)

泉「……」ブルブル

泉(ダメだ。……何か他のことを考えよう)


ガサガサガサ…


泉「──っ!?」ビクッ

139: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:24:00 ID:???00
……

泉(って、なんだ、風で枯葉が擦れる音か……。急に驚かせてくるようなこの森の雰囲気、あの夏合宿での肝試しを思い出すな)

泉「……? そういえば」

泉(あの時は、どうやって恐怖を乗り切ったのだったか)

泉(……確か、手を取って……一緒に歩いていた筈だ。私が情熱を持てるように、あの日は色々してくれたから……)

泉「………………」







泉「セラスは、どこだ?」

140: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:25:00 ID:???00
ザザ…ザザ…

泉「────あぁ、そうだ……。思い出した。忘れていた何かは、セラスだ……」ポツリ

泉「……、……」

泉(今日の依頼は、セラスが居ない。新しく入った後輩達のために蓮ノ空に残っている。そういう予定……だった)

泉「……だが、おかしい。そんな風に決まっていた事さえ、今の今まで思い出せなかったなんて……」

泉「それに今思えば、あの“文字”は……何だ?」

141: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:26:00 ID:???00
泉「……」

泉(まるで夢を見ているかのように、思考が上手く纏まらない。ここは本当に、現実なのか?)

泉「だが、セラスがこの依頼を……」

泉「……」

泉「……」

泉「……ダメだ、埒が開かない。電話でもして、セラスに訊かなくては……」

142: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:27:00 ID:???00
ピポパ…

プルルル…

泉「……」

ピッ

泉「……もしもし」






セラス『泉? どうしたの?』

143: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:28:00 ID:???00
泉「! ああ……よかった、その声は確かにセラスだね?」

泉「……貴女が私に紹介した、身代わり代行の事で訊きたい事があってね。今、大丈夫かい?」

セラス『……』

セラス『勿論、と言いたいとこだけど。泉、その前に良いニュースがあるよ』

泉「……ニュース?」

セラス『そう、めっちゃ良いニュース』



セラス『わたしね、さっき牛丼の10円引きクーポン貰ったんだよ』

144: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:29:00 ID:???00
泉「……ん? な、何だって、牛丼!?」ガタッ

セラス『2枚あるから、今度泉も一緒に牛丼屋さんに行かない?』

泉「──!?!?? 牛丼屋……い、良いのか!?」

セラス『うん。だって泉、わたしと同じくらい牛丼好きでしょ』

泉「あ、ああ、勿論! いや……でも本当にいいのかい? ひ、一人で2杯食べてもいいんだぞ!??」

セラス『食べ盛りすぎじゃない? 2杯も食べないよ』

145: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:30:00 ID:???00
セラス『泉、今いろいろ頑張ってるじゃん? わたし、泉の事はいつでもどこに居ても支えたいと思ってるから』

泉「セラス……!!」ジーン

セラス『もし無事に、泉がやる事を全部終わらせられたら。その時に、一緒に食べに行こうね』

泉「! ああ、分かった。ふふっ、楽しみにしているよ」

セラス『ん。じゃあ、また連絡するから』

泉「ああ」

ピッ

146: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:31:00 ID:???00
泉「牛丼か……。いやぁ、嬉しいね」フフッ

泉「……」

泉「……」

泉「──って、いや違う!!」ハッ

ピポパ…

ピッ

セラス『まだ何かあったの、泉?』

147: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:32:02 ID:???00
泉「…………」

セラス『泉?』

泉「……セラス。貴女が、この身代わり代行の依頼を受けたんだったね? なら教えてくれ」






泉「──どうして、ここには“日本語が無い”んだ?」

148: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:33:00 ID:???00
セラス『……。……そっか。泉、気づいたんだ』

泉「……勿論。ダイヤさんの机に置いてあった書類もカフェのメニューの文字も。全て日本語ではなく、まるで暗号のようだった」

泉「あの日本語でない文字で、セラスは依頼を受けたのかい?」

セラス『……』

泉「……それに、ダイヤさんに初めて会ったとき、学校ではなく“行政局”に案内されたのも、今思えばおかしい」

泉「加えて……、そうだ! 彼女の妹、あのルビィちゃんだって……明らかに小さいし、妖精のように空中に浮いていた……!!」

セラス『…………泉』

泉「……ついさっき、セラスの事を思い出すまではそれが不自然な事だと思いもしなかった。こんなの、おかしいだろう?」

149: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:34:02 ID:???00
泉(──言葉を紡ぐたびに、段々と興奮していくのが分かる。謎を解いて、このセカイの核心に迫っている予感がした)

泉「何故……何故セラスは、この明らかな『異世界』から依頼を受けられたんだ!? というか、そもそもここは何なんだ……!?」

セラス『……。…………ここの子に頼んで、帰る手段はもう用意してあるから。とりあえず落ち着いて、泉』

泉「落ち着くも何も……」

泉「…………そういうセラスは、どうして驚かないんだ? まさか、これは貴女が仕組んだ……ドッキリか何か、なのかい?」

150: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:35:01 ID:???00
泉(……小さな鯨が空を舞い、ロボットやブタが街を闊歩し、たこ焼きの匂いがするこの街がドッキリな訳ないのだが)

泉(そうとでも思わないと、私がもう限界だった)

セラス『……』

セラス『そういう訳じゃないけど、そうかもしれないね』

泉「……何?」

セラス『大丈夫だよ、泉』


セラス『泉は“泉”であって、“イズミ”じゃないんだから』

151: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:36:01 ID:???00
ピッ

泉「!? 急に、電話が……」

「──おーい! 君、そこで何してるの! 危ないよ!」

泉「……ん?」クルッ

タッタタタッ‼︎



ライラプス「……っと、君、森の中は入っちゃダメだって!」

152: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:37:01 ID:???00
泉「?!」

ライラプス「この辺りはまだ、凶暴化した動物が彷徨いてるから、夜は外に出ちゃいけないって、市民も言われてた筈なのに……」

ライラプス「って。あ、しまった……君には私の声、聞こえないよね。ヨハネを呼んでくるべきだったかなぁ……」

泉「……??!? ──何故、“犬が喋っている”んだ?!」

ライラプス「……!」

153: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:38:00 ID:???00
ライラプス「もしかして君、ヨハネじゃないのに私の言葉が分かるの!? って事は君が噂の……!」

泉「……」

泉(物凄く嬉しそうな声色……やはり、人間の言葉を話しているとしか思えないこの犬は、一体……)

泉「……私はごく一般的なスクールアイドルの筈、だが」コホン

ライラプス「? スク……? よく分からないけど、私の声はヨハネにしか聞こえない筈なのに、不思議だよね!」ワンワン

泉「……。もう犬でもいい、何が起きているか説明を──」





「──スカーレット・デルタ、出動!!!」

154: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:39:00 ID:???00
泉「……!?!? こ、今度は何だ!?!?」ビクッ

泉(──おそらく、ここから遠く離れているであろう場所から、ダイヤさんの声と……バイクの音?)

vroom vroom…‼︎

ライラプス「! おっと、ダイヤの任務が始まったみたいだね。行政局の基地から発車したのかな」ワンワン

泉「?? 任務……? ダイヤさんは確か、旅館で話し合いがあると言っていた筈だが……」

ライラプス「え? ああ、それ? みんな知ってることだけどさ、ダイヤ達は旅館のミリオンダラーと一緒に戦ってるんだよ」クスッ

ライラプス「きっと、ダイヤの……スカーレット・デルタのバイクの中にルビィが入って、ダイヤをサポートするんだね」ワンワン

泉「……は?? バイクの中に、あのルビィちゃんが……?」

155: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:40:00 ID:???00
泉(一体何が……起こっているんだ……?)

ライラプス「……ねぇ、やっぱり君ってさ」


ライラプス「こことは、違う世界から来たんだよね?」


泉「……」

泉「……違う世界──、だって?」

ライラプス「クンクン……うん。やっぱりそういうニオイがするよ。君は、現実からこの『幻日』の世界に迷い込んだのかな?」

156: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:41:00 ID:???00
泉「……。よく分からないが、では……今居るこれは夢なのか?」

ライラプス「ふぅむ。確かに、君にとってはそうかもしれないね。私にとっては違うけど。でも、大丈夫」

ライラプス「目を覚ませば君が居るべきいつも通りの現実に戻れる『魔法』……それを、私が君にかけてあげるよ!」フフン

泉「……魔法!?」ガタッ

ライラプス「うん! さっき私、そういう夢? を見てさ。私の声が聞こえる迷い人を元の世界に送ってあげてって」

ライラプス「だから今の私は、ヨハネみたいに魔法を使えるんだ! …………多分」

157: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:42:00 ID:???00
泉「はぁ、何でもありだな……。多分、は不安なんだが……」

ライラプス「だ、大丈夫! 私も、いつもあのヨハネのそばで魔法を見てきたんだから……お姉ちゃんに任せてよ!」ワンワン

ライラプス「……さ、目をつむって。やってみる」

泉「あ、ああ……?? 分かった、頼む」

158: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:43:03 ID:???00
ザザ…

泉「!」

ザザ…ン …ザザーン…

泉(この街に来た時からずっと薄く聞こえていた──)

泉(“海の音”が大きく、ハッキリと響いている……)

泉「…………」フラッ

159: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:44:00 ID:???00
泉(それは、スクールアイドルの音楽にも似ていて……)

泉(……思考に靄がかかり、段々と意識が、途切れ、た──)



「……っと、上手くいったみたいだね。じゃあ、最後にひとつだけ」



「どんな世界でもヌマヅは綺麗で素敵なところだよ。だから、良かったら」

「そっちでも、どうかよろしくね──」

160: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:45:00 ID:???00
────

──

ピッ

泉「もしもし? ──セラス?」


セラス『!!!? い、泉、今どこに居るの!?』

泉「……セラス? 何故そんなに慌てているんだ……?」

セラス『慌てるもなにも……だ、だって!』

161: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:46:00 ID:???00
セラス『なんか泉、一日早く身代わり代行の現場に向かったと思ったら、いきなり連絡が取れなくなって! わ、わたし……』

セラス『……心配、したんだよ。わたしから誘った代行業なのに、そのせいで泉に何かあったら顔向けできないもん』

泉「そう……だったのか」

泉(この反応──)

泉(明らかに、ついさっき電話で話したセラスとは“違う”。このセラスの声色は、本心から私を慮ったものだ)

泉「…………すまない、セラス」シュン

セラス『謝るのはいいから。で、泉は今どこに居るの? いったい東京のどこなら、電波が通じなくなるの?』

泉「今、か……」

泉「…………ここは……」チラッ





泉「静岡県の…………沼津、だ」

162: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:47:00 ID:???00
セラス『え?』

泉「……駅名がね、ここから見えているんだよ」

泉(さっきまでは森にいた筈なのに。気づけば私は、ハッキリとJRの文字が躍る駅の前にいた)

泉(あの犬が連れてきてくれたのか……それとも、ただ“幻”を見ていただけ、なのか)

セラス『? えっと、なんで静岡の駅に……? 今度の依頼って』


セラス『東京の、お台場にある学校のスクールアイドルから、じゃないの?』

163: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:48:00 ID:???00
泉「……」

セラス『えっ、まさか泉、その歳で迷子になったの?』

泉「私を何だと思っているんだ。いや、迷子とは違う……筈なんだが……」

セラス『……??? 泉、本当に大丈夫? 何かあったの?』

泉「……」

泉「…………少し、現実とは思えない不思議な体験をしてね。セラスもよければ、聞いてくれるかい?」

164: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:49:00 ID:???00
────

──かくかくしかじか…


泉「──と、いう訳さ」

泉「……私はもしや、身代わり代行詐欺とでもいうべき被害にでも遭ったのでは、なんて思ってね」

泉「思えば……、彼女達がスクールアイドルだ、という証明はついぞ出来なかった訳だ。やはり私は騙されたのかもしれない……」

セラス『……』

泉「って、セラス? 急に黙りこくって……何を考え込んでいるんだい?」

セラス『…………泉』

セラス『……たぶん、だけど』

セラス『それ、本物のスクールアイドルだよ』

165: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:50:00 ID:???00
泉「え?」

セラス『そもそもわたし、泉とその電話した記憶ないし……でも』

セラス『聞いた限り、別の世界線のわたしが、別の世界線のスクールアイドルからの依頼をこの世界線の泉に渡した、のかな……?」

泉「……?? “世界線”がゲシュタルト崩壊してしまうね」

166: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:51:00 ID:???00
泉「えぇと……。セラスが言いたいのはつまり……『パラレルワールド』が存在していた、ということかな?」

セラス『! そう! そういう事だよ、泉、物分かりが早い!』

セラス『スクールアイドルっていうのは……色んな世界線とかマルチバース? 的なのがあったりする、って聞いた事もあるし』

泉「マルチバース?」

セラス『うん。例えば……! 絶対に同じ時期には共存しない筈のスクールアイドルが同学年な世界とか』

セラス『お姫様を救う為にスクールアイドルが聖騎士になってるファンタジーの世界……とか!』

泉「……ほう」

セラス『そういう、スクールアイドルが持ついろんな可能性の物語が──パラレルワールドがいっぱいある……らしいんだよ、泉!』

167: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:52:01 ID:???00
泉「……そうか。そんなものが……」ポツリ

泉(多種多様なスクールアイドルが存在する並行世界──か)

セラス『ほら、花ちゃんが考えたハスノソラファンタジーみたいな物だよ。あの異世界も、どこかにちゃんと実在してるのかも』

セラス『あれだって、現実ではスクールアイドルのわたし達が、カタカナの名前で異世界に登場してるし』クスッ

泉「そう、だね。…………ん、カタカナ?」ピタ

泉「……」

泉「──!! ……あぁ」

泉(ダイヤも、ルビィも、それからセラスも──全てカタカナだ)

168: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:53:01 ID:???00
泉「……なるほど」

泉(であれば……私が電話で話をしたセラスも、異世界の方のセラスだった、という訳か)

セラス『……泉。きっと、別の世界のわたしも……さ』コホン

セラス『スクールアイドルが大好きだから……、泉にそういう世界のスクールアイドルの存在も、見せたかったんじゃないかな』

泉「!」

セラス『たぶん、わたしだったらそうすると思う……泉が、今みたいなスクールアイドルしゅきしゅき♡人間になってくれた事だし』

泉「……そう、か」

169: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:54:00 ID:???00
泉(あらゆる可能性を秘めたスクールアイドルの、パラレルワールド。確かに、『セラス』が私に見せたくなるのも、分かる)

泉(それに今思えば──“帰る手段”の魔法を、あの犬に与えたのは異世界のセラスだろう。彼女は、私を害する気などなかった)

泉「ふふ。……セラスは、どこの世界に居ても私の事を考えてくれているんだね。これからも隣で、よろしく頼むよ」ニコッ

セラス『!? …………も、勿論! って、そ、それより!』コホン

170: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:55:00 ID:???00
セラス『お台場の依頼の人、明日の朝に学校の前で待ってるって。前に伝えた予定通り、泉一人でだけど……大丈夫?』

泉「……! ああ……、そうだね」

泉「大丈夫、よくわかっているさ。やると決めたなら、身代わり代行はキチンとこなしてみせるよ」ニコッ

セラス『そっか……うん。じゃあ、頑張ってね、泉!』

泉「ああ。では、依頼が終わったら連絡するよ。セラス、またね」

ピッ

171: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:56:00 ID:???00
泉「ふぅ……」チラッ

泉「……不思議なことも、あるものだな」ポツリ

泉(──辺りを見回せば、夜の中で光る『沼津駅』が見える)

泉「…………あぁ、賑やかで綺麗な場所だ」

泉(……いつか、時間が出来た時に)

泉(ここに住む人の温もりや美しい景観をしっかり見て回るのもいいかもしれない。それが……、あの世界で彼女達に教わった事だ)

172: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:57:00 ID:???00
泉「…………さて、と」フム

泉「依頼は明日か。なら一晩は……あの、内浦の旅館に泊まってみようかな」

泉「……あの海の音も、海岸沿いであれば聞けるだろうか?」

泉(あの懐かしくも美しい、心の音──あれは、スクールアイドルが焦がれてしまうような音楽だった。……内浦で聞ければいいな)

泉「ふふっ、楽しみだ」クスッ

173: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:58:00 ID:???00
泉「……しかし、今思うと」

泉「ファンタジーの世界に居る、違うカタチのスクールアイドル──電話口のセラスも、その一人だった訳だが」

泉(納得はする。あのセラスは……こう言うと現実のセラスに怒られそうだが、普段より大人しく気品のあるプリンセスの様だった)

泉(……だが、一つだけ。どうしても気になる点がある……)

ホワンホワン…

174: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/12(火) 20:59:00 ID:???00
──回想

セラス『わたしね、さっき牛丼の10円引きクーポン貰ったんだよ』


セラス『2枚あるから、今度泉も一緒に牛丼屋さんに行かない? 泉、わたしと同じくらい牛丼好きでしょ』

──

ホワンホワン…

泉「……」

泉「……」

泉「あれは一体、何だったんだ……? 牛丼屋のクーポン……」シュン


第三話 おしまい

180: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:30:00 ID:???00
ザッ…


泉「ほう…………大きい、な」ジー

泉「鼓門よりも4倍ほど大きいんじゃないか? あれが──虹ヶ咲学園、か」

泉「さて、依頼してくれた彼女はそろそろ──」


タッタッタッ…

泉「!」




バァァァァーン‼︎‼︎‼︎


せつ菜「おはようございます! 本物の優木せつ菜です!!!!」ペカー

181: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:31:00 ID:???00



【第四話 騎虎の勢い】



.

