5: ◆2oxvcbSfnDfA 2017/05/26(金) 16:31:06.206 ID:uV5vYudV0.net
俺が自転車に乗れるようになったのは、周りよりだいぶ遅く、小学四年生になったころだった。
初めて通った塾が隣町にあったので、否応なしに足が必要となり、二週間ほどかけて練習したのを覚えている。
それまでは徒歩圏内にとどまっていた生活は、自転車に乗れるようになったことでずいぶんと広がり、当時の俺は少しばかり興奮状態にあったよ。
何しろ、友人と二人で隣の県まで出かけたこともあったくらいだ。
そのちょっとした冒険の帰り道、土手の上から見た夕日がやたら綺麗で、ハルヒと出会ってからの出来事でだいぶ埋め尽くされちまっている俺の脳内メモリーの中でも、上位に食い込むほど印象的な光景と言っていい。
多分俺は、一生自転車に乗り続けるのだろうと思っていた。なので、十六になってすぐ、ハルヒが俺に免許を取れと言い出すまで、バイクなんてものは俺の人生に全く関係のないものだと思っていた。
「ゆくゆくは自動車の免許も取ってもらうけど、とりあえずバイクね」
ま、ハルヒが自分の思い付きや直感に任せてものを言うのは今に始まったことじゃない。俺はむしろ、ハルヒも年相応に、運転免許に憧れたりもするものなのかということを少し意外にさえ思ったが、何故そこで、自分でなく俺に矛先が向くんだかがわからない。
「運転は下々の者の仕事なのよ。自分から馬車馬にまたがるお姫様がいる?」
ついにお姫様になっちまったのか、お前は。ハルヒはそんなこと言いながら、視線をバイクのカタログから、俺の顔面へと移し、
「私が後ろに乗ってあげるんだから感謝しなさい。雑用から、運転手への格上げよ」
ハルヒの目論見を理解し、俺はため息をついた。以前、自転車の後ろに乗せたことで、味を占めちまったのかね。しかし、バイクの二人乗りと自転車の二人乗りでは全く訳が違う。
詳しく知っているわけじゃないが、傘を差しながら自転車を漕ぐことにさえ罰則がある今時分、そもそもそんなの、許されるのか?
「原付は二種ならタンデムも可能ですよ。ただ、取得後一年経過が条件ですね」
ああ、なんとなく、コイツはこういうことに詳しそうだと思っていた。古泉の発言に、ハルヒはつまらなそうに顔をしかめ、
「知ってるわよ。今すぐに乗せろとは言ってないわ。でも、免許を取るのは一秒でも早いほうがいいじゃない」
そう言いながら、カタログを机の上に置き、代わりに教材と思われる、分厚い冊子を取り出し、俺に突きつけるようにして差し出してきた。
「いい? 必ず一回で合格しなさい」
こいつが何かを思いつく度、俺のため息は深くなる。現時点で、東京湾くらいはあるんじゃないだろうか。
初めて通った塾が隣町にあったので、否応なしに足が必要となり、二週間ほどかけて練習したのを覚えている。
それまでは徒歩圏内にとどまっていた生活は、自転車に乗れるようになったことでずいぶんと広がり、当時の俺は少しばかり興奮状態にあったよ。
何しろ、友人と二人で隣の県まで出かけたこともあったくらいだ。
そのちょっとした冒険の帰り道、土手の上から見た夕日がやたら綺麗で、ハルヒと出会ってからの出来事でだいぶ埋め尽くされちまっている俺の脳内メモリーの中でも、上位に食い込むほど印象的な光景と言っていい。
多分俺は、一生自転車に乗り続けるのだろうと思っていた。なので、十六になってすぐ、ハルヒが俺に免許を取れと言い出すまで、バイクなんてものは俺の人生に全く関係のないものだと思っていた。
「ゆくゆくは自動車の免許も取ってもらうけど、とりあえずバイクね」
ま、ハルヒが自分の思い付きや直感に任せてものを言うのは今に始まったことじゃない。俺はむしろ、ハルヒも年相応に、運転免許に憧れたりもするものなのかということを少し意外にさえ思ったが、何故そこで、自分でなく俺に矛先が向くんだかがわからない。
「運転は下々の者の仕事なのよ。自分から馬車馬にまたがるお姫様がいる?」
ついにお姫様になっちまったのか、お前は。ハルヒはそんなこと言いながら、視線をバイクのカタログから、俺の顔面へと移し、
「私が後ろに乗ってあげるんだから感謝しなさい。雑用から、運転手への格上げよ」
ハルヒの目論見を理解し、俺はため息をついた。以前、自転車の後ろに乗せたことで、味を占めちまったのかね。しかし、バイクの二人乗りと自転車の二人乗りでは全く訳が違う。
詳しく知っているわけじゃないが、傘を差しながら自転車を漕ぐことにさえ罰則がある今時分、そもそもそんなの、許されるのか?
「原付は二種ならタンデムも可能ですよ。ただ、取得後一年経過が条件ですね」
ああ、なんとなく、コイツはこういうことに詳しそうだと思っていた。古泉の発言に、ハルヒはつまらなそうに顔をしかめ、
「知ってるわよ。今すぐに乗せろとは言ってないわ。でも、免許を取るのは一秒でも早いほうがいいじゃない」
そう言いながら、カタログを机の上に置き、代わりに教材と思われる、分厚い冊子を取り出し、俺に突きつけるようにして差し出してきた。
「いい? 必ず一回で合格しなさい」
こいつが何かを思いつく度、俺のため息は深くなる。現時点で、東京湾くらいはあるんじゃないだろうか。
引用元: ・ハルヒ「スティール・ボール・ラン?」
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