「……はい」
「智代子、腕が下がってるわ。最後まで気を抜かない!」
「ひーっ!」
「樹里、ちょっと走ってる。ちゃんと曲を聴きなさい!」
「……っ、わかってるよ!」
「果穂、もっと自分の立ち位置を意識してちょうだい!」
「はいっ! 夏葉さん!」
ダンスシューズと床とが擦れて鳴る、きゅっきゅっという音がレッスンルームに響く。
完璧な動きを見せながら、常に指示を飛ばし続けているこの女の体力は無尽蔵なのだろうか。
後奏が終わり、音楽が完全に鳴り止んだところで、アタシを含めた他のメンバーは、どさりと床へ崩れ落ちた。
「…………っ、はぁ、はぁ。……きっつ」
這うようにして部屋の隅に置いてあるタオルとスポーツドリンクに向かい、手を伸ばす。タオルで汗を拭い、スポーツドリンクを一気に半分ほど飲み干して、またしても床へ倒れ込んだ。
「樹里ちゃん~……わ、私にも取って……」
一人を除いて、死屍累々、といった様相だ。
全員分のタオルと水筒を抱え、運んでやると、各々息を整えることに努めた。
「みんな、かなり良くなってるわ」
ぱちん、と手を叩いて、アタシたちに指示を飛ばしていた鬼教官が言う。
「そりゃどーも。夏葉、よくアタシら見ながら動けるよなぁ」
「ふふ! 当然でしょう? 私は有栖川夏葉だもの。ほら、みんな、十分休憩したらまた通しで行くわよ!」
「えー! 夏葉ちゃん、もっと休ませて……」
やいのやいのと騒いでいる面々を見て、懐かしい記憶が蘇る。そういえば、この鬼教官は最初からずっとこんな感じだった。
いちばん後にアタシたちのユニットに来たくせに、どうしてか最初からずっといたような感覚になってしまうから不思議である。
ああ、そういえば、初めて会った時もこんなだったっけ。
もうひとくち、スポーツドリンクを口に含んで、いつかの景色にアタシは想いを馳せる。
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