182: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:32:00 ID:???00
泉「やあ。貴女が、依頼人のせつ菜さん、だね?」

せつ菜「はい! 正真正銘スクールアイドルの優木せつ菜です!」

泉「ふふっ……随分と元気があって、眩しいね」クスッ

せつ菜「はい!!!!」ペカー

183: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:33:01 ID:???00
泉「さて。既に知っているとは思うが、私が行うのは身代わり代行……それもスクールアイドル専門の、だ」

泉「今回の依頼は貴女の……、つまり『優木せつ菜』さんの“身代わり”、ということで構わないのかな?」

せつ菜「! はい、その通りです!」コクコク

泉「確か、せつ菜さんの“身代わり”としてある人に会い、そのまま引き留めていてほしい……だったかな」

せつ菜「ええ! 『優木せつ菜』は正体不明のスクールアイドルですので、ライブ後は動きづらく……」

せつ菜「なので、泉さんには、この虹ヶ咲学園生徒会の──」



せつ菜「副会長に対して、“身代わり”を演じてほしいんです!!」

184: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:34:00 ID:???00
泉「? 副会長……生徒会、だって?」

せつ菜「はい。えぇと、深くは話せないのですが……少し個人的に関わりがありまして、ですね」

泉「……ふむ」

せつ菜「彼女は、ソロのスクールアイドルとしての私、そしてそれ以外の私のことも本当によく見ていてくれていて。……だから」

せつ菜「彼女の笑顔を、どうしても、守りたいんです!」ギュ

185: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:35:00 ID:???00
泉「そうか……ふふ、少し私と似ているかもしれないね」クスッ

せつ菜「え? ……似ている、ですか?」

泉「ああ。蓮ノ空では、私もね──“ソロ”のスクールアイドルをしているんだ。だから、貴女の気持ちは、よく分かるよ」

泉「一人のステージは、誰かと一緒に立っている時と比べて何倍も……何十倍も広く感じる。故に、その“期待”も計り知れない」

泉「……その、重圧にも似た感情に押しつぶされ、仲間がいると分かっていても孤独を感じてしまう時だってあるかもしれないね」

せつ菜「……」

泉「──だが」

186: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:36:01 ID:???00
泉「そういう情熱をさらけ出せる場が、何より支えてくれるファンの笑顔が……貴女はどうしようもなく“大好き”なんだろう?」クスッ

せつ菜「!」

泉「私も同じさ。ならば、その副会長のような大切なファンの事を大切にしたい……、そう願うのもよく分かる」

せつ菜「泉、さん」

泉「……だから、私に任せてくれ、『優木せつ菜』さん」ニッ

泉「せつ菜さんの内なる魅力を最大限に引き出した身代わり代行で、ドラマチックな“演劇”をしてみよう──」

187: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:37:01 ID:???00
────

──同時刻

▼ 🏆 ▼


ガヤガヤ…


姫芽「あぁぁ……! またまた良いもの買えた~~!!」ニヤニヤ

188: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:38:00 ID:???00
姫芽「いやぁ、流石TOKYO! ゲームのイベントついでに寄っただけだけど、るりめぐのグッズもめっちゃ手に入るなんて~……!!!」

姫芽「う~ん、帰りの新幹線まではまだ時間あるみたいだし~……この後、どこに行こうかな──」

ピコン

姫芽「──ん? あれ……せらりんからメッセージ?」スッスッ

189: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:39:00 ID:???00
姫芽「なになに……」ジー

姫芽「……」

姫芽「……えっ!? いずみんもいま東京に!? しかもこの間も渋谷に行ってた!?」

姫芽「へぇ~、そうだったんだ、偶然~……」

姫芽「? でも東京まで来ていずみん、何やってるんだろ~??」

↑またしても何も知らない安養寺姫芽

190: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:40:00 ID:???00
姫芽「でも、そっかぁ……」フム

姫芽(──アタシ、今度のお休みは誰か誘ってお出かけしたいな~……って、前に出かけた時に思ってたけど)

姫芽「これってもしや……凄いチャンスなのでは~! 東京のいずみんに突撃してサプラ~イズ! とか!」バッ

姫芽「ふっふっふ~……。そしたらいずみん、驚くだろうなぁ~♪ 『姫芽ちゃん!? どうして此処に!?』……なんて」クスッ

姫芽「あ、今のモノマネ少し似てたかも~。いずみんに聞かせてあげたい……って、わ、わわぁ!?」



バンッ‼︎

「!?? わ、ごめんごめん! 朝のジョギングで気分良く走ってたらぶつかっちゃった……! だいじょぶ?」

191: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:41:00 ID:???00
姫芽「あ、えぇと……、だ、大丈夫です~。アタシもちょっとよそ見しちゃってたので。……そっちも平気ですか~?」

「うん! ……あれ? キミもしかして、ゲームやってるスクールアイドルの子?」ジー

姫芽「ほぇ!? そ、そうですけど~……何で急にアタシが身バレしたんですか!!??? 貴女は一体……」


「アタシ? アタシはね……」





愛「──虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会二年の、宮下愛! だよ!」ニコッ

192: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:42:01 ID:???00
────

──虹ヶ咲学園 演劇部室


泉「ほう。これが虹ヶ咲の演劇部か……やはり、見ただけでもそのレベルの高さがうかがえるね」

せつ菜「あの……泉さんはもしかして、虹ヶ咲の演劇部の事まで知っていただけているんですか?」

泉「ん? ああ、そうだね」コクリ

泉「虹ヶ咲の演劇部と言えば、その高い技量もさることながら……ほら、スクールアイドルと両立している役者もいるだろう?」

せつ菜「!」

193: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:43:00 ID:???00
泉(演劇とスクールアイドルの両立……それはきっと、一筋縄ではいかない偉業だろう。だからこそ、素直に尊敬する)

泉「欲を言えば、彼女とぜひ話してみたかったんだが……どうやら今は不在のようだね」キョロキョロ

せつ菜「そ……そうですね! えぇと……」コホン


「貴女が、蓮ノ空から来た身代わり代行の桂城泉さん、だね」ザッ…


泉「おや? もしかして貴女は……」

演劇部部長「やぁ、はじめまして。私は虹ヶ咲学園演劇部の部長だよ」ニコッ

194: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:44:00 ID:???00
せつ菜「えぇと……こほん。──今回、泉さんに“身代わり”になっていただくにあたって、この演劇部の部長……さんに話を通してあります」

せつ菜「衣装からメイク、その他の演技指導まで……! 『優木せつ菜』に似せる為の全てをお任せするつもりです」

演劇部部長「というわけなんだ。よろしくね、泉さん」

泉「ああ。こちらこそ……よろしく頼むよ」ニコッ

195: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:45:00 ID:???00
────

▼ 🏆 ▼


愛「へぇ! キミは金沢のスクールアイドルで……ラブライブ!も優勝したの!? すご!」

愛「それに、ゲームの学生チャンプなんでしょ? 愛さんもそのゲームやってるんだけどさ、すっごい楽しいよね!」ニコニコ

姫芽「そ……そうなんですよ、そうなんですよ~!!! アタシは大好きなゲームとみらぱの布教をスクールアイドルでやってまして……!!」

姫芽(この人──何話しても全部受け止めて、めっちゃ盛り上げてくる……!!)

196: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:46:00 ID:???00
愛「そういえば、キミいま三年生なんだよね? って事はアタシより先輩なんだし、敬語じゃなくていいよ!」ニコッ

姫芽「……えっ!? い、いま初めて会ったばかりなのに??!」

愛「まぁ、アタシ達は同じスクールアイドルなんだし、これも何かの縁って事でさ! それに、その方が『楽しい』じゃん?」ニコニコ

姫芽「! わ、分かりまし……んん」コホン

姫芽「分かったよ~。えっと、呼び方は、愛…………ちゃん? でいいのかな~」

愛「うんうん! で、アタシはキミのことを、そーだなぁ……」ウーン


愛「──! “ひめっち”、とかどう?」ニコッ


姫芽「!!?!?!??!?」ガタッ

197: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:47:00 ID:???00
愛「あれ? 変だったかな?」

姫芽「い……いやいやいや、全然OKです、ひめっちで~!!!!」

姫芽(金髪で、誰にでも優しいスクールアイドルで、しかも“ひめっち”呼び…………こ、これはまた……)ゴクリ

姫芽「………………薄目で見たら殆どるりちゃんせんぱいなのでは~……??」

愛「?」

198: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:48:00 ID:???00
愛「──あ、そうだ! ねぇひめっち、この後って時間ある?」

姫芽「えっと……時間? あるにはあるけど……どうして~?」

愛「実は、会ってほしい子がいるんだよね。さっき言った、ひめっちの事を教えてくれた愛さんの友達!」ニコッ

姫芽「!」

愛「実はその子もスクールアイドルやってるんだ。で、これから一緒に学校まで行く予定で、待ち合わせてたから……」チラッ

愛「……おっ! 噂をすれば……おーい、りなりー!」ブンブン



璃奈「──ごめん、愛さん。スクールアイドルの液状化現象を起こせないか研究してたら遅れちゃって……」トコトコ

199: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:49:00 ID:???00
姫芽「……ん? あ、あれ~? その特徴的な声は……」

璃奈「!?」

璃奈「蓮ノ空の攻撃だ……ツマヨウ寺が目の前にいる……」ブツブツ

愛「何言ってるの?」

姫芽「ねぇねぇ~、やっぱりキミ──『A.L.A.N』、だよね~?」

璃奈「あっ、一発でバレた。璃奈ちゃんボード『ガーン』」

愛「あれ?? りなりーとひめっち、もう知り合いなの?」

姫芽「し、知ってるというか~……」チラッ

璃奈「少し前に配信で、一緒にゲームやった。璃奈ちゃんボード『ビビビッ!』」

200: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:50:00 ID:???00
愛「へぇー、配信でゲームかぁ! もしかして協力プレイとか?」

姫芽「……協力というか~……。確かに以前、フレ戦でキャリーしてもらったことはあったけど~……」

璃奈「あの時は楽しかった。私、いっぱい繋がれたと思う」ムン

姫芽「…………でも、その後、『A.L.A.N』が敵に回った瞬間、アタシが不意を突かれてハメられて、それがめっちゃ悔しくて~~~!」ジタバタ

璃奈「ツマヨウ寺さんも、大健闘はしてたと思う。妨害戦法使って私が勝ち越したけど。璃奈ちゃんボード『ぶい』」

姫芽「ぐぬぅ……敵役の味方、って考えはアタシも大切にしてるから、ガチるのも分かるけど……分かるけども~~」ウニャー

201: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:51:00 ID:???00
愛「ま、まぁまぁ! こうして今は仲良く話せてるんだから! それにひめっちはもう、愛さんの友達でもあるんだし!」ニコッ

姫芽「そう、だね~…………ほぇ!? で、出会ったばかりなのにもう友達認定されてる……??!」

璃奈「そう。愛さんは、地上に舞い降りた女神だから」ドヤ

璃奈「でも、どうして愛さんとツマヨウ寺さんが一緒にいるの? 璃奈ちゃんボード『はてな?』」

202: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:52:02 ID:???00
姫芽「それは色々、かくかくしかじか──」ペラペラ

姫芽「で、今はいずみんってアタシの仲間も虹ヶ咲に来てる……? ってせらりんからメッセージがあって……告知とかされてない? この人、なんだけど……」スッ

愛「虹ヶ咲に? ……って、わ、カッコいい写真!」

璃奈「ん……」ジー

璃奈「……!」

璃奈「愛さん、愛さん」チョンチョン

203: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:53:00 ID:???00
愛「? どしたのりなりー?」

璃奈「私、この人、この間行った仮面舞踏会で見たかも。コーヒーカップの仮面つけてた」

姫芽「へ? ……ぶとう、かい??」

愛「あー、渋谷の方で開催されたんだっけ? りなりーがエマっちと一緒に参加したやつだよね」

璃奈「うん。スクールアイドルが自分のアイコンの仮面で出る仮面舞踏会。皆で踊って繋がれた。璃奈ちゃんボード『にっこりん』」

姫芽「へぇ~……」

姫芽「う~ん。でも、いずみんのアイコンはコーヒーカップじゃないし、それは多分違う人じゃないかな~」

↑本当に何も知らない安養寺姫芽

璃奈「あ、そっか……」シュン

204: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:54:00 ID:???00
璃奈「ちなみに、舞踏会でエマさんが(・(エ)・)とツーショットしてる写真もあるよ。クマヴェルデ……って」

姫芽「楽しそうだね~」ニコニコ

愛「──! そうだ! 愛さん、良いアイデアを思いついたよ! “アイ”だけにっ!」

姫芽「ほぇ? アイデア~?」



愛「うん! ひめっちもさ、気になるなら今から一緒に行ってみようよ! ──虹ヶ咲学園に!」ニコッ

205: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:55:02 ID:???00
────

「──走り出した! 思いは強くするよ」

「悩んだら、君の手を握ろう……」



せつ菜「!」ニコッ

206: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:56:00 ID:???00
♪ CHASE!


