2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/20(日) 21:12:59.61 ID:sJe9DHQQo
シャワーのような大雨が振る冬の夜。闇深い海から港へ向けて、荒れた波が打ち付ける。
海に相対するいっそ黒いほど鬱蒼と茂る山々も、もう輪郭すら定かではない。
そんなある遠征艦隊司令部では、暖かな執務室の窓辺で外を見つめる一人の駆逐艦娘の姿があった。
三日月(すごい雨。司令官は大丈夫でしょうか)
三日月(慌てていたみたいだけど、書類忘れとかそれに……)
三日月(……送迎車の事故とか)
三日月「…………」
三日月(考えるとそわそわしちゃう。なに考えてるのかしらわたしったら)
三日月(ホットココアでも淹れて落ち着きましょうか)
三日月(砂糖を入れないでうんと苦くすれば眠気覚ましにもなりますし)
三日月は窓辺を離れた。
応接室と繋がっているこの部屋には客に茶を出すための電気ケトルがあるからそれでお湯を沸かせるのだ。
数分もしないうちにカチリと音がして湯が沸いたら、ココア粉をたっぷり落としたマグへ中身を注ぐ。
コポポポ、と湯気が立ち上るのと控えめなノックの訪れは同時だった。
三日月「はい。司令官はまだお帰りになられていませんよ」
仕事を終えたケトルとマグを手に持ったまま、振り返った三日月はしっかりと声を張って返事を返した。
廊下に満ちる冷気を執務室に入れまいと気を使ったのか扉が半分ほど開くと、縁から顔を覗かせたのは菊月だった。
菊月「三日月……まだ寝ないのか?」
三日月「菊月。 ええ」
菊月「だが、もうここに居て一時間は経つ」
三日月「だからこそです。お疲れでしょうし、一人くらいお迎えした方が喜ばれますから」
三日月は気にしないで、と笑った。
菊月(……司令官を労わりたい、か)
三日月「先に寝ちゃってください」
菊月「……うん。おやすみ」
三日月「おやすみなさい。ああそうね、寝巻着とお風呂道具もお出ししておきましょうか」
ケトルを置いて意識を切り替えた三日月は立てた指先を口元に寄せて思案する。
優しい音で扉が閉じる間際、菊月の浮かべた呆れた風な表情に気付くことはなかった。
【【艦これ】三日月「甘えられない理由」】の続きを読む