ワーワー ワーワー‼︎


せつ菜「みんなー! 大好きだよー!」ニコニコ

せつ菜「さぁ、まだまだ盛り上がっていきましょう──!!」

207: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:57:01 ID:???00
~♪

「……ほう。熱く、情熱的で……良いライブだ」

ザッ…

演劇部部長「ふふ。泉さん、随分と熱心に舞台裏モニターを眺めているんだね」

「! ……あぁ。やはり“身代わり”を演じるには、彼女のスクールアイドルとしての魅力を知る必要があるからね」

演劇部部長「へぇ、勉強熱心だね。でも、私が泉さんに教えた演技指導と、丁寧に施した特殊メイクがあるから大丈夫だと思うけど」クスッ

「……ふむ。確かに、そうだな」コホン

「……」スゥ



せつ菜(泉)「今の私は、もう──『優木せつ菜』の“身代わり”、なんですもんね」クスッ

208: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:58:01 ID:???00
演劇部部長「うーん。もう少し声を張り上げた方が、せつ菜さんらしく演じられるんじゃないかな、って思うんだけど」

せつ菜(泉)「……。そう、ですかね? 私は、せつ菜さんの本来の気質を考えると、この方がいいと思うのですが」

演劇部部長「! へぇ……」

せつ菜(泉)「……演劇部部長さん?」

演劇部部長「ふふ。『優木せつ菜』は確かに……闇雲に大きな声を出せば演じられる、ってものじゃない。同感かな」クスッ

せつ菜(泉)「えっ? ……もしかして演劇部部長さん、わざと私を試してます?」

演劇部部長「あはは、そうかも。私、前にも人の内面を真似たことがあるから、そういうのには一家言あってね」ニッ

209: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 19:59:00 ID:???00
演劇部部長「それにしても、面白いこと考えるよね、皆」

演劇部部長「……あの子も、これで何か掴めればいいんだけど」

せつ菜(泉)「……」

せつ菜(泉)(やはり、彼女は──)

210: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:00:00 ID:???00
────

▼ 🏆 ▼


姫芽「おぁ~……虹ヶ咲学園って大きいんですね~」

愛「でしょ! 愛さん、この学校好きなんだよねー。色んな大好きを追ってる人が部活とか同好会にいてめっちゃ楽しいし!」ニコニコ

璃奈「ちなみに、愛さんは部室棟のヒーローとも呼ばれてる……」

姫芽「えっ、ヒーロー属性まで!??!? それでいて女神でもあるなんて…………愛ちゃん、本当にるりちゃんせんぱいすぎる……」


コンコンコン


愛「──ななっちー! ひめっちに虹ヶ咲の入校許可証を……って、あれ?」

211: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:01:01 ID:???00
せつ菜「おや? 愛さん、こんにちは」ニコッ

愛「?? えっ、ここ生徒会室なのに……ななっち、今せっつーモードなんだ?」

せつ菜「ええ。今の私は、生徒会の『優木せつ菜』ですよ!」クスッ

璃奈「珍しい……レアなせつ菜さんだ」

璃奈「あれ、でもせつ菜さん、今日は確かライブをしてた筈じゃ……璃奈ちゃんボード『はてな?』」

せつ菜「はい! ライブはちゃんと、私がやりましたよ!」ペカー

せつ菜「今はですね、副会長が残していた仕事をコッソリ片付けているんです! ヒーローみたいでカッコいいでしょう!!」フフン

姫芽「その感じ……どちらかと言えば、家を荒らす泥棒みたいですね~」クス

212: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:02:00 ID:???00
せつ菜「? さりげなく混じっている貴女は?」

姫芽「あ、挨拶が遅れました~。はじめまして、安養寺姫芽です~」ペコリ

愛「なんか今、虹ヶ咲に他にも蓮ノ空の子が来てる? らしくてさ。せっかくだからサプライズで会いに行こうか、ってなってね」

璃奈「他学校から来た人なら、せつ菜さんが入校許可を出してると思ったから、来た。せつ菜さん、桂城泉さんって知ってる?」

せつ菜「!? あ、ああ……それは、その……」

璃奈「……? せつ菜さん?」

せつ菜「……たぶん今頃は、副会長と一緒に居るんじゃないですかね……泉さんではなく別の人として、ですけれど」

愛「え?」

213: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:03:00 ID:???00
姫芽「ん……んん??? それってつまり、いずみんはもう学校を出たって事であってます? 無駄足だった訳かぁ~……」シュン

せつ菜「えっと、そ、そう…………かもしれませんね!!!」ペカー

愛「? 愛さんよく分かんないけど……ひめっちがせっかくニジガクに来てくれたのに、このまま帰っちゃうのは勿体無くない?」

璃奈「うん。せつ菜さん、よかったら私と愛さんで、姫芽さんに虹ヶ咲を案内しても良い? 璃奈ちゃんボード『うずうず』」

せつ菜「!?!? えっ、そ、それは……」モゴモゴ

愛&璃奈「?」

姫芽「えぇっと……? やっぱり帰った方がいいんですかね~?」

せつ菜「……い、いえ! それなら…………そう! 私が一人で、姫芽さんをご案内しましょう──!!」

214: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:04:00 ID:???00
────

──間


副会長「──せつ菜ちゃーーーん!!!!!!」

副会長「今日のライブもすっごく良かったよぉ!!!」ブンブン


せつ菜(泉)「ふふっ、ありがとうございます!」ニコッ

215: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:05:00 ID:???00
副会長「まだ生徒会業務が途中だから、後ですぐに取り掛からなきゃだけど……せつ菜ちゃんのおかげで、やる気満タンだよ!」グッ

せつ菜(泉)「! それは良かったです! 大切なお仕事も頑張ってくださいね!!」ペカー

副会長「もっちろん! ふわぁぁ、やっぱりせつ菜ちゃんは最っ高ーー! ……あっ、そうそう」ピタ

副会長「さっきは、生徒会長の中川さんも一緒にせつ菜ちゃんのライブを見てたんだけど……今はどこかに行っちゃったみたいで……」

せつ菜(泉)「おや、そうなんですか? では、次はぜひ一緒にお会いしたいですね!!」ペカー

副会長「!!! うん! その代わり、今は私が会長の分まで愛を伝えるよーー!!!」ブンブン

216: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:06:00 ID:???00
せつ菜(泉)「あはは……」

せつ菜(泉)(さて……“身代わり”はあくまで時間稼ぎだ。本物の『優木せつ菜』さんが、もう少し後で交代に来る事になっている)

せつ菜(泉)「……まもなく、ですかね」チラッ

ザッ



せつ菜「──ここが、虹ヶ咲学園の中庭です!」

217: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:07:00 ID:???00
せつ菜(泉)「……!」

せつ菜(泉)(噂をすれば、本物の『優木せつ菜』さんか。……ん?)

せつ菜(泉)(……何か様子がおかしいな)

副会長「せつ菜ちゃん? どうかしたの?」

せつ菜(泉)「あ……い、いえ! あの……」



せつ菜?「すみません泉さん、そろそろ……」コソコソ



せつ菜「えっ?」クルッ

せつ菜?「…………あれ?」

218: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:08:00 ID:???00
せつ菜(泉)「……!」

せつ菜(泉)(大きな声を出していたせつ菜さんに、裏から現れた“もう一人の”せつ菜さんが声をかけて……いる?)

副会長「おや? あそこで誰かが固まって話していますね…………って、あ、あれ!??」

せつ菜(泉)(……まさか)
    、、
せつ菜(彼女は、私と『優木せつ菜』さんを間違えてしまったのか)

せつ菜(泉)「ふむ……」

せつ菜?「あ、あわわ……」アタフタ

せつ菜「!!!??? ふ、副会長、これは……」

副会長「そんな……まさか……」



副会長「せつ菜ちゃんが──“3人”!?!?」

219: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:09:00 ID:???00
せつ菜?「えっ、あっ……!?」アタフタ

せつ菜(泉)(……。ずいぶんと不可解な状況になっているな……)

副会長「どうして、せつ菜ちゃんが3人も……はっ、まさかその内2人は“偽物”のせつ菜ちゃんだったり!?!?」

せつ菜「え?」

副会長「そうなんですよね、せつ菜ちゃん!! これは、ファンの私を試す突発的なイベントなんでしょう? 本物を見破れるかどうかの!」フンス

せつ菜「!? そ、それは……その」アワアワ

せつ菜(泉)「…………!」

せつ菜(泉)「……ええ、そうですね! きっと私達の中に偽物の『優木せつ菜』がいる筈です!!」

せつ菜?「──!?」

せつ菜(泉)(……仕方がない。副会長の勘違いに乗っかって……あの舞踏会の時のように今から“エチュード”を始めよう……!)

220: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:10:00 ID:???00
〖エチュード 開幕〗


せつ菜(泉)「さて! 副会長は、一体どの『優木せつ菜』が偽物だと思いますか?」

副会長「え、えぇと、そうですね……。偽物を見破るにあたって、まず真っ先に消せそうなせつ菜ちゃんは……って、あれ?」チラッ

せつ菜(泉)「?」

副会長「改めて見ると……、せつ菜ちゃんにしては貴女だけ、身長が違いすぎませんか?」キョトン

せつ菜(泉)「……えっ!!? う、うぐっ……」

せつ菜(泉)(言われてみれば、確かに……)

せつ菜(泉)(…………以前からほんのり思っていたんだが──私の身長、“身代わり”に不向きすぎじゃないか……!?)


※桂城泉、身長170cm

221: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:11:00 ID:???00
せつ菜(泉)(……。い、いや、努めて冷静に……演技を続けよう。何があっても声を張り上げないように……)コホン

せつ菜(泉)「こほん。……えぇと、身長で判断するなら……あちらのせつ菜さんも少しだけですけど、大きい……気がしませんか……?」

せつ菜?「えっ私ですか!?」ビクッ

せつ菜?「ち……、違いますよ! ……も、もしかしたら靴底の厚いブーツを履いているかもしれないじゃないですか!」

副会長「──!!!! それは、確かに!!!」ハッ

せつ菜「ふ、副会長?」

副会長「もしもせつ菜ちゃんが高身長に憧れた上でそういう靴を履き出したら、それもそれで可愛すぎる……!! それはアリ!!」

「あぁぁ、わかる~! 推しが身長気にしてる描写なんて、もうかんっぜんに『萌え』だよねぇ~」ヒョコッ

副会長「はい! ……って、えっ? 貴女は……」



せつ菜(泉)「!???! ──姫芽ちゃん!? どうして此処に!?」

222: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:12:01 ID:???00
姫芽「アタシを案内してくれてたせつ菜さんが、急に話しかけられちゃったから着いてきたけど…………これ、どういう状況~?」

せつ菜(泉)「……、……」ジー

せつ菜(泉)(見間違うわけがない。あの朗らかな雰囲気、やはり安養寺姫芽ちゃんに他ならないが……なぜ東京にいるんだ???)

姫芽「ん? そういえば今、すぐ近くでいずみんの張り上げた声が聞こえた気が……」キョロキョロ

せつ菜(泉)「!!?」ドキッ

223: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:13:00 ID:???00
せつ菜「そ……そそそ、そんな訳ないじゃないですか! 姫芽さんはきっと、遠くから来たせいで疲れてるんですよ!」

せつ菜?「い、泉さんのモノマネなら私が! 私がしてたんですよ! ほら…………や、やあ」ニッ

せつ菜(泉)(……突発的なエチュードに、『優木せつ菜』さんが合わせてくれるのを感じる。恐らく、想定外の事態なんだろうな……)

姫芽「??? まぁ、もう帰ったって言ってたし、本人な訳ないよね……単にいずみんに声似てる幻聴? を聞いただけか~……」ウーン

せつ菜(泉)「……ん、んん」

せつ菜(泉)(姫芽ちゃんが純粋すぎるおかげで、ギリギリ助かっている気がしてならない……)

224: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:14:00 ID:???00
副会長「あのー……? 結局、貴女は誰なんでしょうか?」オズオズ

姫芽「ああ、アタシは金沢から来たスクールアイドルの、安養寺姫芽です~。虹ヶ咲を、せつ菜さんに案内してもらってたんだ~」

副会長「えっ……せ、せつ菜ちゃんに?? じゃあ、さっきからずっと私と一緒にいたせつ菜ちゃんはもしかして──偽物!?!」ハッ

せつ菜(泉)「…………く、くく。よくぞ見破りましたね、副会長!」

せつ菜(泉)(……。何が何だかイマイチよく分からないが……“身代わり”として、せめて上手に演じよう)コホン

せつ菜(泉)「私はその、泉さんとやらではありませんが──確かに偽物の『優木せつ菜』です!!!」バッ

225: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:15:00 ID:???00
副会長「! や、やっぱり……!」

せつ菜(泉)「ですが……、偽物はまだ居ますよ! さぁ、残りはどちらが本物でしょうか!?」バッ

せつ菜?「……!? えぇと……、わ、わわ、私は本物に決まってます!! ほら、せつ菜スカーレットストーム!!」

……? (バネのSE)

副会長「えっ」

せつ菜「! どうやら……“アドリブ”が苦手なようですね!」ピシッ

副会長「苦手にも程がありませんか??」

せつ菜(泉)(……エチュードは良くても、急なアドリブやモノマネは不得手なんだな……あの『優木せつ菜』さんは)

226: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:16:00 ID:???00
せつ菜(泉)「では……やはり、貴女は」

せつ菜?「くぅ……! ば、バレてしまっては仕方ありません!」


バッ

「そう、私の正体は──」









しずく「桜坂ー、しずくです!!」グッ

バァァァァーン‼︎‼︎‼︎

227: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:17:01 ID:???00
せつ菜(泉)「…………やっぱり、そうだったんですね」

副会長「えっ、同好会の桜坂さんがせつ菜ちゃんだったなんて……! でも、わざわざ大掛かりにどうしてこんな企画を……?」

しずく「あ、その……」

せつ菜「──そ、それは私が説明しましょう! えぇっと…………」

せつ菜(泉)(……明らかにせつ菜さん、たったいま喋りながら内容を考えているな……)

228: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:18:00 ID:???00
せつ菜「……そう! 例えば、紅蓮の剣姫の主人公、紅姫が戦っていた“レーテ”! あのような別の世界線から来た特異な存在……」

せつ菜「それが今回のように、私自身に化けて“偽物”の『優木せつ菜』となってしまった時、その存在が見破れないと困りますね!」

せつ菜「ですから……これからスクールアイドルとしてのせつ菜もそういう……作品の役を演じる? かもしれませんので……」アタフタ



せつ菜「今回のこれは、一応、その──予行演習だったんです!!!!!!!」

229: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:19:00 ID:???00
せつ菜(泉)「…………」

せつ菜(泉)(あまりに苦しい言い訳だが、果たしてピュアに受け取ってくれるか? 一見、副会長さんは真面目そうだが……)チラッ

副会長「──なるほど! つまりせつ菜ちゃんのヒーローショーの予行だったんですね! すごい、全然気付きませんでした……!」

せつ菜(泉)(!? 意外と純粋だ……)

せつ菜「はい! ……と、という訳で! 以上、『優木せつ菜は三人いた!? 別の世界からの偽物討伐!』のショーでしたー!」ダッ

しずく「さぁ皆さん、またお会いしましょうーーー!!! ほら、“身代わり”のせつ菜さんも行きますよ!!」ダッッッ

せつ菜(泉)「!?」

230: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:20:00 ID:???00
パチパチパチ

姫芽「はぁ~、これが虹ヶ咲のスクールアイドルかぁ~……」

副会長「せつ菜ちゃんー! 次も楽しみにしてるからねー!」ニコニコ

せつ菜(泉)「え、ええ……」

せつ菜(泉)(副会長がとびっきりの“笑顔”を浮かべている。……身代わり代行の依頼は、ある意味では成功なんじゃないだろうか?)

せつ菜(泉)「……」

せつ菜(泉)(だが、この後は恐らく……)


〖エチュード 閉幕〗

231: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:21:00 ID:???00
────

──間


しずく「色々とご迷惑をおかけいたしました……!!!!!!」ペコリ

232: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:22:00 ID:???00
泉「か、顔をあげてくれ。しずくさん」アタフタ

泉(やっぱり……しかし謝罪から入られると、どうも困ってしまうね。しずくさんの気持ちは、流石に分かるけれど)

泉「想定外の事ばかり起きたが……桜坂しずくさんは、素晴らしい演技力だったよ。さすが、『演技派系スクールアイドル』だ」クスッ

しずく「!?? い、泉さん……♡」トゥンク

233: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:23:00 ID:???00
せつ菜「すみません、本来はこうなる筈では無かったんですが、姫芽さんを案内するタイミングが丁度被ってしまいまして……」シュン

泉「あぁ……。いや、流石にあれはイレギュラーだろう。まさか姫芽ちゃんが居るなんて、私も予想出来なかったし。……だが」チラッ

泉「──何故、『優木せつ菜』が3人も現れたのか」

泉「その事情については、詳しく聞いても構わないかな?」

せつ菜「! ええ、勿論です。始まりからご説明しましょう!」

234: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:24:02 ID:???00
せつ菜「そもそもは──副会長に『優木せつ菜』のライブを見に行こうと、“私が”誘われたことが、全てのキッカケでした」

泉「……ん? それは……」

泉(まさかスクールアイドル本人に、その人が行うライブの観戦を誘う筈もない。……と、いう事は)

泉「本物のせつ菜さんさえも、スクールアイドル『優木せつ菜』を演じていて、それを周囲に隠している……という訳かい?」

せつ菜「はい。その、色々と事情がありまして……」コクリ

せつ菜「……ですので、私が副会長と一緒に『優木せつ菜』のライブに観客で参加する事は、実質的に不可能だったんです」

235: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:25:00 ID:???00
しずく「そのとき私もせつ菜さんに、このダブルブッキングのお悩みを相談されまして……色々ネットで解決策を調べてみたんです」

泉「ほう。その結果、私のスクールアイドル専門の身代わり代行を見つけたのかな?」

せつ菜「! はい、仰る通りです! これを使えば『優木せつ菜』が2人に増え、しかも副会長の笑顔も守れますから!」グッ

泉「なるほど……それで依頼をした、と。ああ、ここまではよく理解できるが、しかし……」

泉「それならば、どうして桜坂しずくさんも演じていたんだい? ──3人目の『優木せつ菜』さんを」

236: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:26:00 ID:???00
泉(途中から……そう、演劇部を覗いた頃あたりから。私も薄ら気付いてはいた。──『優木せつ菜』さんを誰かが演じている事に)

泉(……もしかしたら依頼の説明の時点で、すでに桜坂しずくさんの『優木せつ菜』だったのかもしれないが)

泉「しずくさんは、演劇部とスクールアイドルを両立している方だろう? 何故、せつ菜さんの身代わり代行を?」

しずく「あー……それは、その……」

泉「しずくさん?」




しずく「………………最近少し、スランプ気味だったんです」

237: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:27:00 ID:???00
泉「ほう? スランプ、だって?」

しずく「……はい」コクリ

しずく「私は今までの人生でもよく、演技をして生きてきたんです。“本当の私”を閉じ込め、空想癖のある『桜坂しずく』を隠して、普通の子らしく……。ですが」

しずく「──自分をさらけ出すこと、そういうスクールアイドルが居てもいいんだって事に、最近、やっと気付けたんです」ニコッ

泉「……! それは良い事だね」フフッ

しずく「そう、ですね……それ自体はそうなんですけど」

しずく「自分をさらけ出す演技を練習した結果、誰かを真似るときに必要以上に誇張するクセが抜けなくて……それで、スランプに」シュン

せつ菜「しずくさんは、急なアドリブが本当に苦手ですからね……私も、それでしずくさんにも任せてみようと了承したんです!」

泉「ふむ? つまり、しずくさんは──演劇の練習で、せつ菜さんの“身代わり”をしたのかい?」

238: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:28:00 ID:???00
しずく「……ええ。演劇部部長に、私は演技の固定観念に気付けてないと言われたので、一層“身代わり”を試してみたかったんです」

しずく「せつ菜さんのライブ中には、副会長の横で生徒会長を。その後は泉さんの『優木せつ菜』と成り変わる“演劇”をして……」

泉「なるほど。その時、不意の訪問者によって、ストーリーが崩れてしまったわけか」クスッ

せつ菜「私が蓮ノ空の姫芽さんを連れて、あそこに向かってしまった為ですね……しずくさんも、すみません……」シュン

しずく「いえ! せつ菜さん方と一緒にあの“エチュード”をして近くで演技を見たおかげで、私、分かった気がするんです」

しずく「泉さんの『優木せつ菜』の演じ方を見て……自分らしく役を魅力的に演じる事で、その人らしい深みを与えられる方法を!」

泉「!」

しずく「──今回の“身代わり”で、私も、演劇に活かせるような大切な何かをやっと掴めた気がします」ニコッ

239: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:29:00 ID:???00
泉「……そう、か」

泉(──あのとき、せつ菜さんのライブ後に小さくこぼしていた、演劇部部長さんの言葉がふと甦る。……なるほど)

泉「それなら……、演劇部部長さんも嬉しいだろうね。きっと今頃は彼女も笑顔になっているだろう」クスッ

しずく「? そう、ですね。部長はいつだって、私のスクールアイドル活動も応援してくれるんです」ニコニコ

泉「……ふふっ。彼女もまた、確かにスクールアイドルのファンだろうからね」クスッ

240: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:30:00 ID:???00
せつ菜「泉さん。改めてにはなりますが、身代わり代行を依頼しながらも偽った上に、説明不足で申し訳ありません……」ペコリ

しずく「わ、私からも! 泉さんの『優木せつ菜』は副会長さんにはバレていなかったのに却って場を乱してしまい……!」

泉「いや。……ふふっ、気にしないでくれ」

泉「と言うより寧ろ、私は“偽ってくれた事”が嬉しいんだよ」クスッ

せつ菜「え?」

241: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:31:01 ID:???00
しずく「嬉しい……ですか?」

泉「ああ。なにせ、人の為、と書いて『偽る』だからね」

泉「せつ菜さんを偽った貴女たちは、大切な誰かの為にそれをしたのだろう?」ニッ

しずく&せつ菜「!」

泉「それぞれがそれぞれの『優木せつ菜』を演じ……結果、各々が思う大切なファンを、“笑顔”にすることが出来た」

泉「スクールアイドルにとって──ある意味これは、とても素敵な事なんじゃないかな?」クスッ


第四話 おしまい

242: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/13(水) 20:32:00 ID:???00
次回 第五話→明日

243: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:00:00 ID:???00
──東京


泉「さて。お台場の依頼も終わり、セラスには今日の夜ごろに帰ると連絡も入れた……」

泉「あとの時間は、そうだな。せっかく東京に来たんだ。観光とでも洒落込もう」クスッ

泉(それとなくセラスに聞いた限り、姫芽ちゃんはお昼頃にもう東京を出たそうだし。今日は、私一人で見て回ろうかな……)

泉「ふふっ。そういえば、去年も姫芽ちゃんは急に東京に来ていたのだったか。あの時の行動を、逆に聖地巡礼してみるのも悪くない……」フム


プルルル…


泉「……ん?」ピタ


プルルル…プルルル…


泉「あれは……」チラッ

泉「………………公衆電話が、鳴っている?」

244: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:01:00 ID:???00



【第五話 虎の尾を踏む】



.

245: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:02:00 ID:???00
プルルル…

泉(都会の喧騒の中、誰もその“異変”には気付いていないようだった。……恐る恐る近付き、私は、静かに受話器をとる)

泉「……」ガチャ

『もしもし?』

泉「…………もし、もし」

『!! あぁ、良かった、繋がった……』

泉「……」

泉「貴女は、誰かな?」





ゆくり『──ゆくりです。春宮ゆくり……大阪の、スクールアイドルです』

246: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:03:00 ID:???00
泉「スクール……アイドル?」

ゆくり『はい。貴女は、桂城泉さんですよね? 今、スクールアイドル専門の身代わり代行をやっているという……』

泉「!」ピクッ

泉「ああ……ああ。そうだね。身代わり代行はこの私が請け負っている。では貴女はもしや、依頼人なのかな?」

ゆくり『そうです。泉さんに私の“身代わり”をお願いしたくて』

247: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:04:00 ID:???00
泉「……そう、か。それで電話を…………流石に公衆電話にかけられたのは初めてだが……」ボソッ

ゆくり『スクールアイドルは今そんなにメジャーじゃないですから、調べて驚きました。専門で代行があるなんて思わなくて』

泉「え、あぁいや、これでも意外と依頼は多くてね、私に任せてほしい…………ん?」ピタ

泉(──彼女は今、何かおかしな事を言わなかったか?)

ゆくり『泉さん? どうかしたんですか?』

248: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:05:00 ID:???00
泉「スクールアイドルは……今や日本全国で活発な大人気カルチャーだろう? 大会だって、アリーナやドームを使うほどの……」

ゆくり『…………??』

ゆくり『あの……泉さん、何をおっしゃってるんですか?』

泉「……何、とはどういう意味かな?」

ゆくり『いえ、だって』

ゆくり『──スクールアイドルって、今はもう存在していない筈なんじゃ、ないんですか?』

249: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:06:00 ID:???00
ゆくり『前に翔音ちゃんが、μ‘sって伝説のスクールアイドルグループが存在した事を教えてくれました。だけど……』

ゆくり『今はラブライブ!だって無いですし、UTXやオトノキ以外で、私達みたいに精力的に活動しているスクールアイドルは数少ない筈だ……って』

泉「……」

泉「……それは──、本当かい?」

ゆくり『え、ええ。違うんですか?』

250: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:07:00 ID:???00
泉「…………」

泉「違う、とも言い切れないな」ポツリ

ゆくり『え?』

泉「ああ、すまない。何でもないんだ……」コホン

泉(……沼津で実際に経験した、スクールアイドルの別の可能性があった異世界の記憶が──その瞬間、ふと蘇った)

泉「スクールアイドルとはあらゆる世界を股にかける物だ、と。あいにく私は、既に実感してしまっているのでね……」ボソッ

泉(おそらくは今回も、あの時と同じなのだろう。──スクールアイドルの文化が、失われた世界線)

泉(……だから、普段と違い、公衆電話で依頼が来たんだな。こことは違う非現実の世界線なら……、そういう事もあるだろう)

251: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:08:00 ID:???00
ゆくり『あ、あの……何か不手際でもありましたか? 数少ないスクールアイドルの代行業なので、もう頼れるのは貴女しか……』

泉「…………いいや。何も気にしないでくれ、ゆくりさん。……それよりも」コホン

泉「私にはあくまで、依頼の為に電話をかけたのだろう? ならば──貴女が望む“身代わり”について、詳しく教えてくれ」

ゆくり『! あっ、と、そういえば、まだお伝えしていませんでしたね。……私のお願いは、一つだけ』



ゆくり『私の“身代わり”として──ポルカに、愛を告白をしてほしいんです!』

252: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:09:00 ID:???00
泉「ほう、愛を……ん? こ、告白……!?」ガタッ

ゆくり『はい。私と同じ学校で、スクールアイドル活動をしている高橋ポルカちゃんに、です』

泉「同じ学校……まさか、大阪に居るのかい? 私はいま東京なんだが……」

ゆくり『い、いえ、ポルカは浅草生まれ浅草育ちの女の子ですよ。──私達、ネット高校でスクールアイドルをやっているんです』

泉「! ネット高校とは、なるほど……離れた場所であっても繋がっているのか。それは素敵だね」クスッ

ゆくり『ふふっ。でしょう?』

253: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:10:00 ID:???00
泉「それで……その、告白というのは文字通りの意味かい?」

ゆくり『ええ、恋愛的な意味です。浅草と大阪は離れているので、近くへ行きたい、手を触れたいと思っても、叶わなくて』

ゆくり『でもきっと……身代わり代行なら、そんな私の愛の言葉も“春宮ゆくり”としてポルカに伝えられます、よね?』

泉「ああ、それくらいお安い御用さ。だが、そうだな……」フム

泉「私は──“身代わり”となるスクールアイドルの魅力を元に演じるのが得意なんだ。よければ、それも教えてくれるかな?」

ゆくり『……! スクールアイドルの、私としての魅力、ですか』

254: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:11:00 ID:???00
ゆくり『……、……それでしたら』

ゆくり『ポルカちゃんの事も、私と切っても切り離せないような存在ですから、その子のことも一緒に、お話しして良いですか?』

泉「ほう? ああ、貴女にとっての大切な人ならば、勿論いいさ」

ゆくり『ありがとうございます。……んん』

ゆくり『儚そうだったのに意外と元気で、それでいて危なっかしくて。目を離せない不思議な魅力の女の子……それが、ポルカ』



ゆくり『私は、そんな彼女に救われたんです』

255: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:12:00 ID:???00
ゆくり『一年前。私は診察が終わって、これから始まるネット高校での生活に一抹の不安と、仄かな期待を抱いていた。そんな時』

ゆくり『──浅草で私は、高橋ポルカちゃんと出会いました……』

……

泉「……」

泉(電話口から聞こえるのは……、まるでお伽話のような、甘く幸せな出会いの物語)

泉(それを聞きながら、私は不意に思う)

泉(彼女は──私自身にも、セラスにも似ている気がする、と)

256: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:13:02 ID:???00
ゆくり『……何もかも重苦しかった筈なのに、ふと舞い降りてきたポルカちゃんという運命を掴んだ瞬間、世界が変わったんです』

ゆくり『人生はいきなり終わることもある。だったらこの出会えた奇跡を、掴んだチャンスの女神の前髪を離したくない、と思って」

泉「……掴んだチャンス、か」

泉(病気で舞台が遠のき、だが、運命のような出会いによってスクールアイドルという情熱を燃やす、そんな道を選んだ彼女)

泉(いつの間にか私も……、彼女に感情移入をしてしまった。ああ。──彼女の“期待”に、応えたい)

257: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:14:00 ID:???00
ゆくり『……それから、ポルカの前なら、演技せずとも素の笑顔を見せられるようになったんですよ♪』

ゆくり『でもそれなのに私、ポルカに対する恋心はずっと隠したままで、勇気も出なくて……そう、だからこそ』

ゆくり『身代わり代行の力で、ポルカに私の本当の気持ちを伝えてきてほしいんです。ラブソングのような素敵な愛の言葉を』

泉「ほう、愛の言葉を……。告白代行、という訳だね」フム

ゆくり『はい。それと……ポルカ自身の告白の“答え”も訊いておいてくれますか? その結果がどちらでも、構いませんから』

泉「……!」

258: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:15:00 ID:???00
泉(告白の答え、とはすなわち──恋が成就するかどうかの結果)

泉(つまり、少女の恋が結ばれるかどうか。その顛末を“身代わり”として受け取る事……そこまでが、今回の依頼という訳だ)

泉「……わかった。任せてくれ、ゆくりさん」

泉「この『桂城泉』が、貴女が恋い慕うお姫様との関係を“身代わり”として取り持ってみせよう」

ゆくり『! ありがとうございます。泉、さん……』

ゆくり『ふふっ。泉、って良い名前ですね』

259: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:16:00 ID:???00
泉「? 名前かい?」

ゆくり『はい。私、Xで呟く時にもその喩えをよく使うんですよ。──人の心の中の透明で冷たい“泉”』

ゆくり『人間は皆、清らかな水を心に満たしていて……。私達はその泉が溢れ出る感動を追いかけ、エネルギーを貰い進んでいく』

ゆくり『そんな風に考えると、素敵だと思いませんか?』

泉「……! ふふ。確かに美しい表現、考え方だね」クスッ

泉(誰しもの心の中にある、自分の情熱に従い流れる清き水……、それこそが“泉”という事か)

泉「では、その泉の流れのままに」コホン


泉「貴女と一人のお姫様の為の、告白代行というラブコメディの“演劇”を始めよう──」

260: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:17:00 ID:???00
────

──浅草


「……圏外、か」

「セラスに電話が繋がらないという事は、やはり」キョロキョロ

「此処はもう……、私の知っている浅草では無いのだろうね」

「……っと、鏡で最終確認……」チラッ



ゆくり(泉)「……んん」

ゆくり(泉)「こんな感じ……ですかね」

261: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:18:00 ID:???00
ゆくり(泉)(ふわっとした清楚な服を揃え、最低限、『春宮ゆくり』さんが変装したかのように見せたコーデ)

ゆくり(泉)「……とは言っても写真も無しに、彼女に言われるままにドレスアップした訳だから、心配ではあるんだが──」

──回想


ゆくり『高度な変装はしなくても大丈夫……というか、ポルカには“私が”変装したという風に伝えました』

ゆくり『小さい頃から歌劇団を目指していた分、私も演技には自信がありますから。ポルカだって騙されてくれるんじゃないかな』

ゆくり『あと、それに! いま教えた服やメイクは、同じL高に通うスクールアイドル、ローラちゃんのお墨付きですよ♪』


ゆくり『代行の事は仲間には話してあります。……ポルカ以外にはちゃんと。だから、何も気にせずよろしくお願いします!』

262: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:19:00 ID:???00
──

────

ゆくり(泉)(……そう、彼女が“期待”を寄せてくれている)

ゆくり(泉)(大丈夫。普段通りやれば何も問題はないだろう。これでも私は既に、何回も身代わり代行をこなしているのだから)

ゆくり(泉)「さて、待ち合わせの場所はこの辺り……」キョロキョロ



「あっ!!! ゆくりちゃーん!! おーーーい!!」

263: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:20:00 ID:???00
ゆくり(泉)「……! なんだか、物凄く元気で明るい声が聞こえた気が……」

ポルカ「──こっちこっち! 雷門の前だよ、ゆくりちゃん!」ブンブン

ゆくり(泉)「! あぁ、えっと……」

ポルカ「直接会うのは文化祭以来だから、久々かな!? ゆくりちゃん、ポルカの浅草にようこそー!」ニコニコ

ゆくり(泉)「……ふふ。ひさしぶり、ポルカ。いつ会っても元気で可愛いね」

ポルカ「えへへっ! ポルカは、いつでも元気満点で笑顔なのが一番の取り柄だからね~!」ニコッ

264: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:21:00 ID:???00
ゆくり(泉)(彼女は──ポルカさんは、明るい黄色の笑顔を咲かせていた)

ポルカ「いつもと雰囲気が違うけど、今日は変装して来たんだっけ?? すごい、ゆくりちゃん、背まで伸びちゃって!」パァァ

ゆくり(泉)「ふふっ。今日はポルカに会うために、オシャレして少し靴底の厚いブーツを履いて来ちゃったから、ね」クスッ

ゆくり(泉)「でも、10分前行動が苦手だって聞い……えっと、前にそう言ってたのに。今日は早いんだね、ポルカ」

ポルカ「? あーっ、それは全然全然!」ブンブン

ポルカ「ポルカ、あっち行ったりこっち行ったりで足が勝手に踊り出しちゃって! 本当は遅刻ギリギリだったよ~」

ゆくり(泉)「え? じゃあどうして……」

265: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:22:00 ID:???00
ポルカ「それは、花火ちゃんやアッキーがね!」フンフン

ポルカ「ぜったーーーいに、ポルカ一人で会いにいくべきだって言って、すっごい早めに送り出してくれたんだ~!」ニコニコ

ゆくり(泉)「……。ああ、それで」

ゆくり(泉)(……確か、代行の事はポルカさん以外の仲間には伝えてあると言っていたな。なるほど、お膳立てが整っている)

ポルカ「って、それより!! ゆくりちゃん、どうして急に東京に!? ポルカに話があるって事らしいけど……!」ソワソワ

ゆくり(泉)「……!」

ゆくり(泉)「実はね。……ポルカに、お願いがあって」コホン



ゆくり(泉)「今日一日、私と──デート、してくれませんか?」ニコッ

266: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:23:00 ID:???00
ポルカ「え? デート……ってことはお出かけかな!??」パァァ

ポルカ「そんなのもちろん! ユッキーと一緒ならポルカ、海外でも何処までも行っちゃうよ♪」

ゆくり(泉)「えぇと。お出かけ、というか……」

ゆくり(泉)(……。いや、もう少しそういう……恋愛的? なムードになってから打ち明けた方がいいのだろうか?)

ポルカ「それならポルカ、オトノキがある秋葉原の方に行きたいな♪ チュン先生もアキバは海外のNYに似てるって言ってたし!」

ゆくり(泉)「?? に、NY?」

267: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:24:00 ID:???00
ゆくり(泉)「……でも、デートに秋葉原か……」

ポルカ「あれ……ダメ、かな? ゆくりちゃんもどこか行きたいところがあるなら、そっちに行く?」

ゆくり(泉)「……ううん、大丈夫。一緒に行こうか、ポルカ」ニコ

ポルカ「うん!」ニコニコ

ゆくり(泉)(…………私自身、デートなど一度もした事がないような、そんな生き方をして来たからか)

ゆくり(泉)(イマイチ、こういう時の正解が分からない……秋葉原デートはアリなのか……!??)

268: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:25:00 ID:???00
────

──間


ポルカ「あぁぁ、楽しかった~~!!!!」


ゆくり(泉)「ふふ。そうだね」クスッ

ポルカ「アキバって本当、色んなものがあるんだね~! ゆくりちゃんと一緒だから、いつもよりポルカ、足が勝手に踊りたくなっちゃった!」ニコニコ

ゆくり(泉)「ポルカ、電気屋さんもアニメショップも全部見ようとするんだもん。私もすごく楽しかったよ」フフ

ゆくり(泉)(……まるでライオンのように激しく動き回るポルカさんに翻弄されながらも。一日、秋葉原でのデートをこなした)

ゆくり(泉)「…………」ジー

ポルカ「ふん、ふふん~♪」ルンルン

269: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:26:00 ID:???00
ゆくり(泉)(今日だけでも、はしゃいで楽しむポルカさんの様子を見て……私にも『春宮ゆくり』さんの気持ちが深く分かった)

ゆくり(泉)(彼女に惹かれる理由。あらゆる事に一生懸命で、まっすぐな目を持った高橋ポルカさんという……、明るい少女の魅力)

ゆくり(泉)「……」

ゆくり(泉)(人生を変えてくれそうで、彼女に期待してしまうんだ。だから、側に居たいし──愛を告白したいとも思うのだろう)

ポルカ「あれ? そういえばユッキー、今ポルカ達どこに向かってるの? 坂を登ってるけど……??」

ゆくり(泉)「え、あぁ。いま向かってるのは……今日のデートの、最後の場所」

ゆくり(泉)「スクールアイドルにとっての聖地でもある──神田明神、だよ」ニコ

270: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:26:59 ID:???00
……

ゆくり(泉)(清く、澄んだ空気──夕方の暖かな陽が落ちる、神聖な場所)

ゆくり(泉)(神田明神。此処はきっと……相応しい舞台になるだろう。告白代行という、たった一人の為の“演劇”の)

ゆくり(泉)「……ねぇ、ポルカ」

271: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:28:01 ID:???00
ポルカ「? どうしたの、ゆくりちゃん?」

ゆくり(泉)「……」

ゆくり(泉)「……私はね」


ゆくり(泉)「ポルカのことが好きなんだ。──恋愛的な意味で」

272: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:29:00 ID:???00
ポルカ「……え?」

ゆくり(泉)「……急にごめんね。でも私はずっと、貴女に惹かれていました。ポルカちゃん」

ゆくり(泉)(彼女に……『春宮ゆくり』さんに話してもらった愛の想いを、私は“身代わり”として、写し出す)

ゆくり(泉)「始めてポルカに会った時。私、純粋で澄んだ心を持ってる貴女を──助けなきゃ、って思ったんだ」

ゆくり(泉)「それから一年。いつだって、私はポルカの事を見てたよ。文化祭のステージで一緒に踊ってくれたの、嬉しかった」クスッ

ポルカ「……ゆくり、ちゃん」

273: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:30:00 ID:???00
ゆくり(泉)「私は、ポルカが好き。だから」

ゆくり(泉)「よかったら聞かせてほしい。……ポルカは私の事を、恋愛的に好きでいてくれますか?」

ポルカ「……」

ポルカ「…………えぇっと。その……」





ポルカ「ポルカ、その気持ちはまだ、よく分からないかなぁ……」

274: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:31:00 ID:???00
ゆくり(泉)「…………えっ」

ポルカ「ご、ごめんね! ポルカ、もう少しよく考えて行動しろって麻衣ちゃんにも言われてるから、すぐは決められなくて~……」

ゆくり(泉)「……それは」

ポルカ「そ、その! 嫌って訳じゃないんだよ!? ただ……」

ポルカ「ポルカ、裏の面? があんまりよく分からなくてさ」

275: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:32:00 ID:???00
ゆくり(泉)「……裏、って、その人の内面のこと?」

ポルカ「うん! 前にポルカ、Xでも言ったけど……この目に見えない世界なんてほとんどないのと同じだって、思わない??!」

ポルカ「目の前に居るゆくりちゃんが、ポルカのことをそういう風に思ってくれてたのも、ポルカは全然! 気づかなかったし」フンフン


ポルカ「告白されても、むしろ……ポルカ、急に意識しちゃって、ゆくりちゃんがいつもと“違って”見えるくらいだもん」


ゆくり(泉)「──!」

276: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:33:00 ID:???00
ゆくり(泉)(心臓が、凍りついた気がした)

ポルカ「だからまだ、ポルカには答えが出せないかなぁって……ごめんね、ユッキー。今はポルカ……そういう好きが分からないや」

ゆくり(泉)「……」

ゆくり(泉)(告白は失敗だ)

ゆくり(泉)(これ以上はもう、どうにもならないという諦念が……胸を埋め、て、勝手に苦しくなる)

ゆくり(泉)(……こんな時、『春宮ゆくり』さんなら、どうするのか)

ポルカ「でも! こんなポルカだって成長中だから♪ 絶対、ゆくりちゃんのそういう裏の気持ちにも、これから気付いて──」チラッ



ゆくり(泉)「………………っ」ポロポロ

ポルカ「!? ゆ、ゆくりちゃん!?」

277: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:34:00 ID:???00
ポルカ「ゆくりちゃん、泣いて……」

ゆくり(泉)「っ、ごめん…………ポルカ」ゴシゴシ

ゆくり(泉)(……“涙”を流しているのは、そういう『演技』の筈だ)

ゆくり(泉)(だが……どうだろうか。今や自他境界さえも曖昧だ。もはやこの演じた気持ちが誰のものか、も……自信が持てない)

ポルカ「──あわわっ、な、泣かないで、ゆくりちゃん!」

278: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:35:00 ID:???00
ポルカ「まだ、ポルカ達のいきづらい部は始まったばかり! ゆくりちゃんも、ポルカと一緒にスクールアイドル始めたばっかだし」

ポルカ「これから、ポルカもユッキーのそういう気持ちをちゃんと受け取れるよう精いっぱい努力する! だから、笑って、ね?」ニコ

ゆくり(泉)「ポル、カ……」

ゆくり(泉)(……彼女の笑顔を、慰めを)

ゆくり(泉)(ナゼ──“私が”受け取っている?)

ゆくり(泉)「…………うん。分かった。ありがとう、ポルカ」ニコ





ゆくり(泉)(  私のせいで、失敗したからだ  )

279: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:36:00 ID:???00
ゆくり(泉)(……私が、『春宮ゆくり』さんを演じ間違えたせいで)

ゆくり(泉)(責任が、私に、あったせいで。何か致命的なものがズレて、結果が変わったんじゃないのか?)

ゆくり(泉)(……例えば。もっと早くから“デート”である事を強調していたら? ポルカさんも、その気になっていたかもしれない)

ゆくり(泉)「……」

ゆくり(泉)(本物の『春宮ゆくり』さんなら、初めからそうしていたのだろうか。やはり、私が勝手な事をしてしまったのか……)

280: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:37:00 ID:???00
ゆくり(泉)(……これは、確実な判断材料では無い。が、自分を責める考えばかりが浮かんで来てしまう)

ゆくり(泉)(私が身代わり代行をしていなければ。自分の存在が無ければ……もっと、良い未来になっていたのではないか、なんて)

ゆくり(泉)「…………あぁ」

ゆくり(泉)(私は、どうして)


ゆくり(泉)(彼女の“身代わり”をしてしまったのだろう)

281: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:38:00 ID:???00
────

プルルル…プルルル…

泉「…………」

ガチャ

ゆくり『もしもし。泉さんですか?』

泉「……ああ。そう、だ」

282: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:39:00 ID:???00
ゆくり『あぁ、よかったぁ♪ 暫く経ったのに連絡がなくて、少し心配していたんですよ』

ゆくり『あれから、どうなりましたか? ポルカは“春宮ゆくり”に、何て言っていました?』

泉「……それは」

泉「…………」

283: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:40:00 ID:???00
ゆくり『泉さん?』

泉(屈託のないその声を聞いていると、このまま何も話さずにいたい。今回の失態を話して失望されたくない、とも……思う)

泉(だが……やはりそれは、単なる私自身の勝手なわがままだ。だからこそ、鉛のように重い口でも開くしかなかった)

泉「……実は──」

284: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:41:00 ID:???00
────

──間


ゆくり『……そう、ですか。ポルカが、そんなことを』

泉「ああ」

泉「叶うことならば……、これは他でもない貴女に、ポルカさんから直接話してもらうべき言葉だった。泣くべきでも、なかった」

泉(……思えば、たとえ悲劇で終わるとしても。コレはゆくりさんが経験する筈だった現実。そうじゃ、ないのか?)

泉「もし、あの場に私ではなく貴女が居たならば。こうは、ならなかったのかもしれない」

泉「だからこそ…………申し訳、ない。謝っても到底償えるものではないが、それでも──」




ゆくり『──いいんですよ、そこまでしなくて』

285: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:42:00 ID:???00
泉「……っ」

ゆくり『い、いえ、あの! 言い方が変になっちゃったかな……本当に、大丈夫なんです』

ゆくり『私は最初から、ポルカがどう答えてくれようと、どっちに傾こうと何でも良かったんですから。そういう依頼でしたし』

泉「だが、それは……」

泉(どちらでも良かった、という事は。──なるべく良い方を期待するのが人間だろう)

ゆくり『……絶対、私がそこに居てもそうしてました。涙だって……泉さんの“身代わり”は完璧だった筈ですよ。間違いありません』

泉「……、……」

ゆくり『ままならない事や、叶わない望みがある事。それは私もよく分かっています。近しい人を亡くした事だってあったので』

ゆくり『でも、取り返しがつかないことを嘆くことはもうしないって、私は決めているんです。だから、泉さんのせいではなく……』

286: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:43:00 ID:???00
泉「…………」

泉(電話の向こうに聞こえる、彼女の澄んだ声は)

泉(全くもって敵意も害意も失望もなく……、ただひたすらに私を慮っていた)

ゆくり『……そもそも、私がポルカに直接告白する勇気が出なかったのが良くなかったんです。だから、身代わり代行を頼んだ訳で』

ゆくり『寧ろ、今の自分じゃ絶対に伝えられなかった言葉をポルカに言ってくれて嬉しかったです。……敗けたって次はありますし』

ゆくり『ポルカがそう選んだ未来なら、今度は私が直接、ポルカと二人で話し合ってみせます! だから、応援しててください♪」

泉「…………ゆくり、さん」


ゆくり『──ありがとうございます、泉さん。私にポルカと向き合う勇気をくれて』

287: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:44:00 ID:???00
泉「……、……」ギュ

泉(握りしめたこの電話を切れば……もう二度と話せなくなるかもしれない。だからこそ、本当に不甲斐なくて、…………苦しかった)

泉(なのに彼女は、あまりにも純粋に、言葉を紡いでいて)

泉「…………っ」

泉(私はどの立場から、──“感謝”の言葉を貰うんだ?)

288: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:45:00 ID:???00
ゆくり『それに! 恋は障害があった方が、ずっと心は燃え上がります。私達の活動はまだ始まったばかりで時間も沢山ありますし』

ゆくり『私が、自分の力で──“Happy End”にしてみせますよ! なので本当に、泉さんは気にしないでください』

泉「……そう、か」

ゆくり『色々とありがとうございました。どうか、お元気で』

泉「ああ……」

泉「……さようなら』

ガチャ

289: 名無しで叶える物語◆hliDzEcF★ 2026/05/14(木) 20:46:01 ID:???00
……

泉(受話器をそっと離した。──その瞬間、私が今まで繋がっていた全てと断絶したような、恐ろしい錯覚を覚え)

泉「……っ」

泉(小さく、目を回す。……また、再認識した。もう取り返しがつかないのだ、ということ。そして)

泉「……………………あぁ」

泉(“身代わり”とは……そこに介在する人の気持ちまで肩代わりすることなのだ、と)

泉(ようやく──気づいてしまったんだ)


第五話 おしまい

291: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:00:00 ID:???00
──神田


プルルル…

泉「……」

泉(携帯電話が、鳴っていた)

泉(きっと──セラスからだ。あれから1日、私はこうして帰らず東京に居るのだから、ひどく心配しているのだろう)

泉「…………っ」

泉(だが、どうしても出たくない。……我ながら、なんて子供のような我が儘だろう)

泉(自覚してしまった。今まで“身代わり”として私に与えられた感謝の言葉。あれは、私が受け取ってはいけないものだった、と)

泉(──全てを蔑ろにして、人の気持ちを踏みにじったのが『桂城泉』なのだ、と)

泉「……」

泉(そんな今の私が…………一体どう、セラスと話せばいい?)

泉「……はぁ」


「ねぇ、そこのキミ! 大丈夫?」


泉「……ん?」ピク

泉「貴女、は……」



穂乃果「──私、高坂穂乃果! ねぇキミ、良かったら……!」

292: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:01:00 ID:???00



【第六話 虎の子は山へ放せ】



.

293: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:02:00 ID:???00
────

──穂むら


穂乃果「──たっだいまーーーー!!!!!!!」


海未「遅かったですね、穂乃果…………おや、そちらの方は?」チラッ

穂乃果「あぁ、さっき道端で泣いてる子がいたから、穂乃果さー、ほっとけなくて! 連れてきちゃった!」ニコッ

泉「……!?? い、いや……泣いて、など……」ゴシゴシ

海未「…………ダメですよ、穂乃果。拾ってきたのならちゃんと、責任を取ってお世話しないと」

泉「捨て猫か何かか??」

294: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:03:00 ID:???00
泉「…………」

泉(……二度、三度まばたきをする)

泉(ここは……、仄かに甘い香りが漂う、和風な甘味処のようだった。奥の小さな小部屋に招き入れられたところだ)

泉「……」チラッ

泉(と、いうか…………ついさっき会ったばかりの彼女の強引さに負け、半ば強引に連れられて来てしまったんだが、これは)

泉「あの……どうして私を──」


穂乃果「──海未ちゃん、ちょっとこの子のこと見ててあげて! 穂乃果、美味しいお饅頭を作ってくるからーーーー!!!」バッ


泉「!?」

295: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:04:00 ID:???00
海未「……分かりました。では私の分もお願いしますね、穂乃果」

穂乃果「任せて! じゃあ後でーーー!!!」

ガチャ…

バタン‼︎

……

泉「……え。い、行ってしまったのか!?」

泉(私を連れ込んだその張本人こそが、ドタバタと部屋から出て行ってしまったんだが……?? 何故……???)

296: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:05:00 ID:???00
海未「……ふふっ。嵐のような子でしょう? 穂乃果は、ずっと昔からああなんですよ」クスッ

泉「! あ、……あぁ」

泉(正座で座っている美しい方が、私に向かって薄く笑っていた。彼女は、確か──海未、さんと呼ばれていた女性だ)

海未「貴女はきっと、何か事情があるのでしょう? ……お名前を、お聞きしてもよろしいですか?」ニコ

泉「え? あ、ああ。桂城泉……だ」

海未「泉さん。ふふ、素敵なお名前ですね」クスッ

297: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:06:00 ID:???00
泉(上品で雅やかで、どこか梢先輩を思い出すような……、海未さんは、そんな大和撫子な淑女に見えた)

泉「…………すまないね、いきなり押しかけるような事を。……私が泣いていた、なんて、彼女も見間違えただけだというのに」

海未「? ふふ、それは“強がり”ですね。ウソだとすぐに分かりますよ」クスッ

海未「泉さんの目、随分と腫れていますから」

泉「……! そ、れは……」

泉(どれほど言葉で取り繕おうと、目の赤みまで消せる演技なんて……ただの役者に、出来はしない)

泉「そう、か。……ああ、こうとなっては、言い訳も出来ないね」

298: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:07:00 ID:???00
泉「……少し、色々あったんだ。金沢からこうして東京に来て、色々とね」

海未「……。なるほど、そうですか……」フム

海未「もし、私でよければ。話くらいはお聞きしますよ?」ニコ

泉「えっ?」

海未「おそらくですが。穂乃果もその為に、私にこの場を任せたのでしょう。幼馴染としての信頼が故ですね」フフン

泉「……、えぇと」

海未「それに。──旅の恥はかき捨て、と言いますから」クスッ

299: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:08:00 ID:???00
泉「……!」

海未「私は、貴女の人生の旅路で出会った単なる旅人にすぎません。穂乃果が連れてきた子ならば、尚更、お話したいですよ」クスッ

泉「……。あぁ……」ポツリ

泉(その瞬間──唐突に思い出したのは、旅どころか人生においても恥を物ともしないスクールアイドル)

泉(私が初めに“身代わり”となった、徒町小鈴さん)

300: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:09:00 ID:???00
泉(……思えば、彼女がキッカケで、今の今まで身代わり代行を続けていたんだな。そうか、それなら……)

泉(もう、喋ってしまって良いのか)

海未「ですが、もし話したくないのであれば、構いませんが……」

泉「……いや」

泉「むしろ、話す事で吹っ切れたいと思うよ。だから──海未さんの言葉に、甘えさせてもらいたい」

海未「……! ええ、勿論。なんでもお聞きしますよ」ニコ

301: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:10:00 ID:???00
泉「私、はね」

泉「…………代行業を、していたんだ」

海未「代行、ですか。それは、どういった類の?」

泉「その人の代わりに、──“身代わり”となって依頼をこなす、代行業だ。それも、スクールアイドル専門のね」

海未「!」

302: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:11:00 ID:???00
海未「ああ、貴女はスクールアイドルだったんですね。なるほど、それで穂乃果も目をつけたのかもしれません……」ポツリ

海未「ですが、身代わり代行とは。結構面白いことを考えますね。確かに、スクールアイドルにはうってつけです」クスッ

泉「ん、貴女も知っているのかい? そう……スクールアイドルは存外、“ダブルブッキング”に悩まされている子が多くてね」

泉「それを解決する手段として、同じ学校のスクールアイドルであるセラスが、私に提案してくれたんだ」

303: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:12:00 ID:???00
泉「初めは同じ学校の部員の“身代わり”を。その魅力に取り憑かれ、次第に様々な学校を周り、代行をこなしていた、が。……」

泉「……」

泉(つい先程の依頼を……私が犯したその不始末を思い出し、思わず、言葉に詰まる)

海未「? どうしました?」

泉「……いや」

泉(恥は人生のかき捨て、ならば……)

泉(今の私が抱えている大きな失態、付随する疑問まで……。それをここで溢そうと、別に、構わないだろう)

泉「…………誰かの代わりを騙り、あまつさえ自我を出して他人の感情をも一途に引き受けてしまう。それこそが身代わり代行でね」

泉「結局、誰かを騙している事には変わりはないんだ。そう、だとしたら、そんなの──」




泉「詐欺師と、何が違うんだ?」

304: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:13:00 ID:???00
泉「最初から、わかってはいた筈だ。セラスに身代わり代行の話を聞き、『やってみたい』と思ったのは……他でもない私なのだから」

海未「……。……泉さんは、もしや自責の念に駆られているのですか? “身代わり”として、他人を騙っている事に」

泉「…………ああ、そうだね」

泉「誰かの夢に寄りかかり、情熱を貰って生きていた私が、また誰かの情熱を種火に燃え上がれるのではないか……と」

泉「浅ましくも──私の演劇で誰かを救えるのなら、と“期待”してしまったんだ。……だから」

泉「その不甲斐なさで、今こんなにも、苦しい……」

305: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:14:00 ID:???00
海未「……そう、だったのですね」

泉「…………。いや……すまない、やはり初対面の女性に話す事ではなかった。勝手に、愚痴を溢してしまったようなものだろう」

泉(こうして話したところで、犯した罪は消えないと言うのに)

海未「……いえ。私は一つ、今の話を聞いて思う事がありますよ」

泉「? ……思う事?」

海未「ええ」コクリ

海未「泉さんがいま悩んでいらっしゃる、それは──個人の思う、倫理観の問題、というのもあるかもしれません」

306: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:15:00 ID:???00
泉「…………倫理観、か」

泉(あぁ、そういえば……)

泉(はじめにセラスから謝罪代行の話を聞いた時……、そんな事を私も、少し考えたな)

海未「……周囲から見れば、明らかに愚行としか思えないような事でも、本人にとっての優先順位は違う事もあります」

海未「実体験としてですが。私の友人が、旅行前に急に自宅まで戻ったことがあります。お気に入りの枕を取りに行ったそうです」クス

307: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:16:00 ID:???00
海未「彼女は、自分が最善だと思うからその選択をしたまで」

海未「周りがどうあれ……彼女が間違ってると、はっきり明言はできないんです。別に、迷惑をかけた訳でもありませんし」

泉「…………それは」

泉(迷惑をかけなければ、自分の倫理観の範囲で好きにすればいい、という事だろうか? しかし、……)

海未「それに。──知っていますか? 本来の『アイドル』には『偶像』という意味があるそうです」

海未「貴女も、私と同じ気がしますよ。求められた偶像の役を演じ、強がりとも気づかれないままに生きている存在」

泉「……そう、だろうか」

海未「ええ。ですが──」



海未「アイドルは笑顔にさせる仕事、でもあるんですよ」クスッ

308: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:17:00 ID:???00
泉「……!」

海未「私が昔、大切な仲間に教えてもらった、大事な言葉です」

海未「身代わり代行の、偽りのスクールアイドルだって……案外、そういう者なのかもしれませんね」クスッ

海未「その点では、貴女は充分スクールアイドルの身代わり代行を務めあげている様に私からは見えます。人を、笑顔にする為に」

海未「それとも。──貴女が“身代わり”を演じたのは、誰かを悲しませようとした為だったのですか?」

309: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:18:00 ID:???00
泉「それは……」

泉「……」

泉「…………いや、違う」

泉「全ての始まりは、依頼人の感謝の笑顔、だった。それだけがただ、ただひたすらに嬉しかったんだ」

310: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:19:00 ID:???00
泉「……悲しませようなど、一度も考えた事はない」

泉「何より、笑顔にしたかった。だから私は、『やってみたい』という思いで、人の期待に応えたくて──」

泉(……ゆくりさんの件を、静かに思い出す)

泉(あの瞬間。ポルカさんを前に思わず、涙が溢れ出していた。心の内で何かが決壊し、流れ出ていくような。あれは、そう……)

泉(──心の中の透明で冷たい“泉”)

311: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:20:00 ID:???00
海未「ふふ。それなら……平気、大丈夫、ですよ」クスッ

海未「先から聞いていた限り。貴女は、他人の情熱を心に宿す事が、非常に上手な方なのだとお見受けされます」フフ

海未「だからこそ、泣いていたのでしょう? 他でもない、スクールアイドルの身代わり代行として」ニコッ

泉「…………」コクリ

泉(そう、だ。アレは……紛れもない『演劇』だった。失態を肯定してはいけないが、依頼人に貰った言葉も、否定してはいけない)

泉(依頼人には、勇気を与えられた。他人の情熱を映す私にしか出来ない、私が『やってみたい』──身代わり代行のおかげで)

312: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:21:00 ID:???00
海未「人は皆、何かを演じながら生きているものですよ。裏も表も色んな面もあって……演じ分け、人生を過ごしているんです」

海未「おそらく、普段は隠していることを急に出せば誰だって“違って”見えるんじゃないでしょうか。たとえ、本人であっても」

泉「! なるほど。……そう、なのかもしれない」

泉(いつだって、心の中の泉の水は清く流れている。だが、『水清ければ魚棲まず』という言葉もあって)

泉(そうだ……、完璧な事に意味を求めすぎてはいけない。本当に大切なのは──心の赴くままに、『やりたい事をやる』事)

泉「……………………あぁ」



泉「私がすべき事は、きっと、これなんだな」

313: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:22:00 ID:???00
海未「……ふふっ」クスッ

海未「泉さんも、ようやく笑顔を見せてくれましたね。私は、貴女のその選択を尊重しますよ」ニコ

泉「…………ありがとう。海未さんのおかげだ」

泉「私は──もう、迷わない」ギュ…

泉(……自分らしく、本来あるべきように生きるんだ。水は低きに流れ、虎は山で生きる。ならば、『桂城泉』が生きる場所は……)




…ガラガラガラ‼︎


穂乃果「──海未ちゃーーーーん!!!!!」

泉「!?」ビクッ

314: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:23:00 ID:???00
海未「……穂乃果、静かにしてください。せっかくいらしてくださったお客人が驚いてしまいますよ」

穂乃果「えっ!? あ、ごめん海未ちゃん……って、違う違う!」

穂乃果「キミ──スクールアイドル、だよね!?」ガタッ

泉「……!」

315: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:24:01 ID:???00
泉「ほう。何故、貴女がそれを?」

穂乃果「わぁやっぱり! えへへっ! 穂乃果ね、元スクールアイドルだから、初めて会った時から何となくそうかな、って!」ニコニコ

穂乃果「……と、いうか! さっき知ったんだけど、キミ──桂城泉ちゃん、ラブライブ!決勝に出た事があるってホント!?」バッ

泉「ん? あ、ああ。一応……、今の学校とは違うがそこでね」

海未「……!」

穂乃果「へぇー!! 学生時代にラブライブ決勝に出た事があるなんて、穂乃果も同じだよ!」ニコニコ

316: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:25:00 ID:???00
海未「…………もしかして穂乃果、お饅頭を持ってくると言ったのにも拘らず、わざわざそれを下で調べていたのですか?」

穂乃果「うん! それでほんのちょーーっとだけ時間かかっちゃって……お父さんに、早く渡してこいって急かされちゃった!」クスッ

海未「……。はぁ、全くもう……穂乃果が猪突猛進で、思いつきと直感だけで行動する点は昔から変わりませんね……」ハァ

穂乃果「まぁ、それが穂乃果の取り柄だから!」フフン

泉「ふふっ。穂乃果さんも海未さんも、随分と仲良しだね」クスッ

泉「……」

泉(…………ん?)ピク

317: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:26:00 ID:???00
泉(今さっき、話の最中に穂乃果さんは──“同じ”と言っていなかったか? ラブライブ!の決勝に出たのが、同じ??)

穂乃果「──と言うわけで! 泉ちゃん、はい、コレ!」サッ

泉「え? あ、ああ、ありがとう。コレは……」ジー

穂乃果「ふっふっふ……! これは、ね……」バッ


穂乃果「穂むら名物──『穂むらまんじゅう』、略して『ほむまん』!!!」

318: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:27:00 ID:???00
穂乃果「ほむまんはね、甘くて美味しくて……その上すっごく、美味しいんだよ!! 泉ちゃん、ぜひぜひ食べてみて!」グイグイ

海未「美味しいを2回も言ってどうするんですか。……ちなみに、私の好物でもありますので、結構オススメですよ」ニコ

泉「! ほう……そうなのか」

泉「海未さんのオススメとあらば、お言葉に甘えて、一つ……」サッ

泉(お饅頭の白くすべすべとした表面──その中央には『ほ』と言う字が。そして周辺には、稲穂の絵が入っていた)

泉「ん、……」パクッ

穂乃果「どう、どう!? お味はいかが!!?」

319: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:28:00 ID:???00
泉「──! 美味、しい……」ポツリ

穂乃果「!! でしょでしょ!? 甘くて美味しくて、穂乃果はよく夜ご飯の前に食べちゃって、結局お腹が空かなくて困って……」

穂乃果「って──あーーーっ! そういえば!!!」パン

穂乃果「少し前にさ、花陽ちゃんから美味しいお米が届いたんだ! 泉ちゃん、良かったら今日、夜ご飯も食べていかない?」ニコッ

泉「!?」

泉(初対面の人にここまで至れり尽くせりな事があるのか……??)

320: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:29:00 ID:???00
海未「ふふっ。穂乃果はこういう子ですから。木陰で一人で居る子供を見つけたら、近寄って手を差し出すような善性の塊です」クスッ

泉「な、なるほど……」フム

泉「…………太陽のような人なんだね、穂乃果さんは」クスッ

泉(暗がりに居るスクールアイドルを見つけ出し、自分の光が当たるところへ連れ出し、その心の雨を止ませるとは)

泉(……今の私も、この出会いによって救われてしまった)

321: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:30:00 ID:???00
穂乃果「で、どう泉ちゃん!? 穂乃果、大歓迎だよっ!」

泉「あぁ、夜ご飯は……その、非常にありがたい申し出だけれどね。遠慮させていただくよ」

穂乃果「えっ?」

泉「生憎、すぐにでも帰って──、会いたい人が居るんだ」

322: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:31:00 ID:???00
穂乃果「!! それって……やっぱりスクールアイドルの──」

海未「──穂乃果、あまり人の事情に深く首を突っ込むものではありませんよ」コホン

穂乃果「えっ穂乃果まだ何も言ってないのに!!!」

穂乃果「……というか、穂乃果、まだ全然泉ちゃんとも話してないのに!!!」

海未「そうですね。……さて。私は穂乃果と違って、泉さんとも胸襟を開いてお話ししましたから、見送る準備は出来ています」

穂乃果「え、えぇー!!? 海未ちゃん、ずるいー! 穂乃果だって、現役スクールアイドルの子といっぱいお話したかったー!」

323: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:32:00 ID:???00
泉「ふふ、……あははっ! まったく、二人とも子供のようだね。もう充分、貴方がたは大人のレディーだと言うのに」

泉「大丈夫。またいつか…………今度は私の大切な人と、一緒にここに来させてもらうよ」ニコッ

穂乃果「! そっかぁ……! うん、穂乃果、またのご来店はいつでも何年でも待つよ!!」

海未「では、またいつか会える事を願っています」ニコ

泉「ああ、こちらこそ。それじゃあ……」

穂乃果「っと、あっ! 待って待って、最後にひとつ!」コホン


穂乃果「──スクールアイドルは『みんなで叶える物語』! ひとりで悩まないで、みんなに頼っても良いっ!」


穂乃果「だから……ファイトだよっ! ──泉ちゃん!」グッ

324: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:33:00 ID:???00
────

ガチャ

ザワザワ…

泉「…………」

泉(外はすっかり暗くなっていた。……だが、まだ人通りは多い)

泉「……人も街も、非常に暖かい場所だったな」

325: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:34:00 ID:???00
泉(──陽光に照らされ、自信を取り戻した私には……眩しすぎるくらいの場所だ)

泉「さて。改めてにはなるが……スクールアイドル専門の、身代わり代行をする、その準備を始めなくては、ね」フフ

泉(その為にも。金沢行きの新幹線には、まだ間に合う時間なようだし…………これに乗って、日付が変わる前に、帰ろう)

泉(私が本来いるべき場所──セラスの待つ、蓮ノ空へ)


第六話 おしまい

326: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/15(金) 20:35:00 ID:???00
次回 最終話→明日

327: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:00:00 ID:???00
────

──翌日 スクールアイドルクラブ部室


セラス「ねぇ、泉」

ドンッ

セラス「──いっっっっさい連絡がつかないって、意外とめっちゃ怖いんだからね?? 電話をかけてもかけても、無限に鳴り響く呼び出し音を聞いて、わたしがどんな思いをしたと……」ブツブツ

泉「うぐっ…………す、すまない、セラス」シュン

泉(蓮ノ空に帰ってきてからというもの、ずっとこの調子だ)

泉(……やはり、セラスには心配をかけてしまっていたんだな)

セラス「やっぱり……泉、少し疲れてる? 身代わり代行はしばらく、お休みしてもいいんじゃない?」

泉「! ……いや。それは、出来ない」

セラス「泉?」

泉「本当に、大丈夫なんだよ。今の私は寧ろ、身代わり代行をすぐにでもやりたくて、仕方がなくてね」クスッ

泉「……だから、教えてくれないか?」





泉「あるんだろう? セラス。──私にやってもらいたい“身代わり”が」

328: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:01:00 ID:???00



【最終話 張り子の虎】



.

329: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:02:00 ID:???00
セラス「……! 泉、気付いてたんだ」

泉「なんとなくだけれど、ね。貴女は初めから、異様に代行業に詳しかったから」

泉(誰よりも代行を利用してみたかったからこそ、必要以上に調べ物をしていたのではないか……と、そう推測していた)

セラス「そう。わたしはあくまで、泉の気持ちが一番大事だから。嫌なら嫌で断ってくれていいんだけど……」コホン

泉「いいや、断るわけがないさ。なにせ、今まで5回も代行をやってきたからね。──さぁ、どんな“身代わり”だい?」ニコッ

セラス「……」

セラス「………………泉、には」



セラス「──『セラス・柳田・リリエンフェルト』の、……“身代わり”に、なってほしい」

330: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:03:00 ID:???00
泉「! ほう。私が『セラス』として、なりすませばいいんだね」

セラス「……ん」コクリ

セラス「この後、姫芽先輩と会うから。ちょーーっとだけ泉には、その時間稼ぎをしてほしくて」

泉「分かった、身代わり代行を使って時間を稼げばいいん…………ん??」ピタ

セラス「……」

泉「なぁちょっと待て、セラス。同じクラブの仲間で気心も知れているというのに、なぜ姫芽ちゃんに“身代わり”を使う必要が──」

セラス「──ねぇ。泉、覚えてる?」

331: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:04:00 ID:???00
泉「!」ピク

泉「……何を、かな?」

泉(セラスが、私の言葉を“遮る”かのように口を開いていた。何か、重要な事を話そうとしている、のか?)

セラス「えっとね。…………前に、さ」

セラス「小さい頃、わたしが病院で読んだ昔の漫画の事。わたし、泉には話したよね?」

泉「? ……あぁ。確か詳しく話してくれていたね。確か、代役専門の役者のお話、だったかな?」

セラス「うん。……え、っていうか泉、意外と記憶力も凄くない?? そう、正にそれ」コクリ

332: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:05:00 ID:???00
セラス「……漫画を読んでた頃、病院でね。わたし、思ってたの」

セラス「もしも、わたしの代わりが居たなら……窮屈で白い、もはや監獄とも言えるような、あの病室を抜け出す事も出来る」

セラス「何だったら、先に退院しちゃった花ちゃんにだって……、ぴょこぴょこぴょこ、って着いていけるのにー。って」

泉「……」

セラス「だからね。代わりに泉にやってほしい事、昔から実はいっぱい持ってたんだ。泉もドン引きしちゃうくらい大量に」

泉「流石に引きはしないと思うけれど……」

333: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:06:00 ID:???00
泉「だが……」フム

泉(今の話を聞くに、つまりは──セラスの昔からの願いが、言い換えれば夢が……身代わり代行だった?)

セラス「……実はね、泉。この前わたし、姫芽先輩にも代行頼んでたんだ。泉が東京行ってた時」

泉「? 東京……ああ、アレのことか」

334: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:07:00 ID:???00
泉(先日の、『優木せつ菜』さんの依頼の一件だろう)

泉(そういえばその際、何故か姫芽ちゃんが急に現れ、その為に依頼内容が相当ややこしくなってしまっていたが……)

泉「もしや、セラスが姫芽ちゃんに色々と教えていたのかい? 虹ヶ咲の方まで、私が向かっている事を含めて」

セラス「……うん。泉が東京でどんな感じなのか、すっごい心配で、気になってたから」

セラス「ちょうど東京に遊びに行ってた姫芽先輩に、『泉が虹ヶ咲に居る』って伝えたんだよね。身代わり代行の事は伏せたまま」

泉「え? また姫芽ちゃんは何も知らないのか……」

泉(……あぁ。……だからあの時の姫芽ちゃんは、私に対して言い寄るわけでもなく、ただ虹ヶ咲学園を見学していたんだな)

泉(これは……もしや、そういう事か)

335: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:08:00 ID:???00
泉「なぁ、セラス。貴女が私に身代わり代行を勧めた理由が……、ようやくわかったよ」クスッ

セラス「えっ?」

泉(セラスは、これまでの身代わり代行でもずっと、ただひたすら私のサポートに徹してくれていた)

泉(東京でもこうして様子を伺い、その“出来”を確かめていたという事だ。つまり、セラスは──)

泉「──私に充分な経験を積ませた上で、完璧とも言える技術の“身代わり”をやってもらう。そんな心づもりだったんだな」フフ

336: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:09:00 ID:???00
セラス「あ、えぇっと…………」

泉「私にしか“身代わり”は出来ないのだと言って、経験を積ませ……ついには自身の代行まで頼むのが目的、だったんだろう?」ニコ

泉(誰かに代わってもらう事が、セラス自身が昔から抱いていた夢ならば。その為に私を利用しようとしたのも、よく分かる)

泉(恐らくは、全てのスクールアイドルの悩みを解決できるような完璧な身代わり代行を作り出す為に……)

セラス「…………」

泉「なぁ、セラス。そうなんだろう?」ニコッ

セラス「……」

セラス「ぅ…………」



セラス「……………………部分的にそう」

泉「部分的なのか」

337: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:10:00 ID:???00
セラス「……そうだよ、あくまでめっちゃ部分的。点数をつけるなら……そう、73点満点中40点くらいかな」

泉「どうして満点が73点なんだ」

セラス「ふっ。73は素数だから……簡単には割り切れない思いを、わたしは抱えているって事」ドヤッ

泉「急に上手い事を言うね……」

セラス「……まぁ、その」コホン

338: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:11:00 ID:???00
セラス「今は流石に言えないけど……全部終わったら泉にもその辺の事は伝えないでもないんで、まぁ、うん……」ブツブツ

泉「?? 煮え切らない返事なのが気になるが……。セラス」

泉「それなら何故、わざわざ姫芽ちゃん相手に身代わり代行を使うのか。その理由も教えてくれれば、嬉しいんだが……」チラッ

セラス「!? いや、それはその……と、とにかく!! そういう事だから、泉!」


セラス「吟子部長の所に行って──『セラス・柳田・リリエンフェルト』に作り変えてもらって!」ピシッ

339: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:12:00 ID:???00
────

──少女変身中…


バッ

吟子「……うん、出来たよ。──『セラス』?」


セラス(泉)「……」パチリ

セラス(泉)「ありがとう、吟子」

セラス(泉)「ふっ──セラス・柳田・身代わりリエンフェルト、だね。さすが吟子ちゃんパイ、腕が良い」ニヤ


吟子「なんなん??」

340: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:13:00 ID:???00
セラス(泉)「身長こそ17cmも違うけど、座って話す分には問題ないし、完璧すぎる『セラス・柳田・リリエンフェルト』……!」バッ

吟子「……泉、やっぱり演技も声マネもすっごく上手だよね。顔をこうやって変えると、見分けつかなくなるし」

セラス(泉)「おかげさまで。……まぁ、わたしはもう身代わり代行の技術と、その内容に誇りを持ってる柳田なんで。だからこそ」

セラス(泉)「あの時、吟子には背中を押してもらってマジ感謝」ドヤ

吟子「…………どういたしまして、って言いづらいんだけど……!」

341: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:14:00 ID:???00
セラス(泉)「……まあ」

セラス(泉)「……これでも、『セラス』の本心の方まではイマイチ再現できてないんですけど、ね……」ポツリ

吟子「泉? それって、どういう事?」

セラス(泉)「いや……その」

セラス(泉)「なんか、本物の『セラス』が身代わり代行の理由を教えてくれない? から…………結構、やりにくくて」

342: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:15:01 ID:???00
セラス(泉)(……先のセラスは私に何かを隠しているようだった)

セラス(泉)(だが、それは一体何だ? 彼女の心情が想像できない)

セラス(泉)「──それにだって、聞いてくださいよ!!」バンッ

セラス(泉)「姫芽ちゃ……先輩と話すだけらしいのに、“身代わり”をわたしに依頼するなんて! 絶対何かありますよ、吟子先輩!」

吟子「いや、それを私に言われても……」

343: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:16:00 ID:???00
吟子「…………でも、そっか。セラス……遂に、始めたんだ」

セラス(泉)「?? 吟子、部長?」

吟子「こほん。……ねぇ、それなら」

吟子「泉が、セラスの身代わり代行を始めるにあたって。──その前に私、伝えておきたい大事な事があるんだけど」

344: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:17:00 ID:???00
セラス(泉)「えっと……? 大事な事、ですか?」

吟子「うん。……どう言っていいか、何を言っても問題ないか考えつつ話すから、時間はかかるけど……」

セラス(泉)「へー。セラスを焦らす、ってこと?」ドヤ

吟子「泉、お願いだから茶々入れんといて。……んん」

吟子「…………」スゥ…

吟子「……」ハァ…

吟子「……」

吟子「……あのね、泉」




吟子「もし、泉が今だけは『セラス』なら。一番大切な事は、用意された台本通りに演じる事、じゃなくて」


吟子「自分自身の──本心に従う事だと思うよ」

345: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:18:00 ID:???00
セラス(泉)「…………ん? それって……どういう」

吟子「──残念、いま私が言えるのはここまで」パン

セラス(泉)「……むぅ」

吟子「可愛いのに、そんな顔しないの。……たぶん泉にとっては、そんなに難しい事じゃないだろうし」

吟子「…………ただ、泉は私と違って、そういう人がすぐ近くに居るんだから。大事な気持ちは、ちゃんと伝えたほうがいいって事」ポツリ

セラス(泉)「……」

吟子「さて。そろそろ時間だよ、いず……セラス」カタッ

吟子「後悔しないように、セラスらしい“演劇”をしてね──」

346: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:19:00 ID:???00
────

──スクールアイドルクラブ部室


セラス(泉)「……」


姫芽「この前、せらりんに教えてもらって虹ヶ咲に行った時にね~」ニコニコ

姫芽「結局、いずみんは居なかったんだけど……なんと! いずみんにめっちゃ声が似てるスクールアイドルが居たんだ~」

セラス(泉)「……えぇと。声が……ですか」

姫芽「うんうん。せらりんも聞いたら絶対ビックリするよ~」クスッ

姫芽「一応その子は、ショーで変装してたみたいだから、アタシは名前も顔も知らないんだけどね~」アハハ

347: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:20:00 ID:???00
セラス(泉)「そう、なんですね……」

セラス(泉)(……。部室に入るなり、ニコニコ笑顔の姫芽ちゃんと世間話が始まった。そういう予定を入れていたらしい)

セラス(泉)(いや本当に……セラスは何故、世間話に過ぎないただの雑談に“身代わり”を頼んだんだ……??)


姫芽「──あ。そういえば~」


セラス(泉)「? 姫芽……、先輩?」

姫芽「せらりんせらりん~、“この間の話”ってどうなったの~?」

348: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:21:00 ID:???00
セラス(泉)「……?」

姫芽「ほら、少し前~、いずみんが1回目に東京に行く前くらい? にさ、アタシと話してたじゃん~?」ニコニコ

セラス(泉)「……」

セラス(泉)「……あ、ああ」

セラス(泉)「この間の話、ですね。わかります、えっと…………」

349: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:22:00 ID:???00
セラス(泉)(わかるはずがない…………話、とは一体何だ? でまかせを話そうにも、一切内容さえ推測できないし……)ウーン

姫芽「……ふふっ」クスッ

姫芽「ねぇ、せらりん~」ニコッ

セラス(泉)「! え、っと……」

姫芽「……あの時はその話、上手くはぐらかされちゃったけどさ」

姫芽「せらりんにはずっと、ちゃんと訊きたかったんだよね」






姫芽「いずみんに、さ。──気持ち、伝えた~?」

350: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:23:00 ID:???00
セラス(泉)「………………え?」ピタ

姫芽「あ~、まだせらりん、“泉の事が好き”だって自分の気持ちを否定してるの? もういい加減、認めちゃいなよ~」クスッ

姫芽「アタシもさ。ここ最近ず~っと、せらりんとホントの恋バナしたくて、前一度やったのに、今度はずっと逃げられて」


姫芽「でも……流石にそろそろ教えてほしいんだよね~。いずみんのこと、“ホント”は、せらりんはどう思ってるのか」ニコッ

セラス(泉)「──!」

351: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:24:00 ID:???00
セラス(泉)「……ぁぁ」

セラス(泉)(そう、か。全て……、勘違いだったんだ)

セラス(泉)(セラスは初めから──これを言わせる為に私を『セラス』にしていたのか)

セラス(泉)「……」

セラス(泉)(だが、台本通りのその“身代わり”の台詞は、──『桂城泉』の本心とは、違う)

姫芽「せらりん?」



セラス(泉)「……──ごめんなさい、姫芽先輩!!」ガタッ

セラス(泉)「ちょっと……席を外してもいいですか!?」

352: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:25:00 ID:???00
姫芽「……もしかしてせらりん、今、いずみんの所に行くの?」クスッ

セラス(泉)「そうっちゃそうですけど、姫芽先輩、えぇっと……」

姫芽「大丈夫だよ、きっと。──やりたい事をやれ、だからね」ニコ

セラス(泉)「!」

姫芽「ふっふ~。んじゃ、頑張ってね~。せらりんの“ホントの恋バナ”はまた、後で~」クスッ

セラス(泉)「あ……」

セラス(泉)「……。ありがとう、姫芽……先輩!」ダッ

ガチャ

バタン…

353: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:26:00 ID:???00
────

──

セラス「……」

泉「──! そこに、居たのか」

泉(セラスは、呆気ないほどすぐ見つかった。蓮ノ湖の近く、人があまり寄り付かない場所だ)

セラス「…………泉」

泉「すまないね、急に。だが、セラスに言わなくちゃいけない事があるんだ……」

泉(……彼女の姿を見据えながら。私は確信を告げるべく、口を開いた──)



泉「私を騙したんだね、セラス」

354: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:27:00 ID:???00
セラス「! 泉……」

セラス「……やっと、身代わり代行を勧めた本当の理由に気づいたんだね」

泉「……あぁ。そうさ」コクリ

泉(勘違いしていたのは、セラスの本心だ。彼女は他の誰かのために身代わり代行を勧めたのではない。最初から私的な理由だった)

泉「貴女は──私を、セラスの“身代わり”にする事で」



泉「セラス自身の『恋』を否定しようとしたんだ」

355: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:28:00 ID:???00
セラス「……!」

泉(……私が『セラス』として話す言葉は、私が“身代わり”である以上、やはり、本物の『セラス』のものとなる)

泉「……貴女は、私が『セラス』として恋の言葉を……それも、その恋心を否定するような台詞を吐くことを、期待したんだ」

泉(たとえ、その真実がどうあれ。彼女は、自分の気持ちさえも──代行させていた)

泉「どうして、こんな事をしたのか……まぁ想像がつかない事もないけれどね。教えてくれるかい? セラス」ニコッ

356: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:29:00 ID:???00
セラス「…………」

セラス「泉なら……やってくれるって信じてた、から」ポツリ

泉「!」

セラス「……。……わたし、やっぱり泉の気持ちが一番大事なんだよ。だから、わたしの気持ちだって、泉に決めてほしかった」

セラス「代行って、その人が出来ない事を代わりにやってもらう……勇気が出ない人の背中を押してあげる事でしょ? だから」

セラス「泉がどう思ってても──身代わり代行で、『セラス』としてなら、否定してくれる……恋を、諦める事が出来る」

セラス「……だから、わたしは泉に頼んだんだよ」

357: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:30:00 ID:???00
泉「……なる、ほど」

泉「では、此度の身代わり代行は、やはり全て──セラスの恋愛の為に仕組まれていた、という訳か」クスッ

セラス「そう、だね」コクリ

泉「だから姫芽ちゃんにだけは、最初から身代わり代行を秘匿していたんだね。初めから知られては、全ての意味がなくなるから」

泉(まぁ、さっきの様子を見るに……聡明な彼女のことだ。とうに、理解はしていたかもしれないが)

セラス「ん……そういうこと。まぁ、その……他の理由もなくはなくて」

泉「うん?」

セラス「…………瑠璃乃先輩が卒業して寂しガールの姫芽先輩に“身代わり”のこと教えたら、泉を慈先輩とかにさせそうだったし……」

泉「あぁ……(納得)」

358: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:31:00 ID:???00
セラス「でも……さっきも言ったけど。今のこれは予想外すぎて、泉の考えも部分的なとこしか当たってないくらいなんだよ」

泉「ん? ああ、そういえばまだ訊いていなかったね。73点中の、間違っていた33点の内容を」

セラス「それは……その」

セラス「…………スクールアイドル専門の身代わり代行が、こんなに依頼が来る事自体が正直わたしにも予想外だったというか……」

泉「え?」

セラス「本当は。泉に──わたし以外には、小鈴先輩の“身代わり”だけしかやらせる気がなかったんだもん」

泉「!??」

359: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:32:00 ID:???00
セラス「なんかこう……小鈴先輩の時の経験を活かして、わたしのもやって、みたいなお願いをするつもりで……こんなに経験させるつもりは全く……」

泉「えっ……えっ?」

泉(今まで行ってきた5回の──渋谷やお台場、浅草での身代わり代行を思い返す)

泉「いや……流石にそんなことは無いだろう? あんなにたくさん依頼が来たのは、セラスが何か策を弄したからで……」

セラス「違う違う違う。わたし、前も言ったけど、ただHP作っただけだもん。『スクールアイドル専門の身代わり代行』って」

360: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:33:01 ID:???00
セラス「その後、依頼はひっきりなしに来て、ダブルブッキングって、スクールアイドルで凄くよくあるんだなぁって実感した……」

泉「ふむ……そう、だったのか」フム

泉「では全ての始まり、小鈴さんの“身代わり”を頼んだ時は?」

セラス「ううん。あれは本当。実は……」

セラス「……あの時から、吟子先輩が協力してくれてたの」

セラス「小鈴先輩がちょうどダブルブッキングしてたのを見て、泉が“身代わり”をやってくれるように、二人で誘導してた」

泉「!」

361: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:34:00 ID:???00
泉(誘導……か。なるほど、だから先程の吟子は、あんな事を言っていたのか)

泉「……全く、完璧に騙されてしまったよ。セラスも吟子も、私より演劇に向いているんじゃないか?」クスッ

セラス「そういう冗談はよくないって。わたしは、演劇の天才である泉を、ただ自分の為に利用していたようなもの、だし……」ポツリ

泉「ふむ? だが、小鈴さんも今までの依頼人も。あの数々の代行の依頼は、ウソじゃないんだろう?」

セラス「! それは……勿論。わたしの、この事情は絶対に依頼人は知らなかった筈だよ。ウソだったら、誰にとっても意味ないし」

泉「そうか……」フム

泉「……」

泉「それなら、今回のセラスも──本心、というわけだね」ニコッ

セラス「え?」

362: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:35:00 ID:???00
泉「おや、違うのかい?」

セラス「いや違わないし、そう、だけど……でも、もうバレちゃったから意味も無いでしょ。泉に、否定してもらえなかったし」

泉「ああ、そうさ。“否定”をしていないんだよ、セラス。──貴女から私への、恋の気持ちを」クスッ

セラス「え」

泉「…………私はね、セラス」

泉「小鈴さんの“身代わり”をやった時からずっと──本人が笑顔になるような、自分自身の気持ちが一番だと思っているのさ」ニコッ

泉(それは……何より、今までの身代わり代行で様々なスクールアイドルに触れたからこそ、再認識したことでもある)

セラス「……それ、は」

泉「……私の『演劇』は終わっていない。物語は始めたなら終わらせなきゃいけない。ならば、まだ台詞は残っている」

泉「さぁ、今から此処で」



泉「──現実を舞台とした“演劇”を始めようか、セラス」ニコッ

363: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:36:00 ID:???00
セラス「演劇……って」

セラス「泉が演じる、さっき頼んだ『セラス・柳田・リリエンフェルト』の“身代わり”は、もう終わった筈じゃ……!」ガタッ

泉「いいや。これは、そう──アンコールさ」ニコッ

泉「私と貴女だけの舞台……そのエンディングは、悲劇では許されないからね。本当の恋を告白する、恋愛ショーなら尚更さ」クスッ

セラス「は? えっ何、言って…………まさか泉、『桂城泉』の“身代わり”使ってたりする???」

泉「ふふ、そんな訳ないさ」ニコッ

泉「だが……、やはり少し“違って”見えるんだね。……誰しも、隠していた本当の気持ちを見せると、そうなるのかもしれないな」

セラス「??? ひ、一人で納得しないで、泉……!!」

364: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:37:00 ID:???00
泉「ああ、情けないくらい、私は今までずっと……この気持ちに鈍感で、あまりに盲目で、生きていた」

泉「──だが」

泉「貴女が否定したいと思う、その気持ちを代行してしまおうにも、私自身だって同じ気持ちを抱いてしまったからね」ニコッ

セラス「! 同じ、って……なんで……//」

泉「ふふ。貴女とはもう長い付き合いなんだから、それくらい分かるさ、お姫様」クスッ

泉(『桂城泉』が、帰るべき場所……セラスは、私にとっての光だ。すなわち、恋慕う人である)

365: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:38:01 ID:???00
泉「だからこそ、ね。この人生という演劇、告白という演目の……貴女の台詞を聞いてみたくなったんだ」ニコッ

セラス「えっ、…………」

セラス「……じゃ、じゃあ! 泉が代行なら代わりに言ってよ! わたしの告白!!」

泉「残念、メイクも落としてしまったし、セラスの“身代わり”は今ちょうどお留守なんでね」クスッ

セラス「は!? い、泉……っ!!//」

泉「さぁ。答えを聞こうか、セラス」ニコッ

366: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:39:00 ID:???00
セラス「っ……//」

泉「セラス」ニコッ

セラス「……」

セラス「……」

セラス「…………泉のこと。わたし、は」






セラス「……好き、です」

367: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:40:00 ID:???00
泉「……」ジー

セラス「い、泉!!!!!//// なんでただ黙って見てるの!?」

泉「いや……これからの演技の参考にしようかと思ってね……」クスッ

セラス「しなくていいから!!!!」

368: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:41:00 ID:???00
泉「……ふふっ」

セラス「ほ、ほら!! 笑ってないで、泉も! わたしにここまで言わせたんだから、聞かせなよ!」ピシッ

セラス「わたしの“身代わり”、じゃなくて。──『桂城泉』自身の気持ちを!」

泉「! ああ、そうだね」





泉「私も──大好きだ、セラス」ニコッ

369: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:42:00 ID:???00
────

──後日


ガチャ


セラス「──いーずみ。何してるの?」

泉「ああ、セラスか。いや、私は特に何もしていないんだけれど……どうかしたのかい?」

セラス「そう、なんだ。……えっと」

セラス「……なんか部室に泉しか居なくて、手持ち無沙汰というか? 小鈴先輩は広実さんのライブを見に行ってるらしいし?」

泉「! そうか、そうか。……あれから、広実さんも夢に向かって頑張っているんだね」クスッ

370: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:43:00 ID:???00
セラス「……うん。それは泉が、自分で演じた身代わり代行で誰かを救った証だよ。で、その?」

セラス「そんな泉に、実は……素晴らしいお誘いが……??////」

泉「何故ずっと疑問系なんだ」

セラス「いやその……これは全然! デートとかじゃないんだけど!! 泉にちょっと、提案? というか訊きたい事があって」




セラス「さっき、わたしさ。……牛丼の10円引きクーポン、貰ったんだよね……」ポツリ

371: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:44:00 ID:???00
泉「──!!?」

セラス「偶然手に入れて、そういえば泉、わたしと同じくらい牛丼好きだったなー、って思い出したから……」

セラス「2枚あるんだけど、泉。わたしと一緒に食べに行かない? デートじゃ無いし、全然他意はないんだけど……//」テレ

泉「……」

泉「……」

泉「…………ふふ、あははっ!」クスクス

セラス「えっ何いきなり爆笑された」

372: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:45:00 ID:???00
泉「そうかそうか。覚えていないんだね、セラスは。……ふふ」

泉「──全部終わったら一緒に牛丼を食べに行く、そう『セラス』と約束をしただろう?」クスッ

セラス「わたし、知らない記憶で話されてる……??」

泉「ああ、思えば……あの時からそうだ。セラスはどの世界だろうと私の隣に居てくれている。なんて幸せな事だろう」クスッ

373: 名無しで叶える物語◆mD0ahSJ3★ 2026/05/16(土) 20:46:00 ID:???00
セラス「……?? ま、よく分かんないけど……泉が楽しそうなら、いいや」クスッ

泉「ふふっ……ああ、楽しいし嬉しいよ。姫に救われた騎士はハッピーエンドを迎え、物語は終わったんだ。……だから」

泉「今ここに約束するよ、セラス」



泉「ただひとりの『桂城泉』を。──貴女の隣で、演じ続ける事を」ニコッ


最終話 おしまい

【SS】泉「スクールアイドル専門、身代わり代行」 完

引用元: 【SS】泉「スクールアイドル専門、身代わり代行」